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宿泊旅行統計調査の速報値はどれだけ改定されるか|宿泊者数は最大3.4%、客室稼働率は1.0pt以内

投稿日 : 2026.09.22

指定なし

宿泊旅行統計調査の速報値はどれだけ改定されるか|宿泊者数は最大3.4%、客室稼働率は1.0pt以内

観光庁「宿泊旅行統計調査」は、同じ月の数字が3回発表される。翌々月末の第1次速報、その1ヶ月後の第2次速報、そして翌年7月の確定値である。実務でよく参照されるのは最初に出る第1次速報だが、それが最終的にどこまで動くのかを実測で確かめた資料は多くない。

本稿では、観光庁が公表した報道発表資料15ヶ月分(2025年4月分〜2026年6月分)を1件ずつ照合し、第1次速報から第2次速報、さらに確定値までの改定幅を数値化した。結論を先に書くと、延べ宿泊者数は中央値1.77%・最大3.44%動く一方、客室稼働率は15ヶ月すべてで1.0pt以内に収まっていた。指標によって速報値の「使える精度」がまったく違う。

本記事における指標の定義

  • 延べ宿泊者数:観光庁「宿泊旅行統計調査」における推計値。宿泊人数×宿泊数で数える(3人が2泊すれば6人泊)。
  • 客室稼働率(観光庁):利用客室数を総客室数で除して算出したもの。総客室数は客室数に各月の日数を乗じたもの。
  • 定員稼働率(観光庁):延べ宿泊者数を総収容人数で除して算出したもの。総収容人数は収容人数に各月の日数を乗じたもの。
  • 改定幅:本稿では、後から公表された値が先に公表された値からどれだけ動いたかを指す。延べ宿泊者数は%、客室稼働率はポイント(pt)で表記する。
  • 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。第8章で観光庁の客室稼働率と並置する自社指標であり、定義が異なるため水準は一致しない。
  • データ出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料/メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • 客室稼働率は第1次速報で確定値とほぼ同じ。15ヶ月すべてで第2次速報との差が1.0pt以内、確定値との差も中央値0.3pt・最大0.8pt。
  • 延べ宿泊者数は中央値1.77%・最大3.44%動く。第1次→第2次は15ヶ月中11ヶ月が下方修正で、方向にも偏りがある。
  • 外国人延べ宿泊者数の振れは最大8.17%。改定の向きも上方7ヶ月・下方8ヶ月と定まらず、第1次速報だけでインバウンドを語ると符号が変わりうる。
  • 第2次速報は下振れし、確定値で戻る。第2次→確定は9ヶ月中8ヶ月が上方(中央値+1.86%)。第1次→確定の正味は中央値0.87%と、1段階目より小さい。
  • 改定の源泉は回収率の層差。第1次速報時点の有効回収率は中央値35.3%、従業者数10人以上61.1%に対し10人未満39.7%で21.4ptの開きがある。

同じ月の数字が3回出る — 公表体系の全体像

宿泊旅行統計調査は月次調査だが、締切までに全数の調査票が返ってくるわけではない。そこで観光庁は、集計時点で手元にある有効回収票をもとに段階的に推計値を公表し、回収が進むたびに再集計して差し替えている。2026年7月分を例にとると、公表の流れは次のようになる。

宿泊旅行統計調査の公表3段階と有効回収率(2026年7月分の例)
公表段階 公表タイミング 2026年7月分の例 有効回収率
第1次速報対象月の翌々月末2026年8月31日公表(8月12日までの回収票で推計)32.9%
第2次速報第1次速報の約1ヶ月後2026年9月30日公表予定(2026年6月分は44.6%)
確定値翌年の年間値として公表2027年夏(2025年分は2026年7月6日公表)(2025年通年平均52.6%)

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成

つまり第1次速報は3分の1程度の回収票から全国値を推計している。残り3分の2は後から届き、第2次速報・確定値の段階で反映される。改定はこの構造から必然的に生じるもので、推計精度を段階的に高めていく設計そのものだ。重要なのは「どの段階の数字を、どの用途に使えるか」を数量的に把握しておくことである。

