西九州させぼ広域都市圏協議会とハウステンボス株式会社が2026年7月28日に設立し、9月17日に目的と事業を公表した一般社団法人「肥前」は、長崎県北部と佐賀県北西部の12市町を「長期滞在型エリア」として束ね直す実行主体である。公表資料が掲げる現状認識は「旅行者の52.4%が1泊で帰る」「インバウンド比率7.1%(九州平均27.5%)」「2025年の延べ宿泊数はコロナ禍前を下回る」の3点だった。本稿では、この構想を受け止める側の数字——12市町に実在する客室ストック135施設・6,324室の業態構成、2026年9月の市町別推定成約ADR、温泉・複数ベッドといった連泊向きの客室仕様——をメトロエンジンリサーチのデータで棚卸しし、2泊目をどう設計するかを運営者の視点で読み解く。
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
本記事の12市町の客室ストックは、主要予約サイトで稼働が確認でき客室数が把握できる営業中の施設を数えたもの(2026年10月23日時点)。ハウステンボス半径3,000m圏の内訳は、客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)のうち直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に販売価格が確認できた施設を対象とした(2026年10月24日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
- — 135施設・6,324室が12市町の受け皿(2026年10月23日時点)。客室の70.4%(4,450室)が佐世保市に、28.9%(1,827室)がハウステンボス半径3km圏に集まる。
- — 2026年9月の推定成約ADRは佐世保市¥7,376(N=36・前年同月比−3.4%)、平戸市¥11,519(N=9・+17.7%)。都市型ビジネスと温泉旅館の二つの価格帯が並存する。
- — 連泊向きの仕様は温泉22施設・2,178室(客室の34.4%)、複数ベッドの客室を持つ宿50施設・4,972室(78.6%)。自炊型は小規模宿が中心で客室数は小さい。
- — 2025年の平均泊数は長崎県1.29泊で、九州最上位の鹿児島県1.46泊、福岡県1.37泊、全国1.42泊に届かない(観光庁、編集部算出)。
- — 長崎県北部の平均泊数が佐賀県並みの1.35泊に伸びると、延べ宿泊者数は約10.6万人泊増え、2025年の前年差(−11.3万人泊)の94%に相当する(編集部試算・表6)。
「肥前」とは何か — 協議会とハウステンボスが共同で設けた広域観光の実行主体
まず主体を整理しておきたい。西九州させぼ広域都市圏は、佐世保市を連携中枢都市として2019年1月に連携協約を結んだ圏域で、佐世保市の公式ページによれば構成は佐世保市・平戸市・松浦市・西海市・東彼杵町・川棚町・波佐見町・小値賀町・佐々町・新上五島町(以上長崎県)と伊万里市・有田町(佐賀県)の12市町である(佐々町は2020年3月に後から加入)。ハウステンボス株式会社は2025年8月28日にこの圏域と「広域周遊観光の促進に関する連携協定」を結んでおり、翌年7月28日の法人設立はその協定を常設の組織に格上げしたものと位置づけられる。
公表資料によると、法人の役割は「肥前エリア横断の戦略設計」「観光資源開発」「マーケティング・プロモーション」の3つで、令和8年度(2026年度)は実装準備の年と位置づけられている。初年度の事業は、肥前の食材と食文化を学ぶ「食人材アカデミー(Culinary Atelier)」、学びを発表する「食体験イベント」、食を軸にエリアを発信する「コミュニケーション」、そして地域の歴史・文化を見せる宿泊・飲食施設「Cultural Auberge」と体験商品「Cultural Experience」の開発支援という4本立てだった。令和9〜11年度が本格始動から拡大・定着のフェーズとされ、インバウンド誘客や販売支援、自治体・民間企業の参画開拓がそこに続く。
体制面では、理事長に九州博報堂顧問の江﨑信友氏、理事に佐世保市副市長の杉本和孝氏とハウステンボス代表取締役社長執行役員CEOの髙村耕太郎氏が就き、監事を十八親和銀行と佐賀銀行がそれぞれ務める。所在地は長崎県佐世保市ハウステンボス町8-6で、つまり公共とテーマパーク運営会社と地域金融が一つのテーブルに着いた形になる。宿泊事業者にとって重要なのは、この法人が「宿を建てる」主体ではなく「滞在の理由をつくり、売り方を整える」主体だという点だろう。受け皿となる客室は既存のストックであり、だからこそ現状の棚卸しが要る。
