ホテルの客室は、法律上いったい何平方メートルから造ってよいのか。答えは旅館業法施行令第1条にあり、旅館・ホテル営業の1客室は7㎡以上、寝台を置く客室は9㎡以上、簡易宿所営業は客室の延床33㎡以上(宿泊者10人未満なら1人あたり3.3㎡)である。ところが実務でプロジェクトを縛るのはこの数字ではない。同じ12㎡の客室が、自治体の条例・規則しだいで定員2名にも4名にもなる。本稿では政令の条文を確認したうえで、条例・規則の上乗せがフィージビリティのどこに効くのかを、建築計画データと当社の価格データで定量化する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 1室あたり延床:建築計画上の建物全体の延床面積を計画客室数で除した値。客室専有部だけでなく、廊下・エレベーター・フロント・機械室などの共用部を含む。
- 有効面積:自治体条例・規則が収容定員の算定に用いる面積概念。寝室その他宿泊者の就寝・休憩の用に供する部分の床面積を指し、定義は自治体ごとに異なります。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築物動態統計調査」/各法令・自治体例規
- — 7㎡・寝台9㎡:旅館業法施行令第1条が定める旅館・ホテル営業の1客室の下限。簡易宿所営業は客室延床33㎡(10人未満は3.3㎡×人数)。
- — 定員の規定は政令にない:第1条第1項第8号ほかが条例に委任し、確認した自治体の旅館・ホテル営業の基準は1人あたり3.0〜4.5㎡に分布する。
- — 有効面積12㎡の洋室は新宿区で4名、栃木県で3名、京都市で2名。同じ図面でも所管自治体で販売できる人数が2倍変わる。
- — 延床1,000㎡の収容上限は216名(3.0㎡基準)対144名(4.5㎡基準)。1室面積が基準の整数倍から外れると上限の75〜82%まで目減りする。
- — 壁芯9.0㎡の客室は内法約8.1㎡で寝台下限に届かない。内法確保の上積み約0.93㎡は1室約68万円、200室で約1億3,500万円(S造・2025年単価)。
法定下限は7㎡・寝台ありは9㎡ — ただし定員の規定は政令に存在しない
まず条文を正確に押さえる。旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)第1条第1項第1号は、旅館・ホテル営業の施設について「一客室の床面積は、七平方メートル(寝台を置く客室にあつては、九平方メートル)以上であること」と定める。同条第2項第1号は簡易宿所営業について「客室の延床面積は、三十三平方メートル(法第三条第一項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を十人未満とする場合には、三・三平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること」とする。加えて簡易宿所には「階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね一メートル以上であること」という規定が置かれている。
この数字は2018年6月15日施行の改正で現在の形になった。それ以前はホテル営業と旅館営業が別立てで、ホテル営業は客室数10室以上、旅館営業は5室以上という最低客室数が課されていた。改正で両者は「旅館・ホテル営業」に統合され、最低客室数は撤廃されて1室からの営業が可能になり、寸法に関する細かな規定の多くも整理された。裏を返せば、現行の政令は「1室の下限面積」しか定めておらず、その客室に何人泊められるかについては一切触れていない。ここが本稿の出発点である。
では定員は誰が決めるのか。政令第1条第1項第8号は「その他都道府県(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市又は特別区)が条例で定める構造設備の基準に適合すること」と規定し、簡易宿所については第2項第7号、下宿営業については第3項第5号が同趣旨の委任を置く。この3つの号が、自治体の上乗せ条例が成立する法的な根拠である。つまり許可要件は政令で完結せず、必ず「政令 → 都道府県・保健所設置市・特別区の条例 → 同施行規則」という3階層を読み下さなければ確定しない。
| 階層 | 定めるもの | 本稿で確認した内容 |
|---|---|---|
| 政令(全国一律) 旅館業法施行令第1条 | 1客室の下限面積、玄関帳場、換気・採光・照明・防湿・排水、入浴設備、洗面設備、便所、風俗営業施設からの見通し遮蔽 | 旅館・ホテル営業 7㎡(寝台9㎡)/簡易宿所 延床33㎡・10人未満は3.3㎡×人数/階層式寝台の上下間隔おおむね1m。定員規定は無い |
