簡易旅館(旅館業法上の「簡易宿所営業」)への投資判断は、突き詰めると3つの数字に収れんする。ベッド1床あたりいくらで売れるか、年間何割埋まるか、初期投資をいくらに抑えられるか。本稿では、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計したカプセルホテル業態の推定成約ADR実測値と、厚生労働省・観光庁の公的統計を組み合わせ、24床モデルのROI計算を前提を明示したうえで組み立てる。結論を先に言えば、損益分岐となる稼働率は約50%、そこを10ポイント上回れば回収は4年台に入る。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):本稿で稼働率として引用するのは、観光庁「宿泊旅行統計調査」が公表する客室稼働率(施設タイプ別)です。試算に用いる稼働率は前提値であり、実績値ではありません。
- ベッド単価:カプセルホテル業態は1区画(1名)単位で販売されるため、本稿では同業態の推定成約ADRを1ベッドあたりの単価水準に相当するものとして扱います。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省「衛生行政報告例」/観光庁「宿泊旅行統計調査」
- — 損益分岐は通年稼働率49.9%。24床・ベッド単価¥5,900・固定費1,970万円の前提では、稼働がここを割ると営業段階で赤字になる。
- — 回収4.2年。通年稼働率65%なら営業利益598万円・利益率17.8%で、初期投資2,500万円を単純回収できる。
- — 稼働10ポイントで回収年数は3倍動く。55%では12.3年、75%では2.5年。営業レバレッジが極めて高い事業構造である。
- — ベッド単価は立地で1.8倍の開き。カプセル業態の推定成約ADRは東京都¥5,900に対し広島県¥3,200(2026年3〜8月平均)。
- — 通年営業できるかが制度選択の分岐。同じ前提で営業日数を180日に置き換えると売上は1,657万円となり、固定費1,970万円を賄えない。
売上モデルはベッド数×ADR×稼働率 — まず単価の実勢を押さえる
簡易宿所のROI計算は、ホテルの客室単位ではなくベッド(寝床)単位で組み立てるのが実務的だ。ドミトリー主体の施設では1室に複数の寝床を置き、販売も1名単位で行うためである。年間売上は「ベッド数 × ベッド単価 × 稼働率 × 365日」で表される。このうち最も見誤りやすいのがベッド単価だ。
問題は、ホステルやゲストハウスとして登録されている施設のOTA掲載価格には、一棟単位の貸切プランや個室プランが混在しており、そのまま平均すると1床あたりの実勢から大きく乖離する点にある。そこで本稿では、1区画1名単位での販売が徹底されており、かつ推定成約ADRの検証が取れているカプセルホテル業態を、簡易宿所系の単価ベンチマークとして用いる。
2026年3月〜8月の6ヶ月平均で見ると、東京都の推定成約ADRは¥5,900、福岡県¥5,600、北海道¥5,300と続く。表の9都道府県で最も低い広島県は¥3,200で、上位との開きは1.8倍に達する。同じ業態であっても、立地によってベッド1床が生む収入はこれだけ違う。
| 都道府県 | 推定成約ADR(6ヶ月平均) | 対象施設数 | 掲載価格(全プラン平均・2名1室・税込) |
|---|---|---|---|
| 東京都 | ¥5,900 | 38〜39施設 | ¥13,300 |
| 福岡県 | ¥5,600 | 6施設 | ¥16,700 |
| 北海道 | ¥5,300 | 4〜7施設 | ¥15,800 |
| 愛知県 | ¥5,000 | 4施設 | ¥16,900 |
| 京都府 | ¥4,800 | 5施設 | ¥16,700 |
| 神奈川県 | ¥4,500 | 6施設 | ¥11,800 |
| 大阪府 | ¥4,200 | 10施設 | ¥14,100 |
| 沖縄県 | ¥3,800 | 3施設 | ¥12,200 |
| 広島県 | ¥3,200 | 3施設 | ¥7,200 |
