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EV充電器の設置義務、ホテルは約120室から対象 — 東京都の新築規制とCapex試算

投稿日 : 2026.09.21

東京都

投資・開発

ホテル開発の初期検討では、用途地域・容積率・駐車場附置義務までは必ず確認される。その先にもうひとつ、2025年4月から効き始めた条件がある。東京都が新築建築物に課した電気自動車充電設備の整備義務である。根拠は都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(環境確保条例)の改正で、2022年12月の都議会で可決され、延べ面積2,000㎡以上の新築には建築物環境計画書制度を通じて適用される。

この義務が特異なのは、面積でも客室数でもなく「駐車区画数」に連動して発生する点にある。つまり駐車場条例の附置義務台数が、そのまま充電設備の要否と数量を決める。本稿では、東京都の整備基準を一次資料で確認したうえで、当社の建築計画データと駐車場条例の原単位から「ホテルは何室規模で対象に入るのか」を逆算し、充電設備・先行配管・受電容量という3つのCapexレイヤーを100室/300室モデルで試算する。補助制度と充電課金収入まで含めて、電力インフラという開発コストの一層を数量化することが狙いである。

本記事における指標の定義

  • 充電設備:東京都建築物環境計画書制度における電気自動車充電設備整備基準の対象設備。本稿では出力6kW級の普通充電設備を基本に試算する。
  • 配管等:将来の充電設備設置に備えて、あらかじめ配管・配線スペース・分電盤の余力を確保する整備。いわゆるEVレディ対応にあたる。
  • 専用駐車場/共用駐車場:東京都の整備基準上の区分。専用は契約により特定の者が特定区画を専有するもの(居住者用・社有車用等)、共用は来場者用で駐車車両が不特定多数・短時間のもの。ホテルの宿泊客用駐車場は共用駐車場にあたる。
  • 附置義務:駐車場法第20条にもとづき各自治体が条例で定める駐車施設の設置義務。東京都駐車場条例では、駐車場整備地区等におけるホテル・旅館の原単位は300㎡/台(現行)。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • データ出典:東京都環境局/東京都都市整備局/国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成/メトロエンジンリサーチ
義務が発生する規模
約140室
現行原単位300㎡/台で逆算
見直し案適用時
約180室
450㎡/台なら閾値が後退
都内の計画中ホテル
18件
全件が延床2,000㎡以上・計3,497室
300室モデルのCapex
78万〜1,932万円
受電段上げの有無で幅が出る
1室夜あたり負担
0.6〜14.7円
15年償却・稼働80%前提
Key Takeaways
  • — 義務は面積でも客室数でもなく駐車区画数で発生する。宿泊客用は共用駐車場で10台以上→充電設備1基+配管20%、従業員・社有車用の専用駐車場は5台以上→20%に充電設備。
  • — 東京都駐車場条例の附置義務から逆算すると、都心商業地のホテルは約140室(延べ面積3,525㎡超・1室25㎡換算)で対象に入る。100室規模は緩和係数が効いて対象外。
  • — 300室モデルのCapexは78万〜1,932万円。充電設備と配管だけなら78万〜432万円=1室夜0.6〜3.3円で、事業性を左右する規模ではない。
  • — 幅の正体は受電容量。受変電設備の段上げが入ると1,500万円級となり、しかもこの部分は補助の対象外。基本設計の負荷計算の段階でほぼ結論が決まる。
  • — 2026年6月公表の駐車場条例見直し案(原単位300→450㎡/台)が成立すれば、義務の発生点は約140室から約180室へ後退する。条例改正は未了。

面積ではなく駐車区画数で発生する義務

東京都は2022年12月15日の都議会で環境確保条例の改正を可決し、新築建築物への太陽光発電設備と電気自動車充電設備の整備を制度化した。いずれも2025年4月施行である。太陽光は当社でもすでに取り上げてきたが、充電設備側は開発企画のひな形に入っていないことが多い。

延べ面積2,000㎡以上の大規模新築建築物に適用されるのは建築物環境計画書制度にもとづく電気自動車充電設備整備基準で、要件は駐車場の性格によって2本立てになっている。ここが実務上の分岐点になる。

