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飛騨高山周遊圏のホテル投資余地 — 高山・下呂・白川郷、減室リブランドの採算を読む

投稿日 : 2026.06.11 更新日 : 2026.09.02

岐阜県

投資・開発

飛騨高山周遊圏のホテル投資余地

2026年9月14日、JR東海グループとヒルトンの提携により「ヒルトン高山リゾート」が開業する。旧ホテルアソシア高山リゾート(290室)を283室へと7室減らしたうえで、岐阜県初のヒルトンブランドとしてリブランドする計画だ。「減室で1室あたりの単価を引き上げる」という運用設計は、いま全国のリゾート再生で広がるアップサイド戦略の典型例である。本稿では、ヒルトン高山リゾート単体ではなく、高山・下呂温泉・白川郷を結ぶ「飛騨高山周遊圏」を一つの面として捉え、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格データと国・自治体の公的統計を重ねながら、この圏域に残る投資余地を検証する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けるため、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本記事ではマクロ集計でのみ使用し、個別ホテル単位では算出していません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省、観光庁、各自治体観光統計
Key Takeaways
  • — 高山市は2025年、観光入り込み479万5千人・外国人延べ宿泊97万8312人と過去最多を更新し、需要評価の国際化が進む。
  • — 周遊圏の供給は新築ではなく既存施設のリブランド・コンバージョンが主軸。景観規制が新築余地を制約する。
  • — 高山中心部には規模ある上質帯(ADR ¥30,000超×中規模)の供給空白が存在し、ここが最大の投資余地。
  • — 減室リブランド試算では、290室→240室・ADR¥38,000のB案でRevPAR ¥27,360・GOP約8.4億円と採算が現状維持を上回る。
  • — 高山市商業地公示地価は前年比+14.5%、中部縦貫道のアクセス改善が追い風。河川・山間部の水害リスクには留意。

エグゼクティブサマリー

高山 上質帯の空白
0軒
¥50-70k×80-200室
高山 中心部ADR
¥39,000
2026年5月・N=70施設
下呂 中心部ADR
¥27,600
2026年5月・N=39施設
古い町並み地価
+28.8%
商業地・前年比・全国8位
外国人延べ宿泊
97.8万
高山市・2025年・過去最多

飛騨高山周遊圏は、観光需要の評価が国際的に高まる一方で、宿泊供給の上質帯が薄いという構造を抱えている。高山市中心部のADRは2026年5月時点で約¥39,000、下呂温泉は約¥27,600であり、いずれも前年同月を上回って推移する。にもかかわらず、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計した高山周辺74施設のポジショニングでは、「ADR ¥50,000〜¥70,000 × 80〜200室」という上質・中規模帯に該当する施設が1軒も存在しない。¥70,000超のラグジュアリー帯は、48室以下の小規模旅館に限られる。

つまり高山には「規模を備えた上質ホテル」というレンジがぽっかり空いている。ヒルトン高山リゾート(283室・現行ADR約¥50,000)がリブランドで狙うのは、まさにこの空白である。減室による1室あたり単価の引き上げは、需要評価の上昇という追い風と、この供給空白というポジショニング上の優位を同時に取りに行く合理的な一手といえる。本稿では (1) 周遊圏の供給パイプライン、(2) 高山・下呂のポジショニングと空白価格帯、(3) 減室リブランドのNOI感度、(4) 立地・地価・災害リスクの順に分析する。

市場動向 — 観光評価の国際化と圏域内のADR格差

高山市は2025年、観光入り込み客数479万5千人、外国人延べ宿泊者数97万8312人をいずれも市町村合併以降の過去最多として記録した。ブッキング・ドットコムの「世界で最も居心地の良い都市10選」に日本から唯一選出されるなど、評価の国際化が進んでいる。世界遺産・白川郷、日本三名泉の下呂温泉と合わせ、飛騨は「歴史・温泉・文化」を一つの周遊動線で消費できる希少な圏域だ。

一方で、圏域内の単価水準には明確な階層がある。下のチャートは高山市・下呂市・白川村・飛騨市の中心エリアの月次ADR推移を年次重ね描きで示したものである。高山が秋(10月・紅葉と高山祭)に¥42,000台へ跳ね上がる季節性を持ち、白川村は施設数が少ない(N=3〜7)ながら冬のライトアップ期に¥50,000超へ達する希少性プレミアムを示す。下呂は通年で¥26,000〜¥32,000のレンジに収まり、温泉旅館中心の安定した需要構造を映す。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(高山市N=51〜71/下呂市N=33〜41/白川村N=3〜7、月別施設数)