| 条例(都道府県・保健所設置市・特別区) 政令第1条第1項第8号ほか | 政令に上乗せする構造設備基準。外観、客室の窓・施錠・間仕切り、玄関帳場の受付台、入浴・洗面・便所の詳細 | 横浜市は別表第1〜第4に基準を置き、収容定員は「規則で定める基準によること」と再委任。東京都も客室面積を「規則で定める構造部分の合計床面積」と規定し規則に委ねる |
| 規則・細則(同上) | 収容定員の算定式、面積の算定方法、様式 | 京都市は規則で洋室4.5㎡/和室3.3㎡につき1人。新宿区(有効面積3㎡につき1人、有効面積の算定方法は区規則)と栃木県(3.5㎡、寝台4.5㎡につき1人)は条例本体に明記 |
同じ12㎡が定員2名にも4名にもなる — 上乗せ条例の実務比較
収容定員の算定基準は自治体ごとに数字が違う。本稿で条文を確認できた範囲では、旅館・ホテル営業の定員基準は1人あたり3.0㎡から4.5㎡まで分布していた。これを客室面積に当てはめると、設計上の意味合いは大きく変わる。
| 自治体 | 旅館・ホテル営業の定員基準 | 簡易宿所営業 | 有効面積12㎡の客室の定員 |
|---|---|---|---|
| 国(旅館業法施行令) | 規定なし(1室7㎡・寝台9㎡の下限のみ) | 延床33㎡/10人未満は3.3㎡×人数 | 上限は条例で決まる |
| 東京都新宿区 | 有効面積3.0㎡につき1人 | 有効面積1.5㎡につき1人 | 4名 |
| 栃木県 | 有効面積3.5㎡(寝台を置く客室は4.5㎡)につき1人 | 1客室5㎡以上(10人未満は3.3㎡以上)、有効面積2㎡につき1人 | 3名(寝台ありは2名) |
| 京都市 | 洋室4.5㎡・和室3.3㎡につき1人(修学旅行等は洋室3㎡・和室2.5㎡) | 洋室3㎡(階層式寝台は2.25㎡)・和室2.5㎡につき1人 | 2名(洋室) |
| 横浜市 | 条例別表で「規則で定める基準によること」と再委任 | 同上(別表第3) | 規則の確認が必要 |
| 東京都(都所管区域) | 客室面積を「規則で定める構造部分の合計床面積」と規定し規則に委任 | 同上 | 規則の確認が必要 |
| 大分県 | 政令の基準に沿った運用(面積は内法で判定) | 政令どおり(延床33㎡/3.3㎡×人数) | 政令の下限のみ |
表の右端が実務上の結論である。12㎡の洋室は、新宿区なら4名、栃木県なら3名、京都市なら2名。同じ図面、同じ工事費でありながら、立地する自治体が変わるだけで売れる人数が2倍になる。インバウンドのファミリー・グループ需要を取りにいく計画ほど、この差は収益に直結する。
チャートは逆方向から同じことを示している。3名を収容したい場合、必要な有効面積は基準3.0㎡の自治体で9.0㎡、3.5㎡で10.5㎡、4.5㎡で13.5㎡。このうち9.0㎡と10.5㎡は政令の寝台下限9㎡とほぼ重なるため、基準の緩い自治体では「政令の下限をわずかに超える客室」がそのままトリプルとして成立する。一方で4.5㎡基準の自治体では13.5㎡が必要になり、政令の寝台下限9㎡の1.5倍にあたる。4名を狙うなら12.0㎡/14.0㎡/18.0㎡と差はさらに開く。
① 政令:1室7㎡/寝台9㎡、簡易宿所33㎡。全国共通で、ここは動かない。
② 条例:保健所設置市・特別区は都道府県と別の条例を持つ。政令指定都市・中核市に計画地がある場合、都道府県条例ではなく市条例が適用される。
③ 規則・細則:定員算定式と面積の算定方法はここに書かれていることが多い。条例だけ読んで止めると定員を読み違える。
客室面積は壁の内側(内法)で数えるのが一般的な運用である。壁芯で9.0㎡ちょうどに納めた設計は、壁厚150mmを想定すると内法で約8.1㎡となり、寝台を置く客室の下限9㎡を満たさない。内法9.0㎡を確保するには壁芯で約9.9㎡、1室あたり約0.9㎡の上積みが要る。
延床あたりの収容人数の上限は条例が決める — 1室面積の刻み方で最大3割強目減りする
ここからが事業計画の話である。延床1,000㎡のホテル専用棟を想定し、客室部分比率を65%(=有効な客室面積650㎡)とすると、1室の面積を変えたときに何が起きるか。
棒グラフの客室数は9㎡なら72室、13.5㎡なら48室、22.5㎡なら28室と、面積を広げるほど当然に減る。折れ線の収容人数には上限がある。4.5㎡基準の自治体なら650㎡÷4.5=144名、3.0㎡基準なら216名で、これは延床の客室部分と条例の基準だけで決まり、設計ではどう工夫しても超えられない。ただし定員は1室ごとに数え、端数は切り捨てられる。1室の有効面積が基準の整数倍でなければ、余った面積は誰も泊められない「端数」として消える。4.5㎡基準で11㎡の客室を59室造れば、1室2名で118名と上限の82%にとどまる。3.0㎡基準でも13.5㎡×48室は192名(上限の89%)である。
