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簡易宿所(簡易旅館)投資のROI試算 — 稼働率は全国29.6%・大阪73.6%

投稿日 : 2026.09.24

指定なし

投資・開発

簡易宿所(簡易旅館)投資のROI試算 — 稼働率は全国29.6%・大阪73.6%

宿泊事業への参入を検討するとき、旅館・ホテル営業(1棟開発)の次に必ず検討の俎上に載るのが簡易宿所営業である。実務では簡易旅館と呼ばれることもあるが、旅館業法上の正式な営業種別の名称は「簡易宿所営業」であり、本稿もこれで統一する。既存建物のコンバージョンで開業でき、客室数の下限もない。参入コストが一桁小さいため、個人投資家から地域デベロッパーまで裾野が広い。

一方で、この業態のROIを語る記事の多くは「稼働率70%」「利回り15%」といった前提の出所が示されない。本稿は、①旅館業法・同施行令の現行条文で要件を確認し、②観光庁「宿泊旅行統計調査」の簡易宿所の客室稼働率実測値を都道府県別に並べ、③OTAの掲載価格から価格帯を集計したうえで、④1室あたりの売上・GOP・利回りを3ステップで試算する。前提はすべて開示する。

結論を先に置く。2025年の簡易宿所の客室稼働率は全国平均29.6%。だがこの平均値は投資判断に使えない。大阪府73.6%に対し長野県13.6%——同じ営業許可区分でありながら、稼働率は5.4倍の開きがある。そして施設数の多い都道府県ほど稼働率が低いという逆相関が、全国44,901施設の分布にはっきり出ている。

本記事における指標の定義

  • 客室稼働率(観光庁):観光庁「宿泊旅行統計調査」第8表の宿泊施設タイプ別客室稼働率。本稿で「稼働率」と書く場合はすべてこの公的統計の実測値を指し、当社の推定値ではありません。宿泊施設タイプは調査対象施設の自己申告に基づく区分です。
  • 掲載価格:主要予約サイト上で公開されている販売価格の全プラン平均(素泊まり〜食事付きを含む)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。本稿ではエリア単位の中央値(そのエリアの標準的な施設の水準)を用います。
  • ADR(試算用の推定成約単価):掲載価格の中央値に、同一都道府県の全施設で観測される「推定成約ADR÷掲載価格」の比率(2025年12ヶ月平均)を乗じた試算前提値です。当社の推定成約ADRは検証済みカテゴリ(ビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセル)でのみ算出しており、ホステル区分は検証対象外のため、本稿のADRは推定値ではなく前提値として扱います。
  • GOP(売上総利益):売上高から部門費・販売管理費等を控除した営業粗利益。本稿のGOP率は前提値であり、実績値ではありません。
  • 母集団の非一致について:稼働率は旅館業法上の営業許可区分「簡易宿所営業」(観光庁統計)、価格は予約サイト上の施設区分「ホステル」「ゲストハウス」に基づきます。両者の母集団は一致しません。本稿の試算は2つの公開統計を接続した参考値であり、同一施設群の実績ではありません。
  • データ出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」/厚生労働省「衛生行政報告例」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(確認日:2026年9月17日)
Key Takeaways
  • — 稼働率は全国29.6%、大阪73.6%、長野13.6%。2025年の実測(観光庁)。全国平均は投資判断に使えない。
  • — 1室あたり年間GOPは18.8万円〜137.3万円。同じGOP率45%を置いても、立地だけで7.3倍の差がつく。
  • — 1室1,200万円投資での利回りは長野1.6%〜東京11.4%。利回りが立つのは実質的に大都市・観光中核市に限られる。
  • — 施設数は10年で+70.4%(26,349→44,901)。旅館・ホテル営業が横ばいの期間に簡易宿所だけが増え続けた。供給が最大のリスク要因。
  • — 現行の面積基準は33㎡(宿泊者10人未満なら3.3㎡×人数)。玄関帳場は簡易宿所の政令要件に含まれない。一方、自動火災報知設備は延べ面積を問わず設置義務。

