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病院近くのホテル、20病院で2km圏ゼロ — 特定機能病院88カ所の宿泊供給を集計

投稿日 : 2026.09.15

指定なし

投資・開発

病院近くのホテル、20病院で2km圏ゼロ — 特定機能病院88カ所の宿泊供給を集計

ホテルの立地評価は、駅からの距離・オフィス集積・観光資源・イベント会場・商業集積という5つの軸で語られることが多い。本稿では6つ目の軸として「医療機関への近接」を取り上げ、厚生労働省が承認する特定機能病院88施設を母集団に、その半径1km・2km圏の宿泊供給を全数で集計する。付き添い・遠方通院・術前泊といった医療に関連する滞在需要は、観光需要とは異なる曜日分布と滞在日数を持つ。その需要に対して、いま客室がどこにあり、どこに無いのかを数字で確認したい。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本記事では「稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)」と表記します。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • 掲載施設・掲載客室数=メトロエンジンリサーチが把握する施設のうち、2026年1〜8月にOTA上で販売が確認できたホテル・旅館(ビジネス/シティ/リゾート/旅館/デラックス/カプセル)。ゲストハウス・ペンション・民宿等は含みません。OTAに掲載されていない施設は集計対象外です。
  • データ出典=メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省/国土交通省 不動産情報ライブラリ
Key Takeaways
  • 20施設 特定機能病院88施設のうち20施設は半径2km圏に掲載ホテルがゼロ。1km圏まで絞ると38施設と全体の4割を超える。
  • 中央値4〜5施設 88病院の2km圏の中央値は4〜5施設・約360室。平均33施設は都心の大学病院が押し上げているだけで、標準像は薄い。
  • 102.4% 病院2km圏のADRは所在市区の中央値102.4%(N=36病院)。医療機関近接は現時点で単価プレミアムを形成していない。
  • 日曜82.4% 全国ビジネスホテルの稼働の谷は日曜と月曜。医療関連の滞在は平日中心・連泊・低キャンセルで、この谷に入りやすい。
  • 3.1%〜4.7% 60室新築の利回りは中位で4.0〜4.7%。想定ADRが所在市の実勢水準まで下がると2.9〜3.1%となり、既存施設の改装が現実的な選択肢になる。

特定機能病院88施設のうち20施設は、半径2km圏に掲載ホテルが1軒もない

対象病院
88
特定機能病院
2026年4月24日現在
2km圏の掲載客室
270,328
2,034施設
(圏の重複を除く)
2km圏 掲載施設ゼロ
20
病院
1km圏では38病院
最寄り施設までの距離
709 m
88病院の中央値
最長3,962m
2km圏の業態構成
76.9%
ビジネスホテル
(延べ2,904施設中)

厚生労働省が公表する「特定機能病院の承認状況」によれば、2026年4月24日現在の承認施設は88である。内訳は大学病院本院を中心とする特定機能病院Aが79、国立高度専門医療研究センター等を対象とする特定機能病院Bが4、がん専門病院等の「その他の特定機能病院」が5となる。本稿はこの88施設すべての住所を測地し、各病院を中心とする半径1km・2km・3km・5kmの円内にある宿泊施設を集計した。

結果は、はっきりと二極化していた。半径2km圏に50施設以上の掲載ホテルを持つ病院が20ある一方で、掲載施設が1軒も無い病院が20ある。半径1km圏まで絞ると、掲載施設ゼロは38病院と全体の4割を超える。88病院の中央値は2km圏で4〜5施設・約360室にとどまり、平均値(33施設)を大きく下回る。都心の大学病院が平均値を引き上げているだけで、標準的な特定機能病院の周辺には、まとまった客室が存在しない。

半径2km圏の掲載施設数の分布(88病院)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=88病院、OTA掲載確認ベース)
病院から最寄り掲載施設までの距離(88病院)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=88病院)

最寄りの掲載施設までの距離は、中央値で709m。徒歩10分弱の圏内に1軒はある、というのが標準像である。ただし1.5km以上離れている病院が23、3kmを超える病院が6ある。付き添いや前泊のように「荷物を持って、決められた時刻までに病院へ着く」性格の滞在では、この距離差はそのまま利便性の差になる。

