山形市のホテル市場を施設単位で並べ直すと、県都の駅前ビジネスホテル群と、標高約900mの蔵王温泉という性格の異なる2つの商圏が1つの市域に同居している姿が見えてくる。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが2026年10月5日時点で集計したところ、主要予約サイトで販売が確認できた山形市内の宿泊施設は76施設・4,035室、直近12か月(2025年10月〜2026年9月)の推定成約ADRは12,300円で、前年同期を10.4%上回っていた。
本稿では、山形市のホテル供給(軒数・室数・業態構成)、価格帯ごとの客室分布、季節と曜日による単価の振れ、新規供給の動きを順に整理し、最後に投資家・運営者の視点でどの価格帯に余地が残っているかを読み解く。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。対象業態はビジネスホテル・シティホテル・リゾートホテル・旅館・カプセルホテル。
- 掲載価格:全プラン平均(素泊まり〜食事付きを含む)の公開価格。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。推定成約ADRとは基準が異なるため、本稿では両者を区別して表記します。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。主要予約サイト上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- GOP利回り:想定GOP(売上高営業粗利益)÷総投資額。減価償却費・借入金利・税・FF&E更新積立は含みません。
- 対象施設:2026年7〜9月に主要予約サイトで販売が確認できた山形市内の76施設・4,035室(主要予約サイト掲載ベース)。掲載のない施設は含みません。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月5日集計)
- — 客室の68%は中心市街地、施設数の57%は蔵王温泉 — 中心市街地は27施設2,728室、蔵王温泉は43施設1,006室。規模と施設数の重心が別の場所にある。
- — 市の推定成約ADRは県の1.27倍 — 山形市12,333円に対し山形県は9,746円(いずれも2025年10月〜2026年9月の月平均)。前年同期比は市+10.4%、県+9.6%。
- — 1万円未満に客室の57%、中心市街地の1.5万円以上は0施設 — 推定成約ADRが得られる57施設3,768室のうち2,154室が1万円未満。1.5万円以上の27施設はすべて蔵王温泉とその周辺にある。
- — 蔵王は季節、市街地は曜日で動く — 旅館のADRは2月が7月の2.5倍。市街地のビジネス・シティホテルは土曜の掲載価格が平日の1.30倍(2026年9月)。
- — 投資余地は「市街地の1万円台」と「蔵王の通年3万円帯」 — 新築120室で利回り8%に必要なADRは約16,100円。既存再生型は現行の単価水準でも試算上10%台に届く。
山形市のホテル供給 — 76施設4,035室、客室の68%は中心市街地に集まる
まずは供給の全体像を押さえておきたい。2026年7〜9月に主要予約サイトで販売が確認できた山形市内の宿泊施設は76施設・4,035室だった。これを所在地で分けると、山形駅周辺から七日町にかけての中心市街地が27施設2,728室、蔵王温泉が43施設1,006室、黒沢温泉・山寺・蔵王飯田などその他の地区が6施設301室となる。客室数では中心市街地が67.6%を占める一方、施設数では蔵王温泉が56.6%と過半に達しており、規模の重心と施設数の重心が別の場所にあるのが山形市の特徴といえる。
| 地区 | ビジネスホテル | シティホテル | 旅館 | リゾートホテル | その他 | 合計 | 客室構成比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中心市街地 | 17施設 2,094室 | 4施設 523室 | 2施設 21室 | — | 4施設 90室 | 27施設 2,728室 | 67.6% |
| 蔵王温泉 | 2施設 45室 | — | 23施設 606室 | 7施設 244室 | 11施設 111室 | 43施設 1,006室 | 24.9% |
