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建築着工統計調査とは|ホテル着工の読み方 — 宿泊業用は2024年2,836棟・176万㎡、㎡単価59万円

投稿日 : 2026.10.23

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投資・開発

建築着工統計調査とは|ホテル着工の読み方 — 宿泊業用は2024年2,836棟・176万㎡、㎡単価59万円

建築着工統計調査とは、国土交通省が建築基準法第15条に基づく「建築工事届」を集計して毎月公表する統計で、ホテルや旅館の建設が「いつ・どこで・どれだけ」始まったかを届出ベースで追える唯一の公的データである。用途分類の中分類「52 宿泊業用」を取り出すと、2024年は2,836棟・床面積175万6,286㎡・工事費予定額1兆384億円で、床面積は前年比+94.5%、ピークだった2018年の57.8%まで戻った。本稿は観光庁「宿泊旅行統計調査」と「インバウンド消費動向調査」の読み方ガイドに続く第3弾として、この統計の成り立ち、e-Statでホテル分を取り出す手順、3つの表章項目の意味、月次と都道府県別の見方、そして当社の開業予定データとの使い分けを整理する。

本記事における指標の定義

  • 建築物の数(棟):建築工事届に記載された着工建築物の棟数。1件の工事届に複数棟が含まれる場合があり、「工事件数」とは一致しない。
  • 床面積の合計(㎡):着工建築物の延べ床面積の合計。用途が複数ある建築物は、床面積が最も大きい主用途に全体が計上される。
  • 工事費予定額(万円):届出時点で建築主が見込んだ工事費。完成後の実績工事費ではない。
  • ㎡あたり工事費予定額:工事費予定額÷床面積の合計。本記事で独自に算出した参考値であり、統計表には掲載されていない。
  • 宿泊業用:用途分類の中分類「52 宿泊業用」。ホテル・旅館・簡易宿所・下宿など宿泊業に供する建築物を含み、「ホテル」に限定した分類ではない。
  • データ出典:国土交通省「建築着工統計調査」(政府統計コード 00600120、e-Stat 統計表 0003114490 ほか)。開業予定・新規開業の件数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング。

なお、この統計を使ってホテル供給を分析した記事は当サイトに2本ある。着工床面積の都道府県別推移と工期から2025〜2028年の供給を見通した「ホテル着工は2024年に倍増しピークの57%」と、工事種類別表から新築・増築・改築の比率を分解した「ホテル供給の16.7%が非新築」である。本稿では分析の再掲はせず、両記事を読み解くための前提知識に絞る。

Key Takeaways
  • — 2,836棟・175万6,286㎡:2024年の宿泊業用(中分類52)の着工。床面積は前年比+94.5%で、2018年ピークの57.8%まで戻った。
  • — ㎡単価59.1万円:工事費予定額÷床面積で、2018年の33.2万円から1.8倍。工事費予定額は届出時の見込み額で、実績工事費ではない。
  • — 過小に出る方向のバイアス:複合ビルは主用途に全体が計上され、住宅併用は「20 居住宿泊業,飲食サービス業併用」(2024年627棟・55万183㎡)に分かれる。
  • — 月次の速報は大分類まで:報道発表は「宿泊業,飲食サービス業用」の粒度。単月は超大型案件で振れるため、当年累計を前年同期と比べる。
  • — 東京都が30.2%:2024年の宿泊業用床面積は上位3都道府県で49.3%。2〜3年先の供給総量は着工統計で、1〜2年先の個別競合は開業予定データで見る。

建築着工統計調査の概要 — 建築工事届が母集団、3本立てで毎月公表

まず押さえておきたいのは、この統計が「調査票を配って回答を集める」タイプではなく、法令上の届出をそのまま集計する業務統計に近い性格を持つ点である。建築基準法第15条第1項は、床面積10㎡を超える建築物を建築しようとする建築主に、都道府県知事への建築工事届の提出を義務づけている。国土交通省総合政策局の建設経済統計調査室は、この届出を都道府県経由で集め、着工月ごとに集計して翌月末に公表する。2026年8月分は9月30日に公表され、9月分は10月30日の公表が予定されている。