表1 東京都の電気自動車充電設備整備基準(延べ面積2,000㎡以上の新築・駐車場区分別)
区分適用となる駐車区画数充電設備の設置配管等の整備
専用駐車場
契約により特定区画を専有(社有車・従業員用等)
5台以上区画数の20%以上
上限10台
区画数の50%以上
上限25台
共用駐車場
来場者用・不特定多数・短時間。ホテルの宿泊客用はこちら
10台以上1台以上区画数の20%以上
上限10台

出典:東京都環境局「東京都建築物環境計画書制度に基づく電気自動車充電設備整備基準ガイドライン(第1版)」(令和6年3月)/東京都「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」。整備基準ガイドラインは提出時期で版が分かれ、2025年4月〜2026年3月提出分は第1版、2026年4月以降提出分は第2版が適用される。

「駐車場の20%に充電器」という見出しで語られることが多いが、20%が効くのは専用駐車場である。ホテルの宿泊客用駐車場は、駐車車両が不特定多数で駐車時間が短いという性格から共用駐車場に整理され、10台以上であれば充電設備は1台以上、加えて区画数の20%以上に配管等の先行整備が求められる。一方、従業員用や社有車用に契約区画を割り当てる場合、その区画が5台以上あれば20%ルールが立ち上がる。つまり同じ建物のなかに2つの基準が並走する設計になる。

延べ面積2,000㎡未満については、2025年4月施行の建築物環境報告書制度が別系統で用意されている。こちらは都内で中小規模新築建築物を年間延べ2万㎡以上供給する特定供給事業者が対象で、個別の建物ではなく事業者単位で義務がかかる仕組みである。大規模チェーンが小型ホテルを都内で継続的に供給する場合、こちらの射程に入る可能性がある点は押さえておきたい。

他自治体の状況も確認した。川崎市は2025年4月から太陽光発電設備の導入制度を開始しているが、充電設備の設置台数を数値で義務づける制度は本稿の調査範囲では確認できなかった。長野県は延べ面積10,000㎡以上の新築に再生可能エネルギー設備導入の検討を求める制度を持つが、これも検討義務であって設置義務ではない。新築建築物に充電設備の設置台数を数値で課しているのは、現時点では東京都が先行していると整理してよい。京都市・大阪市で開発を進める事業者にとっては、当面は補助制度の活用判断が中心になる。

ホテルは何室から対象になるか — 附置義務からの逆算

充電設備の要否は駐車区画数で決まる。では、ホテルの駐車区画数は何で決まるのか。東京都では東京都駐車場条例の附置義務が実質的な下限を与える。駐車場整備地区等におけるホテル・旅館の原単位は300㎡につき1台である(当社既刊「ホテルの駐車場附置義務、都市で2.5倍差」で7都市を横並びにした)。

同記事で用いた前提(300室・延べ面積7,500㎡=1室あたり25㎡)をそのまま使い、実際に設ける区画数が附置義務台数と一致すると仮定して、客室規模別に義務の発生を判定した。共用駐車場10台が分岐点である。

出典:東京都駐車場条例/東京都環境局 整備基準よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

表2 客室規模別に見た附置義務台数と充電設備義務の発生(現行原単位/見直し案)
客室数延べ面積附置台数
現行300㎡/台
充電義務(現行)附置台数
見直し案450㎡/台
充電義務(見直し案)
100室2,500㎡5台対象外3台対象外
150室3,750㎡10台充電1基+配管2区画7台対象外
200室5,000㎡16台充電1基+配管4区画11台充電1基+配管3区画
300室7,500㎡25台充電1基+配管5区画17台充電1基+配管4区画
500室12,500㎡42台充電1基+配管9区画28台充電1基+配管6区画

1室あたり延べ面積25㎡・附置義務台数=実設置区画数と仮定。延べ面積6,000㎡未満は条例の緩和係数を乗じ端数切上げ。附置義務は駐車場整備地区・商業地域・近隣商業地域等が対象。出典:東京都駐車場条例/東京都環境局よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

閾値を厳密に解くには、延べ面積6,000㎡未満に適用される条例の緩和係数を織り込む必要がある。ホテル単独用途なら附置台数は(4×延べ面積−6,000)÷900となり、端数切上げで10台に達するのは延べ面積3,525㎡超、1室25㎡で割れば約140室となる。現行基準では、都心商業地で約140室を超えるホテルを新築すると充電設備の設置義務が立ち上がる。100室規模は緩和係数が効いて5台にとどまり、対象外である。