右端の掲載価格は2名1室・1室あたりの税込表示であり、左の推定成約ADRとは基準が異なる。両者を直接比べてはならないが、掲載価格のおおむね半分弱が1名1泊あたりの成約水準に落ち着く構造は読み取れる。事業計画に置く単価は、掲載価格ではなく成約水準側を基準にすべきである。
単価は月で2割動く — 年間平均だけで計画を組まない
もうひとつ、事業計画で軽視されがちなのが月次の振れ幅だ。東京都のカプセル業態の推定成約ADRは、直近12ヶ月のうち観測が取れた10ヶ月で¥5,100〜¥7,200のレンジを描いた。最安月と最高月の差は42%。大阪府も¥3,800〜¥5,700(差53%)と、振れ幅は東京をさらに上回る。
年間平均の単価だけで資金繰りを組むと、閑散月に運転資金が不足する。月次のキャッシュフロー表を作り、最も単価と稼働が落ちる月でも固定費を賄えるかを確認しておきたい。
2025年の稼働率29.6%という全国平均をそのまま使わない — 大阪は73.6%
ROI計算で最も結果を左右するのは稼働率だ。ここで出発点になるのが観光庁「宿泊旅行統計調査」の施設タイプ別客室稼働率である。2025年の確定値では、全体61.6%に対して簡易宿所は29.6%。ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%と比べると半分以下で、ホテル・旅館系の5タイプのうち最も低い(区分外の会社・団体の宿泊所は24.2%)。
ただし、この29.6%を事業計画にそのまま置くのは適切でない。同じ統計で大阪府の簡易宿所は73.6%と、全国平均の2.5倍の水準にある。全国平均が低く出る背景には、通年営業を前提としない季節型の施設や、別荘・保養所に近い運用の施設が母数に多く含まれる構造がある。簡易宿所という営業区分は、都市型のベッド販売施設から山間部の季節営業施設までを1つに束ねているため、平均値は事業計画の参照値として機能しにくい。
実務上は、想定する商圏のビジネスホテル稼働率と、その商圏に簡易宿所がどれだけ存在するかの2点を見て、自前の前提を置く方が現実的である。業態ごとに1室あたりの年間売上がどこまで開くかは、ホテル経営の収益構造2026|1室年間売上186万〜351万円と運営形態4類型で整理している。
供給は44,901施設・前年度比+7.1% — 都市部ほど施設数は少ない
厚生労働省「衛生行政報告例」によると、2024年度末時点の簡易宿所営業は全国44,901施設。前年度の41,909施設から2,992施設(+7.1%)増えた。同時点の旅館・ホテル営業は52,946施設なので、施設数ベースでは簡易宿所が国内宿泊施設の約46%を占める計算になる。2008年度の23,050施設からは16年で約1.9倍だ。
分布は直感に反する。最多は長野県の4,361施設、次いで沖縄県3,804、京都府3,647、北海道3,314。一方、東京都は1,256施設、大阪府にいたっては773施設しかない。宿泊需要が最も厚い2大都市圏は、簡易宿所の供給という点ではむしろ薄い。大阪府の簡易宿所稼働率が73.6%と突出しているのは、この需給ギャップの表れと読める。同じ44,901施設という母数を、旅館・ホテル営業や住宅宿泊事業と並べ直すと県別の順位がどう入れ替わるかは、県別の宿泊供給は分母で入れ替わる — 簡易宿所44,901施設で京都21位→5位で詳しく見ている。
| 都道府県 | 簡易宿所営業(2024年度末) | 2023年度末 | 増減 | 旅館・ホテル営業 |
|---|---|---|---|---|
| 長野県 | 4,361 | 4,231 | +130 | 2,656 |
| 沖縄県 | 3,804 | 3,799 | +5 | 3,799 |
| 京都府 | 3,647 | 3,452 | +195 | 955 |
| 北海道 | 3,314 | 3,029 | +285 | 2,930 |
| 山梨県 | 2,080 | 1,865 | +215 | 1,325 |
| 静岡県 | 2,016 | 1,793 | +223 | 2,535 |