| その他の地区 | 1施設 181室 | — | 4施設 74室 | 1施設 46室 | — | 6施設 301室 | 7.5% |
| 山形市 合計 | 20施設 2,320室 | 4施設 523室 | 29施設 701室 | 8施設 290室 | 15施設 201室 | 76施設 4,035室 | 100% |
業態別に見ると、ビジネスホテルが20施設2,320室で客室全体の57.5%を担い、旅館は29施設701室と施設数では最多になる。客室100室以上の施設は15施設2,470室で全体の61.2%にあたり、そのすべてが市街地側に立地していた。対して蔵王温泉は最大でも60室、43施設の平均は23室と小規模な宿が連なる構造で、30室未満の施設は市全体で42施設を数える。開業年が把握できる60施設のうち36施設(60%)は1999年以前の開業であり、長く営業を続けてきた施設が供給の土台を支えているといえるだろう。
実測ADR — 山形市は12,300円、山形県の1.27倍で前年同期比+10.4%
次に単価の水準を確認する。山形市の推定成約ADRは、2025年10月〜2026年9月の月平均で12,300円(対象は月平均58.6施設)だった。同じ期間の山形県全体が9,700円(同288.9施設)であるのに対し、市は県の1.27倍にあたる。前年同期(2024年10月〜2025年9月)との比較では市が+10.4%、県が+9.6%と、いずれも1割前後の伸びを示していた。直近の2026年9月単月でも、市は11,600円で前年同月比+11.1%、県は9,300円で同+7.1%となり、市の伸びが県を上回る状態が続いている。
ここで注意したいのは、掲載価格と推定成約ADRの水準差である。全プラン平均の掲載価格(2名1室・税込)は市が24,800円、県が25,300円と、県のほうがわずかに高い。ところが成約に近い水準を推定すると市が県を2,600円ほど上回る。食事付きの高額プランが多い温泉旅館は掲載価格の平均を押し上げやすく、掲載価格だけで市場の単価を語ると実勢から離れてしまう。本稿が以降の価格帯分類に推定成約ADRを用いるのはそのためだ。
| 区分 | 推定成約ADR | 前年同期 | 前年同期比 | 掲載価格(全プラン平均) | 対象施設数(月平均) |
|---|---|---|---|---|---|
| 山形市 全体 | 12,333円 | 11,168円 | +10.4% | 24,796円 | 58.6 |
| ビジネスホテル | 7,602円 | 7,281円 | +4.4% | 15,171円 | 21.9 |
| シティホテル | 10,368円 | 9,098円 | +14.0% | 21,516円 | 4.0 |
| 旅館 | 17,318円 | 16,482円 | +5.1% | 38,727円 | 24.7 |
| リゾートホテル | 20,836円 | 19,222円 | +8.4% | 45,804円 | 8.0 |
| 山形県 全体(参考) | 9,746円 | 8,896円 | +9.6% | 25,255円 | 288.9 |
業態別では、リゾートホテルが20,800円、旅館が17,300円と温泉地側の2業態が市全体を引き上げ、ビジネスホテルは7,600円で安定している。市全体の伸び率(+10.4%)が各業態の伸びより大きく見えるのは、エリアADRが対象施設の中央値で決まるためで、冬季に蔵王側の高単価施設の比重が増す月ほど中央値が上に動きやすい。業態別の伸び率(ビジネスホテル+4.4%、旅館+5.1%)のほうが、個々の施設の実感に近い数字と読める。県全体で業態ごとの前年比がどう分かれたかは、山形県のADRは業態で逆走する — ビジネスは春先−4.8%、シティは2月+12.5%が2026年1〜7月の確定値で掘り下げている。
価格帯マップ — 1万円未満に客室の57%、中心市街地の1.5万円以上は0施設
それでは、施設ごとの単価を価格帯に並べるとどのような分布になるのか。直近12か月のうち6か月以上の推定成約ADRが得られた57施設・3,768室を、月平均の水準で6つの帯に分類した。結果は、8,000円未満に13施設1,239室(32.9%)、8,000〜10,000円に7施設915室(24.3%)が入り、1万円未満の2帯だけで客室の57.2%を占めるというものだった。
