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宿泊単価の季節差は最大4.9倍 — 市区町村別・季節振幅ランキング2026(633市区町村)

投稿日 : 2026.08.19

指定なし

宿泊単価の季節差は最大4.9倍 — 市区町村別・季節振幅ランキング2026(633市区町村)

同じ日本国内でも、1年のうちで宿泊単価が5倍近く動く街と、ほとんど動かない街がある。全国1,669の市区町村について直近12か月(2025年8月〜2026年7月)の推定成約ADRを月次で並べ、「最も高い月 ÷ 最も低い月」を季節振幅として算出したところ、条件を満たした633市区町村の中央値は1.45倍だった。最大は北海道倶知安町の4.86倍、最小は鹿児島県出水市の1.05倍。この4.6倍の開きが、日本のホテル市場が抱える収益設計の多様性そのものである。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(延べ184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は約7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア(市区町村)単位のADRは対象施設の中央値であり、そのエリアの標準的な施設の価格水準を表します。
  • 季節振幅:直近12か月(2025年8月〜2026年7月)の月次推定成約ADRについて、最大月の値 ÷ 最小月の値。値が大きいほど1年のなかで単価が大きく動く市場。
  • 母集団の条件:12か月すべてに推定成約ADRが存在し、かつ各月の集計対象施設数が5施設以上であること。加えて、月ごとの対象施設数が期間中央値の60%を下回る月がある市区町村は、母集団の変動が振幅を歪めるため除外しています。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 中央値は1.45倍。全国633市区町村の季節振幅(最大月ADR÷最小月ADR)で2倍を超えるのは42市区町村・6.6%にとどまり、極端な季節変動は統計的な外れ値である。
  • — 首位は北海道倶知安町4.86倍(26年2月¥63,500/25年10月¥13,100)。2位の福井県越前町4.23倍は、越前がに漁の解禁期間と月次カーブがほぼ完全に一致する。
  • — 振幅は4類型に収束する — 雪山リゾート・冬味覚(カニ漁期)・夏の海浜/離島・都市集客イベント。季節性は気候だけでなく「解禁日」「会期」という暦が作っている。
  • — 山は8月(161市区町村)と1月(112)、谷は6月(237)に集中。7月が最小月となる市区町村も51あり、梅雨明け前が実質的な閑散期として機能している。
  • — 振幅の大小は優劣ではない。2倍超の42市区町村はピーク期の値付け精度が年間収益を決め、1.2倍未満の83市区町村は通年稼働の厚みに小さな需要山を載せる余地がある。

633市区町村の季節振幅 — 中央値1.45倍、2倍超はわずか6.6%

まず母集団の作り方を明示しておきたい。全国47都道府県の市区町村単位で月次の推定成約ADRを取得し、走査した1,669件の市区町村行のうち、12か月すべてが揃い、かつ各月の集計対象が5施設以上あったのは633市区町村だった。残りは対象施設数が薄い、あるいは特定月が欠測しているため、振幅の比較には使えない。振幅は「最大月÷最小月」という比率指標であり、たった1か月でも観測が薄いと数値が跳ねる。そのため母集団のフィルタは意図的に厳しく設定している。

この633市区町村の季節振幅を分布で見ると、中央値1.45倍、平均1.51倍、上位10%の閾値が1.89倍だった。つまり「1年で単価が2倍動く」市場は全体の約7%にすぎず、大多数の街は1.2〜1.6倍のレンジに収まっている。日本のホテル市場を語るとき、ニセコや白馬のような極端な季節変動がしばしば引き合いに出されるが、それは統計的には明確な外れ値である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

一方で、この分布の右端に位置する市場こそが、レベニューマネジメントの投資対効果がもっとも大きい場所でもある。振幅2.0倍以上の42市区町村は、稼ぐ月と稼げない月の落差が大きい分、ピーク期の値付けを1割改善するだけで年間収益に効く。逆に振幅1.2倍未満の83市区町村は、価格ではなく稼働日数の設計で収益を作る市場だといえる。

