京都の夏を象徴する祇園祭。2026年の後祭は7月21日(火)から23日(木)の宵山、24日(金)の山鉾巡行・還幸祭という日程で組まれている。後祭の山鉾巡行は橋弁慶山を先頭に11基、最後尾を大船鉾が殿として烏丸御池から四条烏丸へ向かう。前祭の華やかさに対して、後祭は本来の祭祀色が濃く、近年「もう一つの京都」として宿泊需要が分散している。本記事ではメトロエンジンリサーチが集計した京都市内ホテル36〜38軒の OTA 公開在庫データから、後祭4日間(7/21〜24)と前祭4日間(7/14〜17)の予約進度を、室ベース・LT別の指標で比較する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
- LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。
- 早期完売LT:残室数が初めて0室に到達したリードタイム(値が大きいほど早期に完売)。
- 完売観測日数:観測期間中に残室0室を記録した延べ日数。
- OTA公開枠の最大割合:観測期間中、OTAに公開されていた客室数の総客室数に対する最大割合。この値が低い施設は直販・団体・他チャネル中心の運用と推定される。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ
- — 7/24(金)山鉾巡行日が後祭4日間で最も先行。LT90推定OCC 66.4%、LT58で71.8%に達し、宵々山(7/21)以降の他3日を10ポイント以上引き離した。
- — 前祭は「宵山持続型」、後祭は「巡行日突出型」。宿泊予約の集中度合いが構造的に異なり、価格戦略の指針となる。
- — エリア別では上京区・左京区が中京区より早期に進度上昇。山鉾町中心部より周辺区が先行する逆転構造。
- — 京都府7月ADRは前年同月比+26.7%。葵祭・丙午年要因と連動した構造的高水準で、後祭期間の価格弾力性は限定的。
- — 小規模町家宿(例:お宿 梅夜)の早期完売LTは大規模ホテルより先行。滞在体験プレミアムが短LT帯の在庫圧迫を生む。
後祭4日間の需要構造 — 7/24山鉾巡行(金)の進度が突出
はじめに京都府全体のブッキングカーブ(LT別の推定OCC推移)を確認する。下のチャートは、後祭3日間(7/22水・7/23木・7/24金)と前祭の山鉾巡行日(7/17金)、さらに直後の通常週末(7/25土)を並べて、リードタイム90日(4月下旬の観測開始時点)から直近観測点(LT55前後、5月末時点)までの推定OCCを描いたものである。LT90時点で既に祇園祭ピーク日のOCCは60%台後半に達しており、通常の7月平日(例:8月初週の比較データではLT90 OCC 62.2%)と比較して4〜6ポイント高い水準で予約が先行している。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(京都府 N=918-952施設、総客室約52,500-53,000室)
とりわけ7/24(金)の山鉾巡行日は、4月下旬の観測開始時点(LT90)で既に推定OCC 66.4%(2026年7月時点・推定値)、5月末時点(LT58)で71.8%に達した。後祭4日間で最もOCCが進んだのはこの7/24であり、宵々々山(7/21火)と比較すると同じLT60時点でOCC差は約+7ポイントある。曜日効果(火曜vs金曜)と巡行当日効果が重なった結果と推察される。
前祭との比較 — 後祭は「巡行日突出型」、前祭は「宵山持続型」
前祭の山鉾巡行は7/17(金)、後祭の山鉾巡行は7/24(金)と、いずれも金曜日に当たる。京都市内ホテル約37軒のサンプル集計を比較すると、興味深い構造差が浮かび上がる。前祭4日間は宵山初日(7/14火)から巡行日(7/17金)まで、京都市内サンプルの「現在残室率」が平均67〜75%のレンジで概ね均一に推移している。一方、後祭4日間では宵々々山(7/21火)の残室率74.0%から巡行日(7/24金)に67.0%へとピーク日に向けて段階的に絞り込まれる傾向が見える。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(京都市内サンプル N=34-38軒/日、OTA公開枠の最大割合30%以上の施設に絞り込み)
また「平均早期完売LT」(残室0室を初めて記録したLTの平均、観測がある施設に限定)は、前祭が63.8〜65.8日に対し、後祭は69.5〜80.3日と一段早い。具体的には7/22(後祭宵々山・水)に完売が観測された施設群の平均早期完売LTは80.3日(=GWより前)と、後祭の中で最も早い段階で予約が確定している。前祭は連休感のある集中需要、後祭は祇園祭リピーター・コア層によるロイヤル予約という需要構造の違いが、このLTの差から推測できる。なお京都市場全体については、3月の宿泊税大幅引き上げ後の実勢を分析した京都市宿泊税3月引き上げから3ヶ月実勢が、1万円帯ホテルの予約・ADR動向を別アングルから検証している。
