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融資年限が成立価格を42.6%動かす — 築25年で残存14年、テナーの経済学

投稿日 : 2026.09.12

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投資・開発

融資年限が成立価格を42.6%動かす — 築25年で残存14年、テナーの経済学

ホテル取得の稟議で、金利は必ず議論される。LTVも議論される。ところが成立価格を最も大きく動かす変数は、そのどちらでもないことがある。融資年限(テナー)——何年で貸してもらえるか、である。金利が1.5%から3.0%へ倍になっても、返済期間20年を維持できるなら成立価格の下落は13%台にとどまる。一方、金利を2.0%に固定したまま返済期間が30年から15年に半減すると、同じNOI・同じLTV・同じDSCRでも成立価格は42.6%下がる。本稿は、この「期間が主語」の価格形成を、法定耐用年数の制度、自社の宿泊市場データ、上場ホテルREIT299物件の築年数分布から定量化する。

既刊との線引き:政策金利1.00%とホテル開発』『金利1%時代のホテル資金調達』は資本コスト(金利・調達手段)の話、『PMLがLTVと利回りを動かす』はレバレッジ水準の話、『旧耐震ホテル23.6万室』『ホテルの資本的支出』『グランピングの耐用年数は4年か39年か』は物理・償却の話である。本稿が扱うのは金利でもLTVでも償却でもなく、返済期間そのものが成立価格をいくら動かすかという一点に絞る。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
  • RevPAR:本稿で示すRevPARは上場ホテルREITが月次で開示した物件別実績値(税抜相当)。当社推定値ではありません。
  • テナー(融資年限):借入の約定返済期間。本稿では元利均等返済を前提とする。
  • DSCR:NOI ÷ 年間元利返済額。1.0を下回ると返済がNOIで賄えない。
  • 成立価格:所与の金利・テナー・LTV・DSCR制約のもとで、買い手が支払える取得価格の上限。本稿の設例における計算上の概念であり、鑑定評価額でも実際の取引価格でもありません。
  • 築年数:当社が保有する施設の開業年(施設としての開業時点)を基準に2026年から逆算した年数。建物の実際の竣工年・増改築歴とは一致しない場合があります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/各REIT月次運営実績(IR開示)
テナー30年→15年
−42.6%
設例:成立価格の下落
金利1.5%→3.0%
−13.4%
設例:テナー20年固定時
築25年の法定残存
14年
ホテル用SRC/RC 39年基準
築25年以上の客室ストック
42.3%
95.6万室/N=38,390施設
REIT保有の築25年以上
44.8%
N=299物件
Key Takeaways
  • テナー30年→15年で成立価格−42.6%。同じNOI・同じ金利・同じLTVでも、返済期間の半減だけで買い手が払える金額は4割強落ちる。
  • 金利1.5%→3.0%の影響は−13.4%(テナー20年固定)。期間の効き方は金利の3倍超で、稟議の感応度分析はテナーを1軸に立てる必要がある。
  • 築25年で法定残存14年。ホテル用SRC/RC造の法定耐用年数39年から逆算され、築年数1年ごとにテナーが1年短くなる。
  • 収益は築年数で落ちていない。REIT保有171物件の開示実績では築30-39年帯の稼働率中央値が89.6%と最も高く、RevPAR中央値も築浅帯を上回る。
  • 該当ストックは客室の42.3%(95.6万室)。収益は落ちないのにテナーだけが制度的に短くなる資産が、市場の4割を占める。

金利より期間が効く — 同じNOIで成立価格が42.6%動く

結論から示す。NOI(純収益)が同じでも、テナーが変われば買い手が払える金額は大きく変わる。理由は単純で、元利均等返済の年間返済額は期間で割り戻されるからである。年間返済額をDS、金利をi、期間をn年とすると、借入可能額Lは次で決まる。

DS = NOI ÷ DSCR / L = DS ÷ [ i ÷ ( 1 − (1+i)−n ) ] / 成立価格 P = L ÷ LTV

金利iは分子側に一次で効くが、期間nは指数の中に入る。したがってnが短くなるほど年金現価係数は急速に小さくなり、同じDSで組める借入元本が縮む。下図は、金利を動かした場合とテナーを動かした場合で、成立価格がどれだけ動くかを同じ縦軸に並べたものである。

