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ワイン産地に泊まる秋2026 — 甲州・信州・空知余市・置賜、収穫期の宿泊単価と受け皿

投稿日 : 2026.08.10 更新日 : 2026.09.02

山梨県

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エリア・施設分析

日本ワインの主要産地は、いま「畑を見に行く旅」の目的地になりつつある。だが収穫期にその土地へ泊まろうとすると、産地によって選択肢の厚みがまるで違う。本稿では甲州(山梨)・信州(長野)・空知余市(北海道)・置賜(山形)の4圏について、収穫期にあたる2026年9〜11月の実勢単価と、産地内に存在する宿泊在庫の量を突き合わせ、「どこに泊まる旅になるのか」を数字で描き出す。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%(照合対象はインヴィンシブル投資法人の184物件月・2026年4〜5月)。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値であり、そのエリアの標準的な施設の水準を示します。
  • 掲載価格:OTA等に掲載されている全プランの平均価格(2名1室・1室あたり・税込)。ADRとは別の指標です。
  • 推計の基準(重要):過去月の推定成約ADRは確定した観測実績にもとづく値、当月以降の月は調査時点の掲載状況から推計したスナップショット値です。基準が異なるため、過去月と将来月をまたいだ前年同月比の算出は本稿では行っていません。
  • N(サンプル数):推定成約ADRの算出対象となった施設数。掲載価格の集計対象施設数とは異なります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(2026年7月26日集計時点)
Key Takeaways
  • — 約1.9倍 — 収穫期(2026年10月)の推定成約ADRは長野・東御市¥19,644が最高、山形・高畠町¥10,136が最低。ただし上位は推計対象2〜4施設と母数が薄い。
  • — 1.5〜4.6% — 甲州市135室・東御市88室・余市町60室・高畠町65室と産地中心地の在庫は小さく、近接都市に対する客室数比率はこの範囲にとどまる。
  • — 16.1% — 例外は置賜。上山市696室・南陽市205室と産地圏の内側に温泉宿が集積し、対山形市比は他3圏の3〜10倍にあたる。
  • — 9/11市町村 — 2025年実績では9〜11月の単価指数が年平均±7%以内。年間最高値は8月・12月に付き、収穫期はまだ価格上のピークになっていない。
  • — 5.09% vs 0.11% — 夕食時の飲みものへの口コミ言及比率は置賜が最高、空知余市が最低。宿の食卓が産地の文脈を取り込めているかで4圏がはっきり分かれる。

収穫期の実勢単価 — 4圏12市町村を横に並べる

まず、収穫期の中心である2026年10月の推定成約ADRを、4圏の主要12市町村について横並びにした。比較の公平性を保つため、同じ推計基準(調査時点の掲載状況にもとづく推計)で揃えている。

最も高いのは長野・東御市の¥19,600、次いで山梨・甲州市の¥19,100、山形・上山市の¥18,900と続く。一方、最も低いのは山形・高畠町の¥10,100、次いで北海道・余市町の¥10,900だった。首位と最下位の差は約1.9倍にひらく。

ただしこの序列をそのまま読むことはできない。東御市の推計対象はわずか2施設、甲州市は4施設、余市町は3施設にとどまる。産地の中心地であっても、宿泊在庫そのものが小さいため、1〜2軒の価格設定が圏域の代表値を大きく動かしてしまう。逆に上山市(16施設)、上田市(28施設)、笛吹市(40施設)は母数が厚く、値の安定性が高い。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

表1:ワイン産地4圏 主要16市町村の収穫期(2026年10月)推定成約ADRと宿泊在庫
圏域市町村 推定成約ADR
2026年10月
推計対象
施設数(N)
運営中
施設数
客室数
甲州(山梨)甲州市(勝沼)¥19,118413135
甲州(山梨)笛吹市(石和)¥14,25240502,168
甲州(山梨)山梨市¥14,43448209
(近接都市)甲府市¥11,32432432,956
信州(長野)東御市¥19,6442588
信州(長野)塩尻市(桔梗ヶ原)¥15,7001011771
信州(長野)上田市¥15,02328842,764
信州(長野)小諸市¥13,5851318526
(近接都市)松本市¥15,664931664,889
空知余市(北海道)余市町¥10,9003660
空知余市(北海道)岩見沢市¥15,03446218
(近接都市)小樽市¥12,72624441,987
置賜(山形)上山市(かみのやま)¥18,9411635696
置賜(山形)南陽市(赤湯)¥14,0111313205
置賜(山形)高畠町¥10,1362365
(近接都市)山形市¥13,62449584,313

