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露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)— 792軒の同一施設比較と改装回収5.7〜11.1年

投稿日 : 2026.09.29

指定なし

投資・開発

露天風呂付客室の上乗せは1泊約1万円(+23%)— 792軒の同一施設比較と改装回収5.7〜11.1年

客室に露天風呂を付けると、1泊いくら高く売れるのか。メトロエンジンリサーチが、露天風呂付客室と一般客室の両方を掲載している旅館・リゾートホテル792軒を対象に、同じ宿・同じ宿泊日・同じ食事条件(2食付き)の最安プラン同士を比べたところ、露天風呂付客室の掲載価格は中央値で1泊1室あたり約1万円、率にして+23.4%上回っていた。

一方、宿泊者の口コミで露天風呂付客室が好意的に語られる割合(言及率)が10%以上の宿は、同じ市町村・同じ業態で言及がほぼない宿に比べ、推定成約ADRが2.11倍の水準にある(旅館・183市町村の中央値)。ただしこの差には、客室規模や料理、施設グレードの違いも含まれる。本稿では2つの物差しを分けて扱い、設備そのものの上乗せをもとに、客室露天の新設(バルコニー転用型・増築型)の回収年数を試算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。本稿では2025年9月〜2026年8月の12ヶ月(うち9ヶ月以上の推定値がある施設)の月平均を施設の年間水準とし、グループ単位では中央値を用います。
  • 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。同一施設比較(第4章)はこの掲載価格で行っています。
  • 言及率:直近24ヶ月(2024年9月〜2026年9月)に投稿された宿泊者口コミのうち、露天風呂付客室を好意的に言及した口コミの割合。言及頻度であり、評価点(スコア)ではありません。
  • 言及率上位群/非言及群:言及率10%以上の施設/1%未満の施設(いずれも口コミ50件以上)。
  • OCC(稼働率):本稿の試算では観光庁「宿泊旅行統計調査」の客室稼働率(2025年確定値・通年)を用います。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)
同一施設比較の上乗せ
+23.4%
2食付き最安同士・中央値(N=792軒)
上乗せ額(掲載価格)
¥10,000
1泊1室・税込・中央値
言及率上位群のADR
2.11倍
同一市町村の非言及群比(旅館183市町村)
回収年数(基準ケース)
5.7〜11.1年
バルコニー転用型〜増築型・OCC38.2%(2025年確定値・通年)
10年回収に必要な上乗せ
¥6,100〜¥9,800
1泊1室・税抜相当

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)/観光庁「宿泊旅行統計調査」

Key Takeaways
  • — +23.4%・約1万円 同じ宿・同じ宿泊日・同じ食事条件で比べた露天風呂付客室の上乗せ(2食付き最安同士、792施設・7,422組の中央値)。
  • — 上乗せは定額に近い 一般客室が3万円未満の宿で+34.0%、6万円以上で+11.3%。上乗せ額は¥8,600〜¥10,100に収まり、価格帯の低い宿ほど率で効く。
  • — 5.7年/11.1年 1室500万円のバルコニー転用型と1,000万円の増築型の単純回収年数(基準ケース・客室稼働率38.2%・通年)。
  • — ¥6,100/¥9,800 10年で回収するために必要な1泊1室あたりの上乗せ額(税抜相当)。転用型は上乗せの中央値で届き、増築型は中央値をやや上回る設計が要る。
  • — 2.11倍 口コミ言及率10%以上の宿の推定成約ADRは同一市町村の非言及群比。ただし大半は宿全体のポジション差で、設備単体の値ではない。

露天風呂付客室が口コミに残る宿 — 言及率10%以上は979軒、4県に43%

ホテルバンク編集部が、2024年9月〜2026年9月に投稿された宿泊者口コミをNLP解析で分類したところ、旅館・リゾートホテルのうち口コミ50件以上の6,331施設(口コミ2,198,040件)で、露天風呂付客室を好意的に言及した口コミは84,969件あった。施設ごとの言及率で分けると、10%以上が979軒(15.5%)、1〜10%が1,759軒、1%未満が3,593軒となる。