地区を重ねると、帯ごとの担い手がはっきり分かれる。1万円未満の2,154室のうち1,973室は中心市街地の施設で、反対に15,000円以上の27施設836室には中心市街地の施設が1つも含まれない。中心市街地で最も高い施設でも14,400円にとどまり、10,000〜15,000円帯は4施設665室、そのうち3施設は山形駅前の200室級だった。つまり市街地側は「1万円未満の大型」と「1万円台前半の駅前上位」の2層で構成され、その上の帯は温泉地が受け持つという住み分けになっている。価格帯の空白という見方は他の地域にも当てはまり、同じ手法でまとめた徳島のホテル投資、30室以上で1.5万〜2万円帯はゼロ — 5,309室の価格帯マップ2026でも、1.5万〜2万円帯が空白として現れている。
| 推定成約ADR | 30室未満 | 30〜99室 | 100室以上 | 合計 | 客室構成比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 8,000円未満 | 3施設 46室 | 4施設 262室 | 6施設 931室 | 13施設 1,239室 | 32.9% |
| 8,000〜10,000円 | 1施設 23室 | — | 6施設 892室 | 7施設 915室 | 24.3% |
| 10,000〜15,000円 | 7施設 131室 | — | 3施設 647室 | 10施設 778室 | 20.6% |
| 15,000〜20,000円 | 4施設 82室 | 8施設 329室 | — | 12施設 411室 | 10.9% |
| 20,000〜30,000円 | 7施設 97室 | 6施設 282室 | — | 13施設 379室 | 10.1% |
| 30,000円以上 | 2施設 46室 | — | — | 2施設 46室 | 1.2% |
| 合計 | 24施設 425室 | 18施設 873室 | 15施設 2,470室 | 57施設 3,768室 | 100% |
密集 中心市街地 × 1万円未満 × 100室以上
11施設1,642室
中心市街地の大型ビジネスホテルが集まる帯。出張・イベント需要の受け皿として客室の4割超を担う。
空白① 市街地 × 15,000円以上
0施設
中心市街地の上限は14,400円。駅前上位の1万円台前半(4施設665室)の上に、もう1段の帯が空いている。
空白② 通年30,000円以上
2施設46室
蔵王温泉でも年平均で3万円を超えるのは小規模な2施設のみ。冬季だけでなく通年で高単価を保つ宿は希少である。
季節の振れ — 蔵王の旅館は2月が7月の2.5倍、市街地は年間1.3倍の幅
山形市の単価を読むうえで外せないのが季節性だ。市全体の推定成約ADRは2026年2月に18,500円まで上がり、最も低い同年7月の9,700円と比べて1.91倍の開きがあった。県全体の同じ比率は1.31倍であり、市の季節差は県の中でも際立って大きい。背景にあるのは、樹氷とスキーの季節に需要が集中する蔵王温泉の存在である。蔵王を銀山温泉・かみのやま温泉など県内の他の温泉地と並べた単価の階層は、山形県の宿泊市場2026:4温泉エリアをADRで比較を参照されたい。
業態別に分けると、振れの大きさは業態によってまったく違う。旅館は2026年2月の30,300円に対し7月は12,200円で2.47倍、リゾートホテルは2月の36,700円に対し6月が12,500円で2.94倍に達した。一方、ビジネスホテルは最高の8月(8,800円)と最低の3月(6,900円)の比が1.28倍にとどまり、年間を通じて6,900〜8,800円の範囲に収まっている。施設単位で見ても傾向は同じで、蔵王温泉の29施設の中央値は2月が31,900円、6月が12,900円と2.5倍の差があるのに対し、中心市街地のビジネス・シティホテル21施設は2月9,400円、6月7,800円と1.2倍の差だった。
冬の伸びも見逃せない。2026年1月の市全体は前年同月比+16.0%、2月は+18.6%で、旅館は1月+17.3%、2月+17.4%と2か月続けて2桁の伸びを記録した。夏の8月が市全体で+1.1%だったことと比べると、直近1年の単価上昇は冬季が主導したと整理できる。なお、調査時点の掲載水準から推定した今冬の値は2026年12月が16,400円(対象53施設)、2027年1月が23,200円(同47施設)、2月が22,500円(同45施設)となっている。ただし先の月ほど対象施設が減り、過去月とは算出基準も異なるため、前年実績との単純な比較には使わず、冬季の販売が高い水準から始まっているという方向感として読むのが適切だろう。