全国の掲載施設分布マップ — 青が供給の厚い病院圏、赤が2km圏に掲載施設なし

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省「特定機能病院の承認状況(令和8年4月24日現在)」

円の大きさは半径2km圏の掲載客室数、色は供給の厚みを表す。三大都市圏の中心部に位置する大学病院・がん専門病院は例外なく厚い供給を持つ一方、キャンパス移転や郊外立地を経た国立大学病院、および丘陵地に立地する私立医科大学病院で、掲載施設ゼロの円が並ぶ。

需要の性格 — 平日中心・連泊・低キャンセル率。稼働の谷は日曜と月曜にある

医療に関連する宿泊需要は、観光需要とは性格が異なる。外来診療・手術・検査入院は平日に組まれるため、前泊や付き添いの発生も平日側に寄る。滞在は入院期間や治療スケジュールに従うため連泊になりやすく、旅程が「予定」ではなく「必要」で決まるためキャンセルが起きにくい。加えて、来訪の目的が観光ではないので、季節性や天候の影響を受けにくい。本稿ではこの需要の規模を推計しないが、「性格」としてはこう整理できる。この性格を持つ需要を事業として成立させる条件は、医療滞在ホテル投資の成立条件で都市クリニック近接型とリゾート療養型に分けて整理している。

ここで、既存のビジネスホテルの稼働がどの曜日で薄くなっているかを確認しておきたい。全国のビジネスホテルの曜日別の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定、2026年5月7日〜8月31日チェックイン)を集計すると、土曜が91.9%で最も高く、日曜が82.4%、月曜が85.3%で谷になる。土曜と日曜の差は9.5ポイント、土曜と月曜の差は6.6ポイントある。

曜日別 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)— 全国ビジネスホテル
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年5月7日〜8月31日チェックイン分、全国ビジネスホテル、47都道府県集計)
曜日別 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)— 主要8都道府県のビジネスホテル(2026年5月7日〜8月31日チェックイン、N=8都道府県)
都道府県土-日(pt)
東京都90.493.494.494.693.594.990.04.9
大阪府79.284.386.586.985.489.678.211.4
愛知県82.987.288.789.087.289.379.59.8
福岡県89.393.193.793.492.594.487.56.9
北海道88.992.894.093.790.992.985.77.2
宮城県86.491.392.593.192.395.185.59.6
広島県84.491.192.192.288.991.279.911.3
岡山県85.990.992.592.387.890.880.510.3
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働率はOTA掲載在庫ベースの推定値、2026年5月7日〜8月31日)

日曜と月曜の谷は、レジャー需要が抜け、ビジネス需要がまだ立ち上がっていない時間帯である。医療関連の滞在は、まさにこの時間帯に発生しやすい性格を持つ。なお、ここで示したのは都道府県・カテゴリ単位の水準であり、病院圏そのものの稼働率ではない。個別の病院近接エリアの稼働を直接観測しているわけではなく、県・業態の水準から需要の入り込む余地を読み取っている点にご留意いただきたい。この谷をどう閉じるかという論点は、観光白書2026「稼働の谷を閉じる」で曜日別OCCの側から掘り下げている。

供給の厚い病院圏 上位15 — 都心大学病院の2km圏には2万室超が並ぶ

特定機能病院の半径1km・2km圏の宿泊供給 上位15(N=88病院中の上位15。2026年1〜8月にOTA上で販売が確認できた施設)
病院市区1km圏 施設1km圏 客室2km圏 施設2km圏 客室2km圏 ADRビジネス比率
東京慈恵会医科大学病院港区6110,76719233,443¥18,50769%
国立がん研究センター中央病院中央区8113,99718129,545¥19,44673%
聖路加国際病院中央区568,28317228,409¥19,61676%
大阪国際がんセンター大阪市中央区263,97317227,769¥10,00781%
東京科学大学病院文京区557,28620525,885¥13,88783%
札幌医科大学病院札幌市中央区101,71514223,963¥14,45781%
順天堂大学順天堂医院文京区385,36317622,922¥14,26882%
東京医科大学病院新宿区5913,57013921,709¥14,65382%
東京大学病院文京区121,10715517,262¥13,53185%
国立国際医療センター新宿区756912714,015¥14,44383%
慶應義塾大学病院新宿区698210113,711¥16,11568%
大阪公立大学病院大阪市阿倍野区626,93911713,045¥8,00187%
北海道大学病院札幌市北区152,4455911,518¥14,11168%
京都大学病院京都市左京区75401289,901¥16,06655%
広島大学病院広島市南区00648,810¥9,82684%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年1〜8月に販売が確認できた施設。ADRは圏内施設の推定成約ADR中央値)

