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本所吾妻橋にホテル開業、2028年2月にKOKO HOTEL Residence 45室 — 1km圏4,438室と必要ADR

投稿日 : 2026.11.01

東京都

投資・開発

本所吾妻橋にホテル開業、2028年2月にKOKO HOTEL Residence 45室 — 1km圏4,438室と必要ADR

ポラリス・ホールディングス(3010)は2025年2月21日、連結子会社のフィーノホテルズがミサワホームとの間で、東京都墨田区の押上と吾妻橋に建設予定のホテル2物件について賃貸借契約の締結に向けた基本合意書を結ぶと開示した。このうち「(仮称)KOKO HOTEL Residence 本所吾妻橋」は墨田区吾妻橋3丁目、都営浅草線の本所吾妻橋駅から徒歩1分に立地し、客室数45室(予定)、運営開始は2028年2月頃(予定)のアパートメントホテルである。同時に発表された押上の物件は「KOKO HOTEL Residence 東京押上」として2026年7月16日に開業済みだ。本稿では、駅1km圏の客室ストック、墨田区と台東区の推定成約ADR、多人数で泊まれる客室の価格帯、浸水想定を重ね、45室の計画が採算に乗るための単価水準を逆算する。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)

本記事の客室ストックは、本所吾妻橋駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。メトロエンジンリサーチは国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としている。

計画客室数
45室
延床2,042.57㎡・10階
駅1km圏 稼働中客室
4,438室
60軒(掲載94軒6,316室)
墨田区 推定成約ADR
¥14,300
2026年9月・N=30
墨田区 稼働率(推定)
86.3%
2026年9月・26施設/3,181室
必要ADR(基準ケース)
¥1.5〜1.9万
NOI利回り4.5%・通年稼働85%

結論を先に述べると、45室を一般的な客室として売る前提では、必要ADRは1.5万〜1.9万円程度となり、墨田区の標準的な施設の水準(直近12ヶ月平均で約1.53万円)とほぼ重なるか、やや上回る。一方で、1室あたり延床約45㎡という床の大きさは、2名でも4名でも同じ室料で売る「1室単価型」の客室と同じ造りであり、周辺の同型施設の推定成約ADRは中央値で約3.7万円に達する。計画の採算を左右するのは立地の単価水準よりも、多人数・連泊の需要を客室の広さでどこまで単価に変えられるかだといえる。

Key Takeaways
  • — 45室・2028年2月頃開業予定:ポラリス・ホールディングスとミサワホームの基本合意(2025年2月21日開示)。一部固定賃料を含む変動賃料型の長期賃貸借を予定する。
  • — 駅1km圏の稼働中客室は60軒・4,438室(2026年10月27日時点)。45室は約1.0%の上積みで、既存客室の約88%が2010年以降の開業。
  • — 墨田区の推定成約ADRは14,278円(2026年9月・N=30、前年同月比−3.3%)。1〜9月平均は14,878円で台東区(13,912円)を約1,000円上回る。
  • — 必要ADRは1.51万〜1.87万円(NOI利回り4.5%・通年稼働率85%・NOI率35%の試算)。墨田区の直近12ヶ月平均15,340円とほぼ重なる。
  • — 1室単価型の推定成約ADRは中央値約3.7万円(2026年9月・6施設)。広い客室を2名でも室料が落ちない形で売れるかが上振れ余地を決める。

計画概要 — 45室・延床2,042㎡、一部固定を含む変動賃料型の長期賃貸借

開示資料によると、本物件はミサワホームが建設し、フィーノホテルズが賃借して運営する。賃貸借は「一部固定賃料を含む変動賃料型の長期の賃貸借契約」を予定しており、ポラリスは同じ開示の中で「収益性の高いミドルリスク・ミドルリターンでのホテル運営」と位置づけている。国土交通省の建築物動態統計調査に基づく建築計画データでは、墨田区吾妻橋3丁目の計画は10階建て・延床面積2,042.57㎡、着工2026年6月15日、完成予定は2028年1〜2月とされ、建築主はミサワホームである。