ここで注意したいのが、東京都都市整備局が2026年6月8日に公表した「東京都駐車場条例の見直しの考え方(案)」である。ホテルを含む「その他の特定用途」の原単位を300㎡/台から450㎡/台へ緩和する内容で、同年7月8日まで意見募集が行われた(条例改正は未了)。この見直しが成立すると、附置台数が下がることで充電設備の義務発生点も約140室から約180室へ後退する。駐車場条例と充電設備義務が数量的に連動しているため、片方の緩和がもう片方にも効くという構造になっている。2026〜2027年に確認申請を出す案件は、この2つの制度が同時に動いている局面での計画になる点は、企画段階で押さえておきたい。

都内の計画中案件18件はすべて延床2,000㎡以上

当社が国土交通省「建築物動態統計調査」から整備している建築計画データで、東京都内のホテルを含む計画中・建設中の案件を抽出すると18件・計3,497室が確認できる(重複除去後、調査時点)。このうち延べ面積2,000㎡以上は18件すべてで、建築物環境計画書制度の適用規模に入る。全国では69件中62件(89.9%)が2,000㎡以上だった。

区別に見ると、千代田区5件・728室、渋谷区3件・461室、港区2件・417室が上位を占める。千代田区・港区・中央区・品川区の案件は事務所・商業との複合再開発で延べ面積が数十万㎡規模に達するものを含み、ホテル部分だけでなく建物全体の駐車場計画のなかで充電設備の配置が決まる。

※データに関する注記
本データは調査時点での確認申請ベース(国土交通省「建築物動態統計調査」)です。確認申請は通常開業の1-2年前に行われるため、未来年の件数・客室数は今後の申請追加により増加する見込みです。現時点での確定パイプラインの下限値として参照してください。

マーカーは区役所位置に置いた区単位の概略表示であり、計画地の正確な位置ではありません。円の大きさは区内の計画客室数合計。出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=18件)

一方、ホテル単独用途で延べ面積が把握できる都内9件について、報告されている延べ面積から現行原単位と緩和係数で附置台数を算定すると4.8〜19.8台の範囲に収まった。9件のうち6件が端数切上げで10台以上となる計算になる。ただし建築計画データの延べ面積は申請時点の値であり、駐車部分の扱いや緩和措置の適用によって実際の附置台数は動く。個別案件の判定は所管との協議が前提になる点を申し添えておきたい。

Capexは3つのレイヤーに分かれる

充電設備のCapexは一本の数字では表せない。(1) 充電設備そのもの、(2) 配管等の先行整備、(3) 受電容量の3層に分けて積むと、どこに幅が出るのかが見える。

(1) 充電設備。東京都都市整備局が駐車場条例検討委員会に提出した資料(事業者ヒアリングにもとづく)では、急速充電器のイニシャルコストは約200〜300万円/基、耐用年数は約8年とされている。ホテルの宿泊客用として現実的なのは滞在中に充電する6kW級の普通充電設備で、こちらは機器費と工事費の合計で数十万円から、条件が悪い場合に200万円程度まで振れる。東京都の補助制度が普通充電設備の設置工事費に1基目上限135万円を設定していることは、工事費側の上限感の目安になる。

(2) 配管等。新築時に配管・配線ルートと分電盤余力を同時施工する場合、1区画あたりの追加費用は1万〜4万円程度とされる。後付けで壁の開口・分電盤増設・地中配管をやり直す場合との差は大きく、義務で求められる区画数を超えて先行配管を入れておく判断は、後年のCapexを圧縮する。300室モデルで求められるのは共用5区画+専用3区画の計8区画だが、25台全区画に配管を通しても増分は数十万円のオーダーに収まる。

(3) 受電容量。これが金額の幅を決める。ホテルの電気設備設計で用いられる負荷密度はおおむね50〜80VA/㎡で、300室・7,500㎡なら375〜600kVAの受変電設備が想定される。ここに6kW×2基=12kWを乗せても、受電容量に対する比率は2.0〜3.2%にすぎず、通常の設計余裕に収まることが多い。問題は、義務対象の配管8区画をすべて将来的に充電設備化する場合で、48kWとなると比率は8〜13%に上がる。設計が余裕なく組まれていれば変圧器やキュービクルの容量段上げが必要になり、300〜500kVA級の本体価格が800万〜1,500万円、更新工事の総額で約1,500万円という水準が視野に入ってくる。

