トップ > 投資・開発 > 2027-28年ホテル竣工26件5,243室、竣工前に買い手を決める契約の実務 — 違約金20%と必要ADR

2027-28年ホテル竣工26件5,243室、竣工前に買い手を決める契約の実務 — 違約金20%と必要ADR

投稿日 : 2026.09.22

千葉県

神奈川県

岡山県

栃木県

投資・開発

2027-28年ホテル竣工26件5,243室、竣工前に買い手を決める契約の実務 — 違約金20%と必要ADR

ホテル開発の成否は、着工より前に決まっていることが多い。建物が一本も立ち上がっていない段階で、将来の売買価格と引渡し条件を確定させる契約——フォワードコミットメント——が成立するかどうかが、プロジェクトファイナンスの組成可否そのものを左右するからだ。本稿では、この「竣工前に買い手を確定させる契約」に論点を絞り、契約の骨格、実際の開示文で確認できる違約金水準、そして国土交通省の建築計画データから集計した2027〜2028年竣工予定のパイプライン26件・5,243室を突き合わせる。最後に、4つの主要案件について、ホテル床が現在の建設費に見合うために必要なADR水準を逆算する。

本記事における指標の定義

  • フォワードコミットメント:竣工前・完成前の物件について、将来の売買を現時点で確定させる契約。金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」上の「フォワード・コミットメント等」は、より広く「先日付での売買契約であって、契約締結から1月以上経過した後に決済・物件引渡しを行うこととしているものその他これに類する契約」と定義される。当社記事で従来使ってきた「フォワードADR」(将来日程の先行掲載価格)とは別概念であり、本稿では一切その意味で用いない。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値をもとにした、エリアの標準的な施設の水準です。
  • RevPAR・GOP・還元利回り:RevPARは販売可能客室1室あたりの客室売上(ADR×稼働率)。GOP(営業総利益)は売上から運営費を差し引いた、賃料・減価償却前の利益。還元利回りは年間の純収益(本稿では賃料相当)を価格で割った利回りで、支持価格=年間賃料÷還元利回りとして用いる。
  • パイプライン:国土交通省「建築物動態統計調査」等に基づく建築計画概要(確認申請ベース)。開業日・運営事業者・ブランドを示すものではありません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築物動態統計調査」
2027-28年 竣工予定
26件
5,243室(50室以上)
うち複合用途
54.9%
室数ベース・2,879室
開示された違約金
20%
譲渡価格比・実開示例
必要ADR(試算)
¥14,800
RC造・利回り5.3%前提

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築物動態統計調査」/各投資法人の適時開示

Key Takeaways
  • 26件・5,243室:2027-28年に竣工予定の客室数50室以上のホテル計画(確認申請ベース)。2028年の8件・1,428室は今後の申請で増える下限値。
  • 違約金は譲渡価格の20%:日本ホテル&レジデンシャル投資法人の2025年7月の開示例。資金調達を前提条件とする特約があれば、買い手は違約金なしで契約から降りられる。
  • 複合用途は室数ベース54.9%:2025-26年竣工分の31.4%から23.5ポイント上昇。竣工前に売買するには、区分・信託によるホテル床の切り出しが前提になる。
  • 必要ADRは¥14,800前後:RC造・延床40㎡/室・利回り5.3%・稼働率(前提)80%で試算。千葉市美浜区は現行比+11%、岡山市北区と宇都宮市は約2倍が必要で、前提次第で¥12,700〜¥17,600まで動く。
  • 優先出資+優先交渉権:竣工3年前の上場REITの関与は、取得義務を負わず価格確定を竣工後に委ねる設計(ユナイテッド・アーバン投資法人・箱根強羅)が現実的な落としどころ。

既刊との線引き — 本稿が扱うのは「契約」だけである

本誌ではこれまで、ホテル開発の時間軸と資金を別々の角度から扱ってきた。既刊『ホテル工期の実測 — 計画67件の着工〜竣工2.80年、単独1.96年と複合4.00年』は着工から竣工までの工期そのものを、『2028年前後の300室級パイプラインが揺らす地方政令市』は築年ギャップと需給を、『ホテル取得の借入可能額、100室30億円でLTV57〜63%』は取得時点のデットを扱っている。