現状認識の3指標 — 公表資料の数字をそのまま置き、観光庁の広域集計を横に添える
肥前の設立発表が掲げた現状認識は次の3点である。「旅行者の52.4%が1泊で帰る」「インバウンド比率は7.1%で、九州全体の平均27.5%を下回る」「2025年の延べ宿泊数はコロナ禍前を下回る水準にとどまる」。資料は出典をRESAS(地域経済分析システム)の「宿泊者分析」および「クレジットカード消費額分析」としており、本稿ではこの3つの数値を再計算せず、発表どおりに引用する。
ただし、読者が自分で追跡できる公的統計も横に置いておきたい。観光庁「宿泊旅行統計調査」の広域市町村(130区分)別集計では、佐世保市・平戸市・松浦市・西海市・東彼杵町・川棚町・波佐見町・佐々町の8市町が「長崎県北部(平戸・佐世保)」に、小値賀町・新上五島町が「長崎県離島」に、伊万里市・有田町が「佐賀県西部」にそれぞれ含まれる。2025年の年間確定値を並べると次のようになる。
| 広域区分(130区分) | 2025年 延べ宿泊者数 | 前年比 | うち外国人 | 外国人比率 |
|---|---|---|---|---|
| 長崎県北部(平戸・佐世保) | 2,285,020人泊 | −4.7% | 158,310人泊 | 6.9% |
| 長崎県離島(五島・壱岐・対馬) | 880,520人泊 | +5.4% | 173,730人泊 | 19.7% |
| 佐賀県西部(唐津・伊万里・嬉野) | 1,431,750人泊 | +3.5% | 171,590人泊 | 12.0% |
| 全国 | 661,105,480人泊 | +0.3% | 179,922,130人泊 | 27.2% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年・2024年 年間値(確定値)参考表(広域市町村130区分)よりホテルバンク編集部作成。前年比・比率は編集部算出
長崎県北部の外国人比率6.9%は、肥前の資料がRESASベースで示した7.1%とほぼ同じ水準にある。一方で外国人延べ宿泊者数そのものは2024年の149,360人泊から2025年は158,310人泊へと6.0%増えており、比率が低いのは外国人が減っているからではなく、分母の国内客を含む総量が240万人泊から229万人泊へ縮んだためと読める。ここまでを整理すると、肥前が「長期滞在」を掲げる背景には、総量を取り戻す以上に、1人あたりの泊数を伸ばして総量を押し上げるという設計思想があるといえる。
12市町の客室ストック — 135施設・6,324室、客室の7割は佐世保市にある
それでは受け皿の規模を見ていく。メトロエンジンリサーチが追跡するうち、主要予約サイトで稼働が確認でき客室数が把握できる営業中の施設を12市町で数えると、135施設・6,324室だった(2026年10月23日時点)。業態別にはホテルが60施設・5,487室で客室の86.8%を占め、旅館が19施設・568室、コテージ・貸別荘が4施設・126室、ゲストハウス・民宿・農家民宿などの小規模宿が52施設・143室という構成になる。施設数では小規模宿が4割近くを占めるのに対し、客室数では2%強にとどまる——この二層構造が肥前エリアの特徴である。
市町別では佐世保市が64施設・4,450室と全体の70.4%を抱え、平戸市588室、伊万里市563室、松浦市242室、新上五島町172室と続く。波佐見町は2施設で135室とビジネスホテル2軒に集約され、西海市は14施設あるものの農家民宿が多く104室にとどまる。東彼杵町・佐々町は本集計の条件(営業中かつ客室数が確認できる施設)に該当する施設がなく、表には載せていない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円の大きさ=客室数、色=業態、N=135施設)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月23日時点・営業中かつ客室数が確認できる施設、N=135施設・6,324室)
| 市町 | 施設数 | 客室数 | ホテル | 旅館 | コテージ・貸別荘 | ゲストハウス・民宿等 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 佐世保市 | 64 | 4,450 | 38軒/4,269室 | 3軒/45室 | 2軒/106室 | 21軒/30室 |
