ABホテル株式会社(東証スタンダード・6565)が長野県茅野市で準備を進めてきた「ABホテル茅野」(6階建て・121室)が、2026年10月24日にグランドオープンを迎える。中央自動車道・諏訪ICから車で約2分、JR茅野駅から約5分の立地で、同社の開示資料によると投資金額は8.0億円程度だった。諏訪6市町村を推定成約ADRで並べると、茅野市は直近12か月平均で1万2,600円と諏訪市の1万1,300円を上回るが、この水準は蓼科・白樺湖の高原部が押し上げたもので、駅とICに近い市街地のビジネスホテルは7,100円前後の帯に集まっている。本稿では、6市町村の客室ストックと単価の階層、月別の山谷、業務需要の受け皿、そして2028年春の御柱祭までを一つの圏域として読み解く。
本記事における指標の定義
※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。ブッキングカーブ=チェックイン日に向けたOTA残室数の推移。LT(リードタイム)=チェックイン日までの日数。データ出典:メトロエンジンリサーチ。対象は諏訪市・岡谷市・茅野市・下諏訪町・富士見町・原村の6市町村で、ADRの集計期間は2025年9月〜2026年8月の12か月である。
- — 121室・投資金額8.0億円程度 ABホテル茅野は2026年10月24日開業。1室あたり約660万円で、諏訪IC〜茅野駅の宿泊特化型ストックは740室から909室(+22.8%)へ増える。
- — 1万2,588円と7,146円 茅野市全体の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の12か月平均)は蓼科・白樺湖の高原部(14,866円)が押し上げた水準で、駅5km圏の市街地(7,146円)とは2.1倍の開きがある。
- — 市街地ビジネス20施設・最高9,400円 4市町の市街地ビジネスホテル1,261室は中央値7,315円で、1万〜1.5万円×80室以上の帯は市街地に該当施設がない。
- — GOP利回り5.2〜11.8% 120室・ADR 8,500円・稼働率75%(通年平均の仮定値)のBシナリオでも、建物費を開示水準・2025年実績・インフレ織込みのどれで置くかで倍以上開く。
- — 御柱祭2028は4月1日〜5月14日 制限開催の2022年でも下諏訪町の4〜5月ADRは前後月の1.30倍。上社の里曳きは5月3〜5日の大型連休と重なる。
ABホテル茅野の概要 — 121室に駐車場88台、車で来る出張者を迎える設計
まずは起点となる施設を、公式サイトと同社の開示資料で確認できる範囲で整理しておきたい。ABホテル茅野の所在地は茅野市宮川で、用途地域は準工業地域(容積率200%・建蔽率60%)にあたる。公式サイトは2026年10月24日のグランドオープンを告知しており、2025年10月31日付の開示資料では開業予定を2026年9月、規模を6階建て121室、投資金額を8.0億円程度としていた。1室あたりに直すと約660万円の水準になる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 長野県茅野市宮川字赤田1388-5 |
| 開業 | 2026年10月24日グランドオープン(公式サイト告知) |
| 規模 | 6階建て・総部屋数121室(客室フロア1〜6階、全室禁煙) |
| 客室 | 8タイプ、12.9㎡(スタンダードシングル)〜27.2㎡(エグゼクティブツイン) |
| 駐車場 | 無料平面駐車場 計88台(敷地内48台・第2駐車場19台・第3駐車場21台) |
| 付帯施設 | 大浴場(男女入替制)、無料朝食、コインランドリー |
| アクセス | 中央自動車道 諏訪ICより車で約2分、JR茅野駅より車で約5分 |
| 投資金額 | 8.0億円程度(2025年10月31日付開示、内訳の記載なし) |
121室に対して無料駐車場88台という構成は、車で来訪する出張者を主な客層に据えた設計と読める。大浴場・無料朝食・コインランドリーの組み合わせは連泊の業務利用と相性がよく、公式サイトがビジネス利用と観光利用の双方を案内していることとも整合する。ICと駅の中間という立地は、諏訪湖側の事業所にも蓼科側の観光地にも車で動きやすく、業務需要を軸に観光需要を上乗せできる位置取りといえる。
6市町村の階層 — 235施設4,510室、旅館の下諏訪1.46万円からビジネスの岡谷6,400円まで