この構造が意味するのは明快である。延床あたりの収容力の天井を決めているのは設計ではなく、その自治体の1人あたり面積基準そのもので、設計にできるのは天井にどれだけ近づけるかだけだ。天井は4.5㎡基準と3.0㎡基準で144名対216名、比にして1.5倍の差がある。そして同じ12㎡の客室でも、3.0㎡基準なら1室4名×54室=216名で天井ちょうどだが、4.5㎡基準では1室2名×54室=108名と天井の75%まで落ちる。1室面積は自治体の基準の整数倍(3.0㎡基準なら9㎡・12㎡・18㎡、4.5㎡基準なら9㎡・13.5㎡・18㎡)に合わせて刻むのが、同じ延床から最も多くの定員を引き出す設計になる。用地取得のスクリーニング段階で条例を読む価値はここにある。
| 1室の有効面積 | 3.0㎡基準(上限216名) | 3.5㎡基準(上限185名) | 4.5㎡基準(上限144名) |
|---|---|---|---|
| 9㎡ | 3名×72室=216名(100%) | 2名×72室=144名(78%) | 2名×72室=144名(100%) |
| 10.5㎡ | 3名×61室=183名(85%) | 3名×61室=183名(99%) | 2名×61室=122名(85%) |
| 12㎡ | 4名×54室=216名(100%) | 3名×54室=162名(88%) | 2名×54室=108名(75%) |
| 13.5㎡ | 4名×48室=192名(89%) | 3名×48室=144名(78%) | 3名×48室=144名(100%) |
| 18㎡ | 6名×36室=216名(100%) | 5名×36室=180名(97%) | 4名×36室=144名(100%) |
| 22.5㎡ | 7名×28室=196名(91%) | 6名×28室=168名(91%) | 5名×28室=140名(97%) |
ただし、収容力が同じでも収益が同じになるわけではない。当社が集計したビジネスホテルの推定成約ADR(直近12ヶ月平均)は東京都で約14,200円(N=894〜924施設)、大阪府で約10,000円(N=487〜503施設)、福岡県で約10,900円(N=331〜341施設)、北海道で約8,900円(N=419〜441施設)である。これらは2名1室を前提とした水準であり、3名室・4名室の単価が人数に比例して伸びる保証はない。室数を減らして大部屋化する判断は、1室あたり単価の上昇幅と、客室扉・ユニットバス・空調機・清掃工数といった1室単位で発生する固定的コストの削減幅を突き合わせて決めることになる。面積を広げること自体が収益機会になるのは、ファミリー・グループの需要が厚く、1名あたり単価を落とさずに3名以上を収容できる商圏に限られる。
左のチャートは建築計画ベースの実勢である。主要用途がホテル単独で10階建て以上・100室以上の計画(N=13件)を抽出すると、1室あたり延床の中央値は18.2㎡、四分位範囲は15.9〜21.5㎡だった。寝台を置く客室の法定下限9㎡に対して約2.0倍である。差分は廊下・エレベーター・階段・フロント・バックヤード・機械室といった共用部で、法定下限の議論をするときも、延床としては倍近くを見込む必要があるという当たり前だが見落とされやすい事実を示している。1室あたり延床のばらつきについてはホテル1室あたりの延床は13〜196㎡ — 同じ5,000㎡が25室にも305室にもなるでより広い母集団を分析している。
右のチャートは、そもそもどの営業種別の基準が効いてくるのかという話である。2026年の新規開業1,592施設のうち、貸別荘・ゲストハウス・ホステル・コテージ・町家・民宿・ペンション・ロッジ・グランピング・キャンプ場といった小規模カテゴリが1,171施設(73.6%)を占めた。2023年73.1%、2024年73.3%、2025年69.9%と、この比率は一貫して7割前後で推移している。1施設あたりの平均客室数も2024年20室、2025年24室、2026年25室と小さい。これらの多くは簡易宿所営業で運営されるため、現在の新規供給の主流にとって、実際に効く法定基準は7㎡/9㎡ではなく「客室延床33㎡、10人未満なら1人3.3㎡」の側である。1室からの営業が可能になった2018年改正の影響については旅館業法とは?2026年最新版の要点と「1室営業解禁」の影響を新規開業554軒データで解説で整理している。
