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霞ヶ関キャピタルの旅館リブランド着手 — 宇治・株式取得スキームと単価の伸びしろ

投稿日 : 2026.08.03 更新日 : 2026.09.02

京都府

投資・開発

霞ヶ関キャピタルの旅館リブランド着手 — 宇治・株式取得スキームと単価の伸びしろ

上場デベロッパーが、創業130年を超える老舗旅館を「会社ごと」引き受けた。霞ヶ関キャピタル株式会社(証券コード3498)は2026年7月22日、京都府宇治市で旅館「花やしき浮舟園」を営む株式会社花屋敷浮舟園の全株式を取得し子会社化すると発表した。同社グループにとって初の旅館リブランドプロジェクトである。本稿では公表事実を整理したうえで、株式取得というスキームが承継案件で何を解いているのかを法制度に沿って確認し、さらに宇治という立地の宿泊単価データから、リブランド投資が成立する条件はどこにあるのかを試算で読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(推定成約単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
  • 掲載価格:OTA等に公開されている全プランの平均価格(2名1室利用時・1室あたり料金・税込。素泊まりから食事付きまでを含む)。推定成約単価とは基準が異なるため、両者を直接比較しないでください。
  • n(施設数):各集計に含まれる施設の実数。宇治市のように母集団が小さいエリアでは、市の数値を「そのエリアを代表する値」として扱わず、必ず施設数と併せて読む必要があります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
取得比率
100%
全株式取得・子会社化
取得価額
非開示
実行日も非開示
対象施設の創業
1894
明治27年・宇治川畔
宇治市の宿泊供給
23施設
計395室・調査対象ベース
宇治市の観光入込
619万人
2025年・過去最高
Key Takeaways
  • 全株式100%取得で子会社化。取得価額と株式譲渡実行日はいずれも非開示で、霞ヶ関キャピタルにとってグループ初の旅館リブランド案件である。
  • 株式取得型は「切らずに渡せる」——旅館業許可・食品衛生法営業許可・温泉利用許可・風営法許可・雇用が法人ごと存続する。事業譲渡では温泉利用許可と風営法許可に承継規定がない。
  • 年間619万人の入込に対し宿泊供給は23施設・395室(2025年・過去最高の入込/宿泊供給は調査対象ベース)。平均17室、50室超は1施設のみ。
  • 単価ギャップは約1.9倍——2026年11月時点で宇治市¥13,715(n=2)に対し下京区¥25,822(n=145)、東山区¥37,676(n=44)。宇治は季節の振れ幅も1.17倍と小さい。
  • 感度分析(すべて仮定値):300万円/室の改装なら単価¥26,000で回収3〜4年台。1,000万円/室級では¥32,000以上に置き直さないと回収10年超となる。

公表されている事実 — 100%取得、価額と実行日は非開示

まず、確認できる事実だけを並べる。霞ヶ関キャピタルが2026年7月22日15時30分に開示した「株式会社花屋敷浮舟園の株式取得を通じた、当社初の旅館リブランドプロジェクト着手のお知らせ」によれば、同社は花屋敷浮舟園の株式を100%取得して子会社化する。取得価額は開示されておらず、株式譲渡の実行日についても公表資料に記載がない。連結業績への影響については「軽微であると考えます」と記されており、今後重要な変動が生じた場合に改めて開示する旨が付されている。

対象会社が運営する「花やしき浮舟園」は、宇治市宇治塔川に所在する旅館である。公式サイトの会社概要によれば創業は明治27年(1894年)、昭和39年(1964年)に資本金1,000万円で株式会社化しており、パート社員を含めて約30名が在籍する。館内には宇治川を望む3階の展望風呂(露天風呂・サウナ併設)と1階の大浴場があり、いずれも川と季節の眺めを軸に据えている。客室数については公表資料に記載がなく、施設情報の掲載元によって26室から29室の範囲で示されている。なお公式サイト上で温泉としての泉質表示は確認できないため、本稿では「温泉旅館」という表記は用いない。