季節振幅トップ20 — 首位は倶知安町4.86倍、2位に福井県越前町4.23倍

振幅の上位20市区町村を並べると、この国の宿泊需要を動かしている要因が驚くほどはっきり見える。首位の北海道倶知安町は最大月(2026年2月)¥63,500に対して最小月(2025年10月)¥13,100で、その差は4.86倍。2位の福井県越前町は最大月(2025年12月)¥61,800、最小月(2026年6月)¥14,600で4.23倍だった。

表1:季節振幅トップ20(2025年8月〜2026年7月・月次推定成約ADR/母集団633市区町村)
順位市区町村季節振幅最大月最大月ADR最小月最小月ADR12か月平均対象施設数(中央値)類型
1北海道倶知安町4.86倍26年2月¥63,50025年10月¥13,100¥27,50021雪山リゾート
2福井県越前町4.23倍25年12月¥61,80026年6月¥14,600¥31,60019冬味覚(カニ)
3北海道ニセコ町3.19倍26年1月¥42,30025年10月¥13,300¥21,8009雪山リゾート
4福井県高浜町2.88倍26年1月¥14,20025年10月¥4,900¥8,60012冬味覚(カニ)
5東京都八丈町2.83倍25年8月¥14,00026年1月¥4,900¥7,5006海浜・離島
6京都府京丹後市2.79倍26年1月¥43,60026年6月¥15,600¥27,80080冬味覚(カニ)
7北海道富良野市2.79倍26年7月¥24,50025年11月¥8,800¥14,10012夏リゾート
8大分県豊後高田市2.78倍26年1月¥13,90025年9月¥5,000¥6,8006冬季ピーク型
9北海道美瑛町2.69倍26年7月¥24,70025年11月¥9,200¥14,1005夏リゾート
10千葉県白子町2.53倍25年8月¥14,10026年7月¥5,500¥9,0006海浜・離島
11大阪府大阪市此花区2.40倍25年8月¥35,20026年6月¥14,700¥23,70013都市集客
12静岡県牧之原市2.39倍25年12月¥9,80025年10月¥4,100¥5,9007冬季ピーク型
13北海道札幌市中央区2.39倍26年2月¥20,60026年4月¥8,600¥14,600134都市集客
14新潟県湯沢町2.38倍26年1月¥23,20026年6月¥9,700¥15,20040雪山リゾート
15静岡県河津町2.37倍26年2月¥28,80026年6月¥12,200¥19,80026温泉地
16新潟県村上市2.34倍25年8月¥20,20026年6月¥8,600¥12,50013海浜・離島
17北海道旭川市2.32倍25年8月¥13,20026年4月¥5,700¥8,90037都市集客
18京都府宮津市2.30倍25年12月¥27,90026年6月¥12,100¥21,20030冬味覚(カニ)
19山形県南陽市2.28倍26年1月¥24,40026年6月¥10,700¥15,40012温泉地
20京都府京都市中京区2.28倍25年11月¥25,80026年6月¥11,300¥17,100105都市集客

母集団N=633市区町村(12か月完備・各月5施設以上)/対象施設数は推定成約ADRの算出に用いた施設数の期間中央値。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

この表には12か月平均ADRの列を併記している。振幅だけを見ると同じ「2倍超の市場」でも、振幅と単価水準の2軸で置くと収益設計はまったく別物になるためだ。倶知安町(4.86倍・平均¥27,500)・越前町(4.23倍・¥31,600)・京丹後市(2.79倍・¥27,800)は高振幅×高単価で、ピーク期の値付けが年間収益を直接左右する象限にある。一方、豊後高田市(2.78倍・¥6,800)・牧之原市(2.39倍・¥5,900)・八丈町(2.83倍・¥7,500)は高振幅×低単価で、倍率は同等でもピーク月の増分そのものが小さく、値付けより販売数量(稼働日数)の確保が効く。同じ「振幅トップ20」でも平均ADRは¥5,900〜¥31,600と5.4倍の開きがあり、振幅倍率だけで市場を並べても打ち手は決まらない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

