トップ > 投資・開発 > 大人専用ホテル10.9万室は客室数5位 — 5,640施設を県別・駅距離・用途地域で数える

大人専用ホテル10.9万室は客室数5位 — 5,640施設を県別・駅距離・用途地域で数える

投稿日 : 2026.09.11

指定なし

投資・開発

大人専用ホテル10.9万室は客室数5位 — 5,640施設を県別・駅距離・用途地域で数える

宿泊施設の客室ストックを業態別に数えると、ビジネスホテル・旅館・シティホテル・リゾートホテルに次ぐ第5位に、あまり集計対象にならないカテゴリが入る。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する国内宿泊施設データベースを集計すると、OTA上で「大人専用」に分類される施設は5,640施設・109,312室にのぼり、カプセルホテル(45,564室)の2.4倍、デラックスホテル(39,591室)の2.8倍の規模を持つ。

本稿では、この客室ストックを規模・地理分布・1施設あたり室数・掲載価格帯・駅からの距離・用途地域の6つの軸で数え、一般宿泊需要への接続と転用時に確認すべき実務論点を整理する。読者として想定するのは、既存ストックの取得を検討する投資家、運営受託の対象を探すホテル運営会社、案件を組成する仲介である。

本記事における指標の定義と母集団

  • 「大人専用」の定義:OTA上で用いられる施設分類のひとつで、宿泊対象を成人に限定して掲載されている施設を指す。この分類には、旅館業法上の営業許可を得て一般のホテルと同様に運営される施設、温浴設備や大型テレビなどを備えた滞在特化型の施設、デザイン性を打ち出したレジャー型の施設などが混在しており、個別の許認可区分や営業形態はOTAの掲載情報からは判別できない。本稿は分類そのものの実態を論じるものではなく、この分類に紐づく客室ストックの規模と分布を数えることを目的とする。
  • 掲載価格(全プラン平均):各施設がOTA上で公開している販売価格の平均値。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)、素泊まりから食事付きまでの全プランを含む。実際の成約価格とは異なる。
  • 推定成約ADRを用いない理由:当社の推定成約ADR(掲載価格に業態別補正係数を適用し、上場REITの物件別開示実績と照合して算出する指標)は、ビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセルの5業態でのみ検証済みである。「大人専用」は検証対象外のため、本稿の価格比較はすべて掲載価格どうしの比較に統一している。
  • 母集団:メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する国内宿泊施設データベース(削除済みレコードを除く77,804施設・2,167,728室、2026年9月4日時点)。全数調査ではなく、OTA掲載を起点に構築された名寄せ済みデータベースであり、OTAに一度も掲載されたことのない施設は含まれない。また、施設数・客室数は登録時点の情報を含むため、現在稼働中の施設数とは一致しない(後述)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/厚生労働省「衛生行政報告例」
Key Takeaways
  • 109,312室・全客室の5.0% — OTA上の「大人専用」分類は5,640施設で客室数第5位。カプセルホテルの2.4倍、デラックスホテルの2.8倍のストック規模にあたる。
  • 埼玉県は県内客室の20.1% — 奈良県13.1%、佐賀県11.0%が続く。県の宿泊供給を論じるとき、この層を含めるかどうかで前提が5分の1変わる。
  • 東京23区は89.4%が駅400m圏内 — ビジネスホテルの87.4%を上回る。用途地域を特定できた433施設の99.8%がホテル・旅館用途の建築が認められる地域に立地する。
  • 掲載価格は同県ビジネスホテルの67〜94% — 神奈川93.6%・東京89.4%に対し福岡66.8%・埼玉72.0%。差の大きい県ほど¥3,400〜¥6,000の単価到達余地が残る。
  • 可視化されているのは661施設・16.3% — 残る約9万室はOTA上の一般宿泊在庫として現れていない。案件化には物件単位の許認可区分・建物状態の確認が前提となる。

