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箱根強羅に同日開業の2業態、食事込み34室とキッチン付き18室 — 中強羅駅1km圏1,467室の価格帯で読む

投稿日 : 2026.11.01

神奈川県

新規開業・供給

箱根強羅に同日開業の2業態、食事込み34室とキッチン付き18室 — 中強羅駅1km圏1,467室の価格帯で読む

森トラスト・ホテルズ&リゾーツが2026年11月10日、箱根登山ケーブルカー中強羅駅の目の前に2つの宿を同じ日に開く。ひとつは夕食・朝食と貸切温泉露天風呂を宿泊料金に含めた全34室の「WAKAN箱根強羅 by ラフォーレ」、もうひとつは全18室すべてにキッチンを備え、1室4〜6名で泊まる「APARTHOTEL リルト 箱根強羅」である。同一事業者が同一駅前で、食事込みの温泉旅館型と素泊まり多人数のアパートメント型という正反対の売り方を同日に並べる供給の出し方は珍しい。本稿では、両施設の公表情報を一次資料で確認したうえで、中強羅駅から半径1km・2kmの客室ストックと価格帯、箱根町の月次推定成約ADRの季節性を重ね、この2業態並置が商圏のどこに入るのかを読み解く。開業前の施設であるため、稼働率や実績単価には触れない。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
Key Takeaways
  • — 2026年11月10日、森トラスト・ホテルズ&リゾーツが中強羅駅前に食事込み・2名利用の「WAKAN箱根強羅 by ラフォーレ」(34室)と、全室キッチン・4〜6名利用の「APARTHOTEL リルト 箱根強羅」(18室)を同日開業する。いずれも既存建物の活用。
  • — 中強羅駅1km圏の稼働客室1,467室の約7割は旅館。2026年9月の掲載最安水準(2名1室・税込)では3万〜4万円帯が466室・32.3%と最も厚く、WAKANの1室33,246円はこの帯に入る。4〜6名で使う客室は圏内にほぼない。
  • — 箱根町の推定成約ADRは11月が年間の山で、2025年11月は28,920円(N=170施設、前年同月比+9.2%)。2026年11月は調査時点の掲載水準に基づく推定で30,198円(N=183施設)。

同じ事業者・同じ駅前・同じ日に開く2軒 — 公表情報の整理

まずは2軒の公表情報を並べる。いずれも森トラスト・ホテルズ&リゾーツが2026年9月1日に配信したプレスリリースと、トラベルボイス2026年9月15日付の報道で確認した。中強羅駅はケーブルカーで強羅駅から3駅、箱根の山腹にあたり、駅から徒歩2分と徒歩約1分という近さは実質的に同じ区画と言ってよい。所在地もそれぞれ強羅1300-119、強羅1300-126と地番が続いている。

2軒の公表情報(WAKAN箱根強羅 by ラフォーレ/APARTHOTEL リルト 箱根強羅)
項目WAKAN箱根強羅 by ラフォーレAPARTHOTEL リルト 箱根強羅
開業日2026年11月10日(火)2026年11月10日(火)
客室数全34室(露天風呂付き客室・和室)全18室(全室キッチン付き・約48㎡・定員4〜6名)
アクセス中強羅駅 徒歩2分中強羅駅 徒歩約1分
温泉早雲山・上強羅の2源泉をかけ流し、貸切温泉露天風呂源泉かけ流しの温泉大浴場
食事夕食・朝食込み(和膳形式)、夕食時フリーフロー食事提供なし(自炊前提、コインランドリー併設)
運営方式完全キャッシュレス、セルフチェックイン完全キャッシュレス
開業プラン「WAKAN体験プラン」1名16,623円〜(2名1室利用時・税サ込・入湯税別)「グループ旅行応援プラン」1名4,905円〜(6名1室利用時・税サ込・入湯税別、4名以上対象)
プラン対象期間宿泊2026年11月10日〜2027年2月28日、予約2026年12月31日まで同左
建物1983年築・地上4階1989年築・地上5階

