トップ > 投資・開発 > 国立公園にホテルは建てられるか|自然公園法の許可基準と33リゾート地の供給実測

国立公園にホテルは建てられるか|自然公園法の許可基準と33リゾート地の供給実測

投稿日 : 2026.09.12

北海道

栃木県

神奈川県

静岡県

山梨県

長野県

岐阜県

熊本県

大分県

鹿児島県

投資・開発

国立公園にホテルは建てられるか — 自然公園法の許可基準と33リゾート地の供給実測

リゾートホテルの用地を探すとき、最初に開く図面は用途地域図ではない。環境省の公園区域図である。国立公園・国定公園の区域では、建物の形を決める建築規制より一段上に、「その場所でその事業を営めるのか」を決める層が乗っている。自然公園法にもとづく公園計画と公園事業の執行認可がそれだ。ここを確認せずに用地を押さえると、設計を始める前に案件そのものが成立しないことがある。

本稿は、国立公園35公園・約244万7,855haの地種区分構成(環境省、令和8年4月10日現在)と、国立公園を擁する全国33のリゾート自治体・計140,920室の供給データを突き合わせ、規制が供給と単価に何をもたらしているかを定量化する。結論を先に置くと、規制は供給を確実に止めるが、単価の高さは保証しない。開発担当・ファンド・地銀のそれぞれにとって、確認すべき順番が変わる。

既刊の規制シリーズとの線引き

当社がこれまで扱ってきた用途地域・容積率・絶対高さ、風致地区、林地開発許可(1ha超・残置森林率)、盛土規制法、土砂災害特別警戒区域、航空法の高さ制限は、いずれも「どう建てるか」を縛る規制である。敷地は使える前提で、形・高さ・造成方法が制約される。
自然公園法はこれと系統が異なる。公園計画に宿舎事業として位置づけられていない場所では、そもそも宿泊事業を執行できない。形の問題ではなく事業認可の問題であり、規制の「層」が一段上にある。両者は代替関係ではなく積み上げ関係で、公園区域内では自然公園法の層をクリアしたうえで、建築基準法以下の層が別途かかる。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • 新規供給比率:各自治体で稼働が確認できる総客室数に対する、2020年以降に開業が確認された施設の客室数の割合。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/環境省/e-Gov法令検索
国立公園(35公園)総面積
244万ha
2,447,855ha・令和8年4月10日現在
特別地域の占有率
74.9%
うち特別保護地区15.0%
許可基準の建築面積上限
2,000㎡
一般建築物・高さ13m以下
第3種特別地域の延べ面積率
60%
総建築面積率は20%以下
対象33自治体の総客室
140,920室
2020年以降の新規は10.2%
Key Takeaways
  • 規制は二層:公園計画への宿舎事業の位置づけ(事業層)と行為許可(規制層)は別々に判定される。用地の適法性より先に、そこで事業を執行できるかを確認する。
  • 延べ面積率60%が第3種特別地域の上限。敷地1,000㎡で建つのは約17室(1室35㎡換算)にとどまり、客室数で回収するモデルは構造的に成立しない。
  • 新規供給比率10.2%:33リゾート自治体・140,920室のうち2020年以降の新規は14,410室。下位5自治体は6年間で1.6%しか入れ替わっていない。
  • 相関は0.18:新規供給比率と推定成約ADRはほぼ無相関。規制は供給を止めるが単価は保証せず、希少性は需要側の条件が揃った場所でのみプレミアムに転換する。
  • REIT保有は1.45%:対象33自治体の140,920室に対し上場REIT7法人の保有は20物件・2,037室(取得価格計91,279百万円)。ストックの大半は個人・地場資本にある。

自然公園法は二層構造 — 事業の可否と行為の可否は別々に判定される

国立公園でホテルを建てる/取得する際に効く法的レイヤーは、大きく二つに分かれる。混同されやすいが、審査主体も判断基準も別物である。

第一層は「事業層」である。自然公園法第2条は、公園計画を「国立公園又は国定公園の保護又は利用のための規制又は事業に関する計画」と定義し、公園事業を「公園計画に基づいて執行する事業」と定義する。宿舎事業はこの公園事業の一種であり、第9条により環境大臣が中央環境審議会の意見を聴いて決定する。そして第10条第1項は「国立公園事業は、国が執行する」と定めたうえで、同条第3項で「国及び公共団体以外の者は、環境省令で定めるところにより、環境大臣の認可を受けて、国立公園事業の一部を執行することができる」と規定する。