設例:金利変動 vs テナー変動 — 成立価格への効き方の比較(NOI一定)
設例。前提:NOI 200百万円、DSCR 1.30、LTV 65%、元利均等返済。金利感応度はテナー20年固定、テナー感応度は金利2.0%固定。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)

金利を1.5%から3.0%へ、つまり倍にしても、テナー20年を保てる限り成立価格は4,064百万円から3,521百万円へ13.4%の下落にとどまる。ところが金利を2.0%に据え置いたままテナーが30年から15年になると、5,301百万円が3,041百万円へ、42.6%落ちる。さらに極端な組み合わせで比べると効き方の差が際立つ。金利1.5%×テナー15年の成立価格は3,158百万円、金利3.0%×テナー30年は4,639百万円である。金利が倍でも期間が倍なら、後者のほうが46.9%高い値段を払える。稟議で金利前提を0.25%刻みで詰めることには意味があるが、テナーを1年伸ばす交渉のほうが桁違いに価格に効く場面がある、ということだ。

39年という起点 — 法定耐用年数と簡便法が決める残存年数

ではテナーは何で決まるのか。実務上の目安になるのが建物の残存耐用年数である。減価償却資産の耐用年数等に関する省令(耐用年数省令)別表第一において、ホテル用・旅館用の建物のうち鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は39年と定められている(同じホテル用でも、れんが造・石造・ブロック造は36年、金属造は骨格材の肉厚により29年・24年・17年、木造・合成樹脂造は17年と区分が分かれる)。

金融機関の実務では、この39年から経過年数を差し引いた「法定残存年数」を融資年限の上限目安に置く運用が広く見られる。加えて、税務上の中古資産の耐用年数を求める簡便法という別の物差しもある。法定耐用年数の全部を経過した資産は「法定耐用年数×20%」、一部を経過した資産は「(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×20%」で算定される。地方銀行・信用金庫のなかには、この簡便法による年数まで融資期間を伸ばす、あるいは独自基準(RC造なら「70−築年数」など)を採る先もあり、テナーは一律ではない。宿泊業向け貸出そのものの規模と資金使途の内訳については、ホテル・宿泊業向け貸出は4.1兆円 — 設備資金61%で日銀統計から分解している。ただし方向性は共通で、築年数が1年進むごとに、貸してもらえる期間は1年ずつ短くなる

築年数別の残存年数(ホテル用SRC造・RC造/法定耐用年数39年)
築年数別の残存年数(ホテル用SRC造・RC造/法定耐用年数39年)
築年数法定残存年数
(39−経過年数)
簡便法による年数
((39−n)+0.2n)
実務テナーの目安
築5年34年35.0年34年前後
築10年29年31.0年29年前後
築15年24年27.0年24年前後
築20年19年23.0年19年前後
築25年14年19.0年14年前後
築30年9年15.0年9年前後
築35年4年11.0年4年前後
築40年0年7.8年8年前後
築45年0年7.8年8年前後
出典: 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・第三(ホテル用/旅館用建物)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。「実務テナーの目安」は法定残存年数と簡便法年数のうち保守側を採った参考値であり、個別金融機関の与信基準を示すものではありません。

ここで注目すべき閾値が築25年である。この時点で法定残存年数は14年を切る。地銀・信金の与信実務で法定残存年数を超える貸出が難しい先を想定すれば、築25年超の物件は事実上テナー14年以下、築30年超なら9年以下という世界に入る。前掲の感応度で言えば、テナー14年前後は成立価格が30年比でおよそ4割強落ちる領域である。

テナー別の成立価格 — 30年で¥5,301百万、10年で¥2,126百万

設例の前提(すべて開示)

・客室数150室、年間NOI 200百万円(1室あたり約133万円)/・調達金利 2.0%(政策金利1.00%+スプレッド1.00%を想定)/・LTV 65%/・DSCR基準 1.30/・元利均等返済、期中一定/・NOI一定(成長・減衰を織り込まない)/・取得諸費用、テールピリオド、期限前弁済ペナルティは考慮しない

