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台湾は過去最高圏の安定市場|中国減速下のインバウンド分散戦略

投稿日 : 2026.07.21 更新日 : 2026.09.02

インバウンド

台湾は過去最高圏の安定市場 — 中国減速下のインバウンド分散戦略

日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計によると、2026年5月の訪日外客数は355万9,900人。中国が前年同月比60.4%減と大きく水準を切り下げる一方、台湾は61万6,800人(前年同月比14.6%増)と5月として過去最高を更新した。単一市場の変動に一喜一憂するのではなく、複数の安定市場でポートフォリオを組み立てる——本稿では、台湾を「中国依存低下時代の中核市場」と位置づけ、その推移・構成比・宿泊選好を定量と定性の両面から読み解く。

本記事における指標の定義

  • 訪日外客数:日本政府観光局(JNTO)が公表する推計値。国・地域別の数値は同統計に基づく。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • クチコミ選好:宿泊者クチコミをNLP解析し、言及されたテーマ(立地・客室・接客等)の出現頻度を言語別に集計したもの。言及頻度であり評価スコアそのものではない。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(ADR)、ホテルバンク編集部調べ(クチコミ)、日本政府観光局(訪日外客数)。
Key Takeaways
  • — 台湾は2026年5月に61万6,800人(前年比+14.6%)で5月として過去最高。2025年は年間676万人とコロナ前を大きく上回る過去最高圏で推移。
  • — 中国は5月-60.4%と半減する一方、市場別シェアでは台湾17.3%が中国8.8%の約2倍に達し、需要構造は「分散型」へ移行。
  • — 東京の繁体字クチコミ(N=15,449)は「中心街立地」27.5%・「駅近」42.4%と日本語を大きく上回り、立地と客室の広さを重視する選好が明確。
  • — インヴィンシブル投資法人の2026年5月稼働率85.5%(+0.6pt)。複数市場が中国の空白を吸収し、宿泊需要は前年比プラスを維持。

中国が半減する局面でも、台湾は過去最高圏で推移

まず年間ベースの推移を確認したい。台湾からの訪日者数は2019年の約489万人から、コロナ後の2024年に約604万人、2025年には676万3,400人(前年比11.9%増)へと、コロナ前を大きく上回る水準で着実に積み上がってきた。2025年は年間過去最高を更新している。

これに対して中国は、2019年の約959万人から2024年に約698万人まで落ち込み、2025年には約910万人(前年比30.3%増)まで戻したものの、2026年に入ると局面が一変した。3月は前年同月比55.9%減、5月は同60.4%減と、月次で水準が半分以下に切り下がっている。渡航自粛の呼びかけや航空便の供給調整が背景にあると各種報道は指摘する。市場ごとに振れ幅が大きいなかで、台湾の安定感が一段と際立つ構図だ。中国減速が地方のADRや宿泊需要に及ぼす影響については、JNTO4月統計にみる中国-56.8%と地方ADR上昇の構図でも詳しく検証している。

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりホテルバンク編集部作成

台湾は人口約2,300万人という市場規模に対して、年間676万人が訪日する「訪日の日常化」が進んだ市場である。為替や一過性の政治要因に左右されにくく、リピーター比率が高いことから、需要のベースロードとして計算しやすい。中国の変動を台湾・韓国・ASEANといった複数市場で吸収する——この発想が、これからの客室ポートフォリオ設計の起点になる。

月次で見る三市場の描く軌跡

2026年3月〜5月の月次推移を国・地域別に並べると、三市場のコントラストは一層はっきりする。韓国は79万5,600人(3月)→87万8,600人(4月)→95万1,300人(5月)と右肩上がりで最大市場の座を固めた。台湾は65万3,300人→64万3,500人→61万6,800人と、季節的な端境期にあっても60万人台前半の高原状態を維持している。

一方の中国は29万1,600人→33万700人→31万3,000人と、20〜30万人台の低い水準で横ばいだ。かつて最大市場のひとつだった中国が、月次では台湾の半分程度にとどまっている点は、需要構造の転換を象徴している。なお5月は台湾・韓国をはじめ19市場が「5月として過去最高」を記録しており、市場全体としては底堅い。

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりホテルバンク編集部作成

構成比が映す「脱・中国依存」の進行

2026年5月の訪日外客数を市場別の構成比で見ると、韓国26.7%、台湾17.3%、米国9.4%、香港5.8%、中国8.8%、ASEAN主要5市場(タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・フィリピン)合計10.9%となった。中国のシェアは2025年通年の約21%から、月次では1割を下回る水準まで低下している。

注目したいのは、台湾のシェア(17.3%)が中国(8.8%)のおよそ2倍に達している点だ。加えてASEANはマレーシアが前年同月比39.6%増、シンガポールが同21.1%増と伸び、東アジア以外の裾野も広がっている。単一の巨大市場に依存する構造から、複数の中堅市場が支える「分散型」の需要構造へ——この移行こそが、宿泊事業者にとっての安定材料である。各市場が中国依存の低下にどれだけ耐性を持つかは、中国依存度の代理指標で読む19市場のADR耐性マップで市場横断的に整理している。