設計段階のコスト — 壁芯9.0㎡で納めると1室あたり約68万円の手戻り
面積基準は、満たさなければ許可が下りないという意味で二値的な制約である。わずかに届かなくても救済はない。ここで実務上いちばん多い取りこぼしが、内法と壁芯の取り違えである。
壁芯で2.50m×3.60m=9.00㎡と納めた客室は、壁厚150mmを見込むと内法で2.35m×3.45m=8.11㎡となり、寝台を置く客室の下限9㎡を満たさない。内法で9.00㎡を確保するには壁芯で約9.93㎡が要る。差は1室あたり約0.93㎡である。
これを建設費に置き換える。国土交通省の建築着工統計に基づく2025年実績のホテル建築費はS造で坪240.5万円(=約72.8万円/㎡)であり、0.93㎡の上積みは1室あたり約68万円、200室規模なら約1億3,500万円に相当する。さらに施工期間の建設費インフレを織り込むと数字は上がる。2029年開業・2027〜2029年施工を想定し、中間時点までを年5.3%(2026年)・5.0%(2027年)・4.5%(2028年)で複利にすると単価は約84.1万円/㎡となり、同じ0.93㎡が1室あたり約78万円、200室で約1億5,600万円になる。
| 項目 | 2025年実績ベース | 建設期間インフレ織込み後(2028年中間時点) |
|---|---|---|
| ホテル建築費(S造) | 坪240.5万円=約72.8万円/㎡ | 約84.1万円/㎡ |
| 内法確保に要する上積み | 1室あたり約0.93㎡(壁芯9.00㎡→約9.93㎡) | |
| 1室あたり追加コスト | 約68万円 | 約78万円 |
| 200室規模の追加コスト | 約1億3,500万円 | 約1億5,600万円 |
もっとも、この金額は「後から気づいた場合の手戻り」ではなく「設計初期に織り込めば済む前提条件」でもある。基本設計の段階で内法基準と自治体の定員算定式を先に固定しておけば、追加コストではなく当初予算の一部として吸収できる。建設費上昇そのものは新規供給を抑制する方向にも働くため、既存ストックを持つ側にとっては競争環境の緩和というアップサイド要因にもなる。用地側の規制コストについてはホテル用地の条例手続は15〜60日 — 中高層条例7自治体比較と1室あたり保有コスト、容積率の側からの検討はホテルの容積率緩和で100室が151〜168室にが参考になる。
取得側・開発側のチェックリスト — 条例を読む順番
① 所管はどこか
保健所設置市・特別区は都道府県とは別の条例を持つ。政令指定都市・中核市に計画地がある場合、都道府県条例ではなく市条例が適用される。県境・市境をまたぐ候補地の比較では、まず所管保健所を特定する。
② 定員はどこに書いてあるか
収容定員は条例本体ではなく規則・細則に置かれていることが多い。横浜市は条例別表で「規則で定める基準によること」、東京都は客室面積を「規則で定める構造部分の合計床面積」として規則に委ねている。条例だけで判断しない。
③ 面積は内法か壁芯か
客室面積は壁の内側で判定される運用が一般的で、押入・浴室・便所の算入可否も自治体で異なる。基本設計の初期に所管保健所へ算定方法を確認し、壁芯ベースの図面から内法を逆算しておく。
④ 営業種別で基準が変わる
旅館・ホテル営業は1室7㎡(寝台9㎡)、簡易宿所営業は客室延床33㎡(10人未満は3.3㎡×人数)。1棟貸し・ホステル型は後者の基準で設計するのが通常で、階層式寝台の上下間隔おおむね1m以上も効いてくる。
⑤ 既存改修は経過措置を確認
横浜市の条例附則のように、施行日前から存する施設には従前の基準が適用される一方、改修する部分に限って新基準が適用される定めが置かれていることがある。既存取得後のリノベーション計画では、どの部分に新基準が及ぶかが論点になる。
⑥ 面積以外の上乗せも読む
玄関帳場の受付台の構造、共同浴室の脱衣室と上がり湯栓の数、便所の換気・不浸透性材料、客室の採光窓と施錠など、条例は面積以外にも具体的な要求を置く。面積だけ合わせても許可は通らない。
まとめ — 法定下限より、条例の1人あたり面積を先に読む
旅館業法施行令が定める客室の下限は、旅館・ホテル営業で7㎡、寝台を置く客室で9㎡、簡易宿所営業で客室延床33㎡(宿泊者10人未満なら1人3.3㎡)である。2018年6月15日の改正で最低客室数が撤廃されて以降、この面積基準が政令側に残る主な数値的制約になった。
