ホテル用地のスクリーニングで地盤を見るとき、多くの実務は「揺れやすい/揺れにくい」の二値で終わる。だが着工前の見積書に効いてくるのは揺れやすさではなく、硬い地層が地下何メートルにあるかである。杭は支持層まで届かせなければ成立しない。したがって支持層の出現深度は、そのまま杭延長に、そして建設原価に変換される。本稿では防災科学技術研究所の表層地盤データと、東京都地質調査業協会が公開する臨海部の支持層深度をもとに、同じ「埋立地」の中で杭延長が最大4.7倍開く構造を数値化し、150室のモデルホテルで1室あたりいくらの差になるかを試算する。
既刊記事との守備範囲の違い
本稿が扱うのは新築時の基礎工法=着工前の建設原価のみである。既存建物の浸水・水災リスクと防災Capexは「ホテル立地評価の第4軸『災害リスク』を定量化する」で、保有期間の保険Opexは「ホテル火災保険の水災等地で年101万円差」で、土を動かす許可と造成費は「盛土1m超で知事許可 — 盛土規制法」で扱っている。本稿は防災Capexにも保険料にも造成費にも踏み込まず、支持層深度と杭延長という一点に絞る。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- AVS30(表層30m平均S波速度):地表から深さ30mまでの平均S波速度(m/s)。値が小さいほど表層地盤が軟らかく、地震動が増幅されやすい。増幅率は工学的基盤に対する地表の最大速度の増幅比。いずれも防災科学技術研究所 J-SHIS 表層地盤データ(250mメッシュ)の公表値。
- 支持層:大規模構造物の基礎を支持しうる、N値50以上を示す地層。出現標高は東京湾平均海面(A.P.)基準。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADR)、防災科学技術研究所 J-SHIS(表層地盤)、東京都地質調査業協会/東京都港湾局「新版 東京港地盤図」(支持層深度)
- — 揺れやすさでは差が出ない — 東京湾岸11地区の表層30m平均S波速度は151.4〜160.4 m/sで最大1.06倍差。一次スクリーニングでは同じ「軟弱地盤」の一箱に入る。
- — 支持層深度は5.4倍開く — 同じ11地区の支持層出現標高はA.P.-12.5m〜-67.5m。AVS30との相関係数は-0.38で、揺れやすさは杭の長さを予測しない。
- — 杭延長は300m対1,400m — 150室・延床5,400㎡のモデル(場所打ち杭20本)では4.67倍、絶対量で1,100mの差。1室あたり杭工事費は18万円と84万円に分かれる(杭単価9万円/m)。
- — 1室44万〜88万円の原価差 — 杭単価6万〜12万円/mで振った幅。総建設費比では1.27%〜5.93%。中央前提の66万円は、上場ホテルREITの東京都内保有物件1室あたり取得価格中央値2,414万円の2.7%にあたる。
- — スクリーニングに一列足す価値がある — 支持層深度は公開データで引けるのに多くのシートに列がない。揺れやすさ(第1層)と支持層深度(第2層)は別データ・別意思決定として分けて持つ。
一次スクリーニングの層 — 全国24商圏を微地形区分と表層S波速度で並べる
まず、用地スクリーニングの入口で実際に使える公開データを確認しておく。防災科学技術研究所の地震ハザードステーション(J-SHIS)は、全国を250mメッシュに区切り、各メッシュの微地形区分と表層30m平均S波速度(AVS30)、および工学的基盤からの増幅率を公開している。座標さえあれば即座に引けるため、候補地が数十件ある段階の一次スクリーニングに向く。
全国の主要ホテル集積地24商圏について引いた結果が下図である。値の小さい側、すなわち軟らかい側から並べている。
並びには明快な秩序がある。最も軟らかいのは東京・錦糸町(干拓地、151.7 m/s)で、以下は千葉・幕張新都心、東京・豊洲、有明、台場、芝浦と、東京湾の埋立地が下位を占める。逆に硬いのは名古屋・栄(砂礫質台地、294.9 m/s)、神戸・三宮(扇状地、293.9 m/s)、大阪・天王寺(砂礫質台地、272.0 m/s)である。増幅率で見れば錦糸町の2.28に対して名古屋・栄は1.30で、同じ地震動に対する地表の揺れが1.75倍違う計算になる。
