霞ヶ関キャピタルグループのFHG hotels株式会社が、2027年4月に3軒のホテルを開業する。兵庫県洲本市の大浜海水浴場を目の前に望む「edit x seven 淡路島」(59室)、近鉄宇治山田駅から徒歩約4分・伊勢神宮外宮へ徒歩10分の「edit x seven 伊勢」(49室)、全39室に温泉風呂を備える「seven x seven 由布院」(39室)で、合計147室になる。3軒とも公式サイトで予約受付が始まっており、公表された客室価格は1泊2名・素泊まりで淡路島22,000円〜、伊勢31,500円〜、由布院80,300円〜と、同じグループでも町によって3.6倍の開きがある。本稿では、3つの町の推定成約ADRと季節の形、2km圏の客室ストックの規模分布と上位価格帯の厚みを並べ、1室あたり総事業費から逆算した必要ADRと照らし合わせることで、観光地に40〜60室のホテルを置く開発モデルがどの単価条件で成り立つのかを読み解く。
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
客室ストックの集計範囲
- 本記事の客室ストックは、edit x seven 淡路島 予定地から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
- 本記事の客室ストックは、edit x seven 伊勢 予定地から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
- 本記事の客室ストックは、由布院駅から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
- 3軒の公表客室価格は各社発表の「1泊2名・素泊まり」の税込下限額であり、本稿のADR(推定成約単価・税抜相当)とは基準が異なる。比較の際は税込額を1.1で割った目安を併記する。
- — 3町の推定成約ADR(2026年9月)は洲本市¥19,400・伊勢市¥13,800・由布市¥23,200。前年同月比はそれぞれ+11.7%・+5.7%・+4.6%(N=20・44・142施設)。
- — 季節の形は町ごとに違う。洲本市は8月が9月の1.61倍で直近12か月の山谷は1.96倍、伊勢市は8月と3月に山、由布市は12月を頂点に冬が高く6〜7月が谷になる。
- — 2km圏で40〜60室は「大きい側」。稼働中の施設の中で、淡路島59室は14軒中5番目、伊勢49室は19軒中9番目、由布院39室は67軒中6番目の規模にあたる。
- — 3万円以上の価格帯の厚みは町で大きく違う。洲本は5軒296室、伊勢は1軒10室、由布院は19軒287室で、由布院の上位帯は最大でも45室の宿で構成される。
- — 1室あたり総事業費5,000万円なら必要ADRは約2.6万円(通年稼働率70%・NOI利回り5%の仮定)。9,000万円で約4.7万円、1億2,000万円で約6.3万円になり、由布院の価格設定はこの上位シナリオと重なる。
3軒の概要 — 海・参道・温泉に合わせて客室の形を変えるブランド設計
FHG hotelsは、グループ旅行向けの「fav」、その上位ラインの「FAV LUX」、ハイエンドの「seven x seven」、そして「edit x seven」「BASE LAYER HOTEL」を展開している。今回の3軒に共通するのは、1室に大人数で泊まれる客室を軸にしながら、町の資源に合わせて共用部の主役を入れ替えている点である。淡路島は全天候型のプール&サウナ、伊勢は男女共用の薬草スパ&サウナ、由布院はフィンランドのAVANTO ARCHITECTSが手がけるサウナと温泉を組み合わせたサーマルスパと、いずれも季節や天候に左右されにくい滞在価値を館内に用意している。
客室構成にもそれぞれの考え方が表れている。淡路島は14タイプで1室最大6名、最上階には250平方メートルを超えるルーフトップ付きスイートを置く。伊勢は8タイプで1室最大8名、平均40平方メートル超の客室に、専用サウナ付きの「サウナキング」や80平方メートルの「サウナスイート」を加えた。由布院は6タイプ・最大8名で、公表された客室タイプ別の室数と面積から計算すると客室の平均面積は約75平方メートルに達する。