客室数で数えると国内5位 — 109,312室というストックの大きさ

まず規模を確認する。国内77,804施設・2,167,728室を業態別に分解すると、客室数の上位はビジネスホテル1,006,416室、旅館277,279室、シティホテル229,100室、リゾートホテル160,897室と続き、その次に「大人専用」の109,312室が入る。全客室ストックの5.0%にあたる。

この水準を業界の他の指標と並べると位置づけが見えやすい。厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、旅館業法上の旅館・ホテル営業の客室数は1,739,124室(2020年度末時点、e-Stat公表の年度次系列における最新値)である。109,312室はこの6.3%に相当する。施設数で見ても5,640施設は第5位で、旅館16,196施設、ビジネスホテル11,059施設、貸別荘9,302施設、民宿8,572施設に次ぐ。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=77,804施設・2,167,728室、2026年9月4日時点)

表1:業態別の施設数・客室数と客室シェア(国内・2026年9月4日時点)
順位業態 客室数施設数 1施設あたり客室シェア
1ビジネスホテル1,006,41611,05993.8室46.4%
2旅館277,27916,19618.6室12.8%
3シティホテル229,1001,400163.8室10.6%
4リゾートホテル160,8972,29171.0室7.4%
5大人専用109,3125,64021.6室5.0%
6ホステル54,7263,62515.5室2.5%
7民宿53,6668,5727.6室2.5%
8カプセルホテル45,564407114.2室2.1%
9デラックスホテル39,591222179.1室1.8%

「1施設あたり」は客室数が判明している施設のみを分母として算出しており、同じ行の施設数(総数)とは分母が異なる。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(国内・削除済みレコードを除く、2026年9月4日時点)

ただし、この5,640施設がすべて現在OTA上で販売されているわけではない。直近の掲載状況が確認できる施設に限ると661施設・17,841室で、施設数ベースでは11.7%、客室数ベースでは16.3%にとどまる。1施設あたり客室数は全体の21.6室に対して掲載確認施設では27.1室と大きく、相対的に規模の大きい施設ほどOTA販売チャネルを併用している傾向が読み取れる。裏を返せば、残る約9万室は現時点でOTA上の一般宿泊在庫としては可視化されていない客室ストックということになる。ここが本稿の出発点である。

地理分布 — 埼玉県では県内客室の20.1%、上位8都道府県で全体の50%

次に、この109,312室がどこにあるかを見る。都道府県別の施設数では東京都660施設、大阪府363施設、埼玉県263施設、神奈川県262施設、千葉県247施設、福岡県232施設、愛知県224施設、北海道223施設が上位に並ぶ。客室数では東京都13,442室、大阪府9,087室、愛知県6,900室、神奈川県6,261室、埼玉県5,729室の順となり、上位8都道府県で全国の50.2%を占める。

それでは、各県の宿泊ストック全体に対してどの程度の比重を持つのか。ここに大きな差が出る。当社データベース上の県内総客室数に対する構成比を計算すると、埼玉県が20.1%で突出し、奈良県13.1%、佐賀県11.0%、茨城県10.3%、愛知県9.7%、神奈川県9.6%が続く。一方で、観光ストックの厚い北海道は3.0%、京都府2.5%、長野県2.2%、沖縄県1.2%と低い。観光客室の絶対量が少なく、かつ都市圏へのアクセス動線上にある県ほど、この分類の比重が高くなるという構図である。

埼玉県の20.1%という数字は、県内の宿泊ストックを扱ううえで無視できない大きさだ。同県はホテル・旅館の総客室数が28,515室と首都圏では相対的に薄く、そこに5,729室が乗っている。県全体の宿泊供給を論じるとき、この層を含めるかどうかで前提が5分の1変わる。

円の大きさ=客室数、色の濃さ=県内客室ストックに占める構成比。座標は各県内の該当施設の平均位置。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=5,640施設・109,312室)

