トップ > エリア・施設分析 > 黒川温泉 地震の影響は?南小国町は掲載63軒・9月ADR前年比+8.7% — 熊本の回復の型と応援割後の2027年1月

黒川温泉 地震の影響は?南小国町は掲載63軒・9月ADR前年比+8.7% — 熊本の回復の型と応援割後の2027年1月

投稿日 : 2026.10.24

熊本県

エリア・施設分析

黒川温泉 地震の影響は?南小国町は掲載63軒・9月ADR前年比+8.7% — 熊本の回復の型と応援割後の2027年1月

令和8年熊本地震(2026年7月28日発生)から80日が過ぎた。黒川温泉観光旅館協同組合は「温泉街に大きな被害は確認されておらず、7月29日から平常通り営業」と発表しており(組合公式サイト、2026年8月11日掲載・10月16日確認)、問いはすでに「泊まれるか」から「需要と単価がどこまで戻ったか」へ移っている。本稿ではメトロエンジンリサーチの掲載データで熊本県の掲載施設数と推定成約ADRを2026年4月から12月まで月次で追い、黒川温泉を含む南小国町・阿蘇市・南阿蘇村・小国町・熊本市中央区に分けて回復の形を比べる。そのうえで、九州ふっこう応援割が12月25日宿泊分で切れたあとの2027年1月を、2016年の九州ふっこう割終了後の先例と、能登半島地震後の和倉温泉(七尾市)の推移を手がかりに3つのシナリオで整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。前年同月比(YoY)のみで比較し、前月比は用いない。
  • 掲載施設数:当該宿泊月の販売価格が主要予約サイトで観測できた施設の数。メトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、稼働が確認できる約27,000施設が母集団で、主要予約サイトに出ていない旅館・民宿・簡易宿所は含まない。宿泊月が先になるほど掲載が出そろっていないため、10月以降の数値は調査時点の途中経過である。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt程度の精度を確認済)。本稿では「稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)」と表記し、OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。
  • 延べ宿泊者数:観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別月次値(2026年分は速報値)。2026年1月調査から層化基準が従業者数から客室数に変わっており、2025年との前年同月比にはその影響が含まれる。
  • データ出典:掲載施設数・ADR・稼働率はメトロエンジンリサーチ(2026年10月16日時点)。延べ宿泊者数は観光庁。営業状況は各発表元の公式サイト(確認日を本文に付記)。
Key Takeaways
  • — 南小国町(黒川温泉を含む)は掲載63軒を維持し、推定成約ADRは地震月の7月−1.6%から9月+8.7%(前年同月比、N=46〜47施設)へ戻った。
  • — 熊本県の掲載施設数は695軒(6月)→721軒(9月)と震災をはさんで減らず、単価は7月−10.0%・8月−5.0%のあと9月+9.1%に転じた(N=396〜404)。
  • — エリア差は大きい:阿蘇市は7〜9月に+8.6〜+15.5%、熊本市中央区は9月+21.1%、小国町は6月から−24.8%と震災前から軟調だった。
  • — 和倉温泉(七尾市)は「施設数→単価」の順に回復し、2026年9月時点で施設数は2023年同月比71%、単価は73%。熊本は供給の復旧工程を経ず、単価回復が主題になる。
  • — 2027年1月は3シナリオ:2017年型(延べ宿泊者数+4.6%)・反動型(−5.8〜−10.6%)・後続策型(+7.7%)。分岐は12月宿泊分ADR(調査時点−8.2%)の縮まり方と10月の延べ宿泊者数。