| 項目 | edit x seven 淡路島 | edit x seven 伊勢 | seven x seven 由布院 |
|---|---|---|---|
| 所在地 | 兵庫県洲本市海岸通2-2-30 | 三重県伊勢市岩渕2-5-11 | 大分県由布市湯布院町川上字平原298番1 外10筆 |
| 客室数・タイプ | 59室・14タイプ | 49室・8タイプ | 39室・6タイプ |
| 1室の最大定員 | 6名 | 8名 | 8名 |
| 主な共用部 | 全天候型プール&サウナ、カフェダイニング | 薬草スパ&サウナ(定員30名)、cafe&dining | サーマルスパ(6:00〜24:00)、レストラン・寿司カウンター等 |
| アクセス | 洲本バスターミナルから徒歩8分、洲本ICから車15分 | 近鉄宇治山田駅から徒歩約4分、外宮まで徒歩10分 | JR由布院駅から約10分(無料送迎) |
| 公表客室価格(1泊2名・素泊まり・税込) | 22,000円〜 | 31,500円〜 | 80,300円〜 |
| 税抜換算の目安 | 約20,000円〜 | 約28,600円〜 | 約73,000円〜 |
| 開業 | 2027年4月 | 2027年4月 | 2027年4月 |
価格の開きは、立地の格というより客室の作り方の違いとして読むのが自然だろう。由布院は全室に温泉風呂が付き、平均面積も伊勢の約2倍ある。一方の淡路島は、オーシャンビューの上層階からシティビューまで14タイプを揃えて価格の入口を低く設定しており、家族旅行の予算帯から上位スイートまで幅広い需要を受け止める設計になっている。
3町の単価水準 — 直近12か月で伊勢市+11.3%、洲本市+9.2%
まずは町全体の単価水準を確認したい。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRで直近12か月(2025年10月〜2026年9月)の平均を取ると、洲本市は¥22,400、伊勢市は¥14,200、由布市は¥23,800になる。前の12か月と同じ月どうしで比べると、伊勢市が+11.3%、洲本市が+9.2%と伸びが大きく、もともと水準の高い由布市は+1.6%と横ばいに近い。由布院を含む大分県18市町村の単価階層は、大分県ホテル投資マップ2026も参考になる。
単月で見ても動きは同じ方向を向いている。2026年9月の推定成約ADRは洲本市¥19,400(前年同月比+11.7%、N=20)、伊勢市¥13,800(同+5.7%、N=44)、由布市¥23,200(同+4.6%、N=142)だった。伊勢市は2026年1月も前年同月比+15.6%と高く、参拝需要の厚い月に単価が乗りやすくなっていることがうかがえる。ただし洲本市は対象施設が約20軒と少なく、1〜2軒の価格改定で月の値が振れやすい点には留意したい。
季節の形 — 洲本は夏、由布院は冬、伊勢は年中なだらか
同じ「観光地の50室前後」でも、1年の売り方は町によって大きく変わる。直近12か月の平均を100として月ごとの指数を並べると、洲本市は8月が139.5と突出し、6月は71.0まで下がる。山と谷の差は1.96倍で、3町の中で最も大きい。8月の推定成約ADR¥31,300は9月¥19,400の1.61倍にあたり、海水浴シーズンの単価がそのまま年間の収益を左右する構造だといえる。
由布市は形が逆になる。12月の114.1を頂点に10月から3月まで100を上回り、6月80.9・7月83.0が谷になる。山谷の差は1.41倍にとどまり、冬の温泉需要が年間を下支えしている。伊勢市は8月121.0と3月109.4に山があり、2月と6月が84前後で谷を作るが、そのほかの月は88〜107の範囲に収まる。参拝という目的が季節を問わず人を呼ぶため、年間を通じて単価がなだらかに推移する町である。
この違いは共用部の設計と噛み合っている。夏の山が鋭い洲本で全天候型のプールとサウナを備えれば、6月や冬の谷を「雨でも泳げる宿」として埋める余地が広がる。冬に強い由布院では温泉とサウナを組み合わせたサーマルスパが繁忙期の単価をさらに押し上げ、伊勢では薬草サウナが参拝前後の「清め」という体験を通年で提供する。季節の弱い月をどの体験で補うかが、3軒それぞれの収益機会になる。
2km圏の客室ストック — 40〜60室は3町とも「大きい側」に入る