| 平戸市 | 16 | 588 | 2軒/170室 | 8軒/390室 | 0軒/0室 | 6軒/28室 |
| 伊万里市 | 13 | 563 | 6軒/516室 | 1軒/31室 | 0軒/0室 | 6軒/16室 |
| 松浦市 | 6 | 242 | 4軒/211室 | 2軒/31室 | 0軒/0室 | 0軒/0室 |
| 新上五島町 | 12 | 172 | 6軒/123室 | 3軒/19室 | 0軒/0室 | 3軒/30室 |
| 波佐見町 | 2 | 135 | 2軒/135室 | 0軒/0室 | 0軒/0室 | 0軒/0室 |
| 西海市 | 14 | 104 | 2軒/63室 | 1軒/15室 | 1軒/13室 | 10軒/13室 |
| 川棚町 | 3 | 47 | 0軒/0室 | 1軒/37室 | 1軒/7室 | 1軒/3室 |
| 有田町 | 4 | 14 | 0軒/0室 | 0軒/0室 | 0軒/0室 | 4軒/14室 |
| 小値賀町 | 1 | 9 | 0軒/0室 | 0軒/0室 | 0軒/0室 | 1軒/9室 |
| 12市町合計 | 135 | 6,324 | 60軒/5,487室 | 19軒/568室 | 4軒/126室 | 52軒/143室 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(東彼杵町・佐々町は該当施設なし)
佐世保市の客室の中でも、ハウステンボスを中心とする半径3km圏は特別な密度を持つ。上の定義に基づく同圏の稼働中ストックは8施設・1,827室で、これは12市町全体の28.9%に相当する。内訳はリゾートホテル4施設1,020室、デラックスホテル2施設508室、ビジネスホテル1施設200室、コテージ1施設99室で、201室以上の大型が4施設1,235室を占める。ホテルヨーロッパ(310室)、ホテルアムステルダム(198室)、ホテルデンハーグ(228室)、フォレストヴィラ(99室)、ホテルロッテルダム(200室)の場内5施設に、徒歩圏のホテルオークラJRハウステンボス(320室)とホテル日航ハウステンボス(377室)、そしてホテルローレライ(95室)が加わる。肥前が「Cultural Auberge」のような新しい宿泊コンテンツを開発するとしても、量を受け止めるのはこの1,827室と佐世保駅周辺のビジネスホテル群になる。佐世保駅周辺については、2028年春に大浴場付き106室が加わる計画を駅1km圏の既存ストックとあわせて佐世保駅前に大浴場付き106室、2028年春開業で読み解いている。
市町別の推定成約ADR — 2026年9月は佐世保市7,376円、平戸市11,519円で対照的な動き
次に単価を見る。2026年9月(確定月)の推定成約ADRは、対象施設が5以上の市町で佐世保市¥7,400(N=36)、平戸市¥11,500(N=9)、松浦市¥7,600(N=7)、新上五島町¥8,400(N=8)、伊万里市¥6,600(N=8)だった。前年同月比では平戸市が+17.7%、松浦市が+14.2%、伊万里市が+5.9%と上昇した一方、佐世保市は−3.4%、新上五島町は−8.8%と方向が分かれている。長崎県全体の9月は¥8,000(N=257)で前年同月比+7.3%、佐賀県全体は¥12,300(N=157)で+5.4%だったので、佐世保市は県平均より低い水準で前年を下回り、平戸市は県平均を大きく上回って伸びた格好である。県内20市町の単価がどのような階層をなしているかは、長崎のホテル相場2026 — 20市町の推定成約ADRを3層で比較で詳しく分析している。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年9月・推定成約ADR・確定月。N=対象施設数。対象施設5未満の市町は参考値)
| 市町 | 2026年9月ADR | 対象施設数 | 前年同月比 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 佐世保市 | ¥7,376 | N=36 | -3.4% | 確定(推定成約ADR) |
| 平戸市 | ¥11,519 | N=9 | +17.7% | 確定(推定成約ADR) |
| 松浦市 | ¥7,589 | N=7 | +14.2% | 確定(推定成約ADR) |