本稿はそのいずれとも重ならない。扱うのは、竣工より前——多くの場合は着工前——に売買契約そのものを確定させる契約形態に限られる。工期の長さや需給バランスは、この契約が成立するかどうかを左右する変数としてのみ、1〜2行の参照にとどめる。

加えて、用語上の注意を冒頭で一つ。当社記事における「フォワード」という語は、これまでほぼ例外なくフォワードADR——将来日程についてOTA上に先行して掲示されている価格——の意味で使われてきた。本稿の「フォワードコミットメント」はまったく別の概念で、竣工前・完成前の物件について将来の売買を現時点で確定させる契約を指す。価格の先行掲示ではなく、売買の先行確定である。

契約の骨格 — 1ヶ月を超えると開示義務が生じる

法令上の入口は素っ気ない。金融庁「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」は、フォワード・コミットメント等を「先日付での売買契約であって、契約締結から1月以上経過した後に決済・物件引渡しを行うこととしているものその他これに類する契約」と定義している。つまり、開発中の物件を対象とすることが要件ではなく、契約から決済までが1ヶ月を超えれば、竣工済みの中古物件の売買であっても該当しうる。J-REITの適時開示では、この定義に該当する取引について「フォワード・コミットメント等に関する事項」という独立の項目を立て、履行できない場合の財務への影響を説明することが実務として定着している。

実際の開示文を読むと、この項目の構造は驚くほど定型化されている。ジャパン・ホテル・リート投資法人が2015年6月4日に公表した「資産の取得及び貸借に関するお知らせ(オキナワ マリオット リゾート & スパ)」では、売買契約締結日が2015年6月4日、売買代金決済・引渡日が同年7月10日と、36日の間隔が開いている。開示文は「本信託受益権譲渡契約上の義務の違反を理由として、本信託受益権譲渡契約を解除することができ、その場合には、本信託受益権譲渡契約に違反した当事者は、相手方当事者に対して、売買代金の一定割合を支払うものとされています」と記す。取得予定価格は14,950,000千円である。

ここで見落とされがちなのが、同じ開示文の次の一文だ。「取得予定資産の信託受益権譲渡契約には、本投資法人による資金の借入れ……その他の資金調達がなされることを売買代金支払いの前提条件とする特約が付されています。従いまして、本投資法人による売買代金支払いのための資金の借入れその他の資金調達がなされない場合には、本信託受益権譲渡契約は違約金等の支払いなしに終了することとなります」。ファイナンス・コンティンジェンシー(資金調達を前提条件とする特約)が付されていれば、買い手は違約金なしで契約から降りられる。フォワードコミットメントのリスクを読むとき、違約金の率よりも先に確認すべきはこの特約の有無である。

違約金は売買代金の10〜20%とされ、実開示では20%が書かれている

違約金の水準について、不動産実務の解説では「売買価格の10〜20%相当が生じるケースが多い」とされることが一般的である。ただし本誌の立場として、こうした相場観は「一般に〜とされる」以上には書けない。断定できるのは、実際に開示された契約に書かれた数字だけだ。

その点で明快なのが、日本ホテル&レジデンシャル投資法人が2025年7月4日に公表した「国内不動産の譲渡に関するお知らせ(大江戸温泉物語 君津の森、大江戸温泉物語 幸雲閣)」である。売買契約締結日2025年7月4日、譲渡予定日2025年8月29日、譲渡予定価格は2物件合計1,897百万円。開示文は当該売買契約がフォワード・コミットメント等に該当すると明記したうえで、こう書いている——「一方当事者が本件売買契約に規定する重大な義務に故意又は過失により違反したときは、相当の期間を定めて催告した上で本件売買契約を解除し、かつ、その相手方当事者に対して、損害賠償として譲渡価格の20%に相当する金銭を違約金として請求することができるものとされています」。