次に、各施設の周辺2km圏にどれだけの客室があるかを見る。直近3か月に販売価格が確認できた稼働中の施設(10室以上)は、淡路島の所在地周辺が14軒637室、伊勢の所在地周辺が19軒1,297室、由布院駅周辺が67軒1,218室だった。1軒あたりの客室数の中央値は洲本28室・伊勢36室・由布院13室で、由布院の小ささが際立つ。
この中に新しい3軒を置くと、規模の序列がはっきりする。淡路島の59室は稼働中14軒のうち5番目の大きさで、51〜100室の層(稼働中3軒191室)に加わる。伊勢の49室は19軒中9番目だが、伊勢の上位8軒は97〜217室のビジネスホテル・シティホテルで占められ、50室以下の層(11軒211室)の中では最も大きい部類になる。由布院の39室は67軒中6番目で、圏内の65軒が50室以下という小規模旅館の町では十分に大型の部類といえる。
| 2km圏(稼働中・10室以上) | 施設数 | 客室数 | 客室数の中央値 | 新施設の規模順位 | 開業後の客室増加率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 淡路島(洲本市海岸通) | 14軒 | 637室 | 28室 | 5番目(59室) | +9.3% |
| 伊勢(伊勢市岩渕) | 19軒 | 1,297室 | 36室 | 9番目(49室) | +3.8% |
| 由布院駅 | 67軒 | 1,218室 | 13室 | 6番目(39室) | +3.2% |
時間軸で見ても、3つの圏域の客室ストックの伸び方は異なる。開業年が判明している10室以上の施設で比べると、伊勢の圏域は2017年の18軒989室から2026年には24軒1,371室へと約4割増えた。駅周辺のビジネスホテル開業が続いたためで、そこに49室が加わっても増加率は+3.6%にとどまる。洲本は同じ期間に15軒739室から17軒766室とほぼ横ばいで、59室の開業は+7.7%と3町で最も大きなインパクトになる。由布院駅周辺は67軒1,204室から73軒1,301室へ緩やかに増えており、39室で+3.0%になる。なお由布院では10室未満の宿も含めた掲載ストックが301軒2,234室あり、1軒あたり平均7.4室と小さな宿の集積が町の個性になっている。
上位価格帯の厚み — 3万円以上は洲本5軒・伊勢1軒・由布院19軒
規模と並んで重要なのが、圏内にどの価格帯の宿がどれだけあるかである。稼働中の施設のうち直近12か月で6か月以上の推定成約ADRが得られた施設について、12か月平均が3万円以上の宿を数えると、洲本は13軒中5軒296室、伊勢は17軒中1軒10室、由布院は58軒中19軒287室だった。
3つの町の上位帯は、構成がまったく違う。洲本の上位帯には100室を超えるリゾートホテルから18室の旅館までが並び、規模の大きい宿でも3万円以上の単価が成り立っている。伊勢は圏内の客室の6割強が1.5万円未満の価格帯にあり、3万円以上は10室の旅館1軒だけだった。外宮周辺の宿泊需要はビジネスホテルが大きく受け止めてきた町で、上位帯にはまだ大きな余白が残っているといえる。三重県全体の市町別の単価階層と価格帯の空白については、三重県ホテル投資2026で詳しく分析している。
由布院は上位帯そのものが厚い。19軒287室が3万円以上、そのうち4軒44室は5万円以上の水準にある。ただし上位帯で最も大きい宿でも45室で、19軒の大半は10〜16室の小さな宿だ。全室に温泉風呂を備えた39室は、この町の上位帯の中で規模を武器にできる数少ない存在になる。公表価格80,300円〜(税抜換算で約73,000円〜)は、圏内5万円以上の帯の客室数44室に匹敵する客室を、その帯の水準で供給する計画とも読める。
淡路島(洲本)
3万円以上:5軒296室
大型リゾートも上位帯に入る町。59室は51〜100室の層に加わり、プールとサウナで夏以外の月を厚くする設計。
伊勢
3万円以上:1軒10室
上位帯の余白が最も大きい町。同グループのfav 伊勢(36室)が実績を積む地で、49室が上位帯の受け皿を広げる。
由布院
3万円以上:19軒287室
上位帯は厚いが最大45室の小規模宿で構成。39室・全室温泉風呂は規模と付加価値を両立させる位置にある。
立地 — 商業系の用途地域と、地価の動きが分かれる3町