しかし政令には定員の規定がなく、政令第1条第1項第8号・第2項第7号・第3項第5号が自治体の条例に委任している。本稿で確認した範囲でも、旅館・ホテル営業の定員基準は1人あたり3.0㎡から4.5㎡まで分布し、同じ12㎡の洋室が自治体によって2名にも4名にもなった。延床1,000㎡・客室部分65%のモデルでは、収容人数の上限は基準4.5㎡で144名、3.0㎡で216名と条例だけで決まり、延床あたりの収容力の天井を決めているのは設計ではなく条例そのものである。設計はその天井にどれだけ近づけるかを決め、1室面積が基準の整数倍から外れると、表3の刻みでも最大25%、4.5㎡基準で13㎡台の客室なら3割超を取りこぼす。
一方で、新規供給の7割超は簡易宿所営業で運営されることの多い小規模カテゴリが占めており、この層にとって効いてくるのは7㎡/9㎡ではなく33㎡・3.3㎡の側である。用地のスクリーニングやDDの初期段階では、政令の数字を確認して終わりにせず、所管自治体の条例と規則まで降りて定員算定式と面積の算定方法を押さえておきたい。設計初期に織り込めば予算の一部で済むものが、後から効くと手戻りになる。
⚠ 法令の適用に関する注意:本記事は調査時点で公開されている法令・条例・規則をもとに整理したものです。条例・規則は改正されることがあり、また面積の算定方法や定員の扱いは所管保健所の運用によって異なる場合があります。個別のプロジェクトにおける適用判断は、必ず所管保健所および設計者・専門家にご確認ください。本記事の試算は簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
法令は e-Gov 法令検索の旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)第1条の現行条文、自治体基準は各自治体の例規集・保健所の審査基準(新宿区・栃木県・京都市・横浜市・東京都・大分県の6自治体、2026年9月確認)。ビジネスホテルの推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの都道府県別月次集計(2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均、N=各月の集計対象施設数)、新規開業のカテゴリ構成は同社のOTA掲載確認ベースの集計、1室あたり延床は国土交通省「建築物動態統計調査」の建築計画(主要用途ホテル単独・10階建て以上・100室以上)。
■ 試算前提
収容力モデルは延床1,000㎡・客室部分比率65%(650㎡)・全室同一面積とし、1室の定員=有効面積÷1人あたり基準(端数切り捨て)、室数=650㎡÷1室面積(端数切り捨て)で算定。理論上限は650㎡÷基準。内法換算は壁厚150mm・内法アスペクト比約0.68、建築費は国土交通省「建築着工統計」に基づく2025年実績のS造坪240.5万円(約72.8万円/㎡)、インフレは年5.3%/5.0%/4.5%の複利(2028年中間時点で約84.1万円/㎡)。
■ 限界・留意点
自治体基準は6自治体の抽出確認であり悉皆調査ではない。横浜市・東京都(都所管区域)は定員基準を規則に委任しており本稿では数値を確認していない。有効面積の算定範囲(浴室・便所・押入の除外等)は自治体ごとに異なり、京都市は修学旅行等の団体では洋室3㎡・和室2.5㎡の特例がある。宿泊室の収容人員は消防法令上の算定(大分県の案内では旅館・ホテル営業の洋室はベッド数、和室は床面積6㎡につき1人)も別途関わる。推定成約ADRは2名1室前提の推定値で、3名室・4名室の単価を示すものではない。
■ 法令(一次情報)
■ 自治体例規・公表基準
- 横浜市旅館業法施行条例(平成15年条例第2号、令和7年条例第47号改正)
- 東京都旅館業法施行条例 — 東京都例規集データベース
- 栃木県旅館業法施行条例
- 京都市「旅館業施設の構造設備の基準について」/京都市旅館業法の施行及び旅館業の適正な運営を確保するための措置に関する規則第11条
- 大分県「旅館業の構造基準」
- 新宿区保健所「旅館業 審査基準」(新宿区旅館業法施行条例第5条の定員基準)
- 大阪市「旅館業法に関するガイドライン」(令和5年12月)
■ 制度改正の経緯
■ 市場データ・統計
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(ビジネスホテル、直近12ヶ月)、新規開業のカテゴリ別構成(OTA掲載確認ベース)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」 — ホテル建築計画の延床面積・計画客室数
- 国土交通省「建築着工統計」 — ホテル建築費(2025年実績、構造別坪単価)
