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観光庁3月OCC 60.3%、日本人15ヶ月連続減でも単価は上昇 — 宿泊市場「量より質」転換の臨界点

投稿日 : 2026.05.16 更新日 : 2026.05.21

大阪府

京都府

観光庁3月OCC60.3%、日本人15ヶ月連続減でも客室単価は上昇 宿泊市場「量より質」転換の臨界点

観光庁が2026年5月5日に公表した宿泊旅行統計調査(2026年3月・第1次速報)によると、全国の客室稼働率は60.3%と前年同月から1.0ポイント低下した。日本人延べ宿泊者数は4,039万人泊(前年同月比-0.7%)で、2025年1月から15ヶ月連続の前年割れを記録している。一方、メトロエンジンリサーチのデータによると、主要6都道府県の平均客室単価(ADR)は前年同月比+9.7%と力強い上昇を見せた。「泊まる人は減っているのに、宿泊料金は上がり続ける」――この一見矛盾する現象の背景には、日本の宿泊市場が構造的な転換期を迎えていることがある。本記事では、政府統計・OTA公開価格データ・ホテルREIT月次開示の3つのデータソースを突き合わせ、「量より質」への転換がどこまで進んでいるのかを検証する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けるため、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • 客室稼働率(OCC):観光庁統計における稼働率は施設報告ベースの実績値。REIT開示はポートフォリオ全体の実績値。
  • 売切率:調査時点でOTA上の予約受付を終了していたプランの割合。施設全体の客室稼働率とは異なります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(OTA公開価格)、観光庁「宿泊旅行統計調査」(稼働率・宿泊者数)、各ホテルREIT月次運営データ

日本人宿泊者 15ヶ月連続減少の全体像

日本人延べ宿泊者数の前年同月比マイナスは、2025年1月(-1.7%)を起点に15ヶ月間途切れることなく続いている。2025年通年では4億7,561万人泊(前年比-3.8%)と、コロナ禍からの回復が2024年に頭打ちとなった構図が鮮明だ。年間ベースでの日本人-3.8%/外国人+8.2%という構造変化の全体像については、観光庁2025年通年統計の深掘り分析で背景を整理している。下のチャートは、2024年と2025〜2026年の月次推移を重ねたもので、2025年2月の-7.5%を底に減少幅が徐々に縮小していることが読み取れる。直近の2026年3月は-0.7%まで改善しており、減少トレンドそのものは継続しているものの、底打ちの兆候が見え始めている。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年3月・第1次速報、2025年年間値(速報値))よりホテルバンク編集部作成

減少の背景として指摘されているのが、宿泊料金の高騰による「旅行控え」だ。総務省の消費者物価指数(CPI)における宿泊料は2026年3月時点で167.2(2020年=100)と、前年同月の159.2から前年同月比+5.0%上昇している。コロナ前の2019年平均を100とすると、わずか6年余りで宿泊料は約67%上昇した計算になる。日本総研の分析によれば、宿泊費が前年比プラスに転じた局面で宿泊者数の伸びが鈍化しており、価格上昇が需要を下押ししている構造が指摘されている。

一方で、外国人延べ宿泊者数は2026年3月に1,508万人泊(前年同月比+1.8%)と堅調を維持。2025年通年では1億7,787万人泊(+8.2%)で過去最高を更新し、宿泊市場における存在感を年々高めている。つまり、日本の宿泊市場は「日本人の量的縮小」と「外国人+高単価化による質的成長」が同時進行する、二重構造の局面にある。

施設タイプ別の稼働率に見る「二極化」

2026年3月の施設タイプ別客室稼働率を見ると、市場の二極化がより鮮明になる。ビジネスホテル(74.2%、前年同月比-0.6pt)とシティホテル(73.5%、同-0.5pt)は依然として高水準を維持しつつも微減傾向にある。これに対し、旅館(41.5%、同+3.1pt)とリゾートホテル(58.0%、同+0.6pt)はむしろ上昇に転じた。簡易宿所(24.0%、同-5.3pt)の大幅な低下は、民泊を含む低価格帯への供給過剰が一因と考えられる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年3月・第1次速報)よりホテルバンク編集部作成