| 日付 | 行事 | 京都市内サンプル | 平均早期完売LT | 延べ完売観測日数 | 平均残室率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7/14(火) | 前祭・宵々々山 | 37軒/2,200室 | 65.0日 | 37日 | 74.5% |
| 7/15(水) | 前祭・宵々山 | 37軒/2,409室 | 65.8日 | 36日 | 70.4% |
| 7/16(木) | 前祭・宵山 | 34軒/1,959室 | 63.8日 | 45日 | 67.1% |
| 7/17(金) | 前祭・山鉾巡行 | 36軒/1,389室 | 64.8日 | 38日 | 72.3% |
| 7/21(火) | 後祭・宵々々山 | 37軒/2,958室 | 77.0日 | 72日 | 74.0% |
| 7/22(水) | 後祭・宵々山 | 37軒/2,681室 | 80.3日 | 51日 | 73.3% |
| 7/23(木) | 後祭・宵山 | 38軒/1,947室 | 74.0日 | 13日 | 66.7% |
| 7/24(金) | 後祭・山鉾巡行 | 36軒/1,490室 | 69.5日 | 42日 | 67.0% |
エリア別の進行状況 — 上京区・左京区が先行、中京区は緩やか
京都市の区別に在庫進行を見ると、地理的な需要の偏りが明瞭に観測される。後祭山鉾巡行日(7/24)時点の京都市内サンプル36軒の集計では、上京区(4軒/41室・西陣エリア)と東山区(4軒/329室・祇園・清水エリア)が現在残室率42〜71%と先行している一方、中京区(9軒/305室・寺町・烏丸御池エリア)は95.9%と大半が未消化のまま残っている。中京区は山鉾巡行のメインコース上にあるが、サンプル中に大型の市街地ホテルが多く含まれており、これらは観測時点で残室を温存している段階と推察される。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026-07-24 京都市内サンプル N=36軒、観測時点 LT47前後)
後祭4日間を通じての延べ完売観測日数を区別に積み上げると、上京区が4日合計60日と突出している。上京区サンプルは4〜5軒・41〜140室と小規模だが、その中の数軒で7/21〜7/24全日で残室0室の状態が継続的に観測されている。小規模旅館・町家宿のコア層需要が、後祭の宵山〜巡行週に集中していることが読み取れる。
小規模宿の在庫進度 — 町家「お宿 梅夜」の事例
京都市上京区の町家宿「お宿 梅夜」(5室)は、後祭の予約進度が際立った施設の一つである。7/22チェックインのLT別観測点を時系列で並べると、LT90(4/23時点)で残室2室、LT77(5/6時点)で残室1室、LT76(5/7時点)で残室0室となり、その後LT46(6/6時点)まで30日連続で完売状態が継続している。OTA公開枠の最大割合は40%(5室中2室相当)で、観測条件(最大公開枠30%以上)を満たすため、需要シグナルとして読み取れる範囲にある。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(観測点36日)
同様の小規模宿として、左京区大原の料理旅館「芹生」(9室)は山鉾巡行日(7/24)のチェックインでLT90(4/25時点)に残室8室から、LT79(5/6時点)で残室0室に到達。その後5/6〜6/5まで30日連続で残室0室が観測されている。OTA公開枠の最大割合は88.9%(9室中8室相当)と高水準で、ほぼ全室をOTAに乗せている運用形態の中での確度の高い需要シグナルである。これらの施設は小規模で総客室数の絶対値は限られるが、後祭の祇園祭リピーター・コア需要を象徴する事例といえる。
価格動向 — 京都府7月ADRは前年同月比+26.7%
需要進度の高さを価格面からも確認する。京都府全体の月次ADR(OTA公開価格の平均、2名1室・税込)は、2026年7月時点で¥44,400となり、前年同月(2025年7月:¥35,000)比+26.7%の上昇となっている。上昇率は同年4月の+27%水準と並ぶ高さで、京都府の宿泊価格が春以降高位安定していることが分かる。京都ADRが他都市と比較して突出している構造要因については、京都ADR突出の正体 — 葵祭・丙午年・60年周期に挑むデータ検証が葵祭・丙午年・60年周期という複数のドライバーを背景に掘り下げている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(京都府月次ADR、N=1,426-1,564施設/月)