| 鹿児島県 | 1,626 | 1,479 | +147 | 847 |
| 千葉県 | 1,533 | 1,355 | +178 | 1,232 |
| 長崎県 | 1,425 | 1,327 | +98 | 639 |
| 東京都 | 1,256 | 1,217 | +39 | 5,858 |
| 大阪府(参考) | 773 | 747 | +26 | 1,646 |
初期投資の項目整理 — 賃借コンバージョン24床モデル
ここからは具体的なROI計算に入る。前提として、既存の事務所ビル1棟(延床200㎡程度)を賃借し、簡易宿所へコンバージョンして24床を設置するモデルを置く。新築ではなく賃借改装を想定するのは、簡易宿所市場で実際に多く見られる参入形態だからである。以下は前提を置いた試算であり、実際の金額は物件条件・地域・施工時期によって大きく変動する。
| 項目 | 金額(万円) | 内容 |
|---|---|---|
| 賃貸借の一時金 | 500 | 月額賃料50万円の10ヶ月分(保証金・礼金・仲介手数料) |
| 内装・設備工事 | 1,500 | ベッド造作、シャワー室・トイレ増設、共用ラウンジ、区画変更 |
| 消防設備 | 60 | 自動火災報知設備、誘導灯、消火器、防炎物品 |
| 設計・許認可・専門家費用 | 100 | 設計監理、用途変更・旅館業許可の申請支援 |
| 什器・備品・システム | 240 | 寝具、リネン、セルフチェックイン端末、スマートロック、予約管理 |
| 開業前運転資金・広告 | 100 | 開業前家賃、採用、撮影・初期集客 |
| 合計 | 2,500 | 1床あたり約104万円 |
この構成で金額が振れやすいのは、内装・設備工事と消防設備の2項目だ。用途変更の要否、既存建物の構造・階数、スプリンクラー設置義務の有無によって、工事費は倍近く動くことがある。特に延べ面積が300㎡未満か否かで、自動火災報知設備を簡易な特定小規模施設用のもので代替できるかが変わるため、物件を決める前に所轄消防署と保健所に事前相談を入れるのが定石である。
なお、簡易宿所の玄関帳場(フロント)は、2016年3月の国の衛生等管理要領改正で「設けることが望ましい」に緩和され、代替設備と緊急時対応体制の整備を条件にフロントを設けないことが可能になった(当初付いていた宿泊者数10人未満の要件は2017年12月に削除)。人件費に直結する論点なので、計画段階で自治体の運用を確認しておきたい。客室延床面積は33㎡以上、ただし宿泊者数を10人未満とする場合は「3.3㎡×宿泊者数」以上が基準となる。
年間の損益モデル — 営業利益率17.8%、回収4.2年
運営コストは固定費と変動費に分けて置く。固定費は賃料・人件費・水道光熱費など、稼働に関わらず発生するもの。変動費はリネン・アメニティ・清掃の増分と、OTA等の販売手数料である。
| 区分 | 項目 | 金額(万円/年) |
|---|---|---|
| 売上 | ベッド24床 × ¥5,900 × 通年稼働率65% × 365日 | 3,359 |
| 延べ宿泊数 5,694泊 | — | |
| 固定費 | 賃料 | 600 |
| 固定費 | 人件費 | 800 |
| 固定費 | 水道光熱費 | 250 |
| 固定費 | その他固定費(保守・保険・通信・管理) | 320 |
| 固定費 | 固定費 小計 | 1,970 |
| 変動費 | リネン・アメニティ・清掃増分(¥800/泊) | 456 |
| 変動費 | 販売手数料(売上の10%) | 336 |
| 変動費 | 変動費 小計 | 792 |
| 営業利益 | 売上 − 固定費 − 変動費 | 598 |
| 営業利益率 | 17.8% | |
| 単純回収年数 | 初期投資2,500万円 ÷ 営業利益598万円 | 4.2年 |
