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宿泊料はどこまで上がったか — CPIで見る2026年の価格転嫁力

投稿日 : 2026.07.27

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宿泊料はどこまで上がったか — CPIで見る2026年の価格転嫁力

ホテルの一泊はここ数年で確かに高くなった――多くの旅行者がそう実感している。では「どこまで」上がったのか。総務省統計局の消費者物価指数(CPI、2020年=100)で宿泊料の推移をたどると、2026年5月時点で172.3、すなわち2020年比+72.3%に達している。総合CPI(+13.5%)の5倍を超える上昇幅であり、外食(+17.4%)や交通(+8.8%)と比べても突出している。本稿では宿泊料CPIを他費目と並べて相対的な値上げ幅を定量化し、自社が集計するOTA価格データ(推定成約ADR)と重ねることで、東京・大阪・京都における価格転嫁の定着度を読み解く。

本記事における指標の定義

  • 宿泊料CPI:総務省統計局「消費者物価指数(2020年基準)」の費目「宿泊料」。全国・月次。2020年平均を100とした指数で、直近月は公表遅延により約2ヶ月前まで。
  • ADR(推定成約ADR):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値。
  • データ出典:総務省統計局・e-Stat「消費者物価指数」、メトロエンジンリサーチ。
Key Takeaways
  • 宿泊料CPIは2020年比+72.3%(2026年5月・172.3)と、総合CPI+13.5%の5.4倍のペースで上昇している。
  • — 前年同月比は年率+4.6〜5.0%で推移し、値上げは失速せず高水準で定着しつつある。
  • — 東京の推定成約ADRは春平均+5.5%(¥15,400→¥16,300)、京都+3.6%と実売価格にも転嫁が反映。
  • — 大阪の前年比-19.5%は万博反動による正常化で、2年前比では+4.1%と基調はプラス。
  • — インバウンド上半期2,108万人と円安が、高い価格転嫁力を需要面から下支えしている。

宿泊料は総合CPIの5倍のペースで上がった

まず全体像を押さえたい。消費者物価指数を費目別に2024年以降の月次で並べると、宿泊料の水準の高さが一目でわかる。総合・外食・交通・教養娯楽サービスが2020年比おおむね+10〜20%の範囲に収まるのに対し、宿泊料だけが指数160〜180の帯を推移し、他費目から明確に乖離している。

出典:総務省統計局・e-Stat「消費者物価指数(2020年基準)」よりホテルバンク編集部作成

2026年5月時点の到達水準を費目別に整理したのが下表である。宿泊料は2020年比+72.3%。これは総合CPIの+13.5%の5.4倍にあたる。物価上昇が語られて久しいが、宿泊という費目は「一般的な物価上昇」の枠に収まらない別次元の値上がりを経験してきたといえる。加えて、外食(+17.4%)や教養娯楽サービス(+20.1%)といった同じ「サービス消費」の仲間と比べても、宿泊料の伸びは3倍以上のスケールにある。

費目別の消費者物価指数と2020年比・前年同月比(2026年5月)
費目 2026年5月
指数
2020年比 前年同月比
宿泊料172.3+72.3%+4.8%
教養娯楽サービス120.1+20.1%+2.1%
外食117.4+17.4%+1.0%
総合113.5+13.5%+1.5%
交通108.8+8.8%+2.7%

出典:総務省統計局・e-Stat「消費者物価指数(2020年基準)」よりホテルバンク編集部作成

宿泊料と総合CPIの指数の比をとると、この乖離の広がりがさらに鮮明になる。2024年1月時点で宿泊料は総合の1.32倍だったが、2025年1月に1.35倍、2026年1月に1.41倍、そして2026年5月には1.52倍へと段階的に開いてきた。つまり宿泊料は他の物価を追い越し続けており、その差は縮まるどころか毎年広がっている。これは一過性のショックではなく、宿泊マーケットに継続的な価格上昇の力が働いていることを示している。

値上げは今も続いているか — 定着度をみる

過去の値上がりが大きかったことは分かった。では、その勢いは2026年に入って鈍っていないだろうか。宿泊料CPIを年ごとに重ねると、二つのことが読み取れる。ひとつは強い季節性で、お盆を含む8月に毎年大きな山ができる(2025年8月は181.4)。もうひとつは、その山も谷も年を追うごとに一段ずつ切り上がっていることだ。2024年・2025年・2026年の同じ月を比べると、いずれの月も前年を上回って推移している。

出典:総務省統計局・e-Stat「消費者物価指数(2020年基準)」よりホテルバンク編集部作成

数字で確認すると、宿泊料CPIの前年同月比は2026年3月+5.0%、4月+4.6%、5月+4.8%と、依然として年率5%前後の上昇ペースを保っている。同じ時期の総合CPIは前年同月比+1.5%前後にとどまるため、宿泊料はなおもその3倍以上の速さで上がり続けている計算だ。値上げのモメンタムは失速しておらず、むしろ高い水準で定着しつつあるとみるのが妥当だろう。

OTA価格データで裏づける都市別の転嫁力

マクロのCPIが示す上昇トレンドは、実際の販売現場でも観測できるだろうか。メトロエンジンリサーチが集計するOTA公開価格から推定した成約ADR(税抜相当)を都市別にみると、東京では明確な右肩上がりが続いている。東京の推定成約ADRを年ごとに重ねると、2026年は春の需要期(3〜5月)を中心に前年を上回って推移していることがわかる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N≈1,145施設)