旅館業法上の位置づけ — 3区分のうち面積要件だけが実質的な足かせ

旅館業法第2条は旅館業を「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3つに区分する。2018年(平成30年)6月15日施行の改正で、それまで別建てだった「ホテル営業」と「旅館営業」が「旅館・ホテル営業」に統合され、ホテル営業10室・旅館営業5室という最低客室数の基準が廃止された。同時に、無許可営業に対する罰金の上限は3万円から100万円に引き上げられている。簡易宿所営業はこの改正の前後を通じて独立した区分として存続している。

簡易宿所の定義は法第2条第4項——「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設けて、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」。ドミトリー型のホステルはもちろん、個室のみで構成するゲストハウスや町家一棟貸しも、この区分で許可を取得しているケースが多い。

構造設備の基準は旅館業法施行令第1条にある。簡易宿所営業の基準は現行では同条第2項である(旧法下でホテル営業・旅館営業・簡易宿所が並んでいた時代の「第3項」を引用している解説が今も流通しているが、営業種別統合に伴い項番号が繰り上がっている)。条文上の要件は次の7つに尽きる。

表1 旅館業法施行令 第1条第2項 — 簡易宿所営業の構造設備の基準(現行)
号要件投資判断上の含意
一客室の延床面積は33㎡以上。許可申請にあたって宿泊者の数を10人未満とする場合は、3.3㎡×宿泊者数以上小規模化の余地が大きい。定員6人なら19.8㎡でも要件を満たす
二階層式寝台を有する場合、上段と下段の間隔はおおむね1m以上2段ベッド設計の天井高に直結。既存住宅転用時の制約になりやすい
三適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備窓のない納戸等は客室にできない
四近接して公衆浴場がある等の場合を除き、宿泊者の需要を満たす規模の入浴設備銭湯至近であれば浴室投資を圧縮できる(保健所協議事項)
五宿泊者の需要を満たす適当な規模の洗面設備共用洗面で可
六適当な数の便所具体の数は都道府県条例・保健所運用による
七その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること実務上の最大の変数。面積・便所数・帳場運用は自治体条例で上乗せされる

出典:旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)第1条第2項 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

注目すべき点は2つある。第一に、玄関帳場(フロント)の設置は簡易宿所営業の政令要件に入っていない。同条第1項第2号として玄関帳場等を求めているのは旅館・ホテル営業の側である(2018年改正でICTを活用した本人確認設備による代替が明文化された)。第二に、最低客室数の定めがない。つまり1室・定員4人の施設でも、33㎡ではなく3.3㎡×4人=13.2㎡以上の客室延床があれば、条文上の面積要件は満たす。

ただし第七号——都道府県条例による上乗せ——が実務を左右する。玄関帳場の設置や常駐要件を条例で求める自治体、客室ごとの面積下限を設ける自治体があり、同じ図面が東京では通り京都では通らないという事態が起きる。取得前のフィージビリティでは、必ず所管保健所の事前協議を工程に入れるべきである。

旅館業法以外の3つの関門 — 消防法・建築基準法・用途地域

許可要件は旅館業法だけで完結しない。投資判断で効いてくるのは次の3点である。

表2 簡易宿所に関わる旅館業法以外の主な規制(根拠条文つき)
分野内容根拠コストへの影響
消防法旅館・ホテル・宿泊所等(別表第一(5)項イ)は延べ面積を問わず自動火災報知設備の設置義務消防法施行令第21条第1項第1号イ小規模でも必ず発生する初期投資。既存住宅からの転用では追加工事
消防法スプリンクラーは地階を除く階数11以上、または平屋建以外で床面積合計6,000㎡以上消防法施行令第12条第1項第3号・第4号小規模簡易宿所は原則として対象外。ここは負担が軽い
建築基準法用途を変更して特殊建築物とする場合、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡超なら確認申請が必要建築基準法第6条第1項第1号・第87条第1項200㎡以内に収める設計が小規模簡易宿所に多い理由
建築基準法用途は「ホテル又は旅館」。第一種・第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、田園住居地域、工業地域、工業専用地域では建築できない建築基準法第48条・別表第二住宅街の空き家を単純に転用できるとは限らない