振幅を生む4つの類型 — 雪山・カニ・海浜・都市イベント

トップ20を需要要因で分類すると、日本の「単価が動く街」はおおむね次の4類型に収束する。

① 雪山リゾート型(倶知安町・ニセコ町・湯沢町)。倶知安町は12月に指数132(12か月平均を100とした水準)へ跳ね、1月224、2月231とピークを形成したのち、3月106、4月72へ急降下する。単価の山が3か月に凝縮されており、年間収益の大半をこの区間で取り切る構造だ。ニセコ町も1月に¥42,300を記録し、10月の¥13,300に対して3.19倍。新潟県湯沢町は1月¥23,200・6月¥9,700で2.38倍と、雪山型のなかではやや穏やかである。

② 冬味覚(カニ)型(越前町・京丹後市・宮津市・高浜町)。これが今回の分析でもっとも印象的な発見だった。越前がに漁は2025年11月6日に解禁され、翌2026年3月20日まで続く(福井県観光サイト「ふくいドットコム」)。越前町の月次推移はこの漁期とほぼ完全に一致する。10月¥15,500だった単価が11月に¥50,000へ跳ね上がり、12月¥61,800でピーク、1月¥55,500、2月¥46,600、3月¥44,500と高原状に推移したのち、解禁期間が終わる4月に¥20,100へ落ちる。京都府京丹後市(間人ガニ)も同じ形で、11月から3月まで¥37,900〜¥43,600の高原を作り、6月に¥15,600まで下がる。雪山リゾートに匹敵する振幅を、日本海側の漁期が作り出しているという事実は、季節性を「気候」ではなく「食材の解禁日」で語れることを示している。

③ 夏の海浜・離島型(八丈町・白子町・村上市・富良野市・美瑛町)。東京都八丈町は8月¥14,000に対して1月¥4,900で2.83倍。千葉県白子町は8月¥14,100・7月¥5,500で2.53倍と、夏の1か月に山が集中する。北海道の富良野市・美瑛町は7月がピーク(それぞれ¥24,500・¥24,700)で、ラベンダーと丘陵景観の最盛期に単価が最大化する。富良野市は2月にも指数で二番目の山があり、夏冬の双峰型といえる。

④ 都市集客・イベント型(大阪市此花区・札幌市中央区・京都市中京区・旭川市)。大阪市此花区は8月¥35,200に対して6月¥14,700で2.40倍。大型テーマパーク立地の夏季集中がそのまま単価に出ている。札幌市中央区は2月¥20,600がピークで、これは第76回さっぽろ雪まつり(2026年2月4日〜11日開催、さっぽろ雪まつり公式サイト)の会期と重なる。京都市中京区は11月¥25,800(紅葉)と4月¥23,700(桜)の二山型で、6月¥11,300が谷になる。都市部であっても、明確なイベント資産を持つエリアは2倍超の振幅を作れるという点は重要だ。

加えて、静岡県河津町(2月¥28,800)は河津桜の開花期、山形県南陽市(1月¥24,400)は温泉需要の冬季集中と、温泉地型も上位に食い込んでいる。温泉地は「冬に強い」市場であり、雪山型とは別の理由で1月〜2月に山を作る。

各市区町村の12か月平均を100とした指数。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

山は8月と1月に立ち、谷は圧倒的に6月 — 633市区町村のピーク月分布

個別の街から視点を引いて、633市区町村がそれぞれ何月にピークを迎えたかを集計すると、日本の宿泊需要のリズムが浮かび上がる。最大月として最も多かったのは8月(161市区町村)、次いで1月(112)、12月(79)、11月(78)。一方、最小月は6月が237市区町村と突出し、9月(89)、10月(53)、7月(51)と続いた。

6月の谷は梅雨と、大型連休のない月という二重の要因による。注目すべきは7月が最小月になる市区町村が51もある点で、これは7月上旬〜中旬の梅雨明け前が実質的に閑散期として機能している市場が一定数存在することを意味する。逆に9月が最小月になる89市区町村は、夏休みが終わった直後の反動を受けているエリアだ。