上位を占めるのは、東京・大阪・札幌の都心に立地する病院である。半径2km圏の掲載客室数では東京慈恵会医科大学附属病院が33,443室で最も多く、国立がん研究センター中央病院が29,545室、聖路加国際病院が28,409室と続く。いずれも周辺に大規模なビジネス・観光需要が既にあり、医療需要は多数ある需要のひとつとして吸収されている。この帯では、医療関連の滞在に的を絞った商品設計が価格に反映されにくい。

逆に言えば、医療機関近接という立地要因が意味を持つのは、周辺に他の需要源が乏しい病院圏である。次にそちらを見る。

2km圏に掲載施設がない20病院 — 供給余地はどこにあるか

半径2km圏に掲載施設が確認できなかった病院 全20件(N=88病院中20件。最寄り施設までの距離が長い順)
病院所在地最寄り施設まで半径3km圏半径5km圏
福島県立医科大学病院福島県福島市光が丘13,962 m0 施設 / 0 室1 施設 / 16 室
福岡大学病院福岡県福岡市城南区七隈7-45-13,718 m0 施設 / 0 室6 施設 / 365 室
岐阜大学病院岐阜県岐阜市柳戸1-13,661 m0 施設 / 0 室8 施設 / 628 室
自治医科大学病院栃木県下野市薬師寺3311-13,508 m0 施設 / 0 室1 施設 / 31 室
旭川医科大学病院北海道旭川市緑が丘東二条1-1-13,404 m0 施設 / 0 室31 施設 / 4,166 室
福井大学病院福井県吉田郡永平寺町松岡下合月233,138 m0 施設 / 0 室3 施設 / 274 室
大阪大学病院大阪府吹田市山田丘2-152,940 m2 施設 / 308 室9 施設 / 909 室
愛知県がんセンター愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-12,919 m1 施設 / 15 室20 施設 / 1,366 室
香川大学病院香川県木田郡三木町池戸1750-12,856 m1 施設 / 158 室3 施設 / 293 室
愛知医科大学病院愛知県長久手市岩作雁又1-12,739 m2 施設 / 273 室9 施設 / 438 室
富山大学病院富山県富山市杉谷26302,625 m1 施設 / 11 室1 施設 / 11 室
浜松医科大学病院静岡県浜松市中央区半田山1-20-12,590 m1 施設 / 62 室2 施設 / 191 室
大分大学病院大分県由布市挾間町医大ケ丘1-12,542 m1 施設 / 20 室2 施設 / 70 室
宮崎大学病院宮崎県宮崎市清武町木原52002,504 m1 施設 / 21 室2 施設 / 21 室
杏林大学病院東京都三鷹市新川6-20-22,440 m2 施設 / 301 室17 施設 / 1,270 室
聖マリアンナ医科大学病院神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-12,371 m3 施設 / 94 室6 施設 / 285 室
秋田大学病院秋田県秋田市広面蓮沼44-22,113 m16 施設 / 2,744 室26 施設 / 3,839 室
滋賀医科大学病院滋賀県大津市瀬田月輪町2,086 m3 施設 / 262 室17 施設 / 1,037 室
高知大学病院高知県南国市岡豊町小蓮185-12,053 m1 施設 / 23 室6 施設 / 280 室
藤田医科大学病院愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-982,031 m2 施設 / 73 室5 施設 / 235 室
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)/厚生労働省「特定機能病院の承認状況(令和8年4月24日現在)」

この20病院には共通した立地の特徴がある。ひとつは大学キャンパスと一体で郊外に配置された国立大学病院である。岐阜大学医学部附属病院(岐阜市柳戸)、福井大学医学部附属病院(吉田郡永平寺町)、富山大学附属病院(富山市杉谷)、宮崎大学医学部附属病院(宮崎市清武町)、香川大学医学部附属病院(木田郡三木町)などが該当する。もうひとつは、丘陵地や住宅地に立地する私立医科大学病院で、聖マリアンナ医科大学病院(川崎市宮前区菅生)、愛知医科大学病院(長久手市)、藤田医科大学病院(豊明市)、杏林大学医学部付属病院(三鷹市新川)がここに入る。