出典:消防法施行令/建築基準法(e-Gov法令検索、2026年9月17日確認)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

つまり簡易宿所の初期投資は、「客室をつくる費用」よりも「自動火災報知設備・避難経路・用途地域」の3点で上下する。200㎡以内・自火報込みで設計できる建物を選べるかどうかが、この業態のフィージビリティの入口になる。

稼働率の実測 — 全国29.6%の内訳は大阪73.6%と長野13.6%

ここからは実測値に入る。観光庁「宿泊旅行統計調査」は、客室稼働率を宿泊施設タイプ別(旅館/リゾートホテル/ビジネスホテル/シティホテル/簡易宿所/会社・団体の宿泊所)に公表している。2025年(年間確定値)の簡易宿所の客室稼働率は全国29.6%。2024年の29.0%から0.6ポイントの改善にとどまった。同じ年のビジネスホテルは75.3%、シティホテルは74.1%である。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024年・2025年 年間確定値、2026年 第2次速報)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

月次で見ると、簡易宿所の稼働率は8月に跳ね(2025年8月39.1%)、12月〜1月に沈む(2025年12月24.5%、2025年1月25.1%)。年内の最高月と最低月の差は14.6ポイントで、通年72〜81%のレンジで動くビジネスホテルとは需要構造がまったく異なる。レジャー・観光需要への依存度が高く、平日のビジネス需要による下支えが薄いためである。事業計画では、通年平均ではなく月次のキャッシュフローで資金繰りを引く必要がある。

2026年に入ってからの月次は2月25.3%、3月23.9%、4月24.6%、5月29.4%、6月26.1%で、いずれも前年同月を下回っている。ただし観光庁は2026年1月調査分から標本の層化基準を「従業者数」から「客室数」に変更しており、前年同月比の解釈には注意が必要である。水準そのものが改善していないことは読み取れるが、低下幅を確定的な需要減として扱うべきではない。

表3 簡易宿所の客室稼働率 — 上位12都道府県と下位5県(2025年・年間確定値)
都道府県簡易宿所参考:ビジネスホテル簡易宿所の施設数(2024年度末)全国平均との差
大阪府73.6%82.9%773+44.0pt
京都府52.0%77.4%3,647+22.4pt
東京都48.6%81.5%1,256+19.0pt
福岡県44.8%77.8%400+15.2pt
愛知県38.2%75.4%158+8.6pt
沖縄県34.7%77.2%3,804+5.1pt
岡山県33.8%74.9%412+4.2pt
三重県33.2%73.4%284+3.6pt
宮城県31.0%69.5%335+1.4pt
香川県29.6%69.7%811+0.0pt
徳島県28.5%66.4%313-1.1pt
鹿児島県26.5%68.9%1,626-3.1pt
全国29.6%75.3%44,901—
秋田県8.9%67.8%307-20.7pt
佐賀県9.6%73.9%194-20.0pt
鳥取県10.0%68.5%448-19.6pt
愛媛県10.3%68.4%532-19.3pt
福島県10.5%61.3%652-19.1pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値/厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

上位は大阪府73.6%、京都府52.0%、東京都48.6%、福岡県44.8%と続く。大阪府の73.6%はビジネスホテル82.9%との差が9.3ポイントしかなく、この立地では簡易宿所が宿泊需要の受け皿として実質的に機能していることを示す。一方、最下位は秋田県8.9%で、佐賀県9.6%、鳥取県10.0%、愛媛県10.3%、福島県10.5%が続く。兵庫県13.4%、本稿の試算で取り上げる長野県13.6%もこれに近い水準にある。いずれもペンション・民宿として簡易宿所の許可を取得している施設が多い地域で、通年営業を前提としない運営が平均を押し下げている。