言及件数の上位には、客室数が多く口コミの母数も大きい宿が並ぶ。1位のホテル南風荘(神奈川県箱根町)は口コミ1,351件のうち404件が露天風呂付客室に触れており、言及率は29.9%に達する。言及率そのものでみると、口コミ200件以上の施設では旅館 紅葉(岐阜県高山市)の49.2%、ほまれの光 水月(静岡県伊東市)の43.7%、ちちぶ温泉 はなのや(埼玉県秩父市)の43.2%が高く、宿泊者のほぼ2人に1人が客室の露天風呂を話題にしている。

露天風呂付客室の好意的言及件数 上位10施設(旅館・リゾートホテル、2024年9月〜2026年9月)
順位施設名所在地口コミ件数言及件数言及率
1ホテル南風荘神奈川県箱根町1,35140429.9%
2あわら温泉美松福井県あわら市1,27535627.9%
3ちちぶ温泉 はなのや埼玉県秩父市78934143.2%
4丸峰福島県会津若松市2,17733215.3%
5ラフォーレ 箱根強羅 湯の棲神奈川県箱根町1,38731722.9%
6塩の湯温泉 蓮月栃木県那須塩原市1,30529722.8%
7ラビスタ草津ヒルズ群馬県草津町1,10929126.2%
8おごと温泉 びわこ緑水亭滋賀県大津市1,45727919.1%
9仙石原品の木一の湯神奈川県箱根町91927129.5%
10雄琴温泉 雄山荘滋賀県大津市1,16426923.1%

出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)。対象は2024年9月〜2026年9月に投稿された口コミ。言及件数は露天風呂付客室を好意的に言及した口コミの件数

都道府県別に言及率10%以上の宿を数えると、静岡県160軒、神奈川県99軒、大分県97軒、熊本県65軒の4県で421軒となり、全国979軒の43.0%を占める。伊豆・箱根、由布院・別府、阿蘇・黒川といった、小規模な宿が客室の露天風呂を競い合ってきた温泉地である。これらの県では旅館・リゾートの3軒に1軒が上位群に入るのに対し、長野県(7.0%)や北海道(9.0%)では1割に満たない。普及の度合いには県によって5倍の開きがある。

言及率10%以上の施設数 上位10都道府県(旅館・リゾートホテル、口コミ50件以上)
都道府県対象施設数言及率10%以上構成比
静岡県45616035.1%
神奈川県2819935.2%
大分県2799734.8%
熊本県1916534.0%
群馬県2434317.7%
長野県514367.0%
北海道391359.0%
栃木県2223415.3%
岐阜県1652515.2%
鹿児島県1022423.5%

出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)(旅館・リゾートホテルで口コミ50件以上の施設、言及率10%以上の施設数上位10都道府県)

出典:ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(言及率10%以上・口コミ100件以上の旅館・リゾートホテル788施設。円の大きさは言及率)

言及率が上がるほどADRも上がる — 旅館は5段階で¥12,400から¥30,600へ

言及率を5段階に分け、各段階の推定成約ADR(12ヶ月平均の中央値)を並べると、旅館では1%未満の¥12,400から、1〜5%で¥19,800、5〜10%で¥24,300、10〜20%で¥30,600へと段階的に上がる。1%未満と10〜20%の差は2.47倍である。リゾートホテルでも¥15,000から¥34,900まで同じ方向に動く。

20%以上の段階でADRがやや頭打ちになる点にも目を向けたい。この段階の旅館は客室数の中央値が13室と小さく、全室に露天風呂を備えた小規模な宿が中心になる。露天風呂付客室は「客室の一部を高単価帯として切り出す」使い方でも、「宿全体の商品性を決める」使い方でも価格を支えているとみられる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)(旅館N=4,337施設、リゾートホテルN=1,269施設。推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の月平均の中央値)