表1|本件の公表事実一覧(2026年7月22日 適時開示および対象会社公式サイトに記載のある項目のみ)
項目公表内容出所
取得者霞ヶ関キャピタル株式会社(証券コード3498)適時開示(2026年7月22日)
対象会社株式会社花屋敷浮舟園(旅館「花やしき浮舟園」運営)同上
スキーム株式取得(全株式・100%)による子会社化同上
取得価額非開示同上
株式譲渡実行日非開示同上
連結業績への影響軽微である旨を記載同上
今後の方針リノベーションおよびリブランディングを実施。グループ初の旅館リブランドプロジェクト同上
所在地京都府宇治市宇治塔川20-21対象会社 公式サイト
創業/法人設立明治27年(1894年)創業/昭和39年(1964年)設立・資本金1,000万円対象会社 公式サイト
従業員約30名(パート社員を含む)対象会社 公式サイト
客室数公表資料に記載なし(施設情報の掲載元により26~29室)各施設情報
出典: 霞ヶ関キャピタル株式会社「株式会社花屋敷浮舟園の株式取得を通じた、当社初の旅館リブランドプロジェクト着手のお知らせ」(2026年7月22日)/株式会社花屋敷浮舟園 公式サイト

取得価額が非開示である以上、本稿では投資額を起点とした利回り計算は行わない。以降で扱うのは、公表されているスキームの法的性質と、宇治というエリアの単価データから読み取れる一般的な事業機会の輪郭である。

霞ヶ関キャピタルはこれまで「fav」「seven x seven」「BASE LAYER HOTEL」といったホテルブランドを開発してきた事業会社であり、2025年8月にはスポンサーとして霞ヶ関ホテルリート投資法人(証券コード401A)を上場させている。開発から運営、そして上場リートという保有先までを自前で持つ体制のなかに、初めて「旅館」というアセットタイプが加わった、というのが今回の位置づけになる。

株式取得型スキームが解くもの — 許認可・契約・雇用を切らずに渡せる

それでは、なぜ旅館の承継案件で「会社ごと引き受ける」形が選ばれるのか。ここには宿泊業に固有の事情がある。

旅館の運営には、旅館業法3条に基づく旅館業許可のほか、館内のレストランやバーに係る食品衛生法の営業許可、温泉を引く施設であれば温泉法15条の温泉利用許可、宴会場等で社交飲食を営む場合には風営法の許可と、複数の行政許可が重なる。株式取得(株式譲渡)では営業の主体である法人そのものが変わらないため、これらの許可はいずれもそのまま存続する。取引先との契約も、従業員の労働契約も、原則として継続する。

一方で事業譲渡は、資産・負債を選別できる代わりに承継の手当てが個別に必要になる。旅館業許可については2023年12月13日施行の改正旅館業法により事前承認で地位を承継できるようになり(3条の2)、食品衛生法の営業許可も譲渡の場合は当然承継+届出で足りるようになった(55条・56条)。しかしながら温泉利用許可と風俗営業許可には承継規定が置かれておらず、事業譲渡では新規取得が必要になる。労働契約についても、事業譲渡は特定承継であるため、民法625条1項に基づき従業員一人ひとりの個別承諾が求められる。

表2|承継スキーム別の許認可・契約・税務の取扱い比較(株式取得/事業譲渡/会社分割)
許認可・権利株式取得事業譲渡会社分割
旅館業許可(旅館業法3条)許可がそのまま存続事前承認で承継(3条の2・2023年12月13日施行)事前承認で承継(3条の3)
食品衛生法営業許可(55条)許可がそのまま存続当然承継+遅滞なく届出(56条)当然承継+届出
温泉利用許可(温泉法15条)許可がそのまま存続承継規定なし → 新規取得事前承認で承継(16条)
風俗営業許可(風営法3条)許可がそのまま存続承継規定なし → 新規取得事前承認で承継(7条の2等)
労働契約法人が不変のため原則そのまま個別承諾が必要(民法625条1項)労働契約承継法により当然承継
消費税有価証券の譲渡として非課税資産ごとに判定(建物・のれん等は課税)包括承継のため課税対象外
不動産流通税不動産の移転が生じないため発生せず不動産取得税・登録免許税が発生所有権移転の登録免許税2.0%
出典: e-Gov 旅館業法・食品衛生法・温泉法・風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、厚生労働省「改正旅館業法 事業譲渡に係る手続の整備」、会社法・地方税法・登録免許税法よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

