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THE NEST石垣が11/1開業、54室・全室58㎡超 — 琉銀系ファンドの休業ホテル再生と石垣市ADR1.2万円

投稿日 : 2026.11.08

沖縄県

投資・開発

THE NEST石垣が11/1開業、54室・全室58㎡以上 — 琉銀系ファンドの休業ホテル再生と石垣市ADR1.2万円

琉球銀行・琉球キャピタル・ネストホテルジャパンの3社は2026年10月28日、石垣市宮良で改修を進めていたホテルを「THE NEST石垣」として11月1日にリブランド開業すると那覇市内で発表した。前身は1993年開業の施設で、かりゆしグループが運営していた「沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣」である。2025年3月に琉球キャピタルが出資して設けた特別目的会社(資産管理会社「石垣宮良」)がかりゆしから譲り受け、ネストが暫定運営を挟んだうえで2026年3月から改修に入り、54室・全室58㎡以上のファミリー向けリゾートとして再出発した。本稿では、保有(ファンド)・資金(地域金融機関)・運営(運営会社)を分けるこの再生スキームを整理したうえで、石垣市の推定成約ADR(当社推計)の季節性、1室58㎡・54室という客室構成が市内の価格帯のどこに入るか、そして宮良という立地の津波・地価・用途地域を国土交通省の公開データで読み解く。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
Key Takeaways
  • — THE NEST石垣は54室・全室58㎡以上・4階建て。取得と改修を合わせた事業規模は2025年4月の発表時点で約50億円(1室あたり約9,300万円)、改修費は取得価格の約1.5倍と公表されている。
  • — 石垣市の推定成約ADR(当社推計)は2026年10月12,021円で前年同月比+13.5%。8月16,118円に対し2月9,649円と1.67倍の季節差があり、冬の底上げがリゾート再生の論点になる。
  • — 真栄里3km圏で推定成約ADRが算出できる30施設(2,607室)のうち2万円以上は1軒(458室)。石垣島全域でも47施設中5軒1,097室で、3万円以上は同じ1軒のみ。公表された3.5〜4万円の中期目標は島内の実勢を上回る水準への挑戦といえる。
  • — 宮良の施設座標は用途地域の指定がない非線引き都市計画区域にあり、地盤は「液状化しにくい」岩石台地。津波浸水想定区域の縁辺に位置し、約90m先から浸水深0.3〜1m、約120m先に5〜10mの区域が宮良湾側に広がる。
客室構成
54室
全室58㎡以上・4階建て
事業規模(発表時点)
約50億円
取得+改修、2025年4月発表
石垣市 推定成約ADR
¥12,021
2026年10月・前年同月比+13.5%(N=59施設)
真栄里3km圏 稼働ストック
3,490室
65軒(掲載105軒4,513室)
宮良の地価
¥23,300/㎡
住宅地・前年比+6.4%(2026年地価調査)

公表事実の整理 — 1993年開業の建物を取得から1年8か月で再生、11月1日に54室で開業

まずは各社の発表と報道で確認できる事実を時系列に並べる。琉球新報(2026年10月29日)によれば、琉球銀行・琉球キャピタル・ネストホテルジャパンは10月28日に「THE NEST石垣」の11月1日開業を発表し、客室・ロビー・エントランスなどを改修した。沖縄タイムス(同10月29日)は前身を「沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣」とし、4階建て・54室・全室58㎡以上、2つの宴会場をゲーム機を備えたコンセプトルームに転用し、ロビー・プール・テラスを改装、収穫体験ができる農園を設けたと伝えている。日本経済新聞(同10月28日)は、ファンド出資と琉球銀行のノンリコースローンで組成した特別目的会社が2025年3月にかりゆしから休業状態のホテルを取得し、ネストの暫定運営を経て2026年3月に改修工事へ入ったこと、改修費が取得価格の約1.5倍にのぼること、平均客室単価の目標が初年度2万円台後半・その後3.5〜4万円であることを報じた。