次に圏域の全体像を押さえたい。メトロエンジンリサーチが2026年7〜9月に価格を観測できた宿泊施設は、6市町村の合計で235施設・4,510室だった(名称変更による重複は1施設にまとめている)。客室のほぼ半分にあたる2,267室が茅野市にあり、諏訪市の1,591室が続く。業態で分けると、ビジネスホテルが22施設1,381室、旅館・リゾートホテルが64施設2,059室、ペンション・貸別荘などが149施設1,070室という内訳になる。
推定成約ADRの12か月平均は、下諏訪町が1万4,600円、茅野市が1万2,600円、諏訪市が1万1,300円、岡谷市が6,400円で、長野県全体の1万2,100円を挟んで上下に分かれた。旅館が中心の下諏訪町と、ビジネスホテルで構成される岡谷市の差は約2.3倍に開いている。前年同期比は茅野市+10.1%、諏訪市+14.8%、下諏訪町+18.2%、岡谷市+11.7%と、4市町がそろって長野県全体(+8.3%)を上回る伸びを示した。ただし下諏訪町はN=9〜11、岡谷市はN=4〜5と対象施設が少なく、個別施設の動きが中央値に反映されやすい点は踏まえておきたい。なお、諏訪圏の北に隣接する松本を含む中信・南信7市町の価格階層は、松本のホテル単価13,400円・駅前上限18,300円 — 中信南信7市町の価格階層と222室の吸収余地で整理している。
| 市町村 | 施設数 | 客室数 | うちビジネス | 旅館・リゾート | 推定成約ADR | 前年同期比 | ADR対象N | 山の月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 茅野市 | 130 | 2,267 | 10施設520室 | 30施設1,110室 | 12,588円 | +10.1% | 37〜41 | 8月 15,152円 |
| 諏訪市 | 39 | 1,591 | 7施設613室 | 21施設802室 | 11,304円 | +14.8% | 25〜28 | 8月 16,484円 |
| 下諏訪町 | 14 | 115 | 1施設19室 | 10施設84室 | 14,587円 | +18.2% | 9〜11 | 8月 18,959円 |
| 岡谷市 | 8 | 233 | 4施設229室 | — | 6,435円 | +11.7% | 4〜5 | 8月 7,848円 |
| 原村 | 26 | 206 | — | 2施設37室 | 8,557円(参考値) | — | 2 | — |
| 富士見町 | 18 | 98 | — | 1施設26室 | —(N=1のため非表示) | — | 1 | — |
| 6市町村計 | 235 | 4,510 | 22施設1,381室 | 64施設2,059室 | — | — | — | — |
月別の山谷 — 茅野は夏冬の二峰、諏訪は8月の花火で一峰
月別に追うと、隣り合う2市の季節性はかなり違う形をしている。茅野市は2026年8月が1万5,200円(前年同月比+1.6%)、同1月が1万3,900円(同+15.1%)で、夏の高原と冬のスキー・温泉という二つの山を持つ。谷は3月の1万500円で、山と谷の比は1.44倍だった。一方の諏訪市は8月が1万6,500円(前年同月比−8.5%)と突出し、2月の9,000円に対して1.83倍になる。2026年は8月15日(土)に第78回諏訪湖祭湖上花火大会が開かれており、8月の一峰はこの催事と夏休み需要が重なった結果と読める。
諏訪市では2025年10〜12月が1万2,500〜1万4,700円と、前年同月の8,700〜8,900円から大きく切り上がった。背景にあるのは上諏訪温泉の旅館・リゾートの水準上昇で、同じ期間のビジネスホテルの中央値は7,600〜7,900円で、前年同月の6,800〜7,300円からの上昇は小幅にとどまった。つまり市全体のADRを動かしたのは温泉旅館側であり、業務需要を受けるホテルの単価は月をまたいで安定しているといえる。
茅野市の二峰も、内訳を分けると見え方が変わる。茅野駅から5km以内の市街地(8施設400室)と、蓼科・白樺湖・車山・奥蓼科の高原部(32施設1,230室)に分けると、12か月平均は市街地が7,100円、高原部が1万4,900円で、2.1倍の開きがあった。2026年8月は高原部が1万9,900円まで上がるのに対し、市街地は9,000円にとどまる。冬の山は高原部だけに現れ、市街地は12月に6,100円と年間の谷を迎える。市全体の「1万2,600円」という数字は高原部の重みで決まっており、ABホテル茅野が加わる市街地の相場は岡谷市や上諏訪駅前に近い水準にある。