表3:都道府県別の施設数・客室数と県内客室ストックに占める構成比(客室数上位20都道府県)
都道府県施設数 客室数1施設あたり 県内客室シェア掲載確認施設
東京都66013,44223.3室5.7%68
大阪府3639,08726.6室6.3%120
愛知県2246,90032.9室9.7%29
神奈川県2626,26125.5室9.6%31
埼玉県2635,72922.7室20.1%38
福岡県2324,89323.1室7.0%46
千葉県2474,59020.8室6.9%27
兵庫県1703,96324.0室8.2%37
北海道2233,69818.9室3.0%19
静岡県1793,17319.7室4.6%8
茨城県1702,99320.1室10.3%6
宮城県1262,42821.7室7.0%7
岐阜県902,21026.3室7.7%17
広島県1202,14720.4室5.8%12
群馬県1152,08319.1室6.8%4
栃木県1352,07217.3室6.2%7
京都府821,93825.5室2.5%30
福島県1431,90914.8室4.8%3
新潟県1121,87417.8室4.5%2
岡山県841,83722.7室8.4%4

客室数上位20都道府県。「掲載確認施設」は直近でOTA上の掲載が確認できた施設数。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月4日時点)

1施設あたり21.6室 — 規模はビジネスホテルの4分の1、価格帯は67〜94%の重なり

ストックの性格を決めるのは施設あたりの規模である。「大人専用」の1施設あたり客室数は21.6室で、ビジネスホテル93.8室の23%、シティホテル163.8室の13%にとどまる。客室数が判明している5,070施設を規模帯で分けると、10〜19室が41.8%、20〜29室が34.0%で、この2帯だけで75.8%を占める。30室未満まで広げると81.8%に達し、100室以上はわずか2施設である。

同じ集計をビジネスホテル(判明10,734施設)に対して行うと、100室以上が36.8%、50〜99室が20.6%で、規模構造がまったく異なる。旅館(判明14,892施設)は1〜9室が36.9%、10〜19室が36.8%と小規模側に寄り、「大人専用」は旅館より大きくビジネスホテルより小さい、10〜30室のレンジに集中した中間帯に位置する。

客室数が判明している施設のみを集計(大人専用 N=5,070/ビジネスホテル N=10,734/旅館 N=14,892)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

次に価格帯を見る。掲載価格が安定して観測できる2026年6〜8月の3ヶ月平均で、「大人専用」とビジネスホテルの掲載価格(2名1室・税込・全プラン平均)を並べると、神奈川県で¥14,600対¥15,600(93.6%)、愛知県で¥12,800対¥14,300(89.6%)、東京都で¥17,700対¥19,800(89.4%)と、3都県では1割前後の差しかない。福岡県は¥12,000対¥18,000(66.8%)、埼玉県は¥10,000対¥13,900(72.0%)、大阪府は¥10,700対¥14,100(76.1%)と開きが大きい。

つまり価格帯は、多くのエリアでビジネスホテル帯と重なっている。一般宿泊需要を取りにいくうえで、価格面での距離はすでに小さいということである。差が大きい福岡県・埼玉県・大阪府は、逆に見れば同一エリアのビジネスホテル水準まで¥3,400〜¥6,000のレンジが空いており、設備水準や販売設計次第で単価側の伸びしろが残っている。

2026年6〜8月の掲載価格(2名1室・税込・全プラン平均)の3ヶ月平均。集計施設数は下表参照。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

表4:都道府県別にみた掲載価格の水準比(2026年6〜8月・2名1室・税込・全プラン平均の3ヶ月平均)
都道府県大人専用の掲載価格 集計施設数ビジネスホテルの掲載価格 集計施設数水準比差額
神奈川県¥14,60061¥15,60021693.6%¥1,000
愛知県¥12,80071¥14,30032789.6%¥1,500
東京都¥17,700150¥19,80099089.4%¥2,100
大阪府¥10,700117¥14,10054876.1%¥3,400
埼玉県¥10,00056¥13,90015172.0%¥3,900
福岡県¥12,00041¥18,00035466.8%¥6,000

集計施設数は3ヶ月の平均値。いずれも掲載価格ベースの比較であり、推定成約ADRとは異なる。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

東京23区では89.4%が駅400m圏内 — 立地はビジネスホテルとほぼ同等

投資判断で最も効くのは立地である。国土交通省 不動産情報ライブラリを通じて取得した国土数値情報の鉄道駅データから、東京23区(駅1,013地点)と大阪市周辺(同522地点)について、各施設の最寄駅までの直線距離を算出した。