契約から決済まで56日、違約金は価格の20%。これが、上場投資法人が実際に締結しているフォワードコミットメントの手触りである。1,897百万円の取引で、違約金は約379百万円に相当する。開示文自体は「本投資法人の財務及び分配金の支払等に重大な影響を与える可能性は低い」と評価しているが、これは相手方が上場投資法人であり、決済期間が2ヶ月弱だからこそ言えることだ。竣工が3年先の開発案件で同じ率の違約金を負えば、その拘束は決済期間の長さに比例して重くなる。

開示で確認できる4つの型 — 確定売買、優先交渉権、開発ファンド

竣工前に買い手側の関与を固める方法は、一つではない。IRで原文を確認できた案件を並べると、「売買を確定させる」型と「優先交渉権にとどめる」型という、リスク負担の異なる2つの設計が並存していることが分かる。以下は、開示文または公式リリースで契約日・引渡し時期・契約形態が確認できたものに限定した一覧である。

表1 竣工前に買い手側の関与を固めた開示事例(契約形態・契約日・価格)
公表日案件・主体契約形態契約日 → 決済/竣工価格・出資額
2015年6月4日オキナワ マリオット リゾート & スパ
ジャパン・ホテル・リート投資法人
フォワード・コミットメント等に該当する信託受益権譲渡契約。資金調達を売買代金支払いの前提条件とする特約付き(不調時は違約金なしで終了)2015/6/4 → 2015/7/10
(36日)
14,950,000千円
2025年7月4日大江戸温泉物語 君津の森/幸雲閣
日本ホテル&レジデンシャル投資法人(譲渡側)
フォワード・コミットメント等に該当する売買契約。重大な義務違反時は譲渡価格の20%を違約金として請求可能2025/7/4 → 2025/8/29
(56日)
1,897百万円
(2物件計)
2025年8月25日(仮称)銀座築地ホテルプロジェクト(18室)
クリアル/昭和リース/プルーガ・キャピタル
竣工前の物件について将来の引渡しを前提に価格・条件を確定させるフォワードコミットメント型ファンド。シニアローンは中国銀行、FAは昭和リース2025/8/25 公表 → 竣工予定 2026年10月非開示
2026年9月4日(仮)ノワ・バイ・リーガ 箱根強羅(90室)
ユナイテッド・アーバン投資法人
開発段階の特定目的会社への優先出資(全体の約14.3%)+優先交渉権。取得義務は負わない。テナントリスクは定期建物賃貸借予約契約で軽減2026/9/7 引受契約 → 竣工予定 2028年9月
優先交渉権行使期限 2031/9末
166,500,000円
+77,300,000円

出典:各投資法人・各社の適時開示および公式リリース原文よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

この4件のうち、最も新しい箱根強羅の事例が、開発型案件における現在のスタンダードに近い。ユナイテッド・アーバン投資法人は建物が建つ前の段階で特定目的会社の優先出資証券を取得し、その見返りとして、竣工後(2028年9月頃)から2031年9月末までの間に物件を対象とする売買契約を締結するための優先交渉権を得ている。開示文は「本優先交渉権は、本投資法人が権利として有するものであり、将来的に本物件の取得義務を負うものではありません」と明記する。売買価格も「ホテル営業の売上実績、金融・経済動向、資金調達条件を勘案して……誠実に協議の上、合意した内容で決定する」とされ、現時点では固定されていない。

つまりこれは、フォワードコミットメント(価格確定・取得義務あり)ではなく、オプション(価格未確定・取得義務なし)である。開発リスクは出資額(約2.4億円)を上限として負うが、価格変動リスクは竣工後の協議に委ねている。竣工3年前という時間軸で、上場投資法人が取りうる現実的な関与の深さがここに表れている。

もう一方の設計が、銀座築地の事例である。こちらは非上場のファンドが竣工前に価格・条件を確定させる形をとり、シニアローンを地域金融機関が、財務アドバイザリーとエクイティの一部をリース会社が担う。上場REITが取得義務を負いにくい局面で、竣工前の買い手を非上場ファンドが引き受け、その存在が銀行のシニアローン判断を成立させる——という役割分担が読み取れる。18室という規模は上場REITの取得単位に届かないが、竣工前に買い手が決まっているという一点で、開発資金は組成できている。