| 新上五島町 | ¥8,396 | N=8 | -8.8% | 確定(推定成約ADR) |
| 伊万里市 | ¥6,628 | N=8 | +5.9% | 確定(推定成約ADR) |
| 西海市 | ¥19,975 | N=4 | — | 参考(対象施設5未満) |
| 波佐見町 | ¥6,392 | N=2 | — | 参考(対象施設5未満) |
| 川棚町 | ¥14,316 | N=1 | — | 参考(対象施設5未満) |
| 有田町 | ¥21,393 | n=9 | — | 掲載価格(全プラン平均・税込) |
| 小値賀町 | ¥31,396 | n=3 | — | 掲載価格(全プラン平均・税込) |
| 東彼杵町 | ¥19,752 | n=3 | — | 掲載価格(全プラン平均・税込) |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。「参考」は推定成約ADRの対象施設が5未満のため断定を避ける区分、「掲載価格」は推定成約ADRの対象業態がなく全プラン平均(2名1室・税込)を示した区分
西海市の¥20,000(N=4)、川棚町の¥14,300(N=1)、波佐見町の¥6,400(N=2)は対象施設が少なく、個別施設の価格がそのまま市町の値になりやすいため参考扱いにとどめる。有田町(n=9)・小値賀町(n=3)・東彼杵町(n=3)はゲストハウスや民宿が中心で推定成約ADRの対象業態がなく、表に示したのは全プラン平均の掲載価格である。有田町の¥21,400という掲載水準は一棟貸しや古民家宿の価格帯を反映したもので、ビジネスホテルの成約水準と直接比較できる数字ではない。
佐世保市の月次推移を年次で重ねると、季節性の輪郭がはっきりする。2025年は8月の¥8,100が年間のピークで、6月の¥7,100が谷だった。2026年は5月に¥8,100まで上がった後、6月に¥6,800へ下がり、8月¥7,600、9月¥7,400と前年をやや下回る軌道で推移している。平戸市は2025年8月に¥14,100、2026年8月に¥12,800と、夏の海と旅館需要で佐世保市の1.7倍前後の水準を保っており、同じ圏域でも「都市型ビジネス」と「温泉旅館」の二つの価格帯が共存していることが確認できる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(佐世保市・推定成約ADR・確定月のみ。N=34〜37施設)
連泊を受け止める客室仕様 — 温泉のある宿22施設・2,178室、複数ベッドの客室を持つ宿50施設
長期滞在型エリアを本気で目指すなら、価格より先に「2泊目を退屈させない客室」が揃っているかを確かめたい。本稿では施設単位で3つの仕様を数えた。第一に温泉で、主要予約サイト上の設備情報で温泉を備える施設は12市町に22施設・2,178室あり、客室ベースでは全体の34.4%に当たる。大浴場を備える施設は28施設に広がる。第二に複数ベッドで、ツイン・トリプル・スイートのいずれかの客室タイプを持つ施設は50施設・4,972室と、客室ベースで78.6%を占める。家族や友人グループの連泊を受ける土台は、数の上では十分に厚い。第三にキッチン付きの自炊型で、これは業態で把握するとコテージ・貸別荘が4施設・126室、農家民宿を含む小規模宿が52施設・143室で、客室数としては小さい。
| 市町 | 温泉あり | 大浴場あり | 複数ベッド客室あり | コテージ・貸別荘 |
|---|---|---|---|---|
| 佐世保市 | 9施設/1,319室 | 11施設 | 31施設/3,885室 | 2施設/106室 |
| 平戸市 | 6施設/528室 | 7施設 | 3施設/263室 | 0施設/0室 |
| 伊万里市 | 2施設/185室 | 2施設 | 4施設/420室 | 0施設/0室 |
| 松浦市 | 1施設/21室 | 4施設 | 4施設/182室 | 0施設/0室 |
| 新上五島町 | 1施設/29室 | 2施設 | 4施設/94室 | 0施設/0室 |
| 波佐見町 | 1施設/44室 | 0施設 | 1施設/44室 | 0施設/0室 |
| 西海市 | 1施設/15室 | 1施設 | 2施設/47室 | 1施設/13室 |
| 川棚町 | 1施設/37室 | 1施設 | 1施設/37室 | 1施設/7室 |
| 有田町 | 0施設/0室 | 0施設 | 0施設/0室 | 0施設/0室 |