曜日の振れ — 市街地は土曜が平日の1.30倍、蔵王は1.14倍
季節で動く蔵王に対して、市街地の単価を動かしているのは曜日である。2026年9月の掲載価格(全プラン平均)について、施設ごとに月〜木曜の平均を1.00として曜日別の指数を取り、施設間の中央値を求めた。市街地のビジネス・シティホテル(22施設)は土曜が1.30で、週末1日に上げ幅が集中している。蔵王温泉の施設(39施設)は土曜が1.14で、日曜から金曜まではほぼ1.00と平坦だった。
同じ集計を2026年6月と2月でも行うと、市街地の土曜指数は月によって振れがあった一方、蔵王はいずれの月も1.1倍台にとどまった。蔵王は季節を問わず土曜の上げ幅が1割強で一定しており、冬の高単価は曜日ではなく期間全体の水準として設定されていることがうかがえる。市街地は逆に、季節よりも週末とイベント日で単価が動く市場といえる。
稼働の面でも曜日差は確認できる。山形市の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は2026年6月が85.0%、7月が81.1%、8月が87.4%、9月が87.8%で推移した(対象30〜35施設・客室1,762〜1,997室、主要予約サイト掲載ベース)。9月を曜日別に見ると月〜木曜の平均88.1%に対して土曜は93.0%、日曜は82.2%となり、シルバーウィーク中日の9月20日には99.5%に達している。この稼働率は主要予約サイト上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なるものの、土曜と連休に需要が寄る構図は単価の動きと整合している。
新規供給パイプライン — 2026年は4施設153室、通年3万円帯に49室が加わる
供給側の変化も整理しておく。当社が主要予約サイトの掲載で確認した山形市内の新規開業は、2019年に飯田西の181室、2020年に駅前の18室、2021年に山形駅前の204室と、2021年までは市街地の大型ビジネスホテルが中心だった。2022年から2024年にかけては蔵王温泉の小規模施設(2023年に9室)にとどまり、大型の新規開業は確認されていない。2025年も蔵王温泉のロッジ7室と市街地の貸別荘1室の計8室で、既存施設の名称変更による再掲載は純増に数えていない。
| 開業年 | 施設数 | 客室数 | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 2019年 | 1 | 181 | 市街地南部のビジネスホテル |
| 2020年 | 1 | 18 | 山形駅前の小規模ホテル |
| 2021年 | 1 | 204 | 山形駅前のビジネスホテル |
| 2022〜2024年 | 1 | 9 | 蔵王温泉のリゾート施設(2023年) |
| 2025年 | 2 | 8 | 蔵王温泉のロッジ7室、市街地の貸別荘1室 |
| 2026年 | 4 | 153 | 市街地72室・25室、蔵王温泉の旅館7室、界 蔵王49室(10月15日開業予定) |
2026年は流れが変わった。新たに掲載が確認されたのは4施設153室で、既存の4,035室に対して3.8%に相当する。内訳は市街地の72室と25室、蔵王温泉の旅館7室、そして10月15日に開業を予定する温泉旅館「界 蔵王」の49室である。星野リゾートの発表によると、同施設は山形県への初進出で、料金は2名1室利用時1名あたり31,000円から(夕朝食付・税サービス料込)と案内されている。前節で見たとおり、年平均で3万円を超える施設は市内に2施設46室しかなく、49室の参入はこの帯の客室数をほぼ倍にする規模にあたる。蔵王の高単価帯が冬季以外にどこまで広がるかを測る材料として、今後の単価推移に注目したい。市街地側でも2028年3月に山形駅前で237室の開業が予定されており、駅1km圏の供給吸収力についてはアパホテル山形駅前237室、2028年3月開業 — 駅1km圏2,398室に+9.9%で詳しく分析している。
宿泊客室以外でも、滞在の受け皿は広がってきた。2022年12月には滞在型の温浴施設「おふろcafe yusa」が山形市内に開業しており、日帰りで長時間過ごす利用形態が市内に根付きつつある。温泉地と市街地の間を埋めるこうした施設は、連泊や前後泊の動機づくりという点で宿泊側にも追い風になりうる。