事業規模については、2025年4月24日の取得発表時に琉球新報が「総額50億円」と見出しで伝え、財界九州(2025年5月1日)も取得と改修を合わせて約50億円と記している。一方、2026年10月の開業発表では投資総額は非公表とされたため、本稿では「発表時点の事業規模約50億円」として扱い、これを54室で割った1室あたり約9,300万円も同じ但し書きつきで示す。前身施設の履歴は財界九州が詳しく、1993年に「軽井沢倶楽部ホテル石垣島」として開業、2012年からかりゆしグループが運営し、2024年11月に休業したとしている。当社の施設台帳でも開業日は1993年11月で一致する。

THE NEST石垣(石垣市宮良)に至る経緯
時期出来事出典
1993年11月「軽井沢倶楽部ホテル石垣島」として開業(宮良湾に面する4階建て)財界九州 2025/5/1、当社施設台帳
2012年かりゆしグループが運営開始、「沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣」に財界九州 2025/5/1
2024年11月休業財界九州 2025/5/1、沖縄タイムス 2026/10/29
2025年3月琉球キャピタル出資の特別目的会社(合同会社石垣宮良)がかりゆしから取得。琉球銀行がノンリコースローンを供与日本経済新聞 2026/10/28、琉球新報 2025/4/25
2025年4月24日取得を発表。ネストホテルジャパンが運営、事業規模は取得+改修で約50億円琉球新報 2025/4/25、財界九州 2025/5/1
2025年〜2026年2月ネストが前身名のまま暫定運営日本経済新聞 2026/10/28、財界九州 2025/5/1
2026年3月改修工事に着手(宴会場2室を客室化、ロビー・プール・テラス改装、農園・樽型サウナ新設)日本経済新聞 2026/10/28、沖縄タイムス 2026/10/29
2026年10月28日3社が那覇市で開業を発表。投資総額は非公表、改修費は取得価格の約1.5倍琉球新報 2026/10/29、日本経済新聞 2026/10/28
2026年11月1日「THE NEST石垣」開業。54室・全室58㎡以上、ファミリー・三世代旅行が主対象沖縄タイムス 2026/10/29、八重山日報 2026/11/1

出典:各紙報道・各社発表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

保有・資金・運営の分業 — 琉球キャピタルの沖縄ホテル3案件と玄海キャピタルとの違い

この案件の骨格は、保有を特別目的会社(出資はファンド)、資金を地域金融機関のノンリコースローン、運営を県外の運営会社に分けた三層構造にある。琉球キャピタルは2020年5月に琉球銀行や沖縄電力など県内企業の出資で設立され、1号ファンドの規模は64億円(日本経済新聞 2021年4月8日)、2025年1月には琉球銀行と県内企業37社を有限責任組合員とする2号ファンドを組成している(MARR掲載資料)。同社のホテル投資は今回で3件目にあたり、2021年のかりゆし2ホテル(那覇、事業総額約45億円、融資は琉球銀行などが約3分の2)は売主が運営を継続するセール・アンド・リースバック型、2025年2〜3月の石垣リゾートホテル(宮良湾沿い、2号ファンド)は県外資本からの取得でPlan・Do・Seeを運営に招いた賃貸型、そして今回のエグゼス石垣は休業物件を取得して改修し運営会社に委ねる再生型である。

比較対象として、当サイトが10月に取り上げた玄海キャピタルのホテルファンド4件189室は、糸島15室から古宇利61室まで小規模な新築・取得案件を個別の器で組成し、地銀融資を組み合わせる形だった。琉球キャピタルの今回の案件は1件で54室・約50億円(発表時点)と1件あたりの規模が大きく、かつ「県内から生じる収益の県内還流」を掲げるファンドが休業物件を引き受ける点に特徴がある。日本経済新聞によれば投資回収は5年程度先と想定され、松原知之社長はファンドの趣旨から県内事業者が引き継ぐことを望むと述べている。出口まで含めた設計であることは、地域ファンドが離島リゾートに関与する際の一つの型になり得る。