注目すべきは、高山と下呂の構造的な性格の違いである。高山は中心部に多様なグレードが混在し、ビジネスホテルから町家ラグジュアリーまで価格帯が広く分布する「都市型観光地」だ。これに対し下呂は温泉旅館が供給の中核を占め、ADR分布は¥25,000〜¥100,000の上中位帯に集中する。この性格差が、後述するポジショニング上の空白の所在を分けている。

供給パイプライン — リブランドが主役、新築は限定的

飛騨周遊圏の供給は、新築よりも「既存施設のリブランド・コンバージョン」が主軸になっている。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA掲載確認ベースで把握する高山中心部の主要上質帯施設を整理すると、近年の供給増は外資・国内チェーンブランドの参入によるものだ。2020年に東急ステイ飛騨高山 結の湯(212室)、2022年にメルキュール飛騨高山(161室)、2025年にホテルアマネク飛騨高山(153室)が登場し、2026年9月にヒルトン高山リゾート(283室)が加わる。下呂でも大江戸温泉物語グループやTAOYA下呂(2025年・99室)など、既存旅館のブランド化が進む。

高山中心部・上質帯の主要施設と客室規模
施設(高山中心部・上質帯)客室数参入・改装現行ADR位置づけ
ヒルトン高山リゾート(旧ホテルアソシア)290→2832026年9月¥49,900外資フラッグ・減室リブランド
ひだホテルプラザ222既存¥51,100地場大型・温泉
東急ステイ飛騨高山 結の湯2122020年¥48,800国内チェーン・温泉
高山グリーンホテル207既存¥65,700地場大型・上位
メルキュール飛騨高山1612022年¥34,900外資ミッドスケール
ホテルアマネク飛騨高山1532025年¥45,200国内チェーン新規
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)/各社報道発表より作成。ADRは直近6ヶ月の公開価格平均

確認申請ベースの建設パイプラインを見ると、岐阜県内で把握できる客室20室以上のホテル新築計画は美濃加茂市(120室・2028年完成予定)など県南部に限られ、周遊圏中心部に大型新築の確定案件は乏しい。これは、世界遺産・伝統的建造物群保存地区を抱える高山の景観規制と用地制約を反映している。新築余地が構造的に絞られているからこそ、既存ストックのリブランド/減室リポジショニングが、周遊圏で最も現実的な投資手法になる。供給が増えにくい環境は、既存上質施設にとっては競争緩和というアップサイド要因でもある。ヒルトン高山リゾートを含む2026年下半期の競合圏先取りについては、帝国ホテル京都・浜松マリオット・ヒルトン高山リゾートの競合圏分析でも取り上げている。

※供給データの注記:新築計画件数は調査時点での確認申請ベースであり、今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みです。現時点での確定パイプラインの下限値としてご参照ください(出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成)。

ポジショニング分析 — 高山に空く「規模ある上質帯」

周遊圏の投資余地を最も雄弁に語るのが、客室規模×ADRのポジショニングマップである。下のバブルチャートは高山周辺74施設(半径15km・客室10室以上・販売観測20日以上)をプロットしたもので、X軸が客室数、Y軸がADR、円の大きさが口コミ件数(市場での認知量)を表す。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=74施設) ■青ゾーン=規模ある上質帯の空白 円サイズ=口コミ件数

このマップは三つの事実を示す。第一に、¥50,000〜¥70,000 × 80〜200室の「規模ある上質帯」は文字どおり空白で、該当施設はゼロである。高山グリーンホテル(207室・¥65,700)やひだホテルプラザ(222室・¥51,100)が周縁にあるものの、このゾーンの中核を埋める施設は存在しない。第二に、¥70,000超のラグジュアリーは本陣平野屋 花兆庵(26室)や飛騨亭 花扇(48室)といった小規模町家・旅館に限られ、規模を伴わない。第三に、¥15,000〜¥25,000のエコノミー帯には26施設がひしめき、価格競争が常態化している。