延べ宿泊者数は中央値1.77%動く — 15ヶ月の第1次→第2次改定

まず第1次速報から第2次速報への改定を見る。対象は2025年4月分から2026年6月分までの15ヶ月で、各月の報道発表資料に掲載された全国値を突き合わせた。延べ宿泊者数(全体)の改定率は中央値1.77%、最大3.44%(2025年9月分)。方向は下方修正が11ヶ月、上方修正が4ヶ月で、下方に偏っていた。

外国人延べ宿泊者数はさらに振れが大きい。改定率の中央値は3.83%、最大は2026年2月分の+8.17%で、方向も上方7ヶ月・下方8ヶ月とほぼ拮抗する。訪日客の宿泊は施設タイプや地域への集中度が高く、回収が遅れた施設の構成によって推計値が動きやすいためと考えられる。インバウンド動向を第1次速報だけで語ると、翌月に符号ごと変わる場面がありうる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成(N=15ヶ月)

一方、客室稼働率の改定幅はきわめて小さい。15ヶ月の第1次→第2次改定は中央値0.4pt、最大1.0pt(2026年6月分)で、すべての月が1.0pt以内に収まった。延べ宿泊者数が3%規模で動く月でも、稼働率は0.3〜0.9ptしか動いていない。

理由は指標の構造にある。延べ宿泊者数は「全国の宿泊施設における総量」の推計値なので、回収票が増えれば分子がそのまま積み上がる。対して客室稼働率は利用客室数を総客室数で割った比率であり、遅れて回収された施設のぶん分子と分母が同時に増えるため、比率としては相殺されやすい。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成(N=15ヶ月)

第1次速報→第2次速報の改定一覧(2025年4月分〜2026年6月分・全国)
対象月 第1次
(万人泊)
第2次
(万人泊)
改定率 外国人
改定率
稼働率
第1次
稼働率
第2次
改定幅 回収率
第1次→第2次
2025年4月5,3365,305-0.58%+5.49%61.761.6-0.1pt34.1% → 51.8%
2025年5月5,6385,564-1.31%+0.89%61.661.8+0.2pt33.6% → 50.6%
2025年6月4,9214,945+0.49%+6.65%58.759.0+0.3pt32.7% → 50.1%
2025年7月5,6405,575-1.15%-1.76%61.161.4+0.3pt36.5% → 50.1%
2025年8月6,6826,598-1.26%+2.37%65.965.9+0.0pt40.0% → 48.9%
2025年9月5,4995,310-3.44%-3.46%63.663.2-0.4pt39.5% → 48.3%
2025年10月6,0255,861-2.72%-4.35%67.467.1-0.3pt35.7% → 48.2%
2025年11月5,7725,599-3.00%-4.41%65.965.7-0.2pt38.9% → 47.9%
2025年12月5,3425,359+0.32%+3.83%59.159.7+0.6pt38.7% → 49.4%
2026年1月4,6284,546-1.77%-2.80%53.152.7-0.4pt32.7% → 44.9%
2026年2月4,6254,765+3.03%+8.17%59.059.6+0.6pt35.3% → 46.0%
2026年3月5,5465,441-1.89%-5.31%60.359.4-0.9pt28.3% → 45.6%
2026年4月5,0634,911-3.00%-2.35%59.759.1-0.6pt24.2% → 44.7%
2026年5月5,3395,429+1.69%+4.99%60.661.0+0.4pt34.5% → 45.9%
2026年6月4,6784,582-2.05%-2.32%56.257.2+1.0pt36.1% → 44.6%

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成

第2次速報は下振れ、確定値で戻る — 3段階を通した正味の改定

ここまでは第1次→第2次の1段階だけを見てきた。しかし2026年7月6日に2025年の確定値が公表されたことで、2025年分については第1次速報→第2次速報→確定値という3段階すべてを追跡できる。2025年4月分〜12月分の9ヶ月について並べたのが次の表である。

