2040年に向けた将来人口推計は、日本のリゾート投資に新しい問いを突きつけている。スキー場や温泉という資源は動かないが、その地に「住む人」と「働く人」は確実に細くなる。本稿では、居住人口と就業人口の対比という軸を起点に、将来人口が縮小する立地でホテル投資が成立する条件を定量的に読み解く。具体的には、和歌山・白浜、北海道・倶知安/ニセコ、石川・金沢駅周辺という需給構造の異なる3地点を、2040年人口増減率と就業/居住比の二軸に配置し、運営人材確保と需要源の外部化という観点から投資妥当性を整理する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けること、および1名利用の予約も2名料金で集計されることから、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
- 就業/居住比:エリア内の就業従業者数(事業所で働く人)を居住人口(夜間人口)で割った値。値が高いほど「住む人より働く人・通う人が多い」立地で、域外からの需要・労働力の流入が大きいことを示す。
- 2040年人口増減率:2020年(基準年)に対する2040年の推計総人口の増減率。マイナスが大きいほど将来の居住人口縮小が大きい。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 国土数値情報(将来推計人口・令和6年推計)/経済センサス-活動調査(2021年)。
- — 将来人口の縮小(白浜-24.9%/ニセコ-14.2%/金沢-11.4%)は、それ自体ではリゾート投資の失格条件にならない。決め手は需要源を地元人口に依存するか外部化できるか。
- — ニセコ/倶知安は冬季ADRが¥89,700(倶知安・2026年2月)まで跳ね上がり、商業地地価は全国一位水準(+15.5〜57.6%)。世界のスキー需要と外資が地元人口縮小と無関係に価格を支える。
- — リスク調整後利回り(想定NOI−人口減−人材プレミアム)は白浜3.5%/ニセコ7.0%/金沢5.5%。需要源の外部化度が高いほど高利回りが残る。
- — 白浜は高齢化率42.3%・人材薄で利回りは最低だが、国内レジャーからインバウンドへの需要付け替えが進めば最大の伸びしろを持つ過渡期立地。
- — 金沢は就業/居住比が3地点で最高で都市労働市場を背後に持ち、人材確保が相対的に容易。北陸新幹線の広域集客でディフェンシブに安定。
結論:将来人口が縮小しても、需要源を外部化できる立地は残る
3地点を並べると、将来人口の縮小はリゾート投資の決定的な失格条件ではないことが見えてくる。決め手は「地元の人口に依存しているか、それとも域外・インバウンドの需要を取り込めているか」という需要源の構造である。倶知安/ニセコは2040年に向けて居住人口が-14.2%まで縮小する推計だが、冬季ADRは1室あたり¥89,700(倶知安・2026年2月)に達し、商業地地価は全国一位水準で上昇している。需要が地元ではなく世界のスキー客と外資投資に支えられているためだ。
一方で白浜は、2040年人口-24.9%・高齢化率42.3%と縮小の度合いが最も強く、ADRも¥28,000前後で横ばいが続く。ただし、ここにも外部化の芽はある。2025年のパンダ返還で国内宿泊客が前年同月比で約1万人減少した局面でも、インバウンドは増加に転じていた。つまり、白浜の投資妥当性は「国内レジャー依存からインバウンド・域外需要への需要源の付け替えが進むか」に懸かっている。金沢は3地点の中で最も就業/居住比が高く(19.6%)、北陸新幹線による広域集客で都市型観光地として安定する立地として位置づけられる。
将来人口×就業構造のマッピング — 3地点はなぜ運命が分かれるのか
はじめに、3地点を将来人口推計と就業構造の二軸で配置する。横軸は2040年の人口増減率(左ほど縮小が大きい)、縦軸は就業/居住比(高いほど域外からの就業・通勤・来訪の流入が大きい)。円の大きさは居住人口を表し、色は高齢化率の高さを示している。地元需要に依存しないかどうかは、この縦軸=就業/居住比に強く現れる。
白浜は左下に位置する。人口縮小が最も大きく、就業/居住比も薄い。これは「住む人も働く人も減る」局面であり、ホテルが地元経済の縮小と運営人材の確保難という二重の構造リスクに直面することを意味する。一方、倶知安/ニセコは人口縮小の幅は白浜より小さく(-14.2%)、就業/居住比はオフィス系就業比9.9%・就業従業者3,196人と、居住人口10,990人に対して相応の就業の厚みを持つ。ここでの就業は地元向けサービスではなく、スキーリゾートの宿泊・飲食・建設に向かう「外需起点の雇用」である点が決定的に異なる。