統計は3本立てで構成される。第1は「建築物着工統計」で、住宅・非住宅を問わず全ての着工建築物を建築主別・用途別・構造別・都道府県別などに集計したものだ。第2は「住宅着工統計」で、新設住宅の戸数を持家・貸家・分譲の利用関係別や建て方別に集計する。第3が「補正調査」で、届出時の工事費予定額と完成後に実際にかかった工事費の差を標本の実地調査から推計し、予定額を実績ベースへ補正する係数を求めるものである。ホテルの着工を見るときに使うのは第1の建築物着工統計であり、住宅着工統計には宿泊施設は含まれない。

e-Stat上の政府統計コードは 00600120 で、月次・年次・年度次の3つの周期で統計表が提供されている。年次は暦年(1〜12月)の合計、年度次は4月〜翌3月の合計で、報道発表の「年計」は暦年を指す。ここを取り違えると、同じ「2024年」でも床面積が1割以上ずれることがある。

ホテルを取り出す方法 — 用途分類「52 宿泊業用」と2つの落とし穴

それでは、膨大な統計表のどこにホテルがあるのか。建築物着工統計の用途分類は日本標準産業分類に準拠し、大分類「M 宿泊業,飲食サービス業用建築物」の下に中分類「52 宿泊業用」と「53 飲食サービス業用」が置かれている。宿泊施設の着工は、この中分類52を抽出すれば取り出せる。e-Statの統計表「用途別、建築主別/建築物の数、床面積、工事費予定額」(年次表 0003114490)では、用途の分類コード(cat02)が 57、建築主の「計」が 11、全国の地域コードが 00000 に対応する。

用途分類の階層とホテル分析での扱い
階層分類名含まれるものホテル分析での扱い
大分類M 宿泊業,飲食サービス業用建築物宿泊業用+飲食サービス業用月次の報道発表はこの粒度まで。飲食店を含むため単独では使わない
中分類52 宿泊業用ホテル・旅館・簡易宿所・下宿など本記事の「ホテル着工」はこの分類
中分類53 飲食サービス業用飲食店・持ち帰り等対象外
大分類Cの中分類20 居住宿泊業,飲食サービス業併用住宅と宿泊・飲食の併用建築物「52」には入らない。民泊併用住宅などはここに落ちる

出典:国土交通省「建築着工統計調査」用途分類よりホテルバンク編集部作成

ここで注意すべき落とし穴が2つある。第1は複合用途の扱いである。住宅との併用建築物は大分類「C 居住産業併用建築物」の中分類「20 居住宿泊業,飲食サービス業併用」という別枠に計上され、「52 宿泊業用」には含まれない。この分類は2024年に627棟・55万183㎡あり、宿泊業用の床面積の3割強に相当する規模だが、宿泊分と飲食分、住宅分の内訳は統計表からは分からない。第2は多用途建築物の計上ルールで、オフィス・商業・ホテルが入る複合ビルは、床面積が最も大きい用途(主用途)に建築物全体が計上される。事務所が主用途の再開発ビルに入るホテルは、宿泊業用の床面積には一切現れない。都心の大型複合開発が多い年ほど、宿泊業用の数字は実態より小さく出る方向に偏る。

3つの表章項目 — 棟数・床面積・工事費予定額の読み分け

建築物着工統計の主要な統計表は、いずれも「建築物の数(棟)」「床面積の合計(㎡)」「工事費予定額(万円)」の3項目で表章される。この3つは同じ着工を別の角度から測ったもので、どれを主軸に置くかで見える景色が変わる。棟数は件数の多寡を示すが、2024年の宿泊業用では山梨県が253棟と鹿児島県(291棟)に次ぐ全国2位の棟数である一方、床面積は3万9,402㎡にとどまり、1棟あたり156㎡と小型の貸別荘やコテージ型が大半を占めることが読み取れる。東京都は逆に67棟で53万755㎡、1棟あたり7,922㎡と、客室数の多い大型ホテルが中心である。供給量を客室数ベースで捉えたいなら、棟数ではなく床面積を見るべきだろう。

工事費予定額は、届出時に建築主が記載した見込み額である。完成後の実績ではなく、資材価格の変動や設計変更を反映しない。前述の補正調査が存在するのはそのためで、統計上の予定額は「着工時点での投資意思の大きさ」として読むのが正確といえる。ただし床面積で割った「㎡あたり工事費予定額」は、建築単価の趨勢をつかむ簡便な指標として役に立つ。宿泊業用の全国値を計算すると、2018年の33.2万円/㎡から2024年には59.1万円/㎡へ1.8倍になった。坪に直せばおよそ110万円から195万円への上昇で、同期間の資材・労務費の高騰と、都心大型案件の仕様の高度化が重なった結果と考えられる。