業務需要の受け皿 — 市街地のビジネスホテル20施設は全て1万円未満
では、業務需要を受ける側の相場はどう並んでいるのか。4市町の市街地にあるビジネスホテルは20施設1,261室で、12か月平均の推定成約ADRは中央値7,300円、最も高い施設でも9,400円だった。ゾーン別に見ると、諏訪IC周辺が8,700円と一段高く、上諏訪駅周辺が7,400円、茅野市街地が7,200円、岡谷市が6,700円と続く。ICに近いほど単価が高いという並びは、車での来訪が中心の圏域らしい結果といえる。
| ゾーン | 施設数 | 客室数 | 12か月平均 | 2026年8月 | 2026年2月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 諏訪IC周辺(諏訪市) | 3 | 340 | 8,671円 | 11,135円 | 7,913円 |
| 上諏訪駅周辺(諏訪市) | 4 | 273 | 7,442円 | 8,956円 | 7,250円 |
| 茅野市街地(茅野駅5km圏) | 8 | 400 | 7,151円 | 9,028円 | 6,702円 |
| 岡谷市 | 4 | 229 | 6,650円 | 7,848円 | 5,592円 |
| 4市町の市街地計 | 20 | 1,261 | 7,315円 | — | — |
ポジショニングを客室規模とADRの2軸に置くと、空いている帯がはっきりする。対象80施設のうち1万円以上は45施設あるが、その全てが高原部のリゾートか上諏訪・下諏訪の温泉旅館で、市街地のビジネスホテルは1施設も入っていない。80室以上で1万〜1万5,000円の帯にあるのは2施設で、いずれも温泉・リゾート立地である。大浴場と朝食を備えた100室級の宿泊特化型が市街地でどの価格帯に落ち着くかは、この圏域の次の出店判断を左右する観察点になるだろう。
集中帯 市街地×4,700〜9,500円
20施設1,261室
諏訪IC・上諏訪駅・茅野駅・岡谷の宿泊特化型が並ぶ。ABホテル茅野の121室が開業すると、市街地の宿泊特化型ストックは約1割厚くなる。
空白帯 市街地×1万〜1.5万円×80室以上
該当なし
同じ価格帯の17施設は全て高原部・温泉街にある。温浴や広めの客室で単価を上げる宿泊特化型には、先行者のいない帯が残る。
上位帯 高原・温泉×1.5万円以上
28施設1,039室
蓼科・白樺湖と上諏訪温泉の旅館・リゾートが占める。季節の山が大きく、夏と冬の単価を取り込む層である。
需要の源泉を就業データで確かめておきたい。経済センサスによると、ABホテル茅野の半径1km圏には527事業所・4,478人、2km圏まで広げると1,314事業所・1万2,841人の従業者がいる。事務系業種の比率は1km圏で6.2%、2km圏で7.0%にとどまり、事務系以外の業種が従業者の9割超を占める構成だった。上諏訪駅1km圏は882事業所・7,024人で事務系比率が15.8%と相対的に高く、同じ業務需要でも茅野側は事業所の現場を訪ねる出張、上諏訪側はオフィスへの来訪が相対的に多い構成と推測できる。車での移動と連泊を前提とするなら、平面駐車場とランドリーを備えたロードサイド型は茅野側の需要と噛み合う形である。
| 地点・圏域 | 事業所数 | 従業者数 | 事務系業種の比率 |
|---|---|---|---|
| ABホテル茅野 半径1km | 527 | 4,478人 | 6.2% |
| ABホテル茅野 半径2km | 1,314 | 12,841人 | 7.0% |
| 茅野駅 半径1km | 649 | 5,487人 | 9.4% |
| 上諏訪駅 半径1km | 882 | 7,024人 | 15.8% |
| 岡谷駅 半径1km | 569 | 4,502人 | 7.6% |
稼働の側からも平日の厚みが確認できる。推定稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は、茅野市が2026年7月88.3%・8月93.1%・9月85.3%、諏訪市が同89.8%・94.2%・90.2%だった。曜日別に見ると、9月の月〜木平均は茅野市84.5%・諏訪市91.0%、土曜平均は90.4%・95.0%で、平日と土曜の差は4〜6ポイントに収まっている。この指標は掲載外の客室を消化済みに数えるため水準が高めに出るが、平日が週末に近い位置にあるという曜日の形は、業務来訪が客室を埋めている構図と整合する。なお、ビジネスホテルだけの集計は対象施設が10に満たないため、ここでは全業態の値を用いた。