なお、秋の山がどの月に立つかを都道府県単位・秋の3か月に絞って分類した分析は『秋のADRはどの月に山が来るか — 47都道府県を9月型/10月型/11月型/平坦型に分類した2026』で扱っている。本記事は粒度を市区町村まで下げ、期間を通年12か月に広げた点が異なる。秋だけを見れば平坦に見える県でも、市区町村に分解し冬まで含めると2倍超の振幅を持つエリアが含まれている、というのが今回の主要な発見のひとつである。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

平準トップ20 — 出水市1.05倍、業務需要が支える「動かない市場」

振幅ランキングの反対側、つまり1年を通して単価がほとんど動かない市区町村の上位20を見ると、こちらもまた明確な共通性がある。首位の鹿児島県出水市は最大月(2025年12月)¥5,700に対して最小月(2026年7月)¥5,400、振幅わずか1.05倍。2位の京都府福知山市1.08倍、3位の愛知県刈谷市1.09倍と続く。

表2:季節振幅が小さい市区町村トップ20 — 平準市場(同母集団633市区町村)
順位市区町村季節振幅最大月最大月ADR最小月最小月ADR12か月平均対象施設数(中央値)
1鹿児島県出水市1.05倍25年12月¥5,70026年7月¥5,400¥5,50011
2京都府福知山市1.08倍26年7月¥5,90025年9月¥5,500¥5,70010
3愛知県刈谷市1.09倍26年3月¥6,40026年7月¥5,900¥6,1008
4熊本県八代市1.09倍26年1月¥6,60025年9月¥6,100¥6,40020
5長野県飯田市1.10倍25年8月¥8,40026年1月¥7,600¥8,00022
6福岡県北九州市八幡西区1.10倍26年1月¥6,30025年9月¥5,700¥6,0006
7静岡県藤枝市1.10倍26年5月¥6,90026年6月¥6,300¥6,6008
8茨城県龍ケ崎市1.10倍26年1月¥6,00026年4月¥5,400¥5,6007
9栃木県小山市1.11倍26年5月¥6,60026年2月¥5,900¥6,30018
10愛媛県西条市1.11倍26年1月¥6,00025年9月¥5,400¥5,70020
11和歌山県新宮市1.11倍26年5月¥6,60025年9月¥5,900¥6,2009
12福島県南相馬市1.11倍26年7月¥6,00025年9月¥5,400¥5,70016
13岩手県北上市1.11倍26年1月¥6,40026年3月¥5,700¥6,00021
14福岡県飯塚市1.11倍26年7月¥6,20026年1月¥5,600¥5,8008
15岐阜県各務原市1.11倍25年8月¥5,70026年3月¥5,100¥5,3007
16茨城県古河市1.11倍26年1月¥6,00025年10月¥5,400¥5,70011
17山梨県甲府市1.12倍25年8月¥8,20025年9月¥7,300¥7,70038
18徳島県吉野川市1.12倍26年5月¥5,20025年9月¥4,700¥4,9006
19山口県下松市1.12倍26年5月¥6,40025年10月¥5,700¥6,0006
20愛知県小牧市1.12倍25年8月¥8,20025年10月¥7,300¥7,7007

母集団N=633市区町村(12か月完備・各月5施設以上)。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

平準トップ20の顔ぶれは、愛知県刈谷市・小牧市、静岡県藤枝市、栃木県小山市、岩手県北上市、茨城県古河市・龍ケ崎市といった製造業・物流拠点を抱える都市業務地が中心を占める。これらの市場では単価水準が¥5,000〜¥8,000のレンジに収まり、12か月を通してほぼ一直線に推移する。福島県郡山市は12か月の指数が93〜104の範囲に完全に収まり、振幅1.12倍。宿泊需要が観光ではなく企業活動に紐づいているため、季節ではなく平日/週末のリズムで動く市場だといえる。

興味深いのは、平準側にも観光地が混じっている点だ。長野県飯田市(1.10倍)、和歌山県新宮市(1.11倍)、山梨県甲府市(1.12倍)は観光資源を持ちながら振幅が小さい。これは通年で一定の需要が入る一方、明確な単価ピークを作れていない状態を示しており、後述するとおり通年稼働という強みの上に、季節メリハリを載せる余地があるとも読める。