推計対象施設数が5未満のセルは赤色の数値で表示。運営中施設数・客室数はメトロエンジンリサーチが把握する範囲での2026年7月時点の値。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

宿泊の重心はどこにあるか — 客室数が語る4つの構造

単価より雄弁なのは客室数である。ワイナリーが集まる中心地そのものに何室あるのか、そして近接する都市に何室あるのか。この2つを並べると、産地ごとに「旅の泊まり方」がまったく違うことが見えてくる。

山梨県公式の統計によれば、県内のワイナリーは89場で全国493場の18.0%を占め、日本ワイン製成数量では全国の29.9%にあたる4,278klを産する。その中心である甲州市(旧・勝沼町)にある宿泊施設は13軒・135室にとどまる。一方、南西に隣接する笛吹市は50軒・2,168室、県都・甲府市は43軒・2,956室。つまり甲州エリアの宿泊需要は、産地の丘の上ではなく石和温泉と甲府盆地の市街地が受け止めている構造だ。ぶどうをはじめとする果樹の収穫期に産地の宿泊需給がどう動くかは、フルーツ狩りツーリズム2026夏 — 山梨ぶどう・福島桃・山形さくらんぼ産地ホテル需給分析でも山梨・山形を軸に検証している。

信州は少し様相が違う。桔梗ヶ原を擁する塩尻市が11軒・771室、千曲川ワインバレー東地区の中核である東御市が5軒・88室と、産地中心地はいずれも小さい。ただし上田市84軒・2,764室、松本市166軒・4,889室と、30〜40分圏に厚い受け皿が二重に存在する。産地を「点」で訪ね、拠点は都市に置く旅程が自然に成立する。

北海道は最も明快だ。余市町のワイナリーは町公式のワインツーリズム事業が紹介するとおり急増しているが、町内の宿泊施設は6軒・60室。空知の岩見沢市も6軒・218室である。対してJRで30分ほどの小樽市は44軒・1,987室。宿泊の重心は完全に小樽側にあり、産地は日帰り訪問先として機能している。

置賜は4圏のなかで最もバランスが取れている。高畠町こそ3軒・65室だが、南陽市(赤湯温泉)13軒・205室、上山市(かみのやま温泉)35軒・696室と、産地圏の内側に温泉宿の集積がある。山形市の4,313室に頼らずとも、圏内で完結する泊まり方が選べる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

産地中心地の客室数を近接都市で割ると、その差は数字として際立つ。甲州市/甲府市は4.6%、余市町/小樽市は3.0%、東御市/上田市は3.2%、高畠町/山形市は1.5%。これに対し上山市/山形市は16.1%と一桁違う水準にある。産地の内側にどれだけ泊まれるか、という一点で置賜が抜けている。

受け皿が薄い産地は、裏を返せば収穫期に訪れる旅行者の滞在時間と消費を、まだ十分に取り込みきれていないということでもある。余市町・東御市・甲州市はいずれもワイナリー数が伸びている地域であり、宿泊在庫の追加はそのまま地域内消費の上積みに直結する成長余地といえる。

円の大きさは客室数。濃い円が産地中心地、薄い円が近接都市。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

温泉を併せ持つ産地が単価で優位に立つ理由

収穫期の単価上位に並んだ市町村には共通点がある。上山市はかみのやま温泉、南陽市は赤湯温泉、笛吹市は石和温泉を抱える。いずれも産地であると同時に温泉地であり、夕食と入浴を含む一泊二食の宿が主力を占める。

この構造は単価の水準に直結する。素泊まり中心のビジネスホテルが在庫の中心を占める甲府市(2026年10月 推定成約ADR ¥11,300、N=32)や余市町(¥10,900、N=3)に対し、上山市は¥18,900(N=16)と1.7倍の水準にある。同じ収穫期でも、旅行者が支払う金額は「何を食べて何に入るか」で決まっている。