| 市 | 月 | 月平均 | 月〜木 | 土曜 | 対象施設/客室 |
|---|---|---|---|---|---|
| 茅野市 | 2026年7月 | 88.3% | 88.4% | 91.2% | 41施設/1,199室 |
| 茅野市 | 2026年8月 | 93.1% | 92.9% | 96.5% | 47施設/1,208室 |
| 茅野市 | 2026年9月 | 85.3% | 84.5% | 90.4% | 46施設/1,272室 |
| 諏訪市 | 2026年7月 | 89.8% | 89.0% | 97.7% | 18施設/765室 |
| 諏訪市 | 2026年8月 | 94.2% | 94.7% | 98.4% | 18施設/791室 |
| 諏訪市 | 2026年9月 | 90.2% | 91.0% | 95.0% | 15施設/777室 |
予約の入り方にも2市の違いが出た。2026年9月宿泊分の平均カーブでは、茅野市が宿泊45日前の62.9%から14日前73.3%、7日前75.7%と緩やかに進み、前日に85.3%へ届く(対象 平均57施設/客室1,371、主要予約サイト掲載ベース)。諏訪市は45日前65.8%から14日前に82.3%、7日前に86.1%と早めに積み上がり、前日は90.2%だった(対象 平均19施設/客室825、同)。茅野市は最後の1週間で9.6ポイント上積みされており、直前に決まる出張や高原への週末旅行を取り込む余地が大きい市場と読める。
立地評価 — 準工業・容積率200%、地価は下げ止まり、駅利用は2019年度の9割弱
立地の条件を公的データで確認する。ABホテル茅野の周辺は準工業地域で、容積率200%・建蔽率60%の指定である。最寄りの地価公示地点(茅野5-3、準工業地域、約0.8km)は2026年に1㎡あたり5万600円、前年比−0.4%だった。下落率は2024年−1.3%、2025年−0.8%から縮小しており、諏訪IC近くの基準地(諏訪5-2)は2026年に+0.2%と、2019年以降で初めて上昇に転じている。坪あたり約16.7万円という水準は、平面駐車場を広く取るロードサイド型にとって用地費を抑えやすい条件といえる。
| 用途地域 | 準工業地域 |
| 容積率/建蔽率 | 200%/60% |
| 最寄り公示地価 | 50,600円/㎡(−0.4%) |
| 2025年推計 | 19,152人 |
| 2040年推計(2020年比) | 17,986人(−7.6%) |
| 生産年齢/高齢比率 | 62.4%/24.9% |
鉄道の利用は回復の途上にある。JR茅野駅の1日あたり乗降客数は2019年度の7,556人から2020年度に5,392人まで減り、2023年度は6,704人と2019年度の88.7%まで戻った。上諏訪駅は7,658人(同87.2%)、岡谷駅は5,524人(同84.9%)で、3駅とも9割弱の水準にある。鉄道で来る宿泊客の母数が戻りきらないなかで、IC至近に駐車場を備えた客室が増える流れは、圏域の来訪手段の実態に沿った動きといえる。
居住人口は緩やかな減少局面に入っている。国土数値情報の250mメッシュ将来推計人口によれば、ABホテル茅野の半径2km圏の居住人口は2020年の1万9,469人から2025年に1万9,152人、2040年には1万7,986人(2020年比−7.6%)へ減る見通しである。高齢比率は24.9%、生産年齢人口の比率は62.4%で、地方都市としては働き手の厚い圏域にあたる。居住人口(国勢調査ベース)であり滞在・通過人口ではないが、帰省や冠婚葬祭に連動する宿泊は横ばいから微減、業務来訪と観光が客室を埋める主役という構図が続くと考えられる。
防災面では、諏訪ICから茅野駅にかけての低地一帯が、諏訪湖と上川の想定最大規模の洪水浸水想定区域にかかる点を確認しておきたい。区域内には浸水深3.0m以上5.0m未満の区分が含まれ、地形分類上は液状化が生じやすい低地に分類される。この一帯で新規開発を検討する場合は、受変電・ボイラーなど設備階の配置と保険条件を計画の早い段階で詰めておくことが前提になる。
供給パイプライン — IC〜茅野駅の宿泊特化型は740室から909室へ