出典:森トラスト・ホテルズ&リゾーツ プレスリリース(2026年9月1日)、トラベルボイス(2026年9月15日)よりホテルバンク編集部作成

ここで注意したいのは価格の読み方である。WAKANの1名16,623円は2名1室利用時の1名あたり料金なので、1室あたりに直すと33,246円(税・サービス料込、入湯税別)になる。一方のリルトの1名4,905円は6名1室利用時の数字で、1室あたりでは29,430円である。1室換算では両者が3万円前後で並ぶように見えるが、片方は2名で夕食・朝食と貸切風呂を含み、もう片方は6名で食事なしという全く別の商品であり、本稿では1名あたり換算と1室あたり換算を混ぜずに扱う。客室面積はリルトが約48㎡と公表されているのに対し、WAKANは公表がなく、総事業費も両施設とも開示されていない。また、建築年がそれぞれ1983年・1989年と記載されている点から、いずれも新築ではなく既存建物を活用した開業と読める。

中強羅駅1km・2km圏の客室ストック — 旅館が過半、50室以下が8割

次に、この2軒が入る商圏の厚みを確認する。本記事の客室ストックは、中強羅駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月25日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。

中強羅駅から半径1km圏には掲載ベースで70軒・2,456室、うち稼働中が43軒・1,467室ある。半径2kmに広げると掲載105軒・3,795室、稼働65軒・2,271室となり、強羅駅周辺から小涌谷・宮ノ下の一部までが入る。掲載70軒には開業前の今回の2軒(計52室)も含まれている。業態別に見ると1km圏の稼働客室1,467室のうち旅館が1,020室と約7割を占め、リゾートホテルが203室で続く。2km圏でも旅館1,570室・リゾートホテル381室という構成で、強羅は数字のうえでも旅館の街である。

中強羅駅から半径1km・2km圏の業態別客室ストック(2026年10月時点)
業態1km圏 掲載1km圏 稼働中2km圏 掲載2km圏 稼働中
旅館44軒 1,312室29軒 1,020室63軒 1,936室42軒 1,570室
リゾートホテル12軒 465室7軒 203室21軒 1,009室12軒 381室
ビジネスホテル3軒 340室1軒 76室3軒 340室1軒 76室
デラックスホテル1軒 80室1軒 80室3軒 116室3軒 116室
貸別荘1軒 77室0軒 0室2軒 95室1軒 18室
ホステル・ゲストハウス5軒 85室4軒 67室5軒 85室4軒 67室
その他(会社・団体の宿泊所、ペンション等)4軒 97室1軒 21室8軒 214室2軒 43室
合計70軒 2,456室43軒 1,467室105軒 3,795室65軒 2,271室

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月時点、中強羅駅から半径1km・2km)

規模階級で見ると、1km圏の掲載70軒のうち50室以下が59軒・1,223室と軒数の84%を占める。51〜100室は7軒、101〜200室は3軒、201室以上は1軒にとどまり、34室のWAKANも18室のリルトも、この街で最も層の厚い小規模帯に入る。時系列では、1km圏で稼働中の施設は2017年の48軒・1,871室から2026年の49軒・1,574室へと、軒数がほぼ横ばいのまま客室数が16%減った。大型施設が抜け、20室前後の小さな宿が増えてきた10年間であり、2020年代開業は8軒・198室に達する。開業年が確認できない6軒・149室はこの年次推移に含めていない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。円の大きさは客室数、青=旅館、紺=リゾート・デラックスホテル、灰=その他業態、黒=今回開業の2軒。破線は中強羅駅から1km・2km

価格帯マップ — 1室3万円台前半は商圏で最も客室が厚い帯

では、WAKANの1室33,246円(2名1室・食事込み・税サ込)は商圏のどの帯に入るのか。ここでは2026年9月時点で各施設がOTA上で公開していた最安プラン水準(2名1室・1室あたり・税込)を価格帯に分け、客室数で集計した。推定成約ADRではなく掲載価格を使うのは、WAKANの公表価格が税込の販売価格であり、同じ基準で比べるためである。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年9月の掲載最安プラン水準、2名1室・税込。1km圏N=42施設・1,444室、2km圏N=64施設・2,248室)

