富山県の宿泊市場は、ひとつの県のなかに性格の異なる商圏が並走している。宇奈月温泉を抱える黒部市、立山黒部アルペンルートの玄関口である立山町、世界遺産・五箇山の南砺市と寒ブリの氷見市、そして北陸新幹線で結ばれた富山市・高岡市・射水市の都市圏。メトロエンジンリサーチが集計した14市町村の月次データを並べると、推定成約ADRは最上位と最下位で3.3倍に開き、明確な4つの層に分かれることが見えてくる。本稿では市町村別の単価構造、季節カーブ、新規供給の偏り、そして価格帯のホワイトスペースを順に読み解いていく。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 掲載価格(全プラン平均):OTA等に公開されている全プラン(素泊まりから食事付きまで)の平均額。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。推定成約ADRとは別の指標であり、本文では明確に区別して記載します。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ。国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としています。
- 参考値の扱い:推定成約ADRの算出対象施設が5施設未満の市町村は「参考値」と表記し、断定的な評価は行いません。
- — 3.3倍 — 14市町村の推定成約ADRは黒部市¥15,900から入善町¥4,800まで開き、¥13,000/¥10,000/¥6,500を境に温泉リゾート・山岳/食/世界遺産・都市業務・郊外の4層に分かれる。
- — 4.2倍と2.0倍 — 掲載価格(全プラン平均)と推定成約ADRの距離は立山町4.2倍、射水市2.0倍。この倍率そのものが、そのエリアの商品構成の幅を映す指標になる。
- — 掲載+8〜12%/実勢横ばい — 県全体の掲載価格は2026年5〜7月に前年同月比+8.1〜12.0%で先行する一方、推定成約ADRは-2.3〜+0.6%。ただし2025年12月+9.8%・2026年1月+13.6%と冬季だけは実勢も伸びる。
- — 573室すべてが宿泊特化型 — 2025年の大型開業3件で573室が加わり、2026年の大型2件(計104室)も同じ方向。直近2年の新規供給は¥5,000〜10,000帯に厚みを足した。
- — 客室シェア11% — ¥13,000〜25,000のアッパーミドル帯は19施設・1,289室にとどまり、50室以上に絞ると県内9施設。2026年10月の黒部峡谷鉄道全線再開を控え、中規模層に余白が残る。
14市町村で3.3倍 — 富山県の単価が描く4層構造
まず全体像を押さえたい。2025年9月から2026年7月までの11ヶ月について、市町村ごとに推定成約ADRの月次中央値を求め、その中央値をとった。最上位は宇奈月温泉を擁する黒部市の約¥15,900、最下位は入善町の約¥4,800(参考値)で、その差は3.3倍にのぼる。県全体の推定成約ADRは直近月(2026年7月)で¥7,400、対象施設N=170であり、県平均は都市部の施設数に引っ張られて下位層寄りに位置している。
この14市町村を単価水準で並べると、階段状に4つのまとまりが現れる。境界はおおむね¥13,000、¥10,000、¥6,500に置くことができ、それぞれが観光資源のタイプと素直に対応している点が富山県の特徴だ。
N=14市町村(2025年9月〜2026年7月の月次中央値)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
| 層 | 市町村 | 推定成約ADR | 掲載価格 | 観測施設数 | 主な需要源 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1層 温泉リゾート | 黒部市 | ¥15,900 | ¥38,700 | 15〜17 | 宇奈月温泉・黒部峡谷 |
| 上市町 参考値 | ¥13,100 | ¥33,100 | 4〜5 | 剱岳登山口・大岩 | |
| 第2層 山岳・食・世界遺産 | 氷見市 | ¥12,600 | ¥34,600 | 34〜36 | 寒ブリ・氷見温泉郷 |
| 南砺市 | ¥11,300 | ¥26,900 | 27〜35 | 世界遺産・五箇山 | |