供給の動きを時系列で整理する。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、2025年以降に6市町村で開業が確認できた10室以上の施設は5件・211室だった。このうち市街地の宿泊特化型は、諏訪IC近くのコンテナ型ホテル「Blue quad hotel 諏訪」(48室、2026年3月)とABホテル茅野(121室、2026年10月24日)の2件・169室である。諏訪IC周辺と茅野市街地のビジネスホテルは2026年初の時点で11施設740室だったため、この2件でストックは909室、+22.8%に広がる計算になる。
| 施設 | 所在 | 客室数 | 業態 | 開業 |
|---|---|---|---|---|
| GUESTHOUSE HO ALOHA 4SEASONS | 茅野市(高原部) | 12 | ゲストハウス | 2025年1月 |
| ホテルグランリゾート蓼科 | 茅野市(高原部) | 18 | リゾート | 2025年4月 |
| SANU 2nd Home 蓼科1st | 茅野市(高原部) | 12 | コテージ | 2025年6月 |
| Blue quad hotel 諏訪 | 諏訪市(諏訪IC周辺) | 48 | 宿泊特化(コンテナ型) | 2026年3月 |
| ABホテル茅野 | 茅野市(市街地) | 121 | ビジネス | 2026年10月24日 |
169室を稼働率75%(通年平均の仮定値)で埋めるには、年間でおよそ4.6万室泊、1日あたり127室泊の需要が要る。半径2km圏だけで1万2,841人が働く就業集積と、7〜9月の平日でも8割を超える推定稼働率を前提にすれば、吸収の時間軸は数年単位というより1〜2シーズンで見通せる規模だろう。一方、その先の計画については、国土交通省の建築物動態統計調査に基づく確認申請ベースの情報で、調査時点において6市町村に100室以上の宿泊施設計画は確認できていない。※調査時点での確認申請ベース。今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値として参照されたい。
市街地と高原部の双方に機関投資家の資金が入っている。上場ホテル系REIT7法人(いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A))の国内保有300物件のうち、6市町村に所在するのは3物件で、高原部の「蓼科グランドホテル滝の湯」(茅野市、160室)と、市街地の「カンデオホテルズ茅野」(茅野市、119室)・「コンフォートイン 諏訪インター」(諏訪市、91室)である(N=300物件(国内のみ)、保有関係マスター 2026-10-02 時点)。市街地の2物件は星野リゾート・リート投資法人の保有で、取得価格は793百万円(1室あたり約670万円)と658百万円(同約720万円)と、ABホテル茅野の開示投資額(1室あたり約660万円)に近い水準にある。滝の湯はインヴィンシブル投資法人が2023年8月に8,365百万円で取得した物件で、1室あたり約5,230万円にあたる。同法人の月次開示によると2026年8月の客室稼働率は98.3%だった。市街地の宿泊特化型と高原の大型温泉旅館とでは、1室あたりの投下資本におよそ8倍の開きがある二つの市場が、同じ市内に並んでいることになる。
御柱祭2028 — 4月1日から5月14日、通常開催なら12年ぶり
圏域の催事で最も大きいのが、寅と申の年に行われる諏訪大社の御柱祭である。諏訪大社と大総代会は2025年4月4日に次回の日程を発表しており、上社の山出しが2028年4月1日(土曜)〜3日(月曜)、下社の山出しが4月8日(土曜)〜10日(月曜)、上社の里曳きが5月3日〜5日、下社の里曳きが5月12日(金曜)〜14日(日曜)と決まった。前回2022年は感染症対策で御柱をトレーラーで運び、木落しが中止された。次回は氏子が人力で曳く通常の形に戻す方針が示されており、実現すれば2016年以来12年ぶりの通常開催となる。
| 行事 | 日程 | 主な舞台 |
|---|---|---|
| 上社 山出し | 2028年4月1日(土曜)〜3日(月曜) | 茅野市・原村 |
| 下社 山出し | 2028年4月8日(土曜)〜10日(月曜) | 下諏訪町 |
| 上社 里曳き | 2028年5月3日(水曜・祝日)〜5日(金曜・祝日) | 茅野市・諏訪市 |
| 下社 里曳き | 2028年5月12日(金曜)〜14日(日曜) | 下諏訪町 |
