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旅館・ホテルの人手不足が3年連続改善へ 供給制約が緩み稼働に生まれる伸びしろ

投稿日 : 2026.07.29
旅館・ホテルの人手不足が3年連続改善へ 供給制約が緩み稼働に生まれる伸びしろ

旅館・ホテル業界を長く縛ってきた人手不足の圧力が、着実に和らいでいる。帝国データバンクが2026年5月に公表した「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」によると、旅館・ホテル業の非正社員における人手不足を感じる企業の割合は38.5%となり、4年2か月ぶりに3割台まで低下した。2023年1月には約8割に達していた同指標は、3年連続で改善している。本稿では、この供給側の制約が緩むことで客室提供力と稼働に生まれる伸びしろを、市場規模・稼働率・上場REITのベンチマークから読み解く。

本記事における指標の定義

  • 人手不足割合:帝国データバンクの調査で、当該業種において人手が「不足している」と回答した企業の割合。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値。
  • OCC(客室稼働率):観光庁「宿泊旅行統計調査」の全国値、および上場REITが月次開示する運営実績値を使用。
  • データ出典:帝国データバンク/観光庁/各社REIT月次運営データ/メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • 人手不足感38.5% ― 旅館・ホテル業の非正社員の人手不足割合が4年2か月ぶりに3割台へ低下。2023年1月の約8割から3年連続で改善。
  • 市場6.5兆円へ ― 2025年度の旅館・ホテル市場は事業者売上高ベースで過去最高を更新見込み、増加は4年連続。
  • 稼働のヘッドルーム ― 全国客室稼働率61.8%に対し旅館は38.4%。供給制約が緩む余地は稼働率の低い業態ほど大きい。
  • REITベンチマーク77.8〜88.1% ― 上場ホテルREITの高稼働は、運営力を高めた際に届きうる上限側の参照点。
  • ADRも上昇基調 ― 東京都の推定成約ADRは2026年上期に前年比プラス圏を維持し、RevPAR拡大の余地が広がる。

非正社員の人手不足感が3割台へ ― ピークから半減

帝国データバンクの調査における旅館・ホテル業の非正社員の人手不足割合は、2026年4月に38.5%を記録した。前年同月の51.8%から13.3ポイント低下し、コロナ後の観光需要が急回復した2023年1月の約8割と比べると半分以下の水準である。全産業でみた非正社員の人手不足割合が28.3%、正社員が50.6%であることを踏まえると、旅館・ホテル業は依然として全産業平均を上回るものの、ボトルネックとして語られてきた非正社員の逼迫は、はっきりとした改善局面に入ったといえる。

この改善が意味するところは大きい。人手が確保しづらい局面では、清掃や配膳といったオペレーションが回りきらず、稼働可能な客室を意図的に売り止める運用を余儀なくされる施設も少なくなかった。供給側の制約が緩めば、こうした「売りたくても売れなかった」客室を市場に戻せる余地が広がる。人手不足感の低下は、単なる労務環境の話にとどまらず、客室提供力そのものの回復余地を示すシグナルと読み取れる。人手不足が稼働率にかける上限そのものについては、『取り切れる宿だけが残る』2026 ― 人手不足が稼働率に生む上限でも詳しく検証している。

出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」よりホテルバンク編集部作成

改善を支える3つの追い風 ― DX・スポットワーク・需要の平準化

人手不足感が和らいだ背景には、複数の構造的な追い風がある。第一に、フロント業務の自動化やモバイルチェックイン、清掃管理システムの導入といったDXの浸透により、限られた人員でより多くの客室を回せる生産性の向上が進んだ。第二に、スポットワーク(単発・短時間の就業マッチング)の普及である。繁忙日の配膳・清掃など、需要のピークに合わせて機動的に人手を上乗せできる仕組みが広がり、正社員・固定パートに依存しない柔軟な人員設計が可能になった。