ヒルトン高山リゾート(283室・現行ADR約¥50,000)は、この空白ゾーンの入口に位置する。減室と外資フラッグ化によってADRを¥55,000〜¥65,000帯へ押し上げれば、誰も占めていない「規模ある上質帯」を実質的に独占できる構図だ。需要評価が国際的に上昇するなかで、このゾーンを取りに行く合理性は高い。上質帯の開発パイプラインがどこまで投資妥当性を持つかという論点は、白馬・野沢は「第二のニセコ」になるのかでも、需要評価と供給の境界線として検証している。

密集 埋まっている領域

¥15k〜¥25k × 全規模
ビジネス・素泊まり中心に26施設が密集。新規参入は価格競争に巻き込まれやすい。

空白① 規模ある上質帯

¥50k〜¥70k × 80〜200室
該当0軒。需要評価の上昇に供給が追いついておらず、リブランドの主戦場となる。

既存 小規模ラグジュアリー

¥70k+ × 〜48室
町家・高級旅館が点在。希少性は高いが規模の経済が働かず、客室数の上限が収益の天井になりやすい。

下呂温泉のポジショニングは高山と対照的だ。下のチャートが示すように、下呂は¥40,000〜¥70,000の中上位帯に温泉旅館が層を成しており、水明館(264室・¥66,200)を筆頭に「規模ある上質帯」はむしろ既に充足している。下呂で空いているのは、逆に¥25,000以下のカジュアル帯と、超高級帯(川上屋 花水亭16室・¥106,000など極小規模のみ)である。周遊圏の投資妙味は、高山=上質帯の新設、下呂=既存旅館の単価最適化、と性格が分かれる。下呂のような既存温泉旅館をリブランドで磨き上げる投資手法は、2軍温泉地リブランド投資マップでM&Aターゲットの観点から地域横断的に整理している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=39施設) 円サイズ=口コミ件数

開発シナリオ試算 — 減室リブランドのNOI感度

「減室で単価を上げる」リポジショニングが、客室数を減らしてなお採算が向上しうるのかを試算する。ここでは高山の上質帯空白を埋める中規模ホテル(既存ストックのリブランドを想定、延床・土地は取得済みの前提でNOIの動きのみ比較)を、客室数とADRの組み合わせで3シナリオに整理した。稼働率は周遊圏の通年実勢を踏まえ72%を共通前提とし、GOP率はフルサービス・リゾートの実勢レンジ(J-REIT開示・業態別目安)から35%を採用する。

減室リブランド開発シナリオ別NOI試算(A/B/C案)
項目A. 現状維持B. 減室リブランド 推奨C. 大幅減室・高単価
客室数290室240室180室
想定ADR(成約ベース)¥28,000¥38,000¥48,000
稼働率(前提)72%72%70%
年間客室売上約21.3億円約23.9億円約22.1億円
RevPAR¥20,160¥27,360¥33,600
GOP(35%前提・概算)約7.5億円約8.4億円約7.7億円
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。ADRは成約ベース想定(OTA公開価格より約25〜30%控除)。簡易試算であり実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です

試算の含意は明快である。客室数を290→240室へ約17%減らしても、ADRを¥28,000→¥38,000へ引き上げられれば、RevPARは約¥20,200→約¥27,400へ約36%改善し、客室売上・GOPともに増加する。減室は単なる供給縮小ではなく、上質帯への移行とセットになることで「少ない部屋で、より多く稼ぐ」構造転換になる。一方シナリオCのように180室まで絞り込むと、ADRが¥48,000まで伸びてもトータルのGOPは現状とほぼ並ぶ水準にとどまる。減室は万能ではなく、需要が裏付ける単価帯と客室数の最適点が存在することを示している。

この最適点を支えるのが、前章で示した「規模ある上質帯の空白」である。ADRを引き上げても競合が密集していないため、価格抵抗が小さい。需要評価の国際的上昇という追い風と、供給空白という構造的優位が重なるからこそ、減室リブランドは採算に乗りやすい。これは飛騨高山周遊圏に固有のアップサイドといえる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(減室リブランドのRevPAR感度・概算)