つまり民間事業者が国立公園内で宿舎事業を営むには、①その場所に宿舎事業が公園計画上決定されていること、②環境大臣の執行認可を得ることの二つが前提になる。公園計画に宿舎事業として位置づけられていない場所では、用地を取得しても事業を執行できない。用地取得より先に確認すべきなのはここである。

第二層は「行為規制層」である。第20条第3項は、特別地域内で「工作物を新築し、改築し、又は増築すること」を含む18種の行為について、国立公園では環境大臣、国定公園では都道府県知事の許可を要すると定める。第21条第3項は特別保護地区でさらに厳格な行為規制を課し、第33条第1項は普通地域について「環境省令で定める基準を超える工作物」の新築等を届出制とする。

この二層は独立している。公園事業の執行認可を得ても行為許可の基準を満たさなければ建たないし、行為許可の基準を満たしても事業が公園計画になければ執行できない。デューデリジェンスでは両方を別々に確認する必要がある。

出典:環境省「国立公園地種区分別面積」(令和8年4月10日現在)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

地種区分の構成は公園ごとに大きく異なる。国立公園35公園の合計では特別地域が74.9%(うち特別保護地区15.0%)、普通地域が25.1%だが、中部山岳国立公園は特別保護地区だけで36.8%を占め、普通地域は13.1%しかない。屋久島国立公園にいたっては普通地域が0.3%(65ha)で、事実上すべてが特別地域である。一方、日光国立公園は普通地域が51.1%、上信越高原国立公園は52.2%と過半を占める。「国立公園内だから建たない」は成立せず、公園名ではなく区域図の地種区分で判断する必要がある。知床・尾瀬・妙高戸隠連山・白山・南アルプスの5公園は普通地域が0haで、区域内のすべてが特別地域に指定されている。

地種区分ごとの定量要件 — 第3種特別地域でも延べ面積率は60%が上限

行為許可の基準は自然公園法施行規則第11条と、環境省「国立公園内における各種行為に関する審査指針」(昭和49年11月20日環自企570号、平成2年11月14日環自保657号改定)に定量的に書き込まれている。開発側にとって効くのは以下の数値である。

表1:地種区分別にみた一般建築物の新築可否と主な定量要件
地種区分一般建築物の新築主な定量要件
特別保護地区原則不可学術研究など公益上必要(公益性)、かつその場所でなければ目的が達成できない(必然性)場合を除き不可
第1種特別地域原則不可同上(公益性・必然性が認められる場合を除く)
第2種特別地域基準適合で可高さ13m以下/建築面積2,000㎡以下/土地勾配30%以下/敷地面積1,000㎡以上(集合別荘・保養所)/公園事業道路の路肩から20m・その他道路から5m・敷地境界線から5m以上離隔/建築面積率と延べ面積率は敷地500㎡未満で10%・20%、500〜1,000㎡未満で15%・30%、1,000㎡以上で20%・40%
第3種特別地域基準適合で可上記に準じ、建築面積率20%以下・延べ面積率60%以下/分譲地等内の建築物は2階建以下かつ高さ10m以下/集合別荘は敷地面積を戸数で除した面積250㎡以上
普通地域届出制建築物は高さ13mまたは延べ面積1,000㎡を超える場合に届出(施行規則第14条)。太陽光発電施設は水平投影面積の和1,000㎡が基準

出典:自然公園法施行規則(e-Gov法令検索)、環境省「国立公園内における各種行為に関する審査指針」「国立・国定公園特別地域内での各種行為に係る許可基準の概要」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