琉球キャピタルが関与した沖縄のホテル案件(公表ベース)
発表対象型器・資金運営規模
2021年4月沖縄かりゆしリゾートEXES那覇ほか1ホテル(那覇)取得+賃貸(売主が運営継続)SPC(琉球キャピタル・みずほ系・かりゆしが出資)、琉球銀行など融資約3分の2かりゆしグループ事業総額約45億円
2025年2〜3月石垣リゾートホテル(石垣市・宮良湾沿い)県外資本から取得+賃貸ヒルギ合同会社(琉球ファンド2号)Plan・Do・See総額数十億円(報道)
2025年4月沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣 → THE NEST石垣(石垣市宮良)休業物件の取得+改修+賃貸合同会社石垣宮良(琉球ファンド1号の最終案件)、琉球銀行ノンリコースローンネストホテルジャパン取得+改修で約50億円(発表時点)、改修費は取得価格の約1.5倍

出典:日本経済新聞(2021/4/8、2026/10/28)、琉球新報(2025/2/15、2025/3/14、2025/4/25)、沖縄タイムス(2025/2/15、2026/10/29)、財界九州(2025/5/1)、MARR掲載資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

離島で新築ではなく改修を選ぶ意味 — 建築費・工期・人材の3点

なぜ休業物件の改修なのか。第一に建築費である。国土交通省「建築着工統計」の2025年分(ホテル又は旅館・全国)では、鉄骨造の工事費予定額は坪あたり240.5万円、鉄筋コンクリート造は202.6万円で、全構造平均も2022年の138万円から2025年は195.2万円へ上がっている。THE NEST石垣の建物は延床面積約5,870㎡(約1,780坪、haveagood-holiday掲載値)とされ、仮にこの規模をRC造で新築すれば建築工事費だけで約36億円という計算になる。これは全国平均の単価であり、資材と作業員を船で運ぶ離島の割増分や外構・土地を含まない。他方、今回は改修費が取得価格の約1.5倍という比率が公表されており、発表時の約50億円にそのまま当てはめると取得約20億円・改修約30億円程度の構成になる(当社試算)。既存躯体を活かした改修でも、この新築工事費の8割強にあたる金額が投じられている計算であり、プールや農園、客室レイアウト変更まで踏み込んだ「再生」の投資水準がうかがえる。

第二に工期である。改修は2026年3月着工・11月開業と約8か月で完了した。離島での新築は、設計・確認申請から竣工まで一般に2年前後を要し、資材輸送の天候リスクも抱える。1993年築の躯体を使うことで、2026年冬のシーズン前に開業日を置けたことは、季節性の強い石垣市場では大きい。第三に人材である。八重山日報(2026年11月1日)は「地元雇用にも取り組む」と見出しで伝えており、暫定運営の期間に現地スタッフと商圏を把握したうえで本格開業に移る流れは、運営会社にとっても立ち上げの不確実性を下げる。ネストは2024年5月に同じ石垣市真栄里で「ネストホテル石垣マエサトビーチ」(82室)をファンドからの受託でリニューアルしており、石垣で2施設目となる今回は、既存の運営基盤を横展開できる位置にある。新築に頼らず既存建物を宿泊供給に転じる動きは本島でも進んでおり、那覇・旭橋で既存ビル2棟342室を転用する事例は那覇・旭橋で既存ビル2棟342室を再生 — 新築に頼らない供給と那覇市ADR1.03万円で取り上げている。

新築と休業ホテル改修の比較(離島リゾート・当社整理)
観点新築休業ホテルの改修(本件)
建物投資RC造202.6万円/坪(2025年建築着工統計・全国)。延床1,780坪なら建築工事費約36億円+離島割増+土地取得+改修で約50億円(発表時点)。改修費は取得価格の約1.5倍
工期設計・申請から竣工まで一般に2年前後2026年3月着工→11月開業(約8か月)
開業前の市場把握開業後に顧客基盤を構築暫定運営(2025年〜2026年2月)で商圏・人材を把握
プロダクト設計自由度が高い既存躯体の制約内で客室を再配置(宴会場→客室、全室58㎡以上)
供給面市場に新規客室を追加休業中の客室を市場に戻す(宮良5km圏の稼働ストックは156室)