結果は明快だった。東京23区に立地する「大人専用」555施設のうち、最寄駅まで200m以内が36.9%、200〜400mが52.4%で、400m圏内に89.4%が収まる。同じ範囲のビジネスホテル1,183施設は87.4%であり、駅近接性はほぼ同等、むしろわずかに上回る。大阪市周辺では「大人専用」218施設の400m圏内比率が68.0%とやや下がるが、800m圏まで広げれば90.4%に達する。

すなわち、この客室ストックの相当部分は、都心の駅徒歩5分圏という、新規開発では取得が難しい立地に既に置かれている。用地取得から始める新規開発と比べたとき、立地条件そのものは競争力を持っている。駅からの距離が単価にどこまで効くのかについては、駅から何分までが「駅前価格」か — 主要8駅で測る立地プレミアムの距離減衰で距離帯ごとの減衰を測っている。

最寄駅までの直線距離。東京23区:大人専用N=555/ビジネスホテルN=1,183。大阪市周辺:大人専用N=218/ビジネスホテルN=671。出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(国土数値情報 駅別乗降客数データの駅位置)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

用途地域も同じライブラリから取得した。東京23区の該当施設のうち用途地域を特定できた433施設では、商業地域が83.4%、第一種住居地域8.1%、近隣商業地域5.1%、準工業地域3.0%。平均容積率は525%である。ビジネスホテル837施設は商業地域78.5%、平均容積率550%で、ほぼ同じ用途地域プロファイルを持つ。大阪市周辺の該当施設131施設では商業地域59.5%、第二種住居地域17.6%、準工業地域16.0%と、やや住居系に分散する。

建築基準法別表第2において、ホテル・旅館の用途は商業地域・近隣商業地域・準工業地域・準住居地域・第二種住居地域で建築可能とされ、第一種住居地域では床面積3,000平方メートル以下であれば建築できる。この基準に照らすと、東京23区で用途地域を特定できた433施設のうち432施設(99.8%)、大阪市周辺では131施設のうち129施設(98.5%)が、ホテル・旅館用途の建築が認められる用途地域に立地している。

表5:用途地域の構成比と平均容積率(東京23区・大阪市周辺/用途地域を特定できた施設のみ)
エリア・業態商業地域 近隣商業準工業 住居系平均容積率 特定施設数
東京23区・大人専用83.4%5.1%3.0%8.5%525%433
東京23区・ビジネスホテル78.5%10.3%5.1%5.5%550%837
大阪市周辺・大人専用59.5%0.8%16.0%23.7%435%131
大阪市周辺・ビジネスホテル90.5%1.7%2.5%5.3%575%402

用途地域ポリゴンとの重ね合わせで用途地域を特定できた施設のみを分母とした構成比。ポリゴン取得範囲の端部にあたる施設は特定できず除外している(東京23区で大人専用122施設・ビジネスホテル346施設、大阪市周辺で87施設・269施設)。出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(都市計画決定情報 用途地域)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

一般宿泊・長期滞在・グループ需要への接続 — 3つのアップサイド

ここまでの数字を組み合わせると、このストックが持つ機会は3方向に整理できる。

第一に、一般宿泊需要への接続。掲載価格帯はすでにビジネスホテル水準の67〜94%に位置し、東京23区では駅400m圏内比率がビジネスホテルを上回る。価格と立地という2つの主要因において、一般宿泊市場との距離は小さい。実際、掲載が確認できる661施設の1施設あたり客室数が全体平均より5.5室大きいことは、規模のある施設から順に販売チャネルの多角化が進んでいることを示唆する。残る施設群にも同じ経路が開かれている。

第二に、長期滞在・連泊需要。この分類の施設は、客室内に浴槽・独立した洗面・大型テレビ・冷蔵庫といった設備を備える例が多く、1室あたりの専有面積もビジネスホテルの標準的な客室より大きい傾向がある。工事関係者の長期滞在、単身赴任の橋渡し期間、リロケーション需要など、「広さと設備が単価より優先される滞在」との相性は良い。10〜30室というサイズは、1棟丸ごとの法人契約や社宅代替としても扱いやすい規模である。