金沢駅周辺は就業/居住比19.6%と3地点で最も高い。就業従業者35,577人・居住人口35,577という都市型の集積に支えられ、人口縮小も-11.4%と最も緩やかだ。つまり3地点は、左下(地元依存・縮小強)→中央(外需依存・縮小中)→右上(都市集積・縮小緩)という、需要源の外部化度が高まるほど将来人口リスクの影響が小さくなる関係を描いている。
居住メッシュの高齢化で読む3地点 — 薄く老いて縮む立地か、外需と都市集積か
3地点の居住メッシュを高齢化率で塗り分けると、需要構造の違いが地理にそのまま現れる。南紀白浜は居住メッシュ自体が薄く、その多くが高齢化40%超の濃色に沈む――住み手も働き手もともに細る局面だ。倶知安・ニセコは居住の塊こそ小さいが高齢化は25%前後にとどまり、スキー・インバウンドという外需が地元人口の薄さを補う。金沢駅周辺は高齢化30%前後ながら居住メッシュが厚く連担し、都市集積そのものが需要を下支えする。各地図の情報カードに居住人口・高齢比・2040年増減を併記した。
需要源が違えば価格の動き方が違う — ADR季節性が映す3つの構造
需要源の構造の違いは、価格の季節パターンにそのまま現れる。メトロエンジンリサーチの市区町村別ADR推移(2025年1月〜2026年6月)を年次オーバーレイで重ねると、3地点はまったく異なる形を描く。地元需要ではなく外部需要に支えられている立地ほど、価格は特定シーズンに鋭く跳ね上がる。
倶知安・ニセコは、冬季(12〜2月)に¥69,000〜¥89,700まで跳ね上がり、春〜秋は¥27,000〜¥55,000に沈むという極端なV字を描く。2026年2月の倶知安ADRは¥89,700と、前年同月比で大きく上振れした。この振幅は地元住民の利用では説明できない。世界のスキー需要とインバウンド富裕層、そして外資オペレーターが運営する高単価コンドミニアム・ホテルが冬季の価格を押し上げているためで、域外需要に全面的に依存した構造の証左である。倶知安町の商業地地価が2025年に+15.48%、ニセコひらふ地区は路線価上昇率が3年連続で全国一位を記録していることも、この外部需要への期待が資本側に織り込まれていることを示している。
白浜は対照的に、年間を通じて¥28,000〜¥41,000のなだらかな曲線を描き、夏季(8月)の海水浴・レジャー需要で小さな山ができる程度だ。価格の安定は需要の安定とも読めるが、ここには伸びしろの裏返しがある。2025年7月、アドベンチャーワールドのパンダ返還により白浜温泉旅館協同組合加盟21施設の宿泊者数は前年同月比で約1万人減少した。一方で、現地の宿泊事業者からは「インバウンドは増えている」という声も上がっている。白浜のADRが横ばいに留まっているのは、国内レジャー需要が縮小する中で、インバウンドという外部需要への付け替えがまだ価格に十分反映されていない過渡期にあるためと考えられる。逆に言えば、ここに需要源の外部化による収益拡大の余地がある。金沢は¥22,000〜¥36,000の都市型のレンジで、紅葉期(11月)と春に山を持つ広域観光地らしい形で、北陸新幹線の敦賀延伸を背景に商業地地価も+3.7%で堅調に推移している。 敦賀延伸後の金沢を含む4都市のADR比較は、北陸新幹線敦賀延伸3年目の都市別ADR分析で詳しく検証している。
運営人材の確保可能性 — 就業従業者数の薄さが効く
将来人口減リゾートの投資妥当性を語るうえで、需要と並んで決定的なのが運営人材の確保可能性である。どれほど需要があっても、客室を清掃し、料理を提供し、フロントに立つ人が確保できなければホテルは稼働しない。ここで効いてくるのが、就業従業者数という供給側の厚みだ。
| 地点 | 居住人口 | 就業従業者 | 就業/居住比 | 2040人口 | 高齢化率 | 人材確保の見立て |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 白浜 | 3,189 | 薄 | 低 | -24.9% | 42.3% | 確保プレミアム 大 |
| ニセコ/倶知安 | 10,990 | 3,196 | 中(office 9.9%) | -14.2% | 25.5% | 外国人就労で補完/繁忙集中 |
| 金沢駅 | 35,577 | 35,577 | 19.6% | -11.4% | 29.8% | 都市労働市場で相対的に容易 |