ここで既刊の用途地域シリーズと数字を並べると、規制強度の桁が違うことがわかる。都市部の商業地域では容積率400〜700%が一般的で、駅前の宿泊特化型ホテルはこの容積を使い切って収益を組み立てる。これに対し第3種特別地域の延べ面積率は60%が上限、第2種特別地域では40%が上限である。敷地1,000㎡に対して延べ600㎡(第3種)しか建てられないということは、客室25㎡・共用部込みで1室あたり35㎡と置けば、1,000㎡の敷地に建つのは17室程度という計算になる。高さ13mは概ね4階建てが限界であり、階数で床を積む戦術も使えない。なお公園区域の外でも、市街化区域外の立地では開発許可・農地転用が同様に工程を規定する(2026年新規開業の61%は市街化区域の外を参照)。

この制約は、リゾート開発の事業モデルを構造的に規定する。客室数で回収するモデルは成立せず、単価と滞在日数で回収するモデルしか残らない。国立公園内の宿泊施設が小規模・高単価に寄るのは、事業者の嗜好ではなく規則の帰結である。逆に言えば、この帯域で戦えないブランド・オペレーターは公園内の用地を取っても運用できない。

規制上限から逆算した客室数 — 敷地面積×地種区分の2軸感度

前段の「敷地1,000㎡で17室」は中位前提1本の点推定である。投資判断では、敷地規模と地種区分のどちらが効くのかを面で押さえたほうが速い。以下は許可基準の上限値(建築面積率20%以下、延べ面積率 第2種40%/第3種60%、建築面積2,000㎡以下、高さ13m以下)を敷地面積に機械的に適用し、共用部込み1室35㎡で除した概略試算である。実在案件の数値ではなく、規則から逆算した上限側の目安として読まれたい。

表4:敷地面積×地種区分別の建築可能延べ面積と客室数(1室35㎡換算・上限側の概略試算)
敷地面積第2種特別地域
延べ面積(率40%)
第2種
客室数
第3種特別地域
延べ面積(率60%)
第3種
客室数
1,000㎡400㎡11室600㎡17室
2,000㎡800㎡22室1,200㎡34室
3,000㎡1,200㎡34室1,800㎡51室
5,000㎡2,000㎡57室3,000㎡85室
10,000㎡4,000㎡114室6,000㎡171室

出典:自然公園法施行規則第11条・環境省「国立公園内における各種行為に関する審査指針」の定量要件よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

読み取れるのは二点である。第一に、第2種と第3種の差は一貫して1.5倍(延べ面積率40%対60%)で、地種区分が一段変わるだけで同じ敷地から取れる客室数が5割動く。第二に、敷地10,000㎡で建築面積率20%を使い切ると建築面積は2,000㎡となり許可基準の建築面積上限に一致する。これを超える敷地では面積率ではなく2,000㎡の絶対上限が制約となり、高さ13m(概ね4階建て)と合わせて延べ面積は約8,000㎡・228室前後で頭打ちになる。公園区域内では、敷地を広く取っても規模の経済が効かない。

次に、試算の最大の感応要因である1室あたり面積(共用部込み)を振る。リゾート仕様で客室を広く取り、レストラン・スパ・大浴場などの共用部を厚くするほど、同じ延べ面積から取れる客室数は減る。

表5:1室あたり面積別の客室数シナリオ(第3種特別地域・延べ面積率60%)
シナリオ1室あたり面積
(共用部込み)
敷地1,000㎡敷地3,000㎡敷地5,000㎡想定される業態
楽観30㎡20室60室100室共用部を絞った宿泊主体型。公園内では食事・温浴の期待値が高く、成立余地は限定的
中位35㎡17室51室85室標準的なリゾートホテル。本稿本文の前提
悲観45㎡13室40室66室客室40㎡超+大浴場・レストラン等の共用部を厚く取る高単価型

出典:同上(延べ面積を1室あたり面積で除した概略試算・小数点以下切り捨て)

幅は小さくない。敷地3,000㎡・第3種特別地域という同一条件でも、共用部の取り方次第で40室から60室まで5割の開きが出る。公園区域内の案件でボリュームスタディを飛ばして収支を先に組むと、この幅がそのまま事業計画の誤差になる。前節までのデータと合わせて言えば、客室数の上限は規則で決まり、単価は需要側で決まる。どちらも用地の取得判断より前に確定させる性格の変数であり、順序を逆にすると取り返しがつかない。