熊本県全体 — 掲載施設数は震災前を割らず、単価は7月の−10.0%から9月に+9.1%へ

まずは県全体の輪郭からである。熊本県の掲載施設数は、地震前の2026年6月が695軒、地震のあった7月が705軒、8月が709軒、9月が721軒と、震災をはさんで一度も減っていない(メトロエンジンリサーチ、宿泊月ベース)。前年同月比では7月+16.7%、9月+23.2%と2桁の増加になるが、この伸びは4月(+4.2%)から6月(+12.6%)にかけて続いていた掲載拡大の延長線上にあり、地震が施設数を押し上げたわけでも押し下げたわけでもない、と読むのが妥当だろう。10月は721軒、11月702軒、12月668軒と先にいくほど減って見えるものの、これは宿泊月が先の掲載がまだ出そろっていないためで、調査時点の途中経過として扱う必要がある。

一方で、単価は明確に地震の影響を受けた。推定成約ADRは7月が9,200円で前年同月比−10.0%、8月が10,800円で−5.0%と2ヶ月連続で前年を下回ったあと、9月は11,000円で+9.1%に転じた(対象N=401〜404施設、いずれも確定月)。ただし6月の時点ですでに−6.0%だったことを踏まえると、7月の落ち込み10ptのうち地震に帰せられるのは差分の4pt前後にとどまり、県全体の単価は震災前から軟調だった、というのが正確な位置づけになる。10月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定で13,500〜14,300円と高めに出ているが、確定月から推定月へ切り替わる境目で水準が上にずれる傾向があるため、本稿では10月以降の単価を前年と比較しない。

熊本県 推定成約ADRの月次推移(2024〜2026年・前年同月と重ね描き)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象N=366〜404施設/月、10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定)

熊本県 掲載施設数の月次推移(2024〜2026年)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(宿泊月ベース。10〜12月は掲載途上のため今後増える)

稼働の側も確認しておきたい。稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は6月77.5%、7月80.7%、8月89.6%、9月88.0%と、夏の繁忙期に向けて平時どおりの形で上がっている。観光庁の宿泊旅行統計(速報)でも、熊本県の7月の延べ宿泊者数は64万9,220人泊で前年同月比−1.9%にとどまり、地震が7月の最終4日間しか含まれないことを差し引いても、月間の宿泊が崩れた形跡はない。もっとも6月が−5.8%、4月が−9.2%と、こちらも震災前からの軟調が続いており、「地震の前から前年を下回っていた県に、7〜8月の単価下押しが重なった」という構図が県全体の実像といえる。

熊本県 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)と対象施設・客室数(2026年6〜9月)
宿泊月(2026年)稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)対象施設数対象客室数
6月77.5%301施設13,041室
7月80.7%270施設12,433室
8月89.6%312施設13,262室
9月88.0%284施設12,706室

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(熊本県・全業態、対象N施設/客室Mは主要予約サイト掲載ベース。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる)

エリア分解 — 黒川温泉(南小国町)は単価を守り、阿蘇市は上げ、小国町は6月から軟調

県全体を5つのエリアに分けると、回復の形はまったく違って見える。なお本稿の「黒川温泉」の数値は黒川温泉を含む南小国町全体(掲載63軒)であり、満願寺・瀬の本高原などの施設を含む点に留意されたい。南小国町は掲載施設数が6月63軒、7月64軒、8月62軒、9月63軒と動かず、推定成約ADRは7月2万5,900円(前年同月比−1.6%)、8月2万9,100円(+3.7%)、9月2万8,600円(+8.7%)と、地震月をほぼ前年並みで通過したうえで秋に上向いた(対象N=46〜47施設)。阿蘇市は掲載が60軒から63軒へむしろ増え、ADRは7月+15.5%、8月+8.6%、9月+11.8%と3ヶ月連続で2桁前後の伸びを保っている(N=24〜25)。