就業/居住比が高い金沢は都市労働市場にアクセスできるため人材確保が相対的に容易。白浜は居住人口・就業従業者ともに薄く、かつ高齢化率42.3%で生産年齢人口の縮小が速いため、人材確保に追加コスト(採用・住宅・賃金プレミアム)を見込む必要がある。ニセコは就業の厚みはあるが冬季偏重で、繁忙期の季節労働力・外国人就労に大きく依存する。 リゾート地で運営人材をどう囲い込むかという論点は、ホテル従業員社宅・人材インフラ投資の事業性分析でも事業性の観点から掘り下げている。
白浜の高齢化率42.3%は、3地点で突出している。これは将来の運営人材プールが急速に細ることを意味し、人材確保には住宅手当・通年雇用化・賃金プレミアムといった追加投資が必要になる。ニセコは生産年齢人口を一定数抱えるものの、需要が冬季に集中するため、通年雇用の維持と繁忙期の労働力確保という二つの論点に同時に向き合う構造にある。実際、ニセコエリアでは外国人就労者がサービス供給の重要な担い手となっている。金沢は背後に都市労働市場を持つため、3地点で最も人材確保のハードルが低い立地と位置づけられる。
リスク調整後利回りのシナリオ試算 — 人口減と人材を割り引いて考える
これらの構造リスクを利回りの言葉に翻訳してみる。投資判断では、想定NOI利回りから「人口減ディスカウント」と「人材確保プレミアム」を差し引いたリスク調整後利回りで地点を比較するのが実務的だ。ここでの試算は、建設費・GOP率の権威あるベンチマークに基づく簡易モデルであり、確定的な数値ではなく地点間の相対比較として読まれたい。
前提:建設費は国土交通省 建築着工統計に基づき、2024年のホテル建築費は全構造平均195万円/坪(RC造173.6万円)、2025年は全構造195.2万円・S造240.5万円と過去最高水準が続く。GOP率はインヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件の38.9%(2024年12月期)を業界ベンチマークとし、新規開業の保守値として30〜35%を採用。人口減ディスカウント・人材確保プレミアムは、各地点の2040年人口増減率・高齢化率・就業/居住比から相対的に設定した想定値。
| 項目 | 白浜 | ニセコ/倶知安 外需牽引 | 金沢駅 |
|---|---|---|---|
| 需要源の主軸 | 国内レジャー(移行期) | 冬季インバウンド・外資 | 都市観光・広域集客 |
| 想定NOI利回り(粗) | 7.0% | 9.0% | 6.5% |
| 人口減ディスカウント | -2.0pt | -1.0pt | -0.6pt |
| 人材確保プレミアム | -1.5pt | -1.0pt | -0.4pt |
| リスク調整後利回り | 3.5% | 7.0% | 5.5% |
| 成立条件(成長余地) | インバウンド需要の取込 | 通年需要化・人材通年化 | 単価上昇・延伸効果の継続 |
本試算は地点間の相対比較を目的とした簡易モデルであり、実際の投資判断には個別物件の詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。NOI利回り・各ディスカウントは想定値。
| シナリオ(リスク調整後利回り) | 白浜 | ニセコ/倶知安 | 金沢駅 |
|---|---|---|---|
| 楽観(需要外部化進展・人材確保改善:想定NOI+1.0pt/ディスカウント圧縮) | 5.0% | 8.5% | 6.8% |
| 中位(基準シナリオ) | 3.5% | 7.0% | 5.5% |
| 悲観(国内需要縮小継続・人材プレミアム拡大:想定NOI−1.0pt/ディスカウント拡大) | 2.0% | 5.5% | 4.5% |
感度分析:想定NOI利回りを±1.0pt、人口減ディスカウント・人材確保プレミアムを各シナリオの需要・人材前提に応じて増減させた3シナリオ。楽観・悲観いずれの局面でも需要源を外部化したニセコ/倶知安が最も高い利回りを維持し、地点間の相対序列は崩れない。数値は地点間比較を目的とした想定値であり確定値ではありません。
試算が示すのは、需要源の外部化度が高いほどリスク調整後利回りが高く保たれるという関係だ。ニセコ/倶知安は想定NOI利回りが9.0%と高く、人口減・人材プレミアムを差し引いても7.0%が残る。これは冬季外需が地元人口の縮小と無関係に成立しているためで、将来人口推計起点のリスクが相対的に効きにくい。リスク調整後利回りという同じ枠組みで災害リスクを織り込んだ分析は、太平洋沿岸10観光地の災害リスク×利回り分析も参考になる。金沢は利回り水準こそ控えめだが、ディスカウントが小さく5.5%で安定する都市型のディフェンシブな性格を持つ。