延べ宿泊者数・客室稼働率の3段階改定(2025年4月分〜12月分・全国)
対象月 第1次
(万人泊)
第2次
(万人泊)
確定値
(万人泊)
第1次
→第2次
第2次
→確定
第1次
→確定
客室稼働率
第1次→第2次→確定
稼働率
第1次→確定
2025年4月5,3365,3055,292-0.58%-0.25%-0.83%61.7 → 61.6 → 61.4-0.3pt
2025年5月5,6385,5645,607-1.31%+0.78%-0.55%61.6 → 61.8 → 61.7+0.1pt
2025年6月4,9214,9455,004+0.49%+1.20%+1.69%58.7 → 59.0 → 58.8+0.1pt
2025年7月5,6405,5755,665-1.15%+1.62%+0.44%61.1 → 61.4 → 61.2+0.1pt
2025年8月6,6826,5986,720-1.26%+1.86%+0.58%65.9 → 65.9 → 65.7-0.2pt
2025年9月5,4995,3105,424-3.44%+2.14%-1.37%63.6 → 63.2 → 62.8-0.8pt
2025年10月6,0255,8615,973-2.72%+1.91%-0.87%67.4 → 67.1 → 66.6-0.8pt
2025年11月5,7725,5995,704-3.00%+1.87%-1.18%65.9 → 65.7 → 65.4-0.5pt
2025年12月5,3425,3595,499+0.32%+2.61%+2.93%59.1 → 59.7 → 59.5+0.4pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料および2025年年間値(確定値)よりホテルバンク編集部作成(N=9ヶ月)

読み取れるのは、2つの改定が逆方向に働いているという構造である。第1次→第2次は9ヶ月中7ヶ月が下方修正(中央値1.26%)だったのに対し、第2次→確定は9ヶ月中8ヶ月が上方修正(中央値+1.86%)。結果として第1次速報から確定値までの正味の改定は中央値0.87%にとどまり、第1次→第2次の改定幅(中央値1.26%)よりも小さくなる

言い換えると、第2次速報は一度下に行き過ぎ、確定値で戻ってくる月が多い。2025年9月分は第1次5,499万人泊→第2次5,310万人泊(-3.44%)と大きく下方改定されたが、確定値は5,424万人泊で、第1次からの正味では-1.37%にとどまった。第1次速報を見て「需要が大きく落ちた」と判断し、第2次速報でそれを追認したとしても、最終的にはその中間に着地している。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料および2025年年間値(確定値)よりホテルバンク編集部作成(N=9ヶ月)

客室稼働率はここでも安定している。第1次速報と確定値の差は中央値0.3pt、最大0.8pt(2025年9月分・10月分)。第2次速報と確定値の差は中央値0.2pt、最大0.5ptで、稼働率に関しては公表の第1段階でほぼ最終形に到達していることが確認できる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料および2025年年間値(確定値)よりホテルバンク編集部作成

年間値でも同じ形 — 2024年・2025年の速報値と確定値

月次だけでなく年間値でも同じ傾向が出る。観光庁は毎年2月に前年の「年間値(速報値)」、7月前後に「年間値(確定値)」を公表しており、両者の差は同庁自身が変更点として開示している。

年間値の速報値→確定値 改定幅(2024年・2025年・全国)
年・指標 速報値 確定値 改定幅
2024年 延べ宿泊者数(全体)65,028万人泊65,906万人泊+1.35%
2024年 うち外国人16,360万人泊16,446万人泊+0.53%
2024年 客室稼働率(全体)60.5%59.6%-0.9pt
2025年 延べ宿泊者数(全体)65,348万人泊66,111万人泊+1.17%
2025年 うち外国人17,787万人泊17,992万人泊+1.15%
2025年 客室稼働率(全体)61.8%61.6%-0.2pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2024年・年間値(確定値))」「同(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成