本節の数値はすべて設例であり、実在の物件・取引・融資条件を示すものではありません。実データ(後掲)とは明確に区別してお読みください。本稿が捨象した取得諸費用が実質利回りをどれだけ削るかは、ホテル取得の諸費用は価格の7.1%で別途積み上げている。

設例:テナー別の年間返済額・借入可能額・成立価格・実効キャップレート
設例:テナー別の年間返済額・借入可能額・成立価格・実効キャップレート
テナー年間返済額
(百万円)
借入可能額
(百万円)
成立価格
(百万円)
1室単価
(百万円)
必要エクイティ
(百万円)
実効CRCoC30年比
30年153.83,4465,301351,8553.77%2.49%+0.0%
25年153.83,0044,621311,6174.33%2.85%-12.8%
20年153.82,5163,870261,3555.17%3.41%-27.0%
15年153.81,9773,041201,0646.58%4.34%-42.6%
10年153.81,3822,126147449.41%6.20%-59.9%
7年153.89961,5321053613.06%8.61%-71.1%
設例。DSCR 1.30の制約下ではDSはテナーによらず一定(NOI÷1.30=153.8百万円)。テナーが短いほど同じDSで組める元本が縮み、成立価格が下がる。実効CR=NOI÷成立価格、CoC=(NOI−DS)÷必要エクイティ。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)
設例:テナー別の成立価格(棒)と実効キャップレート(線)
設例。前提は上表と同一。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)

表を横に読むと、テナー短縮の帰結が3つ同時に起きていることがわかる。第一に成立価格が下がる。第二に、価格が下がるぶん実効キャップレートは3.77%から13.06%へ跳ね上がる——これは「築古が高利回りに見える」現象の主因が物件のリスクプレミアムだけではなく、そもそもファイナンスの制約で価格が押し下げられていることを示す。第三に、レバレッジ後のキャッシュ・オン・キャッシュは逆に改善する(2.49%→8.61%)。返済期間が短いぶん元本が早く減り、期中のキャッシュフローは薄いが自己資本の回転は速い。つまり短テナー物件は「安く買えて、期中CFは薄く、元本返済が早い」投資になる。これはエクイティの性格が違う投資であり、期中インカムを求める投資家と、元本償却によるエクイティ積み上げを狙う投資家とでは、同じ物件でも払える金額が変わる。

設例:築25年物件の3シナリオ — NOIとテナーが同時に動く場合の成立価格レンジ
設例:築25年物件の3シナリオ — NOIとテナーが同時に動く場合の成立価格レンジ
シナリオNOI
(百万円)
テナー借入可能額
(百万円)
成立価格
(百万円)
1室単価
(百万円)
実効CRCoC前提の置き方
楽観22019年2,6534,08227.25.39%3.55%長期資金の持込み・簡便法適用で期間を確保
中位20014年1,8622,86519.16.98%4.60%法定残存年数どおり(築25年)
悲観1759年1,0991,69011.310.35%6.83%与信厳格化でテナー短縮・NOI悪化が同時に起きる
設例。前提:客室150室、金利2.0%、LTV 65%、DSCR 1.30、元利均等返済。楽観・悲観はNOIとテナーを同時に動かした場合の幅を示すもので、確率分布に基づく信頼区間ではありません。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)

前節までは NOI を一定に置いてテナーだけを動かしたが、実務ではこの2つは同時に動く。築25年物件を上の3シナリオで置くと、成立価格は¥1,690百万〜¥4,082百万——中位(¥2,865百万)に対して楽観は+42.5%、悲観は-41.0%、上下で2.41倍の開きになる。注目すべきは、悲観シナリオでも実効キャップレートは10.35%と高く見える点である。高利回りに見えることと、投資として良いこととは別である。

設例:金利 × テナーの2軸感応度 — 成立価格(百万円、NOI 200百万円一定)
設例:金利 × テナーの2軸感応度 — 成立価格(百万円、NOI 200百万円一定)
金利\テナー30年25年20年15年10年テナー差
1.0%6,1085,2134,2713,2822,242-63.3%
1.5%5,6844,9044,0643,1582,183-61.6%
2.0%5,3014,6213,8703,0412,126-59.9%
2.5%4,9544,3613,6902,9312,071-58.2%
3.0%4,6394,1213,5212,8262,019-56.5%
金利差-24.1%-20.9%-17.6%-13.9%-9.9%
設例。前提:NOI 200百万円、LTV 65%、DSCR 1.30、元利均等返済。最右列は各金利水準における テナー30年→10年 の価格変化、最下行は各テナーにおける 金利1.0%→3.0% の価格変化。セルの濃さは成立価格の高さ。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)