計画概要((仮称)KOKO HOTEL Residence 本所吾妻橋)
項目内容
名称(仮称)KOKO HOTEL Residence 本所吾妻橋
所在地東京都墨田区吾妻橋3丁目(都営浅草線 本所吾妻橋駅 徒歩1分)
客室数45室(予定)
運営開始2028年2月頃(予定)
業態アパートメントホテル(KOKO HOTEL Residence)
建物10階建て・延床2,042.57㎡(1室あたり約45.4㎡)
工期着工2026年6月15日 → 完成予定2028年1〜2月
契約形態一部固定賃料を含む変動賃料型の長期賃貸借(予定)
用途地域(駅周辺)商業地域・容積率500%・建蔽率80%

出典:ポラリス・ホールディングス適時開示(2025年2月21日)、国土交通省「建築物動態統計調査」、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

固定と変動を組み合わせた賃料は、オーナーにとっては下限の収入を確保しながら、客室売上が伸びた局面の上振れも取り込める構造である。言い換えれば、オーナーは売上連動部分を通じて単価と稼働の変動を一部引き受け、その対価として上振れの取り分を得る。したがって、オーナー側の投資判断では「運営者がどの単価で売れるか」が利回りに直接効いてくる。後半の必要ADRの試算は、この売上連動部分を前提に置いている。

ポラリスは同じ商圏で「KOKO HOTEL Residence」の出店を重ねている。押上1丁目の「KOKO HOTEL Residence 東京押上」は全25室・全室42㎡以上、キッチンと洗濯機を備え、大人最大7名まで泊まれる(添い寝を含む)造りで2026年7月16日に開業した。台東区花川戸の「KOKO HOTEL Residence 浅草二天門」(全39室・33.5〜55.9㎡)も2026年12月17日の開業を予定している。本所吾妻橋の45室は、隅田川の両岸で同じ型の客室を面で揃える計画の一部と読める。

駅1km圏の客室ストック — 稼働中4,438室の88%が2010年以降の開業

本所吾妻橋駅から半径1kmの円は、隅田川を挟んで浅草駅・雷門周辺と押上駅の手前までを含む。この圏内で主要予約サイトに掲載されている宿泊施設は94軒・6,316室、うち直近3ヶ月に販売価格が確認できた稼働中の施設は60軒・4,438室である。45室はこの稼働中ストックに対して約1.0%の上積みにあたり、単独で需給を動かす規模ではない。

注目したいのは開業年代の構成だ。稼働中の4,438室のうち、2010年代開業が1,964室、2020年代開業が1,963室で、合わせて3,927室(約88%)が2010年以降に開業した客室である。訪日需要の拡大とともに浅草対岸まで新しい宿泊施設が広がってきた結果であり、商圏の宿泊施設が比較的新しいことは、新規参入の物件でも設備面で埋没しにくい一方、価格以外の差別化軸が求められることを意味する。対岸の浅草寺側1km圏で客室ストックがどう積み上がってきたかは、浅草二丁目に野村不動産のホテル2件 — 浅草寺1km圏の客室供給で詳しく分析している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(本所吾妻橋駅1km圏・稼働中60軒/4,438室、2026年10月27日時点)

本所吾妻橋駅1km圏 稼働中の宿泊施設(区分別、2026年10月27日時点)
区分稼働中 施設数稼働中 客室数構成比
ビジネスホテル333,42277.1%
ホステル2078217.6%
デラックスホテル11343.0%
旅館4561.3%
シティホテル1310.7%
ゲストハウス1130.3%
合計604,438100%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(区分は当社の施設分類、2026年10月27日時点)

規模別に見ると、稼働中のうち50室以下の施設は32軒あるが客室数では796室(約18%)にとどまり、客室の多くは101室以上の施設(15軒・2,624室)に集まっている。45室の計画は軒数の多い小規模帯に入るため、大型のビジネスホテルと同じ土俵で単価を競うよりも、客室の広さや滞在機能で別の需要を取りにいく位置取りが自然だろう。

地図では、稼働中の施設を客室数に応じた円で示し、背景に250mメッシュ単位の居住人口を重ねた。施設は浅草駅・雷門周辺の対岸側に集中し、本所吾妻橋駅の東側は相対的に宿泊施設が少なく住宅の多い地域であることがわかる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働中60軒)/国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)