2年とも、延べ宿泊者数は上方改定・客室稼働率は下方改定という同じ組み合わせになっている。総量が増えたのに比率が下がるのは矛盾のようだが、後述する回収率の構造を踏まえると自然に説明がつく。

改定の源泉は回収率 — 大規模施設と小規模施設で21.4ptの差

改定が生じる仕組みは、観光庁が公表している有効回収率を追うと明快になる。今回照合した15ヶ月では、第1次速報時点の有効回収率は中央値35.3%(最低24.2%・最高40.0%)、第2次速報時点では中央値48.2%(最低44.6%・最高51.8%)だった。1ヶ月のあいだにおよそ13pt分の調査票が追加され、その分だけ推計が置き換わる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成(N=15ヶ月)

そして決定的なのは、回収率が施設規模で大きく違うことである。2025年の確定値資料に掲載された規模別の有効回収率を12ヶ月平均すると、従業者数10人以上の施設が61.1%、10人未満の施設が39.7%で、その差は21.4pt。総数では52.6%だった。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成(N=12ヶ月)

ここに標本設計が重なる。2025年分までの調査は従業者数による層化で、従業者数10人以上は全数調査、5〜9人は3分の1、0〜4人は9分の1を無作為抽出して実施されていた。抽出率が9分の1ということは、1施設の回答が全国推計では9施設ぶんの重みを持つ。回収が遅れがちな小規模施設が第2次速報・確定値の段階でまとまって入ってくると、大きなウエイトを伴って総量を押し上げる。

年間値で延べ宿泊者数が上方改定され、同時に客室稼働率が下方改定されるのはこのためと読める。遅れて加わる小規模施設は宿泊者数を積み増す一方、稼働率の水準自体は低い。2025年確定値の施設タイプ別客室稼働率はビジネスホテル75.3%・シティホテル74.1%に対し、旅館38.2%・簡易宿所29.6%であり、小規模施設の比重が上がるほど全国平均の稼働率は下に引かれる。

なお、第1次速報時点の回収率の高低と改定幅の大きさには、今回の15ヶ月では明確な相関が見られなかった(相関係数-0.07)。「回収率が低い月ほど大きく改定される」とは限らない。どの層の施設が遅れて回収されたかが効くため、回収率の数値だけで改定の大きさを予測することはできない。

2026年1月分から層化基準が客室数へ — 精度向上の見直し

観光庁は2026年1月分調査から、層化基準を「従業者数」から「客室数」へ変更している。同庁は見直しの目的を「より統計精度の高い調査を実施するため」と説明しており、具体的には従業者数5区分から客室数6区分へ改め、客室数20室以上は全数調査、20室未満は標本調査とした。標本層の抽出率も、従来の従業者数ベースから都道府県ごとの設定に変わった。

宿泊施設の実態としては、従業者数より客室数のほうが供給規模を直接表す。パートタイム比率や運営受委託の形態によって従業者数は施設ごとにぶれるが、客室数はぶれない。層化変数を供給量そのものに合わせたことで、推計の安定性は高まる方向にある。この変更が2026年の前年同月比にどのような断層を生むかは、2026年の稼働率『前年割れ』は本物か──統計の層化基準変更が生む断層の読み方で詳しく整理している。

母集団施設数は変更前と同じ手法で作成され、2026年1月時点で約7万6千施設、うち調査対象は約2万3千施設とされている。2025年確定値資料に記載された確定名簿施設数は74,590施設、月次の調査施設数は20,395〜22,347施設だった。

層化基準の変更と前年比の扱い:観光庁は報道発表資料に「対前年(同月)比、対前年(同月)差については、見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と明記している。2026年1月分以降の前年同月比は、実際の需要変化と設計変更の影響が混在しうる。前年比を根拠に判断する場面では、この注記を前提にしておきたい。