| 立山町 参考値 | ¥10,800 | ¥44,700 | 5〜15 | 立山黒部アルペンルート | |
| 砺波市 | ¥10,400 | ¥36,300 | 12〜16 | 庄川温泉郷・チューリップ | |
| 第3層 都市・業務 | 朝日町 参考値 | ¥8,800 | ¥24,300 | 4〜6 | ヒスイ海岸・春の四重奏 |
| 滑川市 参考値 | ¥7,300 | ¥22,500 | 2〜4 | ホタルイカ・業務需要 | |
| 富山市 | ¥7,000 | ¥17,800 | 70〜86 | 県都・北陸新幹線 | |
| 魚津市 | ¥6,800 | ¥13,600 | 11〜14 | 蜃気楼・金太郎温泉 | |
| 射水市 参考値 | ¥6,800 | ¥13,300 | 4〜7 | 新湊・産業集積 | |
| 小矢部市 参考値 | ¥6,500 | ¥22,200 | 4〜5 | アウトレット・宮島温泉 | |
| 第4層 高回転・広域 | 高岡市 | ¥5,700 | ¥15,000 | 22〜29 | 県西部の広域拠点 |
| 入善町 参考値 | ¥4,800 | ¥12,300 | 4 | 黒部川扇状地・湧水 |
推定成約ADR・掲載価格はいずれも2025年9月〜2026年7月の月次中央値(百円単位に丸め)。観測施設数は同期間の月次レンジ。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
第1層と第2層に共通するのは、宿泊そのものが旅の目的になっている点である。宇奈月温泉の旅館、五箇山の合掌造り集落、庄川温泉郷の料理旅館はいずれも1泊2食が標準で、単価は自然と高く出る。これに対し第3層・第4層は、県都と県西部の業務・移動需要を受け止める宿泊特化型が主力で、稼働の高さで収益をつくる構造だ。同じ県のなかで、収益の作り方そのものが層ごとに異なっている。
掲載価格と実勢の距離 — 立山町4.2倍、射水市2.0倍
次に注目したいのが、掲載価格(全プラン平均)と推定成約ADRの距離である。両者は指標の性格が異なるため水準が一致しないのは当然だが、その「開き方」には市町村ごとに大きな差がある。県全体では掲載価格¥21,700に対し推定成約ADRは¥8,000(2025年11月)で約2.7倍。ところが立山町は4.2倍、砺波市は3.5倍、小矢部市は3.4倍と平均を大きく上回り、逆に射水市と魚津市は約2.0倍にとどまる。
N=13市町村(掲載価格・推定成約ADRの双方を算出できた市町村)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
この開きが大きいエリアは、高価格帯の食事付きプランや特別室プランがOTA上に長く掲載され続けることで、全プラン平均が押し上げられている状態と読める。掲載価格の水準だけを見て「単価の高いエリア」と判断すると、実際に成約している価格帯とはかなり違う絵を描いてしまう。立山町の掲載価格中央値は¥44,700と県内最高だが、推定成約ADRは¥10,800(参考値)で第2層に位置する。掲載は高いが実勢は別、という典型例だ。
反対に射水市・魚津市・入善町のように約2.0〜2.5倍に収まるエリアは、宿泊特化型が中心でプラン構成がシンプルなため、掲載価格と実勢の距離が短い。エリア比較を行う際は、この倍率そのものが「そのエリアの商品構成の複雑さ」を映す指標として使える。
月次カーブ — 紅葉、蟹と寒ブリ、そして冬季閉鎖
層ごとの季節カーブを重ねると、富山県の需要が何によって動いているかがはっきりする。以下は推定成約ADRの月次推移(2025年9月〜2026年7月、いずれも実績確定月)である。
N=6市町村・11ヶ月(2025年9月〜2026年7月)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
もっとも振幅が大きいのが南砺市で、2025年9月の¥8,400から11月の¥15,600へ、わずか2ヶ月で約85%上昇している。五箇山の紅葉と合掌造り集落のライトアップ、そして日本海の冬の味覚が重なる時期だ。2026年1月も¥14,900と高く、2026年1月24日・25日に開催された「四季の五箇山 雪あかり2026」のような冬の集客行事が、この時期の水準を支えている。(四季の五箇山実行委員会)
