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鹿児島ホテル投資マップ2026|屋久島1.37万円・霧島1.30万円・鹿児島市6,895円の3層と空白価格帯

投稿日 : 2026.10.30 更新日 : 2026.10.31

鹿児島県

投資・開発

鹿児島ホテル投資マップ2026|屋久島1.37万円・霧島1.30万円・鹿児島市6,895円の3層と空白価格帯

メトロエンジンリサーチが集計した2026年9月の市町村別推定成約ADRを並べると、鹿児島県の宿泊市場は三つの層に分かれて見える。屋久島町¥13,700・霧島市¥13,000・指宿市¥12,500の離島・温泉リゾート層、県都の業務需要を受ける鹿児島市¥6,900、そして奄美市¥6,300から志布志市¥4,900までの地方都市層で、最上層と最下層の単価差は約2.8倍に開いている。本稿では25か月の月次推移から各層の季節型と前年比を読み、主要集積地の客室ストック、J-REITの取得単価、火山・津波・洪水の立地条件を重ねて、九州のリゾート投資家・地銀・デベロッパーが鹿児島で検討すべき価格帯の空白を描く。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
客室ストックの集計対象
  • 本記事の客室ストックは、鹿児島中央駅から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、天文館から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、霧島温泉郷から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、指宿温泉から半径2,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、奄美市名瀬から半径3,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、屋久島・宮之浦から半径5,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
  • 本記事の客室ストックは、屋久島・安房から半径5,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月23日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
鹿児島県ADR(2026年9月)
¥6,773
前年同月比+4.4%・N=320施設
最上層:屋久島町
¥13,690
前年同月比+48.8%・N=14施設(薄いカバレッジ)
県都:鹿児島市
¥6,895
前年同月比+5.8%・N=73施設
鹿児島中央駅2km圏の稼働客室
7,772室
稼働60軒(ストックは2017年比+20.0%)
J-REIT保有(県内)
8物件・1,022室
取得価格合計25,190百万円
Key Takeaways
  • — 三層・約2.8倍:2026年9月の市町村別推定成約ADRは屋久島町¥13,690(N=14)・霧島市¥12,952・指宿市¥12,461の上層、鹿児島市¥6,895、奄美市以下の地方都市層に分かれる。
  • — 季節型が違う:霧島市は1月128・指宿市は1月115と冬が頂点、屋久島町は4月139と春に稼ぎ、鹿児島市は90〜109の幅で年間ほぼ平ら(各市の年平均=100)。
  • — 供給:鹿児島中央駅2km圏の稼働は60軒・7,772室、開業年判明分の客室ストックは2017年比+20.0%。奄美市名瀬3km圏は700室→1,271室(+81.6%)と伸びが最も大きい。
  • — 二つの空白:鹿児島市の100〜250室×1万〜2万円帯は3軒のみ、霧島・指宿の50〜100室×1.8万円以上は0軒。
  • — 必要ADR:鹿児島市業務帯の新築150室は¥9,973(NOI利回り5%)と市内中央値を約45%上回り、霧島の既存100室取得+改装は¥27,397。県内J-REIT8物件の取得単価は1室919万〜7,986万円。

三層構造 — 市町村別の推定成約ADRは2.8倍の開き

まずは階層そのものを確かめたい。2026年9月の推定成約ADR(対象施設の中央値)を、対象施設数が8以上の11市町で並べたのが次の表で、上位3市町はいずれも1.2万円台から1.4万円弱、鹿児島市は6,900円、下位6市は4,900〜6,500円帯に収まる。屋久島町¥13,700と志布志市¥4,900の比は約2.8倍で、県内の単価階層は「離島・温泉リゾート」「県都の業務帯」「地方都市」の三つにきれいに分かれている。

注意したいのは母集団の性格である。屋久島町は掲載施設が104軒あるのに推定成約ADRの対象は14施設にとどまり、民宿・ゲストハウスが掲載の大半を占める島で、対象になるのはホテル・旅館の一部に限られる。したがって屋久島町の数値は「島の標準的な宿」ではなく「島のホテル・旅館の中央値」と読むのが正しく、月ごとの振れも大きい(後述)。霧島市はN=58、鹿児島市はN=73と厚く、階層の骨格はこの2市で支えられている。