半径1km圏の居住人口は2025年時点で63,749人、2040年には66,452人と約7.8%の増加が見込まれている(2020年比)。経済センサスでは同じ1km圏に事業所4,695、従業者43,696人が立地し、うちオフィス系の従業者は12.3%である。都心の業務地区ほどの出張需要の厚みはないが、居住人口が増える地域であることは、近隣住民の親族訪問や転居前後の仮住まいといった中長期の滞在需要と相性がよい。

出典:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)、総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」

交通面では、本所吾妻橋駅の乗降客数は2019年の19,630人から2020年に14,500人まで落ち込んだ後、2023年には20,350人と2019年を上回った。浅草線の浅草駅と押上駅の間にある駅で、同線は京急線・京成線と直通運転しているため羽田・成田の両空港方面へのアクセスがよく、大きな荷物を持つ訪日の家族客にとって利点になる。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(国土数値情報 駅別乗降客数)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

墨田区と台東区の推定成約ADR — 墨田区は1〜9月平均1.49万円、台東区を上回る水準

墨田区の推定成約ADRは2026年9月に14,278円(N=30)で、前年同月の14,760円から−3.3%だった。隣接する台東区の同月は13,366円(N=176)で前年同月比+4.4%である。単月では墨田区が前年を下回ったが、2026年1〜9月の平均で見ると墨田区は14,878円と前年同期(14,716円)を+1.1%上回り、台東区の13,912円(同+1.3%)より約1,000円高い水準を保っている。

月別の形も両区でよく似ており、4月の桜の時期にピークを迎え、6〜8月に谷をつくる。2026年4月の墨田区は19,462円(前年同月比+6.2%)で年間の山となった一方、8月は11,939円(同−14.7%)まで下がった。夏の谷の深さは、多人数・連泊の家族需要を取り込むことで和らげられる余地がある部分だ。なお墨田区の集計対象は27〜31施設と台東区(161〜180施設)より少なく、1施設の価格変化が中央値に効きやすい点には留意したい。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR、墨田区N=27〜31施設・台東区N=161〜180施設)

需要の強さは稼働率にも表れている。2026年6〜9月の推定稼働率は、墨田区が86.3〜89.2%(対象24〜26施設/客室3,126〜3,181室、主要予約サイト掲載ベース)、台東区が89.6〜91.8%(対象143〜146施設/客室13,247〜13,647室、同)で推移した。夏の閑散期でも9割前後の在庫が消化されている計算であり、商圏の需要そのものは厚い。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働率は主要予約サイト上の販売在庫の消化状況に基づく推定値で、施設全体の実稼働率とは異なる)

多人数で泊まれる客室の価格帯 — 1室単価型は2名でも3.4万円、4名なら1人9,500円

アパートメントホテルの収益性を測るには、同じ客室を2名で売る場合と4名で売る場合の価格差を見る必要がある。駅1km圏の稼働中施設のうち、2026年11月10〜16日の宿泊日について2名1室と4名1室の最安掲載価格が同時に確認できた53施設を、同一施設内で比較した。4名料金が2名料金の1.4倍以内に収まる施設を「1室単価型」(14施設・600室)、それを超える施設を「人数比例型」(39施設・3,564室)として、それぞれの中央値を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格・最安プラン・税込、2026年11月10〜16日宿泊分、同一施設で2名・4名の価格が確認できた53施設)

2名1室・4名1室の掲載価格比較(2026年11月10〜16日宿泊分、53施設)
区分施設数(客室数)2名1室4名1室4名時の1人あたり4名/2名
1室単価型14(600室)¥34,292¥37,889¥9,4721.05倍
人数比例型39(3,564室)¥17,650¥39,134¥9,7842.26倍

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(各区分の施設別中央値の中央値、掲載価格・税込)