もう1点、見落とされやすいのが「工事件数」と「建築物の数」の違いである。工事種類別の統計表(年次表 0003114493)には工事件数の列があり、2024年の宿泊業用は工事件数1,288件に対し建築物の数は2,836棟だった。1件の届出に複数棟が含まれる分散型の宿泊施設(コテージ群・グランピング等)が多いほど、棟数は件数を上回る。件数と棟数の乖離が広がる年は、小型分散型の着工が増えたサインとして読める。

宿泊業用の実測値 2011〜2024年 — 床面積はピークの57.8%、単価は1.8倍

それでは実際の数値を見ていこう。e-Statの年次表 0003114490 から宿泊業用(建築主=計、全国)を2011〜2024年で取得した結果が下表である。床面積は2015年の92万9,353㎡から2016年に195万6,867㎡へ倍増し、2018年に303万9,844㎡のピークを付けた後、2019年から2023年まで5年連続で減少した。2023年の90万2,844㎡は2015年を下回る水準だったが、2024年は175万6,286㎡と前年比+94.5%で反転し、ピークの57.8%まで戻している。

宿泊業用の着工推移(全国・建築主=計、2011〜2024年)
年建築物の数(棟)床面積の合計(㎡)床面積 前年比工事費予定額(億円)㎡あたり(万円)
2011738447,415—94621.2
2012792516,255+15.4%1,12121.7
2013873682,561+32.2%1,59923.4
2014867742,992+8.9%1,99926.9
20151,022929,353+25.1%2,58127.8
20161,4821,956,867+110.6%6,33332.4
20171,9922,800,849+43.1%9,43133.7
20182,1183,039,844+8.5%10,08633.2
20192,3002,529,764-16.8%9,20836.4
20201,6311,778,887-29.7%6,30735.5
20211,4221,318,565-25.9%4,97837.8
20222,3741,200,531-9.0%5,03241.9
20232,222902,844-24.8%3,76241.7
20242,8361,756,286+94.5%10,38559.1

出典:国土交通省「建築着工統計調査」建築物着工統計 年次表(用途別、建築主別、全国、建築主=計、用途=52宿泊業用)よりホテルバンク編集部作成。工事費予定額は万円単位の原数値を億円に換算、㎡あたりは工事費予定額÷床面積で編集部算出

出典:国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表 0003114490)よりホテルバンク編集部作成

棟数と床面積の動きが食い違う年に注目すると、統計の読み方が深まる。2022年は床面積が前年比-9.0%だったのに棟数は+66.9%で、1棟あたり床面積は927㎡から506㎡へ縮んだ。2023年はさらに406㎡まで小型化が進み、2024年に619㎡へ戻っている。2018年の1棟あたり1,435㎡と比べると、直近の着工は依然として小型中心で、大型ホテルの着工が本格的に戻ったというより、小型分散型の増加と一部の超大型案件が床面積を押し上げた構図と読める。

出典:国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表 0003114490)よりホテルバンク編集部作成。㎡あたり工事費予定額は編集部算出

工事費予定額は2024年に1兆384億円と、2018年の1兆86億円を上回り、年次表で遡れる2011年以降で最高となった。床面積がピークの6割弱にとどまる中で金額が最高を更新したのは、㎡あたり単価が59.1万円へ上がったためである。2011年の21.2万円から見ると2.8倍で、2022〜2023年の41〜42万円から2024年に一段跳ね上がった。東京都の㎡単価は60.9万円、大阪府は96.9万円、神奈川県は98.0万円と、大都市の大型案件が平均を引き上げている。投資判断で建築費を見積もる際、この統計の㎡単価は「届出時点の予定額」であることを踏まえつつ、地域別・年別の相場感をつかむ出発点として使える。

月次の見方 — 速報は大分類まで、中分類はe-Statのデータベースで

月次で動向を追う場合、どの表を見るかで到達できる粒度が異なる。国土交通省が毎月末に出す報道発表資料「建築着工統計調査報告」には、建築物の用途別床面積が大分類「宿泊業,飲食サービス業用」の粒度で掲載される。2026年8月分では同用途が25万㎡、前年同月比+67.4%、民間建築主に限ると+69.5%だった。一方、中分類「52 宿泊業用」まで分解した月次表は、e-Statのデータベース機能にある「用途別、建築主別」(月次表 0004000400)、「用途別、構造別」(0003114407)、「用途別、工事種類別」(0003114342)の3種で確認できる。ただし、本稿執筆時点(2026年10月)でこれらのデータベース表に収録されている最新月は2024年12月で、2025年以降の中分類の月次値はまだ収録されていない。中分類の最新動向を追うには、報道発表に添付されるExcel時系列表や、e-Statの統計表ファイル(PDF・Excel)を直接参照する必要がある。