つまり老舗旅館という、建物・許認可・従業員・地域の取引関係が長い時間をかけて絡み合った塊を、ほどかずにそのまま渡せるのが株式取得型である。承継の局面では、この「切らずに渡せる」ことの価値が大きい。売り手にとっては従業員の雇用と屋号を残したまま次の担い手に託せる選択肢が増えたということであり、買い手にとっては開業準備ではなく初日から運営に着手できるということを意味する。同じ発想で旅館を引き受けた案件が、その後の単価をどこまで動かせたのかは、旅館再生M&Aの経済学 — 後継者不在60%と単価倍増モデルの実勢で個別事例をたどっている。

ただし、株式取得には相応の負荷もある。法人をそのまま引き継ぐということは、簿外債務や偶発債務も一体で承継するということだ。したがってデューデリジェンスの重心は、不動産の物理的な状態よりもむしろ法人の財務・契約・労務・許認可の履歴に置かれる。歴史が長いほど、この確認作業の密度が案件の成否を分ける。加えて温泉を引く旅館では、行政許可としての温泉利用許可と、慣習や契約に基づく私法上の温泉権(源泉権・引湯権)の帰属を別立てで確認する必要がある。環境省の逐条解説も、採取の許可が温泉権や採取権といった権利を発生させるものではないと明記している。

宇治という立地 — 619万人が訪れ、395室で受けている

次に、対象となる市場を見る。宇治市の発表によれば、2025年(令和7年)の観光入込客数は前年比約1%増の619万4千人となり、過去最高を更新した。2024年(令和6年)に大河ドラマの放送とインバウンドの回復を背景に614万5千人(前年比約125%)へ跳ね上がった水準を、翌年も維持していることになる。

この入込規模に対して、宿泊供給はきわめて小さい。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する範囲で、宇治市内に所在し稼働が確認できる宿泊施設は23施設・計395室。平均規模は1施設あたり17室で、50室を超えるのは1施設のみである。平等院をはじめとする主要な観光資源はJR宇治駅から徒歩圏にあり、そのJR宇治駅は奈良線の快速で京都駅から約16~18分という距離にある。つまり地理的には京都市中心部の宿泊圈に十分に含まれ得る。

宇治市の宿泊供給分布(円の大きさ=客室数)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=23施設・計395室)

そこで単価を見ると、宇治の位置づけがはっきりする。2026年11月、すなわち京都の紅葉ピーク月の推定成約単価をエリア別に並べると、京都市中心部の下京区は¥25,800(n=145)、中京区は¥26,000(n=102)、東山区は¥37,700(n=44)の水準にある。一方で宇治市は¥13,700である。ただし宇治市のこの数値は検証済み業態に該当する施設が2件しかない集計であり、市全体を代表する値として断定的に扱うことはできない。あくまで「この規模のサンプルではこの水準が見えている」という参考値である。

京都府内エリア別 推定成約単価(2026年11月)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。括弧内はn(集計対象施設数)。未来月のため調査時点の掲載水準に基づく推定値
表3|京都府内エリア別 推定成約単価(2026年11月時点のエリア集計)。nは集計対象施設数
エリア推定成約単価(2026年11月)n
伊根町¥44,3213
右京区(京都市)¥38,98610
東山区(京都市)¥37,67644
西京区(京都市)¥36,4785
左京区(京都市)¥28,18113
亀岡市¥27,0579
中京区(京都市)¥25,966102
下京区(京都市)¥25,822145
南区(京都市)¥24,96151
宮津市¥23,98523
宇治市¥13,7152
伏見区(京都市)¥12,1164
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。nが小さいエリア(伊根町・n=3、西京区・n=5、伏見区・n=4、宇治市・n=2)は値の振れ幅が大きい点に留意

もうひとつ、このエリアの特徴を鮮明に示すのが季節の振れ幅だ。2025年の月次推定成約単価を見ると、京都府全体は6月の¥12,400(n=585)から11月の¥24,800(n=578)へ、1.99倍の幅で動いている。紅葉ピークに向けて単価が倍になるということだ。ところが宇治市は同じ期間で最小¥7,500・最大¥8,800(n=3)、1.17倍にとどまる。掲載価格で見ても同様で、宇治市は最小¥17,000(6月)・最大¥20,000(9月)の1.17倍と、年間を通じてほぼフラットな推移を描く。