過去の開催月の単価は、制限開催だった2022年分のみ手元のデータで確認できる。4〜5月の平均ADRを前後の3月・6月の平均で割った倍率を年ごとに並べると、下諏訪町は2022年が1.30倍で、2021〜2026年の6年間で最も高かった。諏訪市は1.17倍、茅野市は1.07倍で、例年の大型連休の範囲に収まっている。木落しも人力の曳行もなかった年に、下社のお膝元である下諏訪町だけが動いたという結果である。ただし下諏訪町はN=10〜11と対象が少なく、通常開催の年の影響は本稿のデータ期間(2019年7月以降)では測れない。2028年の単価を見通す材料としては、上社の里曳きが大型連休の3日間と重なること、下社の山出し・里曳きがいずれも週末を含む3日間であることを押さえておきたい。
| 年 | 下諏訪町 | 諏訪市 | 茅野市 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年 | 1.19 | 1.14 | 1.12 | — |
| 2022年 | 1.30 | 1.17 | 1.07 | 御柱祭(制限開催) |
| 2023年 | 1.00 | 1.00 | 1.01 | — |
| 2024年 | 1.15 | 1.11 | 1.05 | — |
| 2025年 | 1.10 | 1.22 | 1.08 | — |
| 2026年 | 1.22 | 1.03 | 1.12 | — |
開発シナリオ — 120室の宿泊特化型、利回りは建設費で5%台から12%まで開く
ここまでの相場を前提に、諏訪IC〜茅野駅のゾーンで120室の宿泊特化型を新設する場合の収支を簡易に試算する。延床面積は客室平均13.5㎡・客室部分比率65%から逆算した約2,500㎡(約754坪)、敷地は平面駐車90台前後を確保する3,000㎡とし、用地費は最寄りの公示地価5万600円/㎡で1.52億円と置いた。GOP率は40%を採用している。インヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件のGOP実績は38.9%(2024年12月期)で、無料朝食と大浴場を備える運営を想定し、この実績に近い保守的な水準を選んだ。
ADRは市街地ビジネスホテルの分布に沿って3通りを置いた。Aは20施設の中央値に近い7,500円、Bは諏訪IC周辺の中央値に近い8,500円、Cは圏内の最高水準にあたる9,500円である。稼働率は70〜80%とした。前述の推定稼働率は高めに出る指標であるため、そこから一段低い水準を前提にしている。
| 項目 | A. 保守 | B. 標準 基準 | C. 上振れ |
|---|---|---|---|
| ADR想定(税抜相当) | 7,500円 | 8,500円 | 9,500円 |
| 稼働率想定 | 70% | 75% | 80% |
| RevPAR | 5,250円 | 6,375円 | 7,600円 |
| 客室売上 | 2.30億円 | 2.79億円 | 3.33億円 |
| GOP | 0.92億円 | 1.12億円 | 1.33億円 |
| GOP利回り ①開示水準の建物費(総事業費9.45億円) | 9.7% | 11.8% | 14.1% |
| GOP利回り ②2025年実績ベース(同19.65億円) | 4.7% | 5.7% | 6.8% |
| GOP利回り ③建設期間インフレ織込み(同21.57億円) | 4.3% | 5.2% | 6.2% |
| 単純回収年数(③・GOPベース) | 23.4年 | 19.3年 | 16.2年 |
建設費は2段階で見ておく必要がある。国土交通省の建築着工統計によると、2024年の宿泊業用建築物の工事費は全構造平均で坪195万円と、2022年の138万円から2年で+41%上昇した。2025年の二次集計ではS造が坪240.5万円に達しており、これを当てはめた②の建物費は18.13億円、1室あたり約1,510万円になる。さらに2028年開業を想定して施工の中間時点まで年5%前後の上昇を織り込むと、③は20.05億円まで膨らむ。Bシナリオの利回りは①の11.8%に対して②で5.7%、③で5.2%と、収入の前提が同じでも建設費の置き方ひとつで倍以上の開きが出る。地方の宿泊特化型では、規格化された設計と施工体制で1室あたりの建物費をどこまで抑えられるかが成否を分ける変数といえる(業態別の1室あたり建設費の3層構造はホテル建設費は1室870万〜7,140万円|業態別3層と12商圏の成立ADRを参照)。裏を返せば、建設費の上昇は後発の新規供給を抑える方向にも働くため、先に開業した施設にとっては競争環境の面で追い風になる。