南阿蘇村は掲載が69軒から75軒へ増える一方、ADRは8月−3.5%、9月−4.0%と小幅に前年を下回った。ただし推定の対象は15〜18施設と薄く、村内には民宿・ペンション型の小規模施設が多いため、数ptの差を断定的に読むべきではない。小国町(杖立温泉などを含む)は6月の時点で−24.8%と大きく前年を割っており、7月−19.7%、8月−17.4%、9月−5.7%と差が縮まる途上にある。地震前から前年を下回っていたエリアであり、7〜8月の値は地震の影響と切り分けられない。熊本市中央区(掲載84〜94軒)は7月−4.6%、8月−0.8%と軽微な下押しのあと、9月は+21.1%と大きく伸びた。前稿(地震後46日間の日次回復曲線)で確認した避難受け入れや復旧関連の業務需要が、ビジネスホテルの集まる中央区で単価にも現れたとみられる。

エリア別 掲載施設数と推定成約ADRの前年同月比(2026年6〜9月・確定月)
エリア(2026年)掲載施設数 6月→9月ADR 7月(YoY)ADR 8月(YoY)ADR 9月(YoY)推定対象N
南小国町(黒川温泉を含む)63→63軒¥25,937(−1.6%)¥29,068(+3.7%)¥28,607(+8.7%)46〜47
阿蘇市60→63軒¥19,129(+15.5%)¥20,823(+8.6%)¥19,376(+11.8%)24〜25
南阿蘇村69→75軒¥23,914(+5.4%)¥26,030(−3.5%)¥23,698(−4.0%)15〜18
小国町26→26軒¥15,799(−19.7%)¥17,257(−17.4%)¥17,417(−5.7%)20〜21
熊本市中央区84→94軒¥7,994(−4.6%)¥8,799(−0.8%)¥10,427(+21.1%)57〜60
熊本県全体695→721軒¥9,205(−10.0%)¥10,834(−5.0%)¥10,995(+9.1%)396〜404

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADRはエリア中央値・税抜相当、YoYは前年同月比。確定月のみ)

エリア別 推定成約ADR 前年同月比(2026年6〜9月・確定月)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(棒=各エリア、折れ線=熊本県全体)

現地の営業状況は一次情報で確認した。黒川温泉観光旅館協同組合は、7月29日から平常営業で、組合加盟のうち2館が工事のため休業中(工事終了後に再開)と案内している(2026年8月11日掲載、10月16日確認)。同組合は8月1日から9月30日の予約分について公式サイト経由の宿泊料金の5%を被災地へ寄付する取り組みと、県南の断水地域の住民に加盟旅館の露天風呂を無料開放する取り組みも発表した。阿蘇市観光協会は7月31日付で「市内の観光施設・宿泊施設・道路に大きな被害は確認されておらず、通常どおり営業」と発信し、個別の旅館でも7月29日付で「地震による被害は確認されておらず通常どおり営業」との告知が出ている。一方で、8月14日に阿蘇山の噴火警戒レベルが3(入山規制)へ引き上げられ、9月1日にレベル2へ戻るまでの約2週間は火口周辺の立入が制限された(阿蘇エリア観光連携のプレスリリース、2026年9月3日)。熊本県が公表した宿泊キャンセルは8月21日時点で約19万人泊・約27億円(暫定値)で、そのうち阿蘇エリアは6万206人泊・9億8,100万円規模と集計されている。地震直後の営業状況とアクセスの整理は黒川温泉に地震の影響は?(2026年8月15日時点)で扱っている。

回復の「型」 — 和倉温泉(七尾市)は施設数が戻ってから単価が戻る、熊本は最初の段階を飛ばしている

災害後の宿泊市場の回復は、「泊まれる施設が戻る」段階と「単価が戻る」段階の2つの時計で進む。2024年1月の能登半島地震で旅館の多くが長期休業した和倉温泉は、その順序がはっきり見える事例である。和倉温泉を含む七尾市の掲載施設数は2023年に59〜68軒で推移していたが、2024年4月に44軒、8月に34軒、9月以降は31〜32軒まで減り、2023年同月比で半分を下回った。1〜3月に減少が見えないのは、宿泊月が1〜3月の掲載が震災前にすでに出ていたためで、掲載ベースの施設数は常に数ヶ月遅れて動く点に注意が要る。その後は2025年4月に35軒、2026年7月に45軒と、2年半かけて震災前の7割強まで戻ってきた。