2軸で並べると効き方の差が一目でわかる。横方向(テナーを30年から10年に短縮)の価格変化は各金利水準で−56.5%〜−63.3%、縦方向(金利を1.0%から3.0%へ、3倍)の価格変化は各テナーで−9.9%〜−24.1%にとどまる。最も極端な対角比較では、金利3.0%×テナー30年(¥4,639百万)が、金利1.0%×テナー10年(¥2,242百万)の2.07倍を払える。金利が3分の1でも、期間が3分の1なら価格は半分以下になる。テナーが長いほど金利の効きも大きくなる(30年で−24.1%、10年で−9.9%)ため、金利交渉に意味があるのはそもそも長期を引ける案件だ、という順序関係もここから読める。

実データ:築年数は宿泊単価を単調に下げていない

ここまでは設例である。では実際に、築年数が進んだホテルはキャッシュフロー生成力も落ちているのか。ここからは自社の宿泊市場データと、上場ホテルREITの物件別開示実績という実データで検証する。

まず当社データから。開業年が判明し客室30室以上の施設を築年数帯ごとに抽出し(各帯とも客室規模上位400施設を母集団とし、直近実績月が3ヶ月以上そろう施設に限定)、2026年3〜8月の推定成約ADRの施設中央値を帯別に集計した(N=1,767施設)。結果は単調な右肩下がりにはならない。

築年数帯別の推定成約ADR(施設中央値、2026年3〜8月)
築年数帯別の推定成約ADR(施設中央値、2026年3〜8月)
築年数帯施設数ADR中央値第1四分位第3四分位
築10年未満275¥13,902¥9,360¥21,926
築10-19年253¥10,934¥7,949¥15,331
築20-24年328¥8,708¥7,552¥11,166
築25-29年334¥8,992¥7,197¥13,037
築30-39年289¥10,650¥7,659¥15,652
築40年以上288¥12,114¥8,748¥18,927
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=1,767施設、客室30室以上、ビジネス/シティ/リゾート/旅館/カプセルの5業態)。各帯とも客室規模上位400施設を母集団とした抽出であり、全数調査ではありません。

最も高いのは築10年未満(¥13,900)だが、これは新規開業が都市部の高稼働立地に集中していることの反映である。谷は築20-24年(¥8,700)で、そこから先はむしろ上がる。築40年以上は¥12,100で、築20-24年を39.1%上回る。理由は業態構成にある。築40年超の帯には、2食付きで単価の高い温泉旅館・リゾートが厚く含まれる一方、築20-24年の帯には2000年代前半に大量供給された宿泊特化型が集中している。築年数は単価を説明する変数として弱い

上場ホテルREITが開示する物件別実績でも同じ傾向が確認できる。7投資法人の保有299物件(当社の保有関係マスター 2026年8月31日時点スナップショット、国内物件)のうち、直近開示月の物件別RevPARが取得できた171物件を築年数帯で並べると次のようになる。

上場ホテルREIT保有物件:築年数帯別の開示RevPAR中央値(直近開示月)
上場ホテルREIT保有物件:築年数帯別の開示RevPAR中央値(直近開示月)
築年数帯物件数RevPAR中央値ADR中央値稼働率中央値
築10年未満56¥7,670¥9,94080.7%
築10-19年28¥11,916¥13,58884.2%
築20-24年5¥10,305¥11,24091.7%
築25-29年7¥17,643¥19,85288.1%
築30-39年39¥10,635¥11,74989.6%
築40年以上36¥10,889¥11,79484.8%
出典: 星野リゾート・リート投資法人(2026年6月)、いちごホテルリート投資法人(2026年7月)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(2026年7月)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(2026年6月)、森トラストリート投資法人(2026年6月)、インヴィンシブル投資法人(2026年7月)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(2026年7月)の各月次運営実績(物件別開示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。N=171物件(各社の直近開示月、物件別RevPARが開示されているもの)。築20-24年・築25-29年はサンプルが5〜7物件と薄く、中央値の解釈には留意が必要。ポートフォリオ全体の集計値ではなく、物件別開示値を築年数で再集計したものです。