施設数が多い県ほど稼働率が低い — 全国44,901施設の逆相関

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値/厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

47都道府県を「簡易宿所の施設数」×「稼働率」でプロットすると、右上(施設数が多く稼働率も高い)の象限がほぼ空いていることがわかる。施設数トップの長野県(4,361施設)は13.6%、2位の沖縄県(3,804施設)は34.7%、4位の北海道(3,314施設)は25.2%。例外は3位の京都府(3,647施設・52.0%)で、ここだけが「多いのに埋まる」市場である。

逆に大阪府は773施設で73.6%。簡易宿所の許可件数が少ない都市ほど、1施設あたりが取り込む需要は厚い。投資対象エリアを選ぶとき、「その地域に簡易宿所が何軒あるか」は稼働率の先行指標として機能する。この44,901施設を人口・面積・既存客室数のどの分母で割るかによって都道府県の並びが大きく入れ替わることは、県別の宿泊供給は分母で入れ替わる — 簡易宿所44,901施設で京都21位→5位で詳しく検証している。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値/厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

価格帯 — ホステル区分の掲載価格中央値は大阪¥18,770、東京¥30,307

次に単価を見る。当社が収集している主要予約サイトの掲載価格から、施設区分「ホステル」「ゲストハウス」の掲載価格(2名1室・1室あたり・税込・全プラン平均)を都道府県ごとに集計した。以下はいずれも2025年9月〜2026年8月の12ヶ月について、月次のエリア中央値をとり、その中央値である。

表4 ホステル・ゲストハウス区分の掲載価格中央値(2025年9月〜2026年8月・12ヶ月)
都道府県ホステル 掲載価格中央値対象施設数(月次中央値)ゲストハウス 掲載価格中央値対象施設数(月次中央値)
東京都¥30,307205¥19,84378
大阪府¥18,77078¥15,73851
京都府¥22,404192¥18,146119
福岡県¥26,155125¥21,34927
北海道¥24,440106¥14,841100
沖縄県¥13,994262¥12,569123
広島県¥18,57851¥15,81239
長野県¥18,59826¥16,03267

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格=2名1室利用時の1室あたり料金・税込・全プラン平均)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

東京都のホステル区分が¥30,307と高いのは、この区分に「一棟貸し」「グループ向け複数ベッドルーム」タイプが相当数含まれるためである。2名1室あたりの料金として見ると割高に映るが、定員4〜8名で販売されている在庫が平均を押し上げている。掲載価格の水準だけで収益性を判断すると誤る——この点は次章の試算で稼働率と掛け合わせて初めて解ける。

逆に沖縄県は¥13,994と最も低い。施設数3,804に対して単価が立たない構造で、稼働率34.7%と組み合わせると1室あたりの売上は本稿の集計対象で最下位圏に沈む。なお都道府県より細かい市区町村単位でホステル・ゲストハウスの供給密度と成立条件を見た分析は、ホステル投資が成立する首都圏の条件 — 台東150軒・渋谷27軒・さいたま1軒の供給格差にまとめている。

ROI試算の3ステップ — 1室あたり年間GOPは18.8万円〜137.3万円

ここまでの実測値を使い、1室あたりの投資リターンを3ステップで組み立てる。建物の取得価格は地域差・個別性が大きすぎて一般化できないため、本稿は総投資額を変数として残し、「1室あたり総投資額がいくらなら利回りが何%になるか」という形で提示する。