注目すべき点として、大阪と名古屋の中心部は「湾岸か否か」では割り切れない。大阪・梅田は海から離れているが三角州・海岸低地で167.6 m/s、名古屋・名駅は自然堤防で168.8 m/sと、横浜・みなとみらいの埋立地(174.4 m/s)より軟らかい。ターミナル駅前という好立地と地盤の硬さは、まったく相関しない。
| 商圏 | 微地形区分 | AVS30 (m/s) | 増幅率 | 区分グループ |
|---|---|---|---|---|
| 東京・錦糸町 | 干拓地 | 151.7 | 2.28 | 埋立地・干拓地 |
| 千葉・幕張新都心 | 埋立地 | 153.3 | 2.26 | 埋立地・干拓地 |
| 東京・豊洲 | 埋立地 | 153.6 | 2.26 | 埋立地・干拓地 |
| 東京・有明 | 埋立地 | 154.3 | 2.25 | 埋立地・干拓地 |
| 東京・台場 | 埋立地 | 154.6 | 2.25 | 埋立地・干拓地 |
| 東京・芝浦/浜松町 | 埋立地 | 155.5 | 2.24 | 埋立地・干拓地 |
| 横浜・関内 | 三角州・海岸低地 | 159.4 | 2.19 | 三角州・低地・谷底 |
| 大阪・梅田 | 三角州・海岸低地 | 167.6 | 2.10 | 三角州・低地・谷底 |
| 名古屋・名駅 | 自然堤防 | 168.8 | 2.09 | 三角州・低地・谷底 |
| 横浜・みなとみらい | 埋立地 | 174.4 | 2.03 | 埋立地・干拓地 |
| 大阪・此花(桜島) | 干拓地 | 178.9 | 1.98 | 埋立地・干拓地 |
| 大阪・南港ATC | 埋立地 | 181.1 | 1.96 | 埋立地・干拓地 |
| 福岡・天神 | 砂丘 | 194.5 | 1.85 | 砂州・砂丘 |
| 福岡・博多駅 | 三角州・海岸低地 | 195.9 | 1.84 | 三角州・低地・谷底 |
| 東京・渋谷 | 谷底低地 | 200.4 | 1.80 | 三角州・低地・谷底 |
| 東京・赤坂 | ローム台地 | 253.8 | 1.47 | 台地・扇状地 |
| 東京・新宿西口 | ローム台地 | 258.1 | 1.45 | 台地・扇状地 |
| 東京・浅草 | 砂州・砂礫州 | 260.2 | 1.44 | 砂州・砂丘 |
| 東京・上野 | 砂州・砂礫州 | 260.2 | 1.44 | 砂州・砂丘 |
| 東京・八重洲 | 砂州・砂礫州 | 260.2 | 1.44 | 砂州・砂丘 |
| 大阪・難波 | 砂州・砂礫州 | 260.2 | 1.44 | 砂州・砂丘 |
| 大阪・天王寺 | 砂礫質台地 | 272.0 | 1.39 | 台地・扇状地 |
| 神戸・三宮 | 扇状地 | 293.9 | 1.30 | 台地・扇状地 |
| 名古屋・栄 | 砂礫質台地 | 294.9 | 1.30 | 台地・扇状地 |
スクリーニングが潰してしまう情報 — 「埋立地」の中に5.4倍の深度差がある
ここからが本題である。表層S波速度だけを見ると、東京湾岸の埋立地はほぼ一枚岩に見える。後掲の湾岸11地区でいえば大田区東海〜羽田160.4、港区芝浦〜港南156.2、港区竹芝〜芝浦ふ頭155.5、江東区有明・青海/港区台場154.4、江東区新木場〜荒川河口153.3、江東区塩浜〜枝川151.4 — 最大と最小の比は1.06倍にすぎない。一次スクリーニングでこれらを「軟弱地盤」の一箱にまとめるのは自然な判断であり、実際そうなっている。
ところが、東京都地質調査業協会が公開する臨海部の支持層データ(原典は東京都港湾局「新版 東京港地盤図」)を重ねると、まったく別の景色が現れる。同協会は臨海部の地区別に、良質な支持層(N値50以上を示す沖積層基底礫層・埋没段丘礫層・東京礫層・江戸川層・上総層群)の種類と出現標高をまとめている。その値は、中央区晴海〜勝どきおよび江東区豊洲の江戸川層上部砂質土層でA.P.-5〜-20m、これに対して江東区辰巳・潮見・新木場・若洲および東雲1〜2丁目の沖積層基底礫層ではA.P.-65〜-70mである。