単価の戻りはさらに遅い。七尾市の推定成約ADRは2023年8月の1万7,200円に対し、2024年8月は8,700円、2025年8月は9,800円、2026年8月は1万100円で、震災前同月の59%にとどまる(2024年8月〜2025年3月は推定対象が7〜10施設と薄く参考値)。2026年9月は1万900円(2023年同月比73%)まで戻ったものの、営業再開した旅館が再開直後は稼働を優先し、単価の引き上げはその後になる、という順序が数字に表れている。北陸財務局の資料(2026年1月29日)は、和倉温泉観光協会加盟20軒のうち再開が9軒、客室数は震災前の約3割程度、宿泊客数は震災前の4割に満たない水準(2026年1月21日時点の和倉温泉旅館協同組合への聞き取り)と整理しており、和倉温泉観光協会・和倉温泉旅館協同組合とJR西日本の発表(2026年9月16日)では組合加盟19軒のうち11軒が受け入れを再開している。

和倉温泉を含む七尾市 掲載施設数の月次推移(2023〜2026年)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(宿泊月ベース。2026年10〜12月は掲載途上)

和倉温泉を含む七尾市 推定成約ADRの月次推移(2023〜2026年・確定月のみ)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象N=7〜35施設/月。2024年8月〜2025年3月はN=7〜10で参考値)

熊本をこの型に当てはめると、最初の段階がそもそも発生していないことがわかる。黒川温泉も阿蘇市も建物の被害が限定的で、掲載施設数は震災前とほぼ同水準を保っている(南小国町は8月に62軒と震災前を1軒下回ったのみ)。したがって熊本の回復とは、供給の復旧ではなく、需要と単価の回復そのものを指す。南小国町が地震月を前年比−1.6%で通過し、9月に+8.7%へ戻ったのは、和倉温泉の時計でいえば「再開から2年半後」の局面に相当する速さである。逆にいえば、供給が無傷で残った分、単価の回復には「割引支援で稼働を埋める」局面が長引きやすく、割引が終わった瞬間に素の需要が試される。そこで次の論点、応援割の終了に移る。

和倉温泉(七尾市)と黒川温泉(南小国町)の回復局面の比較
比較軸和倉温泉(七尾市)2024年1月地震黒川温泉(南小国町)2026年7月地震
掲載施設数の最低点2023年同月比46%(2024年11月、31軒)震災前とほぼ同水準(62〜64軒)
掲載施設数の現在地2023年同月比71%(2026年9月、45軒)63軒(2026年9月)
ADRの最低点2023年同月比50%(2024年11月、N=8で参考値)前年同月比−1.6%(2026年7月)
ADRの現在地2023年同月比73%(2026年9月)前年同月比+8.7%(2026年9月)
回復の局面施設数が戻る途上、単価は追従中施設数は無傷、単価の回復が主題

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

制度 — 九州ふっこう応援割は12月25日宿泊分まで、2016年の先例では終了翌月も前年比+4.6%を保った

九州ふっこう応援割は、観光庁の制度資料によれば旅行・宿泊料金の50%(熊本県・鹿児島県は60%)を補助し、上限は宿泊単体・交通付き1泊で1人2万円、交通付き2泊以上で3万円、周遊型で3万5,000円、割引対象は2026年10月1日(木)宿泊分からである。熊本県分は9月15日(火)10時に予約受付が始まり、宿泊対象は10月1日から12月25日(金)チェックイン(12月26日チェックアウト)まで、予算の上限に達し次第終了という設計になっている。実際には開始直後から受付の停止と再開が繰り返され、一部の予約サイトでは9月16日に予算上限で熊本県分の受付を停止した一方、別の予約サイトは10月15日12時に熊本県分の受付を新たに開始しており、受付状況は販売窓口ごとに異なる。阿蘇地域7市町村はこれに先行して独自の「阿蘇ふっこう割」を9月から始めている(阿蘇エリア観光連携、2026年9月3日)。