月次の読み方の基本手順は3段階になる。第1に、直近月の値を前年同月と比べる。第2に、当年1月から直近月までの累計を前年同期の累計と比べる。単月は1件の超大型案件で2〜5倍に振れるため、累計で見ないと趨勢を誤る。第3に、季節性に頼らない。大分類「宿泊業,飲食サービス業用」の2017〜2025年の月別中央値を見ても、1月・4月・10月が高く3月・9月・12月が低いといった程度で、年ごとの振れの方が大きい。月次の前月比はほとんど意味を持たない。

出典:国土交通省「建築着工統計調査報告(令和8年8月分)」添付の時系列表(建築主別・用途別・構造別 床面積)よりホテルバンク編集部作成。大分類「宿泊業,飲食サービス業用」(飲食店を含む)、単位は千㎡

この手順を2026年に当てはめると、大分類「宿泊業,飲食サービス業用」の1〜8月累計は150万5,000㎡で、前年同期の187万9,000㎡に対して-19.9%となる。ただし2025年4月には82万1,000㎡という突出した単月値があり、これを除いた7カ月では2026年が128万7,000㎡、2025年が105万8,000㎡で+21.7%に転じる。1件の超大型案件が年間の比較を反転させる典型例であり、累計比較の際も単月の異常値の有無を確認しておきたい。暦年の大分類合計は2024年が269万2,000㎡、2025年が253万7,000㎡(-5.8%)で、2026年は8月時点で2025年の59%に達している。なお、この大分類には飲食サービス業用が含まれるため、宿泊業用(中分類)の比率は2011〜2024年で4割強から8割強の幅で変動する(2024年は65.2%、2023年は43.1%)点に注意が必要だ。

都道府県別 — 2024年の宿泊業用床面積は東京都が30.2%、上位3都道府県で49.3%

年次表 0003114490 は地域コードで47都道府県の値も取得できるため、同じ条件で2024年の宿泊業用床面積を都道府県別に並べると下表のようになる。東京都が53万755㎡で全国の30.2%を占め、北海道19万1,797㎡(10.9%)、大阪府14万3,401㎡(8.2%)が続く。上位3都道府県で49.3%、上位10都道府県で68.6%に達し、着工の地域集中は強い。前年比では東京都が+687%、北海道が+171%、大阪府が+165%と、2024年の全国の倍増は大都市と北海道の大型案件に支えられたことが分かる。

都道府県別 宿泊業用の着工床面積 上位10(2024年)
順位都道府県床面積(㎡)全国シェア建築物の数(棟)1棟あたり(㎡)㎡あたり工事費予定額(万円)床面積 前年比
1東京都530,75530.2%677,92260.9+687.0%
2北海道191,79710.9%20792767.1+171.1%
3大阪府143,4018.2%187,96796.9+164.8%
4沖縄県81,1194.6%14057952.3+4.9%
5石川県50,1672.9%381,320105.9+2,236.6%
6千葉県47,2552.7%20922639.3-22.8%
7静岡県43,4402.5%5776251.6+20.3%
8神奈川県43,1842.5%381,13698.0+6.3%
9山梨県39,4022.2%25315644.4+172.4%
10福岡県34,3372.0%3695432.7+53.4%

出典:国土交通省「建築着工統計調査」建築物着工統計 年次表 0003114490(2024年・2023年、建築主=計、用途=52宿泊業用、47都道府県)よりホテルバンク編集部作成。シェア・1棟あたり・㎡あたりは編集部算出

出典:国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表 0003114490、2024年)よりホテルバンク編集部作成

都道府県別の表を読む際は、棟数の順位と床面積の順位を同時に見ることを勧めたい。山梨県は253棟で棟数では全国2位(最多は鹿児島県の291棟)だが床面積は9位、千葉県も209棟で3番目に多いのに床面積は6位で、いずれも1棟あたり200㎡前後の小型施設が中心である。石川県は前年の2,147㎡から5万167㎡へ23倍となり、㎡単価も105.9万円と上位10都道府県で最も高い。これは2024年の能登半島地震後の復旧と金沢の大型案件の着工時期が重なった可能性があるが、統計表からは個別案件を特定できないため、地元の開発情報と照合して解釈する必要がある。