築30-39年の中央値RevPARは¥10,600、築40年以上は¥10,900で、築10年未満の¥7,700を上回る。稼働率に至っては築30-39年帯が89.6%と、サンプルが厚い帯のなかで最も高い(最高値はN=5と薄い築20-24年帯の91.7%)。実際に稼いでいる金額は、築年数で単調に落ちてはいないのである。

ここに本稿の核心がある。収益は落ちていないのに、テナーは制度に沿って機械的に短くなる。結果として、同じNOIを生む2つの物件のあいだに、築年数だけを理由とするファイナンス起因の価格差が生じる。設例に戻れば、築10年(テナー29年)で¥5,170百万の物件と、築30年(テナー9年)で¥1,932百万の物件が、まったく同じNOI 200百万円を生んでいる、という構図になる。

築25年以上が客室ストックの42.3% — 買い手が絞られる95.6万室

この構図がどれだけの規模の資産に効くのか。当社が追跡する施設のうち開業年が判明し客室10室以上のもの38,390施設・2,261,074室を築年数帯で分解すると、築25年以上が19,169施設・956,200室、客室ベースで全体の42.3%を占める。

築年数帯別の施設数・客室数と、対応する法定残存年数レンジ
築年数帯別の施設数・客室数と、対応する法定残存年数レンジ
築年数帯施設数客室数客室シェア法定残存年数
築10年未満8,498652,53728.9%29年以上
築10-19年7,238450,68419.9%20〜29年
築20-24年3,485201,6538.9%15〜19年
築25-29年2,282144,1066.4%10〜14年
築30-39年10,803438,14719.4%0〜9年
築40年以上6,084373,94716.5%簡便法7.8年
合計38,3902,261,074100.0%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(開業年が判明し客室10室以上の施設。N=38,390施設・2,261,074室)。開業年不明の施設、客室10室未満の施設は含みません。当社が把握する範囲での集計であり、全数調査ではありません。

築25年以上の95.6万室は、金融機関の標準的な与信基準で見ればテナー14年以下の世界にある。これは買い手を選ぶ。長期のノンリコースローンで薄いキャップレートを取りにいくコア型の投資家は、返済期間が組めない以上そもそも入札に参加できない。残るのは、(1)自己資金比率を大幅に引き上げられるキャッシュバイヤー、(2)短期のブリッジ/バリューアッド資金で入り、改修とリブランドを経て3〜5年で回転させるファンド、(3)保有土地の含み益や本業キャッシュフローで返済年限の短さを吸収できる事業会社、の3類型に絞られる。築古ホテルの取引が「値付けが割れる」「入札が集まらない」と言われる背景には、需要の問題ではなく、テナーによる買い手母集団の縮小がある。宿泊以外の用途への転用可能性がどこまで下値を支えるかは、ホテル→住宅・寮の転用、分岐点ADRは¥3,800〜4,600が出口の広さという観点から検討している。

もっとも、上場REITが築古を避けているわけではない。7投資法人の保有299物件の築年数中央値は19年、築25年以上が44.8%(134物件)、築40年以上も16.1%(48物件)を占める。取得時点の築年数の中央値は8年だが、取得の30.3%は築25年超の物件だった。REITは無担保コーポレートボンドや長期のシンジケートローン、投資口の追加発行という調達手段を持つため、物件単体の残存年数に融資年限を縛られにくい。ファイナンス構造の違いがそのまま買い手適性の違いになっている、という読み方ができる。

上場ホテルREIT保有299物件の築年数分布(円=客室規模、色=築年数帯)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(REIT保有関係マスター 2026年8月31日時点スナップショット、国内299物件)。築年数は当社が保有する施設の開業年に基づく推定であり、建物竣工年・増改築歴とは一致しない場合があります。

テナー・ディケイ — 保有7年で出口価格が最大40.9%目減りする

テナーの問題は取得時点で終わらない。出口でも効く。売却時に買い手が組めるテナーは、保有期間のぶんだけさらに短い。NOIが1円も減らなくても、残存年数の減価だけで売却価格が下がる——これを本稿ではテナー・ディケイと呼ぶ。