注目すべきは旅館の復調である。2025年通年の旅館稼働率38.4%に対し、2026年3月単月は41.5%と3.1ポイントも上回った。これはコロナ前(2019年)の旅館稼働率39.5%をも超える水準であり、「体験型・高付加価値型」の宿泊需要が旅館に集まっていることを示唆する。量的には縮小する日本人旅行者が、宿泊先として「安さ」より「体験の質」を選び始めている可能性がある。

OTA公開価格で見る「ADR上昇」の実態 — 全6都道府県が前年超え

稼働率が低下する一方で、客室単価は顕著に上昇している。メトロエンジンリサーチのデータによると、主要6都道府県の2026年3月の平均ADRは全エリアで前年同月を上回った。6都道府県加重平均では¥33,100(前年同月比+9.7%)。京都府が¥45,300(同+15.8%)と最も高い伸びを示し、東京都¥36,700(+11.1%)、大阪府¥25,000(+9.5%)が続く。

都道府県 2025年3月 ADR 2026年3月 ADR 前年同月比
京都府 ¥39,100 ¥45,300 +15.8%
東京都 ¥33,000 ¥36,700 +11.1%
大阪府 ¥22,800 ¥25,000 +9.5%
沖縄県 ¥24,900 ¥27,000 +8.3%
北海道 ¥28,000 ¥30,200 +8.0%
福岡県 ¥28,400 ¥29,100 +2.7%
6都道府県 加重平均 ¥29,400 ¥33,100 +9.7%

出典:メトロエンジンリサーチ(N=7,989施設、2026年3月)、ホテルバンク編集部より作成

特筆すべきは京都府の+15.8%という伸び率だ。2025年通年の外国人延べ宿泊者数で京都府は前年から堅調な伸びを示しており、インバウンド需要が価格を押し上げている構図が明確だ。加えて、観光庁の宿泊旅行統計における2025年通年の客室稼働率でも京都は全国平均を大きく上回る水準にある。需要の厚さが単価上昇を支えている。なお、大阪府のADR上昇には2025年大阪・関西万博の波及効果も指摘されており、その分析は大阪万博のホテルADRへの影響|REIT・OTA等データで検証を参照されたい。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

REIT月次データが裏づける「単価主導型」成長

ホテルREITが毎月開示する運営実績データは、実際の成約価格に基づく指標であり、OTA公開価格とは異なる角度から市場を映し出す。2026年3月(一部2月)時点の主要4 REITの実績を見ると、ADRとRevPARがいずれも前年同月比プラスで推移しており、「量より質」の収益構造が成約ベースでも確認できる。

REIT名 OCC OCC YoY ADR ADR YoY RevPAR YoY
いちごホテル(3463)
2026年3月
87.5% -0.4pt ¥10,743 +1.4% +1.0%
インヴィンシブル(8963)
2026年3月
87.6% +2.8pt ¥14,529 +6.0% +9.0%
JHR(8985)
2026年3月
85.1% +3.1pt ¥20,827 +5.0% +9.0%
星野リゾート・リート(3287)
2026年2月
76.5% +1.9pt ¥20,771 +8.6% +10.5%

出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成(YoYは各社公式IR開示値)

4 REITに共通するのは、ADR上昇率がOCC上昇率を上回っているという点だ。とりわけ星野リゾート・リート投資法人(3287)はADR前年同月比+8.6%、RevPAR同+10.5%と、リゾート・旅館セグメントにおける「体験価値×高単価」戦略が成果を上げていることが読み取れる。なお、REIT開示のADR(成約ベース)とOTA公開価格のADR(販売ベース)は算出方法が異なるため、絶対値の直接比較は適切でない。しかしながら、前年同月比の「方向性」が一致していることが重要だ。両方のデータが同じ方向を指していることで、市場全体で単価上昇トレンドが実態を伴っていると判断できる。