出典:国土交通省「建築着工統計」2025年、日本経済新聞 2026/10/28、八重山日報 2026/11/1、haveagood-holiday 2026/10/30 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

石垣市の推定成約ADR — 10月は前年同月比+13.5%、8月と2月で1.67倍の季節差

次に市場側である。石垣市の推定成約ADR(当社推計、対象59施設・主要予約サイト掲載ベース)は2026年10月に12,021円と、前年同月の10,593円から+13.5%上がった。2026年は1月から10月まで全ての月で前年同月を上回り、上げ幅は1月の+6.2%に対し5月は+14.0%、10月は+13.5%と2桁の月が増えている。沖縄県の入域観光客統計によれば、2025年の八重山地域の入域観光客数は1,506,052人(前年比+5.6%)で暦年の過去最高を更新し、2026年1月も120,456人(前年同月比+26.2%)と月別の過去最高を記録した。冬の入り込みが伸びていることは、冬に開業する再生案件にとって追い風といえる。

ただし季節差は依然として大きい。2026年8月の16,118円に対し2月は9,649円で、その比は1.67倍である。11月以降の掲載水準から推定した先行きは11月11,352円、12月10,885円、2027年1月10,709円、2月10,409円(N=55〜58施設)と、前年同月を上回る位置にはあるものの夏の6〜7割の水準にとどまる。THE NEST石垣が家族・三世代旅行を主対象に据え、農園の収穫体験(2027年5月頃からサトウキビ・島バナナの収穫を予定)や月桃の蒸留、シーサー絵付けといった体験を揃えたのは、天候に左右されにくい滞在動機で冬の谷を埋める設計と読める。季節性そのものの分析は沖縄県ホテル投資マップ2026に譲り、本稿ではここまでにとどめる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(石垣市・推定成約ADR、対象58〜60施設)。2026年11〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定

前身施設の推定成約ADRは市中央値の1.3〜2.2倍 — 1室58㎡・54室が入る価格帯

では、全室58㎡以上という客室構成は石垣市のどこに入るのか。手がかりは前身施設の価格軌跡にある。沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣(50室)の推定成約ADR(当社推計)は、2024年7月に19,440円と石垣市中央値の1.42倍、2025年1月には20,247円と2.24倍で売れており、2025年通年の中央値は17,202円だった。1室2名・税込の掲載価格(全プラン平均)では2025年に3.7万円前後である。2025年10月から2026年2月にかけては12,047円→9,072円と市中央値の0.9〜1.5倍に下がっており、改修を控えた時期の値として割り引いて見る必要がある。

運営側が公表した目標は初年度の平均客室単価2万円台後半、その後3.5〜4万円である(日本経済新聞、税込・税抜の別は明記なし)。真栄里(石垣市)3km圏で推定成約ADRが算出できる30施設(2,607室)を見ると、2万円以上はANAインターコンチネンタル石垣リゾート(458室、約3.1万円)の1軒だけで、1.5〜2万円帯もTHIRD石垣島(28室)の1軒にとどまる。宮良5km圏では石垣リゾートホテル(50室)の直近12か月中央値が約2.5万円、2025年暦年の中央値は約3.2万円である。範囲を石垣島全域(半径5km圏を重ねて集計、竹富島を除く)に広げ、推定成約ADRが6か月以上算出できる47施設(4,073室)で見ても、直近12か月中央値が2万円以上なのはANAインターコンチネンタル石垣リゾート、クラブメッド石垣島(181室)、Seaside Village 13(10室)、石垣リゾートホテル、フサキビーチリゾート ホテル&ヴィラズ(398室)の5軒1,097室で、3万円以上は1軒である(seven x seven 石垣は推定成約ADRが算出できず比較の対象外)。つまり3.5〜4万円という中期目標は、島内の現在の実勢を上回る価格帯に54室を置く挑戦であり、前身が市中央値の2倍前後で推移した2025年1〜2月の実績と、全室定員4人以上(日本経済新聞)・58㎡以上の客室がその根拠になる。1室2名・税込の掲載価格で見た分布でも、3km圏の稼働65軒のうち3万円以上は4軒852室で、うち2軒はANAインターコンチネンタルとseven x seven 石垣(121室)という大型施設である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR、2024年7月〜2026年2月。石垣市はN=58〜60施設の中央値)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(真栄里(石垣市)3km圏の稼働65軒、2025年11月〜2026年10月の施設別掲載価格中央値で分類)