立地評価 — 駅前商業地は1㎡22万円、市街地と蔵王で前提が分かれる
投資の前提となる土地の水準も確認しておく。国土交通省の地価公示(2026年)によれば、山形市の最高価格地点は七日町1丁目で1㎡あたり22.3万円(前年比+0.9%)、山形駅前の香澄町3丁目も22万円(同+0.92%)、市内商業地の平均は1㎡あたり96,483円(同+1.26%)だった。上昇は続いているものの年1%前後と緩やかで、用地費が事業性を大きく左右する大都市の駅前とは条件が異なる。後段の試算でも、総投資額に占める土地の比率は5%に満たない。
立地の性格は2つの商圏で異なる。中心市街地は山形新幹線の停車駅である山形駅と県庁所在地の業務機能を背景に、平日の出張と週末のイベント・観光が重なる立地で、前節の曜日指数が示すように土曜に単価が立つ。蔵王温泉は山形駅からバスで約40分の山岳温泉地で、スキー場と樹氷という冬の集客資源を持ち、季節で単価が決まる。同じ市内でも、前者は稼働日数と週末単価、後者はシーズンの長さが収益の軸になる。
地域との結びつきという点では、山形駅前のコンフォートホテル山形(108室)の取り組みが参考になる。運営する株式会社グリーンズは2024年3月に山形市と災害時の宿泊施設提供に関する協定を結び、災害発生時には要配慮者の避難場所として客室を提供する体制を整えた。24時間365日営業する宿泊施設の特性を地域の安全網に生かす事例であり、同ホテルの推定成約ADRは約8,700円と、中心市街地のビジネスホテル17施設の中央値(約7,500円)を上回る水準にある。駅前立地と地域連携を両立させた運営は、市街地で新たに事業を構える際の一つの手本といえる。
投資余地の試算 — 新築の必要ADRは約16,100円、既存再生は現行単価で10%台
ここまでの実測値をもとに、3つの型で簡易な試算を行った。前提は次のとおりである。建設費は国土交通省の建築着工統計にもとづく2025年のS造ホテル坪単価240.5万円を基準とし、着工から開業までの中間時点(2年)まで年5%の上昇を織り込んだ。GOP率は、インヴィンシブル投資法人が開示する国内ホテルの実績38.9%(2024年12月期)を基準に、料飲部門を持たない宿泊主体型の新築で45%、既存再生で40%、小規模旅館で25%と仮定した。稼働率は実稼働の想定値であり、前述のOTA掲載在庫ベースの推定値より低い75%(旅館は季節差を考慮して55%)を採用している。取得単価と改装費は仮定値である。
| 項目 | A. 駅前新築(宿泊主体型) | B. 市街地の既存再生 検討しやすい | C. 蔵王の小規模旅館 高付加価値化 |
|---|---|---|---|
| 客室数 | 120室(18㎡・延床約3,320㎡) | 100室 | 25室 |
| 総投資額 | 27.3億円(建設24.2億・土地1.3億・開業費1.8億) | 10.0億円(取得700万円/室+改装300万円/室) | 3.75億円(取得・改装1,500万円/室) |
| 同・建設費上昇織込後 | 29.8億円(1室約2,480万円) | — | — |
| 想定ADR(税抜) | 13,000円 | 10,000円(現行7,500円帯から引き上げ) | 28,000円(年平均) |
| 想定稼働率 | 75% | 75% | 55% |
| 年間客室売上 | 4.27億円 | 2.74億円 | 1.41億円 |
| GOP(GOP率) | 1.92億円(45%) | 1.09億円(40%) | 0.35億円(25%) |
| GOP利回り | 7.0% | 10.9% | 9.4% |
| 同・建設費上昇織込後 | 6.5% | — | — |
| 利回り8%に必要なADR | 約16,100円(建設費上昇織込後。織込前は約14,800円) | 約7,300円 | 約23,900円 |
Aの駅前新築は、現在の駅前上位と同じ13,000円を取れた場合でも利回りは6.5〜7.0%で、8%に届くには、建設費上昇を織り込んだ総投資29.8億円ベースで約16,100円(織込前の27.3億円ベースでは約14,800円)のADRが要る計算になった。この水準は中心市街地の現行上限(14,400円)を1割ほど上回り、ちょうど空白①の帯に重なる。言い換えれば、新築が成立する条件と市街地の空白帯は同じ場所を指しており、週末1.30倍の曜日プレミアムを平日にも広げられる商品設計(広めの客室、温浴、食の体験など)が事業性の鍵を握る。建設費の上昇は新規参入の敷居を高める一方で、既存施設にとっては競合の増加が緩やかになるという面も持つ。