下表は、設例と同じ前提(NOI 200百万円、金利2.0%、LTV 65%、DSCR 1.30)で保有期間7年を置き、取得時築年数ごとに出口価格を試算したものである。テナーは法定残存年数を用い、下限は簡便法による7.8年で止めた。

設例:保有7年におけるテナー・ディケイ(NOI一定)
設例:保有7年におけるテナー・ディケイ(NOI一定)
取得時取得時テナー取得価格
(百万円)
売却時出口テナー出口価格
(百万円)
価格変化価格維持に必要な
NOI年率成長
築10年29.0年5,170築17年22.0年4,179-19.2%3.09%
築15年24.0年4,477築22年17.0年3,383-24.4%4.08%
築20年19.0年3,711築27年12.0年2,503-32.5%5.79%
築25年14.0年2,865築32年7.8年1,694-40.9%7.80%
築30年9.0年1,932築37年7.8年1,694-12.3%1.90%
設例。前提:NOI一定、金利2.0%、LTV 65%、DSCR 1.30、元利均等返済。テナーは法定残存年数(39−築年数)、下限は簡便法による7.8年。築30年取得のケースで下落幅が小さいのは、取得時点ですでに下限テナーに近く、それ以上短くなる余地が乏しいため。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(設例計算)

最も痛いのは築25年で取得して築32年で売るケースである。取得時テナー14年に対し出口テナーは下限の7.8年まで落ち、同じNOIでも出口価格は40.9%目減りする。この目減りを価格で相殺するには、保有7年間でNOIを年率7.80%(累計69.1%)成長させる必要がある。ADR上昇と稼働改善で年率7.8%を7年続けるのは容易ではない。逆に言えば、築25年前後の取得では投資回収を売却益ではなく期中キャッシュフローと元本償却に置く設計が要る。前掲のとおりこの帯のCoCは4%台と厚く、7年の保有で元本は相応に減る。出口価格の目減りは、期中に返済した元本ぶんのエクイティ回復で吸収する——という組み立てになる。

一方、築10年で取得して築17年で売る場合の目減りは19.2%、必要なNOI成長は年率3.09%にとどまる。近年のADR上昇局面であれば十分に射程に入る水準であり、築浅は「NOI成長で出口を作れる」、築古は「NOI成長では出口を作りにくい」という非対称が生じる。テナーが残っているかどうかが、そのままエグジット戦略の選択肢を規定している。

築20年以下 — 期間が武器になる

テナー19年以上を確保でき、成立価格の押し下げは限定的。出口の目減りも年率3〜4%のNOI成長で吸収可能。長期資金を組めるプレイヤーが競合するため、取得競争は激しくなる。

築25〜35年 — 期間が価格を決める

法定残存14年以下。成立価格は30年テナー比で4割以上下がり、実効キャップレートは見かけ上高くなる。買い手はキャッシュバイヤー/バリューアッド資金に絞られ、価格発見が効きにくい。

築40年以上 — 期間の議論が消える

法定残存はゼロ。テナーは簡便法の7.8年前後が実質的な下限として横ばいになり、これ以上のテナー・ディケイは起きない。価格は土地値・建替え前提での評価に軸足が移る。

稟議・与信・出口設計への含意

最後に、立場ごとの実務的な含意を整理する。

取得の稟議を書く投資担当へ。感応度分析の軸に金利とキャップレートだけでなく、テナーを必ず1軸として立てることを提案したい。前掲のとおり、テナー5年の差は金利1.5%ポイントの差より価格インパクトが大きい。入札価格を決める前に、想定するレンダーが何年で出せるかを先に確認しておけば、価格前提の置き直しを後工程で発生させずに済む。また、実効キャップレートが高い案件を見たときは、それが物件固有のリスクプレミアムなのか、テナー制約による価格の押し下げなのかを分けて評価したい。後者であれば、より長い資金を持ち込めるだけで同じ物件のアップサイドが取れる。