春の需要期(3〜5月)の平均で前年同月比を比べると、東京は+5.5%(約¥15,400→¥16,300)、京都は+3.6%(約¥19,000→¥19,600)と、いずれもプラスを維持している。宿泊料CPIが示す全国レベルの値上げが、主要観光都市の実売価格にもしっかり反映されていることが確認できる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(3〜5月平均の前年同月比)

一方で大阪は前年同月比マイナス(-19.5%)となっている。ただしこれは価格転嫁力の弱さを示すものではない。2025年の大阪は大阪・関西万博の開催効果で春の推定成約ADRが一時的に押し上げられており、2026年はその反動で高い前年比較の基準(ベース)から正常化した局面にある。2年前の2024年春と比べれば大阪の推定成約ADRは+4.1%で、イベント需要のかさ上げを除いた基調はなお緩やかな上昇にある。イベントによる一時的なピークと、構造的な値上げトレンドを分けて読むことが、都市別評価では重要になる。なお、2025年の万博が大阪のADRをどこまで押し上げたかについては、大阪万博のホテルADRへの影響でREIT・OTA双方のデータから検証している。

主要3都市の春(3〜5月)推定成約ADR平均と前年比・2年比
都市 2024年春
平均
2025年春
平均
2026年春
平均
前年比 2年比
東京¥13,200¥15,400¥16,300+5.5%+23.1%
京都¥17,600¥19,000¥19,600+3.6%+11.9%
大阪¥9,600¥12,400¥10,000-19.5%+4.1%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(各3〜5月の推定成約ADR平均。東京N≈1,145/京都N≈605/大阪N≈650)

値上げを支える需要 — インバウンドと円安

これだけの値上げ幅を市場が受け入れてきた背景には、旺盛な需要の存在がある。日本政府観光局(JNTO)によると、2026年上半期(1〜6月)の訪日外客数は累計2,108万人と、上半期として過去最高を更新した。単月でも4月は369万人と2026年の月次最高を記録している。歴史的な円安が続くなか、海外の旅行者にとって日本の宿泊単価は自国通貨換算で相対的に割安に映りやすく、値上げに対する需要の耐性(価格弾力性の低さ)を支える構造になっている。円安が日本の宿泊単価を国際的にどの程度割安に見せているかは、主要都市ADRを米ドル換算しNY・パリ・ロンドンと比較した分析が参考になる。

つまり日本の宿泊マーケットは、コスト増を価格に転嫁しても需要が離れにくいという、事業者にとって前向きな環境にある。値上げがCPI・実売ADRの両面で定着してきたのは、単に価格を上げられたからではなく、その価格を支持する国内外の宿泊需要が伴っているからだといえる。人手不足や光熱費・食材費の上昇といったコスト圧力が続くなかで、宿泊料の価格転嫁力が確認できることは、供給側の収益力回復にとって重要なアップサイド要因となる。コスト増をどのように単価へ乗せているかの構造については、人件費転嫁型ADR上昇の正体がOCC×ADRの乖離から掘り下げている。

今後の焦点は、この価格転嫁力をどこまで「単価×稼働のバランス」として最適化できるかにある。マクロの追い風が続く局面だからこそ、需要期・閑散期のメリハリをつけた段階的なプライシングや、朝食・食事プランなど付加価値を明示したプラン設計によって、上昇した単価をさらに収益へ結びつける余地が広がっている。

まとめ

宿泊料CPIは2020年比+72.3%と、総合CPIの5倍超のペースで上昇し、その差は毎年広がっている。前年同月比でも年率5%前後を保ち、値上げは失速せず高水準で定着しつつある。東京・京都の推定成約ADRもプラスを維持し、マクロの値上げが実売価格に反映されていることが裏づけられた。大阪の前年比マイナスは万博反動による正常化であり、2年前比では依然プラスにある。インバウンド2,108万人と円安が支える需要環境のもと、日本の宿泊マーケットは高い価格転嫁力を発揮している。この追い風を単価と稼働の最適化につなげられるかが、次の成長ステージを分ける論点となるだろう。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRのうち2026年7月分は調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。分析の中心に用いた3〜5月は実績月です。宿泊料CPIは総務省の公表遅延により約2ヶ月前までのデータを用いています。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

総務省統計局・e-Stat「消費者物価指数(2020年基準)」(統計ID 0003427113、宿泊料・総合・外食・交通・教養娯楽サービス、全国・月次)、メトロエンジンリサーチのOTA公開価格データ、JNTO「訪日外客統計」。

■ 試算前提

推定成約ADRはOTA公開の最安プラン(2名1室利用・税込)に業態別補正係数を適用した税抜相当の推定値。エリア単位のADRは対象施設の中央値(東京N≈1,145/京都N≈605/大阪N≈650)。上場ホテルREITの物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。

■ 限界・留意点

宿泊料CPIは総務省の公表遅延により直近約2ヶ月前までのデータを使用。2026年7月分ADRは将来日程の販売価格に基づく推定でチェックイン日に近づくと変動し、分析の中心に用いた3〜5月は実績月。ADRは推定値であり実際の成約価格・会計数値とは異なる。

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