Bの既存再生は、総投資を1室1,000万円に抑えられる前提で利回り10.9%となり、8%ラインに必要なADRは約7,300円と、市街地ビジネスホテルの現行中央値とほぼ同じ水準だった。改装によって1万円台へ移れば、層の薄い10,000〜15,000円帯(中心市街地では現在4施設665室)に入ることになる。Cの蔵王の小規模旅館は、年平均28,000円・稼働率55%で9.4%という結果で、冬季の高単価を春から秋にどこまで延ばせるかが成否を分ける。
| 項目 | ベースケース | ADR −10% | 稼働率 −5pt | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| 年間客室売上 | 2.74億円 | 2.46億円 | 2.56億円 | 2.30億円 |
| GOP | 1.09億円 | 0.99億円 | 1.02億円 | 0.92億円 |
| GOP利回り | 10.9% | 9.9% | 10.2% | 9.2% |
新築のシナリオAについては、ADRと稼働率を同時に動かした場合の利回りも確認しておく。表7は建設費上昇を織り込んだ総投資29.8億円を前提に、GOP利回りを2軸で並べたものである。通年の稼働率が75%の場合、中心市街地の現行上限にあたる14,400円では7.2%で、8%に届くのは16,100円からになる。稼働率を80%まで高められれば必要な単価は約15,100円に下がり、85%なら約14,200円と現行上限(14,400円)の範囲に収まる。単価だけでなく、平日の稼働を底上げできるかどうかが新築の成否を左右するといえる。
| 想定ADR(税抜)\通年の実稼働想定 | 65% | 70% | 75% | 80% | 85% |
|---|---|---|---|---|---|
| 12,000円 | 5.2% | 5.6% | 6.0% | 6.4% | 6.8% |
| 13,000円 | 5.6% | 6.0% | 6.5% | 6.9% | 7.3% |
| 14,400円(市街地の現行上限) | 6.2% | 6.7% | 7.2% | 7.6% | 8.1% |
| 16,100円(表5の必要ADR) | 6.9% | 7.5% | 8.0% | 8.5% | 9.1% |
| 18,000円 | 7.8% | 8.3% | 8.9% | 9.5% | 10.1% |
投資判断サマリー — 市街地は「1万円台への持ち上げ」、蔵王は「通年化」に機会
ここまでを整理すると、山形市の投資余地は2つの方向に集約できる。1つは中心市街地で、客室の大半が1万円未満に集まり、1.5万円以上が空いているという価格帯の構造そのものが機会になる。新築で空白帯を直接取りにいく場合は16,000円前後のADRが前提となるため、まずは既存施設を1万円台へ持ち上げる再生型のほうが、現行の単価水準と整合しやすいといえる。もう1つは蔵王温泉で、冬季に2.5倍まで上がる単価を、春から秋の集客(温泉、トレッキング、御釜観光)と組み合わせて通年の水準へ近づけていく方向である。
機会① 市街地の1万円台を厚くする
10,000〜15,000円帯は4施設665室。既存再生で必要ADRは約7,300円と現行中央値並みで、上振れ分がそのまま利回りの伸びしろになる。
機会② 土曜の単価を平日に広げる
市街地は土曜が平日の1.30倍。週末に成立している単価を、連泊や体験型の商品で平日へ延ばす設計が有効といえる。
機会③ 蔵王の高単価を通年化する
通年3万円以上は2施設46室。49室の新規参入で帯が厚くなる局面は、周辺施設にとっても単価設計を見直す好機になりうる。
| 区分 | 内容 | 確認したい指標 |
|---|---|---|
| 市場 | 冬季需要が単価上昇を主導しており、降雪やスキー場の営業日数で年間水準が動く | 12〜3月の推定成約ADRと対象施設数 |
| 供給 | 2026年に153室が加わる。今後の掲載で件数が増える可能性がある | 新規掲載施設の価格帯と稼働の立ち上がり |
| 建設 | 建設費は年5%前後の上昇が見込まれ、新築の必要ADRを押し上げる | 建築着工統計の坪単価、工期 |