| 小値賀町 | 0施設/0室 | 0施設 | 0施設/0室 | 0施設/0室 |
| 12市町合計 | 22施設/2,178室 | 28施設 | 50施設/4,972室 | 4施設/126室 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(主要予約サイトの設備情報・客室タイプ情報に基づく施設単位の集計、N=135施設)
市町ごとの性格は明瞭である。平戸市は16施設のうち温泉あり6施設・528室と、客室の9割が温泉付きの旅館・ホテルで構成され、大江戸温泉物語 ホテル蘭風(162室)やサムソンホテル(139室)、平戸海上ホテル(90室)、国際観光ホテル 旗松亭(90室)が海を向いて並ぶ。佐世保市は温泉あり9施設・1,319室で、ホテルオークラJRハウステンボスやホテル日航ハウステンボス、ホテルローレライ、大江戸温泉物語Premium 西海橋、西海国立公園 弓張の丘ホテルなどが該当する。伊万里市は温泉あり2施設・185室で、伊万里グランドホテル(154室)が大浴場とサウナを備えたビジネスホテルとして機能している。
宿泊者の口コミに現れる言及率でも、この仕様の差は裏づけられる。ホテルバンク編集部が直近24ヶ月の宿泊者口コミをNLP解析した結果、「温泉」への言及はホテルオークラJRハウステンボスが16.4%(497件・N=3,040件、長崎県内1位)、ホテルローレライが19.9%(136件・N=682件)、ホテルブリスヴィラ波佐見が23.2%(122件・N=527件)、セントラルホテル伊万里が36.2%(379件・N=1,047件、佐賀県内1位)に達する。「客室の広さ」はホテルアムステルダムが17.9%(N=1,343件)、フォレストヴィラが19.3%(N=605件)、クインテッサホテル佐世保が32.0%(N=726件)と高く、「長期滞在」への言及はホテルヨーロッパが5.1%(77件・N=1,506件、長崎県内3位)で最も多い。
| ハウステンボス周辺(半径3km) | 客室数 | 客室の広さ | 長期滞在 | ファミリー | 温泉 |
|---|---|---|---|---|---|
| ホテル日航ハウステンボス | 377室 | 7.7% | 2.7% | 6.7% | 1.8% |
| ホテルオークラJRハウステンボス | 320室 | 11.8% | 2.1% | 6.1% | 16.4% |
| ホテルヨーロッパ | 310室 | 10.7% | 5.1% | 7.6% | 4.7% |
| ホテルデンハーグ | 228室 | 14.4% | 2.9% | 5.3% | 2.7% |
| ホテルロッテルダム | 200室 | 12.6% | 1.6% | 6.1% | 3.0% |
| ホテルアムステルダム | 198室 | 17.9% | 4.7% | 9.7% | 2.1% |
| フォレストヴィラ | 99室 | 19.3% | 4.5% | 21.3% | 2.5% |
| ホテルローレライ | 95室 | 14.4% | 4.3% | 5.7% | 19.9% |
出典:ホテルバンク編集部調べ(直近24ヶ月の宿泊者口コミをNLP解析した言及率。N=日航1,984件・オークラJR 3,040件・ヨーロッパ1,506件・デンハーグ1,497件・ロッテルダム1,215件・アムステルダム1,343件・フォレストヴィラ605件・ローレライ682件)
この表が示すのは、同じ3km圏でも役割が分かれているということだ。フォレストヴィラはコテージ型でファミリー言及が21.3%と突出し、ホテルアムステルダムはキッズ向け設備の言及が14.5%で長崎県内3位に入る。ホテルヨーロッパとホテルアムステルダムは「長期滞在」の言及が県内上位にあり、オークラJRとローレライは温泉が語られる。洗濯設備については、ホテルロッテルダムで「コインランドリーは便利」、伊万里グランドホテルで「ランドリーバック有り」といった声が拾えるものの、言及件数は各施設で1桁にとどまる。連泊を売るなら、ランドリーや簡易キッチンの有無を予約画面で明示する余地がまだ大きい。
九州内の比較 — 平均泊数は鹿児島県1.46泊・福岡県1.37泊、長崎県は1.29泊
