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【2026年4月最新】熱海市の旅館を徹底分析|76軒・2,508室の市場構造とADR推移

投稿日 : 2026.05.01

静岡県

エリア・施設分析

熱海市の旅館を徹底分析 2026年4月版

熱海市は、明治期以降「東京の奥座敷」として栄えてきた日本有数の温泉観光地である。バブル崩壊後の長期低迷を経て、2010年代後半からSNS時代の若年層・F1層を中心に観光客が再増加。コロナ禍からの回復を経て、2024年度の宿泊客数は306万人台を回復し、平成30年度(309万人)の水準にほぼ並んだ。本稿では、メトロエンジンリサーチが追跡する熱海市内の旅館76施設・2,508室を対象に、施設分布、客室規模、稼働指標、ADRの推移を多面的に検証する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(成約ADRより平均+25〜30%高い傾向)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • 売切率:調査時点でOTA上の予約受付を終了していたプランの割合。施設全体の客室稼働率とは異なります。
  • 分析対象:熱海市内の「旅館」カテゴリに分類される76施設・2,508室(2026年4月時点)。メトロエンジンリサーチ追跡施設のうちOTA稼働確認施設。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ、熱海市「次期 熱海市観光基本計画策定資料(2025年8月)」、観光庁「宿泊旅行統計調査」

熱海旅館市場の全体像

熱海市の宿泊施設は、メトロエンジンリサーチが追跡する範囲で計125施設・約4,800室。このうち最も比重が大きいのは「旅館」カテゴリで76施設・2,508室、施設数構成比で約61%、客室数構成比で約53%を占める。一方、施設1軒あたりの平均客室数は旅館が33.0室、リゾートホテルが71.5室と、旅館の小規模性が際立つ。これは熱海が「家族経営の中規模温泉旅館」を中心に発展してきた歴史を反映している。

カテゴリ施設数総客室数平均客室数/軒
旅館762,50833.0
リゾートホテル231,64571.5
ビジネスホテル218592.5
シティホテル17070.0
デラックスホテル45814.5
ペンション・民宿・その他1925913.6

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

市内分布マップ:熱海駅周辺と伊豆山に集中

熱海市内の旅館76軒の地理的分布をマップ化すると、明確な3つのクラスターが浮かび上がる。最大のクラスターは熱海駅から海岸に向かう市街地と糸川・銀座町周辺で、38軒(全体の50%)・1,536室が集中している。次いで伊豆山温泉エリアに17軒(22%)・531室、南部の網代・伊豆多賀エリアに16軒(21%)・382室が分布。マップ上のサークルサイズは客室数規模を表しており、駅徒歩圏に大型旅館(100室超クラス)が密集し、伊豆山には中規模、南部には小規模ハイクラス旅館が点在する構造が読み取れる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

エリア旅館数客室数平均レビュースコア
熱海駅周辺・市街地381,5363.82
伊豆山・初島・北部175313.22
南部・網代・伊豆多賀163824.06
熱海港・東部5593.31

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

注目すべきは、南部の網代・伊豆多賀エリアの平均レビュースコアが4.06と最も高い点である。このエリアには「SOKI ATAMI」「ふふ熱海 別邸 木の間の月」など2010年代以降に開業したラグジュアリー型旅館が集まっており、施設の新しさと滞在価値の高さがスコアに反映されている。一方、最大クラスターである駅周辺は3.82と平均的、伊豆山は3.22と相対的に低い。伊豆山には築年数の長い大型旅館が多く、施設の経年とリニューアル投資の差がスコア格差として表面化している。

施設数の長期推移:S44ピークから供給縮小、現在は安定期

熱海市が公表する「次期 熱海市観光基本計画策定資料(2025年8月)」によれば、入湯税特別徴収義務者ベースの宿泊施設数は昭和40〜50年代に800軒前後でピークに達し、平成期の寮・保養所閉鎖を経て長期的な減少をたどった。直近では下げ止まりが見られ、ホテル・旅館合計の供給は安定期に入っている。メトロエンジンリサーチでOTA上の稼働を確認できる旅館数は、過去2年間で76〜78軒のレンジで推移している。

出典:メトロエンジンリサーチ、熱海市「次期 熱海市観光基本計画策定資料」よりホテルバンク編集部作成

OTA稼働確認ベースの施設数は2024年4月の78軒から2025年9月の68軒まで段階的に縮小したが、2026年に入って72〜73軒へ回復している。これは新規開業(2024年度に2軒、2025年度に1軒の旅館がOTA出稿開始)と、休業からの復帰が寄与している。長期的な施設数縮小トレンドは止まりつつあり、市場は「数の調整」から「質の競争」フェーズへ移行していると評価できる。