温泉地を併せ持つことは、季節分散の面でも効いている。2025年の実績値で月次の変動を見ると、上山市は年間を通じて年平均の84〜124の範囲に収まり、南陽市も9〜11月に114と年平均を上回る水準を維持したうえで11〜12月にさらに伸びる。ワインの収穫期という単一の需要期に依存せず、通年で複数の来訪動機を持てる点が、価格の底堅さにつながっている。

収穫期は、まだ年間ピークになっていない

ここまでは収穫期の水準そのものを見てきた。では収穫期は、その土地にとって一年で最も単価が高い時期なのだろうか。確定した観測実績が揃う2025年の月次データで検証すると、答えは意外なものになる。

各市町村の月次推定成約ADRを年平均=100に指数化したところ、収穫期にあたる9〜11月の平均指数は、甲州市103、塩尻市105、小諸市104、上山市107、南陽市114。一方で笛吹市97、上田市99、余市町98、岩見沢市99、山梨市93、小樽市86と、年平均を下回る産地も少なくない。11市町村のうち9市町村が年平均の±7%以内に収まっている。

そして年間の最高値がついた月を見ると、甲州市は5〜6月、塩尻市・小諸市・小樽市は8月、笛吹市・上田市・南陽市・上山市は12月だった。夏休みと年末年始という全国共通の需要期が、ぶどうの収穫期を上回っている。ワインの造り手にとって最も重要な季節が、宿泊単価の上ではまだ「特別な季節」になりきっていない、ということである。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

これは大きなアップサイドの所在を示している。甲州市かつぬまぶどうまつりは例年10月上旬に開かれ、山梨県ワイン酒造組合が扱う新酒は11月3日に解禁される。高畠ワイナリーのハーベストフェスティバルも10月に催される。イベントカレンダーの上では収穫期は明確な需要期として設計されているにもかかわらず、宿泊単価がまだそれを織り込みきっていない。収穫期を軸にした滞在プランの設計と、それに見合う価格設計の余地が、産地ぜんたいに残されている。9〜11月の宿泊価格が予約時点でどう形づくられているかは、予約時点で見える秋の価格地図2026が全国のフォワードADRから読み解いている。

「ワインが語られる宿」はどこに集まっているか

宿がワイン産地の文脈を取り込めているかどうかは、宿泊者の声に現れる。ホテルバンク編集部では、4圏13市町村の主要宿泊施設80軒に寄せられた直近24ヶ月・計21,942件の宿泊者口コミを集計し、夕食時の飲みもの(ワインのペアリング、ソムリエによる提案、飲みくらべなど)に触れた言及の比率を算出した。

結果は圏域ごとにはっきり分かれた。置賜(山形)が5.09%(18施設・3,791件)で最も高く、甲州(山梨)が3.69%(20施設・4,989件)で続く。これに対し信州(長野)は0.48%(26施設・4,386件)、空知余市(北海道)は0.11%(16施設・8,776件)にとどまる。言及があった施設数で見ても、置賜7/18施設、甲州8/20施設に対し、信州2/26施設、空知余市1/16施設という差がある。

この分布は、前節までに見た宿泊在庫の構造とほぼ重なる。産地の内側に一泊二食の温泉宿を持つ置賜と甲州では、夕食の場でその土地の飲みものが話題になる。宿泊の重心が都市部のビジネス・シティホテルにある信州と空知余市では、夕食そのものが宿の外にあるため、宿の口コミにワインの話が現れにくい。

市町村別に見ると、甲州市が13.07%(7施設・482件)で最も高く、南陽市7.48%(8施設・628件)、上山市5.02%(8施設・2,909件)、山梨市4.68%(5施設・684件)、笛吹市2.33%(8施設・3,823件)と続く。逆に塩尻市・東御市・余市町・岩見沢市・高畠町では、集計対象施設のなかに該当する言及が確認できなかった。

言及比率は口コミ総数に対する該当言及の比率であり、評価スコアとは異なります。
出典:ホテルバンク編集部調べ(直近24ヶ月・80施設・21,942件)