同じ市町村で比べると2.11倍 — 倍率は6月に最大、8月に最小

立地の違いを均すため、同じ市町村・同じ業態の中に言及率上位群と非言及群の両方がある組み合わせだけを取り出して比べた。旅館では183市町村(上位群717施設・非言及群1,183施設)が該当し、市町村ごとの倍率の中央値は2.11倍、差額の中央値は¥15,900だった。上位群のADRが非言及群を上回った市町村は94.5%にのぼる。リゾートホテルでも54市町村で2.12倍と、ほぼ同じ水準になる。

ただし、この2.11倍をそのまま露天風呂の値打ちと読むことはできない。客室規模をそろえて比べると、30室以下どうしでは2.34倍(154市町村)、31〜80室では1.82倍(46市町村)、81室以上では1.45倍(12市町村)と、規模が大きいほど倍率は縮む。上位群には料理や設えを含めて高単価帯に位置づけた小規模な宿が多く、この差は設備単体ではなく「露天風呂付客室を軸に組み立てた宿の市場ポジション」の差と考えるのが自然だろう。

月次で並べると季節による違いが見えてくる。倍率は6月に2.29倍と最も大きく、8月に1.97倍と最も小さい。6月は非言及群のADRが¥11,000まで下がる一方、上位群は¥25,200を保っている。8月は家族旅行の需要が非言及群の単価を押し上げ、差が縮む。差額でみると12月(¥17,300)と1月(¥17,100)が最も大きい。露天風呂付客室は、需要の谷にあたる梅雨どきと、湯の価値が高まる冬に単価を支える装置として働いているといえる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)(旅館、同一市町村に上位群・非言及群の両方がある183市町村。月別の施設数は上位群692〜717施設、非言及群1108〜1182施設)

主な市町村の比較(旅館、対象施設数の多い順、推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の月平均の中央値)
市町村上位群(施設)非言及群(施設)上位群ADR非言及群ADR倍率
神奈川県箱根町5125¥35,800¥14,2002.53倍
栃木県日光市1048¥39,600¥15,2002.61倍
大分県由布市477¥26,400¥14,7001.79倍
大分県別府市2216¥23,100¥13,3001.74倍
静岡県熱海市1521¥39,500¥18,9002.09倍
岐阜県高山市1323¥30,400¥15,0002.03倍
群馬県草津町728¥24,100¥16,7001.45倍
三重県鳥羽市1122¥37,700¥17,8002.12倍
長野県山ノ内町625¥34,100¥10,9003.12倍
栃木県那須塩原市724¥31,100¥15,0002.07倍

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(NLP解析)(推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の月平均の中央値。施設数が少ない市町村は1施設の水準に左右される点に留意)

設備そのものの上乗せは同じ宿の中で+23.4%・約1万円

改装投資の判断に使えるのは、宿のポジションまで含んだ2.11倍ではなく、同じ宿の中で露天風呂が付くことで上乗せされる価格である。そこで、露天風呂付客室と一般客室の両方を掲載している宿(掲載プランに占める露天風呂付客室の比率が5〜60%の966施設)について、2026年10〜11月の水曜・土曜16日分を対象に、同じ宿泊日・同じ食事条件の最安プラン同士を比べた。

2食付きでは792施設・7,422組が比較でき、露天風呂付客室の上乗せは中央値で+23.4%・¥10,000(1泊1室・税込)となった。中間の半数は¥4,000〜¥20,400に収まり、87.4%の宿で露天風呂付客室のほうが高い。朝食付き(+26.6%・¥8,800)や素泊まり(+28.8%・¥8,800)でも上乗せ額はほぼ変わらず、価格差は食事ではなく客室そのものに付いていることがわかる。