鹿児島県の主要市町村の推定成約ADR(2026年9月・前年同月比・直近12か月平均)
市町村2026年9月2025年9月前年同月比直近12か月平均12か月平均の前年比N(対象/掲載)
屋久島町¥13,690¥9,198+48.8%¥12,184+7.0%14/104
霧島市¥12,952¥14,211-8.9%¥14,242+3.2%58/93
指宿市¥12,461¥14,338-13.1%¥14,157-0.9%19/34
さつま町¥11,508¥12,404-7.2%¥13,560+8.7%8/9
鹿児島市¥6,895¥6,519+5.8%¥6,746-0.9%73/113
西之表市¥6,530¥6,682-2.3%¥6,975-0.3%9/21
奄美市¥6,346¥6,658-4.7%¥6,615-10.0%11/80
薩摩川内市¥5,709¥5,516+3.5%¥6,150+5.9%20/27
出水市¥5,479¥5,570-1.6%¥5,511+1.5%11/17
鹿屋市¥5,442¥5,379+1.2%¥5,627-0.8%12/24
志布志市¥4,938¥4,439+11.2%¥4,803+1.3%10/18

推定成約ADRは各月の対象施設の中央値。直近12か月=2025年10月〜2026年9月、前年=2024年10月〜2025年9月。対象施設数が8未満の市町村は表から外した。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

単月ではなく12か月平均で見ると、階層の順位は変わらないが伸び方が違う。屋久島町は¥12,200で前年比+7.0%、霧島市は¥14,200で+3.2%と上層が伸び、鹿児島市は¥6,700で-0.9%とほぼ横ばい、奄美市は¥6,600で-10.0%と単価が軽くなった。県全体の推定成約ADRは2026年9月に6,800円(前年同月比+4.4%、N=320)、業態別ではビジネスホテル6,300円(+6.7%、N=160)、旅館9,700円(+9.3%、N=82)、リゾートホテル15,000円(+20.3%、N=51)、シティホテル8,300円(−14.1%、N=26)で、県の平均を押し上げているのは温泉地の旅館・リゾートだと分かる。県都の単価が離島・温泉リゾート層の半分程度にとどまるこの逆転構造は、鹿児島のホテル単価は県都が最安 — 霧島14,330円に対し鹿児島市6,819円、12ヶ月連続の県内逆転で月次の推移から確かめている。

季節型 — 霧島・指宿は冬に稼ぎ、屋久島は春、鹿児島市は平準

次に、各層がどの月に単価を取っているかを比べる。直近12か月(2025年10月〜2026年9月)の推定成約ADRを各市の年平均=100で指数化し、1月から12月の軸に置いたのが次の図である。霧島市は1月128・12月113と冬の二山が高く、6月は79まで下がる。指宿市も1月115が頂点で、9月は88と最も低い。一方で屋久島町は4月139・3月110・9月112が高く、2月と10月は79にとどまる。鹿児島市は最大109・最小90の幅に収まり、業務需要の街らしく年間を通じて平らだ。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

この季節型は投資の採算計算に直結する。霧島・指宿の温泉旅館は12〜1月に年平均の1.1〜1.3倍の単価を取り、梅雨時と9月に沈む構造なので、年間ADRの前提を冬の実績から引くと過大になる。逆に屋久島は春の登山・トレッキング需要と9月の残暑期に単価が立ち、冬は島全体が静かになるため、通年営業のリゾートは冬場の客層設計(南国気候を活かした長期滞在・ワーケーション)が年間稼働を左右する。鹿児島市のビジネスホテルは季節差が小さい代わりに単価の天井も低く、イベント日(おはら祭など)の直前需要で稼ぐ構造になっている。

前年比で伸びた街と、単価の伸びしろが残る街

では、どの街が伸び、どの街に余地があるのか。2026年9月単月の前年同月比では鹿児島市+5.8%、薩摩川内市+3.5%、屋久島町+48.8%がプラス、霧島市-8.9%、指宿市-13.1%、奄美市-4.7%がマイナスだった。ただし前年9月は霧島・指宿ともに例年より高い月(霧島14,200円、指宿14,300円)だったため、12か月平均では霧島市+3.2%、指宿市-0.9%と差は小さく、単月の減少は季節のずれと読むのが妥当だろう。