供給は本当に止まっているのか — 33自治体・140,920室の新陳代謝

ここからはデータで検証する。国立公園・国定公園を擁する全国33のリゾート自治体について、稼働が確認できる宿泊施設の総客室数と、2020年以降に開業が確認された施設の客室数を集計した。合計140,920室に対し2020年以降の新規は14,410室、比率にして10.2%である。ただし自治体間のばらつきが極めて大きい。

表2:国立公園・国定公園を擁する33リゾート自治体の供給新陳代謝・推定成約ADR・推定稼働率
自治体関係する自然公園総客室数2020年以降
新規客室
新規供給比率推定成約ADR
(2026年7月)
推定稼働率
(2026年8月)
登別市支笏洞爺1,45940.3%¥17,700(N=15)
上川町大雪山1,61580.5%¥8,200(N=11)
九重町阿蘇くじゅう1,383141.0%¥15,200(N=44)92.9%
洞爺湖町支笏洞爺1,555281.8%¥14,400(N=15)
山ノ内町上信越高原7,3761622.2%¥11,000(N=97)
南小国町阿蘇くじゅう1,060353.3%¥25,900(N=47)78.8%
下田市富士箱根伊豆3,3761233.6%¥14,600(N=55)
屋久島町屋久島1,293463.6%¥12,600(N=14)
笛吹市2,9621093.7%¥12,500(N=51)
竹田市阿蘇くじゅう674284.2%¥8,100(N=20)
白馬村中部山岳9,2404264.6%¥11,700(N=44)
下呂市2,6671335.0%¥14,200(N=49)
阿蘇市阿蘇くじゅう1,8311347.3%¥19,100(N=25)87.6%
指宿市霧島錦江湾1,8021327.3%¥14,100(N=18)
日光市日光8,6646517.5%¥15,200(N=116)90.2%
弟子屈町阿寒摩周1,175887.5%¥10,100(N=13)
富士河口湖町富士箱根伊豆7,0045407.7%¥15,400(N=73)
山中湖村富士箱根伊豆4,4783447.7%¥9,600(N=32)
湯河原町富士箱根伊豆1,8911528.0%¥17,500(N=55)87.7%
箱根町富士箱根伊豆9,9129349.4%¥23,300(N=187)90.5%
由布市阿蘇くじゅう2,75627910.1%¥19,700(N=142)85.9%
那須町日光5,71358610.3%¥17,900(N=53)
伊東市富士箱根伊豆7,64579910.5%¥17,400(N=127)88.8%
霧島市霧島錦江湾3,68641411.2%¥14,000(N=57)
松本市中部山岳6,82188613.0%¥13,100(N=107)97.5%
熱海市富士箱根伊豆6,34286413.6%¥21,900(N=106)92.6%
軽井沢町上信越高原5,26375114.3%¥24,700(N=50)95.8%
別府市阿蘇くじゅう8,5771,39816.3%¥13,700(N=123)88.3%
高山市中部山岳9,4801,58816.8%¥15,200(N=140)
富良野市2,34340017.1%¥24,500(N=13)
南阿蘇村阿蘇くじゅう1,30522417.2%¥23,900(N=17)
那須塩原市日光4,44384219.0%¥12,500(N=69)92.5%
倶知安町ニセコ積丹小樽海岸(国定)5,1291,28825.1%¥17,500(N=22)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室数・開業年はOTA掲載確認ベース/ADRは2026年7月・Nは対象施設数/推定稼働率は2026年8月のOTA掲載在庫ベース。「—」は集計対象施設が少なく数値を掲載しないもの)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=33自治体・140,920室)

最下位の登別市は総客室1,459室に対して2020年以降の新規がわずか4室(0.3%)、上川町は1,615室に対して8室(0.5%)、九重町は1,383室に対して14室(1.0%)である。これらはいずれも、主要な宿泊集積が国立公園の利用拠点(集団施設地区等)と重なる自治体だ。登別温泉・洞爺湖温泉は支笏洞爺国立公園、層雲峡は大雪山国立公園、飯田高原は阿蘇くじゅう国立公園、志賀高原は上信越高原国立公園の区域にあたる。下位5自治体(登別市・上川町・九重町・洞爺湖町・山ノ内町)は合計13,388室を抱えながら、2020年以降の新規供給は216室、比率1.6%にとどまる。