第三に、来客数そのものの落ち着きがある。帝国データバンクは、物価高の影響や中国人観光客の一時的な減少により、これまで過熱気味だった来客が平準化してきた点を改善要因として挙げている。需要が一定のレンジに収まることで、現場が慢性的な高稼働から解放され、人員配置に余裕が生まれた形だ。いずれの要因も、単に「人が足りるようになった」というより、少ない人員で高い稼働を支える運営体制が業界全体で整いつつあることを示している。

供給制約が緩むことのアップサイド
①稼働可能な客室を市場に戻し、稼働率を引き上げる余地/②繁忙期の売り止めを減らし、ピーク需要を取り込む余地/③省力化で捻出した人的リソースを高付加価値サービスへ再配分し、単価を高める余地 ― の3方向に伸びしろが生まれる。

市場は6.5兆円へ ― 4年連続増で過去最高を更新見込み

需要環境は、供給側の伸びしろを受け止めるだけの厚みを備えている。帝国データバンクの「全国『旅館・ホテル市場』動向調査(2025年度見通し)」によれば、2025年度の国内旅館・ホテル市場は事業者売上高ベースで6.5兆円に達し、前年度の6兆652億円を上回って過去最高を更新する見込みだ。増加は4年連続で、コロナ禍の谷であった2020年度の約3.0兆円からは倍増を超える回復である。調査対象約3,800社のうち32.4%が前年度から増収となり、円安を追い風とした訪日需要、国内観光・出張の底堅さ、大型イベント効果が市場を押し上げた。

市場が拡大を続けるなかで、人手という供給制約が緩むことの意味は一段と大きくなる。旺盛な需要に対して客室提供力を高められれば、これまで取りこぼしていた宿泊需要を売上に変える好循環が働く。市場全体の売上高が過去最高を更新する局面で人員体制に余裕が戻ることは、業界にとって成長のアクセルを踏み込みやすい環境が整いつつあることを意味する。

出典:帝国データバンク「全国『旅館・ホテル市場』動向調査」よりホテルバンク編集部作成

稼働率にみる伸びしろ ― 業態別のヘッドルーム

供給制約が緩むことで稼働率がどこまで伸びうるかは、業態別の現在地を見ると輪郭が掴める。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年(速報値)によれば、全国の客室稼働率は61.8%で、前年から2.2ポイント上昇した。業態別ではビジネスホテルが75.3%、シティホテルが74.2%と高水準にある一方、リゾートホテルは56.9%、旅館は38.4%にとどまる。とりわけ旅館は、配膳や布団上げ下げなど人手集約的なオペレーションが稼働の制約になりやすく、人手不足感の緩和が最も直接的に稼働の押し上げにつながりうる業態といえる。

言い換えれば、稼働率の低い業態ほど、供給制約の緩和によって生まれるヘッドルーム(伸びしろ)が大きい。都市部のビジネス・シティホテルが既に7割台の高稼働で運営される一方、旅館・リゾートには労働環境の改善を梃子に稼働を引き上げる余地が構造的に残されている。人手不足感の低下は、こうした稼働率の低い業態にとって、需要を取り込むための追い風となる。地方旅館で人手が稼働の上限をどう縛ってきたかは、人手不足で全室稼働できない地方旅館 ― 稼働上限とADR押し上げの定量検証2026が具体的なデータで示している。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値 速報値)」よりホテルバンク編集部作成

上場REITが示す高稼働のベンチマーク

運営力を高めれば稼働をどこまで引き上げられるか。その目安として、上場ホテルREITが月次開示する運営実績が参考になる。いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)の直近開示(2026年4〜5月時点)をみると、稼働率はおおむね77.8〜88.1%のレンジにある。全国平均の61.8%を大きく上回る水準だ。

REITが保有する物件は運営体制やシステム投資が相対的に手厚く、人的リソースを効率的に配分できることが高稼働の背景にある。裏を返せば、業界全体で人手不足感が緩み、省力化ツールやスポットワークの活用が中位施設にも広がれば、こうした高稼働のベンチマークに近づく施設が増える余地があるということだ。REITの実績は、供給制約が解けたときに稼働がどこまで伸びうるかを示す上限側の参照点として読み取れる。