興味深いのは、供給が「無い」のではなく「離れている」ケースが多い点である。旭川医科大学病院は半径3km圏の掲載施設がゼロだが、5km圏には31施設4,166室がある。旭川駅前に供給が集中しているためだ。秋田大学医学部附属病院も2km圏はゼロだが、3km圏には16施設2,744室と厚い。つまり、これらの都市では宿泊供給そのものは足りているが、その配置が駅前に寄っており、病院前という需要地点との間に2〜3kmの距離が残っている。既存施設にとっては送迎や連泊プランで距離を埋める余地、開発側にとっては需要地点に寄せた小規模施設のアップサイドが、それぞれこの距離のなかにある。

一方、福島県立医科大学附属病院のように5km圏でも1施設16室、自治医科大学附属病院のように5km圏で1施設31室というケースもある。この帯では、宿泊供給そのものが商圏として成立していない可能性と、需要が病院の運営する滞在施設や近隣自治体の宿に分散している可能性の双方が考えられ、OTAの公開情報だけでは判別できない。実際、北海道大学病院・旭川医科大学病院・札幌医科大学附属病院・九州大学病院などは、患者家族向けの宿泊施設(ファミリーハウス)を病院自身または関連団体が運営していることを公表しており、こうした施設は本稿の集計には含まれない。

病院圏の価格水準は市区の水準とほぼ同じ — 中央値102.4%

次に価格を見る。各病院の半径2km圏にある掲載施設の推定成約ADRの中央値を、その病院が所在する市区の推定成約ADRと比較した。対象は圏内の集計対象が5施設以上、かつ市区側の集計対象が10施設以上ある36病院である。

病院2km圏のADR ÷ 所在市区のADR(上位10・下位10、100%=市区水準と同等)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年1〜8月、推定成約ADRの中央値同士の比較、N=36病院のうち上位・下位各10件を表示)
病院2km圏の推定成約ADRと所在市区の推定成約ADRの比較(N=36病院のうち上位10・下位10を表示。2026年1〜8月)
病院比較対象の市区2km圏ADR市区ADR対市区比圏内N
がん研究会有明病院江東区¥18,514¥12,884143.7%9
長崎大学病院長崎市¥12,088¥9,171131.8%23
京都大学病院京都市左京区¥16,066¥12,464128.9%113
国立がん研究センター東病院柏市¥10,546¥8,296127.1%5
金沢大学病院金沢市¥11,670¥9,322125.2%13
信州大学病院松本市¥15,110¥12,538120.5%35
東京慈恵会医科大学病院港区¥18,507¥15,849116.8%170
北海道大学病院札幌市北区¥14,111¥12,902109.4%57
順天堂大学順天堂医院文京区¥14,268¥13,184108.2%161
聖路加国際病院中央区¥19,616¥18,478106.2%155
東京医科大学病院新宿区¥14,653¥15,44094.9%103
千葉大学病院千葉市中央区¥8,932¥9,54493.6%19
三重大学病院津市¥7,210¥7,70293.6%8
国立国際医療センター新宿区¥14,443¥15,44093.5%92
九州大学病院福岡市東区¥12,780¥13,75192.9%67
大阪国際がんセンター大阪市中央区¥10,007¥10,77192.9%152
東北大学病院仙台市青葉区¥8,990¥9,71292.6%43
群馬大学病院前橋市¥6,248¥7,22586.5%6
鳥取大学病院米子市¥5,870¥7,12782.4%22
島根大学病院出雲市¥7,972¥13,51159.0%12
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年1〜8月、推定成約ADR)

36病院の対市区比は中央値102.4%、うち13病院が市区水準を下回った。つまり、病院近接という立地は現時点で価格に明確なプレミアムとして表れていない。ばらつきの大半は病院の立地そのもの(観光地に近いか、駅前か)で説明でき、医療機関の存在が単価を押し上げている構図は、少なくともエリア集計のレベルでは確認できなかった。

この読み方には注意点がある。半径2kmの円は行政区界と一致しないため、政令指定都市の区をまたぐ病院では比較対象の市区がずれる。京都大学医学部附属病院の128.9%は左京区との比較だが、2km圏には東山区・中京区の観光地立地の施設が入る。がん研究会有明病院の143.7%も、2km圏に湾岸のホテルが含まれることが効いている。逆に言えば、こうした立地要因を差し引いた「純粋な医療近接プレミアム」は、現状ほぼゼロと見るのが妥当である。