結果は対照的である。4名で泊まる場合の1室料金はどちらも約3.8万〜3.9万円、1人あたり9,500〜9,800円とほぼ同じ水準に収まった。違いが出るのは2名利用時で、1室単価型の中央値は約3.4万円と、人数比例型(約1.8万円)の約1.9倍の室料を2名からでも得ている。広い客室を「部屋」として売る型は、利用人数が少ない日でも室料が落ちにくく、ADRの水準を押し上げる。

推定成約ADRで見ても同じ傾向が確認できる。1室単価型のうち推定成約ADRが算出できる6施設の中央値は2026年9月で約3.7万円と、墨田区全体の中央値(14,278円)の約2.6倍だった。KOKO HOTEL Residence 本所吾妻橋は1室あたり延床約45㎡で、共用部を差し引いても東京押上(全室42㎡以上)に近い客室面積が見込まれる。この型の客室が周辺で実現している単価帯に乗れるかどうかが、計画の上振れ余地を決めるだろう。

供給パイプライン — 墨田区・台東区の確認申請ベースでは6件・356室

建築物動態統計調査に基づく計画データで、墨田区・台東区のホテル用途の建築計画(客室数の記載があるもの)を拾うと、本所吾妻橋の45室を含めて6件・356室が確認できる。浅草1丁目(40室・2027年8月完成予定)、浅草3丁目(40室)、浅草6丁目(29室)など、多くは50室以下の小規模な計画である。

墨田区・台東区のホテル建築計画(確認申請ベース、客室数記載のあるもの)
所在地客室数階数延床面積完成予定
墨田区吾妻橋3丁目(本件)45室10階2,042.57㎡2028年1〜2月
台東区浅草1丁目40室9階1,962.70㎡2027年8月
台東区浅草3丁目40室9階525.52㎡2026年10月
台東区浅草6丁目29室8階1,146.32㎡2026年10月
台東区根岸2丁目34室10階1,052.17㎡2026年5月
台東区竜泉2丁目168室—3,165.16㎡2025年11月

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。※調査時点での確認申請ベース。今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値として参照

延床面積を客室数で割ると、本件は約45㎡、浅草1丁目の計画は約49㎡と広めで、浅草3丁目(約13㎡)や根岸2丁目(約31㎡)とは客室の造りが異なる。同じ小規模帯の中でも、広い客室で多人数・連泊を取りにいく計画と、コンパクトな客室で回転を重視する計画に分かれつつあり、浅草・押上の商圏で供給の性格が多様化していることがうかがえる。

土地と災害リスク — 公示地価は前年比+13〜21%、荒川の想定最大規模で浸水想定区域

周辺の公示地価(2026年1月1日時点)は、押上駅に近い墨田区業平2丁目の商業地が1㎡あたり96万円(前年比+13.6%)、押上1丁目が144万円(同+15.2%)、隅田川対岸の台東区雷門1丁目は170万円(同+21.4%)だった。浅草側の地価上昇率が一段高く、対岸の墨田区側は土地コストを抑えながら浅草の需要にアクセスできる位置にある。

周辺の公示地価(2026年1月1日時点)
標準地用途地域価格(円/㎡)前年比駅からの距離
墨田区東駒形2丁目近隣商業地域755,000+13.9%浅草 570m
墨田区業平2丁目商業地域960,000+13.6%押上 160m
墨田区本所2丁目準工業地域697,000+13.5%本所吾妻橋 930m
墨田区押上1丁目商業地域1,440,000+15.2%押上 200m
台東区雷門1丁目(27番)商業地域1,700,000+21.4%浅草 280m

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・2026年1月1日時点)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

災害面では、駅周辺は荒川が想定最大規模の降雨で氾濫した場合の洪水浸水想定区域に含まれ、浸水深のランクは0.5m以上3.0m未満とされる。墨田区を含む江東5区は2018年に大規模水害ハザードマップを公表し、最悪の場合には浸水が2週間以上続く想定のもとで区外への広域避難を呼びかけている。想定最大規模は千年に一度程度の規模とされるが、長期の資産保有を前提とする投資では、建物仕様に織り込むべき前提条件となる。江東5区の既存ホテルがどの程度この浸水想定区域に立地しているかは、江東5区のホテル客室と洪水浸水想定区域 — 147施設の立地評価が施設単位で整理している。