出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成

「量より質」転換の構造 — 3つのデータが示す臨界点

ここまで見てきた3つのデータソースを重ね合わせると、日本の宿泊市場が「量より質」への構造転換のただ中にあることが浮かび上がる。この転換を駆動する要因は3つある。

第一に、インバウンド旅行者の構成変化だ。2025年通年の外国人延べ宿泊者数1億7,787万人泊のうち、東アジア市場が依然として大きなシェアを占める。しかしながら2026年に入り、中国人宿泊者数が2月に前年同月比-40.4%と急減した一方、台湾・韓国・米国・オーストラリアからの訪日客が増加し、客層の多様化が進んでいる。欧米豪の旅行者は滞在日数が長く客室単価も高い傾向があり、国籍構成の変化そのものがADR上昇の一因となっている。

第二に、国内旅行者の「選択と集中」である。JTBグループの2026年旅行動向見通しでは、日本人国内旅行者数を前年比97.8%の3億700万人と予測している。旅行頻度は減るが、1回あたりの支出は増える――いわゆる「少頻度・高単価」シフトだ。旅館の稼働率が上昇し、簡易宿所の稼働率が急落している構図は、まさにこの選択と集中を映し出している。

第三に、ホテル事業者のレベニューマネジメント高度化がある。コロナ禍を経て、多くのホテルが稼働率の最大化よりもRevPAR(販売可能客室あたり収益)の最大化にKPIをシフトした。人手不足と運営コスト上昇を背景に、「満室にするために安売りする」のではなく、「適正な稼働率で高単価を維持する」ことが合理的な経営判断となっている。REIT各社のRevPAR前年同月比が+1.0%〜+10.5%と軒並みプラスで推移していることは、この戦略転換が収益面で機能していることの証左といえる。OCC低下とADR上昇が同時に起きる「乖離」現象の構造的背景については、人件費転嫁型ADR上昇の正体|OCC×ADR乖離で読み解く2026年ホテル価格で人件費転嫁の観点から掘り下げている。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成

宿泊料CPI 167.2 — 価格転嫁の持続可能性

「量より質」転換の持続可能性を測るうえで、宿泊料CPIの推移は重要な指標となる。2026年3月の宿泊料CPI(2020年基準=100)は167.2で、前年同月(159.2)から+5.0%上昇した。2024年3月の143.6と比較すると、わずか2年で+16.4%の上昇だ。

出典:e-Stat「消費者物価指数」(統計ID:0003427113)よりホテルバンク編集部作成

ただし、この価格上昇がどこまで持続するかには注意が必要だ。日本人宿泊者数が15ヶ月連続で減少しているということは、価格弾力性の限界に近づいている可能性を示唆する。現時点では外国人需要とREIT各社の単価戦略が市場全体のRevPARを支えているが、円高への転換やインバウンド鈍化が起きた場合、価格を維持できるかどうかが試される局面が訪れるだろう。

加えて、免税売上高が2026年3月に4,536億円(前年同月比+5.2%)と2025年10月以来初の前年超えに転じた点も、インバウンド消費の底堅さを示す材料として注目に値する。宿泊に限らず「量より質」の消費パターンが観光セクター全体に波及している可能性がある。

まとめ — 転換点を超えた先に見えるもの

2026年3月の宿泊旅行統計は、日本の宿泊市場が「量的拡大」の時代から「質的深化」の時代へ移行しつつあることを、複数のデータが同時に裏づけた象徴的な月となった。

整理すると、以下の3点が2026年3月時点での市場の構造的変化として確認できる。

指標 方向 示唆
日本人延べ宿泊者数 15ヶ月連続減 物価高による旅行控え、ただし減少幅は縮小傾向
OTA公開ADR(6都道府県) 前年同月比+9.7% インバウンド需要とRM高度化が単価を押し上げ
REIT RevPAR 全4社プラス 成約ベースでも単価主導の収益成長が実現

この構造転換は、ホテル事業者にとって「稼働率至上主義からの脱却」を意味する。しかしながら同時に、日本人旅行者の需要減退が長期化すれば、インバウンド依存度の高まりがリスク要因にもなりうる。2026年後半に向けて、日本人宿泊者数のマイナス幅がさらに縮小し底打ちに向かうのか、あるいは減少が加速するのかが、この「量より質」転換の持続可能性を左右する分水嶺となるだろう。

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参考資料・出典一覧

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