氷見市も同じ方向を向いている。2025年9月の¥12,400から11月には¥15,200へ上がり、2026年2月まで¥13,000台を維持したのち、夏場は¥11,400台まで下がる。冬季と夏季の差はおよそ+33%。ひみ寒ぶりのシーズンが単価にそのまま出ている形だ。ただし直近シーズンは水揚げが伸びず、2025年10〜12月のブリ水揚げは計約80トンと例年の4割程度にとどまり、「ひみ寒ぶり宣言」も年内に出ないという状況が伝えられている。(北陸中日新聞)資源変動が単価カーブに影響しうる点は、氷見の宿泊市場を読むうえで欠かせない前提だろう。
黒部市は年間を通じて第1層の水準を保ちつつ、2026年1月に¥19,900、5月に¥19,800とふたつの山をつくる。冬の味覚と新緑・トロッコ再開シーズンの二極型カーブである。一方、富山市・高岡市は通年で±15%程度の緩やかな波にとどまり、5月(富山市¥8,000、高岡市¥7,200)に小さな山を持つ。都市部は季節よりも曜日と会期によって動く市場だと言える。会期需要が実際にどう在庫を動かすかは、おわら風の盆2026の平日3日間を宿泊45日前から追った分析が具体的に示している。
立山町については、単価よりも観測施設数そのものが季節を語る。立山黒部アルペンルートは2026年も4月15日から11月30日までの営業予定で、冬季は主要区間が閉鎖される。(富山県観光公式サイト)これに合わせて、OTA上で価格が観測できる施設数は夏場の15施設から冬場の5施設へと3分の1に縮む。営業期間に規定されたこのエリアの宿泊供給がいま再編局面にあることは、ホテル立山の宿泊終了とアルペンルート宿泊エコシステムの再編で詳しく取り上げている。
立山町、N=5〜15施設(月次のOTA掲載観測施設数)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
12月から3月にかけては推定成約ADRの算出対象が1施設まで減るため、この期間の単価は本記事では評価対象から外している。逆に言えば、立山町は「営業期間そのものが商品」であり、6月から11月に需要を集中させる設計が成立しているエリアだ。2026年は全線開業55周年にあたる。(立山黒部貫光)
県全体では掲載価格が先行、実勢は横ばい圏
市町村の話をいったん離れ、県全体の前年同月比を見ておきたい。掲載価格(全プラン平均)は2026年5月に前年同月比+12.0%、6月+8.1%、7月+8.3%と明確な上昇を示す。一方、推定成約ADRは2026年5月+0.6%、6月-2.3%、7月-0.3%と、ほぼ横ばい圏で推移している。
富山県全体、N=159〜170施設(月次・推定成約ADRの算出対象)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
ただし冬季は様相が異なる。2025年12月は推定成約ADRが前年同月比+9.8%、2026年1月は+13.6%と二桁近い伸びを記録した。冬の味覚を軸にした食事付きプランの単価が実際に上がっていることを示す動きで、掲載価格の伸び(12月+3.3%、1月+4.8%)を上回っている。つまり富山県では、通年の掲載価格上昇と、冬季に集中する実勢上昇が別々のリズムで進んでいる。
背景には訪日需要の広がりもある。観光庁の宿泊旅行統計をもとにした集計では、2025年の富山県の外国人延べ宿泊者数は前年比54.5%増と、地方部のなかでも高い伸びを示している。(やまとごころ)立山黒部と五箇山という国際的な訴求力を持つ資源を抱える県として、この流れは第1層・第2層の単価を下支えする要素になる。
この動きが富山県固有のものか、周辺県と並べて確かめておきたい。同じ期間・同じ基準で北陸と隣接県の推定成約ADRを算出すると、富山県の水準と「掲載価格との距離」の両方に、この県ならではの形が現れる。
| 県 | 推定成約ADR | 掲載価格 | 倍率 | 2026年7月 N |
|---|---|---|---|---|
| 富山県 | ¥7,600 | ¥21,900 | 2.88倍 | 170 |
| 新潟県 | ¥9,200 | ¥21,900 | 2.37倍 | 421 |
| 福井県 | ¥10,700 | ¥26,500 | 2.48倍 | 218 |