都道府県別では47中36が上方改定 — 茨城+6.25%、京都-2.39%

全国値だけでなく、都道府県別でも改定幅を確認できる。2026年2月27日公表の2025年年間値(速報値)と、2026年7月6日公表の確定値を47都道府県すべてで突き合わせた。延べ宿泊者数の改定率は上方36県・下方11県、絶対値の中央値は1.23%だった。全国値の+1.17%より大きく動く県が半数以上ある。

最も大きく上方改定されたのは茨城県(+6.25%)で、速報値684万人泊が確定値727万人泊になった。次いで福岡県(+5.41%)、沖縄県(+4.87%)、富山県(+4.80%)。逆に下方改定が最も大きかったのは京都府(-2.39%)で、以下 埼玉県(-2.07%)、神奈川県(-1.53%)と続く。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値)/同(確定値))」よりホテルバンク編集部作成(N=47都道府県)

2025年 延べ宿泊者数 速報値→確定値 改定率 上位10県
都道府県 速報値(人泊) 確定値(人泊) 改定率 客室稼働率 改定幅
茨城県6,841,4407,269,120+6.25%54.0 → 54.1+0.1pt
福岡県24,175,89025,483,210+5.41%72.6 → 72.1-0.5pt
沖縄県32,288,99033,862,060+4.87%60.0 → 60.3+0.3pt
富山県3,748,5603,928,440+4.80%55.3 → 55.5+0.2pt
長崎県7,383,8307,657,250+3.70%55.9 → 56.3+0.4pt
鳥取県2,489,6902,571,870+3.30%51.9 → 52.2+0.3pt
山梨県9,685,3309,935,970+2.59%44.7 → 43.8-0.9pt
島根県3,344,9903,428,130+2.49%54.7 → 54.2-0.5pt
滋賀県4,718,0704,833,790+2.45%53.8 → 53.2-0.6pt
北海道45,434,84046,503,620+2.35%61.2 → 61.2+0.0pt
同 下位10県(改定率が小さい/マイナスの県)
都道府県 速報値(人泊) 確定値(人泊) 改定率 客室稼働率 改定幅
愛知県22,801,46022,750,670-0.22%69.2 → 69.2+0.0pt
広島県11,705,95011,631,520-0.64%64.7 → 64.4-0.3pt
岩手県5,588,1305,551,600-0.65%55.1 → 54.9-0.2pt
宮城県10,493,49010,417,370-0.73%59.5 → 60.2+0.7pt
青森県5,125,8805,077,310-0.95%61.4 → 61.1-0.3pt
大分県8,232,7708,128,890-1.26%53.6 → 54.4+0.8pt
石川県9,653,3109,516,310-1.42%58.2 → 57.1-1.1pt
神奈川県27,212,05026,794,990-1.53%66.0 → 66.2+0.2pt
埼玉県5,517,6705,403,310-2.07%65.7 → 66.7+1.0pt
京都府33,968,65033,157,290-2.39%66.7 → 66.8+0.1pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値)/同(確定値))」よりホテルバンク編集部作成

ここでも指標による差は明確だ。都道府県別の客室稼働率の改定幅は中央値-0.1pt、最大でも奈良県の-1.3ptにとどまり、47県すべてが1.3pt以内。上方20県・下方24県・同値3県とほぼ対称だった。延べ宿泊者数が6%動く県でも、稼働率は0.1pt程度しか動かない。

改定幅の大小は、その県の宿泊供給の構成と読み合わせると理解しやすい。標本調査の対象となる小規模施設の比重が高い県ほど、後から届く調査票のウエイトが大きく効く。裏を返すと、大規模ホテルが供給の中心を占める都市部では、速報段階から確定値に近い水準が出やすいということでもある。

客室稼働率と定員稼働率、そして母集団の範囲

改定幅を読むうえで前提になる定義を2点だけ整理しておく。ひとつは稼働率の2系統である。観光庁の客室稼働率は利用客室数を総客室数(客室数×日数)で除したもの、定員稼働率は延べ宿泊者数を総収容人数(収容人数×日数)で除したものだ。宿泊旅行統計調査はこの両方を統計表として公表しており、月次の報道発表資料で見出しになるのは客室稼働率のほうである。