国土交通省の不動産情報ライブラリで所在地周辺を確認すると、淡路島の所在地は商業地域(容積率500%・建蔽率80%)、伊勢の所在地は近隣商業地域(容積率300%・建蔽率80%)に含まれる。いずれもホテル用途を建てやすい商業系の用途地域で、6階以上にオーシャンビューの客室を積み上げる淡路島の設計は、容積率の大きさを活かした形と読める。
| 町 | 近隣の地価公示地点(2026年) | 価格 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 洲本市 | 本町7丁目(商業地域・所在地から約0.8km) | 76,000円/㎡ | −2.3% |
| 伊勢市 | 岩渕1丁目(近隣商業地域・所在地から約0.2km) | 69,200円/㎡ | +0.7% |
| 伊勢市 | 本町(商業地域・所在地から約0.7km) | 145,000円/㎡ | +0.7% |
| 由布市 | 湯布院町川上字無田(商業地・由布院駅から約1.0km) | 221,000円/㎡ | +4.7% |
| 由布市 | 湯布院町川上字野田(商業地域・由布院駅から約0.3km) | 141,000円/㎡ | +5.2% |
地価の動きは3町で分かれる。由布院の商業地は2026年の地価公示で+4.7%〜+5.2%と上昇が続き、1平方メートルあたり22万円台の地点もある。伊勢は横ばいに近い+0.7%、洲本の本町は−2.3%だった。土地の取得費が重い由布院では、敷地約13,567平方メートルという広さを温泉付き客室とスパに充て、高単価で回収する設計が理にかなう。地価が落ち着いている洲本・伊勢では、建物側の付加価値に投資を寄せやすい条件がそろっている。なお、伊勢の所在地一帯は三重県の津波浸水想定(2016年)で1m以上2m未満の区域に、淡路島の所在地は想定最大規模の洪水浸水想定区域(0.5m以上3m未満)に含まれる。海や河川に近い観光地に共通する条件であり、設備の配置計画で織り込まれる要素である。
淡路島(洲本市海岸通)2km圏
伊勢(伊勢市岩渕)2km圏
由布院駅 2km圏
円の大きさ=客室数、色=推定成約ADR(直近12か月平均):■ 3万円以上 ■ 1.5万〜3万円 ■ 1.5万円未満 ■ 単価の集計なし ★=新施設の所在地(由布院は駅を中心とした2km圏を表示)
必要ADRの試算 — 1室5,000万円で約2.6万円、1億2,000万円で約6.3万円
では、こうしたホテルを成り立たせるには1室あたりいくらの単価が必要になるのか。3軒の事業費は公表されていないため、公表値を手がかりに「1室あたり総事業費」の3つの水準を置き、そこから逆算する。手がかりは2種類ある。ひとつは建築費で、国土交通省の建築着工統計をもとにした2025年のホテル・旅館の坪単価はRC造202.6万円、S造240.5万円である。伊勢の公表値「平均40平方メートル超」の客室を、客室部分比率60%のRC造で建てると1室あたりの延床は約20坪、建築費は約4,100万円になる。由布院の平均約75平方メートルの客室を客室部分比率55%で置くと延床は約41坪、建築費は約8,400万円だ。
建設期間中の上昇も織り込んでおきたい。Turner & Townsendは日本の建設費上昇率を2026年5.3%、2027年5.0%と見込んでおり、今から2年かけて建てる計画ならこれを掛けて伊勢型は約4,500万円、由布院型は約9,200万円になる。もうひとつの手がかりは取引価格で、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)が開示する取得価格を1室あたりに直すと、fav 伊勢は4,833万円、seven x seven 糸島は1億1,128万円、seven x seven 石垣は1億5,455万円になる。
| シナリオ(1室あたり総事業費) | 公表値による目安 | 通年稼働率60% | 通年稼働率70% | 通年稼働率80% |
|---|---|---|---|---|
| A 5,000万円 | 伊勢型の建築費(インフレ後約4,500万円)、fav 伊勢の取得価格(4,833万円) | ¥30,400 | ¥26,100 | ¥22,800 |
| B 9,000万円 | 由布院型の建築費(インフレ後約9,200万円) | ¥54,800 | ¥47,000 | ¥41,100 |