第三に、グループ・多人数需要。2名1室を基本設計とする客室は、エキストラベッド対応やコネクティング運用を組み合わせることで、家族連れや友人グループの受け皿になりうる。ビジネスホテルの主流であるシングル・セミダブル中心の構成では取りきれない層であり、同一エリア内での差別化軸として機能する。

いずれの方向でも共通するのは、新規に建てるより既に建っているものを使うほうが早いという点である。都心商業地域・駅徒歩5分圏で20室規模の宿泊施設を新規開発する場合、用地取得から開業までのリードタイムと建設費の上昇を織り込む必要がある。既存ストックの取得・改修は、その両方を圧縮できる選択肢として比較検討の俎上に載る。

価格到達の3シナリオと単価×稼働率の感応度 — 設例で幅を持たせる

ここまでは観測された数字だけを扱ってきた。ここでは、前節で挙げたアップサイドが単価としてどの程度の幅を持つのかを、観測値を起点にした設例として置く。以下はいずれも掲載価格ベースの機械的な試算であり、個別物件の収支や投資判断を示すものではない。

まず単価の到達水準である。同一県のビジネスホテルの掲載価格を到達上限(楽観)、現状を維持する場合を悲観、その中点を中位と定義すると、6都府県の幅は次のようになる。

表7:掲載価格の到達水準3シナリオ(設例・2026年6〜8月の観測値を起点)
都道府県悲観
(現状維持)
中位
(ギャップ半減)
楽観
(同県ビジネスホテル水準)
楽観時の上昇率
神奈川県¥14,600¥15,100¥15,600+6.8%
愛知県¥12,800¥13,550¥14,300+11.7%
東京都¥17,700¥18,750¥19,800+11.9%
大阪府¥10,700¥12,400¥14,100+31.8%
埼玉県¥10,000¥11,950¥13,900+39.0%
福岡県¥12,000¥15,000¥18,000+50.0%
6都府県平均¥12,967¥14,458¥15,950+23.0%

悲観・楽観は表4の観測値そのもの、中位は両者の中点。集計施設数は表4に同じ。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

読み取れるのは、幅が県によって大きく違うことである。神奈川県は楽観でも+6.8%で、単価側の伸びしろはほぼ残っていない。裏返せば、この県では単価より稼働と販売チャネルの設計が効く。一方で福岡県は+50.0%、埼玉県は+39.0%、大阪府は+31.8%と幅が広く、設備水準と販売設計次第で到達余地が大きい。6都府県平均では現状¥12,967に対し楽観¥15,950、上昇率+23.0%となる。

次に、単価と通年稼働率の2軸で1室あたりの年間客室売上を振る。稼働率は、この分類について当社が検証済みの実績値を持たないため、通年(年間平均)稼働率の前提値として50〜90%の幅を置いている(2026年時点で観測された実績値ではない)。単価の刻みは表7で観測された¥10,000〜¥19,800のレンジに合わせた。

表8:単価×通年稼働率でみた1室あたり年間客室売上(設例・稼働率は通年の前提値・万円/室/年)
単価(1室・税込) 通年稼働率50%
(前提値)
60% 70%80% 90%
¥10,000182219256292328
¥12,000219263307350394
¥14,000256307358409460
¥16,000292350409467526
¥18,000328394460526591

単価×通年稼働率×365日で機械的に算出。網掛けは中位設例(¥14,000×70%)。掲載価格ベースの試算であり、実際の成約単価は掲載価格を下回るのが通常。通年稼働率は前提値であって観測値ではない。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

中位設例(¥14,000×通年稼働率70%・前提値)で1室あたり年間358万円、この分類の平均規模である21.6室を当てると1施設あたり約7,700万円となる。悲観側(¥10,000×通年稼働率50%)では1室182万円・1施設約3,900万円、楽観側(¥18,000×通年稼働率90%)では1室591万円・1施設約1億2,800万円で、上下の幅は3.2倍ある(通年稼働率50%・70%・90%はいずれも前提値であり、観測された実績値ではない)。