| 石川県 | ¥10,900 | ¥24,700 | 2.26倍 | 242 |
| 岐阜県 | ¥11,200 | ¥26,400 | 2.35倍 | 382 |
| 長野県 | ¥11,700 | ¥26,800 | 2.29倍 | 820 |
読み取れることは二つある。ひとつは、県単位の推定成約ADR ¥7,600 が隣接5県のなかで最も下位層寄りに位置すること。これは県内で観測施設数がもっとも厚い富山市(月次58施設前後)が県中央値を強く規定しているためで、第1層・第2層の水準(¥11,000〜16,000)は隣接県の県平均と遜色ない。県平均で富山県を語ると、市町村ごとの実態から離れてしまう。
もうひとつは、掲載価格と推定成約ADRの倍率2.88倍が6県中で最も大きいこと。隣接県が2.26〜2.48倍に収まるなかで、富山県はプラン構成の幅が広い——つまり同じ施設のなかに素泊まりと高価格帯の食事付きが同居している状態が、県全体に及んでいる。層別・エリア別に見る意味がそれだけ大きい市場だと言える。
施設分布とADRの地図 — 東の峡谷、西の世界遺産、中央の都市
推定成約ADRを算出できた127施設(計12,109室)を地図に落とすと、富山県の宿泊供給が3つの塊に分かれていることが視覚的にわかる。円の大きさは客室数、色は推定成約ADRの帯を示している。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
東側、黒部川沿いの宇奈月温泉には¥25,000を超える中小規模の旅館が密集する。西側の五箇山・庄川温泉郷にも同様の高単価帯が点在するが、こちらは1施設あたり20〜30室の小規模施設が中心だ。そして中央部、富山駅周辺から高岡・射水にかけては、¥5,000〜¥9,000帯の100室超クラスが帯状に連なっている。高単価は小規模、大規模は低単価という、きれいな逆相関がこの地図には表れている。
直近2年の新規供給は都市層に集中
供給側の動きを確認しよう。メトロエンジンリサーチがOTA掲載を確認した範囲では、2025年の富山県の新規開業は8件、2026年(8月時点)は7件である。このうち客室数の大きいものを並べると、供給の方向性がはっきりする。
| 開業 | 施設名 | 所在 | 客室数 | カテゴリ |
|---|---|---|---|---|
| 2025年5月 | ホテルルートイン射水 | 射水市 | 222室 | ビジネスホテル |
| 2025年8月 | スーパーホテルPremier富山・城址公園前 | 富山市 | 124室 | ビジネスホテル |
| 2025年8月 | ホテルエノエ富山 | 富山市 | 227室 | ビジネスホテル |
| 2025年12月 | HOTEL R9 The Yard 上市 | 上市町 | 38室 | ビジネスホテル |
| 2026年1月 | HOTEL R9 The Yard 魚津 | 魚津市 | 64室 | ビジネスホテル |
| 2026年3月 | HOTEL R9 The Yard 滑川 | 滑川市 | 40室 | ビジネスホテル |
| 2026年1月 | エルム・ステイ | 富山県内 | 13室 | — |
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2025年 N=8件/2026年 N=7件)
2025年の大型開業3件だけで573室が加わり、そのすべてが宿泊特化型である。2026年も客室数の大きい案件はHOTEL R9 The Yardの2件(計104室)で、これも同じ方向だ。残りは1〜2室の貸別荘・コテージ・オーベルジュで、客室数ベースの影響は限定的である。
これらの新設施設の推定成約ADRを見ると、ホテルルートイン射水が¥6,900、ホテルエノエ富山が¥7,100、スーパーホテルPremier富山・城址公園前が¥9,800、HOTEL R9 The Yard 魚津が¥4,900。いずれも第3層・第4層の価格帯に着地している。つまり直近2年の新規供給は、県内でもっとも施設数が厚い¥5,000〜¥10,000帯にさらに厚みを加えた形だ。
供給データの読み方:新規開業データはOTA掲載を確認できた施設の集計です。OTA掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は今後の掲載確認で件数が増える可能性があります。2026年下期以降の開業件数は現時点での観測値であり、確定した供給量ではありません。