着工統計と開業予定データの使い分け — 2〜3年先は着工、1〜2年先は開業予定リスト

着工統計は「工事が始まった」時点の記録であり、開業はその1〜4年後になる。当社が公表している供給パイプラインの記事では、ホテル建設の工期を単独棟で中央値24カ月、複合ビルで49カ月と実測しているので、着工統計の2024年の倍増は2026〜2028年の開業に対応すると考えてよい(工期の詳細は「ホテル建設の工期、単独棟は中央値24か月・複合ビルは49か月」と、前述の着工倍増の記事を参照)。

一方、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが整備する開業予定データは、建築計画の公告やプレスリリースから「どこに・何室が・いつ開業するか」を名寄せしたもので、着工統計とは母集団も粒度も異なる。2026年10月時点で把握している客室数50室以上の計画は70件・1万5,504室で、完成予定年の内訳は2025年22件、2026年20件、2027年18件、2028年8件、2029年以降2件である。これに対して着工統計は、届出が義務づけられた全ての建築物を網羅するが、客室数も施設名も分からない。両者の性格を整理すると次の表になる。

建築着工統計調査と開業予定データの比較
観点建築着工統計調査(宿泊業用)開業予定データ(メトロエンジンリサーチ)
母集団建築基準法15条の建築工事届(10㎡超の全建築物)建築計画の公告・プレスリリース・OTA掲載の名寄せ
時点着工月(開業の1〜4年前)開業予定月(計画発表から開業まで随時更新)
単位棟・床面積・工事費予定額施設・客室数
網羅性法令に基づく全数(ただし複合ビルは主用途に吸収)公表情報に依存。小型施設は開業直前まで把握しにくい
公表タイミング翌月末(中分類は年計反映まで時差あり)随時
向いている用途2〜3年先の供給圧力の総量、地域別の相場感1〜2年先の個別競合、商圏単位の客室数

出典:国土交通省「建築着工統計調査」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(開業予定データ 2026年10月時点、N=70件)よりホテルバンク編集部作成

実務での使い分けは明快である。2〜3年先の供給圧力をエリア単位の総量で把握したいなら着工統計を使い、1〜2年先の個別競合や商圏の客室数を数えたいなら開業予定リストを使う。当社のOTA掲載確認ベースの新規開業集計では、2026年は10月時点で1,749施設、2027年は27施設が把握されているが、この2027年の数字は供給が消えることを意味しない。掲載は開業の数カ月前にしか出ないため、翌年以降の件数は時間の経過とともに必ず増える。着工統計の2024年倍増を踏まえると、2027年の開業は現時点の把握件数を大きく上回ると見るのが自然だろう。

限界と注意点 — 予定額・複合用途・工事種類・速報と年計

ここまでを整理すると、建築着工統計調査は網羅性と速報性に優れる一方で、ホテル分析に使うには4つの限界を踏まえる必要がある。第1に、工事費予定額は届出時の見込みであり、実績ではない。着工後の資材高騰や設計変更は反映されず、補正調査の結果を見ない限り実績との乖離は分からない。㎡単価の時系列は「届出時の相場」の推移として読むべきである。

第2に、複合用途の建築物ではホテル分が見えない。主用途が事務所や店舗の複合ビルに入るホテルは、宿泊業用の床面積にも棟数にも計上されず、住宅との併用は「居住宿泊業,飲食サービス業併用」という別分類に落ちる。都心の大型再開発に組み込まれるホテルが多い年ほど、宿泊業用の数字は過小になる。多用途建築物については「多用途建築物用途別、構造別」(年次表 0003114494)という別表があるが、ここでも内訳は主用途ベースである。

第3に、増築・改築・用途変更(コンバージョン)は「用途別、工事種類別」の表でしか分からない。2024年の宿泊業用は新築1,967棟・159万7,784㎡、増築853棟・15万6,019㎡、改築16棟・2,483㎡で、床面積の9.0%が新築以外だった。既存ビルをホテルに転用するコンバージョンは、建築確認を伴う用途変更であれば届出対象になるが、工事種類の区分上は「改築」や「増築」に含まれ、転用前の用途は分からない。この点は非新築比率の記事で詳しく扱っている。