この幅の広さ自体が論点である。単価は表7のとおり県別に観測できるが、稼働率はこの分類では観測できていない。取得や運営受託の検討では、単価の到達余地よりも稼働率の前提をどこに置けるかのほうが、結果を大きく動かす。物件単位のデューデリジェンスで確認すべき優先順位も、そこから決まる。

転用時に確認する実務ポイント — 許認可・用途地域・フロント要件・販売区分

取得や運営受託を検討する際、事前に確認しておきたい論点を整理する。以下は一般的な制度枠組みの整理であり、個別案件では所轄の保健所・自治体・専門家への確認が前提となる。小規模な客室構成でも旅館業の許可が取れる制度環境については、1室から旅館業許可は2018年施行済み — 2026年開業1,351軒の51%が1室規模が新規開業データから整理している。

表6:一般宿泊への転用を検討する際の確認項目とデータから見える状況
確認項目内容 データから見える状況
営業許可の区分旅館業法上の「旅館・ホテル営業」の許可を保有しているか、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく届出施設として運営されているかで、一般宿泊への切り替え可否と手続きが変わる。OTAの掲載情報からは区分を判別できないため、登記・許可証・保健所照会での実地確認が必須。分類内に両者が混在。物件単位の確認が前提。
用途地域と建築可能性建築基準法別表第2により、ホテル・旅館は商業・近隣商業・準工業・準住居・第二種住居の各地域で建築可能。第一種住居地域は床面積3,000平方メートル以下の制限付き。第一種・第二種中高層住居専用地域、工業地域などは対象外で、既存不適格として扱われる場合がある。東京23区で特定できた433施設のうち99.8%が建築可能な用途地域に立地。
フロント(玄関帳場)要件2018年6月施行の改正旅館業法により、玄関帳場に代替する機能を持つICT設備を備えれば物理的なフロントの設置は必須ではなくなった。本人確認・出入りの確認・鍵の受け渡しが適切に行えること、緊急時におおむね10分程度で職員が駆けつけられる体制が要件とされる。自治体の独自条例で上乗せ基準が設けられている場合がある。無人・省人運営を前提とした小規模ストックとの親和性が高い。
客室構成と改修範囲1室あたり面積が大きく水回りが各室完備という構造は、一般宿泊への転用にあたって大規模な間取り変更を伴わない場合がある。一方で、外観・サイン・共用部・寝具構成の刷新はブランディング上の主要な投資項目となる。1施設あたり21.6室、10〜30室帯に81.8%が集中。
建物の築年と設備更新取得時デューデリジェンスでは、竣工年に応じた耐震性能、給排水・空調設備の残存耐用年数、改修に伴う調査義務の有無を確認する。改修費の見積もりは、これらの前提で大きく振れる。既存ストック全般に共通する論点。
販売チャネルと掲載区分一般宿泊として販売する場合、施設分類・掲載カテゴリ・写真構成・プラン設計を一般宿泊向けに再設計する必要がある。検索面での露出や比較対象が変わるため、価格設計も同時に見直す。掲載が確認できるのは5,640施設中661施設(11.7%)。

制度に関する記述は一般的な枠組みの整理であり、個別案件の判断を示すものではない。出典:厚生労働省「旅館業のページ」、建築基準法別表第2、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

まとめ — 109,312室を供給前提に入れるかどうか

本稿で数えた事実を整理する。OTA上の「大人専用」分類に紐づく客室ストックは5,640施設・109,312室で、客室数では国内第5位、全客室の5.0%にあたる。地理的には埼玉県で県内客室の20.1%、奈良県で13.1%、佐賀県で11.0%を占め、東京23区では89.4%が駅400m圏内、用途地域を特定できた施設の99.8%がホテル・旅館用途の建築が認められる地域に立地する。掲載価格帯は同一県のビジネスホテルの67〜94%で、多くのエリアで重なっている。