| C 1億2,000万円 | seven x seven 糸島の取得価格(1億1,128万円)〜石垣(1億5,455万円) | ¥73,100 | ¥62,600 | ¥54,800 |
| 参考:NOI利回り6%を求める場合(通年稼働率70%) | A ¥31,300 / B ¥56,400 / C ¥75,100 | |||
NOIを売上高の30%と置いたのは、業界一般のGOP率が30〜40%前後とされることを踏まえ、賃料・固定資産税・保険・修繕積立を差し引いた後の水準として控えめに見積もったためである。客室売上を館全体の8割と置いたのは、3軒ともカフェダイニングやスパを外来客にも開く計画で、料飲・付帯の売上が一定程度見込めるからだ。
結果を町の単価と並べると、どのシナリオでも必要ADRは町の中央的な水準を上回る。シナリオAの¥26,100は伊勢市の12か月平均¥14,200の1.8倍、洲本市の¥22,400の1.2倍にあたる。これを埋めるのが大人数で泊まれる客室だ。本稿のADRは2名1室の水準だが、FHGの客室は1室6〜8名まで泊まれる。同じグループのfav 伊勢(36室)は2026年8月にADR¥38,729、稼働率77.9%を記録しており(前年同月比でそれぞれ+10.4%・+2.9pt)、同月の伊勢市の推定成約ADR¥17,100の約2.3倍に達した。グループ単位で1室を売る設計が、町の水準を大きく超える客室単価を実現している実例である。
由布院の公表価格(税抜換算で約73,000円〜)は、シナリオCの必要ADR¥62,600を上回る水準から始まる。全室温泉風呂付き・平均約75平方メートルという客室への投資を、単価で回収する計画と整合的だ。伊勢の約28,600円〜はシナリオAの必要ADRを上回り、淡路島の約20,000円〜は入口の価格を抑えたうえで、オーシャンビューの上層階やスイートで客室単価を積み上げる構成になっている。いずれも町の中央値より高い価格帯を、客室の広さと定員、館内の体験で正当化する考え方といえる。
出口の参照点 — 霞ヶ関ホテルリートの保有15物件726室
開発型のホテル事業では、完成・稼働後に誰が保有するかが事業費の回収に直結する。上場ホテルREIT 7法人(いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A))のうち、本稿ではFHGブランドの物件を保有する霞ヶ関ホテルリートの保有構成を参照する。
| ブランド | 物件数 | 客室数 | 取得価格合計 | 1室あたり |
|---|---|---|---|---|
| fav | 10 | 390室 | ¥16,300百万円 | 4,179万円 |
| FAV LUX | 3 | 168室 | ¥8,980百万円 | 5,345万円 |
| seven x seven | 2 | 168室 | ¥23,930百万円 | 1億4,244万円 |
| 合計 | 15 | 726室 | ¥49,210百万円 | 6,778万円 |
保有15物件のうち、seven x seven の2物件は客室数で全体の23%にとどまる一方、取得価格では49%を占める。1室あたり1億4,244万円という水準は、fav(4,179万円)の約3.4倍にあたる。ブランドの階段がそのまま1室あたりの資産価値の階段になっており、seven x seven 由布院の39室・80,300円〜という設計は、この上位の階段に連なる計画と位置づけられる。運営実績を開示する11物件の2026年8月の合計は稼働率84.3%・ADR¥30,309で、グループステイ型の客室が地方都市でも高い単価を確保していることが分かる。もっとも、今回の3軒の将来の保有形態について公表された情報はなく、本稿はREITへの組入れを前提としない。あくまで、同じブランド群の物件が市場でどの価格で取引されてきたかを示す参照点として扱っている。親会社の開発パイプラインと決算の全体像は、霞ヶ関キャピタル2026年8月期決算の分析が掘り下げている。
まとめ — 町の中央値の2倍を、定員と体験で取りにいく