代表値(レンジ中央)でとれば、A.P.-12.5mからA.P.-67.5mまで5.4倍の開きがある。しかもこれらは互いに数km圏内、いずれも「東京湾岸の埋立地」であり、AVS30では区別がつかない。両者の関係を散布図にすると次のようになる。
横軸はわずか151.4〜160.4 m/sの幅に全点が収まるのに対し、縦軸は12.5mから67.5mまで伸びる。両者の相関係数は-0.38で、方向としてはむしろ「AVS30が大きい(=表層がやや硬い)地区のほうが支持層が浅い」という弱い傾向が出るものの、深度のばらつきを説明する力はほとんどない。揺れやすさの指標は、杭の長さを予測しない。これは当然で、AVS30は地表から30mまでの平均像であり、その下に何があるかを見ていないからである。支持層がA.P.-67.5mにある土地でも、上30mの軟らかさは-12.5mの土地とほとんど変わらない。
地図に落とすと、深度の分布が海岸線からの距離でも、埋立ての新しさでもないことがわかる。運河一本を挟んだ豊洲(A.P.-5〜-20m)と辰巳・東雲(A.P.-65〜-70m)が隣接し、湾の最も外側にある台場・有明は中間のA.P.-20〜-50mに位置する。これは埋立ての下に伏在する古い谷地形の形状を反映したもので、地表からは読めない。
杭延長への変換 — 150室モデルで300mと1,400m
深度を原価に変換するには、いったん物理量である杭延長(m)に落とすのが正確である。ここでは前提を明示したうえで、次のモデル建物を置く。
モデル建物
宿泊主体型ホテル、客室150室、延床5,400㎡(36㎡/室)、建築面積620㎡、地上11階。
基礎形式
場所打ちコンクリート杭、1柱1杭。柱グリッド6.4m×6.4m相当で杭本数20本。
杭長の算定
計画地盤高A.P.+3.5m、基礎底GL-3.0m、支持層への根入れ2.0m。杭長=支持層深度の絶対値+2.5m。
この前提で各地区の杭長と杭延長を計算したものが下表である。杭延長は「20本×杭長」であり、1室あたりに割り戻した値も併記した。
| 地区 | 支持層 | 出現標高 | 杭長 | 杭延長 | 1室あたり | 杭工事費/室 | 総建設費比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中央区晴海〜勝どき・江東区豊洲 | 江戸川層上部砂質土層 | A.P.-5〜-20m | 15.0m | 300m | 2.00m | 18万円 | 1.27% |
| 港区芝浦〜港南〜品川ふ頭 | 東京礫層 | A.P.-10〜-20m | 17.5m | 350m | 2.33m | 21万円 | 1.48% |
| 港区竹芝ふ頭〜芝浦ふ頭 | 江戸川層上部砂質土層 | A.P.-10〜-25m | 20.0m | 400m | 2.67m | 24万円 | 1.70% |
| 大田区東海〜東京国際空港 | 江戸川層(砂質・粘性土互層) | A.P.-15〜-40m | 30.0m | 600m | 4.00m | 36万円 | 2.54% |
| 品川区東品川〜八潮〜大井ふ頭 | 東京礫層 | A.P.-20〜-30m | 27.5m | 550m | 3.67m | 33万円 | 2.33% |
| 江東区有明・青海/港区台場 | 東京礫層 | A.P.-20〜-50m | 37.5m | 750m | 5.00m | 45万円 | 3.18% |
| 江東区塩浜〜枝川 | 埋没段丘堆積層・上総層群 | A.P.-30〜-50m | 42.5m | 850m | 5.67m | 51万円 | 3.60% |
| 江戸川区臨海町(葛西) | 東京礫層 | A.P.-45〜-50m | 50.0m | 1,000m | 6.67m | 60万円 | 4.24% |
| 江東区新木場付近〜荒川河口 | 埋没段丘堆積層・江戸川層 | A.P.-45〜-60m | 55.0m | 1,100m | 7.33m | 66万円 | 4.66% |