掲載最安水準の価格帯別客室構成(2026年9月、2名1室・税込)
掲載最安水準(2名1室・税込)1km圏 軒数1km圏 客室構成比2km圏 軒数2km圏 客室構成比
2万円未満9軒275室19.0%12軒323室14.4%
2万〜3万円9軒289室20.0%13軒374室16.6%
3万〜4万円10軒466室32.3%14軒627室27.9%
4万〜6万円2軒57室3.9%10軒380室16.9%
6万〜10万円10軒306室21.2%12軒479室21.3%
10万円以上2軒51室3.5%3軒65室2.9%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年9月、稼働中かつ価格が確認できた施設)

1km圏で最も客室が多い帯は3万〜4万円で、10軒・466室と全体の32.3%を占める。2km圏でも同じ帯が14軒・627室(27.9%)で最大であり、強羅の「標準的な旅館の売り値」はこの帯にある。WAKANの1室33,246円はちょうどこの最厚帯の下寄りに入る。同社が同じ強羅で運営するラフォーレ箱根強羅 湯の棲(22室)の9月の掲載最安水準も約32,600円であり、既存施設と同じ帯に、夕食・朝食と貸切風呂を含めた商品を置いた格好である。1km圏の掲載最安水準の中央値は約34,100円、推定成約ADRの中央値は約28,800円(N=36施設)で、町全体の9月の推定成約ADR25,858円(N=186施設)より強羅のほうが一段高い。

一方のリルトは2名1室の価格帯マップには載せられない。1室29,430円は6名で使ったときの数字であり、1名あたり4,905円という水準で見るべき商品である。参考までに1名あたりで比べると、圏内のゲストハウス3軒(37室)の9月の掲載最安水準は2名1室で8,900〜10,900円、つまり1名4,400〜5,500円の帯にあり、リルトの6名利用時の1名単価はこの帯と重なる。ただし温泉大浴場とキッチン、約48㎡の専有面積という中身は別物で、1km圏の掲載ストックのうち4〜6名で1室を使う前提の客室は貸別荘1軒77室(現在は販売確認なし)とホステル・ゲストハウス85室程度しか見当たらない。箱根の稼働中客室の大半が2名1室を基準に売られているなかで、多人数1室の受け皿はほぼ空白である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2km圏の稼働施設N=64、横軸=客室数、縦軸=2026年9月の掲載最安水準〔2名1室・税込〕、大きい点=1km圏内)

箱根町の月次推定成約ADR — 11月はピーク、年末年始は横ばいの型

開業月の11月は、箱根町にとって年間で最も単価が立つ月のひとつである。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(箱根町・全業態、エリア中央値)を月別に重ねると、2025年11月は28,920円(N=170施設)で、8月の29,243円と並ぶ年間の山になった。前年の2024年11月(26,478円、N=191施設)に対して9.2%の上昇である。続く12月は28,454円と11月とほぼ同水準を保ち、1月に26,607円へ下がる。6月(2026年は22,654円)と7月(23,332円)が谷で、紅葉の11月と谷の6月の差は約6,300円、率にして28%に達する。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(箱根町・推定成約ADR・エリア中央値、2026年10月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定、各月N=127〜193施設)

箱根町の推定成約ADR(月次・エリア中央値)
月2024年2025年2026年2027年直近の前年同月比
11月26,478円28,920円30,198円※—+4.4%※
12月26,997円28,454円28,411円※—−0.2%※
1月—26,293円26,607円28,697円※+7.9%※
2月—23,662円24,947円26,701円※+7.0%※
9月(直近確定月)24,100円24,698円25,858円—+4.7%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(箱根町・推定成約ADR。※は2026年10月時点の掲載水準に基づく推定で、今後変動する)