注:本節に挙げた案件はいずれも各社が公表した開示文・リリースで確認できるものに限っている。後述する建築計画データ上のプロジェクトについて、特定の投資法人・ファンドが取得する見込みであるといった未確認の推測は本稿では一切行わない。

2027-28年のパイプラインは26件・5,243室 — ただし下限値である

国土交通省の建築計画データから、客室数50室以上のホテルを含む計画を抽出し、所在地・室数・竣工予定・主用途・工事種別で重複を除いて竣工年別に集計した。調査時点で把握できたのは70件・15,517室。竣工年別の内訳は以下のとおりである。

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(客室数50室以上、N=70件)

表2 竣工予定年別のホテル建築計画(客室数50室以上、N=70件)
竣工予定年件数客室数1件あたり平均備考
2025年225,304室241室大半が竣工済み・開業段階
2026年204,770室239室竣工〜開業準備
2027年183,815室212室本稿の主対象。着工済み〜着工直前
2028年81,428室179室本稿の主対象。確認申請の追加が続く年
2029年1100室100室大規模複合の一部
2031年1100室100室大規模複合の一部

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

⚠ 未来年の件数は「下限値」である:この集計は調査時点での確認申請ベースであり、確認申請は通常、開業の1〜2年前に行われる。したがって2028年以降の件数・客室数は構造的に過少カウントとなる。2028年8件・1,428室、2029年1件・100室という数字は「2028年以降は計画が枯れる」ことを意味せず、今後の申請追加により必ず増加する、現時点での確定パイプラインの下限値として読むべきである。竣工前に買い手を探す側から見れば、2028年の案件は「今まさに増えつつある母集団」であり、2027年の案件は「もう出そろっている母集団」という違いがある。

2027-28年の主要案件 — 1,000室の複合から300室の単独まで

2027〜2028年に竣工予定の案件のうち、客室数190室以上のものを、建築計画に記載された所在地・室数・主用途のまま抜き出した。ブランド名・運営事業者は建築計画に記載がないため記していない。記載があるのは建築主(建築計画の届出主体)であり、将来のホテル運営者や所有者を示すものではない。

表3 2027-28年竣工予定の主要案件(190室以上、N=12件)
竣工予定所在地客室数主用途(記載どおり)階数建築主(記載どおり)
2027年2月大阪府大阪市北区堂島浜二丁目220室分譲共同住宅(514戸)・ホテル・事務所40三菱地所レジデンシャル
2027年4月岡山県岡山市北区駅前町一丁目190室ホテル、共同住宅、店舗16野村不動産
2027年5月神奈川県横浜市中区北仲通六丁目272室共同住宅、ホテル、駐車場40大和地所・住友不動産
2027年7月兵庫県神戸市中央区小野柄通五丁目223室ホテル12大和ハウスリアルティマネジメント
2027年8月東京都千代田区内神田一丁目261室ホテル13アパホーム・アパマンション
2027年10月東京都中央区日本橋一丁目30〜32番197室商業店舗・事務所・ホテル・共同住宅等39日本橋1丁目中地区市街地再開発組合
2027年12月千葉県千葉市美浜区ひび野一丁目1,000室ホテル,映画館,飲食店,温浴施設23ロイヤルリース
2027年12月北海道富良野市下御料200室ホテル10ルートインジャパン
2028年5月北海道札幌市中央区南七条西五丁目200室ホテル、駐車場11丸紅都市開発・長谷工コーポレーション・相互住宅
2028年5月千葉県船橋市前原西二丁目238室ホテル14東横イン
2028年10月栃木県宇都宮市池上町300室ホテル(300室)・飲食店・機械室(B1F)14池上町地区優良建築物等整備事業組合
2028年12月岡山県岡山市北区野田屋町一丁目300室住宅・ホテル・店舗12野田屋町地区市街地再開発準備組合

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(2027-28年竣工予定・190室以上、N=12件)。用途・建築主は記載どおり。開業日・運営者・ブランドは含まれない