規模と単価の2軸で稼働施設を置くと、真栄里3km圏の構造がより明確になる。1万円前後に100〜200室級のビジネスホテルが並び、2万円台以上は458室の1軒だけという「上位帯の空白」である。圏外に目を広げると宮良湾の石垣リゾートホテル(50室・約2.5万円)が同じ中規模・高単価の象限の先行例にあたり、THE NEST石垣の54室はこれに続いて、さらに上の単価を取りにいく供給になる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRが算出できる30施設・2,607室、2025年11月〜2026年10月の中央値。破線枠はTHE NEST石垣の公表目標帯。石垣リゾートホテルは3km圏外の参考点)

密集帯 — 1万円前後×40〜200室

ビジネスホテル23軒1,466室が稼働し、推定成約ADR8千〜1.2万円に集中。価格競争が働きやすい帯で、朝食や立地で差をつける運営が中心。

3km圏の空白帯① — 2〜3万円×30〜120室

真栄里3km圏で推定成約ADRがこの帯に入る稼働施設はない。島内では宮良湾の石垣リゾートホテル(50室・約2.5万円)が先行例で、公表目標の初年度2万円台後半は同じ帯に当たる。

3km圏の空白帯② — 3.5〜4万円×50室

直近12か月の中央値で3万円台は458室の大型リゾート1軒。石垣リゾートホテル(50室)は2025年暦年の中央値で約3.2万円に達しており、中期目標の3.5〜4万円はその上を狙う位置づけ。

宮良の立地評価 — 用途地域の指定がない白地、地価2.3万円/㎡、津波浸水想定区域の縁辺

立地は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の公開データで確認した。THE NEST石垣の所在する宮良は石垣市の非線引き都市計画区域にあり、用途地域の指定がない。周辺の地価調査地点(字宮良村内266番)では建蔽率60%・容積率100%が示され、地点の価格は23,300円/㎡(2026年7月1日・住宅地、前年比+6.4%)である。これに対し真栄里の国道沿い路線商業地(字真栄里慶田山544番1)は138,000円/㎡(+10.4%)、市街地の商業地(字大川中ノハカ207番3)は209,000円/㎡(2026年1月1日公示・+11.2%)と、用途の異なる地点の単純比較ながら市内で約9倍の開きがある。土地コストの軽さは宮良の長所であり、同時に市街地から離れた立地であることの裏返しでもある。新石垣空港から車で約10分という近さが、その距離を埋める。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査、2026年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

災害リスクは、沖縄県が2015年3月に公表した津波浸水想定(最大クラス)を同ライブラリのデータで当てた。施設の登録座標そのものは浸水想定区域の外側にあるが、その縁辺に位置しており、宮良湾側へ約90m進むと浸水深0.3〜1m、約120mで5〜10m、約140mで10〜20mの区域が広がる。敷地のどこまでが区域に含まれるかは、県の詳細地区別図で地番単位の確認が要る。一方、比較対象とした真栄里のビーチ沿い3施設(ANAインターコンチネンタル石垣リゾート、seven x seven 石垣、ネストホテル石垣マエサトビーチ)は施設座標が5〜10mの浸水想定区域内にあり、石垣リゾートホテルは2〜5mの区域内である。海に近いリゾート立地であれば浸水想定区域に入ること自体は珍しくなく、避難計画と上層階の客室配置が設計上の論点になる。地盤については国土交通省の「地形区分に基づく液状化の発生傾向図」で、宮良・真栄里・市街地のいずれも「岩石台地・液状化しにくい」に区分された。洪水浸水想定区域・土砂災害警戒区域・高潮浸水想定区域については、確認したいずれの地点も指定区域に該当しなかった。