両者は同じ月でも動きが違う。1室に2人泊まれば客室稼働率は1室ぶんしか進まないが、定員稼働率は2人ぶん進む。1室あたり宿泊人数が高い旅館やリゾートでは定員稼働率が相対的に高く出やすく、シングル中心のビジネスホテルでは逆になる。稼働率の詳しい計算式と業態別の水準は客室稼働率とは?計算式と全国平均56.2%で扱っている。

もうひとつは母集団の範囲だ。宿泊旅行統計調査の名簿は、統計法第27条に規定する事業所母集団データベース(総務省)をもとに観光庁が補正を加えたもので、ホテル・旅館・簡易宿所に加えて会社・団体の宿泊所などを含む。したがって、各自治体が所管する旅館業法の許可施設数とは母集団の定義が一致しない。両者の施設数を突き合わせて差を論じることには、そもそも無理がある。

また2010年第2四半期から従業者数10人未満の施設が調査対象に加わっており、それ以前の系列とは母集団が異なる。長期の時系列を引くときは、この拡充時点をまたぐ比較に注記が要る。観光庁自身も確定値資料に「調査結果をご活用の際は以下の点にご留意下さい」として、この拡充の経緯を掲載している。

公的統計と民間推定を並べる — 水準は17.7pt離れ、方向は8県中7県で一致

速報値の改定幅を把握したうえで、実務で気になるのは「公表を待つあいだ、何を代わりに見るか」だろう。ここでは観光庁の客室稼働率と、メトロエンジンリサーチが主要予約サイトの掲載在庫から推計している稼働率を、同じ月・同じ県で並置してみる。対象は2026年5月分と6月分、8都道府県である。

先に強調しておくと、両者は定義が違うので水準は一致しない。観光庁の客室稼働率は全宿泊施設の総客室数を分母にした実績値だが、自社推定はOTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。直販・団体・コーポレート契約で押さえられた客室は分母に入らないため、構造的に高く出る。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料(第2次速報)/メトロエンジンリサーチ(N=16点・8都道府県×2ヶ月)

実際、16点の水準差は中央値+17.7pt(最小+11.0pt・最大+29.8pt)で、県ごとにも差の大きさが異なる。水準そのものの相関は0.70にとどまり、絶対値を代替指標として使うことはできない。

一方で、前月からの変化の方向はよく揃う。2026年5月分から6月分への変化を比べると、8県中7県で符号が一致した(相関係数0.92)。東京都は観光庁-2.5pt・自社推定-2.5pt、京都府は-10.3ptと-8.1pt、北海道は+8.3ptと+6.6pt。符号が割れたのは沖縄県のみで、観光庁-1.6ptに対し自社推定は+1.5ptだった。

2026年5月分→6月分の稼働率変化:観光庁 客室稼働率(第2次速報)と自社推定の比較
都道府県 観光庁 客室稼働率 変化 稼働率(掲載在庫ベース・推定) 変化 方向 推定の対象
(2026年6月)
東京都77.9% → 75.4%-2.5pt93.0% → 90.5%-2.5pt一致780施設/103,314室
大阪府72.8% → 65.3%-7.5pt83.8% → 77.6%-6.2pt一致405施設/59,272室
京都府72.0% → 61.7%-10.3pt89.9% → 81.8%-8.1pt一致540施設/31,355室
北海道55.1% → 63.4%+8.3pt79.1% → 85.7%+6.6pt一致664施設/52,439室
沖縄県56.7% → 55.1%-1.6pt83.4% → 84.9%+1.5pt不一致702施設/35,277室
福岡県71.7% → 70.3%-1.4pt88.4% → 87.8%-0.6pt一致381施設/28,992室
愛知県65.8% → 61.7%-4.1pt82.6% → 79.6%-3.0pt一致328施設/33,663室
神奈川県66.1% → 64.4%-1.7pt85.5% → 80.2%-5.3pt一致390施設/30,735室