同一施設比較による露天風呂付客室の上乗せ(条件別、2026年10〜11月宿泊分の掲載価格)
比較条件施設数比較組数上乗せ率上乗せ額上乗せ額の中間50%露天付が高い宿の割合
2食付き(全体)7927,422+23.4%¥10,000¥4,000〜¥20,40087.4%
朝食付き4263,357+26.6%¥8,800¥2,200〜¥16,40083.1%
素泊まり3562,889+28.8%¥8,800¥2,200〜¥16,00083.4%
2食付き・水曜7334,291+24.1%¥9,900¥4,400〜¥20,60087.7%
2食付き・土曜6693,131+19.1%¥10,000¥3,300〜¥20,50085.1%
2食付き・旅館6916,233+24.4%¥10,900¥4,400〜¥22,00088.3%
2食付き・リゾートホテル1011,189+13.7%¥6,600¥1,700〜¥13,40081.2%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格、2名1室利用・税込。2026年10月3日〜11月25日の水曜・土曜16日分、2026年9月19日時点の掲載。上乗せ率・額は施設ごとの中央値をさらに施設間で中央値にしたもの)

曜日別では、上乗せ額は水曜¥9,900・土曜¥10,000とほぼ同じだが、率では水曜が+24.1%、土曜が+19.1%と平日のほうが高い。土曜は一般客室の単価も上がるため、率では薄まる。平日の単価を底上げする手段としての効き目が大きいということになる。

価格帯別にみると、この「定額に近い」性質はさらにはっきりする。一般客室の2食付き最安が3万円未満の宿では+34.0%、3万〜4.5万円で+27.7%、4.5万〜6万円で+19.7%、6万円以上で+11.3%と率は下がっていくが、上乗せ額は¥8,600〜¥10,100の範囲にとどまる。客室の露天風呂には、宿の価格帯を問わず1泊1万円前後の値札が付いているとみることができ、価格帯の低い宿ほど率での単価改善余地が大きい。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格・2食付き。一般客室の最安プランの価格帯で施設×宿泊日の組を分類。3万円未満N=141施設、3万〜4.5万円N=436施設、4.5万〜6万円N=486施設、6万円以上N=435施設)

都道府県別(比較できた施設が15軒以上)では、栃木県+33.0%・¥16,500、新潟県+32.6%・¥13,200、長野県+29.0%・¥17,400、群馬県+28.6%・¥15,400と、北関東・甲信越の山の温泉地で上乗せが大きい。一方で、先にみた普及度(言及率10%以上の宿の構成比)との順位相関は−0.28と弱く、上乗せ幅を決めているのは県単位の普及度より、個々の宿の価格帯や客室構成だと考えられる。

都道府県別の上乗せ率・上乗せ額(2食付き、比較できた施設数の多い10都道府県)
都道府県施設数上乗せ率上乗せ額
静岡県78+23.3%¥8,800
長野県55+29.0%¥17,400
大分県47+18.2%¥8,800
北海道45+23.8%¥7,700
兵庫県35+16.7%¥8,800
群馬県33+28.6%¥15,400
新潟県33+32.6%¥13,200
栃木県30+33.0%¥16,500
神奈川県28+11.2%¥7,200
石川県28+19.3%¥8,900

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(掲載価格・2食付き、比較できた施設数の多い10都道府県)

客室露天を新設するCapex — バルコニー転用型と増築型

客室に露天風呂を設ける方法は、大きく2つに分かれる。既存のバルコニーやテラスに浴槽を据えるバルコニー転用型と、1階の庭側などに床を増やして露天スペースをつくる増築型である。どちらも工事項目は通常の客室改装より多い。防水と床下地、給排水と排水勾配、源泉の引湯配管と保温(または加温設備)、浴槽本体、目隠しと手すり、照明・換気の電気工事、そして設計・申請である。宿泊施設の再生を手がけるリロホテルソリューションズは、客室1室の改装費を100万〜500万円、貸切風呂1か所を300万〜1,000万円以上とし、露天風呂付き客室へのリノベーションは1,000万円以上かかるケースもあるとしている。