■ 試算前提

  • 稼働率:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値の都道府県別・簡易宿所の客室稼働率をそのまま使用(調整なし)。
  • ADR:当該都道府県のホステル区分の掲載価格中央値(2025年9月〜2026年8月の12ヶ月)に、同一都道府県の全施設で観測される「推定成約ADR÷掲載価格」の比率(2025年1〜12月の平均。東京都0.568/大阪府0.599/京都府0.496/福岡県0.481/沖縄県0.456/北海道0.409/長野県0.453/広島県0.454)を乗じ、百円単位に丸めた前提値。
  • GOP率:45%(前提値)。上場REITが開示する運営受託ホテルのGOP率実績38.9%(インヴィンシブル投資法人・91物件・2024年12月期)と、宿泊特化型の業界目安50〜60%の間を採り、無人化運営でも清掃外注比率が高い小規模施設の保守値として設定。
  • 営業日数:365日(通年営業)。季節営業の施設は対象外。
  • 1室あたり総投資額:800万円/1,200万円/1,600万円の3水準を提示。物件取得費・改装費・消防設備・什器備品・許可取得費の合計を想定。参考として、国土交通省「建築着工統計」による2024年の宿泊業用建築の工事費予定額は全構造平均195.0万円/坪(RC造173.6万円/S造164.8万円)で、新築の場合はこの水準が下限となる。
  • 本試算に含まれないもの:借入金利、減価償却費、法人税等、大規模修繕引当、開業前の運転資金。したがって本稿の「利回り」はGOPベースの単純利回りであり、NOI利回りでもIRRでもない。
  • 母集団の非一致:稼働率は旅館業法上の「簡易宿所営業」、価格は予約サイト上の「ホステル」区分に基づく。両者は同一の施設群ではない。
  • 対象の絞り込み:掲載価格の月次対象施設数の中央値が25施設未満の都道府県は、サンプルが薄いため除外した。

ステップ1 — ADR × 稼働率 × 365日で1室あたり年間売上を出す

大阪府を例に置く。ホステル区分の掲載価格中央値は¥18,770。これに大阪府の比率0.599を乗じると、試算用ADRは¥11,200。稼働率は73.6%。

¥11,200 × 365日 × 73.6% = ¥3,008,768(1室あたり年間売上)

10室の施設であれば年間売上は¥30,087,680。20室なら¥60,175,360である。

ステップ2 — GOP率を乗じて1室あたり年間GOPを出す

¥3,008,768 × GOP率45% = ¥1,353,946(1室あたり年間GOP)

表5 1室あたり年間売上・GOPの試算(GOP率45%・365日営業前提)
都道府県試算用ADR稼働率(観光庁・2025年)1室あたり年間売上1室あたり年間GOP
東京都¥17,20048.6%¥3,051,108¥1,372,999
大阪府¥11,20073.6%¥3,008,768¥1,353,946
京都府¥11,10052.0%¥2,106,780¥948,051
福岡県¥12,60044.8%¥2,060,352¥927,158
北海道¥10,00025.2%¥919,800¥413,910
沖縄県¥6,40034.7%¥810,592¥364,766
広島県¥8,40019.1%¥585,606¥263,523
長野県¥8,40013.6%¥416,976¥187,639

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間確定値/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(前提は「■ 試算前提」参照)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

1室あたりの年間GOPは、東京都¥1,372,999、大阪府¥1,353,946に対し、長野県¥187,639。同じGOP率45%を置いても、立地だけで7.3倍の開きが出る。東京都はADRが高く稼働率が中位、大阪府はADRが低く稼働率が突出して高い——異なる経路で同水準のGOPに到達している点が興味深い。同じ1室あたり年間売上を旅館・ビジネスホテルなど他業態と並べて比較した集計は、ホテル経営の収益構造2026|1室年間売上186万〜351万円と運営形態4類型が参考になる。

ステップ3 — 1室あたり総投資額で割って利回りを出す

¥1,353,946 ÷ 1室あたり総投資額1,200万円 = 11.3%(大阪府・GOPベース単純利回り)