立地・地価・災害リスク — 上昇する地価とアクセス改善

周遊圏の投資余地を地価・アクセス・災害リスクの観点から重ねる。高山市の2025年商業地公示地価は平均27万3,333円/㎡、前年比+14.5%と二桁上昇し、観光商業の中心である「古い町並み」周辺の地点では+28.8%と全国商業地で第8位の上昇率を記録した。高山駅前の商業地も同様に二桁上昇である。地価の急騰は需要評価の高まりを映す一方、新規取得のハードルを押し上げており、これも「既存ストックのリブランド」が有利になる一因だ。

周遊圏 主要施設マップ(円:客室数規模)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
高山市 商業地公示地価
平均:27.3万円/㎡(2025年)
前年比:+14.5%
古い町並み周辺:+28.8%(全国8位)
アクセス・インフラ
JR高山本線(名古屋・富山方面)
中部縦貫自動車道の延伸進行中
高速バス網(新宿・大阪・名古屋)
災害リスク(概況)
飛騨高山周遊圏の災害リスク評価
洪水(河川氾濫)
土砂災害
津波低(内陸)

アクセス面では、JR高山本線が名古屋・富山方面と結び、中部縦貫自動車道の延伸が圏域内の周遊性を高めつつある。高山〜白川郷〜下呂を車・バスで結ぶ動線が整うことで、1泊単発から2〜3泊の周遊滞在へと需要が伸びる余地がある。滞在の長期化は、上質帯ホテルにとって平均宿泊単価と稼働の双方を押し上げるアップサイドだ。災害面では内陸ゆえ津波リスクはなく、河川沿い・山間部の洪水・土砂リスクに留意すれば、立地としての投資リスクは限定的といえる。

投資判断サマリー

飛騨高山周遊圏は、(1) 観光需要評価の国際的上昇、(2) 規模ある上質帯の供給空白(高山)、(3) 景観規制による新築余地の制約という三条件が重なり、「既存ストックを減室リブランドで上質帯へ移す」投資手法に最も適した圏域である。ヒルトン高山リゾートの2026年9月開業は、この方向性を象徴する先行事例だ。

投資判断サマリー(論点別の所見と投資余地)
論点所見投資余地
需要外国人延べ宿泊97.8万人・過去最多、国際評価上昇
供給(高山)¥50-70k×80-200室の空白0軒
供給(下呂)上質帯は充足、単価最適化が主眼
新築余地景観規制で限定的→リブランド優位
地価商業地+14.5%、取得ハードル上昇留意
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、高山市観光統計、国土交通省地価公示より作成

高山では「規模ある上質帯」への新設・移行、下呂では既存温泉旅館の段階的プライシングによる単価最適化、白川郷では希少性を活かした小規模高単価——と、同じ周遊圏のなかでも投資手法が圏域ごとに分かれる。面として捉えることで、点(個別ホテル)では見えなかった役割分担と空白が浮かび上がる。これが飛騨高山周遊圏を一体で読む価値である。

⚠ 将来日程・試算に関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。開発シナリオのNOI試算は公開データに基づく簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格データ(高山N=74/下呂N=39施設)、市区町村別月次ADR・客室規模分布、各社開業・改装の報道発表、政府統計(観光統計・地価公示・建築物動態統計)を集計。集計対象月は2026年4月時点を基準とする。

■ 試算前提

開発シナリオ試算のADRは成約ベース想定(OTA公開価格より約25〜30%控除)。GOPは売上の35%を前提とした概算。稼働率はA/B案72%・C案70%を仮定。RevPAR=ADR×稼働率で算出。

■ 限界・留意点

本試算は公開データに基づく簡易モデルであり、実際の投資判断には個別物件の詳細なフィージビリティスタディが必要。ADR・稼働率の前提は市場環境により変動し、結果は確定値ではない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — OTA公開価格データ(高山N=74/下呂N=39施設)、客室規模×ADRポジショニング、市区町村別月次ADR推移

■ 政府統計・公的データ

  • 国土交通省「建築物動態統計調査」(確認申請ベースの建設パイプライン)
  • 国土交通省 地価公示(高山市商業地・2025年)
  • 高山市「観光統計」

■ 業界レポート・建設費/GOP前提

  • 国土交通省 建築着工統計(ホテル建築費 全構造平均195万円/坪・2024-2025年)
  • インヴィンシブル投資法人(8963)開示 — MHM運営ホテルGOP実績(35〜39%帯の根拠)

■ ニュース・プレスリリース

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