この12件を眺めて最初に目を引くのが、千葉市美浜区ひび野一丁目の1,000室である。用途は「ホテル,映画館,飲食店,温浴施設」、地上23階、竣工予定2027年12月。単一計画としては群を抜く規模で、2027年竣工予定18件・3,815室のうち実に26.2%を1件で占める。もっとも、映画館と温浴施設を抱き込む構成は、純粋な宿泊床の売買という枠組みには収まりにくい。ホテル床だけを区分または信託受益権として切り出す設計が前提になるか、そもそも事業者保有を前提とした計画である可能性が高い——用途表記から読めるのはそこまでである。この計画そのものの事業規模と、千葉市の既存ストックがどこまで吸収できるかは、海浜幕張駅前1,000室・総投資300億円の複合開発で個別に検証している。

2027-28年竣工予定の190室以上案件の分布(建築計画の所在地表記に基づく概略位置)。円の大きさは客室数。出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

複合用途の比率が室数ベースで31%から55%へ — 切り出し設計が前提になる

竣工前売買が成立するかどうかを決める構造的な変数として、その計画がホテル単独か、住宅・事務所・店舗との複合かがある。単独ホテルなら一棟売却が素直に成り立つが、複合用途では区分所有または信託受益権でホテル床だけを切り出す設計が必要になり、管理規約・共用部の費用按分・オペレーターの導線確保といった論点が売買契約の前に片付いていなければならない。竣工3年前に価格を確定させる契約は、この整理が終わっていなければそもそも締結できない。

この仮説を、用途表記の分布で検証した。主用途に住宅・事務所・店舗・商業・飲食・娯楽等の記載を含むものを「複合」、ホテル(および駐車場・機械室のみ併記)を「単独」として分類すると、次の結果になる。

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=68件、2029年以降の2件を除く)

表4 竣工期別の単独ホテル/複合用途(件数・客室数)
竣工期単独ホテル複合用途複合比率(室数)複合比率(件数)
2025-26年(竣工済み〜直近)31件・6,909室11件・3,165室31.4%26.2%
2027-28年15件・2,364室11件・2,879室54.9%42.3%

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

仮説は支持された。室数ベースの複合比率は31.4%から54.9%へと23.5ポイント上昇し、2027-28年竣工のパイプラインでは過半が複合用途になる。件数ベースでも26.2%から42.3%へと上がっている。規模の違いも明瞭で、調査対象70件全体では複合案件の階数中央値29階に対し単独案件は11階、客室数の中央値は複合208室に対し単独179.5室。2027-28年竣工の26件に限ると、階数中央値は複合32階・単独10階と差がさらに開く。

実務上の含意はシンプルだ。2027-28年に竣工するホテル床の半分以上は、竣工前に売買するなら区分・信託による切り出しが必要になる。しかも複合案件は高層・大規模で、市街地再開発組合が建築主となるケースが目立つ。再開発組合案件は権利変換計画の確定が前提条件として重なるため、竣工3年前に売買価格を固定する契約は、単独ホテルよりも成立のハードルが一段高い。逆に言えば、単独ホテル15件・2,364室が、竣工前の一棟売買がそのまま成り立つ実質的な母集団である。

ホテル床はいくらで売れるのか — 市区町村ADRから逆算する

竣工前に価格を確定させる契約は、買い手が「竣工時点の収益」を今の情報だけで引き受けることを意味する。では、主要案件のホテル床は現在のエリア収益水準でいくらの価値を持つのか。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(確定月・直近12ヶ月=2025年9月〜2026年8月)を起点に、1室あたりの支持価格を試算した。