■ 試算前提

  • 工事費(1室あたり):バルコニー転用型 500万円(想定レンジ300万〜800万円)、増築型 1,000万円(同800万〜1,500万円)。上記の公表レンジをもとに編集部が設定した値で、個別の見積もりではない。
  • 上乗せ額(販売1泊1室あたり・税抜相当):保守 ¥5,300(同一施設比較の上乗せ率+23.4%を、比較対象施設の推定成約ADR中央値¥22,800に乗じた換算値)/基準 ¥9,100(上乗せ額の中央値¥10,000の税抜換算)/上位 ¥18,600(同じく上位25%点¥20,400の税抜換算)。
  • 稼働率:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値(通年)の旅館の客室稼働率38.2%を基本とし、50%・60%も併記。
  • 追加の運営費:1室あたり年30万円(水道光熱・加温、清掃人件費、水質検査、設備保守)。編集部の仮定値。
  • 工事期間中の逸失:対象客室のみを止めるローリング施工とし、停止日数はバルコニー転用型90日・増築型120日。逸失額は別稿「ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6%」と同じ考え方(止めた室日×ADR×稼働率、貢献利益率70%)で置き、バルコニー転用型55万円・増築型73万円を工事費に足し戻す。
  • 回収年数=(工事費+逸失)÷(上乗せ額×365日×稼働率−追加の運営費)。税・減価償却・金利は考慮しない単純回収年数。

増築を伴う場合や上階のバルコニーを使う場合は、法令上の確認事項が工期と工事費を左右する。主な論点は次のとおりである。改修で確認申請が必要になる範囲は「宿の改修に確認申請が要る条件」で、浴槽の衛生管理と条例基準は「温泉旅館の大浴場、設備更新は1室年2.1万〜9.0万円」で詳しく扱っている。

客室露天の新設に関わる主な法令上の論点(型別)
論点内容主に関わる型
建築確認防火地域・準防火地域での増築は面積にかかわらず確認申請が必要。それ以外の地域でも増築部分が10㎡を超えれば必要(建築基準法第6条第2項)。2025年4月の4号特例縮小で木造2階建ての改修も対象が広がった増築型
容積率・建蔽率外気に開放されたバルコニーは先端から2mまで床面積に算入しないのが原則。壁・屋根で囲い屋内化すると床面積に算入され、容積率に余裕のない既存旅館では実施できない場合がある両方(囲い方次第)
斜線制限上階への増床や浴槽上部の屋根・目隠しの新設は、道路斜線・隣地斜線・北側斜線の範囲に収める必要がある増築型
既存不適格増築の規模によっては既存部分にも現行基準が及ぶ。同法第86条の7に一定の緩和規定がある増築型
積載荷重水深0.5mの満水時は水だけで約4,900N/㎡。施行令第85条が寝室の床に定める1,800N/㎡の約2.7倍にあたり、上階では梁・スラブの補強か1階・地盤面への配置が前提になるバルコニー転用型
温泉の利用温泉を浴用に供するには都道府県知事の許可が要る(温泉法第15条)。客室への引湯・浴槽の増設は利用施設の変更として、所管の保健所と事前に協議するのが一般的。源泉の湯量の余力も確認事項両方
衛生管理川崎市の例では、ろ過器を24時間以上連続使用する浴槽水は年2回以上、毎日完全換水は年1回以上の水質検査が必要。入浴者ごとに換水し循環させない客室浴槽は対象外。方式の選択が運用コストを左右する両方

出典:建築基準法第6条・第86条の7、同法施行令第85条、温泉法第15条、「床面積の算定方法について」(昭和61年建設省住指発第115号)、川崎市「旅館業の浴室の水質検査」をもとにホテルバンク編集部作成。個別案件の適否は所管行政庁・保健所への確認が必要

回収年数の試算 — バルコニー転用型は基準ケースで5.7年

試算前提に沿って計算すると、旅館の平均的な稼働率38.2%(観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値・通年)のもとで、バルコニー転用型は基準ケース(上乗せ¥9,100)で5.7年、増築型は11.1年で回収する。上乗せが上位25%の水準(¥18,600)なら、それぞれ2.4年・4.7年まで短くなる。露天風呂付客室は一般客室より予約が入りやすいとみられ、稼働率が50%なら基準ケースで4.1年・7.9年となる。