ここに収益機会がある。医療関連の滞在は連泊・低キャンセルという性格を持ち、平日と日曜という稼働の谷に入る。この需要を明示的に取りにいく商品設計(連泊料金、静粛性、洗濯機能)は、価格ではなく稼働の底上げと販管費の低減で効いてくる。単価プレミアムが立っていないということは、その分の伸びしろが手つかずで残っているということでもある。

立地評価 — 用途地域・容積率・地価から見た開発可能性

供給余地のある病院圏で、実際に施設を建てられるのか。国土交通省の不動産情報ライブラリから、代表3地点の用途地域・容積率・公示地価・最寄駅を取得した。同じ枠組みで主要商圏の開発余地を測った結果はホテルはどこに建てられるかにまとめてあり、本稿の病院圏はその比較対象として読むと位置づけが掴みやすい。

順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)
所在地:東京都文京区本郷3-1-3
用途地域:第1種住居地域 / 容積率300.0%・建蔽率60.0%
公示地価(最寄地点):3,730,000(円/㎡)(神田駿河台2丁目1番47、前年比 19.6%)
最寄駅:御茶ノ水(約258 m)
宿泊供給:半径1km圏に38施設5,363室、2km圏に176施設22,922室
杏林大学医学部付属病院(東京都三鷹市)
所在地:東京都三鷹市新川6-20-2
用途地域:第1種住居地域 / 容積率300.0%・建蔽率60.0%
公示地価(最寄地点):461,000(円/㎡)(新川6-23-25、前年比 4.5%)
最寄駅:つつじヶ丘(約2,345 m)
宿泊供給:半径2km圏に掲載施設なし。3km圏に2施設301室、5km圏に17施設1,270室
岐阜大学医学部附属病院(岐阜県岐阜市)
所在地:岐阜県岐阜市柳戸1-1
用途地域:第2種住居地域 / 容積率200%・建蔽率60%
公示地価(最寄地点):56,300(円/㎡)(大字折立字北浦299番1外、前年比 0.0%)
最寄駅:半径3km圏に鉄道駅なし
宿泊供給:半径3km圏に掲載施設なし。5km圏に8施設628室(長良川温泉の旅館群が中心)
代表3地点の公示地価(2026年、最寄地点)
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
御茶ノ水駅(東京地下鉄)年度別乗降客数
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数)

3地点の条件差は極端である。順天堂医院(文京区本郷)の最寄公示地価は1平方メートルあたり373万円、前年比+19.6%。杏林大学病院(三鷹市新川)は46.1万円で+4.5%、岐阜大学病院(岐阜市柳戸)は5.63万円で前年比0.0%。地価の開きは約66倍に達する。一方で用途地域はいずれも住居系で、容積率は文京区の敷地でも300%、三鷹で200〜300%、岐阜で200%と、宿泊施設としては控えめな水準にとどまる。

注目したいのは杏林大学病院の交通条件である。半径3km圏で最も近い鉄道駅はつつじヶ丘駅(京王電鉄)の約2,345m、次いで仙川駅の約2,452m。駅からの徒歩到達がそもそも成立しない立地で、かつ半径2km圏に掲載ホテルが存在しない。駅前立地という従来の評価軸では低く出るが、医療機関近接という軸で見れば、代替の効かない位置にある。

建設費の2段階試算

仮に60室・長期滞在仕様(1室22平方メートル、簡易キッチンとランドリーを備える想定)の施設を考えると、客室部分比率65%として延床面積は約2,031平方メートル(約614坪)となる。建設費はまず2025年の実績値で試算し、次に建設期間中のインフレを織り込む。