第4に、速報値と年計の差である。月次の報道発表は届出の集計時点で確定するが、遅れて提出された届出や修正が年計に反映されるため、12カ月分の月次値を足し上げた数字と年次表の値は一致しないことがある。e-Statの年次表・中分類月次表の収録は時差が大きく、2026年10月時点の最新は2024年分(2026年1月更新)で、2025年分はまだ載っていない。記事や社内資料で年次の数値を引用する際は、年次表の値を正とし、月次の積み上げは「速報ベース」と注記しておくのが安全といえる。

よくある質問

Q. 建築着工統計と住宅着工統計は何が違うのですか。

A. どちらも建築着工統計調査の一部です。建築物着工統計は住宅・非住宅を問わず全ての着工建築物を棟数・床面積・工事費予定額で集計し、住宅着工統計は新設住宅の戸数を利用関係別・建て方別に集計します。ホテルや旅館は建築物着工統計の用途分類「52 宿泊業用」に含まれ、住宅着工統計には含まれません。

Q. ホテルの着工件数はどこで見られますか。

A. e-Stat(政府統計の総合窓口)で政府統計コード 00600120「建築着工統計調査」を開き、建築物着工統計の「用途別、建築主別/建築物の数、床面積、工事費予定額」を選びます。年次表の統計表IDは 0003114490 で、用途を「52宿泊業用」、建築主を「計」に絞ると全国と47都道府県の値が取得できます。月次の報道発表では大分類「宿泊業,飲食サービス業用」までしか載らないため、中分類の月次値はe-Statのデータベース表(0004000400 ほか)か統計表ファイルで確認します。

Q. 「宿泊業用」と「ホテル」は同じですか。

A. 同じではありません。宿泊業用は日本標準産業分類の宿泊業に対応し、ホテルのほか旅館、簡易宿所、下宿、貸別荘やコテージなどを含みます。2024年の山梨県が253棟で全国2位の棟数ながら1棟あたり156㎡にとどまるように、小型の宿泊施設も同じ分類に入ります。ホテルに限定した着工件数は統計上は取り出せません。

まとめ

建築着工統計調査は、建築工事届という法令上の母集団を持つため、ホテル供給の先行指標として最も網羅的な公的統計である。使う際の要点は3つに集約できる。第1に、取り出すのは中分類「52 宿泊業用」であり、複合ビルの主用途ルールと住宅併用の別分類によって過小になる方向のバイアスがあること。第2に、棟数・床面積・工事費予定額は別々の情報を持ち、供給量は床面積、小型化の進行は棟数との比、建築費の相場は㎡単価で読むこと。第3に、月次は大分類の速報、中分類は年次表という粒度の差を理解し、単月ではなく累計で比較することである。2024年の2,836棟・175万6,286㎡・1兆384億円という数字は、2026〜2028年に開業する供給の総量を示している。個別の競合を数える段階では当社の開業予定データへ、総量の見通しではこの統計へ、と行き来しながら使うのが実務的な読み方だろう。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

国土交通省「建築着工統計調査」建築物着工統計の年次表(e-Stat 統計表 0003114490・0003114493、全国および47都道府県、建築主=計、用途=52 宿泊業用、2011〜2024年)と、月次報道発表(令和8年8月分)に添付された時系列表。開業予定・新規開業の件数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月時点)。

■ 試算前提

㎡あたり工事費予定額は工事費予定額÷床面積の合計で編集部が算出した参考値(坪換算は1坪=3.3058㎡)。年次は暦年(1〜12月)の値で、前年比・全国シェア・1棟あたり床面積は統計表の原数値から算出。2026年の月次累計比較は大分類「宿泊業,飲食サービス業用」(飲食サービス業用を含む)の速報値による。

■ 限界・留意点

工事費予定額は届出時の見込み額で、実績工事費ではない。複合ビルは主用途に建築物全体が計上され、住宅併用は別分類になるため、宿泊業用の値は実態より小さく出る方向に偏る。宿泊業用は旅館・簡易宿所・貸別荘等を含み、ホテルだけを取り出すことはできない。2025年以降の中分類の年次値は2026年10月時点で未収録。

■ 政府統計・公的データ

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 開業予定データ(客室数50室以上、2026年10月時点 N=70件・1万5,504室)、新規開業集計(OTA掲載確認ベース、2026年 N=1,749施設・2027年 N=27施設)

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