具体的には、受変電設備や非常用発電機を浸水深より上の階に置くこと、出入口への止水板の設置、浸水時に客室階で滞在を続けられるための飲料水・非常用電源の確保などが考えられる。10階建てでキッチンを備えた客室は、垂直避難の受け皿として地域の防災に役立つ可能性もある。こうした対策はBCP関連の設備投資として当初の建築費に含めておくのが合理的であり、後述の試算でも建設費インフレを織り込んだケースを置いた。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(洪水浸水想定区域・想定最大規模)、江東5区広域避難推進協議会「江東5区大規模水害ハザードマップ」

必要ADRの逆算 — 総投資16〜20億円で、NOI利回り4.5%なら1.5万〜1.9万円

最後に、オーナー側の目線で45室が求める単価水準を逆算する。前提は次のとおりで、いずれも公開情報に基づく仮定である。土地は、容積率500%を上限まで使ったと仮定した最小の敷地面積(2,042.57㎡÷5=約408.5㎡)に、最寄りの商業地の公示地価(業平2丁目・1㎡あたり96万円)を掛けて約3.9億円と置いた。建築費は延床約617.9坪に、国土交通省の建築着工統計に基づく2025年の坪単価(RC造202.6万円、S造240.5万円)を掛けた。さらに、工期中の建設費上昇(年+5%程度)を2年分織り込んだケースも置いた(工事費上昇を発注者と施工者のどちらが負担するかはホテル工事費が上がったら誰が払うかを参照)。

収入側では、固定+変動賃料のもとでオーナーに残るNOIを客室売上の35%と仮定した。インヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営ホテルのGOP率は38.9%(2024年12月期)で、宿泊特化型では50〜60%が業界の目安とされる。運営が軽いアパートメントホテルのGOPのうち賃料として売上の約4割がオーナーに支払われ、公租公課・保険・修繕積立に売上の約5%を充てるイメージである。稼働率は、墨田区の2026年6〜9月の推定稼働率(86〜89%)よりやや保守的に85%とした。

必要ADRの試算(ケース×NOI利回り、通年稼働率85%・NOI率35%)
ケース総投資額1室あたりNOI利回り4.0%4.5%5.0%
RC造・2025年実績ベース16.4億円3,653万円¥13,500¥15,100¥16,800
S造・2025年実績ベース18.8億円4,174万円¥15,400¥17,300¥19,200
RC造・インフレ織込み17.7億円3,931万円¥14,500¥16,300¥18,100
S造・インフレ織込み20.3億円4,504万円¥16,600¥18,700¥20,700

出典:国土交通省「建築着工統計」、国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)、インヴィンシブル投資法人IR資料等をもとにメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。総投資額は土地+建築費で、設計監理費・家具備品・開業準備費は含まない。必要ADRは税抜相当・通年稼働率85%・NOI率35%の仮定

NOI利回り4.5%を基準にすると、必要ADRは1.51万〜1.87万円となる。墨田区の推定成約ADRの直近12ヶ月平均(2025年10月〜2026年9月)は15,340円で、RC造の2025年実績ベースならほぼ区の標準的な施設の水準で届く計算だ。S造やインフレ織込みのケースでは区の中央値を上回る単価が求められるが、前節で見た1室単価型の推定成約ADR(中央値約3.7万円)と比べれば十分に下の水準にある。広い客室を多人数・連泊向けに売る前提なら、試算上の必要単価には相応の上振れ余地があるといえる。

必要ADRの感度(S造・インフレ織込み、NOI利回り4.5%)
感度(S造・インフレ織込み、NOI利回り4.5%)条件必要ADR
稼働率80%¥19,800
稼働率(基準)85%¥18,700
稼働率90%¥17,600
NOI率30%¥21,800
NOI率40%¥16,300

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要)

稼働率とNOI率を同時に動かすと、必要ADRの幅は次のように広がる。S造・インフレ織込み(総投資額20.3億円)のケースでNOI利回り4.5%を求める場合、通年稼働率85%・NOI率35%の基準セルは18,700円だが、稼働率80%・NOI率30%まで下振れると23,100円、稼働率90%・NOI率40%まで上振れると15,400円となる。区の直近12ヶ月平均(15,340円)で届くのは、NOI率45%で通年稼働率85%以上か、NOI率40%で通年稼働率95%の組み合わせに限られる。