代表2地点の建設費・投資額・利回り 簡易試算(60室・長期滞在仕様、2029年開業想定。仮定値に基づく簡易試算)
項目A. 三鷹(杏林大学病院圏)B. 岐阜(岐阜大学病院圏)
延床面積2,031㎡(614坪)2,031㎡(614坪)
容積率(用途地域)300%(第1種住居地域)200%(第2種住居地域)
必要敷地面積約677㎡約1,016㎡
公示地価(最寄地点)461,000円/㎡56,300円/㎡
土地取得費(概算)約3.1億円約0.6億円
建設費(2025年実績ベース・坪230万円)約14.1億円約14.1億円
総投資額(2025年実績ベース)約17.2億円約14.7億円
建設費(2029年開業想定・インフレ織込)約16.3億円約16.3億円
総投資額(インフレ織込後)約19.4億円約16.9億円
想定ADR(長期滞在仕様の想定値)12,000円13,000円
想定稼働率85%80%
年間売上約2.23億円約2.28億円
GOP(率35%)約0.78億円約0.80億円
利回り(実績ベース/インフレ織込後)4.5% / 4.0%5.4% / 4.7%
建設費:国土交通省「建築着工統計」に基づく2025年ホテル建築費(S造240.5万円/坪、RC造202.6万円/坪、全構造平均195.2万円/坪)を踏まえ、宿泊特化型の想定として坪230万円を採用。インフレ率はTurner & Townsend予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%。2028年以降は+4.5%と仮定)で2028年中間時点まで複利計算。GOP率35%はインヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)を踏まえた新規開業の保守値。地価:国土交通省 不動産情報ライブラリ(2026年地価公示)。ADR・稼働率は長期滞在仕様を前提に設定した仮定値であり(所在市の観測実勢を上回る。三鷹市の推定成約ADR中央値9,950円・N=1施設/岐阜市8,614円・N=32施設、いずれも2026年1〜8月)、簡易試算です。

この試算が示すのは、新築による参入は建設費がボトルネックになるということである。2025年の建築費は全構造平均195.2万円/坪、S造240.5万円/坪と過去最高水準にあり、2022年の141.3万円/坪(S造・全国)から大きく上昇した。60室規模では建設費が総投資の8〜9割を占め、地価が安い岐阜でも利回りは5%台にとどまる。逆に言えば、建設費の高止まりは新規供給を抑制する要因でもあり、既存施設にとっては競争環境が緩和されるアップサイド要因でもある。

感度分析 — 単価と稼働の前提が利回りをどこまで動かすか

前掲の利回り(三鷹4.0%/岐阜4.7%、いずれもインフレ織込後の総投資額に対する値)は、想定ADRと想定稼働率という2つの仮定の上に乗っている。この2つを動かしたときに事業性がどう振れるかを、3シナリオと2軸のグリッドで確認する。悲観ケースの想定ADRには、各施設の所在市で実際に観測されている推定成約ADRの中央値を置いた(三鷹市9,950円・集計対象1施設/岐阜市8,614円・集計対象32施設、いずれも2026年1〜8月)。稼働率の振れ幅は、所在県のビジネスホテルの曜日別変動幅(東京都4.9ポイント、岐阜県12.2ポイント)を踏まえて設定している。

3シナリオ別の事業性(60室・長期滞在仕様、インフレ織込後の総投資額 三鷹19.4億円/岐阜16.9億円に対する利回り。仮定値に基づく簡易試算)
シナリオA. 三鷹(杏林大学病院圏)B. 岐阜(岐阜大学病院圏)
前提年間売上利回り前提年間売上利回り
悲観
ADRが所在市の観測実勢まで下がる場合
¥9,950 / 稼働率(前提)80%約1.74億円3.1%¥8,614 / 稼働率(前提)74%約1.40億円2.9%
中位
本文の想定値(長期滞在仕様)
¥12,000 / 稼働率(前提)85%約2.23億円4.0%¥13,000 / 稼働率(前提)80%約2.28億円4.7%
楽観
単価・稼働がともに上振れる場合
¥13,200 / 稼働率(前提)90%約2.60億円4.7%¥14,300 / 稼働率(前提)86%約2.69億円5.6%
利回り=GOP(売上×35%)÷総投資額(インフレ織込後)。悲観ケースのADRは所在市の推定成約ADR中央値(メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、2026年1〜8月)。稼働率は前提値であり観測値ではありません。

幅は小さくない。三鷹は3.1%から4.7%、岐阜は2.9%から5.6%まで振れる。とりわけ効くのは単価のほうで、想定ADRが所在市の実勢水準まで下がると、両地点とも利回りは3%を割り込む水準に近づく。逆に言えば、この試算が4%台に載っているのは「長期滞在仕様の商品が周辺実勢を上回る単価を取れる」という前提に依存している。連泊・低キャンセルという需要の性格は稼働側に効くが、稼働を5ポイント積み上げても利回りの改善は0.2〜0.3ポイントにとどまる。単価の前提が崩れたときの落差のほうが大きい。