| 項目 | ベースケース | ADR −10% | 稼働率 −5pt | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| 客室売上 | 2.79億円 | 2.51億円 | 2.61億円 | 2.35億円 |
| GOP | 1.12億円 | 1.01億円 | 1.04億円 | 0.94億円 |
| GOP利回り(総事業費19.65億円) | 5.7% | 5.1% | 5.3% | 4.8% |
| GOP利回り(①総事業費9.45億円の場合) | 11.8% | 10.6% | 11.0% | 9.9% |
ADRと稼働率を同時に動かすと、②の建物費(総事業費19.65億円)のもとでのGOP利回りは下表の4.0〜6.8%に収まる。6%を超えるのは、ADR 9,000円なら通年稼働率75%以上、8,500円なら80%という組み合わせに限られ、市街地ビジネスホテルの中央値に近い7,500円では通年稼働率80%でも5.3%にとどまる。同じ表を①の総事業費9.45億円で読み替えると、全てのセルが約2.08倍になり、最も低いADR 7,500円・通年稼働率60%でも8.3%となる。
| ADR(税抜相当)\稼働率 | 60% | 65% | 70% | 75% | 80% |
|---|---|---|---|---|---|
| 7,500円 | 4.0% | 4.3% | 4.7% | 5.0% | 5.3% |
| 8,000円 | 4.3% | 4.6% | 5.0% | 5.3% | 5.7% |
| 8,500円 | 4.5% | 4.9% | 5.3% | 5.7% | 6.1% |
| 9,000円 | 4.8% | 5.2% | 5.6% | 6.0% | 6.4% |
| 9,500円 | 5.1% | 5.5% | 5.9% | 6.4% | 6.8% |
| 区分 | 内容 | 確認の観点 |
|---|---|---|
| 需要の季節性 | 茅野市街地のADRは12〜3月に6,100〜6,900円と、8月の7割前後の水準になる | 冬季の工事・点検出張や合宿など平日連泊の取り込み |
| 供給の吸収 | IC〜茅野駅の宿泊特化型は2026年中に740室から909室へ+22.8% | 開業後1〜2年の稼働と単価の推移 |
| 建設費 | 建物費は1室660万〜1,670万円の幅で、利回りが5%台から12%まで動く | 設計の規格化、発注時期、構造の選択 |
| 人口・就業 | 半径2km圏の居住人口は2040年に2020年比−7.6% | 製造業の設備投資動向と事業所の立地計画 |
| 水害ハザード | IC〜茅野駅の低地は想定最大規模の洪水浸水想定区域を含む | 設備階の配置、止水計画、保険条件 |
| 催事依存 | 御柱祭は数え7年に一度、花火は年1日 | 催事のない年・月を基準にした収支計画 |
まとめ — 「1.26万円の茅野」ではなく「7,100円の市街地」で計画を立てる
ここまでを整理すると、諏訪6市町村は一つの市場というより、二つの市場が重なった圏域と捉えるのが実態に近い。蓼科・白樺湖と上諏訪・下諏訪の温泉街は1万5,000円以上の層が28施設1,039室あり、夏と冬、花火と連休で単価の山をつくる。対して市街地のビジネスホテル20施設1,261室は4,700〜9,500円の帯に並び、月ごとの振れは小さい。ABホテル茅野の121室が加わるのは後者のゾーンであり、収支を考える際の基準は市全体の1万2,600円ではなく、市街地の7,100円と諏訪IC周辺の8,700円になる。
出店を検討する側には、三つの観察点を提案したい。一つ目は、開業後の市街地ゾーンで単価と稼働がどう動くかである。+22.8%の供給を1〜2シーズンで吸収できれば、次の出店余地を測る実績になる。開業直後の単価がどの程度の期間で安定水準に戻るかは、新規開業ホテルのADR回復は中央値2ヶ月|182軒実測と事業計画への織り込み方が182軒の実測で示している。二つ目は、市街地で1万円を超える宿泊特化型が成立するかという点だ。大浴場や朝食を標準にした100室級がこの帯を開ければ、圏域に新しい価格階層が生まれる。三つ目は建設費で、同じ収入でも利回りが5%台から12%まで動く以上、建物費を1室いくらで収められるかを最初に固めたい。
既存施設の運営者にとっても、2028年春は準備に値する機会といえる。御柱祭の日程は開催の3年前に公表されており、上社の里曳きは大型連休、下社は4月と5月の週末に重なる。制限開催だった2022年でも下諏訪町では前後月の1.30倍まで単価が上がった。通常開催となる次回に向けて、連泊条件や販売開始の時期を早めに設計しておくことが、収益機会を取り込むうえで有効だろう。