2026年11月は調査時点の掲載水準に基づく推定で30,198円(N=183施設)と、前年同月比4.4%高い水準で入っている。12月は28,411円で前年並み、2027年1月・2月はそれぞれ28,697円・26,701円と前年同月を7〜8%上回る水準が掲載されているが、これらはチェックイン日に近づくにつれて動く数字である。WAKANの開業プランが11月10日から2月28日まで同じ価格体系で売られる点を踏まえると、11月の山と1〜2月の谷を一本の料金で通す設計になっている。食事と貸切風呂を含めた1室33,246円は、町の11月の推定成約ADR(税抜相当)の約1.1倍にあたる税込価格であり、繁忙期に見れば標準的、閑散期に見れば食事込みとしては手の届く水準という読みができる。

需要側の背景も確認しておきたい。箱根町が2026年6月に公表した2025年の入込観光客数は2,112万人(前年比4.0%増)、うち宿泊客は414.8万人(同4.1%増)で、外国人宿泊者数は同27.6%増と伸びが大きい。日帰り客は1,697.4万人と宿泊客の4倍にのぼり、箱根は構造的に日帰り比率の高い観光地である。宿泊客を増やす余地は、価格を上げることだけでなく、泊まる理由をつくる商品設計の側にもある。

2業態を並べる設計の読み — 省人化、客層の分離、グループ・連泊の受け皿

ここまでを整理すると、同一事業者が同じ駅前で正反対の2業態を同日に開く設計には、少なくとも3つの読み筋がある。

第一に、省人化の徹底である。WAKANはセルフチェックインと完全キャッシュレスを掲げ、リルトも完全キャッシュレスで食事提供を持たない。34室と18室という規模は、フロントを常時複数名で構える前提では成立しにくく、両施設は徒歩1〜2分の距離にある。公表資料に運営体制の記載はないが、同一事業者が隣接する2軒を持つことで、清掃・温泉管理・緊急対応といった現場機能を一体で回す余地が生まれる。しかも建物はいずれも既存のもの(1983年築・1989年築)を活用している。国土交通省の建築着工統計に基づくホテル建築費は2024年に全構造平均で坪195万円と、2022年の138万円から2年で41%上昇しており、既存建物の転用で開業する選択は、この建設費環境のもとで新規供給を実現する現実的な方法になっている。小規模施設の省人運営が接客評価を損なわないことは、一棟貸しの宿、接客への口コミ言及はホテル並みが2026年開業1,665施設の口コミで示している。

第二に、食事込みと自炊で客層を分けていることである。WAKANは夕食・朝食・フリーフロー・貸切風呂・アイスまで宿泊料金に含め、館内で財布を開かずに過ごす商品であり、2名利用の夫婦・カップル層が中心になる。リルトはキッチンとコインランドリーを備えた約48㎡の客室を4〜6名で使う商品で、家族や友人グループが買い出しをして自炊する滞在を想定している。同じ駅前に並んでいても、求める客層が重ならないため、互いの需要を奪い合わない。箱根の1km圏で多人数1室の客室がほぼ空白であることは前節で見たとおりで、リルトは既存の旅館と競合する位置ではなく、これまで箱根で泊まる場所を見つけにくかった層を取り込む位置にある。

第三に、グループ・連泊の受け皿である。リルトの開業プランは4名以上を対象とし、滞在期間は2027年2月末まで設定されている。メトロエンジンリサーチが集計した神奈川県のグループ向け公開プラン名565件のうち「連泊割」を訴求するものは34%、「貸切風呂」は31%、「2食付」は25%で、グループ需要の訴求軸として連泊と貸切風呂が上位にある。WAKANが貸切温泉露天風呂を標準で含め、リルトがキッチン付きで連泊に向く構成であることは、この訴求軸と重なる。箱根のように日帰り客が宿泊客の4倍いる観光地では、2泊以上の滞在を前提にした商品が増えるほど、宿泊客数が伸びる余地も大きい。