都道府県で見た振幅の地力 — 京都1.80倍、福井1.77倍

市区町村を都道府県単位に束ね、対象が7市区町村以上ある県について振幅の中央値を取ると、地域ごとの「季節の効きやすさ」が見えてくる。

振幅が大きい県(中央値)

表3:振幅中央値が大きい都道府県(対象市区町村7以上)
都道府県振幅中央値対象市区町村数
京都府1.80倍14
福井県1.77倍11
大阪府1.69倍21
北海道1.67倍34
青森県1.64倍8
沖縄県1.63倍14
山形県1.62倍11
島根県1.62倍8
山梨県1.56倍8
長野県1.55倍24

振幅が小さい県(中央値)

表4:振幅中央値が小さい都道府県(対象市区町村7以上)
都道府県振幅中央値対象市区町村数
愛媛県1.23倍7
茨城県1.25倍18
福岡県1.26倍20
長崎県1.29倍13
山口県1.31倍10
鹿児島県1.32倍15
埼玉県1.32倍13
熊本県1.34倍17
滋賀県1.34倍10
栃木県1.35倍13

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

京都府(1.80倍・14市区町村)と福井県(1.77倍・11市区町村)が上位に来るのは、いずれも「日本海側のカニ漁期」と「内陸の観光ピーク」を同時に抱えているためだ。北海道(1.67倍・34市区町村)は雪山と夏の丘陵という双方の資源を持つ。沖縄県(1.63倍・14市区町村)が上位に入っているのは、夏季ピークと冬季の落ち込みが明確なためである。

逆に愛媛県(1.23倍)、茨城県(1.25倍)、福岡県(1.26倍)は県全体として平準な市場だ。ただしこれは「観光が弱い」という意味ではなく、業務需要のベースが厚く年間を通して稼働が積み上がる構造を示している。県内の市区町村レンジ(同一県内の単価格差)については『県内ADRは最大5.2倍開く — 市区町村レンジ全国比較でみる二極構造と空白帯』で別途扱っている。振幅(時間軸の差)とレンジ(空間軸の差)は別の指標であり、両方が大きい県が京都府・北海道であるという整理になる。

参考:2026-27冬のフォワード値 — 倶知安1月¥69,400、ただし観測施設数は薄い

ここまでは確定月のデータだが、次の冬シーズン(2026年11月〜2027年1月)についても、現時点でOTA等に掲載されている販売価格からフォワードの推定成約ADRが得られる。ただし冬季のフォワード月は集計対象施設数が確定月より大幅に少ない点を必ず踏まえて読む必要がある。掲載がまだ出ていない施設が多いためで、掲載が進むにつれて水準は変動する。

表5:2026-27冬シーズンのフォワード推定成約ADR(Nは算出対象施設数)
市区町村2026年11月(推定・N)2026年12月(推定・N)2027年1月(推定・N)参考:2025年12月実績
北海道倶知安町¥16,600 (N=18)¥46,100 (N=13)¥69,400 (N=13)¥36,100
長野県白馬村¥13,900 (N=36)¥37,300 (N=22)¥40,700 (N=18)—
新潟県湯沢町¥12,400 (N=30)¥20,700 (N=18)¥31,500 (N=17)¥20,600
北海道ニセコ町¥13,700 (N=8)¥27,100 (N=7)¥34,900 (N=5)—
福井県越前町¥35,400 (N=15)¥51,300 (N=11)¥48,800 (N=8)¥61,800

Nは推定成約ADRの算出対象施設数。調査時点でOTA等に掲載されている販売価格に基づく推定であり、今後の掲載追加・価格改定により変動します。北海道留寿都村は対象施設数が2施設と極めて薄いため掲載を見送りました。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