出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成(開示月:森トラストは2026年4月、他は2026年5月)

上場ホテルREIT 直近開示の稼働率・前年同月比・RevPAR(2026年4〜5月時点)
REIT法人(コード) 稼働率 前年同月比 RevPAR
森トラストリート(8961)※3物件88.1%+7.8%¥36,800
日本ホテル&レジデンシャル(3472)87.4%+7.8%¥24,500
インヴィンシブル(8963)※国内101物件85.5%+0.6pt¥13,100
いちごホテルリート(3463)84.3%-2.9pt¥9,400
ジャパン・ホテル・リート(8985)84.0%+1.0pt¥18,000
星野リゾート・リート(3287)80.1%+1.4pt¥18,400
霞ヶ関ホテルリート(401A)77.8%¥22,300

※森トラストは変動賃料の3物件、インヴィンシブルは国内101物件の各社開示ベース。稼働率の前年同月比はポイント(pt)、森トラスト・日本H&RはRevPAR前年同月比を記載。出典:各社REIT月次運営データ。

単価も上昇基調 ― RevPAR拡大の余地

稼働の伸びしろに加えて、客室単価も底堅く推移している。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRでみると、東京都の2026年上期(1〜6月)の単価は、前年同月比で1月+9.7%、4月+5.2%、5月+6.7%と、多くの月でプラス圏を維持した。稼働率と単価がともに上向く局面では、その積である客室あたり収益(RevPAR)が押し上げられる。人手不足の緩和で稼働可能な客室を増やしつつ、省力化で捻出した余力を接客やサービスの質に振り向けられれば、単価をさらに高める好循環も描ける。REITが開示する実勢ADRと市場推定値の関係については、REIT開示ADRと市場推定ADRの突合で読む2026年上期の実勢で掘り下げている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(東京都・推定成約ADR、N=1,100超施設)

まとめ ― 供給制約が緩む今こそ成長の踏み込みどき

旅館・ホテル業の非正社員人手不足感が38.5%まで低下し、2023年1月の約8割から3年連続で改善したことは、業界にとって明確なアップサイド要因である。DXとスポットワークの浸透、来客の平準化という3つの追い風が、少ない人員で高い稼働を支える運営体制を業界全体に広げつつある。市場規模が6.5兆円へと過去最高を更新する見込みのなか、供給側の制約が緩むことで、稼働率の低い旅館・リゾートを中心に客室提供力と稼働を引き上げる余地が生まれている。

上場REITが示す77.8〜88.1%という高稼働のベンチマーク、そして上昇を続けるADRは、需要が伸びしろを受け止めるだけの厚みを備えていることを裏づける。財務体質の立て直しを進める施設にとっても、市場拡大と人員体制の余裕は、次の成長に向けた土台を固める好機となる。人手という長年のボトルネックが緩む今は、業界が需要を着実に収益へ変えていくための踏み込みどきだといえる。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

帝国データバンク(人手不足に対する企業の動向調査・全国旅館ホテル市場動向調査)、観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・速報値)」、各社上場ホテルREITの月次運営データ、メトロエンジンリサーチ(東京都・推定成約ADR、N=1,100超施設)。

■ 試算前提

推定成約ADRはOTA公開の最安プラン水準(2名1室・税込)に業態別補正係数を適用した推定値で、上場REIT開示の物件別実績(91施設・直近3ヶ月)との照合による誤差中央値は約7%。稼働率は観光庁の全国値および各REITの月次開示値を用い、対象期間・母集団は各出典に準拠する。

■ 限界・留意点

全国客室稼働率は速報値であり確報で改定されうる。REITの稼働率・RevPARは各社開示ベースで対象物件数や変動賃料の有無が異なり、単純比較には留意が必要。推定成約ADRは各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる推定値である。

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