国の重要文化財「旧奈良監獄」を保存・再生した「星のや奈良監獄」が2026年6月25日、奈良市に開業した。
1908年に竣工し、明治五大監獄のうち唯一、建物の全貌をほぼ残す旧奈良監獄。赤レンガの外壁や、中央看守所から舎房が放射状に伸びる「ハヴィランド・システム」など、近代日本の建築と行刑の歴史を伝える貴重な遺構だ。
ホテルでは旧舎房を連結し、全48室をスイートとして整備。歴史的意匠を残しながら、現代的な快適性を組み込んだ。宿泊者は併設の「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」にも自由に足を運べる。旧奈良監獄をホテルとして再生するにあたり、どのような思いや工夫が込められたのか、星のや奈良監獄に話を聞いた。
公式サイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyanarakangoku/
――「明けの重要文化財」というコンセプトには、旧奈良監獄のどのような価値や物語を宿泊体験として伝えたいという思いが込められているのでしょうか。

旧奈良監獄が誕生したのは、日本が近代国家として歩み始めた「黎明(れいめい)期」にあたります。
「明けの重要文化財」というコンセプトには、当時、日本国内で豊かに花開いた西洋文化を滞在の随所に織り込むことで、歴史の深みと圧倒的な非日常に浸り、旅の喜びを感じていただきたいという思いを込めています。
単に古い建物を鑑賞するだけではなく、約100年の歴史が刻まれた重要文化財に「宿泊する」という、非常に稀有な体験を通して、悠久の歴史と対峙し、日常の喧騒から離れ、静かに自分自身と向き合う。そんな内省的で贅沢な時間をお過ごしいただければと思います。
過去から未来へと歴史を紡ぐヘリテージ活用の新たな形を示すとともに、この場所だからこそ得られる「心静まる、静謐な滞在価値」を伝えてまいります。




――監獄という特異な空間をラグジュアリーホテルへ再生するにあたり、「残すもの」と「新たに加えるもの」は、どのような基準で判断されたのでしょうか。

最大の基準としたのは、「監獄という特異な空間が持つ個性を生かしながら、現代の快適性と融合させること」です。
「残すもの」については、文化的価値の保存を最優先に考えました。赤レンガ造りの外壁をはじめ、舎房が放射状に伸びる「ハヴィランド・システム」、監獄建築の象徴である「中央看守所」からの景観、施設の顔ともいえる「表門」など、当時の建築の全貌を可能な限り残すため、耐震改修と意匠の保存に徹底してこだわっています。

一方、「新たに加えるもの」については、ホテルとしての機能性と、滞在空間にふさわしい灯りを重視しました。現代のゲストが快適に過ごすための設備を整えることはもちろん、空間に奥行きをもたらす間接照明も取り入れています。
また、日本人がデザインした洋館の世界観を表現するため、「星のや」としては異例ですが、ヨーロッパの家具を採用しました。
国と民間による共同プロジェクトとして、建物の魅力を当時のまま残した空間と、現代の寛ぎに合わせて大胆に手を加えた空間を共存させ、調和を図っています。


――独居房を連結したスイートルームでは、閉塞感ではなく寛ぎを感じられる空間づくりをどのように実現されたのでしょうか。
客室は、かつての舎房、つまり独居房などを大胆につなぎ合わせることで、ラグジュアリーで寛ぎに満ちたプライベート空間へと生まれ変わらせました。
監獄特有の閉塞感をそのまま再現するのではなく、空間が持つ特徴を「強い主張を持つデザイン」として捉えています。そして、本来であれば相反する機能や要素を、空間の魅力へと昇華させました。




例えば「The 10-Cell」では、10房分の独居房を連結しています。また、かつて漆喰に覆われていたレンガの遺構を、あえて露出させました。
そこに、新たな構造を支える無骨な鉄柱やウッドパネルを組み合わせることで、歴史の積み重なりを感じながらも、モダンで静謐な空間を実現しています。歴史を身近に感じながら、極上の寛ぎの時間を過ごしていただける客室を目指しました。

――夕食の「ガストロノミー・クロニクル」や各種アクティビティを通じて、明治期の西洋文化や旧奈良監獄の歴史をどのように体験してほしいとお考えでしょうか。
西洋文化を貪欲に取り入れた明治期特有の「文明開化の華やぎ」を五感で楽しんでいただきたいと考えています。同時に、歴史の重みと静かに向き合い、自分自身を見つめ直す「内省の旅」としても体験していただきたいです。
ディナーコースの「ガストロノミー・クロニクル」では、日本におけるフランス料理の系譜を「黎明期」から「未来」へとひもときます。料理を味わいながら歴史を巡る、ユニークな美食体験です。


夜のアクティビティ「香りの宵支度」では、文化財が刻んできた悠久の歴史とご自身の内なる思いを交差させながら調香を行います。静かに自分と向き合う、お籠もりの時間をご提案します。

また、「文明開化の朝食」では、明治期の西洋文化を感じさせるモダンな味覚を楽しんでいただけます。さらに、明治期の体育思想に触れる「目覚めの亜鈴体操」など、時間の移ろいに合わせて、明治の意匠ともてなしが共鳴する豊かな滞在を提供しています。

併設する「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」には、宿泊者限定でご覧いただける時間も設けています。混雑を避けてゆっくり鑑賞できるだけでなく、朝靄と建物が調和する光景や、天窓や部屋から灯りが漏れる様子など、その時間帯にしか出会えない特別な景色を感じていただけます。
文明開化の華やかな側面だけではなく、かつて外の世界から遮断されていた場所ならではの独特な静けさも生かし、現代を生きる方にとって最高のリトリート、つまり自分自身を取り戻す時間となる滞在を目指しています。


――旧奈良監獄の保存・再生によって生まれた「星のや奈良監獄」は、今後のヘリテージ活用や日本の宿泊体験に、どのような新しい可能性を示す存在になるとお考えでしょうか。

「星のや奈良監獄」は、日本初となる旧監獄の保存・再生コンバージョンプロジェクトです。
旧監獄という特異的な歴史を持つ場所を、その価値を損なうことなくラグジュアリーホテルへと生まれ変わらせる試みは、技術的にも文化的にも大きな挑戦でした。
重要文化財を、単に保護し、鑑賞するだけの対象にとどめるのではなく、実際に宿泊し、空間の息遣いを肌で感じ、ミュージアムで歴史を学ぶ。こうした体験を通じて、「ヘリテージの循環」を生み出したいと考えています。
歴史的価値を未来へとつなぐ、ヘリテージ活用の新たな先進事例として、また、日本の観光業における一つのロールモデルとして、新たな可能性を示す存在になれるよう、邁進して参ります。
■施設概要
施設名称:星のや奈良監獄
所在地:奈良県奈良市般若寺町(はんにゃじちょう)18
電話:050-3134-8091(星のや総合予約)
客室数:48室
チェックイン:15:00/チェックアウト:12:00
施設:客室、レセプション、メインラウンジ、ダイニング、ダイニングラウンジほか
併設:奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート(日帰り利用可能)
アクセス:JR奈良駅より車で10分、近鉄奈良駅より車で6分
価格:1泊147,000円~(1室あたり、税・サービス料込み、食事別)
公式サイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyanarakangoku/