計算式はシンプルだ。年間営業利益 = ベッド数 × 365 × 稼働率 ×(ベッド単価 − 変動費単価 − 単価×手数料率)− 年間固定費。単純回収年数はこれで初期投資を割ったものである。減価償却・借入金利・法人税は含めていないため、実際の手取りキャッシュはこれより小さくなる。金融機関に提出する計画であれば、返済原資はこの営業利益から利息と税を引いた後の水準で見る必要がある。
感応度 — 損益分岐は通年稼働率49.9%、10ポイントの差が回収年数を3倍動かす
この試算で最も重要なのは、単一の数字ではなく感応度である。ベッド単価¥5,900の前提では、固定費1,970万円を賄うのに必要な通年稼働率は49.9%。この水準を割ると営業赤字になる。
点推定だけでは事業の幅が見えないため、単価と稼働率を同時に動かした3つのケースを置く。いずれも初期投資2,500万円・固定費1,970万円・変動費¥800/泊+販売手数料10%という本稿の前提は共通で、動かしたのはベッド単価と通年稼働率の2変数だけである。
| 項目 | 悲観 | 中位 | 楽観 |
|---|---|---|---|
| ベッド単価 | ¥5,300 | ¥5,900 | ¥6,500 |
| 通年稼働率 | 55% | 65% | 75% |
| 延べ宿泊数(泊/年) | 4,818 | 5,694 | 6,570 |
| 売上(万円/年) | 2,554 | 3,359 | 4,271 |
| 変動費(万円/年) | 641 | 792 | 953 |
| 固定費(万円/年) | 1,970 | 1,970 | 1,970 |
| 営業利益(万円/年) | △57 | 598 | 1,348 |
| 営業利益率 | △2.2% | 17.8% | 31.6% |
| 単純回収年数 | 回収不能 | 4.2年 | 1.9年 |
悲観ケースは、単価を1割強下げ稼働率を10ポイント落としただけで営業段階が赤字に転じる。楽観ケースでは営業利益率が31.6%まで伸び、回収は2年を切る。同じ24床・同じ初期投資でも、単価と稼働率の組み合わせ次第で事業の姿がここまで変わるという点が、この試算の要点である。
稼働率を横に、ベッド単価を縦に取って単純回収年数を並べると、事業の輪郭がはっきりする。
| ベッド単価\稼働率 | 45% | 55% | 65% | 75% | 85% |
|---|---|---|---|---|---|
| ¥4,500 | 営業赤字 | 営業赤字 | 営業赤字 | 15.1年 | 5.6年 |
| ¥5,300 | 営業赤字 | 営業赤字 | 8.6年 | 3.9年 | 2.5年 |
| ¥5,900 | 営業赤字 | 12.3年 | 4.2年 | 2.5年 | 1.8年 |
| ¥6,500 | 20年超 | 5.4年 | 2.8年 | 1.9年 | 1.4年 |
| ¥7,300 | 8.2年 | 3.1年 | 1.9年 | 1.4年 | 1.1年 |
読み取れることは3つある。第一に、通年稼働率55%と65%の間に大きな断層がある。単価¥5,900では12.3年が4.2年へと、10ポイントの差が回収年数を3分の1に縮める。営業レバレッジが極めて高い事業構造であり、固定費の絶対額を抑えられるかが成否を分ける。
第二に、単価の効き方も非線形だ。通年稼働率65%で単価を¥5,300から¥5,900へ11%引き上げると、回収年数は8.6年から4.2年へ半減する。固定費を超えた分はほぼ全額が利益になるため、価格設定の巧拙が直接利益に跳ね返る。
第三に、単価¥4,500の帯では通年稼働率75%でも回収に15年かかる。低単価で数を埋める戦略は、この初期投資水準では成立しにくい。単価を上げられない立地なら、初期投資2,500万円という前提そのものを見直すか、ベッド数を増やして固定費を分散させる設計が必要になる。
なお、これらはいずれも前提を置いた試算であり、特定の利回りや回収年数を保証するものではない。実際の投資判断にあたっては、物件ごとの詳細なフィージビリティ・スタディが欠かせない。
民泊(住宅宿泊事業)との制度差 — 通年営業できるかどうかが収益構造を分ける