担保評価と期間設定をする金融機関へ。本稿の実データが示したのは、築30-39年帯の稼働率中央値が89.6%とサンプルが厚い帯のなかで最も高く、RevPARも築浅帯を上回っているという事実である。法定残存年数は税務上の物差しであって、キャッシュフローの持続期間を示す指標ではない。大規模修繕の履歴、更新投資の実績、直近の稼働・単価トレンドを併せて見れば、法定残存年数を機械的に当てはめるより精緻な期間設定の余地がある。既刊『ホテルの資本的支出は1室あたり年13万〜62万円』で示したとおり、継続的な資本的支出が入っている物件は物理的な残存期間が延びている。

築古物件の出口を読むアセットマネージャーへ。保有中にテナーが1年ずつ減っていくことは、保有期間の設計に直接効く。テナー・ディケイが最も急な帯(築20〜32年)を保有期間中に通過する場合、出口価格の下落を期中CFと元本償却で吸収する設計にしておくか、その帯を抜ける前に売り切るか、いずれかの判断が要る。「NOIを伸ばせば出口も伸びる」という前提は、テナーが残っている物件でのみ成立する

本稿の限界と留意点:(1) 融資年限の決定は個別金融機関の与信方針、借入人の信用力、担保・保証構造、スポンサーサポート等によって大きく異なり、本稿が示す「法定残存年数=テナー」は実務上の一つの目安に過ぎません。実際には法定残存年数を超える長期融資も、逆に大幅に短い期間設定も存在します。(2) 感応度表・シナリオはすべて設例であり、前提を1つ変えれば結論は変わります。実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要です。(3) 築年数は当社が保有する施設の開業年に基づく推定であり、建物竣工年・増改築歴・構造区分とは一致しない場合があります。木造・金属造の物件では法定耐用年数が39年ではなく17〜29年となり、テナーはさらに短くなります。(4) 本稿のADRは推定値です(上場REIT開示実績との照合で誤差中央値約7%)。(5) REIT開示のADR・RevPARは消費税抜き表示です。

参考資料・出典一覧

■ データソース

築年数帯別の推定成約ADRは、開業年が判明し客室30室以上の施設を対象に、各帯とも客室規模上位400施設を母集団として直近実績月が3ヶ月以上そろう施設に限定し、2026年3〜8月の施設中央値を集計(N=1,767施設・5業態)。客室ストックの築年数分布は当社が保有する施設マスター(N=38,390施設・2,261,074室)。REIT関連の数値は上場ホテルREIT7投資法人の保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、国内299物件)と、各投資法人が月次で開示する物件別運営実績(直近開示月・RevPAR開示のある171物件)。

■ 試算前提

設例はすべて 客室150室・年間NOI 200百万円・LTV 65%・DSCR 1.30・元利均等返済・NOI一定(成長/減衰を織り込まない)を共通前提とし、金利は特記なき限り2.0%(政策金利1.00%+スプレッド1.00%を想定)。成立価格は 借入可能額 ÷ LTV、年間返済額は NOI ÷ DSCR、借入可能額は年金現価係数による割戻し。テナーは法定残存年数(39−築年数)を上限目安とし、下限は簡便法による7.8年。取得諸費用・テールピリオド・期限前弁済ペナルティ・売却費用は考慮していない。3シナリオはNOIとテナーを同時に動かした幅であり、確率分布に基づく信頼区間ではない。

■ 限界・留意点

融資年限は個別金融機関の与信方針・借入人の信用力・担保保証構造・スポンサーサポートで大きく異なり、本稿の「法定残存年数=テナー」は実務上の一つの目安に過ぎない(法定残存を超える長期融資も、大幅に短い設定も存在する)。設例の数値は実在の物件・取引・融資条件を示すものではなく、前提を1つ変えれば結論は変わる。築年数は施設の開業年からの逆算であり建物竣工年・増改築歴・構造区分と一致しない場合がある(木造・金属造では法定耐用年数が17〜29年となりテナーはさらに短い)。ADRは推定値(上場REIT開示実績との照合で誤差中央値約7%)。REIT開示のADR・RevPARは消費税抜き表示。築20-24年・築25-29年の帯はN=5〜7と薄く中央値の解釈に留意。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(N=1,767施設、2026年3〜8月)、施設の開業年・客室数(N=38,390施設・2,261,074室)、REIT保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、国内299物件)

■ 制度・法令

■ REIT月次開示

■ 金利・融資実務の参考

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