この規模と立地条件は、エリアの宿泊供給を試算するうえでの前提に影響する。新規開業パイプラインだけを積み上げて需給を読むと、既に建っている10万室規模のストックが視界に入らない。新規供給を既存ストック比で捉える視点は、東京23区ホテル供給圧2026でも区別に検証している。逆に、既存ストックの取得・運営受託を検討する側から見れば、都心商業地域・駅徒歩5分圏という条件を、新規開発より短いリードタイムで確保できる選択肢がここにある。

一方で、5,640施設のうちOTA上の掲載が確認できるのは661施設にとどまる。この差は、可視化されていない在庫が存在することと、個別施設の許認可区分・建物状態・オーナー意向を実地で確認しなければ案件化できないことの両方を意味している。マクロの数字が示すのは機会の輪郭であり、その先は物件単位の作業になる。

集計方法と出典について:施設数・客室数は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する国内宿泊施設データベース(削除済みレコードを除く、2026年9月4日時点)を業態分類別に集計したものです。OTA掲載を起点に構築されたデータベースであり、全数調査ではありません。客室数はデータベース登録値で、判明していない施設(大人専用で570施設)は平均値算定から除外しています。掲載価格は2026年6〜8月の実績月3ヶ月平均で、サンプル数が安定している期間を選定しました。駅距離・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリの国土数値情報および都市計画決定情報を用い、東京23区・大阪市周辺の範囲に限定して算出しています。制度に関する記述は公表資料に基づく一般的な整理であり、個別案件の適法性を判断するものではありません。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

施設数・客室数は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する国内宿泊施設データベース(削除済みレコードを除く77,804施設・2,167,728室、2026年9月4日時点)を業態分類別に集計した。掲載価格は2026年6〜8月の3ヶ月平均(2名1室・税込・全プラン平均、施設日次平均のエリア中央値を月平均したもの)。駅距離と用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリの国土数値情報(鉄道駅データの駅位置)および都市計画決定情報(用途地域)を、東京23区・大阪市周辺の範囲に限定して施設座標に重ね合わせた。旅館業の全国値は厚生労働省「衛生行政報告例」(e-Stat 統計表ID 0004026910)による。

■ 試算前提

1施設あたり客室数は、客室数が判明している施設のみを分母として算出している(大人専用 N=5,070、ビジネスホテル N=10,734、旅館 N=14,892)ため、施設数欄の総数とは分母が異なる。表7の価格到達シナリオは、同一県のビジネスホテルの掲載価格を到達上限(楽観)、現状維持を悲観、両者の中点を中位と定義した。表8の2軸感応度は、単価×稼働率×365日で1室あたり年間客室売上を機械的に算出した設例であり、稼働率は本分類について当社が検証済みの実績値を持たないため、通年(年間平均)の前提値として50〜90%の幅を置いている。1施設あたりへの換算には平均21.6室を用いた。

■ 限界・留意点

母集団はOTA掲載を起点に構築した名寄せ済みデータベースであり、全数調査ではない。一度もOTAに掲載されたことのない施設は含まれず、施設数・客室数は登録時点の情報を含むため現在稼働中の施設数とは一致しない。「大人専用」はOTA上の掲載分類であって、旅館業法上の営業許可区分や実際の営業形態を示すものではない。本分類は当社の推定成約ADRの検証対象外のため、価格の比較はすべて掲載価格どうしで行っており、実際の成約単価は掲載価格を下回るのが通常である。表7・表8は掲載価格ベースの機械的な設例で、個別物件の収支や投資判断を示すものではない。用途地域はポリゴン取得範囲内で特定できた施設のみを分母とし、範囲端部の施設は除外している。制度に関する記述は公表資料に基づく一般的な整理であり、個別案件の適法性を判断するものではない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 国内宿泊施設データベースの業態別施設数・客室数集計(N=77,804施設・2,167,728室、2026年9月4日時点)、都道府県別分布、掲載価格(2026年6〜8月)

■ 政府統計・公的データ

■ 制度・実務に関する参考

関連記事