季節の振れ幅比較(2025年の月次単価を年平均=100として指数化)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(京都府 n=578~601、宇治市推定成約単価 n=3、宇治市掲載価格 n=8~10)

この差は何を意味するのか。平等院や宇治川畔を中心とする宇治の紅葉は京都市内と同じカレンダーで動くにもかかわらず、宿泊単価にはそのピークがほとんど転写されていない。619万人の入込客の大半が日帰りで完結しており、宿泊需要としては京都市内に戻っている——という構造が、単価のフラットさに現れていると考えられる。これは裏を返せば、「滞在させる側に回る余地がまだ残っている市場」ということでもある。なお、京都市内が受けきれない紅葉ピークの需要が周辺のどこへ流れているかについては、京都紅葉ピークの「あふれ」はどこへ2026 — 大津・草津・宇治への宿泊分散をフォワードADRで読むが大津・草津と併せて先行指標を追っている。

加えて、制度面での追い風もある。2026年3月1日の宿泊分から、京都市の宿泊税が3段階から5段階に再編され、最高税額は1人1泊あたり¥1,000から¥10,000へ引き上げられた(京都市の宿泊税条例改正/トラベルボイス報道)。この宿泊税は京都市域内の宿泊施設を対象とする市税であり、宇治市は対象外である。高単価帯での価格差が制度的にも生まれたことになる。

宿泊者の評価軌跡もこの立地特性を裏付ける。ホテルバンク編集部が直近24ヶ月に投稿された当該施設の口コミ152件を分析したところ、最も言及が多かったのは客室からの眺望で言及率51.3%、そのすべてが肯定的な評価だった。次いで観光地へのアクセスが30.9%、丁寧な接客が21.7%と続く。また152件のうち日本語以外で書かれた口コミが61件(うち英語44件)を占めており、国内客だけでなく訪日客にも届いていることが確認できる。川に面した眺望という、代替不能な資産がすでに評価の中核にある。

出典: ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析、N=152件・直近24ヶ月)

リブランド投資の成立条件 — 単価と改装額の感度を見る

ここからは試算である。取得価額も改装計画も公表されていないため、特定の施設の事業計画を推定するものではない。宇治エリアで「26室規模の旅館をリブランドする」という一般モデルを置いたとき、どの変数が成否を握っているのかを見るための感度分析である。

試算の前提(すべて仮定値)
  • 客室数 26室(リノベーションによる室数変更は考慮しない)
  • 年間宿泊売上 = 客室数 × 1室あたり単価 × 稼働率 × 365日。旅館の売上には食事等が含まれるが、本試算は宿泊料金ベースの簡易計算である
  • 基準ケース:1室単価¥14,000×稼働率55%(いずれも仮定値。単価は2026年11月時点のエリア集計[宇治市 n=2]を参照した保守的な出発点であり、稼働率は実績値ではない)
  • 改装による増分売上に対するGOP率:25%(業界目安は旅館5~15%・リゾートホテル20~40%=リロホテルソリューションズ公表資料。リブランド後の中間値を仮置き)
  • 改装Capex:1室あたり300万円/600万円/1,000万円の3水準。旅館の和室改装は1室200~400万円、露天風呂付客室への改修は1室800~1,500万円が目安とされる(店舗内装ドットコム公表の費用相場)
  • 共用部・設備更新・ブランド構築費・金利・税金は本試算に含まない

まず売上側。室数が26室と小さいため、単価をどこに置くかで年間売上は大きく変わる。

表4|年間宿泊売上の感度(26室・宿泊料金ベース)。単価・稼働率はいずれも仮定値であり実績ではない。基準単価は2026年11月時点のエリア集計(宇治市 n=2)を参照した
1室あたり単価 稼働率55% 稼働率65% 稼働率75%
¥14,000 73.1百万円 86.4百万円 99.6百万円
¥20,000 104.4百万円 123.4百万円 142.3百万円
¥26,000 135.7百万円 160.4百万円 185.1百万円
¥32,000 167.0百万円 197.4百万円 227.8百万円
¥38,000 198.3百万円 234.4百万円 270.5百万円
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティングによる試算(26室・宿泊料金ベース・年365日稼働)
年間宿泊売上の感度(26室・百万円)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティングによる試算。すべて仮定値に基づくモデル計算であり、特定の施設の事業計画を示すものではない