立地評価の要点(国土交通省 不動産情報ライブラリ、施設座標ベース)
項目THE NEST石垣(宮良)真栄里ビーチ沿い3施設市街地(美崎町・大川周辺)
用途地域指定なし(非線引き都市計画区域)第1種・第2種住居地域(容積率200%・建蔽率60%)商業地域・近隣商業地域・準工業地域
地価(2026年)23,300円/㎡(住宅地・+6.4%)138,000円/㎡(路線商業地・+10.4%)195,000〜209,000円/㎡(商業地・+8.9〜11.2%)
津波浸水想定(最大クラス)登録座標は区域の縁辺。約90m先から0.3〜1m、約120m先に5〜10m施設座標が5m以上〜10m未満の区域内確認地点(アートホテル石垣島)は区域外
液状化傾向岩石台地・液状化しにくい岩石台地・液状化しにくい岩石台地・液状化しにくい
洪水・土砂・高潮該当区域なし該当区域なし該当区域なし

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域、地価公示・地価調査、津波浸水想定、液状化発生傾向図、洪水・土砂・高潮)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設位置・客室数)、沖縄県津波浸水想定(国土交通省 不動産情報ライブラリ経由)。円の大きさは客室数、濃色は施設座標が津波浸水想定区域内

石垣市の客室ストック — 真栄里3km圏は稼働65軒3,490室、宮良5km圏は6軒156室

本記事の客室ストックは、真栄里(石垣市)から半径3,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年9月〜2026年11月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年11月8日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。

市街地から真栄里にかけての3km圏には掲載105軒4,513室、うち稼働中が65軒3,490室ある。区分別ではビジネスホテル23軒1,466室が最も厚く、リゾートホテル7軒1,130室、ホステル14軒383室が続く。規模別では201室以上が2軒703室(ANAインターコンチネンタル石垣リゾート458室、アートホテル石垣島245室)、101〜200室が7軒973室で、50室以下の小規模施設が46軒1,104室と軒数の7割を占める。開業年代別では2000年代8軒787室、2010年代13軒495室、2020年代18軒684室と、2000年代以降の開業が稼働客室の半分強を占める。年次推移では、開業年が判明している施設ベースで2017年の2,894室から2026年の3,483室へ+20%増えた(開業年不明の34軒625室は年次推移に含まない)。

一方、THE NEST石垣のある宮良を中心にした5km圏は掲載10軒241室、稼働6軒156室と薄く、稼働分のうち50室は前身施設の登録、50室は石垣リゾートホテルである。つまり宮良湾沿いの宿泊供給は、琉球キャピタルが関与した2案件でほぼ構成されることになる。THE NEST石垣の54室は真栄里3km圏の稼働ストック(3,490室)に対しては1.5%程度の規模だが、空港から10分圏のリゾート帯としては供給の核になる。なお石垣市では2024年に霞ヶ関ホテルリート投資法人が保有するseven x seven 石垣(121室・取得価格18,700百万円)が開業しており、新規供給は真栄里側に集中してきた。国土交通省「建築物動態統計調査」の確認申請ベースの計画データでは、調査時点で石垣市内に新たな大型ホテルの確認申請は把握できない。確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため今後の申請追加で増える現時点での下限値だが、当面の供給は休業物件の再生と小規模施設の開業が中心と見込まれる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(真栄里(石垣市)3km圏、開業年が確認できる施設の年次推移。2026年は65軒)