先例となる2016年の九州ふっこう割は、同年7月1日に販売が始まり、第1期(7〜9月旅行分)は熊本・大分で7割引、第2期(10〜12月旅行分)は9月9日に販売が始まって割引率が縮小し、年内で終了した。観光庁の宿泊旅行統計で熊本県の延べ宿泊者数を追うと、2016年は4月−5.8%、5月−10.6%と落ち込んだあと、割引が走った7〜12月は前年同期比−0.2%とほぼ前年並みに戻り、12月単月では+9.9%だった。割引が切れた翌月の2017年1月は+4.6%、2月+6.9%、3月+11.2%と、減速はしたものの前年割れにはならず、1〜3月で+7.7%、2017年通年では789万9,000人泊で+8.6%(2016年は727万5,000人泊)、2018年は805万3,000人泊で+2.0%と続いた。観光庁は2017年1月24日に後続策の「熊本応援プログラム」を発表しており、終了翌月の下支えに制度の切れ目をつくらなかった点も先例の一部である。2016年制度の設計と終了後の推移を2026年制度と並べた整理は、九州ふっこう割の効果、終了後の2017年は+8.7%で詳しく扱っている。

熊本県 延べ宿泊者数 前年同月比(2016年・2017年・2026年速報)

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(推移表、2026年は速報値)よりホテルバンク編集部作成。2026年1月から層化基準が変更されており前年比にその影響を含む

ただし2016年と2026年では前提が2つ違う。第一に、2016年は熊本地震が4月で、割引が始まる7月までに3ヶ月の空白があり、「落ち込んだ需要を割引で引き上げる」形だったのに対し、2026年は地震から約2ヶ月で割引が始まり、落ち込みの底が浅いまま割引に入っている。第二に、2016年の12月→1月は比較対象の2016年1月が震災前の平時だったため、2017年1月の+4.6%は「平時比でプラス」を意味した。2027年1月の比較対象となる2026年1月(熊本県ADR1万1,800円、延べ宿泊者数55万7,420人泊で−2.2%)も平時であり、この点は先例と同じ条件になる。

2027年1月の3シナリオ — 2017年型・反動型・後続策型

以上を踏まえ、応援割が切れたあとの2027年1月について、熊本県の延べ宿泊者数(前年同月比)と黒川温泉を含む南小国町の推定成約ADRを軸に3つのシナリオを置く。数値はいずれも先例の実績を参照値として並べたもので、予測ではない。

2027年1月の3シナリオと参照値(先例の実績・予測ではない)
シナリオ条件熊本県 延べ宿泊者数(1月・前年同月比)の参照値南小国町ADRの読み筋
A. 2017年型(水面上で減速)10〜12月に割引で来た客の一部が年明けも素の価格で再訪し、復旧関連の業務需要が熊本市で残る。後続策はない。+4.6%(2017年1月実績)前年同月(3万1,500円)並み〜+5%。12月の調査時点推定は−8.2%で、掲載の積み上がりで縮まるかが分岐点
B. 反動型(前倒しの揺り戻し)10〜12月に需要が前倒しされ、1〜2月の閑散期にその反動が出る。割引後価格に慣れた層が素の価格で戻らない。−5.8〜−10.6%(2016年4〜5月の落ち込み幅)前年割れ(−5%前後)。稼働を優先して単価を据え置く和倉温泉型の局面に入る
C. 後続策型(切れ目なし)2017年1月24日発表の「熊本応援プログラム」に相当する後続策が年明けに入り、割引の切れ目が埋まる。+7.7%(2017年1〜3月実績の平均)前年比プラスを維持。割引前提の価格設計を続けられるが、終了時に同じ論点が再来する