基準ケース(¥14,000×55%)の年間売上は73.1百万円。これを京都市中心部並みの¥26,000・稼働65%まで引き上げられれば160.4百万円となり、差分は87.3百万円。東山区水準の¥38,000・稼働65%なら234.4百万円である。単価を引き上げる余地の大きさが、この規模のリブランドでは決定的になる。

次に回収側を見る。増分売上に対するGOP率25%を前提に、改装Capexを単純回収するのに何年かかるかを並べたのが以下である。

表5|改装Capex水準別の単純回収年数(年)。単価・稼働率・GOP率はいずれも仮定値であり実績ではない。基準単価は2026年11月時点のエリア集計を参照した
改装Capex1室単価 稼働60% 稼働65% 稼働70%
300万円/室
(計78百万円)
¥20,000 7.6年 6.2年 5.2年
¥26,000 4.2年 3.6年 3.1年
¥32,000 2.9年 2.5年 2.2年
¥38,000 2.2年 1.9年 1.7年
600万円/室
(計156百万円)
¥20,000 15.3年 12.4年 10.4年
¥26,000 8.3年 7.1年 6.3年
¥32,000 5.7年 5.0年 4.5年
¥38,000 4.4年 3.9年 3.5年
1,000万円/室
(計260百万円)
¥20,000 25.5年 20.7年 17.4年
¥26,000 13.9年 11.9年 10.4年
¥32,000 9.5年 8.4年 7.5年
¥38,000 7.3年 6.4年 5.8年
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティングによる試算。基準ケース(¥14,000×稼働55%)からの増分売上にGOP率25%を乗じ、改装Capexを除した単純回収年数。金利・税金・共用部工事・休業期間中の売上減少は含めていない

読み方はこうなる。表層中心の改装(300万円/室)であれば、単価を¥26,000、つまり京都市中心部並みの水準まで引き上げられれば回収は3~4年台に収まる。一方で1,000万円/室級の全面改修・露天風呂付客室化を行う場合は、単価を¥32,000以上に置き直さないと回収が10年を超えてくる。つまり、どこまで投じるかとどこの価格帯を取りにいくかはセットで決めるしかない。そもそも改装投資が新築を上回る境界がどこにあるのかは、建設費高騰時代の新セオリー:改装投資が新築を凌駕する境界線で投資単価の分岐点を検証している。

宇治の場合、この判断に影響する因子がもうひとつある。前章で見たとおり、このエリアは季節の振れ幅が1.17倍と小さい。リゾート地のように繁閑期だけで年間収益を稼ぐモデルではなく、平準化された稼働を年間を通じて積み上げるモデルになる。これは収益の安定性という意味ではポジティブに働く一方で、ピーク時の高単価で一気に回収する絵は描きにくい。長期保有を前提にする事業会社やリートの資金性格とは相性がよく、短期のIRRを追う資金とは合いにくい。

同型案件が増える条件 — 承継の選択肢が増えたことの意味

最後に、この型の案件が今後増えるとすれば、何がその条件になるのかを整理しておきたい。

① 買い手側の成熟

帝国データバンクの調査では、全国の後継者不在率は2025年に50.1%と、2019年以降7年連続で改善している。改善の背景には、親族内に限らない第三者承継の受け手が育ってきたことがある。開発・運営・保有を一貫で持つ事業会社が旅館に手を伸ばすことは、その裾野が広がっていることを示す。

② 制度の後押し

2023年12月の改正旅館業法により、事業譲渡でも旅館業許可の地位を事前承認で承継できるようになった。株式取得だけでなく、スキームの選択肢自体が広がっている。売り手は自社の事情に合う型を選べるようになった。

③ 単価ギャップの存在

今回のような案件が成立するのは、集客力のある観光地でありながら宿泊単価が周辺市場と乖離しているエリアだ。宇治のように入込規模に対し供給が23施設・395室と限られ、かつ季節の振れ幅が小さい市場には、単価を置き直す余地が残されている。