価格帯マップに残る伸びしろ — 中規模アッパーミドルの余白
最後に、県内127施設を推定成約ADRの帯で並べ替えて分布を見る。ここに富山県の伸びしろが最もはっきり現れる。
N=127施設・12,109室(2025年9月〜2026年7月)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
| 推定成約ADR帯 | 施設数 | 客室数 | 客室シェア | 1施設平均室数 |
|---|---|---|---|---|
| ¥6,000未満 | 39 | 2,494 | 21% | 64室 |
| ¥6,000〜9,000 | 43 | 6,192 | 51% | 144室 |
| ¥9,000〜13,000 | 14 | 1,464 | 12% | 105室 |
| ¥13,000〜18,000 | 9 | 940 | 8% | 104室 |
| ¥18,000〜25,000 | 10 | 349 | 3% | 35室 |
| ¥25,000以上 | 12 | 670 | 6% | 56室 |
N=127施設・12,109室(2025年9月〜2026年7月に6ヶ月以上の推定成約ADRを算出できた15室以上の施設)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
客室数の51%が¥6,000〜9,000帯に集中している。これが富山県の宿泊供給の主軸だ。その一方、¥13,000〜25,000のアッパーミドル帯は19施設・1,289室で、客室シェアはわずか11%にとどまる。しかもこの帯の1施設平均は35〜104室と、上位帯・下位帯の中間に位置する。
この帯を50室以上に絞ると、県内でわずか9施設しかない。内訳は富山市のダブルツリーbyヒルトン富山(201室・¥17,000)、天然温泉 剱の湯 御宿 野乃富山(151室・¥15,600)、ホテルJALシティ富山(252室・¥13,600)、黒部市の大江戸温泉物語 宇奈月グランドホテル(118室・¥15,500)、グランヴィリオホテル宇奈月温泉(81室・¥13,300)、氷見市の氷見温泉郷 魚巡りの宿 永芳閣(50室・¥16,800)、高岡市の雨晴温泉 磯はなび(50室・¥24,400)、富山市のホテル森の風立山(60室・¥24,200)、朝日町のホテルおがわ(51室・¥22,800/参考値)である。いずれも各エリアで存在感のある人気施設であり、この価格帯に十分な需要があることを実証している。
裏を返せば、「¥13,000〜25,000 × 50〜150室」という、団体・グループ・インバウンドを面で受け止められる中規模アッパーミドルは、県内でまだ厚みが薄い領域だ。黒部峡谷鉄道が2026年10月1日に宇奈月〜欅平間の全線運行を再開し、同月から黒部宇奈月キャニオンルートの観光利用も始まる予定であることを踏まえると、(TRAICY)県東部を中心に、この帯への需要はさらに広がる余地がある。同じ北陸で、アッパーミドル帯の空白が投資余地として顕在化している例は北陸新幹線敦賀延伸後の福井県のホワイトスペース分析も参考になる。
実際、黒部市の推定成約ADRは2026年10月に¥19,400、11月に¥19,700という水準で掲載が進んでいる(調査時点の掲載水準に基づく推定・N=14〜15施設)。既存施設にとっては、既存の高い集客力に段階的なプライシングを組み合わせることで、この時期の収益機会をさらに引き上げるアップサイドがある。第3層・第4層の都市型施設にとっても、朝食やレイトチェックアウトなどの付加価値を束ねた上位プランを設計することで、¥9,000〜13,000帯への接続を狙う余地が残されている。
まとめ — 4層それぞれに異なる打ち手がある
富山県の宿泊市場は、単一の県平均で語ると本質を取り逃がす。宇奈月温泉を核とする第1層は年間を通じて¥15,000超を維持し、冬季にさらに上振れする。五箇山・氷見・庄川を含む第2層は、紅葉と冬の味覚に強く連動した振幅の大きいカーブを描く。県都と県西部を担う第3層・第4層は、季節よりも曜日と会期で動く高回転型の市場だ。