表6 1室あたり総投資額別のGOPベース単純利回り
都道府県1室あたり年間GOP投資800万円/室投資1,200万円/室投資1,600万円/室
東京都¥1,372,99917.2%11.4%8.6%
大阪府¥1,353,94616.9%11.3%8.5%
京都府¥948,05111.9%7.9%5.9%
福岡県¥927,15811.6%7.7%5.8%
北海道¥413,9105.2%3.4%2.6%
沖縄県¥364,7664.6%3.0%2.3%
広島県¥263,5233.3%2.2%1.6%
長野県¥187,6392.3%1.6%1.2%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(前提は「■ 試算前提」参照。借入金利・減価償却費・税金・修繕引当は含まない)

読み方はこうなる。1室あたり1,200万円で仕上げた場合、利回りが二桁に乗るのは東京都(11.4%)と大阪府(11.3%)のみ。京都府7.9%、福岡県7.7%が続き、北海道3.4%、沖縄県3.0%、広島県2.2%、長野県1.6%はGOPベースでこの水準にとどまる。ここから借入金利・減価償却・税金・修繕引当を引くと、下位県では事業として成立する余地が乏しいことがわかる。

裏返せば、下位県で投資を成立させるには、①1室あたり総投資額を800万円以下に抑える、②稼働率で都道府県平均を大きく上回る、③ADRを平均より引き上げる、のいずれかが必須条件になる。とくに②は、簡易宿所の稼働率統計が季節営業やペンションを含む平均値であることを踏まえれば、通年営業・都市部立地の個別施設では十分に狙える余地がある。

感度分析 — 稼働率とGOP率の2軸で大阪モデルを振る

表7 感度分析 — 大阪府モデル(ADR¥11,200・1室あたり投資1,200万円)の利回り
前提GOP率35%GOP率45%GOP率55%
稼働率 50.0%(仮定・通年)6.0%
¥715,400
7.7%
¥919,800
9.4%
¥1,124,200
稼働率 60.0%(仮定・通年)7.2%
¥858,480
9.2%
¥1,103,760
11.2%
¥1,349,040
稼働率 73.6%(2025年通年・観光庁実測)8.8%
¥1,053,069
11.3%
¥1,353,946
13.8%
¥1,654,822

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

稼働率が観光庁統計の大阪府平均73.6%から60%へ13.6ポイント下がると、GOP率45%のケースで利回りは11.3%から9.2%へ落ちる。効きが大きいのはGOP率より稼働率である。無人チェックイン・セルフ清掃で経費を削るより、稼働を積むほうがリターンに効く——小規模簡易宿所の運営設計はこの順序で考えるべきだろう。

リスク要因 — 10年で+70.4%の供給増が最大の変数

出典:厚生労働省「衛生行政報告例」(各年度末現在)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、簡易宿所営業の施設数は2014年度末の26,349施設から2024年度末の44,901施設へ、10年で+70.4%増加した。直近1年でも41,909→44,901で+7.1%である。同じ期間、旅館・ホテル営業の施設数は2018年度末49,502施設から2024年度末52,946施設と+7.0%にとどまる(2017年度以前は「ホテル営業」「旅館営業」の別建て集計のため接続しない)。宿泊供給の増加分は、簡易宿所という許可区分に集中して積み上がってきた。

稼働率が全国29.6%で足踏みしている一方で施設数が年7%増えている——この2つを重ねると、簡易宿所市場の需給は全国平均では緩んでいると読むのが自然である。ただし前章で見たとおり、緩んでいるのは施設数の多い地域であって、大阪府のような供給の薄い都市では逆の状況にある。エリア選定の重要性は、業態内の他のどの変数より大きい。