出典:東京都都市整備局「駐車場条例におけるZEV用充電器の設置誘導について」/東京都環境公社 補助制度/受変電設備の実勢価格帯よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

表3 300室モデルの充電設備Capex(3レイヤー別・低位/高位)
レイヤー300室モデルの数量低位高位
充電設備(6kW普通充電)共用1基+専用1基=2基70万円400万円
配管等の先行整備共用5区画+専用3区画=8区画8万円32万円
受電容量12kW増(設計余裕内なら増分なし)0円1,500万円
合計78万円1,932万円
1室あたり0.26万円6.4万円
1室夜あたり(15年償却・稼働80%)年間87,600室夜0.6円14.7円

簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

幅の出どころを分けて置くと、判断材料になるのは金額そのものではなく受電容量をどう扱うかだとわかる。充電設備と配管だけで閉じる楽観・中位のケースと、受変電設備の段上げが入る悲観のケースを並べる。

表5 300室モデルの3シナリオ — 受電容量の扱いで決まる負担レンジ
シナリオ前提Capex合計1室あたり1室夜あたり推定成約ADR比
楽観受電段上げなし・機器費は低位(充電2基70万円+配管8区画8万円)78万円0.26万円0.6円0.004%
中位受電段上げなし・機器費は高位(充電2基400万円+配管8区画32万円)432万円1.44万円3.3円0.023%
悲観受変電設備の段上げが必要(キュービクル更新1,500万円を上乗せ)1,932万円6.44万円14.7円0.104%

15年均等償却・稼働80%(300室で年間87,600室夜)。ADR比は東京都のビジネスホテル推定成約ADR直近12ヶ月中央値14,100円(N=910施設)に対する比率。補助制度適用前の金額。出典:東京都都市整備局/東京都環境公社/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

さらに、受電段上げ費用と客室規模の2軸で1室夜あたり負担を並べると、負担の重さは規模が小さいほど効くことがはっきりする。同じ1,500万円の段上げでも、500室なら8.8円、150室なら29.4円と3倍以上の開きが出る。小規模案件ほど、基本設計の負荷計算に充電負荷を織り込んでおく価値が大きい。

表6 感度分析 — 受電段上げ費用 × 客室規模が1室夜あたり負担に与える影響(円)
受電段上げ費用\客室規模150室200室300室500室
0円
設計余裕内
6.64.93.32.0
500万円14.210.67.14.3
1,000万円21.816.310.96.5
1,500万円
キュービクル更新
29.422.114.78.8

充電設備+配管を300室モデルの高位432万円で固定し、規模差は償却の分母にのみ反映した保守的な置き方。15年均等償却・稼働80%。網掛けセルは本文の1室夜14.7円(300室・段上げ1,500万円)に一致する。最も重い150室・1,500万円のセルでも29.4円=推定成約ADR14,100円の0.21%にとどまる。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

結論から言えば、受電段上げが発生しないケースでは、この義務が事業性に与える影響はきわめて小さい。当社が集計する東京都のビジネスホテル推定成約ADRは直近12ヶ月中央値で約14,100円(N=910施設)であり、1室夜あたり0.6〜14.7円はADRの0.004〜0.10%にあたる。当社既刊で扱った水道加入金(自治体間最大511万円差)附置義務由来のCapex(1室14〜35万円)と比べると、桁がひとつ以上小さい。金額そのものより、受変電計画のどの段階で織り込むかという設計プロセスの問題として扱うのが実態に近い。

運用コストは基本料金と保守で決まる

Capexより注意深く見ておきたいのがランニングである。東京都都市整備局の同資料は、急速充電器(出力50kW・低圧動力契約)について電気基本料金が約5万円/月(約60万円/年)、ネットワーク使用料が約4〜5千円/月、保守点検などの維持管理費が約30万円/年、合計で約100万円/年(充電分の電気料金を除く)という実勢を示している。同資料は「充電料金だけで設置に係る費用を回収するのは難しく、集客効果等の副次的効果が見込まれないと設置が進まない」とも記している。

ただしこれは50kWの急速充電器の数字である。ホテルの義務対応で中心となる6kW普通充電設備2基=12kWに比例換算すれば、基本料金相当は年間約14万円(当社試算)にとどまる。ネットワーク使用料と保守を加えても年間数十万円のレンジで、300室・87,600室夜で割れば1室夜あたり数円である。急速充電器を目的地充電として設置するかどうかが、Opexの水準を一段変える分岐になる。