「52.4%が1泊で帰る」を相対化するために、九州各県の平均泊数を観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値(延べ宿泊者数÷実宿泊者数、編集部算出)で並べてみる。鹿児島県が1.46泊で九州7県の最上位、福岡県1.37泊、佐賀県1.35泊、宮崎県1.33泊と続き、長崎県は1.29泊、熊本県1.28泊、大分県1.21泊という順になる。全国平均は1.42泊で、参考までに沖縄県は1.79泊だった。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年 年間値(確定値)第2表・第3表よりホテルバンク編集部作成(延べ宿泊者数÷実宿泊者数)
鹿児島県が1.46泊に届く背景には、延べ宿泊845万人泊のうち離島区分が226万人泊を占め、奄美や屋久島のように「行くだけで1日かかる」目的地が泊数を押し上げる構造がある。長崎県も離島を抱えるが、2025年の離島区分は88万人泊で県全体766万人泊の11.5%にとどまり、県北部と南部の都市型需要が平均を1.29泊に引き寄せている。一方で福岡県の1.37泊は、ビジネス需要が中心でありながら連泊が多いことを示しており、肥前エリアが参照すべきは「遠い島」のモデルよりも「都市と周辺を組み合わせて2泊させる」福岡型のモデルだろう。外国人比率で見ても、鹿児島県8.4%・長崎県10.0%・佐賀県10.7%は福岡県の33.0%と大きく離れており、肥前の7.1%は長崎・佐賀の県平均と同じ帯にある。
平均泊数の感応度 — 長崎県北部が1.35泊になれば延べ+10.6万人泊、2025年の減少分の94%
九州内の比較を、肥前の主戦場である長崎県北部の数字に置き換えてみる。2025年の長崎県北部の延べ宿泊者数は2,285,020人泊で、前年から112,570人泊減った。ここに長崎県平均の1.29泊を基準として当てはめ、来訪する実宿泊者数を据え置いたまま平均泊数だけが九州各県の水準に近づいた場合の延べ宿泊者数を試算したのが表6である。
| シナリオ | 平均泊数 | 延べ宿泊者数(試算) | 2025年実績からの増分 | 2025年の前年差(−112,570人泊)に対する比率 |
|---|---|---|---|---|
| 悲観:佐賀県並み | 1.35泊 | 2,391,300人泊 | +106,280人泊 | 94% |
| 中位:福岡県並み | 1.37泊 | 2,426,727人泊 | +141,707人泊 | 126% |
| 全国平均並み | 1.42泊 | 2,515,293人泊 | +230,273人泊 | 205% |
| 楽観:鹿児島県並み | 1.46泊 | 2,586,147人泊 | +301,127人泊 | 268% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年・2024年 年間値(確定値)よりホテルバンク編集部試算。基準1.29泊は長崎県平均を県北部に当てはめた仮定値
佐賀県並みの1.35泊でも延べ宿泊者数は約10.6万人泊増え、2025年に失った11.3万人泊の94%を取り戻す計算になる。福岡県並みの1.37泊なら+14.2万人泊(同126%)、鹿児島県並みの1.46泊なら+30.1万人泊(同268%)と、来訪者数を増やさなくても総量は前年水準を上回る。「52.4%が1泊で帰る」という現状認識は、裏返せば泊数5%前後の上積みが総量の回復に直結する伸びしろの大きさを示している。
運営者にとっての論点は、2泊目をどこまで値引きしてよいかである。表7は、増えた泊数分にだけ値引きを適用した場合の宿泊売上指数(現状=100)を、平均泊数と値引率の2軸で並べたものだ。
| 平均泊数 | 増分泊 0%引き | 増分泊 10%引き | 増分泊 20%引き | 増分泊 30%引き |
|---|---|---|---|---|
| 1.35泊(佐賀県並み) | 104.7 | 104.2 | 103.7 | 103.3 |
| 1.37泊(福岡県並み) | 106.2 | 105.6 | 105.0 | 104.3 |
| 1.42泊(全国平均並み) | 110.1 | 109.1 | 108.1 | 107.1 |
| 1.46泊(鹿児島県並み) | 113.2 | 111.9 | 110.5 | 109.2 |
出典:ホテルバンク編集部試算(実宿泊者数と1人泊あたり単価を一定とし、平均泊数の増分にのみ値引率を適用。人泊ベースの指数で、客室単価・稼働の変化は織り込んでいない)