表8 簡易宿所投資の主なリスク要因と確認事項
分類リスク事前に確認すべきこと
規制都道府県条例による構造設備基準の上乗せ(施行令第1条第2項第七号)所管保健所への事前協議。玄関帳場・常駐・便所数・客室面積の運用
規制用途地域による立地制限(低層住居専用地域等では建築不可)都市計画図での用途地域確認。住宅街の空き家は転用できない場合がある
設備自動火災報知設備は延べ面積を問わず設置義務既存建物の場合の配線・受信機設置費。消防同意の見込み
設備用途変更の確認申請(200㎡超)と既存不適格の是正検査済証の有無。無い場合は法適合状況調査が必要になる
需要季節変動が大きい(2025年は8月39.1%・12月24.5%)月次キャッシュフローでの資金繰り。閑散期の固定費耐性
供給施設数が10年で+70.4%(26,349→44,901施設)対象エリアの簡易宿所許可件数の推移。施設数が多い地域ほど稼働率が低い
運営小規模ゆえ固定費の吸収力が弱い清掃・リネンの外注単価。1室あたり固定費の積み上げ
出口流動性が低く、売却先が限られる営業許可の承継可否(事業譲渡か株式譲渡か)を取得スキーム設計時に整理

出典:旅館業法施行令/消防法施行令/建築基準法/観光庁「宿泊旅行統計調査」/厚生労働省「衛生行政報告例」 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

まとめ — 平均値で判断しない。エリアで決まる業態である

簡易宿所は、旅館業法上の要件だけを見れば参入障壁が低い。客室延床33㎡(宿泊者10人未満なら3.3㎡×人数)、最低客室数なし、玄関帳場は政令要件外。実務上の関門は、都道府県条例の上乗せ、自動火災報知設備、用途地域、そして200㎡という用途変更確認申請の閾値である。

収益性は、全国平均で語る意味がない。2025年の客室稼働率は全国29.6%だが、大阪府73.6%・長野県13.6%。1室あたり年間GOPは本稿の試算前提で18.8万円〜137.3万円と7.3倍の幅がある。1室1,200万円で仕上げたときにGOPベースで二桁利回りが立つのは、集計対象8都道府県のうち東京都と大阪府だけだった。

そして最大の変数は供給である。施設数は10年で+70.4%、直近1年でも+7.1%。全国の稼働率が横ばいのまま施設数だけが増える構図が続いている。裏を返せば、「簡易宿所の許可件数が少なく、宿泊需要が厚い市区町村」を特定できるかどうかが、この業態の投資判断のほぼすべてである。本稿の都道府県別データは、その一次スクリーニングの材料として使えるはずだ。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」第8表(2024年・2025年は年間確定値、2026年2〜6月は速報値)の簡易宿所・ビジネスホテル・シティホテル区分。施設数は厚生労働省「衛生行政報告例」(各年度末現在、2014〜2024年度)。価格はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが収集する主要予約サイトの掲載価格(ホステル・ゲストハウス区分、2025年9月〜2026年8月の月次エリア中央値)。法令要件はe-Gov法令検索の現行条文(2026年9月17日確認)。

■ 試算前提

1室あたり年間売上=試算用ADR×365日×稼働率(2025年・都道府県別実測)。試算用ADRは掲載価格中央値×同一都道府県の推定成約ADR/掲載価格比率(2025年平均)を百円単位に丸めた前提値。GOP率45%、通年営業、1室あたり総投資額800万/1,200万/1,600万円の3水準。利回りはGOPベースの単純利回り(借入金利・減価償却費・税金・修繕引当・開業前運転資金を含まない)。詳細は本文「■ 試算前提」を参照。

■ 限界・留意点

稼働率(旅館業法上の簡易宿所営業)と価格(予約サイト上のホステル区分)は母集団が一致せず、同一施設群の実績ではない。稼働率の都道府県平均には季節営業のペンション・民宿が含まれ、都市部の通年営業施設の水準とは乖離しうる。2026年1月調査分から観光庁の標本層化基準が変更されており、2026年の前年同月比は幅をもって読む必要がある。GOP率・投資額は前提値であり、個別物件の収支は立地・規模・条例・運営方式で大きく変わる。

■ 法令(e-Gov法令検索、確認日:2026年9月17日)

■ 政府統計

■ 市場データ・業界資料

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