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客室規模と開業年代の分布

76軒の旅館を開業年代別に分類すると、戦後復興期から高度経済成長期にあたる1950年代の開業が最多の16軒(962室)、1970-80年代が18軒(614室)、1990-2000年代が19軒(309室)。近年(2010年代以降)の新規開業は6軒(166室)と限定的だが、1軒あたりの客室数を見ると2010年代以降開業が平均27.7室と中規模化している点は注目に値する。これは老舗大型旅館が縮小する一方、新規開業はラグジュアリー寄りの中規模リゾート型に集中していることを示す。

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出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

客室数で見ると、1950年代開業の962室が最大で、これは「大江戸温泉物語」「亀の井ホテル」「熱海ニューフジヤホテル」など団体客時代に建設された大型旅館が今も現役であることを意味する。一方、最近の新規開業6軒は計166室と量的には小さいが、その多くがラグジュアリーグレードに分類されており、ADR水準を底上げする役割を担っている。

客室数の推移:総客室数は微減、平均客室数は安定

OTA稼働確認ベースで把握した熱海旅館の総客室数は、2024年4月の約2,580室から2025年下期にかけて約2,470室まで微減し、2026年4月時点で2,508室。施設数の変動と連動した動きを見せている。この間、1軒あたり平均客室数は概ね33-35室のレンジで推移しており、構造的な大型化・小規模化のシフトは観察されない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

このグラフから読み取れるのは「総量は緩やかに減少しているが、構造的なシフトは起きていない」という安定性である。熱海の旅館市場は、ホテル業界全体で進む大型化・チェーン化の流れとは異なり、家族経営に近い中規模旅館が市場の骨格を維持し続けている。

稼働指標の推移:直近で売切率が急上昇

OTA上の販売プラン売切率を月次で追跡すると、2024年4月から2026年2月までは月次平均で5%未満と低水準で推移していた。これは熱海旅館がOTA経由の販売を限定的に運用し、自社サイトや旅行会社経由の販売を主軸としてきたためと考えられる。ところが2026年3月の売切率は18.2%、4月は18.1%へと急上昇している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

この急騰の背景には、2026年春の桜・春休み・GW期需要の強まりがあると見られる。観光庁「宿泊旅行統計調査」が示す全国旅館の客室稼働率は2024年で36.8%と全業態中最低だが、熱海のような有力温泉地では繁忙期の集中度が高く、OTA上で「売切」状態に達するプランが急増する局面が定期的に発生する。なお、ここでの売切率はあくまで「OTA公開プランのうち予約受付を終了したプランの割合」であり、施設全体の客室稼働率とは異なる点に留意が必要である。

ADR推移:年次オーバーレイで見る季節性と価格上昇

過去25ヶ月のADR推移を年次オーバーレイで可視化すると、熱海旅館市場の価格構造が明瞭になる。第一の特徴は「8月の突出」である。2024年8月は¥66,800、2025年8月は¥67,900と、年間で最も高い水準を記録する。これは夏休み・お盆期の家族需要と熱海海上花火大会(夏季)が重なり、ラグジュアリー旅館を中心にハイシーズン価格が設定されるため。第二の特徴は「3月の年度末ピーク」である。2026年3月は¥64,400と前年同月(¥59,900)から+7.6%上昇。第三の特徴は「4月の前年比+11.5%」で、2025年4月の¥53,200から2026年4月は¥59,300へと大幅に上昇している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

2025年と2026年の各月を前年同月と比較すると、2026年1月+2.1%、2月+1.0%、3月+7.6%、4月+11.5%と、年度末から春にかけて加速している。これはコロナ後の宿泊客数回復が需要側を押し上げる一方、人手不足による稼働率の構造的制約が供給側のひっ迫を生み、価格転嫁が進んでいる構造を反映している。なお、観光庁データでは全国旅館のADRは依然として全業態中最低水準だが、有力温泉地である熱海では平均¥59,300と、全国旅館平均を大きく上回る価格帯で取引されている。

グレード別ADR分布:ラグジュアリー集中の構造

熱海旅館の最大の特徴は、ラグジュアリーグレードに分類される旅館が37軒(全体の49%)と圧倒的多数を占める点にある。これは熱海旅館全体の「滞在価値型」シフトを象徴している。ADRの観点でも、ラグジュアリーグレードが¥72,500、ハイグレード¥46,700、アッパー¥37,500、エコノミー¥23,500、バジェット¥19,800と明確な階層構造を形成している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

注目すべきは、エコノミー・バジェット層の売切率がそれぞれ38.0%・45.5%と非常に高い点である。低価格帯のプランは即時に消化される傾向にあり、価格弾力性が高い顧客層の需要が強い。一方、ラグジュアリーグレードの売切率は14.2%と相対的に低いが、これは公開プラン数が多く高価格帯の在庫が広く残るためであり、需要不足を意味するものではない。むしろ、滞在価値型の高単価旅館が安定したADRで運営されている健全さの表れと読み取れる。