| 江東区辰巳・潮見・新木場・若洲・東雲 | 沖積層基底礫層 | A.P.-65〜-70m | 70.0m | 1,400m | 9.33m | 84万円 | 5.93% |
最も浅い晴海〜勝どき・豊洲では杭長15.0m、杭延長300m、1室あたりわずか2.00mで済む。最も深い辰巳・潮見・新木場・若洲・東雲では杭長70.0m、杭延長1,400m、1室あたり9.33mを要する。比にして4.67倍、絶対量で1,100mの差である。この1,100mは、掘削土量、鉄筋量、コンクリート量、施工日数のすべてに連動する。
円への変換 — 1室44万〜88万円、総建設費の3〜6ポイント
ここから先は単価の前提が入るため、断定を避けて感度分析の形で示す。場所打ちコンクリート杭の施工単価は杭径・工法・施工規模・地中障害の有無で大きく振れるため、単一の市場価格を提示することには意味がない。そこで6万円/m、9万円/m、12万円/mの3水準を置き、10地区すべてについて1室あたりの杭工事費がどう動くかを見る。
| 地区 | 杭延長 | 単価6万円/m | 単価9万円/m | 単価12万円/m |
|---|---|---|---|---|
| 中央区晴海〜勝どき・江東区豊洲 | 300m | 12万円 | 18万円 | 24万円 |
| 港区芝浦〜港南〜品川ふ頭 | 350m | 14万円 | 21万円 | 28万円 |
| 港区竹芝ふ頭〜芝浦ふ頭 | 400m | 16万円 | 24万円 | 32万円 |
| 大田区東海〜東京国際空港 | 600m | 24万円 | 36万円 | 48万円 |
| 品川区東品川〜八潮〜大井ふ頭 | 550m | 22万円 | 33万円 | 44万円 |
| 江東区有明・青海/港区台場 | 750m | 30万円 | 45万円 | 60万円 |
| 江東区塩浜〜枝川 | 850m | 34万円 | 51万円 | 68万円 |
| 江戸川区臨海町(葛西) | 1,000m | 40万円 | 60万円 | 80万円 |
| 江東区新木場付近〜荒川河口 | 1,100m | 44万円 | 66万円 | 88万円 |
| 江東区辰巳・潮見・新木場・若洲・東雲 | 1,400m | 56万円 | 84万円 | 112万円 |
| 最深地区 − 最浅地区の差 | 1,100m | 44万円 | 66万円 | 88万円 |
最も浅い地区と最も深い地区の差は、単価6万円/mで1室44万円、9万円/mで66万円、12万円/mで88万円となる。棟あたりでは0.66億〜1.32億円である。総建設費21.2億円に対する比率でいえば、杭工事費だけで1.27%から5.93%まで、4.7ポイント幅で動くことになる。
この大きさをどう受け止めるかは、比較対象を置くとわかりやすい。上場ホテルREIT7法人が保有する国内300物件の取得価格を客室数で割ると、中央値は1室あたり2,051万円である。東京都内の51物件に限れば2,414万円となる(保有関係マスター2026年8月31日時点)。単価9万円/mで試算した66万円/室の差は、この東京都内の取得価格中央値の2.7%に相当する。
収益側からも見ておく。メトロエンジンリサーチが集計する江東区の推定成約ADRは、2025年9月から2026年8月までの12ヶ月中央値で13,800円(N=41施設)である。1室あたり66万円は、この単価でおよそ48泊分の客室売上にあたる。参考までに同期間の推定成約ADRは、中央区19,100円(N=151施設)、港区17,900円(N=130施設)、品川区13,000円(N=35施設)、大田区12,100円(N=57施設)、江戸川区11,300円(N=18施設)である。臨海部のうち相対的に単価の高い中央区・港区は支持層も浅い側に位置しており、単価の高さと基礎コストの軽さが同じ方向に働いている。
建設費が上がっている局面では、この差の意味が変わる