■ 試算前提
① 稼働率(前提)80% ② 客室売上のみを計上(飲食・宴会等は含めない) ③ 賃料(NOI相当)=年間客室売上×30%(GOP連動型の変動賃料を保守的に想定) ④ 還元利回り4.5%および5.3%の2ケース。5.3%は日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月現在)の宿泊特化型ホテル期待利回りのうち、調査8都市で最も高い仙台の水準を、調査対象外の地方都市の代理値として置いたもの。同調査の宿泊特化型ホテル期待利回りは東京4.1%、大阪4.5%、京都4.5%、福岡4.7%、名古屋4.9%、札幌5.0%、那覇5.0%、仙台5.3% ⑤ ADRは推定値であり、実際の成約価格・会計数値とは異なる
※簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
表5 主要4案件の所在市区町村の推定成約ADRと1室あたり支持価格
案件の所在市区町村推定成約ADR
直近12ヶ月平均
対象
施設数
RevPAR
(前提80%)
1室あたり支持価格
@4.5%
1室あたり支持価格
@5.3%
千葉市美浜区
(1,000室・2027年12月竣工予定)
¥13,40012¥10,700¥26.1百万¥22.1百万
横浜市中区
(272室・2027年5月竣工予定)
¥11,60051¥9,300¥22.6百万¥19.2百万
岡山市北区
(300室・2028年12月竣工予定)
¥7,90047¥6,400¥15.5百万¥13.1百万
宇都宮市
(300室・2028年10月竣工予定)
¥7,30050¥5,800¥14.2百万¥12.1百万

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月の確定月平均)/日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月現在)/国土交通省「建築物動態統計調査」

この支持価格を、建設費と突き合わせると論点が立ち上がる。国土交通省の建築着工統計に基づく2025年のホテル建築費は全構造平均195.2万円/坪、RC造202.6万円/坪、S造240.5万円/坪で、2022年の全構造平均138万円から大幅に切り上がった水準が続いている。1室あたりの延床を共用部込みで40㎡(12.1坪)と置くと、建設費だけで1室あたりRC造で約¥24.5百万、S造で約¥29.1百万。土地代は含まない。業態によって1室あたり建設費がどこまで開き、それぞれ何円のADRで成立するのかは、ホテル建設費は1室870万〜7,140万円|業態別3層と12商圏の成立ADRで3層に分けて整理している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月の確定月平均、N=12〜51施設)/国土交通省「建築着工統計」/日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」

還元利回り5.3%・RC造という前提のもとで建設費に見合う1室あたり価格を成立させるには、ADRで¥14,800前後が必要になる(4.5%なら¥12,600前後)。この必要水準を現在の各エリアの推定成約ADRと比べると、次のようになる。

表6 必要ADR(RC造・5.3%)と現在の推定成約ADRの比較
案件の所在市区町村現在の推定成約ADR必要ADR(RC造・5.3%)必要な上昇率読み筋
千葉市美浜区¥13,400¥14,800+11%すでに射程内。大型イベント需要の取り込み次第で建設費に届く
横浜市中区¥11,600¥14,800+28%複合案件の共用部按分次第。住宅との合築が実質的な条件
岡山市北区¥7,900¥14,800+87%単体のホテル床だけでは建設費水準に届かない構造
宇都宮市¥7,300¥14,800+103%同上。用地取得コストの優位や補助制度が前提になる

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・N=12〜51施設)/国土交通省「建築着工統計」(2025年RC造202.6万円/坪)

結果は明快である。現在のエリアADRが竣工前の価格確定を支えられるのは、首都圏のごく一部に限られる。千葉市美浜区は必要水準まで11%、横浜市中区は28%。一方、地方政令市・県庁所在地クラスの岡山市北区と宇都宮市では、現行ADRの約2倍が必要という計算になる。

ここで前節の発見と結びつく。2027-28年のパイプラインで複合用途の比率が室数ベース55%まで上がっているのは、ホテル単体では建設費を回収しきれないエリアが増え、住宅・店舗との合築によって全体の事業採算を成立させる設計が選ばれている——という読み方と整合する。実際、岡山市北区野田屋町の300室は「住宅・ホテル・店舗」、横浜市中区北仲通の272室は「共同住宅、ホテル、駐車場」であり、いずれも住宅との合築である。宇都宮市池上町の300室は「ホテル(300室)・飲食店」とホテル主体の計画で住宅との合築ではなく(本稿の分類では飲食店の併記により複合に含まれる)、工事種別は「改築」と記載されているため、新築の建設費前提がそのまま当てはまるとは限らない。