伸びしろとして注目したいのは奄美市と指宿市である。奄美市は12か月平均¥6,600で前年比-10.0%と単価が軽くなった一方、名瀬3km圏の客室ストック(開業年判明分)は2017年の700室から2026年の1,271室へ+81.6%と県内で最も供給が増えた集積地で、2025年9月に135室のビジネスホテルが加わった直後にあたる。供給の消化が進めば単価は戻りやすく、2027年の奄美は「単価の回復余地」を持つ街と位置づけられる。指宿市は2026年9月の推定成約ADRが¥12,500と霧島市より低いが、205室の大型旅館が推定2.5万円の水準を保っており、中規模の施設が同じ価格帯に乗れる余地がある。

マクロの需要環境も確認しておきたい。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年年間値(確定値)によると、鹿児島県の延べ宿泊者数は845万2,460人泊(前年比+0.9%、2019年比+1.0%)、うち日本人774万3,500人泊(前年比−0.2%)、外国人70万8,960人泊(前年比+14.3%、2019年比−15.6%)で、客室稼働率は全体51.6%(前年差−0.6pt、2019年差−4.4pt)。2025年1〜12月通年の業態別ではビジネスホテル68.9%、シティホテル60.1%、リゾートホテル40.8%、旅館35.7%だった。外国人宿泊は2025年に前年比+14.3%と戻りつつあるものの2019年をなお15.6%下回っており、12〜2月に訪日比率が高まる鹿児島の冬(冬のインバウンド分析)は、温泉地の単価にとって回復の起点になる。

供給 — 7つの集積地の客室ストックと2025〜27年の新規開業

単価の階層を供給側から見る。半径圏の客室ストックを集計すると、鹿児島中央駅2km圏が掲載88軒・9,503室(稼働60軒・7,772室)と県内で突出し、天文館1km圏の61軒・6,484室もその大半(57軒)がこの圏内に重なる。温泉地は霧島温泉郷2km圏が掲載14軒・693室、指宿温泉2km圏が13軒・662室と、いずれも1,000室に満たない。離島は奄美市名瀬3km圏が23軒・1,322室、屋久島は宮之浦5km圏338室・安房5km圏189室で、民宿が軒数の中心を占める。

主要集積地の客室ストック(掲載・稼働中・2017→2026年の推移、2026年10月時点)
集積地(半径)掲載ストック稼働中(直近3か月)客室ストックの推移 2017→2026(開業年判明分)
鹿児島中央駅 2km88軒/9,503室60軒/7,772室6,740→8,086室(+20.0%)
天文館 1km61軒/6,484室43軒/5,361室4,714→5,386室(+14.3%)
霧島温泉郷 2km14軒/693室8軒/453室405→495室(+22.2%)
指宿温泉 2km13軒/662室7軒/508室515→596室(+15.7%)
奄美市名瀬 3km23軒/1,322室13軒/1,039室700→1,271室(+81.6%)
屋久島・宮之浦 5km15軒/338室10軒/270室312→312室(+0.0%)
屋久島・安房 5km11軒/189室9軒/169室189→189室(+0.0%)

客室数10室以上・レジャーホテル除く。年次推移は開業年が確認できる施設のみ(鹿児島中央駅2km圏は開業年不明15軒・819室、天文館1km圏は11軒・534室、奄美市名瀬3km圏は2軒・51室を不算入)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月時点)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

推移を指数で見ると、奄美市名瀬3km圏が2017年比+81.6%と最も伸び、鹿児島中央駅2km圏が+20.0%、指宿温泉2km圏+15.7%、天文館1km圏+14.3%と続く。霧島温泉郷2km圏は2018年に510室へ増えた後は495室で横ばいで、温泉郷の中心部では10年近く新規の客室が加わっていない。鹿児島市の増分の中身は、2025年4月の165室(天文館)、2025年7月の90室(天文館)、2026年3月の151室(天文館・シティホテル)で、2026年11月には鹿児島中央駅前に101室のビジネスホテルが加わる予定だ。天文館1km圏の2026年の再投資(増築74室と移転新築151室)は別稿で詳しく扱ったので、本稿では県全体の階層に話を戻す。