A. 三鷹 — 想定ADR×稼働率(前提)別の利回り(総投資額19.4億円、★=本文の中位ケース)
想定ADR稼働率(前提)75%稼働率(前提)80%稼働率(前提)85%稼働率(前提)90%稼働率(前提)95%
¥10,0003.0%3.2%3.4%3.6%3.8%
¥11,0003.3%3.5%3.7%3.9%4.1%
¥12,0003.6%3.8%4.0% ★4.3%4.5%
¥13,0003.9%4.1%4.4%4.6%4.9%
¥14,0004.1%4.4%4.7%5.0%5.3%
B. 岐阜 — 想定ADR×稼働率(前提)別の利回り(総投資額16.9億円、★=本文の中位ケース)
想定ADR稼働率(前提)70%稼働率(前提)75%稼働率(前提)80%稼働率(前提)85%稼働率(前提)90%
¥9,0002.9%3.1%3.3%3.5%3.7%
¥10,0003.2%3.4%3.6%3.9%4.1%
¥11,5003.7%3.9%4.2%4.4%4.7%
¥13,0004.1%4.4%4.7% ★5.0%5.3%
¥14,5004.6%4.9%5.3%5.6%5.9%
背景色は利回り水準の目安(青=5.0%以上、黄=4.0〜5.0%未満、赤=4.0%未満)。いずれも60室・GOP率35%・インフレ織込後の総投資額を共通条件とする仮定値の簡易試算であり、実際の事業計画・査定値ではありません。

より現実的なのは、既存施設のコンバージョンと改装である。医療需要が期待できる病院圏で、駅前ではなく病院寄りに立地する既存のビジネスホテル・旅館は、建物を取得して長期滞在仕様に改装すれば、新築の3分の1以下の投資で同じポジションを取れる。事例として、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の敷地内には2022年7月に三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド(145室)が開業しており、病院から約122mという距離で運営されている。医療機関と宿泊事業者の連携という形は、すでに現実の選択肢になっている。

商品仕様の伸びしろ — ランドリー設備が話題になる施設は42.1%

最後に、いま病院近接の施設がどのような商品性を持っているかを、宿泊者の口コミから確認する。特定機能病院の半径2km圏にあるビジネス・シティホテル(口コミ150〜1,200件の施設、N=1052施設)と、全国の同カテゴリのホテル(同条件、N=808施設)で、口コミに登場する話題の出現率を比較した。

口コミで話題になる要素の出現率(病院2km圏 vs 全国)
出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析、直近24ヶ月、病院2km圏N=1052施設/全国N=808施設。口コミ件数150〜1,200件の施設に揃えて比較)

ランドリー設備が口コミで話題になる施設は、病院2km圏では42.1%、全国平均では28.6%。病院近接の施設は既に長期滞在対応でやや先行している。静粛性が話題になる割合も97.6%と全国(90.2%)を上回る。一方で、朝食ビュッフェが話題になる割合は54.5%で全国の68.4%を下回り、客室内の冷蔵庫・ポットに言及がある施設は15.2%にとどまる。

裏を返せば、病院近接の立地にありながらランドリー設備が話題に上がらない施設が約6割ある。連泊が前提の滞在では、洗濯機能・簡易な調理設備・静かな客室環境・チェックアウト後の荷物預かりといった要素が、価格以上に選択を左右する。既存のビジネスホテルが客室を大きく作り替えることなく取りにいける領域であり、共用部のランドリー増設や連泊清掃の運用変更といった、比較的小さな投資で成立する改装余地がここにある。

供給 距離が残っている

88病院のうち20病院は2km圏に掲載施設がなく、38病院は1km圏がゼロ。旭川・秋田のように市内の供給は厚いが駅前に偏り、病院前との間に2〜3kmが残る型が目立つ。

価格 プレミアムは未形成

病院2km圏のADRは所在市区の中央値102.4%(N=36病院)。医療近接が単価に反映されている構図は確認できず、伸びしろが手つかずで残っている。

商品 改装で取りにいける

新築は坪230万円台の建設費がボトルネック。既存ビジネスホテルのランドリー増設・連泊運用への転換のほうが、投資対効果では現実的な選択肢になる。

集計方法と対象範囲

母集団は厚生労働省「特定機能病院の承認状況(令和8年4月24日現在)」に掲載された88施設。各施設の住所を国土地理院の位置参照情報で測地し、その座標を中心とする半径1km・2km・3km・5kmの円内にある宿泊施設をメトロエンジンリサーチの施設マスターから抽出した。集計対象はホテル・旅館(ビジネス/シティ/リゾート/旅館/デラックス/カプセル)に限り、ゲストハウス・ペンション・民宿・簡易宿所は含めていない。