出典:東京都都市整備局「駐車場条例におけるZEV用充電器の設置誘導について」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(12kW分は50kW実勢からの比例換算・当社試算)

補助制度で実質負担はどこまで下がるか

充電設備には国と自治体の2系統の支援がある。国の「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」は一般社団法人次世代自動車振興センターが執行し、宿泊施設も補助対象施設に含まれる。普通充電設備では設備購入費が最大2分の1、工事費が全額補助という枠組みが示されている。

東京都側は2系統に分かれる。集合住宅等・区市町村の公共施設等を対象とする「充電設備普及促進事業(居住者用)」と、商業施設・事務所・工場等を対象とする「充電設備普及促進事業(事業用)」である。後者では普通充電設備の設備購入費が半額、設置工事費は1基目上限135万円、急速充電設備(10kW以上)と超急速充電設備(90kW以上)は設備購入費が全額(機種ごとの上限あり)、設置工事費の上限がそれぞれ6.2万円/kW・8万円/kWと設定されている。受付期間は令和8年6月26日から令和9年3月31日まで。自社の計画がどちらの事業区分に該当するかは、申請前に受付窓口へ確認しておきたい

表4 普通充電設備に適用できる主な補助制度(令和8年度)
制度執行主体対象普通充電設備の支援内容
充電・充てんインフラ等導入促進補助金次世代自動車振興センター(国)集合住宅・事業所・商業施設・宿泊施設設備購入費 最大1/2、工事費 全額
充電設備普及促進事業(事業用)東京都環境公社商業施設・事務所・工場等設備購入費 1/2、設置工事費 1基目上限135万円
充電設備普及促進事業(居住者用)東京都環境公社集合住宅等・区市町村の公共施設等設備購入費 1/2、設置工事費 1基目上限135万円

令和8年度の公表内容にもとづく。予算枠・受付期間・要件は年度ごとに変わるため、申請時に必ず最新の公募要領を確認すること。出典:次世代自動車振興センター/東京都環境公社(クール・ネット東京)

補助を織り込むと、300室モデルの充電設備2基分は設備購入費の半額と工事費相当の支援が乗り、実質負担は低位ケースで数十万円まで下がる。逆に言えば、受電段上げが必要なケースの1,500万円は補助の対象外であり、実質負担の大部分は受変電側で決まる。設計初期に負荷計算へ充電負荷を織り込んでおけるかどうかが、そのまま実質負担の差になる。

収益側 — 課金収入とEV利用客の取り込み

ここまではコスト側の話だが、充電設備には収益側の余地もある。国内のEV・PHEV新車販売比率は2026年6月に5.48%と、前年同月の2.91%から2.57ポイント上昇して過去最高を記録した。政府は2035年までに乗用車新車販売における電動車比率100%、2030年までに充電インフラ30万口(公共用の急速充電器3万口を含む)という目標を掲げている。宿泊施設は「目的地充電」の主要な設置先として位置づけられており、滞在時間が長いという業態特性は6kW普通充電と相性がよい。口コミから見たEV充電併設の地域的な分布は、車で行く地方の宿、駐車場とEV充電は今どこにある?で詳しく分析している。

課金収入を試算してみる。普通充電の時間課金の実勢例では10分55円という水準が見られ、3時間の滞在充電で約990円になる。1基あたり1日1回の利用で年間約36万円、2基で約72万円。前節で見たOpex(12kW分の基本料金約14万円+ネットワーク・保守)を上回る計算になる。利用が1日1回に届かない立ち上がり期でも、Opexの過半をカバーできる水準にある。

加えて、駐車場そのものが評価される商圏かどうかで価値は変わる。当社が宿泊者口コミの言及率から作成した駐車場の評価地図では、東京は駐車場への言及率2.0%と全国でも低い一方、鉄道結節の弱い地方都市では10%を超える。東京都の義務対応で先行して知見を積み、駐車場が評価される商圏の案件に横展開するという順序は、チェーン展開する事業者にとって合理的な進め方になる。訪日レンタカー需要との接続も見込める領域で、当社の訪日レンタカーと駐車場言及の分析では繁体字レビューの駐車場言及が英語の2.9倍という差が出ている。