単純回収年数の試算(型 × 上乗せ額 × 客室稼働率・通年)
型上乗せ額(税抜相当)稼働率38.2%(通年)稼働率50%(通年)稼働率60%(通年)
バルコニー転用型保守(¥5,300)12.6年8.3年6.4年
バルコニー転用型基準(¥9,100)5.7年4.1年3.3年
バルコニー転用型上位(¥18,600)2.4年1.8年1.5年
増築型保守(¥5,300)24.4年16.1年12.5年
増築型基準(¥9,100)11.1年7.9年6.3年
増築型上位(¥18,600)4.7年3.5年2.8年

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算前提は本文の「■ 試算前提」のとおり。逸失は工事費に足し戻し済み)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(稼働率38.2%・通年・追加の運営費年30万円のケース)

見方を変えて、10年で回収するのに必要な上乗せ額を逆算すると、稼働率38.2%でバルコニー転用型は1泊1室あたり¥6,100、増築型は¥9,800(いずれも税抜相当)となる。同一施設比較で得た上乗せ額の中央値は税抜換算で¥9,100だから、バルコニー転用型は中央値の宿で十分に届き、増築型は中央値をやや上回る上乗せを設計できるかが目安になる。稼働率が50%に上がれば、増築型の必要額は¥7,500まで下がる。

投資判断への示唆 — 定額の上乗せをどう使うか

第1に、低〜中価格帯の宿ほど率での改善余地が大きい。上乗せ額が価格帯によらず1万円前後に収まるということは、一般客室の2食付き最安が3万円未満の宿なら+34%、6万円以上の宿なら+11%の単価改善に相当する。改装の優先順位を付けるなら、現在の価格帯が低い宿ほど投資効率が高く出やすい。

第2に、全室化より段階導入が組み立てやすい。今回の同一施設比較の対象は、露天風呂付客室が掲載プランの5〜60%を占める宿である。まず工事費の小さいバルコニー転用型で数室を整え、上乗せと稼働を確かめたうえで増室するという順序なら、増築型の法令協議と大きな工事費を後ろにずらせる。

第3に、平日とオフ期の単価を支える設備として評価できる。上乗せ率は土曜より水曜で高く、ADRの倍率は6月と2月に大きい。繁忙期の上振れを狙う設備というより、需要の谷の単価を底上げする設備として事業計画に織り込むと、回収の見通しが立てやすい。

第4に、取得・運用の立場では、露天風呂付客室の比率と上乗せ実績がそのまま成長余地の指標になる。既存の旅館を取得する投資家や、旅館を保有するREIT運用者にとっては、バルコニーの奥行きや1階の庭側の余地、源泉の湯量、容積率の残りが、将来の客室単価を引き上げるための「眠っている選択肢」にあたる。業態別の取得単価の水準は「REITの1室あたり取得額は旅館が最高4,960万円」が参考になる。

まとめ

露天風呂付客室を好意的に語る口コミが多い宿は、同じ市町村の宿の2.11倍の推定成約ADRで売られている。ただしその大半は宿全体のポジションの差であり、設備そのものの上乗せは、同じ宿の中で2食付き最安どうしを比べた+23.4%・約1万円が実勢に近い。この上乗せは価格帯によらず定額に近く、平日やオフ期にも効く。1室500万円のバルコニー転用型なら基準ケースで5.7年、1,000万円の増築型なら11.1年で回収する計算となり、稼働率の上振れや上位25%の上乗せを取れれば数年単位まで縮む。客室露天は、既存の旅館が単価を引き上げるための、数字で検証できる選択肢である。