対照的に、上位の倶知安町は25.1%、那須塩原市19.0%、南阿蘇村17.2%、富良野市17.1%、高山市16.8%と、6年間で客室ストックの2割前後を入れ替えている。この差は需要の差ではなく、供給側の可動域の差である。

集計上の注意:本稿は自治体を「公園内/公園外」に二分していない。市町村界と公園区域界は一致せず、同一自治体内に特別保護地区・特別地域・普通地域・区域外が混在するためである。表の「関係する自然公園」欄は、その自治体の代表的な宿泊集積が関わる公園を示すもので、自治体全域が公園区域であることを意味しない。また供給データはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する範囲でOTA掲載が確認できた施設の集計であり、OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。全数調査ではない。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(新規供給比率=OTA掲載確認ベース/ADRは2026年7月・対象施設20軒以上の25自治体)

供給が止まっても単価は上がらない — 相関係数0.18

ここが本稿の中核である。「建てにくい=供給が固定される=希少性プレミアムが乗る」という直感は、データでは支持されない。

ADR推定の対象施設が20軒以上ある25自治体について、新規供給比率と2026年7月の推定成約ADRの相関を取ると係数は0.18で、実質的に無相関である。新規供給比率が中央値(8.0%)未満の12自治体のADR中央値は約14,400円、8.0%以上の13自治体は約17,500円で、むしろ供給が動いている側のほうが単価が高い

個別に見ると構造がはっきりする。新規供給比率0.5%の上川町は推定成約ADR約8,200円、4.2%の竹田市は約8,100円である。一方、25.1%の倶知安町は約17,500円、14.3%の軽井沢町は約24,700円、13.6%の熱海市は約21,900円と高い。供給が止まっている自治体のなかで単価が高いのは南小国町(新規3.3%・約25,900円)くらいで、これは黒川温泉という需要側の強いブランドが立っているからである。

投資判断に落とすと、こうなる。自然公園法は供給側のバルブを閉める効果を確実に持つが、それだけでは価格は形成されない。希少性がプレミアムに転換するのは、需要側の条件——アクセス(新幹線・高速道路・空港からの時間)、認知度、通年性——が揃った場所に限られる。「規制が厳しいから将来値上がりする」という論法は、需要側の裏付けを欠いたまま使うと成立しない。逆に、需要が強く供給が閉じている場所(南小国町・箱根町・那須町)は、新規参入で崩れにくい構造を持つという意味で、取得競争になりやすい。

推定稼働率で見ると需要の底は堅い

単価が伸びていない自治体でも、需要そのものが弱いわけではない。2026年8月の推定稼働率(OTA掲載在庫ベース)を見ると、集計できた13自治体のうち12自治体が85%を超えている(唯一の例外は南小国町の78.8%)。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年8月・OTA掲載在庫に基づく推定値)

松本市97.5%、軽井沢町95.8%、九重町92.9%、熱海市92.6%、那須塩原市92.5%と、夏季ピークでは在庫が薄い。供給が動いていない九重町でも92.9%であり、需要が細っているわけではないことがわかる。需要はあるが、単価に転換できていない自治体が存在する——これは施設側の運用の問題ではなく、施設の器(客室規模・築年数・設備)が規制と資本の両面で更新されにくいことの帰結と読むほうが自然である。

取得市場では何が起きているか — 上場REITの物件データ

新規開発が難しい市場では、既存施設の取得が資本の主戦場になる。上場ホテルREIT7法人が保有する全302物件(保有関係マスター、2026年8月31日時点スナップショット)を、本稿の対象33自治体と突き合わせると20物件が該当した。取得時期が新しい順に並べる。