福岡県並みの1.37泊で増えた泊数分を20%引きにしても指数は105.0で、値引きなしの1.35泊(104.7)を上回る。値引率を10ポイント動かしたときの指数の変化は1.37泊で0.6ポイントにとどまり、泊数が0.02泊伸びたときの変化(1.35泊→1.37泊、値引きなしで1.6ポイント)の半分に満たない。つまり、値引き幅の調整よりも「もう1泊する理由」を用意する方が売上への効き目は大きい。長崎県の連泊プランの71%がすでに連泊割を訴求している以上、次の差別化は値引率ではなく2泊目の中身に移る。
運営者の打ち手 — 2泊目の価格設計と、周遊拠点としての売り方
ここまでのデータを運営の言葉に翻訳すると、打ち手は三つに整理できる。第一は2泊目の価格設計である。佐世保市の推定成約ADRは¥7,400前後で安定しており、1泊目を値上げして2泊目を割り引くより、1泊目を据え置いて2泊目を平戸・波佐見・伊万里への日帰り行程とセットで提示する方が、宿泊者の滞在価値を損なわずに泊数を伸ばせる。長崎県内で「連泊」を名乗る公開プラン名501件のうち、71%が「連泊割」を訴求し、36%が素泊まり、28%が朝食付きだった。連泊割の普及率が高いということは、値引きだけでは差別化しにくいということでもあり、「2泊目に平戸の温泉旅館へ移る」「2泊目は有田・波佐見で器を買う」といった周遊の文脈を名前に載せる余地がある。九州応援割の上限額に2連泊や周遊型の商品をどう乗せるかは、九州応援割の上限3万円・3.5万円に乗る条件が整理している。
第二は周遊拠点としての売り方である。ハウステンボス周辺の1,827室は、場内で1泊した翌日に佐世保の九十九島や平戸へ足を延ばす起点になる。フォレストヴィラやホテルアムステルダムのようにファミリーの言及率が高い施設は、2泊目を「パークの外で遊ぶ日」として設計すると、親の運転負担を減らしながら滞在が延びる。平戸市の温泉旅館群は客室の9割が温泉付きという強みを持つので、ハウステンボス泊とのセット商品や、松浦・伊万里のビジネスホテルからの流入を受ける「2泊目の宿」としての位置づけが考えられる。肥前が初年度に食を軸にした人材育成と体験イベントを据えたのは、こうした2泊目の中身をつくるためだと読める。
第三はインバウンドの受け皿づくりである。長崎県北部の外国人延べ宿泊者数は2025年に15.8万人泊で前年比+6.0%と伸びており、比率が低いのは総量の話ではなく国内客の構成が大きいためだった。多言語対応やキャッシュレスの整備は前提として、ハウステンボス周辺の大型ホテルが抱える広い客室と温泉は、長期滞在を好む欧米豪や東アジアのファミリー層に向けた商品に転用しやすい。インバウンド比率を九州平均に近づける道筋は、佐世保市の4,450室をどう海外市場に見せるかにかかっている。
宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント
長崎県 × 連泊で公開されているプラン名(N=501)に多い訴求要素 ——
連泊割 71%素泊まり 36%朝食付 28%割引 18%長期滞在・暮らす 14%早割 10%
実際の名前の例(匿名化):
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※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。市場×命名の深掘りは命名ベンチマーク/イベント記事をご参照ください。
まとめ — 受け皿は6,324室、鍵は佐世保の4,450室をどう2泊目につなぐか
一般社団法人「肥前」は、12市町とハウステンボスが長期滞在型エリアをつくるために設けた実行主体であり、初年度は食と人材と情報発信に投資する。その受け皿となる客室ストックは135施設・6,324室で、客室の7割が佐世保市に、そのうち1,827室がハウステンボス半径3km圏に集まる。2026年9月の推定成約ADRは佐世保市¥7,400、平戸市¥11,500、松浦市¥7,600、新上五島町¥8,400、伊万里市¥6,600で、都市型と温泉旅館型の二つの価格帯が並存していた。温泉のある宿は22施設・2,178室、複数ベッドの客室を持つ宿は50施設・4,972室と、ファミリーやグループの連泊を受ける仕様は数の上で揃っている。九州内で平均泊数が長い鹿児島県(1.46泊)や福岡県(1.37泊)に対し長崎県は1.29泊で、肥前の「52.4%が1泊」という現状認識と整合する。運営者の打ち手は、2泊目を値引きではなく周遊の文脈で売ること、ハウステンボス周辺の大型客室をファミリーとインバウンドの長期滞在商品に転用すること、そして平戸・伊万里・松浦の宿を「2泊目の宿」として圏域の中に位置づけ直すことにある。