投資シナリオの試算 — 54室で3.5〜4万円帯を取りにいく意味

最後に、公表された単価目標を事業規模に当てて感度を見る。前提は客室数54室、客室売上のみ(料飲・体験収入は含まない)、稼働率は通年の仮置き、GOP率はリゾートホテルの一般的な幅を踏まえ30〜35%とした。インヴィンシブル投資法人が開示する主要テナントのアイコニア・ホスピタリティ運営101物件のGOP比率(2026年6月期33.6%、2025年12月期38.4%)は稼働が安定した既存物件の値であり、新規開業の初年度はそれより保守的に置くのが通例である。事業規模は発表時点の約50億円を用いた。あくまで公表値から逆算した簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。

単価目標別・下振れ時の客室売上・GOP試算(54室・通年稼働率は仮置き・客室売上のみ)
シナリオADR通年稼働率客室売上GOP率GOPGOP/事業規模50億円
A. 初年度目標(2万円台後半)¥28,00065%3.6億円30%1.08億円2.2%
B. 中期目標下限¥35,00070%4.8億円35%1.69億円3.4%
C. 中期目標上限¥40,00075%5.9億円35%2.07億円4.1%
D. 下振れ(島内上位帯の実勢水準)¥25,00060%3.0億円30%0.89億円1.8%

出典:日本経済新聞 2026/10/28(単価目標)、インヴィンシブル投資法人「2026年6月期 決算説明資料」(GOP比率)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

シナリオDは、目標に届かず島内上位帯の実勢(約2.5万円、石垣リゾートホテル・フサキビーチリゾートなど)にとどまる場合の下振れである。この表が示すのは、初年度目標の2万円台後半では客室売上が3.6億円程度にとどまり、3.5〜4万円帯に到達して初めて客室売上が5〜6億円、GOPが2億円前後に乗るという構造である。単価を1万円上げることと、通年稼働率を10ポイント上げることでは、前者の方が売上への寄与が大きい。運営側が中期目標を3.5〜4万円に置いたのは、58㎡以上・4名以上という客室の器が単価で勝負する設計になっているからだと読める。シナリオA〜CのGOP/事業規模2.2〜4.1%を5年積み上げても事業規模の1〜2割にとどまるため、日本経済新聞が「5年程度先」と伝える投資回収は、料飲・体験収入に加えて県内事業者への承継という出口の価値に大きく依存する構造と読める。なお本件は運営会社への賃貸型であり、GOPは運営段階の指標で、所有者が受け取る賃料やNOIそのものではない。下の感度表は、ADRと通年稼働率の組み合わせで客室GOP(GOP率35%)が事業規模50億円に対して何%になるかを並べたものである。

感度分析:ADR×通年稼働率 → 客室GOP(GOP率35%)/事業規模50億円
ADR\通年稼働率60%65%70%75%80%
¥25,0002.1%2.2%2.4%2.6%2.8%
¥28,0002.3%2.5%2.7%2.9%3.1%
¥32,0002.6%2.9%3.1%3.3%3.5%
¥35,0002.9%3.1%3.4%3.6%3.9%
¥38,0003.1%3.4%3.7%3.9%4.2%
¥40,0003.3%3.6%3.9%4.1%4.4%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(54室・客室売上のみ・事業規模は2025年4月発表時点の約50億円)。GOP率を35%で固定しているため、GOP率30%のシナリオA・Dとは同じ組み合わせでも値が異なる