表3:上場ホテルREIT7法人が対象33自治体で保有する20物件(取得時期の新しい順)
取得時期自治体物件名保有REIT客室数取得価格1室あたり
2025-08霧島市霧島国際ホテルインヴィンシブル投資法人165室6,534百万円39.6百万円
2024-07伊東市亀の井ホテル 伊豆高原インヴィンシブル投資法人55室5,563百万円101.1百万円
2021-12霧島市界 霧島星野リゾート・リート投資法人49室3,913百万円79.9百万円
2021-12別府市界 別府星野リゾート・リート投資法人68室7,335百万円107.9百万円
2020-01軽井沢町BEB5軽井沢星野リゾート・リート投資法人73室2,170百万円29.7百万円
2017-12日光市大江戸温泉物語Premium 鬼怒川観光ホテル日本ホテル&レジデンシャル投資法人172室3,870百万円22.5百万円
2017-10別府市亀の井ホテル 別府インヴィンシブル投資法人322室8,870百万円27.5百万円
2016-09伊東市大江戸温泉物語Premium 伊東ホテルニュー岡部日本ホテル&レジデンシャル投資法人73室2,657百万円36.4百万円
2016-09熱海市大江戸温泉物語Premium あたみ日本ホテル&レジデンシャル投資法人76室3,000百万円39.5百万円
2016-03那須町ホテルエピナール那須インヴィンシブル投資法人310室21,002百万円67.7百万円
2015-11日光市界 鬼怒川星野リゾート・リート投資法人48室3,080百万円64.2百万円
2014-05笛吹市コンフォートイン 甲府石和星野リゾート・リート投資法人91室658百万円7.2百万円
2014-05軽井沢町コンフォートイン 軽井沢星野リゾート・リート投資法人89室812百万円9.1百万円
2013-07軽井沢町星のや軽井沢星野リゾート・リート投資法人77室7,600百万円98.7百万円
2013-07富士河口湖町星のや富士星野リゾート・リート投資法人40室4,160百万円104.0百万円
2013-07松本市界 松本星野リゾート・リート投資法人26室615百万円23.7百万円
2013-07伊東市界 伊東星野リゾート・リート投資法人30室670百万円22.3百万円
2013-07箱根町界 箱根星野リゾート・リート投資法人34室950百万円27.9百万円
2013-07熱海市リゾナーレ熱海星野リゾート・リート投資法人81室3,750百万円46.3百万円
2006-10箱根町箱根強羅温泉 季の湯 雪月花ジャパン・ホテル・リート投資法人158室4,070百万円25.8百万円

出典:各REITの開示情報にもとづく保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、N=302物件のうち該当20物件)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

直近の取得を見ると、2025年8月のインヴィンシブル投資法人による霧島国際ホテル(165室・6,534百万円、1室あたり39.6百万円)、2024年7月の同法人による亀の井ホテル 伊豆高原(55室・5,563百万円、1室あたり101.1百万円)と、リゾート立地の中規模施設に資本が向かっている。1室あたり単価は施設グレードと立地で大きく開き、界 霧島(49室・3,913百万円)は79.9百万円、星のや軽井沢(77室・7,600百万円)は98.7百万円である。

保有主体の内訳を見ると、20物件のうち12物件をリゾート特化型の星野リゾート・リート投資法人が保有し、以下インヴィンシブル投資法人4物件、日本ホテル&レジデンシャル投資法人3物件、ジャパン・ホテル・リート投資法人1物件と続く。取得価格の合計は91,279百万円である。

ただし数としては302物件中20物件、対象自治体の総客室140,920室に対しREIT保有は2,037室で1.45%にとどまる。公園エリアの宿泊ストックの大半は依然として個人・地場資本の手にあり、上場REITの保有比率は都市部と比べて著しく低い。取得競争が起きているのは、この薄い上澄みの部分である。なお買い手が海外資本の場合は、自然公園法とは別に外資のホテル取得規制と特別注視区域の届出義務がクロージング工程に乗ってくる。

公園エリアの分布と供給新陳代謝マップ

対象33自治体の位置と、客室規模・新規供給比率の関係を地図上で確認する。円の大きさは総客室数、色は2020年以降の新規供給比率を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

北海道の支笏洞爺・大雪山・阿寒摩周の各エリア、九州の阿蘇くじゅう西側(九重町・南小国町)、志賀高原(山ノ内町)が濃い青(低新陳代謝)で並ぶ。いずれも公園の利用拠点が宿泊集積の中心にある地域である。一方、倶知安町・富良野市・那須塩原市・高山市・別府市など、宿泊集積が公園区域の外側または縁辺にある自治体は明るい色に振れる。