よくある質問
Q. 一般社団法人「肥前」はどの市町で構成されていますか?
A. 西九州させぼ広域都市圏の12市町(長崎県の佐世保市・平戸市・松浦市・西海市・東彼杵町・川棚町・波佐見町・小値賀町・佐々町・新上五島町、佐賀県の伊万里市・有田町)が圏域です。協議会とハウステンボス株式会社が2026年7月28日に設立し、9月17日に目的と事業を公表しました。
Q. 肥前エリアの客室数はどのくらいですか?
A. 主要予約サイトで稼働が確認でき客室数が把握できる営業中の施設は135施設・6,324室です(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。佐世保市が64施設・4,450室で全体の70.4%を占め、ハウステンボス半径3km圏だけで8施設・1,827室あります。
Q. 佐世保市のホテルの推定成約ADRはいくらですか?
A. 2026年9月(確定月)は¥7,376(N=36施設)で、前年同月の¥7,633から3.4%下がりました。同じ月の平戸市は¥11,519(N=9施設)で前年同月比+17.7%と、温泉旅館の多い平戸市が佐世保市の1.5倍強の水準にあります。
Q. 九州で平均泊数が長い県はどこですか?
A. 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値から編集部が算出した平均泊数(延べ宿泊者数÷実宿泊者数)では、鹿児島県1.46泊が九州7県の最上位で、福岡県1.37泊、佐賀県1.35泊、宮崎県1.33泊と続きます。長崎県は1.29泊、全国平均は1.42泊です。
Q. 平均泊数が伸びると延べ宿泊者数はどれだけ増えますか?
A. 長崎県北部に1.29泊を基準として当てはめ、来訪者数を据え置いた編集部試算では、1.35泊で約10.6万人泊、1.37泊で約14.2万人泊、1.46泊で約30.1万人泊の増加になります。2025年の前年差(−11.3万人泊)は1.35泊でほぼ埋まる計算です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチの市町別推定成約ADR(2026年9月・確定月、N=対象施設数)、12市町の客室ストック(主要予約サイトで稼働が確認でき客室数が把握できる営業中施設、2026年10月23日時点)、ハウステンボス半径3km圏ストック(客室数10室以上・レジャーホテル除く、2026年10月24日時点)、施設の設備・客室タイプ情報、宿泊者口コミの言及率(直近24ヶ月)、長崎県の公開プラン名集計(連泊 N=501)。公的統計は観光庁「宿泊旅行統計調査」2024年・2025年確定値(都道府県別・広域市町村130区分)。肥前の3指標(52.4%・7.1%・27.5%)は設立発表資料(RESAS)からの引用で、再計算していない。
■ 試算前提
表6・表7は、長崎県北部の2025年延べ宿泊者数2,285,020人泊に長崎県平均の1.29泊を基準として当てはめ、実宿泊者数と1人泊あたり単価を一定とした単純試算。値引率は平均泊数の増分(増分泊)にのみ適用した。平均泊数は延べ宿泊者数÷実宿泊者数(編集部算出)。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは推定値で、上場ホテルREITの物件別開示との照合では誤差中央値約7%。対象施設5未満の市町は参考値、有田町・小値賀町・東彼杵町は掲載価格(全プラン平均・税込)で成約水準とは比較できない。客室ストックは主要予約サイト掲載ベースで、未掲載の施設(佐々町・東彼杵町を含む)は数えていない。設備は予約サイト上の設備情報にもとづき、泉質や源泉の別は区別していない。延べ宿泊者数の試算は人泊ベースで、客室数・客室単価の変化は織り込んでいない。
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- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年・2024年 年間値(確定値)集計結果および広域市町村(130区分)別集計
- ハウステンボス公式サイト「ホテル」
- メトロエンジンリサーチ — 市町別推定成約ADR(2026年9月・確定月)、客室ストック(主要予約サイト掲載ベース・2026年10月23日時点)、ハウステンボス半径3km圏ストック(2026年10月24日時点)
- ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミのNLP解析(直近24ヶ月)、長崎県の公開プラン名集計(連泊 N=501)