杭工事費の絶対額そのものより重要なのは、それが建設費全体の上昇局面に重なっていることである。国土交通省の建築着工統計に基づくホテル建築費は、2022年の坪138万円から2024年に坪195万円へと2年で41%上昇し、2025年も全構造平均195.2万円、S造240.5万円と高い水準が続いている。1室あたりの建築費が実際にどの水準にあるかはホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算で計画データから逆算しており、構造の選択が単価をどこまで動かすかは木造ホテルの㎡単価はRC造の62.8%、届く階数は3階までで着工統計から検証している。分母が膨らんでいるとき、支持層が深い土地を選ぶことによる追加負担は、率としては同じでも絶対額としては年々重くなる。
逆に言えば、これは選別が効きやすい局面でもある。同じ湾岸エリア、同じ用途地域、同じ駅距離帯の候補地であっても、支持層が浅い側を選べば杭延長を数分の一に圧縮できる。地価や駅距離のように誰もが見ている変数と違い、支持層深度はスクリーニングの初期段階でほとんど見られていない。着工前に効く数少ない選択余地がここにある。自治体条例で決まる附置義務台数のように、立地の選び方だけで建設条件が変わる変数は他にもあり、その一例はホテルの駐車場附置義務、都市で2.5倍差で整理している。
用地スクリーニングへの実装 — 三層で見る
第1層:微地形区分とAVS30
候補地が数十件ある段階。座標だけで全国どこでも即座に引ける。埋立地・干拓地・三角州・後背湿地に該当する候補は、次の層に進める前提で保留する。ここで機械的に落とすと、支持層が浅い優良地まで一緒に落ちる。
第2層:地区別の支持層深度
候補が十数件に絞れた段階。東京臨海部であれば「新版 東京港地盤図」系の地区別データ、他都市であれば自治体の地盤図・ボーリング柱状図の公開データで、支持層の種類と出現標高を確認する。ここで杭長のオーダーが決まる。
第3層:敷地内ボーリング
買付・基本設計段階。地区データはあくまで面の代表値であり、同一地区内でも支持層は起伏する。杭長の確定と、地中障害・伏在谷の有無の確認はこの層でしか行えない。第2層の値は、この調査に入る前の期待値である。
実務上の要点は、第1層と第2層を混同しないことに尽きる。第1層は地震時の揺れやすさを見る層であり、保険料や構造設計、事業継続計画の議論につながる。第2層は基礎工法とその原価を見る層である。両者は別のデータで、別の意思決定に効く。本稿で示したとおり、東京湾岸の埋立地では第1層の指標がほとんど動かないまま第2層が5.4倍動くのだから、第1層で第2層を代用することはできない。
試算の前提と限界
- 支持層の出現標高は、東京都地質調査業協会が公開する地区単位のレンジ値であり、個別敷地の値ではありません。本稿の杭長はレンジ中央値を用いた代表計算です。実際の設計では敷地内ボーリングによる確認が必要です。
- 杭本数20本、杭長算定式、延床5,400㎡・150室という建物条件はすべてモデル前提です。構造形式・階数・柱スパン・杭径の設定が変われば杭延長も変わります。
- 杭単価6万〜12万円/mは感度分析のための前提レンジであり、特定の市場価格・見積水準を示すものではありません。金額はいずれも試算値です。
- 本稿は基礎工法の原価のみを扱っており、液状化対策工、山留め、地中障害撤去、地下水対策、防災設備、保険料は含みません。埋立地・干拓地・三角州は液状化が生じやすい微地形区分に分類されるため、実際の事業計画ではこれらが別途の費目として加わります。
- 総建設費比の分母は、坪単価130万円(延床5,400㎡=約1,634坪、21.2億円)を置いた前提です。2025年の建築着工統計に基づく水準(ホテル全構造平均195.2万円/坪)を分母に置き換えると、同じ杭工事費でも比率は0.85%〜3.95%になります。杭延長・杭工事費の絶対額は分母の置き方に影響されません。
- AVS30・増幅率は250mメッシュの代表値です。メッシュ内の局所的な地盤変化は表現されません。
まとめ
ホテル用地の地盤評価は、揺れやすさの層と、支持層深度の層に分けて扱う必要がある。全国24商圏を表層S波速度で並べると、東京湾岸の埋立地はほぼ同一の値に固まり、一次スクリーニングでは一箱に入る。しかし同じ11地区の支持層出現深度はA.P.-12.5mからA.P.-67.5mまで5.4倍開き、両者の相関係数は-0.38にとどまる。