集計方法と出典

  • 言及率:ホテルバンク編集部が宿泊者口コミを意味解析で分類したデータのうち、2024年9月〜2026年9月の投稿を対象とした(NLP解析、N=6,331施設・2,198,040件)。露天風呂付客室を好意的に言及した口コミの件数を、その施設の口コミ総数で割った。上位10施設の件数は都道府県別の集計結果と照合済み。
  • 言及率の差が口コミの分類範囲の違いによるものでないことを確かめるため、客室に関する何らかの言及を含む口コミの割合を群ごとに比べた。上位群は70.1%、非言及群は59.1%で、言及率の差(10%以上対1%未満)はこの違いでは説明できない。
  • 推定成約ADR:2025年9月〜2026年8月の確定月(12ヶ月)のうち9ヶ月以上の推定値がある施設を対象とした(旅館4,337施設・リゾートホテル1,269施設)。同一市町村比較は、同じ市町村・同じ業態に上位群と非言及群の両方がある組み合わせに限った。
  • 同一施設比較:客室名に「露天」「温泉付」等を含む客室を露天風呂付客室とし、プラン名・客室名から食事条件(2食付き・朝食付き・素泊まり)を判定した。同じ施設・同じ宿泊日・同じ食事条件の最安プランどうしを比較し、販売中の掲載に限った。掲載価格は2026年9月19日時点のもので、宿泊日に向けて変動する。露天風呂付客室は一般客室より広い・上位の客室タイプであることが多く、上乗せには客室の広さや設えの違いも含まれる。
  • 本文の価格は100円単位に丸めている。表・チャートの値は集計値に基づく。

将来日程の掲載価格に関する注意:第4章の同一施設比較は、調査時点(2026年9月19日)でOTA等に公開されている2026年10〜11月宿泊分の販売価格に基づきます。チェックイン日に近づくにつれて新規プランの追加や価格調整で変動する可能性がある点にご留意ください。

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宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント

旅館で「露天風呂付」を掲げて公開されているプラン名(N=870)に多い訴求要素 ——

露天風呂付客室 38%会席コース 25%2食付 23%温泉露天 23%部屋食 15%離れ・コテージ 12%

実際の名前の例(匿名化):

  • 【スタンダード】海一望 露天風呂付離れ客室 金目鯛と旬の懐石料理【朝夕お部屋食】
  • 【大人のおこもり一人旅】海一望 露天風呂付離れ客室 金目鯛と旬の懐石料理【朝夕お部屋食】
  • 別邸【○○】温泉露天風呂付きスイート/夕食:基本懐石/朝食:和定食<部屋食>

※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。

参考資料・出典一覧

■ データソース

OTA公開の掲載価格・在庫データ(2026年9月19日時点の掲載、2026年10月3日〜11月25日の水曜・土曜16日分)、宿泊者口コミの意味解析データ(2024年9月〜2026年9月、旅館・リゾートホテル6,331施設・2,198,040件)、推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月のうち9ヶ月以上の推定値がある旅館4,337施設・リゾートホテル1,269施設)、観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値(通年)。

■ 試算前提

工事費は1室あたりバルコニー転用型500万円・増築型1,000万円(公表レンジをもとに編集部が設定した値で、個別の見積もりではない)。上乗せ額は税抜相当で保守¥5,300/基準¥9,100/上位¥18,600。客室稼働率は旅館38.2%(通年)を基本に50%・60%を併記。追加の運営費は1室あたり年30万円(編集部の仮定値)。工事期間中の逸失(転用型55万円・増築型73万円)は工事費に足し戻し、回収年数=(工事費+逸失)÷(上乗せ額×365日×稼働率−追加の運営費)で算出した。詳細は本文の「■ 試算前提」を参照。

■ 限界・留意点

回収年数は税・減価償却・金利を考慮しない単純回収年数であり、投資判断を示すものではない。推定成約ADRは推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。同一施設比較の上乗せには客室の広さや設えの違いも含まれ、露天風呂という設備単体の寄与を分離したものではない。言及率上位群と非言及群の2.11倍には料理・施設グレード・客室規模の差が含まれる。将来日程の掲載価格は宿泊日に向けて変動する。工事費・稼働率・上乗せ額はいずれも前提値であり、個別案件では所管行政庁・保健所への確認と実見積もりが必要となる。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(旅館4,337施設・リゾートホテル1,269施設)、掲載価格の同一施設比較(792施設・7,422組)
  • ホテルバンク編集部調べ(NLP解析) — 宿泊者口コミ2,198,040件(2024年9月〜2026年9月、6,331施設)

■ 政府統計・法令

■ 業界資料

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