参考として、同じ手法で日本酒・地酒に関する言及も集計したが、80施設・21,942件のなかで該当する言及は確認できなかった。全国規模で見ても、夕食時の飲みものに関する言及が30件以上ある施設は上位100施設が埋まる一方、日本酒・地酒の言及が30件以上ある施設は全国で1軒も確認できない。宿の食卓で語られる飲みものとしては、ワインやペアリング全般のほうが圧倒的に言及されやすいということである。宿の食卓で地酒がどう位置づけられているかについては、秋の地酒が旅を彩る宿 都道府県別TOP30が都道府県別の分布を整理している。

個別施設で見ると、夕食時の飲みものへの言及比率が高い宿は産地圏に確かに存在する。山形・上山市の「果実の山 あづま屋」(56室)は20.30%(271件中55件)、南陽市の「上杉の御湯 御殿守」(32室)は17.42%(155件中27件)、山梨・甲州市の「笛吹川温泉 別邸 坐忘」(18室)は16.86%(344件中58件)。いずれも客室数60室以下の中小規模の宿であり、食卓との距離が近い運営が評価につながっている。

表2:夕食時の飲みものへの口コミ言及比率が高い宿 上位10施設(4圏13市町村・80施設中)
市町村施設名 客室数口コミ件数 夕食時の飲みもの
言及比率
上山市果実の山 あづま屋5627120.30%
南陽市上杉の御湯 御殿守3215517.42%
甲州市笛吹川温泉 別邸 坐忘1834416.86%
上山市月岡ホテル10152611.03%
南陽市山形座 瀧波1912711.02%
笛吹市大江戸温泉物語 石和温泉 ホテル新光1075028.57%
山梨市フルーツパーク富士屋ホテル433037.26%
小諸市小諸グランドキャッスルホテル912765.43%
南陽市赤湯温泉 森の湯131115.41%
笛吹市石和常磐ホテル584394.33%

対象は4圏13市町村で口コミ100件以上の80施設。言及比率は評価スコアではありません。
出典:ホテルバンク編集部調べ(直近24ヶ月)

直近3年の供給追加 — どこに客室が増えたか

受け皿の薄さが成長余地であるならば、実際に客室は増えているのか。2024年から2026年にかけて新たに確認できた開業を市町村別に集計した。

最も動きが大きいのは小樽市で、3年間に18軒・258室が加わった。2025年7月開業の「小樽グランベルホテル」159室が牽引し、2026年2月には19室の旅館も加わっている。次いで笛吹市が6軒・233室。2024年7月に91室、2026年6月には136室の施設が石和温泉エリアに開業しており、甲州圏の受け皿は着実に厚みを増している。塩尻市も2024年7月に91室が加わった。

一方、産地中心地の動きは小さい。余市町は4軒・9室、東御市は1軒・4室、甲州市は1軒・1室、高畠町は3年間で新規の確認がなかった。追加された施設はいずれも数室規模の小型宿である。

※OTA掲載確認ベース。掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は今後の掲載で増加する可能性があります。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)

今後のパイプラインについても確認した。国土交通省「建築動態統計調査」にもとづく建築計画データを照会したところ、本稿が対象とする4圏12市町村では該当する計画を確認できなかった。ただしこれは確認申請ベースのデータであり、申請は通常開業の1〜2年前に行われる。今後の申請追加によって件数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値として参照すべき数字である。

つまり、産地中心地の宿泊在庫が短期に大きく変わる材料はいまのところ限定的で、当面は「産地は日中に訪ね、夜は近接都市か温泉地に泊まる」という現在の旅程が続くと見るのが自然だ。裏を返せば、産地内で滞在を完結させたい旅行者の需要は、まだ十分に満たされていない領域として残っている。

受け皿の薄さは、単価では埋まらない — 感応度で見る

ここまでの数字は、単価と客室数という2つの軸で産地を描いてきた。この2つを掛け合わせると、産地中心地が収穫期に受け止められる規模がそのまま見える。以下はいずれも本稿に登場した実測値の単位換算・延長計算であり、将来の需要や稼働率を予測したものではない。

まず、供給の追加ペースを延長してみる。直近3年(2024〜2026年)に産地中心地へ加わったのは甲州市1室・東御市4室・余市町9室で、高畠町は確認できなかった。このペースが今後3年続いた場合、そして倍のペースになった場合の客室数と、近接都市に対する比率は次のようになる。