付け加えるなら、出口の存在も条件のひとつである。リブランドして収益を安定させた後に、その物件を保有し続けてくれる器があるかどうかで、投資の回収設計は大きく変わる。霞ヶ関キャピタルはスポンサーとして霞ヶ関ホテルリート投資法人を抱えており、同リートは上場時点で築浅のホテルを中心にポートフォリオを構成している。旅館がその対象になるかどうかは現時点で何も公表されていないが、開発から保有までの経路を自前で揃えていること自体が、同型案件を繰り返す上での基盤になる。

逆に、この型がすべての旅館に当てはまるわけではない。単価を置き直す余地は、周辺により高い価格帯の市場が存在し、かつそことの需要の往来があってはじめて生まれる。宇治がその条件を満たすのは、京都駅からJR快速で16~18分という距離と、年間619万人が既に訪れているという事実の両方が揃っているからだ。同じ発想を別の地域に持ち込む際には、この2つの条件を先に検算する必要がある。

まとめ

今回の発表で確実に言えるのは、上場企業が創業1894年の旅館を全株式取得で子会社化し、リノベーションとリブランディングを行うと表明した、ということまでである。取得価額も実行日も非開示であり、改装の規模もブランドの中身もまだ明らかになっていない。

それでも、この案件が示しているものは少なくない。株式取得というスキームは、旅館業許可・食品衛生法営業許可・契約・雇用を一括で維持できる形であり、長い歴史を持つ宿を次の担い手に渡す際の現実的な選択肢である。そして宇治という市場は、年間619万人の入込に対し宿泊供給が23施設・395室と限られ、単価の季節変動も小さい。紅葉ピークに注目が集まる京都にあって、年間を通じて滞在を作る余地が残されている市場だと言える。

後継者不在率が7年連続で改善しているという統計は、日本の中小企業が「族内以外にも渡せる」ことを学んできた結果でもある。ホテル・旅館の領域でも、開発・運営・保有を自前で揃える事業会社が受け手として登場したことで、選択肢は確実に広がっている。今回の案件は、その広がりが旅館というアセットタイプにまで及んだことを示すひとつの事例として、今後の案件の見方に参照点を残すことになるだろう。

将来日程の単価に関する注意:本記事の2026年7月以降の単価は、調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。また宇治市の推定成約単価は集計対象がn=2~3施設と非常に小さく、市全体の代表値としては扱えません。本稿の試算はすべて仮定値に基づくモデル計算であり、特定の施設の事業計画・収益見通しを示すものではありません。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

エリア別の推定成約単価・掲載価格・宿泊供給はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの月次集計(宇治市 N=23施設・計395室、京都府内エリア比較は2026年11月、季節変動は2025年1〜12月の月次系列)。宿泊者評価はホテルバンク編集部による口コミのNLP解析(N=152件・直近24ヶ月)。案件の一次情報は霞ヶ関キャピタル株式会社の適時開示(2026年7月22日)および対象会社公式サイト。法制度は e-Gov 掲載の各法令ならびに厚生労働省・環境省の公表資料に拠る。

■ 試算前提

客室数26室、年間宿泊売上=客室数×1室あたり単価×稼働率×365日(宿泊料金ベース。食事等の付帯収入を含まない)。基準ケースは1室単価¥14,000×稼働率55%。改装による増分売上に対するGOP率25%、改装Capexは1室あたり300万円/600万円/1,000万円の3水準。単価・稼働率・GOP率・Capexはいずれも仮定値であり、対象会社の事業計画を示すものではない。共用部・設備更新・ブランド構築費・金利・税金は試算に含まない。

■ 限界・留意点

取得価額・株式譲渡実行日・改装計画がいずれも非開示のため、投資額を起点とした利回り・IRR計算は行っていない。宇治市の推定成約単価は検証済み業態に該当する施設がn=2〜3と極めて小さく、市全体の代表値としては扱えない。2026年7月以降の単価は調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。回収年数は金利・税金・共用部工事・休業期間中の売上減少を含まない単純回収であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。

■ 一次情報(適時開示・公式サイト)

■ 法令・行政資料

■ 市場・業界データ

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