そして県全体としては、掲載価格が前年同月比+8〜12%で先行する一方、推定成約ADRは横ばい圏という状態にある。冬季だけは実勢も+10〜13%と明確に伸びており、食を軸にした商品設計が単価に直結していることを示す。
供給面では、直近2年の新規開業がほぼすべて¥5,000〜¥10,000帯に集中した。結果として、¥13,000〜25,000のアッパーミドル帯、とりわけ50室以上の中規模層に余白が残っている。2026年10月の黒部峡谷鉄道全線再開とキャニオンルート観光利用開始、そして立山黒部アルペンルート全線開業55周年という追い風のなかで、この余白をどう埋めるかが、富山県の宿泊市場にとって次の伸びしろになるだろう。
将来日程のADRに関する注意:本記事で2026年8月以降の月に言及した数値は、調査時点でOTA等に公開されている販売価格をもとにした推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点の水準が今後の価格調整で上下する可能性がある点にご留意ください。分析の中心である2025年9月〜2026年7月は実績が確定した月です。
あわせて読みたい
- おわら風の盆2026、平日3日間の推定OCC85.0% — 富山県の在庫消化を宿泊45日前から読む
- ホテル立山8/31宿泊終了カウントダウン — 立山黒部アルペンルート宿泊エコシステム再編
- プロ野球オールスター2026・富山アルペンスタジアム30年ぶり開催 — 7/29水曜のホテル需給を読む
- 石川県のADR、シティ+3.6%・ビジネス−1.3% — 2026年上期に開いた価格階層の差をどう読むか
- 北陸新幹線敦賀延伸後の福井県投資余地 — 客室単価で金沢を上回る福井のホワイトスペース
- 山口県の宿泊市場を4層で読む — 下関・湯田温泉・岩国・秋吉台/長門湯本の価格とホワイトスペース
- 香川16市町の単価階層マップ2026 — 県内9.4倍差、秋の立ち上がりは層で5倍違う
- 秋のマラソン4大会と宿泊需給2026 — 金沢・水戸・富山・神戸、前夜の価格はもう動いている
参考資料・出典一覧
■ データソース
富山県内でOTA上の販売価格を継続観測できた施設の日次データを月次に集計したもの。市町村別は2025年9月〜2026年7月の11ヶ月(14市町村)、県全体は2024年8月〜2026年7月。施設別の分布は、同期間に6ヶ月以上の推定成約ADRを算出できた15室以上の127施設・12,109室。新規開業はOTA掲載を確認できた施設の集計(2025年 N=8件/2026年 N=7件)。隣接県比較は同一期間・同一基準で算出。
■ 試算前提
推定成約ADRは、各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室・1室あたり・税込)に業態別の補正係数を適用した推定成約単価(税抜相当)。エリア値は対象施設の中央値をとり、さらに月次中央値を代表値とした。掲載価格は全プラン平均(2名1室・1室あたり・税込)で、推定成約ADRとは別指標。立山町のみ、推定成約ADRの算出対象が1施設に減る2025年12月〜2026年3月を除いて代表値を算出している。前年同月比は同一指標同士の比較。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%、91施設・直近3ヶ月間)。算出対象が5施設未満の市町村は参考値とし、断定的な評価は行っていない。観測施設数は季節や掲載状況で変動するため、母集団の増減が水準の見え方に影響する。2026年8月以降の月は調査時点の掲載価格に基づく推定で、チェックイン日に近づくにつれ変動する。新規開業件数はOTA掲載確認ベースであり、直近以降の月は今後の掲載確認で増える可能性がある。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 市町村別 推定成約ADR・掲載価格(2025年9月〜2026年12月、N=14市町村)、施設別 推定成約ADR(N=127施設・12,109室)
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 新規開業データ(OTA掲載確認ベース、2025年 N=8件/2026年 N=7件)
■ 公的機関・観光統計
■ ニュース・事業者発表