表4:直近3年の供給追加ペースを延長した場合の産地中心地の客室数と対近接都市比率(3年後)
シナリオ甲州市
/甲府市
東御市
/上田市
余市町
/小樽市
高畠町
/山形市
悲観:追加なし(据え置き)135室
4.6%
88室
3.2%
60室
3.0%
65室
1.5%
中位:直近3年と同ペース136室
4.6%
92室
3.3%
69室
3.5%
65室
1.5%
楽観:直近3年の2倍ペース137室
4.6%
96室
3.5%
78室
3.9%
65室
1.5%

本文記載の2024〜2026年の供給追加実績(甲州市1室・東御市4室・余市町9室・高畠町0室)をそのまま3年延長した算術値。稼働率・単価の変化は織り込んでいない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

2倍のペースでも、対近接都市比率が動くのは余市町の3.0%→3.9%、東御市の3.2%→3.5%にとどまる。甲州市と高畠町にいたっては小数第1位すら変わらない。産地中心地の在庫が薄いという構造は、供給側の努力を2倍にしても3年では変わらない — 「産地は日中に訪ね、夜は近接都市か温泉地に泊まる」旅程が当面続くと見た前節の判断は、この計算からも裏づけられる。

もう一方の軸が単価である。客室数と推定成約ADRを掛けた「満室相当の1泊あたり客室売上」は、産地圏がその夜に受け止められる金額の理論上限にあたる。実測レンジの内側で両軸を振ると、単価の差より客室数の差のほうがはるかに大きく効くことがわかる。

表5:客室数×推定成約ADR で見た満室相当の1泊あたり客室売上(理論上限・稼働率は織り込まない)
客室数\推定成約ADR¥10,000¥12,500¥15,000¥17,500¥20,000
60室60万円75万円90万円105万円120万円
220室220万円275万円330万円385万円440万円
380室380万円475万円570万円665万円760万円
540室540万円675万円810万円945万円1,080万円
700室700万円875万円1,050万円1,225万円1,400万円

両軸とも本文に登場する実測レンジ(客室数60〜696室/推定成約ADR ¥10,136〜¥19,644)の内側。セルは客室数×ADRの単位換算であり、予測ではない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

甲州市(135室・¥19,118)は約258万円、上山市(696室・¥18,941)は約1,318万円。単価はほぼ同じでも、その夜に受け止められる規模は5倍以上ひらく。逆に、余市町(60室・¥10,900)が上山市と同じ規模に届くには、単価を2倍にしても足りず、客室数そのものを一桁増やす必要がある。収穫期のアップサイドを単価だけで取りにいくのは、産地中心地では構造的に難しい。

4圏それぞれの「泊まり方」

ここまでの数字を整理すると、4圏はそれぞれ異なる性格を持つことがわかる。

表3:ワイン産地4圏の宿泊構造まとめ — 重心・産地中心地の客室数比率・言及比率
圏域宿泊の重心 産地中心地の
客室数比率
夕食時の飲みもの
言及比率
特徴
置賜(山形)産地圏の内側16.1%5.09%赤湯・かみのやま温泉が受け皿。圏内完結型
甲州(山梨)石和温泉・甲府4.6%3.69%温泉地が近接。供給追加も進行中
信州(長野)上田・松本3.2%0.48%都市拠点が二重に厚い。産地は点で訪問
空知余市(北海道)小樽3.0%0.11%ワイナリー集積の伸びに対し在庫は最小

産地中心地の客室数比率は、甲州=甲州市/甲府市、信州=東御市/上田市、空知余市=余市町/小樽市、置賜=上山市/山形市で算出。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部調べ

置賜は、産地の内側に温泉旅館の集積を持ち、収穫期の単価も4圏で最上位級、宿泊者の口コミにワインが最も登場する。産地滞在型のモデルとして完成度が高い。

甲州は、日本最大のワイン産地でありながら宿泊は石和温泉と甲府に依存する。ただし笛吹市には直近3年で233室が加わっており、受け皿の厚みは増している。産地の丘とワイナリー、温泉地の宿を組み合わせた導線が今後の軸になる。

信州は、上田・松本という強い都市拠点を持つがゆえに、産地そのものへの滞在需要が可視化されにくい。塩尻市の桔梗ヶ原、東御市の千曲川ワインバレー東地区はいずれも小規模宿の集積地であり、ここに滞在型の受け皿が加われば、宿泊の重心が動く可能性がある。