地銀・地域ファンド・運営会社それぞれへの示唆

地域金融機関にとって本件は、休業物件を「ノンリコースローン+ファンド出資+運営受託」の組み合わせで市場に戻す型の実例である。1993年築の建物に新築工事費の8割強にあたる改修費を投じる計算でも、地価水準が市街地商業地の約9分の1という宮良の立地が事業規模を抑える方向に働いたとみられる(地価公示・地価調査の比較で、本件の土地取得単価そのものではない)。地域ファンドにとっては、1号ファンドの最終案件を地元還流の象徴として位置づけ、出口に県内事業者を想定する設計が参考になる。運営会社にとっては、暫定運営で商圏と人材を掴んでから改修に入る順序と、同一島内で2施設を持つことによる人員・仕入れの共通化が立ち上げの確度を高める。石垣市の推定成約ADRが前年同月比2桁で伸び、冬の入り込みが過去最高を更新する局面での開業は、上位帯の薄い価格帯を取りにいくタイミングとして整っているといえる。沖縄本島の事例では今帰仁の134室新築計画を同じ枠組みで評価しており、新築と再生の差を見比べる材料になる。また有人国境離島法の2037年までの10年延長は、石垣市を含む離島の滞在型観光と雇用を支える制度環境として、こうした再生案件の背景にある。

よくある質問

Q. THE NEST石垣の前身はどのホテルか。

A. 1993年に「軽井沢倶楽部ホテル石垣島」として開業し、2012年からかりゆしグループが「沖縄かりゆしリゾートエグゼス石垣」として運営していた施設です(財界九州、沖縄タイムス)。2024年11月に休業し、2025年3月に琉球キャピタル出資の特別目的会社が譲り受けました。

Q. 事業規模の約50億円は何を含むのか。

A. 2025年4月の取得発表時点で、取得と改修を合わせた金額として報じられた数字です(琉球新報、財界九州)。2026年10月の開業発表では投資総額は非公表とされ、改修費が取得価格の約1.5倍にあたることのみ公表されています(日本経済新聞)。

Q. 石垣市の単価はどの程度か。

A. 石垣市の推定成約ADR(当社推計)は2026年10月で12,021円、前年同月比+13.5%です。8月は16,118円、2月は9,649円で、夏と冬で1.67倍の差があります。

Q. 宮良の立地に災害リスクはあるか。

A. 施設の登録座標は津波浸水想定区域の縁辺にあり、宮良湾側へ約90m進むと浸水深0.3〜1m、約120mで5〜10mの区域が広がります。地盤は「液状化しにくい」岩石台地で、洪水・土砂・高潮の指定区域には該当しません(国土交通省 不動産情報ライブラリ)。

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⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年11月以降のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。

参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADR・掲載価格・客室ストックはメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース、2026年11月8日時点)。島内比較は半径5km圏を重ねて石垣島全域を集計し、竹富島を除いた稼働91軒のうち推定成約ADRが6か月以上算出できる47施設(2025年11月〜2026年10月の中央値)。地価・用途地域・津波浸水想定・液状化傾向・洪水/土砂/高潮区域は国土交通省 不動産情報ライブラリ。入域観光客数は沖縄県「入域観光客統計」。案件の事実関係は琉球新報・日本経済新聞・沖縄タイムス・八重山日報・財界九州の報道および各社発表。

■ 試算前提

シナリオ試算は54室・客室売上のみ・通年稼働率は仮置き・GOP率30〜35%・事業規模は2025年4月発表時点の約50億円。シナリオDは島内上位帯の実勢水準を当てた下振れの仮置き。新築工事費は建築着工統計2025年のRC造202.6万円/坪(工事費予定額)に延床約1,780坪を乗じた概算で、離島割増・外構・土地を含まない。取得約20億円・改修約30億円の内訳は「改修費は取得価格の約1.5倍」という公表比率を約50億円に当てはめた当社試算。

■ 限界・留意点

推定成約ADRはモデル推定値で、各施設の実際の成約価格とは異なる。2026年11月以降の値は調査時点の掲載水準に基づく推定で今後変動する。津波・液状化の判定は施設の登録座標1点で行っており、敷地全体の区域判定ではない。運営側の単価目標は税込・税抜の別が公表されていない。GOPは運営段階の指標で、賃貸型である本件の所有者収入(賃料・NOI)とは異なる。投資総額は2026年10月時点で非公表であり、本稿の事業規模は発表時点の報道値である。改修着手は日本経済新聞の2026年3月に拠った(沖縄タイムスは「昨年3月から」と表記)。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界レポート

■ ニュース・プレスリリース

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