竣工前に買い手を確定させる側から見れば、判断材料は3つに集約される。第一に、そのホテル床が区分・信託で切り出せる設計になっているか(複合案件では権利関係の整理が売買契約の前提条件になる)。第二に、竣工時点で必要となるADR水準が、現在のエリア水準からどれだけ離れているか。上表の必要上昇率がそのままアンダーライティングの前提になる。第三に、資金調達を前提条件とする特約が付いているか。付いていれば違約金なしで降りられるが、付いていなければ譲渡価格の20%相当の違約金が現実の負担として立ち上がる。

必要ADRの感度 — 稼働率・賃料比率・利回り・延床の前提で¥12,700〜¥17,600まで動く

前節の必要ADR¥14,800は、稼働率(前提)80%・賃料比率30%・還元利回り5.3%・1室あたり延床40㎡という単一の前提に立つ点推定である。竣工3年前に価格を固定する契約では、この前提そのものが買い手の引き受けるリスクになる。そこで同じ式(必要ADR=1室あたり建設費×還元利回り÷(稼働率×365日×賃料比率))を、前提を動かして再計算した。建設費は2025年RC造202.6万円/坪で固定し、土地代は含まない。

表7 3シナリオ別の必要ADRと各エリアの必要上昇率(RC造・延床40㎡/室、上昇率は還元利回り5.3%基準)
シナリオ稼働率賃料比率必要ADR
@4.5%
必要ADR
@5.3%
千葉市
美浜区
横浜市
中区
岡山市
北区
宇都宮市
悲観75%27%¥14,900¥17,600+31%+51%+121%+141%
中位(本文の前提)80%30%¥12,600¥14,800+11%+28%+87%+103%
楽観85%33%¥10,800¥12,700-5%+9%+60%+74%

必要上昇率は@5.3%の必要ADRを各エリアの推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の確定月平均、N=12〜51施設)と比べたもの。稼働率・賃料比率は本稿の設定した前提値。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築着工統計」/日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」

楽観シナリオ(稼働率(前提)85%・賃料比率33%)では、千葉市美浜区の現行ADRはすでに必要水準を上回り、横浜市中区も一桁台の上昇で届く。一方、悲観シナリオ(稼働率(前提)75%・賃料比率27%)では必要ADRが¥17,600まで上がり、千葉市美浜区でも3割、岡山市北区と宇都宮市では現行の2倍を超える。地方の2案件は、楽観シナリオでも6〜7割の上昇が必要であり、前提次第で必要水準に届きうる首都圏2案件とは、竣工前売買の成立条件が質的に異なる。

表8 必要ADRの2軸感度(還元利回り×1室あたり延床、RC造・稼働率(前提)80%・賃料比率30%)
1室あたり延床(建設費/室)4.1%
東京
4.5%
大阪・京都
4.7%
福岡
5.0%
札幌・那覇
5.3%
仙台
32㎡(19.6百万円)¥9,200¥10,100¥10,500¥11,200¥11,900
36㎡(22.1百万円)¥10,300¥11,300¥11,800¥12,600¥13,300
40㎡(24.5百万円)¥11,500¥12,600¥13,200¥14,000¥14,800
44㎡(27.0百万円)¥12,600¥13,900¥14,500¥15,400¥16,300
48㎡(29.4百万円)¥13,800¥15,100¥15,800¥16,800¥17,800

列の利回りは日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月現在)の宿泊特化型ホテル期待利回り(都市名は同調査の該当都市)。太字は本文で用いた40㎡×4.5%/5.3%のケース。建設費は国土交通省「建築着工統計」の2025年RC造202.6万円/坪、土地代を含まない簡易試算