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年5月・第2次速報/2026年6月・第2次速報)」/メトロエンジンリサーチ(主要予約サイト掲載ベース)

実務上の含意はシンプルだ。水準は公的統計、方向とタイミングは民間データという役割分担になる。観光庁の第1次速報が出るのは対象月の翌々月末で、たとえば7月分の需要を知るのは8月31日。それより手前で市場の向きを掴みたい場合、掲載在庫ベースの推定は先行指標として機能しうるが、水準を観光庁の数値と混ぜて語ることはできない。定義の異なる2つの稼働率を「差の安定性」として月次着地の先読みに使う手順は、REIT公表稼働率とOTA推定OCCの差をどう使うかも参考になる。

速報を使うときの実務ルール5項目

ここまでの実測値を、日々の意思決定に落とし込むと次の5点になる。

5点に入る前に、ここまでの実測値を「速報値を受け取った時点で、どれだけの幅を見込んでおけばよいか」という形に置き直しておく。下表の実測レンジは本稿で照合した全期間の最小値・最大値であり、将来の改定幅を保証するものではないが、資料に幅を添えるときの下敷きにはなる。

速報値を使うときの実測改定レンジ(2025年4月分〜2026年6月分・観測値の最小〜最大)
指標 区間 N 改定幅の中央値
(絶対値)
実測レンジ 方向の偏り
延べ宿泊者数(全体)第1次 → 第2次15ヶ月1.77%-3.44% 〜 +3.03%下方 11 / 15
延べ宿泊者数(全体)第1次 → 確定値9ヶ月0.87%-1.37% 〜 +2.93%下方 5 / 9
外国人延べ宿泊者数第1次 → 第2次15ヶ月3.83%-5.31% 〜 +8.17%下方 8 / 15
客室稼働率第1次 → 第2次15ヶ月0.4pt-0.9pt 〜 +1.0pt下方 7 / 15
客室稼働率第1次 → 確定値9ヶ月0.3pt-0.8pt 〜 +0.4pt下方 5 / 9
延べ宿泊者数(都道府県別・年間値)速報値 → 確定値47都道府県1.23%-2.39% 〜 +6.25%下方 11 / 47

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料および2025年年間値(確定値)よりホテルバンク編集部作成(月次はN=15ヶ月/3段階追跡はN=9ヶ月/都道府県別はN=47)

速報を使うときの実務ルール5項目と根拠となる実測値
ルール 根拠となる実測値
1. 稼働率は第1次速報で使ってよい第1次速報から確定値までの差は中央値0.3pt・最大0.8pt(2025年4〜12月分)。第1次→第2次でも15ヶ月すべて1.0pt以内。稼働率の水準感を語るのに公表を待つ必要はない。
2. 延べ宿泊者数は±3%の幅を持たせる第1次→第2次の改定率は中央値1.77%・最大3.44%。「前年同月比+2%」のような小さな差は、次の公表で符号が反転しうる。資料には必ず公表段階を明記する。
3. 外国人宿泊者数はさらに広く見る外国人の改定率は中央値3.83%・最大8.17%(2026年2月分)。方向も上方7ヶ月・下方8ヶ月と定まらない。インバウンドの月次判断は第2次速報以降が安全。
4. 第2次速報を「最終値」と扱わない第2次→確定は9ヶ月中8ヶ月が上方改定(中央値+1.86%)。第2次速報は下振れしたまま確定値で戻る月が多く、第1次→確定の正味(中央値0.87%)より大きくずれる場面がある。
5. 都道府県別は全国値より大きく動く2025年の速報値→確定値で47県中36県が上方、改定率の絶対値は中央値1.23%・最大6.25%(茨城県)。県単位の年間値を根拠に投資判断や計画を組むなら、確定値の公表(翌年7月前後)を待つか、幅を持たせる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各回報道発表資料よりホテルバンク編集部作成