空知余市は、ワイナリー数の伸びが4圏で最も鮮烈だ。北海道全体で稼働中のワイナリーは76か所、うち余市町に13か所、空知に11か所が集まる。それに対して余市町の宿泊在庫は60室。ここには最も大きなポテンシャルが眠っている。

まとめ — 収穫期を「特別な季節」にできるか

本稿で確認できたことは3つに整理できる。第1に、収穫期2026年10月の推定成約ADRは東御市¥19,600、甲州市¥19,100、上山市¥18,900が上位に並ぶ一方、これら産地中心地の推計対象施設数は2〜16施設と幅があり、宿泊在庫の小ささが単価の振れをそのまま生んでいる。

第2に、宿泊の重心は産地ごとに大きく異なる。産地中心地の客室数を近接都市と比べると、置賜16.1%に対し甲州4.6%、信州3.2%、空知余市3.0%。産地の内側に泊まれるかどうかが、旅の設計を根本から変えている。

第3に、収穫期はまだ年間のピークになっていない。2025年の実績では11市町村のうち9市町村で9〜11月の単価水準が年平均の±7%以内にとどまり、年間最高値は夏休みか年末年始についている。イベントとしての収穫祭・新酒解禁は定着しているにもかかわらず、宿泊単価にはまだ反映されていない。

この3点はいずれも、産地の宿泊事業にとっての伸びしろを示している。収穫期を軸にした滞在プランを設計し、ワイナリーとの導線を宿の体験に組み込み、その価値に見合う価格を提示する。宿泊者の口コミがすでに示すとおり、夕食の場でその土地の飲みものが語られる宿は、確かに評価を集めている。日本ワインの産地としての認知が全国に広がるいま、その受け皿づくりが次の段階に入りつつある。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9〜11月の推定成約ADRは、調査時点(2026年7月26日)でOTA等に公開されている販売価格から推計したスナップショット値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。とくに推計対象施設数が5未満の市町村(甲州市・山梨市・東御市・余市町・岩見沢市・高畠町)は、1〜2施設の価格変更が数値を大きく動かすため、水準の目安としてご参照ください。また過去月の値は確定した観測実績、将来月の値は掲載状況からの推計であり基準が異なるため、両者をまたいだ前年同月比は本稿では算出していません。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(2026年7月26日集計時点。対象16市町村、月あたりN=2〜93施設)、運営中施設数・客室数(2026年7月時点)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース・2024〜2026年)。口コミは4圏13市町村のうち口コミ100件以上の80施設・21,942件(直近24ヶ月)をホテルバンク編集部が集計。公的統計は山梨県・余市町・北海道空知総合振興局・国土交通省「建築動態統計調査」。

■ 試算前提

収穫期を9〜11月、その中心を2026年10月と置いた。市町村間の比較は同一の推計基準(調査時点の掲載状況にもとづくスナップショット)で揃え、基準の異なる過去月と将来月をまたぐ前年同月比は算出していない。季節性の指数は2025年の確定値のみを用い、各市町村の年平均を100として指数化した。供給シナリオは本文記載の直近3年の追加実績をそのまま3年延長した算術値で、稼働率・単価の変化は織り込んでいない。満室相当の客室売上は「客室数×推定成約ADR」の理論上限であり、予測値ではない。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは推定値で、上場ホテルREIT開示の物件別実績との照合における誤差中央値は約7%(インヴィンシブル投資法人184物件月・2026年4〜5月)。推計対象施設数が5未満の市町村(東御市2・甲州市4・山梨市4・岩見沢市4・余市町3・高畠町2)は、1〜2軒の価格設定が代表値を動かす。口コミの言及比率は評価スコアではなく、施設ごとの口コミ総数に対する該当言及の比率。新規開業はOTA掲載確認ベースのため掲載前の案件を含まず、建築計画データは確認申請ベースで確定パイプラインの下限値として読む必要がある。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(2026年7月26日集計時点)、運営中施設数・客室数、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)
  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミ集計(4圏13市町村・80施設・21,942件・直近24ヶ月)

■ 政府統計・自治体公式

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ワイン産地に泊まる秋2026 — 甲州・信州・空知余市・置賜、収穫期の宿泊単価と受け皿

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