小規模宿泊施設への投資を検討する際、簡易宿所と住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法に基づく民泊)のどちらで始めるかは必ず論点になる。両者の最大の違いは営業日数の上限だ。許可区分そのものの要件や2018年・2023年の法改正の中身については、旅館業法とは — 3区分の許可要件と2018・2023年改正、民泊との違いが背景を整理している。
| 項目 | 簡易宿所営業(旅館業法) | 住宅宿泊事業(住宅宿泊事業法) |
|---|---|---|
| 手続き | 都道府県知事等の許可 | 都道府県知事等への届出 |
| 年間営業日数 | 上限なし(通年営業が可能) | 年間180日が上限(毎年4月1日〜翌年3月31日で算定) |
| 客室面積基準 | 客室延床33㎡以上。宿泊者数10人未満なら3.3㎡×宿泊者数以上 | 宿泊者1人あたり3.3㎡以上 |
| フロント(玄関帳場) | 2016年3月の通知改正で「望ましい」に緩和。条件付きで設置不要 | 不要(管理業者への委託等が前提) |
| 全国の件数 | 44,901施設(2024年度末・営業許可施設) | 累計65,837件・稼働42,070件(2026年7月15日時点の届出) |
| 収益設計上の含意 | 365日フル稼働を前提に投資回収を設計できる | 営業日数が半分以下に制限され、同じ投資額では回収が伸びる |
この差はROI計算に直結する。本稿の24床モデルの前提をそのまま置いたうえで、営業可能日数だけを365日から180日に置き換えると、年間の延べ宿泊数は5,694泊から2,808泊へ半減する。売上は1,657万円まで落ち、固定費1,970万円を下回るため、この固定費水準では営業段階で成り立たない。民泊は賃料・人件費を大幅に圧縮できる小規模運営を前提とした制度であり、本稿のような専業施設型の投資モデルとは設計思想が異なる。
届出件数の推移も、この制度差を裏づけている。住宅宿泊事業は累計65,837件の届出に対し、廃止を除いた稼働は42,070件(2026年7月15日時点)。累計の約36%がすでに事業を終えている計算になる。一方、簡易宿所営業は2023年度末の41,909施設から2024年度末の44,901施設へと純増を続けている。通年営業できる制度区分に事業者が移動している、という見方は成り立つだろう。
投資判断の前に確認すべき5点
| 確認項目 | 見るべき内容 |
|---|---|
| 商圏の稼働実績 | 全国平均29.6%ではなく、商圏のビジネスホテル稼働率と簡易宿所の施設密度から前提を置く。大阪府のように施設数が少なく稼働が高い商圏と、長野県のように施設数が多い商圏では前提が変わる |
| ベッド単価の実勢 | 掲載価格ではなく成約水準で置く。同一商圏の同業態が実際にいくらで売れているかを月次で確認し、最安月でも固定費を賄えるかを検証する |
| 固定費の絶対額 | 営業レバレッジが高いため、賃料と人件費の水準が回収年数を決める。フロント要件の緩和を活かせる設計なら人件費を抑えられる |
| 消防・建築の要求水準 | 延べ面積、階数、用途変更の要否で工事費が倍近く動く。物件契約前に所轄消防署・保健所へ事前相談する |
| 制度区分の選択 | 通年営業を前提に投資回収を設計するなら簡易宿所営業。年間180日上限の住宅宿泊事業とは、耐えられる固定費の水準がそもそも違う |
まとめ
簡易旅館(簡易宿所営業)のROIは、ベッド数×単価×稼働率という単純な式で表せる。しかし実務上の難所は式ではなく、そこに置く前提の置き方にある。2025年の全国平均である稼働率29.6%をそのまま使えば、ほとんどの計画は成り立たない。逆に大阪府の73.6%を前提にすれば、どんな計画も成立してしまう。
本稿の24床モデルでは、損益分岐となる通年稼働率は49.9%、通年稼働率65%・ベッド単価¥5,900で回収4.2年という結果になった。稼働率が10ポイント下振れれば12.3年へ、10ポイント上振れれば2.5年へ動く。この振れ幅こそが、簡易宿所投資の本質的な性格である。固定費を抑え、商圏を選び、単価を保つ。この3点に集約される。