ブッキングカーブ上の平均価格を見ると、7/24(金)山鉾巡行日のLT90時点で¥29,700、LT58(5月末観測)で¥27,300と、LT進行に伴い緩やかに低下している。一方、直後の通常週末である7/25(土)はLT90時点で¥34,400、LT59で¥31,800と、巡行日より価格は高い。これは「土曜需要」と「巡行日特殊需要」の価格弾力性の違いを示しており、巡行日は需要は強いが価格上昇の余地が土曜需要ほどはとられていない構造が見える。
後祭4日間の需要パターン — 観測点とこれからの予測
本記事のデータは観測時点(2026年6月上旬、LT44〜47日)における進行途中の予約状況であり、今後の予約動向によって変動する点に留意が必要である。一方で、LT90〜LT58までの一貫したOCC上昇トレンド、平均早期完売LTの後祭側の早期化、上京区・左京区での小規模宿の先行完売など、複数のシグナルが「後祭4日間で需要が分散して強い」ことを示している。とりわけ7/24(金)山鉾巡行日は、宵山3日間(7/21〜23)よりもOCC進度が早く、巡行当日体験への需要が確認できる。
後祭の宿泊需要は、近年「人混みを避けたい祇園祭リピーター」「コア層の文化観光」を主軸に拡大している側面があり、前祭の華やかな宵山ピークとは異なる需要構造を持つ。今回のデータでは、上京区・東山区・左京区の小規模宿(旅館・町家・ゲストハウス)が、リードタイム75〜80日という早い段階で予約が確定しており、これらは年単位のリピーター層が予約していると推察される。同様の祭事系イベントが宿泊予約進度に与える影響については、東北三大祭り2026予約進捗が青森・秋田・仙台の8月初旬データから別の地域パターンを示しており、比較参照になる。残るLT44〜0日の期間で、中京区・下京区の大型シティホテルがどこまで需要を取り込むかが、後祭の最終的な在庫消化を左右する。
まとめ
祇園祭2026年の後祭4日間(7/21〜24)について、京都市内ホテル36〜38軒のOTA公開在庫データを集計した結果、以下のパターンが観測された。第一に、7/24(金)山鉾巡行日のOCC進度がLT90時点で66.4%、LT58時点で71.8%と、後祭の中で最も予約が先行している。第二に、後祭の平均早期完売LTは69.5〜80.3日と、前祭の63.8〜65.8日よりも一段早く、リピーター・コア層の比重が高いと推察される。第三に、エリア別では上京区・左京区・東山区の小規模宿が先行し、中京区・下京区の大型シティホテルは観測時点で残室を多く残している。第四に、京都府全体の7月ADRは前年同月比+26.7%と高位安定しており、需要・価格両面から後祭4日間は「分散して強い」需要構造を持つことが確認された。
⚠ 将来日程のADRおよび在庫データに関する注意:本記事のデータは調査時点(2026年6月上旬、LT44〜47日)でOTAに公開されている販売価格と販売在庫の集計です。チェックイン日までに新規プラン追加・価格調整・キャンセル発生で値が変動します。在庫指標は調査時点での進行途中の予約状況を示すものであり、最終的な完売状況を保証するものではありません。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計データ(京都市内ホテル36〜38軒、OTA公開在庫を日次観測)。観測期間:2026年4月下旬〜2026年6月初旬(LT90〜LT22相当)。
■ 試算前提
OCC推定値は OTA 公開在庫から(公開枠÷総客室数)を算出し、過去同月の公開率トレンドで実勢に補正。ADRは2名1室・全プラン平均(税込)。前祭比較は同一観測手法で揃えた4日間ベース。
■ 限界・留意点
OTA非公開・直販中心の施設は補足観測のみで、母数に含めて推定値を補正している。OCCは販売済み割合の推定であり、実成約OCC(フロント確定)とは数ポイントの差が生じうる。後祭期間の予測は6月初旬時点のLT基準で、直前予約変動により±3〜5ポイントの不確実性がある。
- メトロエンジンリサーチ — OTA公開価格データ、京都府月次ADR、京都市内ホテル36-38軒の室ベース在庫推移、ブッキングカーブ
- 公益財団法人祇園祭山鉾連合会「祇園祭行事日程」
- 京都市公式 京都観光Navi「祇園祭山鉾巡行(前祭・後祭)」
- 京都観光情報「祇園祭山鉾巡行2026年7月17日・24日(ルート・辻回し)」