| 需要 | 市街地は週末・連休への集中度が高い | 曜日別の掲載価格指数と稼働率(推定) |
まとめ
山形市のホテル市場は、76施設4,035室のうち客室の68%が中心市街地、施設数の57%が蔵王温泉という二極の構造を持ち、推定成約ADRは12,300円と県全体の1.27倍の水準にあった。価格帯で見ると1万円未満に客室の57%が集まり、中心市街地には1.5万円以上の施設がなく、通年で3万円を超える宿は蔵王の2施設46室に限られる。単価は蔵王が季節で、市街地が曜日で動いており、同じ市内でも収益の組み立て方は大きく異なる。
2026年は4施設153室の新規掲載が確認され、とりわけ蔵王の高単価帯に49室が加わる点は市場の節目になるだろう。投資家にとっては市街地の1万円台と蔵王の通年高単価帯という2つの空白が、運営者にとっては土曜と冬季に成立している単価をどこまで広げられるかが、次の検討テーマになると考えられる。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事で示した2026年10月以降の数値は、調査時点(2026年10月5日)に主要予約サイトで公開されている掲載水準に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前の調整で下がる可能性がある点にご留意ください。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトの公開情報から集計した宿泊施設データ(2026年10月5日集計)。対象は2026年7〜9月に販売が確認できた山形市内の76施設・4,035室。推定成約ADRは2024年10月〜2026年9月の月次値(山形市は月平均58.6施設、山形県は同288.9施設)、価格帯の分類は直近12か月のうち6か月以上の値が得られた57施設・3,768室を用いた。地価は国土交通省の地価公示(2026年)、建設費は同省の建築着工統計による。
■ 試算前提
3シナリオの試算は客室売上のみを対象とし、GOP利回り=想定GOP÷総投資額で算出した。新築は120室・延床約3,320㎡、S造ホテルの坪単価240.5万円(2025年)に年5%・2年分の上昇を織り込んだ総投資29.8億円、GOP率45%、通年の実稼働想定75%。既存再生は1室1,000万円(取得700万円+改装300万円)・GOP率40%、蔵王の小規模旅館は1室1,500万円・GOP率25%・通年の実稼働想定55%とした。取得単価・改装費・GOP率は仮定値である。
■ 限界・留意点
推定成約ADRと稼働率(推定)は主要予約サイト上の公開価格・販売在庫にもとづく推定値で、各施設の実際の成約価格・実稼働率・会計数値とは異なる。掲載のない施設と対象外業態の19施設267室は価格帯の分類に含まない。エリアのADRは対象施設の中央値のため、季節によって対象施設の構成が変わると水準が動く。2026年10月以降の値は調査時点の掲載水準による推定で今後変動する。試算は減価償却費・借入金利・税・FF&E更新積立を含まない簡易なもので、投資判断には個別物件の詳細な検証が必要となる。
■ 市場データ
| ・メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR・掲載価格(山形市N=76施設、山形県は月平均288.9施設)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)、新規開業(主要予約サイト掲載確認ベース)。2026年10月5日集計 |
■ 政府統計・公的データ
| ・国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2026年) |
| ・土地代データ「山形市の地価公示・基準地価」(国土交通省 地価公示にもとづく集計) |
| ・国土交通省「建築着工統計」(統計ID: 0003114490) |
■ REIT・業界レポート
| ・インヴィンシブル投資法人(8963)決算説明資料(2024年12月期)— 国内ホテルのGOP実績 |
■ ニュース・プレスリリース
| ・星野リゾート「【界 蔵王】2026年10月15日開業決定」(PR TIMES、2026年4月22日) |
| ・HotelBank「グリーンズと山形市、災害時の宿泊施設提供で協定締結」 |
| ・HotelBank「『おふろcafe』9店舗目が山形市でオープンへ」 |