供給側の動きを見れば、簡易宿所営業は2024年度に前年度比+7.1%と拡大を続けており、市場としての成長余地は残っている。一方で、施設数が伸びるほど平均稼働率は薄まりやすい。参入を検討するなら、全国の平均値ではなく、自らの商圏における需給の実態を数字で押さえたうえで前提を組むことが出発点になる。
⚠ 試算に関する注意:本記事のROI試算は、明示した前提(24床・初期投資2,500万円・固定費1,970万円・変動費¥800/泊+販売手数料10%)に基づく簡易試算であり、特定の利回り・回収年数を保証するものではありません。減価償却費、借入金利、法人税等は含めていません。実際の投資判断には、物件ごとの詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。また、推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
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- 1室から旅館業許可は2018年施行済み — 2026年開業1,351軒の51%が1室規模
参考資料・出典一覧
■ データソース
ベッド単価のベンチマークは、1区画1名単位で販売されるカプセルホテル業態の推定成約ADR(メトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計、2026年3〜8月の6ヶ月平均、対象施設数は各都道府県3〜39施設)。施設タイプ別の客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)を用いた。施設数は厚生労働省「衛生行政報告例」(2024年度末現在)による。住宅宿泊事業の届出件数は観光庁公表資料(2026年7月15日時点)を参照した。
■ 試算前提
既存建物を賃借しコンバージョンする24床モデル。初期投資2,500万円(一時金500/内装・設備1,500/消防設備60/設計・許認可100/什器・備品240/開業前運転資金100、単位=万円)、年間固定費1,970万円(賃料600/人件費800/水道光熱250/その他320)、変動費はリネン・清掃等¥800/泊+販売手数料10%。中位ケースはベッド単価¥5,900・通年稼働率65%。年間営業利益=ベッド数×365×稼働率×(ベッド単価−変動費単価−単価×手数料率)−年間固定費、単純回収年数=初期投資÷年間営業利益。
■ 限界・留意点
本稿の試算は前提を置いた簡易試算であり、特定の利回り・回収年数を保証するものではない。減価償却費・借入金利・法人税等は含めていないため、実際の手取りキャッシュはこれより小さくなる。推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。試算に用いた稼働率は前提値であって実績値ではない。工事費は既存建物の構造・階数・用途変更の要否・スプリンクラー設置義務の有無によって大きく変動する。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — カプセルホテル業態の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月、対象施設数は本文・図表に記載)、カテゴリ別掲載価格
■ 政府統計・公的データ
- 厚生労働省「令和6(2024)年度 衛生行政報告例」第8表(旅館・ホテル営業の施設数・客室数及び簡易宿所・下宿営業の施設数)
- e-Stat「衛生行政報告例」年度報(令和5年度・令和3年度、付表F01-2 旅館業数 年次別)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値(確定値)
- 観光庁 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?」
- 厚生労働省 健康・生活衛生局「旅館業法の簡易宿所営業に係る玄関帳場等の規制について」(規制改革推進会議提出資料)
■ 報道・解説