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成(参照値は先例の実績であり予測ではない)

どのシナリオに寄るかを早めに見分ける指標は3つある。第一に、南小国町の2027年1月の掲載施設数が前年(57軒)を保つか。供給が無傷である以上、ここが崩れるシナリオは想定しにくいが、確認は必要である。第二に、12月宿泊分の推定成約ADRが調査時点の−8.2%からどこまで縮まるか。12月は割引の最終月で、掲載が積み上がる11月中に前年並みへ戻れば、割引後価格に慣れた需要が素の価格にも付いてきていることを示す。第三に、熊本県の10月の延べ宿泊者数(観光庁速報、12月末公表見込み)が応援割の初月に前年比でどこまで伸びたかである。2016年10月は割引下でも−4.5%だったから、2026年10月が明確なプラスなら、2027年1月はAかCに寄りやすい。

運営者・投資家への示唆 — 「施設数は戻っている」を前提に、単価の回復をどう設計するか

運営者にとっての論点は、割引の終わり方である。割引後の実質負担額に慣れた需要層に対し、12月下旬から1月にかけて割引前価格へ戻す局面では、閑散期の平日と週末で戻し方を分け、週末は前年並みの単価を維持したうえで平日に連泊や2食付きの価値訴求を厚くする、という段階設計が有効といえる。黒川温泉観光旅館協同組合が8〜9月に実施した「公式サイト予約の5%を寄付」のような取り組みは、割引とは別の理由で直接予約を選んでもらう仕掛けとして機能しており、割引終了後に同種の動機づけを用意しておくことが1月の落ち込み幅を縮める一手になり得る。阿蘇市のように地震月を+15.5%で通過したエリアでは、むしろ割引期間中に単価を下げすぎないことが、1月以降の価格の基準点を守ることにつながる。

投資家にとっては、熊本の案件を「被災地の回復案件」として割り引いて見る理由は、少なくとも供給面には見当たらない。掲載施設数が震災前を割らず、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)も8月89.6%、9月88.0%と平時の形で推移している以上、評価の焦点は単価の回復速度に絞られる。和倉温泉の事例が示すように、施設数の回復と単価の回復のあいだには数年単位の遅れが生じ得るが、熊本では前者の工程がないため、2027年1〜3月の単価が前年比でどこに着地するかが、通常の市況案件と同じ基準で判断できる最初の四半期になる。なお南阿蘇村・小国町のように推定の対象施設が15〜21と少ないエリアは、月次の数ptの差で判断せず、四半期単位でまとめて読むことを勧めたい。

まとめ

熊本県の掲載施設数は震災前の695軒から9月の721軒まで一度も減らず、推定成約ADRは7月−10.0%、8月−5.0%のあと9月+9.1%に転じた。黒川温泉を含む南小国町は掲載63軒を保ったまま9月のADRが+8.7%で、地震月の下押しは−1.6%にとどまった。和倉温泉(七尾市)が施設数2023年比46%の底から2年半で71%、単価は73%まで戻ってきた「施設数→単価」の順序に照らすと、熊本は最初の工程を飛ばして単価回復の局面にいる。九州ふっこう応援割は12月25日宿泊分で切れるが、2016年の先例では終了翌月の2017年1月も+4.6%を保ち、通年で+8.6%だった。2027年1月は、12月宿泊分のADRが調査時点の−8.2%からどこまで縮まるかと、10月の延べ宿泊者数の伸びを見ながら、2017年型・反動型・後続策型のどれに寄るかを判断することになる。

よくある質問

Q. 黒川温泉は地震の影響で休業していますか?
A. 黒川温泉観光旅館協同組合の発表では、温泉街に大きな被害は確認されておらず、2026年7月29日から平常通り営業しています(組合公式サイト2026年8月11日掲載、10月16日確認)。同発表の時点で組合加盟のうち2館が工事のため休業中で、工事終了後に再開するとされています。最新の営業状況は組合公式サイトの「お宿紹介」「空室状況」でご確認ください。

