山形・かみのやま温泉の老舗旅館「日本の宿 古窯」は、館内の「花の館」をリニューアルし、2026年9月14日に新たな客室の提供を開始する。露天風呂付きの和洋室など全16室を整備し、山形の伝統工芸を取り入れながら、現代の宿泊ニーズに合わせて客室空間を見直した。
同館では近年、「竹の蔵」や「古窯スイート」などの改修も段階的に進めている。今回、長年親しまれてきた「花の館」をどのような考えで刷新したのか。リニューアルの背景や客室づくりの狙い、今後目指す宿泊体験について、同館を手がける株式会社古窯ホールディングスに聞いた。
公式サイト:https://www.koyoga.com/

――長年親しまれてきた「花の館」を、このタイミングでリニューアルすることになった背景を教えてください。これまでの運営を通じて、客室や宿泊者のニーズにどのような変化や課題を感じていたのでしょうか。
最大の背景にあるのは、観光市場の明確な「二極化」と、お客様の「時間に対する価値観」の大きな変化です。
宴会を中心とした団体需要は、現在も減少傾向にあります。一方で、お客様は日常のノイズから離れ、「限られたプライベートな時間を、いかにストレスなく、自分のペースで上質に過ごせるか」ということに、より高い価値を感じるようになっていると考えています。
これまで「花の館」は、団体のお客様のニーズに合わせ、比較的広めの客室を中心に展開してきました。しかし、旅館特有の古い慣習や非効率さが少しでも空間に残っていれば、現代のお客様にはすぐに感じ取られてしまいます。
そこで今回は、単に壁紙や畳を張り替えるだけではなく、「現代のお客様にとって、本当に心地よい空間とは何か」を改めて問い直しました。空間設計そのものをアップデートすべき時期に来ていると判断したことが、今回のリニューアルを決断した大きな理由です。
――古窯では近年、「竹の蔵」や「古窯スイート」など、客室のリニューアルを段階的に進めています。そうした中で、今回の「花の館」には、古窯全体の客室構成や宿泊体験の中でどのような役割を持たせたいと考えたのでしょうか。

ここ数年で手がけてきた「竹の蔵」や「古窯スイート」は、いわば古窯の「フラッグシップ」であり、お客様一人ひとりに寄り添った、特別な非日常を提供する空間です。
一方、今回の「花の館」は、これまで大切にしてきた「和」の趣を残しながら、洗練されたデザインのエッセンスを取り入れ、新しいくつろぎを感じていただける空間を目指しました。
古窯には「雪・月・花・緑」という四つの館があります。その中で「花の館」は、華やかさの中にも品とやわらかさがあり、しとやかな趣を感じていただける館として考えています。日本の宿としての「和の心」を色濃く残しながら、それを現代的に表現し、古窯全体の魅力を牽引していく。いわば、古窯の中心を担う重要な存在として位置づけています。
空間づくりの軸にあるのは、「不易流行、良縁感謝」という考え方です。新しいものを受け入れながらも、古き良き日本の伝統を現代へ伝え、人と人とをつなぐ場でありたい。その思いを、「花の館」の空間にも落とし込んでいます。
伝統を感じられる和の趣を大切にしながら、お客様に心地よく、ゆったりとくつろいでいただく。そして、ご家族や大切な方、ご友人と過ごす時間そのものが、豊かな思い出になっていく。華やかな空間の中で人と人とのつながりを感じながら、それぞれの旅の時間を楽しんでいただく。そんな宿泊体験を担う館として、「花の館」を位置づけています。
――新しい「花の館」では、露天風呂付きの60㎡の和洋室から2名向けの28㎡の和洋室まで、複数の客室タイプを設けています。それぞれ、どのような宿泊者層や利用シーンを想定して客室構成を決めたのでしょうか。
「花の館」では、旅の目的や誰と過ごすかに合わせて、それぞれに心地よい滞在を選んでいただけるよう、複数の客室タイプを設けました。
60㎡の露天風呂付き和洋室は、三世代でのご家族旅行や、記念日などの特別な滞在を主に想定しています。ご家族でゆったりと過ごしていただける広さを確保しながら、客室内でものんびりとくつろぎ、露天風呂でプライベートな時間を楽しんでいただける客室です。

一方、28㎡の2名向け和洋室は、ご夫婦やカップルはもちろん、大人の女性同士での旅行なども意識しています。コンパクトでありながら、和の趣と現代的な快適さを両立させ、「和のしつらえ、洋のくつろぎ」を感じていただける空間を目指しました。

三世代での家族旅行、記念日のご旅行、大人女子旅など、さまざまな利用シーンに対応しながら、どの客室を選んでいただいても「花の館」ならではの華やかさと心地よさを感じていただけることを大切にしています。
――組子細工や山形鋳物、漆など、山形の職人による手仕事を客室に取り入れています。こうした地域の伝統工芸を、単なる装飾ではなく宿泊体験や山形の魅力につなげるために、どのような工夫をされたのでしょうか。
客室には、山形の職人による伝統的な技術を、しつらえや調度品、装飾など、さまざまな形で取り入れています。
大切にしたのは、伝統工芸を単に「見せるもの」として飾るのではなく、空間の一部として自然になじませることです。伝統的な技術や素材にさりげなく触れていただくことで、お客様には心地よく過ごしていただきながら、山形のものづくりそのものを身近に感じていただきたいと考えました。
そうした滞在中の何気ない出会いがきっかけとなって、山形の文化やものづくりに興味を持っていただく。そして、宿で過ごした時間とともに、この土地ならではの魅力を感じていただければと思っています。
――今回の「花の館」のリニューアルを、今後の日本の宿 古窯の進化にどのようにつなげていきたいと考えていますか。これから目指す宿泊体験や、古窯としての今後の展望をお聞かせください。
私たちが目指しているのは、「古き良き日本の宿の心」と「現代のスマートな快適性」が調和し、「一旅の記憶が、一生の感動に」なるような宿泊体験です。
これまで「雪の館」や「竹の蔵」、「古窯スイート」など、段階的に改修を進めてきました。その流れの中で「花の館」をリニューアルした今回の取り組みは、「古窯とは何か」「日本の宿とは何か」という本質を、全館を通して体現していくための大きな前進だと位置づけています。
創業以来受け継いできた、古窯ならではの和の美学や、温かいおもてなしの心は、これからも大切に守っていきます。その一方で、現代のお客様がより快適に、自分らしく過ごせる空間へと進化させていくことも必要です。
変えてはいけないものを大切にしながら、時代に合わせて変えるべきものは変えていく。その積み重ねによって、古窯ならではの宿泊体験の価値をさらに高め、未来へとつないでいきたいと考えています。

■施設概要
施設名:日本の宿 古窯
所在地:山形県上山市葉山5-20
公式サイト:https://www.koyoga.com/