データの期間について:本記事のADRは2026年8月までの確定月を対象としている。2026年9月以降の月は調査時点の掲載水準に基づく推定となり、チェックイン日に近づくにつれて変動するため、12か月平均・前年比の集計には含めていない。2028年の御柱祭期間の単価・稼働についても、本記事は見通しの数値を示していない。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・客室ストック・推定稼働率・ブッキングカーブは、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトの掲載価格・在庫から集計したデータ(ADRは2025年9月〜2026年8月の確定月、客室ストックと稼働率は2026年7〜9月)。新規開業はOTA掲載確認ベースと事業者の公式情報、用途地域・地価・浸水想定は国土交通省 不動産情報ライブラリ、駅別乗降客数と250mメッシュ将来推計人口は国土数値情報、従業者数は経済センサス-活動調査(2021年)、REIT保有物件と稼働率は各投資法人の開示による。
■ 試算前提
120室・延床約2,500㎡(客室平均13.5㎡÷客室部分比率65%)・敷地3,000㎡・用地費1.52億円(公示地価 茅野5-3 50,600円/㎡)。客室売上=ADR×稼働率×120室×365日、GOP率40%(インヴィンシブル投資法人のMHM運営91物件の実績38.9%に近い水準)。建物費は①ABホテル茅野の開示投資金額を1室約660万円で換算、②S造240.5万円/坪×754坪、③②に2026年+5.3%・2027年+5.0%の上昇を織り込んだ3通り。稼働率70〜80%は通年平均の仮定値で、FF&E・開業費・金融費用・公租公課は含まない。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは掲載価格に業態別の補正を加えた推定値で、実際の成約価格とは異なる。推定稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は掲載外の客室を消化済みに数えるため実稼働率より高めに出る。下諏訪町(N=9〜11)・岡谷市(N=4〜5)・原村・富士見町は対象施設が少なく、個別施設の動きが中央値に反映されやすい。GOP利回りは簡易試算で、NOI・IRRではない。御柱祭の通常開催年の単価への影響は、データ期間(2019年7月以降)では測れない。
■ 市場データ
| メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(6市町村・N=80施設)、客室ストック(N=235施設)、推定稼働率(OTA掲載在庫ベース)、ブッキングカーブ分析 |
■ 政府統計・公的データ
| 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示・都道府県地価調査・用途地域・洪水浸水想定区域 |
| 国土交通省 国土数値情報 — 250mメッシュ別将来推計人口・駅別乗降客数 |
| 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年) |
| 国土交通省「建築着工統計調査」(宿泊業用建築物の工事費予定額・床面積、2022〜2024年)/国土交通省「建築物動態統計調査」 |
■ 事業者の公式情報・REIT開示
| ABホテル公式サイト「ABホテル茅野」(グランドオープン日・客室・駐車場・アクセス) |
| ABホテル株式会社「新規出店(予定)並びに新規出店保留に関するお知らせ」(2025年10月31日) |
| インヴィンシブル投資法人 ポートフォリオ一覧・月次開示(蓼科グランドホテル滝の湯の取得価格・客室数・月次稼働率、MHM運営ホテルのGOP実績) |
| archi-book「ホテルの建築費・坪単価 2025年版」(建築着工統計の二次集計)/Turner & Townsend 建設コスト上昇率見通し |
■ ニュース・催事情報
| 中日新聞「28年の御柱祭は通常開催 諏訪大社、日程を発表」(2025年4月5日) |
| 市民新聞「28年御柱祭の日程決まる 通常の形で斎行方針」(2025年4月5日) |
| 諏訪地方観光連盟 御柱祭観光情報センター「御柱祭 最新情報」 |
| 諏訪湖祭湖上花火大会 公式サイト(第78回・2026年8月15日) |