制度側の追い風はどこまで実務を変えたか

環境省は2016年から国立公園満喫プロジェクトを進め、2026年3月31日に「2026年以降の取組方針」を公表した。方針は3本柱で構成される。①国立公園ならではの魅力的な滞在体験の提供、②地域・来訪者双方にとってのブランド力向上とプロモーション強化、③保護と利用の好循環の実現による地域への貢献である。第1の柱には「民間投資の更なる促進に向け、関連制度の活用や民間提案を踏まえた制度運用・計画の見直しを検討」と明記され、あわせて「新たな廃屋化の未然防止の在り方についても検討」とされている。2031年の国立公園制度創設100周年に向けた総仕上げという位置づけだ。公園ごとにどの範囲で宿舎事業の枠が開きうるかは、環境省 国立公園ナショナルパーク化2031 — 宿舎事業認可緩和で開く民間ホテル開発機会マップで公園単位に整理している。

制度面では2021年の自然公園法改正が実務に効いている。第16条の2で市町村・事業者等による協議会を設け、第16条の3で「利用拠点整備改善計画」を作成して環境大臣の認定を受ける枠組みが導入された。この計画には公園事業に係る施設の整備改善が記載され、第10条の協議・認可を要する事業についても計画に記載事項を盛り込むことで手続を一体的に処理できる。さらに第8条の2・第9条の2により、協議会は環境大臣に対して公園計画の変更や公園事業の決定・変更そのものを提案できる

実務的な含意は明確である。従来は「公園計画に宿舎事業がなければ終わり」だったが、現在は協議会を通じて計画側に働きかける経路が制度上用意されている。ただし提案が通る保証はなく、認定要件(公園計画に照らして適切、利用拠点の質の向上に寄与、公園の保護に支障を及ぼすおそれがない、円滑かつ確実に実施される見込み)を満たす必要がある。時間軸としては、協議会組成・計画作成・認定申請・環境大臣認定という工程が入るため、通常の建築確認とは別のリードタイムを見込む必要がある。

利用者数の面でも公園は回復している。環境省の自然公園等利用者数調査によれば、令和6年の国立公園利用者数は3億3,614万人で前年比4.2%増、自然公園全体では8億869万人(同2.5%増)である。最も利用者が多いのは富士箱根伊豆国立公園の1億2,418万人で、国立公園利用者全体の36.9%を占める。需要のボリュームは首都圏近接公園に極端に偏っており、この偏在が前節で見たADRの差と重なる。

実務チェックリスト — 開発担当・ファンド・地銀

読者の立場ごとに、確認の順番と論点が変わる。

開発担当(用地取得前)

①公園区域図で地種区分を確定する(特別保護地区・第1種は一般建築物の新築が原則不可)。②公園計画に宿舎事業が位置づけられているかを最寄りの自然保護官事務所に事前相談で確認。位置づけがなければ協議会経由の計画変更提案が必要で、その分の期間を工程に織り込む。③第2種・第3種であれば延べ面積率40%/60%・高さ13m・建築面積2,000㎡・離隔20m/5m/5m・土地勾配30%で概略ボリュームを試算し、客室数の上限を先に確定してから収支を組む。

ファンド・PE(既存取得時)

①対象施設が公園事業の執行認可を受けているか、認可の名義・条件・期限を承継可能な形で確認する。譲渡・合併・分割・相続はいずれも様式が定められた手続対象であり、クロージング設計に組み込む必要がある。②増改築を前提としたバリューアップ計画は、第10条の変更手続(大幅変更は認可、軽微は届出)と行為許可の両方を通る前提でCapexとスケジュールを引く。③既存不適格の高さ・建築面積は改築時に既存規模まで認められる規定があるため、現況ボリュームが将来の上限になり得る点を評価に反映する。

地銀・担保評価

①担保物件が公園事業施設である場合、事業の執行認可は事業者に紐づくため、処分時の承継可否が回収シナリオを左右する。②再建築時のボリュームは現行の許可基準で決まり、既存規模を下回る可能性がある。更地評価に用途地域ベースの容積を当てない。③供給が閉じているエリアは競合参入リスクが低い反面、需要側の裏付けがないとADRは伸びない(本稿の相関0.18)。担保エリアの推定稼働率と単価水準を分けて見る。