この深度差を150室・延床5,400㎡のモデルで杭延長に変換すると、300mと1,400m、4.67倍の差になる。杭単価を6万〜12万円/mの範囲で振れば、1室あたり44万〜88万円、総建設費比で1.27%から5.93%までの幅が生じる。単価9万円/mの中央前提では66万円/室で、これは上場ホテルREITの東京都内保有物件の1室あたり取得価格中央値2,414万円の2.7%、江東区の推定成約ADRで48泊分にあたる。
地価も駅距離も容積率も、候補地を並べれば誰もが同じ数字を見る。支持層深度は、公開データで引けるにもかかわらず、まだ多くのスクリーニングシートに列がない。着工前に動かせる原価として、ここに一列を足す価値は十分にある。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
表層地盤(微地形区分・表層30m平均S波速度・増幅率)は防災科学技術研究所 J-SHIS の250mメッシュ公表値を各商圏の代表座標で取得(全国24商圏・東京湾岸11地区)。支持層の種類と出現標高は東京都地質調査業協会「東京臨海部の支持地盤」(2023年3月、原典:東京都港湾局「新版 東京港地盤図」)の地区別公表値。推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計の東京都23区・2025年9月〜2026年8月の12ヶ月中央値。1室あたり取得価格は上場ホテルREIT7法人の保有関係マスター(国内300物件・2026年8月31日時点スナップショット)から取得価格を客室数で除して算出。建設費水準は国土交通省「建築着工統計調査」および建設物価調査会「建築費指数」。
■ 試算前提
モデル建物は宿泊主体型ホテル・客室150室・延床5,400㎡(36㎡/室)・建築面積620㎡・地上11階。基礎は場所打ちコンクリート杭の1柱1杭、柱グリッド6.4m×6.4m相当で杭本数20本。杭長=支持層出現深度の絶対値+2.5m(計画地盤高A.P.+3.5m、基礎底GL-3.0m、支持層への根入れ2.0m)。支持層深度は地区別レンジの中央値を採用。杭工事費は単価6万/9万/12万円/m(材工共)の3水準で感度を取り、本文中の代表値は9万円/m。総建設費の分母は坪単価130万円×延床5,400㎡(約1,634坪)=21.2億円(1,416万円/室)。
■ 限界・留意点
支持層出現標高は地区単位のレンジ値であり個別敷地の値ではありません。実際の設計には敷地内ボーリングによる確認が必要で、同一地区内でも支持層は起伏します。杭本数・杭長算定式・建物条件はすべてモデル前提であり、構造形式・階数・柱スパン・杭径が変われば杭延長も変わります。杭単価レンジは感度分析のための前提であって特定の市場価格・見積水準を示すものではなく、金額はいずれも試算値です。本稿は基礎工法の原価のみを扱い、液状化対策工・山留め・地中障害撤去・地下水対策・防災設備・保険料は含みません。総建設費比は分母の置き方に依存し、2025年の着工統計水準(ホテル全構造平均195.2万円/坪)を分母にすると同じ杭工事費でも0.85%〜3.95%になります(杭延長・杭工事費の絶対額は不変)。AVS30・増幅率は250mメッシュの代表値で、メッシュ内の局所的な地盤変化は表現されません。推定成約ADRは公開価格に業態別補正を適用した推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(東京都23区・2025年9月〜2026年8月)、REIT保有関係マスター(国内300物件・2026年8月31日時点スナップショット)
■ 地盤・地質データ
- 防災科学技術研究所「地震ハザードステーション J-SHIS」表層地盤データ(微地形区分・AVS30・増幅率、250mメッシュ)
- 東京都地質調査業協会「東京臨海部の地盤環境 — 東京臨海部の支持地盤」(2023年3月1日)/原典:東京都港湾局「新版 東京港地盤図」
■ 建設費・公的統計