加えて、データの取得先にも注意点がある。政府統計ポータル(e-Stat)のデータベース版に収録されている宿泊旅行統計調査の統計表は、2016年分で更新が止まっている(第8表 客室稼働率ほか全32表とも調査期間は201601〜201612)。データベース版から最新値を取りにいくと古い系列を掴むことになるため、直近の数値は観光庁サイトの報道発表資料および集計結果を直接参照する必要がある。

なお本調査は標本調査を含むため、推計値には標準誤差が伴う。観光庁は集計結果のなかで主要項目別の標準誤差率を併載しており、精度の目安を公表値そのものから確認できるようになっている。

まとめ — 指標ごとに「待つべき段階」が違う

15ヶ月分の照合から見えたのは、宿泊旅行統計調査の速報値は指標ごとにまったく違う安定性を持つということだった。客室稼働率は第1次速報の時点でほぼ確定値であり、1.0pt以内に収まる。延べ宿泊者数は中央値1.77%・最大3.44%動き、外国人にしぼれば最大8.17%動く。都道府県別の年間値は最大6.25%動く。

この差は調査設計から必然的に生じるものだ。回収率は第1次速報時点で中央値35.3%、従業者数10人以上と10人未満で21.4ptの開きがある。総量を積み上げる指標は後から届く調査票で動き、分子と分母が同時に増える比率指標は動きにくい。仕組みを理解していれば、どの数字をいつ使えるかは事前に判断できる。

2026年1月分から層化基準が客室数へ変更され、推計の安定性はさらに高まる方向にある。ただし当面は前年同月比に設計変更の影響が混ざりうるため、観光庁の注記どおり、前年比を単独の根拠にしない扱いが求められる。速報を速報として正しく使い、確定値で答え合わせをする。それが宿泊統計との付き合い方である。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

改定幅の算出には、観光庁「宿泊旅行統計調査」の報道発表資料16回分(2025年3月分公表〜2026年7月分公表)に掲載された全国値・都道府県別値を用いた。月次の第1次速報・第2次速報は各回の報道発表資料から、年間値(速報値・確定値)は2026年2月27日および2026年7月6日公表資料から採取している。第8章で並置した稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は、メトロエンジンリサーチが主要予約サイトの掲載在庫から算出した推定値で、対象は2026年5月分・6月分の8都道府県(東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県・福岡県・愛知県・神奈川県、計16点)。

■ 試算前提

改定幅は、後から公表された値から先に公表された値を引いて算出した。延べ宿泊者数は改定率(%)、客室稼働率はポイント(pt)で表記している。「中央値」はいずれも改定幅の絶対値の中央値であり、上方・下方の別は方向として分けて記載した。実測レンジは観測された最小値と最大値であり、区間推定ではない。第1次速報と第2次速報の突き合わせは同一の対象月どうしで行い、公表回をまたぐ比較はしていない。稼働率の水準差・相関は、観光庁の客室稼働率(第2次速報)と当社推定を同月・同県で対応させた16点で計算している。

■ 限界・留意点

対象は第1次→第2次が15ヶ月、3段階追跡が9ヶ月、都道府県別が2025年の1年分と、いずれも標本数が限られる。本稿の実測レンジは将来の改定幅を保証するものではない。また宿泊旅行統計調査は標本調査を含む推計であり、公表値そのものに標準誤差が伴う。2026年1月分調査からは層化基準が従業者数から客室数へ変更されており、変更をまたぐ期間の比較には設計変更の影響が含まれうる。第8章で並置した当社推定はOTAに掲載された在庫を分母とする推定値で、観光庁の客室稼働率とは母集団も定義も異なるため、水準を直接比較することはできない。

■ 観光庁 報道発表資料(本稿で照合した各回)

■ 観光庁 調査概要・統計表

■ 民間データ

  • メトロエンジンリサーチ — 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)。2026年5月分・6月分、8都道府県(主要予約サイト掲載ベース)

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