3つの町のデータを並べると、edit x seven と seven x seven の開発モデルの輪郭が見えてくる。第一に、40〜60室という規模は3町とも圏内で上位に入る大きさであり、小さな宿が集まる観光地で「規模のある上位帯」をつくる役割を担う。第二に、必要ADRは町の中央的な水準を上回るが、1室6〜8名の定員と、プール・薬草サウナ・サーマルスパといった館内体験がその差を埋める。fav 伊勢の8月実績は、この考え方が地方の観光地で機能している具体例といえる。
町ごとの収益機会も異なる。洲本は夏の山が鋭く、全天候型の共用部で6月や冬の谷をどこまで埋められるかが伸びしろになる。伊勢は上位価格帯の余白が最も大きく、参拝需要の厚い1月・3月・8月に客室単価を上げていく余地がある。由布院は冬に強い町で、上位帯の中で規模を持つ全室温泉風呂付きの39室が、冬季の単価をさらに押し上げる可能性を持つ。開業まで半年を切ったいま、3軒は「町の平均」ではなく「町の上位帯」を相手にした事業計画として読むのが適切だろう。
試算に関する注意:必要ADRの試算は、1室あたり総事業費・稼働率・NOI比率・利回りを本稿で仮定した簡易試算であり、3軒の実際の事業費や収益計画を示すものではありません。実際の投資判断には、土地条件や運営契約を織り込んだ詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADRはメトロエンジンリサーチがOTA公開の最安プラン水準(2名1室・1室あたり)に業態別の補正係数を適用した推定値で、市区町村の値は対象施設の中央値(洲本市N=19〜20・伊勢市N=42〜44・由布市N=131〜142施設、2024年10月〜2026年9月)。2km圏の客室ストックは客室数10室以上・レジャーホテルを除く施設で、直近3か月(2026年8月〜10月)に販売価格が確認できた施設を稼働中とした(2026年10月27日時点)。地価公示・用途地域・浸水想定は国土交通省 不動産情報ライブラリ、取得価格と2026年8月の運営実績は霞ヶ関ホテルリート投資法人の開示、客室数・公表価格は各社プレスリリースと公式サイトによる。
■ 試算前提
必要ADR=1室あたり総事業費×NOI利回り÷(365日×通年稼働率×NOI売上比率0.30÷客室売上比率0.80)。総事業費は1室5,000万円・9,000万円・1億2,000万円の3水準、通年稼働率は60%・70%・80%、NOI利回りは5%(参考6%)とした。建築費の目安は2025年のホテル坪単価(RC造202.6万円)に客室部分比率55〜60%を置き、建設費上昇率2026年5.3%・2027年5.0%を掛けた。いずれも本稿の仮定である。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは2名1室の水準で、1室6〜8名で利用する客室の単価とは基準が異なる。3軒の事業費・土地取得費・運営契約は公表されておらず、試算は実際の事業計画を示すものではない。洲本市は対象が約20施設と少なく月次値が振れやすい(2025年11月は集計対象外)。由布院の2km圏は所在地ではなく由布院駅を中心に集計した。公表客室価格は税込の下限額で、税抜換算は1.1で割った目安である。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(洲本市N=19〜20・伊勢市N=42〜44・由布市N=131〜142施設)、2km圏の客室ストック(2026年10月27日時点)
■ 開業情報(公式発表)
- FHG hotels「edit x seven 淡路島」2027年4月開業(2026年10月14日)
- FHG hotels「edit x seven 伊勢」2027年4月開業(2026年10月1日)
- edit x seven 伊勢 公式サイト
- seven x seven 由布院 公式サイト
- WWDJAPAN「seven x seven 由布院」開業記事(2026年10月20日)
- Holiday「seven x seven Yufuin Opens in Oita in April 2027」(2026年9月2日)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2026年)・用途地域・洪水浸水想定区域・津波浸水想定
- 国土交通省「建築着工統計調査」(archi-book「ホテル建築費の坪単価」2026年版による集計値)
■ REIT・業界レポート