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」(2026年5月)よりホテルバンク編集部作成

繁体字クチコミが示す「中心・駅近・広さ」の選好

台湾からの宿泊客が何を評価しているのかを、繁体字で投稿されたクチコミから定性的に抽出した。東京エリアの繁体字クチコミ(N=15,449件)と日本語クチコミ(N=209,651件)で言及テーマの出現頻度を比較すると、台湾客の選好がくっきりと浮かび上がる。

最も差が大きいのは「中心街・繁華街立地」への言及で、繁体字27.5%に対し日本語は7.1%。「駅近・交通至便」も繁体字42.4%対日本語26.1%、「客室の広さ」も繁体字16.0%対日本語8.8%と、いずれも台湾客が大きく上回る。徒歩圏で買い物・食事が完結する中心部の立地と、スーツケースを広げられる客室の余裕を重視する傾向が読み取れる。大阪エリアでも同様に、中心街28.7%・駅近36.3%・広さ17.4%と、立地と客室規模への言及が突出していた。

出典:ホテルバンク編集部調べ(東京エリア・宿泊者クチコミのNLP解析、繁体字N=15,449/日本語N=209,651)

清潔感(20.4%)や丁寧な接客(16.4%)、コストパフォーマンス(12.7%)への言及も高く、「中心部・駅近・広め・清潔・気持ちよい接客」という組み合わせが台湾客の満足の型といえる。旅マエの訴求では、最寄駅からの分数・主要スポットへの徒歩アクセス・客室面積を繁体字で明示することが、予約獲得の実務的な打ち手になる。

ゴールデンルート離れと、地方分散の受け皿

台湾はリピーター比率が高く、東京・大阪・京都を結ぶいわゆるゴールデンルートを一巡した層が、地方や自然・温泉を目的に再訪する「二巡目・三巡目」の需要を生んでいる。JNTOの分析でも地方部への誘客は2桁増で推移しており、この流れは地方の宿にとって明確な成長機会だ。

台湾客に人気の主要県と、地方分散の受け皿となりうる県のADR(推定成約単価・税抜相当、2026年5月)を並べると、階層構造が見えてくる。京都府が約17,000円、大分県(別府・湯布院)が約15,300円、東京都が約15,100円と上位に並ぶ一方、長野県約12,000円、石川県(金沢)約11,700円、岐阜県(高山・白川郷)約11,500円、青森県約8,200円、香川県約8,300円と、単価水準に幅がある。温泉・自然・文化を擁しながら相対的に単価が抑えられている地方県は、台湾リピーターの「体験志向」の受け皿として、稼働と単価の両面で伸びしろを持つ。非ゴールデンルートで台湾・韓国・米国のリピーターを受け止める地方市場の構造は、中国の穴を埋める「地方リピーター市場」の分析も参考になる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月・推定成約ADR/税抜相当)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

ゲートウェイ都市(東京・大阪・京都)は台湾客の入口として引き続き重要だが、混雑と価格上昇のなかで「次の一泊」をどこに誘導するかが、地域全体の受け入れ余力を左右する。繁体字での情報発信、二次交通の案内、連泊・周遊プランの設計を通じて、地方の宿が台湾リピーターの受け皿になる余地は大きい。

宿泊需要は堅調 — REIT稼働率が示す市場の底堅さ

中国市場が水準を切り下げるなかでも、国内ホテルの稼働は堅調を保っている。インヴィンシブル投資法人が公表した2026年5月の運営実績(国内ホテル101物件)は、稼働率85.5%(2026年5月時点・国内101物件・前年同月比+0.6pt)、ADR15,288円(同+3.9%)、RevPAR13,066円(同+4.7%)と、いずれも前年を上回った。最大市場だった中国が半減する局面にあっても、宿泊需要そのものは前年比プラスで推移している。

これは、台湾・韓国・欧米・ASEANといった複数市場が中国の空白を吸収していることの証左でもある。国内主要ホテルREITの直近月次稼働率(2026年5月時点)は星野リゾート・リート投資法人80.1%、いちごホテルリート投資法人84.3%、日本ホテル&レジデンシャル投資法人87.4%、ジャパン・ホテル・リート投資法人84.0%と、総じて8割前後の高稼働を維持している。特定市場の変動をポートフォリオ全体で吸収できる需要基盤が整いつつある。

まとめ — ポートフォリオ分散という前向きな一手

2026年のインバウンドは、中国という単一の巨大市場の変動を、台湾・韓国・ASEAN・欧米が支える「分散型」の構造へと移行しつつある。なかでも台湾は、コロナ前を大きく上回る過去最高圏で推移し、リピーターに支えられた安定市場として存在感を増している。市場別構成比では、台湾のシェアが中国の約2倍に達した。

宿泊事業者にとっての実務的な示唆は明快だ。第一に、繁体字クチコミが示す「中心・駅近・広さ・清潔・接客」という選好に沿って、台湾客への訴求を最適化すること。第二に、ゴールデンルートを一巡した台湾リピーターを、単価に伸びしろのある地方へと誘導し、地域全体で受け皿を広げること。第三に、単一市場に頼らない客層ミックスを意識し、需要のポートフォリオを分散させること。中国依存が低下する時代は、複数の安定市場を束ねて需要を組み立てる、前向きな設計の好機である。

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参考資料・出典一覧

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