延床を1室あたり8㎡絞る(40㎡→32㎡)と必要ADRは約2割下がり、還元利回りを5.3%から4.5%へ0.8ポイント引き下げる効果(約15%)を上回る。竣工前に価格を確定させる交渉では、利回りの水準と同じ重さで、共用部を含む1室あたり延床——すなわち設計——が価格を決める。ただし表8で最も低い組み合わせ(32㎡・4.1%)でも必要ADRは¥9,200で、岡山市北区(現行¥7,900)と宇都宮市(同¥7,300)の水準には届かない。しかも4.1%は東京の期待利回りであり、地方都市に当てはめられる水準ではない。

まとめ — 3年前の契約は、ADRの3年分の見通しを買う行為である

フォワードコミットメントは、法令上は「契約から決済まで1ヶ月超」という素っ気ない線引きで定義される。しかし竣工3年前の開発案件でこれを結ぶとき、契約が実質的に取引しているのは物件ではなく、3年後のADRとGOPに対する見通しそのものである。日本ホテル&レジデンシャル投資法人の開示文が示す「譲渡価格の20%」という違約金は、決済まで56日の取引なら軽い数字だが、3年を拘束する契約に同じ率が付けば、その重みは桁違いになる。

だからこそ、ユナイテッド・アーバン投資法人の箱根強羅の事例のように、開発段階では優先出資と優先交渉権にとどめ、価格の確定は竣工後の協議に委ねるという設計が採られる。取得義務を負わず、開発リスクは出資額を上限とし、テナントリスクは定期建物賃貸借予約契約で先に潰しておく。これは、竣工3年前という時間軸で上場投資法人が取りうる関与としては、きわめて合理的な落としどころだ。

そして建設費の水準が、この契約の成否をエリアによって分けている。2025年のRC造202.6万円/坪という建設費のもとでは、1室あたり約¥24.5百万の建設費を支えるADRは¥14,800前後。この水準に現行ADRが届いているエリアは限られており、届かないエリアでは複合用途化——住宅・店舗との合築による事業採算の確保——が選ばれている。2027-28年のパイプラインで複合比率が室数ベース55%に達しているという事実は、その帰結として読める。

2028年の8件・1,428室という数字は下限値であり、今後の確認申請の追加で必ず増える。竣工前取得を検討する側にとって、2027年は「もう出そろった母集団から選ぶ年」、2028年は「これから母集団が形成される年」である。後者に対しては、建築確認済証の交付後という段階で出資してリスクを絞り込む——箱根強羅の事例で明示された手順——が、実務上の入口になる。

⚠ 本稿のデータについて:パイプライン集計は調査時点での建築計画(確認申請ベース)であり、開業日・運営事業者・ブランドを示すものではありません。未来年の件数・客室数は今後の申請追加により増加します。ADRは推定値であり、上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%です。価格試算はすべて明示した前提に基づく簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

パイプラインは国土交通省「建築物動態統計調査」等に基づく建築計画概要(確認申請ベース、客室数50室以上、所在地・室数・竣工予定・主用途・工事種別で重複を除去、N=70件・15,517室)。ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(市区町村単位、2025年9月〜2026年8月の確定月平均、N=12〜51施設)。契約実務は各投資法人・各社の適時開示および公式リリースの原文による。

■ 試算前提

稼働率(前提)80%、客室売上のみ計上、賃料(NOI相当)=年間客室売上×30%、還元利回り4.5%/5.3%(日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」の宿泊特化型ホテル期待利回り)、建設費は2025年RC造202.6万円/坪・1室あたり延床40㎡(12.1坪)で土地代を含まない。表7は稼働率(前提)75〜85%・賃料比率27〜33%、表8は利回り4.1〜5.3%・延床32〜48㎡に動かして同じ式で再計算した。

■ 限界・留意点

建築計画は開業日・運営事業者・ブランド・将来の所有者を示さず、2028年以降の件数は下限値である。複合/単独の区分は主用途表記に基づく機械的な分類。ADRは推定値で、上場ホテルREITの物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。付帯収入・土地代・開発利益・税費用を含まない簡易試算であり、個別案件の価格や投資判断を示すものではない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 市区町村別 推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の確定月、N=12〜51施設)

■ 政府統計・公的データ

■ 投資法人・企業の適時開示・公式リリース(原文確認済)

■ 業界レポート

関連記事