さらに、2026年1〜8月にOTA上で販売が確認できた施設のみを「掲載施設」として計上した。マスター上は半径2km圏に延べ4,369施設が存在するが、うち販売が確認できたのは延べ2,904施設(66.5%)である。休館中の施設や、OTAを利用していない施設は集計から外れる。したがって本稿の客室数は「OTAで販売されている客室」の下限値であり、実際の宿泊キャパシティはこれを上回る。病院が運営する患者家族向け宿泊施設も含まれない。

ADRは各施設の2026年1〜8月の推定成約ADRの月次値を施設ごとに中央値化し、それを圏内で再度中央値化した。市区の比較値は同期間の市区単位の推定成約ADRの中央値である。稼働率は都道府県×業態単位のOTA掲載在庫ベースの推定値で、病院圏単位では算出していない。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

母集団は厚生労働省「特定機能病院の承認状況(令和8年4月24日現在)」の88施設。各施設の住所を国土地理院の住所測地で座標化し、その座標を中心とする半径1km・2km・3km・5km圏の宿泊施設をメトロエンジンリサーチの施設マスターから抽出しました。掲載施設・掲載客室数は2026年1〜8月にOTA上で販売が確認できた施設に限ります(2km圏の延べ4,369施設のうち販売確認は延べ2,904施設・66.5%)。ADRは施設ごとの月次推定成約ADRを中央値化し、それを圏内で再度中央値化した値です。稼働率は都道府県×業態単位のOTA掲載在庫ベース推定値(2026年5月7日〜8月31日チェックイン分)で、全国値は客室数加重平均、都道府県別の表は日次の単純平均で算出しています。口コミ指標は宿泊者口コミの自然言語解析(直近24ヶ月、口コミ件数150〜1,200件の施設に条件を揃えて比較、病院2km圏N=1052施設/全国N=808施設)によります。

■ 試算前提

事業性試算は60室・1室22平方メートル・客室部分比率65%(延床約2,031平方メートル=約614坪)を共通条件としています。建設費は2025年実績の坪230万円、2029年開業想定ではインフレ率(2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年以降は+4.5%と仮定)で2028年中間時点まで複利計算しました。土地は必要敷地面積×最寄地点の2026年公示地価です。GOP率35%は上場REITが開示する運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)を踏まえた新規開業の保守値で、利回り=GOP÷総投資額です。感度分析の中位ケースは本文の想定値、悲観ケースの想定ADRは所在市の推定成約ADR中央値(三鷹市9,950円・集計対象1施設/岐阜市8,614円・集計対象32施設、2026年1〜8月)、稼働率の振れ幅は所在県のビジネスホテルの曜日別変動幅(東京都4.9ポイント、岐阜県12.2ポイント)を踏まえて設定しています。

■ 限界・留意点

(1) 掲載施設・掲載客室数はOTA上で販売が確認できた施設のみを数えた下限値です。OTAに掲載していない施設、休館中の施設、病院や関連団体が運営する患者家族向けの宿泊施設は含みません。(2) 稼働率は都道府県×業態単位の推定値であり、病院圏単位では算出していません。本稿の需要に関する記述は県・業態水準からの推論です。(3) 半径2kmの円は行政区界と一致しないため、政令指定都市の区をまたぐ病院ではADRの比較対象となる市区がずれます。京都大学医学部附属病院の128.9%、がん研究会有明病院の143.7%はこの影響を含みます。(4) 事業性試算の想定ADRは長期滞在仕様を前提に置いた仮定値で、所在市の観測実勢(三鷹市9,950円/岐阜市8,614円)を上回ります。実勢水準まで下がった場合の利回りは2.9〜3.1%です。(5) 医療に関連する宿泊需要の規模は推計しておらず、本稿は供給側の分布と価格水準の記述にとどめています。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — OTA掲載価格データ(推定成約ADR)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)、施設マスター(半径圏集計)
  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミのNLP解析(直近24ヶ月)

■ 政府統計・公的データ

■ 業界データ・REIT開示

■ 事例・関連情報

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