白浜はリスク調整後で3.5%まで低下する。これは現状の国内レジャー依存・高齢化・人材薄を素直に反映した数値だが、裏を返せばインバウンド需要を取り込めれば最大の伸びしろを持つ地点でもある。白浜町が進める5つ星ホテル誘致やパンダ依存からの脱却戦略は、まさにこの需要源の外部化に向けた方向性であり、外部需要の取込が進めば想定NOI利回り側の押し上げ余地は大きい。建設費の高騰(2022年比+41%)は新規供給を全国的に抑制する要因でもあり、既存施設にとっては競争緩和というアップサイドにも働く。
投資妥当性の整理 — 「人口が減ってもホテルが残る」3条件
条件1 需要源の外部化
地元居住人口ではなく、インバウンド・域外レジャー・ビジネス広域集客に需要を依存できるか。ニセコの冬季外需、金沢の新幹線広域集客が好例。白浜は国内レジャーからインバウンドへの付け替えが成長余地。
条件2 人材の確保可能性
就業従業者の厚み・都市労働市場へのアクセス・季節労働力/外国人就労の活用余地。金沢は都市市場で容易、ニセコは外国人就労で補完、白浜は確保プレミアムを織り込む必要。
条件3 資源の希少性と通年化
パウダースノー・温泉・歴史都市など模倣困難な資源の有無と、それを通年需要に展開できるか。季節偏重を緩和できれば人材の通年雇用とNOIの安定が両立する。
3地点の比較から導かれる結論は明快だ。将来人口の縮小それ自体は、リゾート投資の失格条件ではない。決め手は、その縮小する地元人口に需要を依存しているかどうかにある。ニセコ・倶知安のように世界のスキー需要と外資に支えられた立地は、居住人口が-14.2%縮小しても価格と地価を伸ばし続けている。金沢のように都市労働市場と広域集客を背後に持つ立地は、人口減を緩やかに吸収しながら安定する。
白浜のように人口縮小と高齢化が最も強い立地でも、投資妥当性が消えるわけではない。国内レジャー依存からインバウンド・域外需要への需要源の外部化、そして人材確保の通年化という二つの方向性に取り組めれば、現状の横ばいADRには大きな伸びしろが残されている。リゾート投資家・REIT運用担当・自治体観光政策担当のいずれにとっても、2040年に向けた投資判断の軸は「人口が増えるか」ではなく「地元人口に依存せずに需要と人材を外部から取り込めるか」へと移っているといえる。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。冬季のニセコ・倶知安など先付け価格は今後の追加プラン投入・価格調整で動く点にご留意ください。また、リスク調整後利回りの試算は地点間の相対比較を目的とした簡易モデルであり、確定的な数値ではありません。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの市区町村別 公開価格データ(ADR・月次集計、2025年1月〜2026年6月)、国土交通省 国土数値情報(将来推計人口・令和6年推計)、経済センサス-活動調査(2021年)、国土交通省 令和7年地価公示・建築着工統計、インヴィンシブル投資法人IR開示(MHM運営91物件GOP実績)。
■ 試算前提
建設費は2024年ホテル全構造平均195万円/坪(2025年195.2万円・S造240.5万円)を採用。GOP率はインヴィンシブル投資法人開示のMHM運営38.9%(2024年12月期)を業界ベンチマークとし、新規開業の保守値として30〜35%を採用。人口減ディスカウント・人材確保プレミアムは各地点の2040年人口増減率・高齢化率・就業/居住比から相対的に設定した想定値。リスク調整後利回り=想定NOI利回り−人口減ディスカウント−人材確保プレミアム。
■ 限界・留意点
ADRは公開販売価格の平均であり実成約価格とは乖離する(高価格帯プランの売れ残りで上振れする構造)。利回り試算は地点間の相対比較を目的とした簡易モデルであり、確定的な数値ではなく個別物件のフィージビリティ・スタディに代わるものではない。将来人口は推計値、就業従業者数は2021年経済センサス時点。金沢の就業従業者数は集計境界により居住人口と近似値となっている点に留意(就業/居住比は域内集積の相対指標として参照)。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 市区町村別 公開価格データ(ADR)の月次集計、稼働が確認できる施設の分析
■ 政府統計・公的データ
■ REIT・業界レポート
■ ニュース・地域動向