まとめ

自然公園法は、既刊で扱ってきた建築系の規制群とは層が違う。公園計画に宿舎事業として位置づけられていなければ、地種区分がどれであっても事業は執行できない。用地の適法性を確認する前に、事業の成立可否を確認する必要がある。

そのうえで許可基準を見ると、第3種特別地域でも延べ面積率60%・高さ13m・建築面積2,000㎡という上限が効き、客室数で回収するモデルは構造的に成立しない。この制約は供給側のバルブを確実に閉めており、対象33自治体のうち下位5自治体では6年間の新規供給が総客室の1.6%にとどまる。

ただし供給の固定は単価を保証しない。新規供給比率と推定成約ADRの相関は0.18で無相関に近く、供給が止まっている自治体のADRが低い例(上川町・竹田市)も、供給が動いている自治体のADRが高い例(軽井沢町・熱海市・倶知安町)も同時に存在する。希少性がプレミアムに変わるのは需要側の条件が揃った場所に限られる。

2021年の法改正と満喫プロジェクト2026年方針により、協議会を通じて公園計画・公園事業そのものに働きかける経路は制度上用意された。公園エリアの案件は「建てられるか」ではなく「事業として位置づけられるか、そこにどれだけの時間をかけられるか」で勝負が決まる段階に入っている。

⚠ データに関する注意:本記事の新規開業データはOTA掲載確認ベースであり、掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月・年は今後の掲載確認により増加する可能性があります。また推定成約ADR・推定稼働率は調査時点でOTAに公開されている販売在庫にもとづく推定であり、実際の成約価格・実稼働率とは異なります。法令・許可基準は本稿執筆時点(2026年9月)の条文にもとづくもので、個別案件の判断は必ず所管の自然保護官事務所・都道府県担当部局にご確認ください。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ 法令(一次ソース)

■ 環境省 資料・統計

■ データソース

供給データ(総客室数・開業年)はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA掲載を確認できた施設の集計(33自治体・140,920室、うち2020年以降の開業14,410室)。推定成約ADRは2026年7月、推定稼働率は2026年8月のOTA掲載在庫にもとづく推定値。保有関係は上場ホテルREIT7法人の開示にもとづく保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、N=302物件)。地種区分別面積は環境省「国立公園地種区分別面積」(令和8年4月10日現在)、利用者数は「自然公園等利用者数調」(令和6年)。法令・許可基準はe-Gov法令検索および環境省公表資料。

■ 試算前提

客室数の概略試算は、自然公園法施行規則第11条および環境省「国立公園内における各種行為に関する審査指針」の定量要件(建築面積率20%以下、延べ面積率 第2種特別地域40%・第3種特別地域60%、建築面積2,000㎡以下、高さ13m以下)を敷地面積に適用し、共用部込みで1室あたり35㎡(感度分析では30㎡・45㎡)で除して算出(小数点以下切り捨て)。相関係数は推定成約ADRの対象施設が20軒以上ある25自治体を母集団とし、新規供給比率との単純相関で計算した(r=0.18)。新規供給比率の中央値8.0%で母集団を二分し、それぞれのADR中央値を比較している。

■ 限界・留意点

OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は集計に含まれず、全数調査ではない。市町村界と公園区域界は一致せず同一自治体内に地種区分が混在するため、本稿は自治体を公園内/公園外に二分していない。推定成約ADR・推定稼働率はOTA掲載在庫にもとづく推定であり、実際の成約価格・実稼働率とは異なる。客室数試算は許可基準の上限値を機械的に適用したもので、個別案件では公園計画・景観・排水・アクセス・埋蔵文化財等の審査により下振れする。相関はあくまで自治体単位の関連の強さを示すもので、因果関係を示すものではない。法令・許可基準は本稿執筆時点(2026年9月)の条文にもとづく。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 33自治体・140,920室の客室数および開業年(OTA掲載確認ベース)、推定成約ADR(2026年7月)、推定稼働率(2026年8月・OTA掲載在庫ベース)
  • 上場ホテルREIT7法人の開示情報にもとづく保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、N=302物件)

関連記事