熱海と静岡県内主要観光地の比較

静岡県内の主要観光エリアと旅館ADRを比較すると、熱海は伊豆市(修善寺・天城湯ケ島など)に次ぐ2位の高単価エリアである。2026年4月時点で、伊豆市¥60,500、熱海市¥59,300、東伊豆町¥55,900、伊東市¥51,700と、伊豆半島の主要温泉地が上位を占める。一方で売切率は熱海18.1%に対し、伊東市27.2%、伊豆市18.2%と、熱海が必ずしも最も逼迫しているわけではない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

熱海市は「伊豆半島観光圏のフラッグシップ」として位置づけられる。新幹線アクセスの優位性により首都圏からの日帰り・1泊需要を安定的に取り込んでおり、価格・需要のバランスが取れた市場となっている。伊豆市が高単価なのは大型ラグジュアリー施設の存在によるものだが、エリア全体の集客では熱海が圧倒的優位を保持している。

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需要構造の背景:宿泊客数とインバウンドの動向

熱海市の年間宿泊客数は、平成30年度(2018)の3,094,456人をピークにコロナ禍で大きく落ち込み、令和3年度(2021)は153万人まで縮小。その後段階的に回復し、令和6年度(2024)は3,069,122人とコロナ前の99.2%水準に達している。月別で見ても、夏季(8月323,212人)と冬季(12月320,759人)に2つのピークを持つ熱海特有の需要パターンが確認できる。

年度年間宿泊客数対H30比特徴
H30 (2018)3,094,456人100%コロナ前ピーク
R3 (2021)約1,530,000人49.4%コロナ禍の谷
R4 (2022)約2,290,000人74.0%回復初期
R5 (2023)約2,820,000人91.1%SNS・若年層人気
R6 (2024)3,069,122人99.2%5年ぶりに300万人台回復

出典:熱海市「次期 熱海市観光基本計画策定資料(2025年8月)」よりホテルバンク編集部作成

注目すべきは、コロナ前後で「日帰り客比率の上昇」が起きている点である。コロナ前は宿泊:日帰り = 2:1だったが、現在は約1:1。SNS時代の若年層・F1層を中心に「日帰りで楽しむ熱海」が定着しており、宿泊回帰の促進が市の観光戦略上の重点テーマとなっている。インバウンド比率は静岡県全体で全国平均を下回るが、2024年7月設立の一般財団法人「熱海観光局(DMO)」が訪日客誘致の強化を進めており、今後の伸びが期待される領域である。

レベニューマネジメント観点:滞在価値型旅館の収益機会

熱海旅館市場は、構造的に「ラグジュアリー集中・高ADR・低-中売切率」という特徴を持つ。ここから読み取れる収益機会は以下の3点である。第一に、エコノミー・バジェット層の売切率が38〜46%に達している現状は、価格帯下層に強い需要が存在することを示しており、ラグジュアリー旅館のエントリープラン拡充による顧客接点拡大の余地がある。第二に、ADRの前年同月比が3〜4月で+7.6〜+11.5%へ加速している局面では、繁忙期の段階的プライシングを早期化することでさらなる収益機会が生まれる。第三に、伊豆山エリアの平均レビュースコアが3.22と相対的に低い現状は、リニューアル投資による滞在価値向上と価格再設定によって、エリア全体のADR底上げに繋がる伸びしろを示唆している。

熱海全体としては、過去10年間の宿泊客数回復、SNS時代の若年層支持、ラグジュアリー新規開業の継続、首都圏からの新幹線アクセスという複数のポジティブ要因が重なっており、旅館市場の成熟化が進んでいる。今後はインバウンド誘客と平日需要の平準化が、さらなるADR上昇の鍵となるだろう。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性、また需要の高まりにより上昇する可能性のいずれもある点にご留意ください。

まとめ

本稿では、メトロエンジンリサーチが追跡する熱海市内の旅館76施設・2,508室を多面的に分析した。施設分布では駅周辺・伊豆山・南部の3クラスター構造、施設数は長期低下から下げ止まり、客室規模は中規模旅館中心の安定構造、稼働指標では2026年春から売切率が急上昇、ADRは前年同月比+11.5%(4月)と上昇加速、グレード別ではラグジュアリー集中の特徴、と複数の指標が「滞在価値型旅館市場の成熟化」を示している。熱海は2024年に宿泊客数300万人を5年ぶりに回復し、コロナ前の水準にほぼ並んだ。今後はインバウンド誘客と平日平準化が、価格・稼働の両軸でさらなる成長機会を提供すると見込まれる。

参考リンク

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