倶知安町は2027年1月のフォワードが¥69,400(N=13施設)で、2026年1月の確定実績¥61,600を上回る水準が現時点で提示されている。ただしN=13は同月の確定値の集計母数より小さく、早期に掲載を出している施設に偏っている可能性がある。長野県白馬村は2026年12月¥37,300(N=22)→2027年1月¥40,700(N=18)と積み上がり、新潟県湯沢町は¥20,700(N=18)→¥31,500(N=17)。福井県越前町は2026年11月時点ですでに¥35,400(N=15)と、解禁月から高い水準が掲示されている。ウィンターシーズンの早期予約動向については『2026-27冬シーズン早期予約 — ニセコ・白馬・湯沢と豪州リピーター需要の先取り』、年末年始のフォワード検証は『年末年始2026-27の宿泊価格はもう見えている — 12月フォワードADR前年実績比検証』を参照されたい。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

振幅が大きい市場は「取り切る設計」、平準市場は「通年稼働のアップサイド」

季節振幅は、その市場の優劣を測る指標ではない。振幅の大きさは収益機会の形が違うことを示しているにすぎず、どちらの側にも固有のアップサイドがある。

振幅2倍以上の市場(42市区町村)における機会は、稼ぐ月に取り切る設計にある。倶知安町のように年間の2か月で指数200超(1月224・2月231)を作る市場では、そのピーク3か月(12〜2月)の値付け精度が年間収益をほぼ決定する。リードタイムごとの価格ステップを細かく設計し、早期の安値枠を必要以上に開けないコントロールを入れるだけで、単価水準は積み上がる。越前町・京丹後市のようなカニ漁期型は、解禁日という明確なカレンダーが存在するため、前年の同一漁期の実績から逆算した価格カーブを組みやすい。需要のピークが暦で予測できることは、レベニューマネジメントにとって極めて有利な条件である。加えて、これらの市場では谷の月(6月・10月)に別の需要軸を載せる余地も残っている。越前町の6月¥14,600、京丹後市の6月¥15,600という水準は、同市場のピーク帯から見れば大きな伸びしろだ。

振幅1.2倍未満の市場(83市区町村)における機会は、通年稼働の厚みを単価に転換していく方向にある。郡山市・北上市・刈谷市のような業務需要主体の市場は、12か月を通じて需要が途切れない。これは季節型市場が羨む安定性であり、年間の稼働日数を積み上げられるという構造的な強みだ。この強みの上に、これまで単価が動かなかった週末・連休・地域イベント日に限定した価格メリハリを載せれば、平準性を損なわずに単価の上乗せができる。実際、平準トップ20のなかでも最大月が1月・5月・7月とばらついており、各市場に固有の需要山が小さいながら存在していることが読み取れる。その小さな山を可視化して価格に反映することが、平準市場における最も現実的なアップサイドである。

また、長野県飯田市・山梨県甲府市のように観光資源を持ちながら振幅が1.1倍台にとどまる市場は、両方の性質を併せ持つ。通年の需要ベースがある状態で、季節の山を新たに作りにいけるポジションだといえる。

まとめ

全国633市区町村の直近12か月・推定成約ADRから季節振幅を算出した結果、中央値は1.45倍、最大は北海道倶知安町の4.86倍、最小は鹿児島県出水市の1.05倍だった。振幅を生む要因は、雪山リゾート・冬の味覚(カニ漁期)・夏の海浜/離島・都市イベントの4類型に整理でき、なかでも福井県越前町4.23倍・京都府京丹後市2.79倍という数字は、漁期という暦が雪山と同等の単価変動を生んでいることを示している。

山が立つ月は8月(161市区町村)と1月(112市区町村)に集中し、谷は6月(237市区町村)に圧倒的に偏る。一方、振幅1.2倍未満の83市区町村は製造業・物流拠点を抱える業務地に集中し、通年で需要が途切れない安定性を持つ。振幅の大きい市場にはピーク期の値付け精度を高める余地があり、平準な市場には通年稼働という土台の上に小さな需要山を価格へ反映していく余地がある。どちらも、自市場の12か月カーブを正確に把握することが出発点になる。

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⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のフォワード値(2026年11月〜2027年1月)は調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて掲載施設数の増加・価格改定により変動します。特に冬季リゾートは集計対象施設数が確定月より少なく、現時点の水準がシーズン全体を代表するとは限りません。

参考資料・出典一覧

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