まとめ — 金額ではなく設計順序の問題

東京都の電気自動車充電設備整備義務について、開発企画の観点で整理すると次のようになる。

第一に、義務は面積でも客室数でもなく駐車区画数で発生する。ホテルの宿泊客用駐車場は共用駐車場にあたり、10台以上で充電設備1台以上と配管等20%以上が求められる。「20%に充電器」が効くのは従業員用・社有車用などの専用駐車場で、5台以上が対象になる。

第二に、附置義務から逆算すると、都心商業地のホテルは約140室で対象に入る。2026年6月に公表された駐車場条例の見直し案(原単位300→450㎡/台)が成立すれば、この閾値は約180室へ後退する。駐車場条例と充電設備義務が数量的に連動しているため、2026〜2027年に確認申請を出す案件は両制度の動きを同時に見る必要がある。

第三に、Capexは78万〜1,932万円と幅が大きいが、幅の正体は受電容量である。充電設備と配管の合計は78万〜432万円で、1室夜あたりに直すと0.6〜3.3円。事業性を左右する規模ではない。一方、受変電設備の段上げが必要になると1,500万円級となり、しかもこの部分は補助の対象外になる。基本設計の負荷計算に充電負荷を織り込む段階で、ほぼ結論が決まる

第四に、義務で求められる区画数を超えて先行配管を入れておく判断には、はっきりしたアップサイドがある。新築同時施工なら1区画1万〜4万円で、300室モデルの25区画全数に通しても増分は数十万円。EV新車販売比率が年間2ポイント以上のペースで上がっている局面で、後年の改装時に壁を開けて配管をやり直すコストを回避できる。あわせて受変電に将来分の余力を見ておけば、課金収入を取りにいく選択肢も後から開く。

当社はこれまで、水道加入金上下水道費ごみ処理費と、事業計画のひな形から抜けやすいインフラコストを順に定量化してきた。電力インフラはそのなかで最も金額が小さく、しかし最も設計の早い段階で決まってしまう層である。確認申請の直前に気づくと選択肢がない一方、基本設計で織り込めば数十万円で済む——この非対称性こそが、このレイヤーを企画段階のチェックリストに入れる理由になる。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

制度要件は東京都環境局「電気自動車充電設備整備基準」および都民の健康と安全を確保する環境に関する条例、附置義務台数は東京都駐車場条例の原単位(ホテル・旅館300㎡/台、見直し案450㎡/台)。計画中・建設中の案件は国土交通省「建築物動態統計調査」由来の建築計画データ(重複除去後 N=69件・うち東京都18件/3,497室、調査時点)。推定成約ADRは東京都のビジネスホテルを対象とした月次集計の直近12ヶ月中央値(N=910施設、2025年9月〜2026年8月)。機器費・工事費・運用費は東京都都市整備局の駐車場条例検討委員会資料、補助制度は次世代自動車振興センターおよび東京都環境公社の公表要領による。

■ 試算前提

1室あたり延べ面積25㎡、附置義務台数=実際に設ける駐車区画数と仮定。延べ面積6,000㎡未満は東京都駐車場条例の緩和係数(4×延べ面積−6,000)÷900を適用し端数切上げ。充電設備は出力6kW級の普通充電設備を基本とし、300室モデルでは共用1基+専用1基=2基、配管等は共用5区画+専用3区画=8区画を義務水準とした。Capexは15年均等償却、稼働80%(300室で年間87,600室夜)で1室夜あたりに換算。感度分析では充電設備+配管を高位432万円で固定し、規模差は償却の分母にのみ反映した(小規模案件に対して保守的な置き方)。運用費の12kW相当額は50kW級の実勢値からの比例換算による当社試算。

■ 限界・留意点

附置台数および充電設備の要否・数量の最終判定は所管との協議で決まり、駐車部分の面積算入や緩和措置の適用によって変動する。建築計画データの延べ面積は確認申請時点の値で、複合用途の案件ではホテル部分と建物全体を分離できない。受電容量の段上げ要否は各案件の負荷計算と既存設計余裕に依存するため、本稿のCapexレンジは上下限の目安であり特定案件の予算ではない。補助制度の予算枠・受付期間・要件は年度ごとに変わる。駐車場条例の見直しは2026年9月時点で意見募集を終えた段階で、条例改正は未了。推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。

■ 制度・一次資料

■ 補助制度

■ 市場データ

EV充電器の設置義務、ホテルは約120室から対象 — 東京都の新築規制とCapex試算

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