なお、同じ2km圏では小涌谷にHOTEL THE MITSUI HAKONE(126室)が2026年12月15日に開業予定で、強羅から小涌谷にかけては2026年の開業が相次ぐ。ただし、こちらは施設規模も価格帯も論点も別であり、本稿では箱根町全体の供給総覧には踏み込まない(126室が入る価格階層は箱根の秋冬に積み上がる高単価供給で別途読み解いている)。

他の温泉地への応用余地 — 駅前の既存建物と源泉があれば再現できる型

この「駅前・同一事業者・2業態並置」の型は、箱根固有の条件に依存しているわけではない。再現のために必要な条件は三つに整理できる。一つ目は、公共交通で到達できる駅前立地であること。多人数グループや訪日客は車を持たずに移動することが多く、駅徒歩1〜2分という立地は、素泊まり自炊型の宿にとって買い出しと移動の両面で効く。二つ目は、転用できる既存建物のストックがあること。1980年代に建てられた中小規模の保養所や旅館は多くの温泉地に残っており、建設費が高止まりする局面では、新築より転用のほうが開業までの時間と投資額を抑えやすい。三つ目は、源泉の供給が確保できること。WAKANが2源泉のかけ流し、リルトが源泉かけ流しの大浴場を備えるように、素泊まり型であっても温泉があることが「ホテルではなく温泉地に泊まる」理由になる。

温泉地の単価の季節性という観点でも、2業態並置には合理性がある。箱根町の推定成約ADRは11月と8月が山で6〜7月が谷であり、食事込みの旅館型は山の月に単価を取りやすい一方、谷の月には料金を下げても食材原価が残る。自炊型は食材原価を持たないため、谷の月に室料だけで売っても粗利の構造が崩れにくい。山と谷で異なる商品が稼ぐ設計は、単一業態で季節変動を吸収するより安定しやすいと考えられる。草津や鬼怒川のように大型旅館が集積する温泉地でも、駅前や中心部の小規模な既存建物を使って、既存旅館とは客層の異なる多人数自炊型を加える余地はある。温泉地ごとにピーク月の型が異なる点は、草津温泉の観光客数405万人、宿泊単価は12月がピークで16市町村を並べて確認できる。

もちろん、この型にも前提がある。セルフチェックインとキャッシュレスは、訪日客やデジタルに慣れた層には歓迎されるが、電話予約と現金決済に慣れた層には案内の工夫が要る。また、多人数1室の宿は近隣への音や買い出し先の有無に影響されるため、駅前であっても周辺に食料品店があるかどうかで滞在の満足度が変わる。箱根強羅の2軒がこれらをどう運用していくかは、他の温泉地が同じ型を検討するうえでの先行事例になるだろう。

まとめ

森トラスト・ホテルズ&リゾーツが2026年11月10日に中強羅駅前で同日開業する2軒は、食事込み・2名利用・34室の温泉旅館型と、自炊・4〜6名利用・18室のアパートメント型という異なる商品を、既存建物の転用と省人化の運営で並べる供給である。中強羅駅1km圏の稼働客室1,467室の約7割は旅館で、掲載最安水準3万〜4万円の帯に466室(32.3%)が集中しており、WAKANの1室33,246円(2名・食事込み・税サ込)はこの最厚帯に、同社の既存施設と同じ位置で入る。一方、4〜6名で1室を使う客室は圏内にほぼなく、リルトは既存旅館と競合しない空白に入る。箱根町の推定成約ADRは11月が年間の山で、2026年11月は調査時点で前年同月比4.4%高い30,198円の水準が掲載されている。開業前のため稼働や実績単価は語れないが、駅前の既存建物と源泉を使い、山と谷で異なる商品が稼ぐこの型は、他の温泉地にも応用の余地がある。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年10月以降のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。また、本記事に記載した開業プランの価格は各社の公表時点のもので、客室タイプや日程により異なります。

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参考資料・出典一覧

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