Q. 九州ふっこう応援割はいつまで使えますか?
A. 熊本県分の宿泊対象期間は2026年10月1日から12月25日チェックイン(12月26日チェックアウト)までで、予算の上限に達し次第終了です。受付状況は販売窓口ごとに異なり、一部の予約サイトは9月16日に予算上限で受付を停止、別の予約サイトは10月15日12時に熊本県分の受付を新たに開始しています。県別の最新状況は九州ふっこう応援割 宿向けまとめをご参照ください。

Q. 2027年1月の宿泊料金は下がりますか?
A. 2016年の九州ふっこう割が切れた翌月の2017年1月、熊本県の延べ宿泊者数は前年同月比+4.6%で、前年割れにはなりませんでした。ただし2026年は地震から割引開始までの期間が短く、前倒し需要の反動が出る可能性もあります。本稿では2017年型・反動型・後続策型の3つのシナリオを示しており、12月宿泊分のADRの縮まり方と10月の延べ宿泊者数が判断材料になります。

Q. 黒川温泉(南小国町)の宿は地震後に値上がりしていますか?
A. 黒川温泉を含む南小国町の推定成約ADR(エリア中央値・税抜相当)は、2026年7月が2万5,900円で前年同月比−1.6%、8月が2万9,100円で+3.7%、9月が2万8,600円で+8.7%でした(対象N=46〜47施設)。地震月をほぼ前年並みで通過し、秋に前年を上回っています。10月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定のため、前年との比較はしていません。

Q. 和倉温泉と比べて、熊本の回復は何が違いますか?
A. 能登半島地震後の和倉温泉を含む七尾市では、掲載施設数が2023年同月比46%まで減ったあと2年半かけて71%まで戻り、単価はそれより遅れて73%まで回復しました。熊本では南小国町・阿蘇市とも掲載施設数が震災前とほぼ同水準を保っており、「施設数が戻る」段階を経ずに単価の回復が主題になっています。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年10〜12月のADRおよび掲載施設数は、調査時点(2026年10月16日)で主要予約サイトに公開されている販売価格・掲載状況に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて新規プランの追加や価格調整で変動します。確定月から推定月へ切り替わる境目で単価の水準が上にずれる傾向があるため、10月以降の単価は前年と比較していません。2027年1月のシナリオは先例の実績を参照値として並べたもので、予測ではありません。

関連記事

参考資料・出典一覧

■ データソース

掲載施設数・推定成約ADR・稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)はメトロエンジンリサーチ(2026年10月16日時点)。熊本県・七尾市は都道府県/市区町村単位の月次集計、南小国町・阿蘇市・南阿蘇村・小国町・熊本市中央区は市町村単位の月次集計。延べ宿泊者数は観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年分は速報値)。営業状況・制度は各発表元の公式資料(確認日を本文に付記)。

■ 試算前提

ADRは2名1室利用時の最安プラン水準に業態別補正を適用した推定成約単価(税抜相当)のエリア中央値で、前年同月比のみで比較する。前年比の算出は確定月(2026年9月宿泊分まで)に限り、10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定として前年と比較しない。2027年1月の3シナリオは2016〜2017年の先例の実績を参照値として並べたもので、予測値ではない。

■ 限界・留意点

主要予約サイトに掲載されない旅館・民宿・簡易宿所は含まない。推定対象が15〜21施設の南阿蘇村・小国町、7〜10施設の七尾市(2024年8月〜2025年3月)は月次の数ptの差を断定的に読まない。延べ宿泊者数は2026年1月調査から層化基準が変更されており、前年比にその影響を含む。南小国町の数値は黒川温泉以外(満願寺・瀬の本高原など)の施設を含む。

■ 出典

関連記事