必要ADRの2軸感度(S造・インフレ織込み、NOI利回り4.5%、税抜相当)
通年稼働率 \ NOI率25%30%35%40%45%
75%¥29,600¥24,700¥21,200¥18,500¥16,500
80%¥27,800¥23,100¥19,800¥17,400¥15,400
85%¥26,100¥21,800¥18,700¥16,300¥14,500
90%¥24,700¥20,600¥17,600¥15,400¥13,700
95%¥23,400¥19,500¥16,700¥14,600¥13,000

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(総投資額×4.5%÷(NOI率×45室×365日×稼働率)、100円単位で四捨五入)

感度を見ると、稼働率5ptの差で必要ADRは約1,100円動き、NOI率5ptの差では2,400〜3,100円動く。賃料の固定部分と変動部分の配分はNOI率に直結するため、オーナーにとっては稼働率の見通し以上に、変動賃料の算定方法が利回りを左右する。建設費の上昇は新規供給を抑える方向にも働くため、着工済みの本件にとっては、同じ商圏で後に続く計画との競合が緩やかになるアップサイドの面もある。

まとめ — 隅田川対岸で「部屋を売る」客室の単価を取りにいく計画

KOKO HOTEL Residence 本所吾妻橋の45室は、稼働中4,438室を抱える駅1km圏に対して約1%の上積みであり、量で市場を動かす計画ではない。墨田区の推定成約ADRは2026年1〜9月平均で1.49万円と台東区を上回り、推定稼働率も夏場で86〜89%と需要は厚い。オーナー側の必要ADRは試算上1.5万〜1.9万円程度で、区の標準的な水準と重なるが、1室あたり約45㎡の床を「部屋」として売れれば、周辺の同型施設が示す3万円台の単価帯がアップサイドとして視野に入る。浸水想定に備えた設備仕様を初期投資に織り込みつつ、多人数・連泊の需要を単価に変える運営ができるかどうかが、2028年2月の開業後に注目したい点である。

⚠ 将来日程の価格に関する注意:本記事の2名・4名の価格比較(2026年11月宿泊分)は調査時点で主要予約サイトに公開されている掲載価格であり、宿泊日に近づくにつれて変動します。現時点の価格が直前に調整される可能性がある点にご留意ください。開業時期・客室数は各社の開示時点の予定であり、変更される場合があります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格・在庫データ(本所吾妻橋駅1km圏の客室ストック、墨田区・台東区の推定成約ADRと推定稼働率、同一施設の2名・4名の掲載価格比較53施設)、ポラリス・ホールディングスの適時開示とプレスリリース、国土交通省の建築物動態統計調査・建築着工統計調査・地価公示・洪水浸水想定区域・国土数値情報、総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」。

■ 試算前提

総投資額=土地(容積率500%を上限まで使ったと仮定した最小敷地約408.5㎡×業平2丁目の公示地価96万円/㎡=約3.9億円)+建築費(延床約617.9坪×2025年の構造別坪単価 RC造202.6万円・S造240.5万円、インフレ織込みケースは年+5%×2年分)。必要ADR=総投資額×NOI利回り÷(NOI率×45室×365日×稼働率)で、基準ケースはNOI率35%・通年稼働率85%、税抜相当。設計監理費・家具備品・開業準備費は含まない。

■ 限界・留意点

推定成約ADR・推定稼働率はOTA公開データに基づく推定値で、各施設の実績値とは異なる。墨田区の集計対象は27〜31施設と少なく、1施設の価格変化が中央値に効きやすい。2名・4名の価格比較は2026年11月10〜16日宿泊分の調査時点の掲載価格で、宿泊日までに変動しうる。賃料の固定・変動の配分、実際の敷地面積と建築費は開示されていないため、NOI率と総投資額は公開情報に基づく仮定であり、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要となる。

■ 市場データ

■ 一次情報・企業開示

■ 政府統計・公的データ

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