温泉地と離島の新規供給は、霧島市で2025年8月に243室のリゾートホテル、2026年8月に150室の温泉付きビジネスホテルが開業し、奄美市名瀬では2025年9月に135室のビジネスホテルが加わった。さらに鹿児島空港に隣接する霧島市溝辺町では、旧かごしま空港ホテルを建て替える「LEBEN HOTEL KAGOSHIMA AIRPORT」(143室、露天風呂付き大浴場・サウナ)が2027年7月の開業を予定している(運営レーベンホテルズ、2025年12月23日発表)。屋久島では日本ハイアットが新ブランド「吾汝 Atona 屋久島(仮称)」を2028年以降の開業予定として公表しており(客室数未定)、島の最上層に新しい価格帯が加わる見込みだ。なお、メトロエンジンリサーチが把握する範囲で鹿児島県の2025年の新規掲載は52軒、2026年は59軒(10月時点)で、その大半は貸別荘・ゲストハウスなど10室未満の小規模施設である。OTA掲載は開業の前後数か月に出るため、直近月以降の件数は今後の掲載で増える。

ポジショニング — 客室規模×ADRで見える二つの空白

ここまでの階層と供給を1枚に重ねる。主要集積地の稼働施設57軒について、客室数を横軸、2026年4〜9月の推定成約ADR平均を縦軸に置いたのが次の図である。鹿児島市(鹿児島中央駅2km圏の稼働上位30軒)は100〜355室×5,000〜7,500円の帯に20軒が密集し、中央値は6,700円だった。1万〜2万円の帯に乗る100〜250室の施設は3軒、2万円超は1軒(228室のシティホテル、推定3.3万円)にとどまる。霧島は15〜25室の小規模旅館が1.8万〜2.2万円を取り、95〜165室のリゾート・旅館は1.3万〜1.7万円で、50〜100室×1.8万円以上の中規模アッパー帯は空いている。指宿も205室の大型旅館が推定2.5万円で一人立ちし、50室前後の温泉旅館は1.3万〜1.6万円に収まる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=57施設、2026年4〜9月の推定成約ADR平均。奄美は名瀬3km圏、屋久島は宮之浦・安房5km圏のホテル・旅館)

密集帯:鹿児島市 100〜355室×5,000〜7,500円

30軒中20軒。業務需要と観光の混在で稼働は取れるが、単価の天井が低い。差別化は客室面積・朝食・大浴場など付加価値の軸に移る。

空白①:鹿児島市 100〜250室×1万〜2万円

既存は3軒。県都のアッパーミドル帯は供給が薄く、桜島眺望・温泉付きなど観光客層を取り込む中規模シティ型に余地がある。

空白②:霧島・指宿 50〜100室×1.8万円以上

両温泉地とも該当なし。小規模高単価と大規模中単価の間が抜けており、既存施設の客室統合・改装で狙える帯でもある。

空白①の鹿児島市アッパーミドル帯は、2023年開業のシティホテルが3.3万円で最上層を作り、100〜250室の規模では1万〜1.3万円帯に3軒が並ぶだけで、その間の1.5万〜2.5万円に入るのは355室の老舗シティホテル(推定1.8万円)1軒にとどまる。鹿児島県のビジネスホテルの客室稼働率は68.9%(観光庁2025年)と7割近くあり、通年で稼働の受け皿があるぶん単価の上の層を作る余地がある。空白②は温泉地の構造的なもので、霧島温泉郷の稼働施設は95〜165室の大型施設と25室以下の小規模旅館に二極化し、50〜100室で2万円前後を取る施設が存在しない。インヴィンシブル投資法人が2025年8月に165室の霧島国際ホテルを取得価格6,534百万円で組み入れたのは、この帯の再生余地に対する一つの答えといえる。

J-REITの取得単価 — 県内8物件は1室あたり919万〜7,986万円

価格帯の空白を埋める投資の目線を、公表されている取得事例で確かめる。当社の保有関係マスター(2026年10月19日時点)によると、鹿児島県内のJ-REIT保有ホテルは8物件・1,022室、取得価格の合計は25,190百万円だった。1室あたりの取得価格は、2015年取得の郊外型ビジネスホテルの919万円から、2021年取得の温泉旅館「界 霧島」(49室)の7,986万円まで約8.7倍の幅がある。

鹿児島県内のJ-REIT保有ホテル8物件の取得価格と1室あたり単価(2026年10月19日時点)
物件名保有REIT取得年月取得価格(百万円)客室数1室あたり(万円)
霧島国際ホテルインヴィンシブル投資法人2025年8月6,5341653,960
ホテルマイステイズ鹿児島天文館インヴィンシブル投資法人2019年7月3,4451961,758
ホテルマイステイズ鹿児島天文館2番館インヴィンシブル投資法人2019年7月1,168731,600
アートホテル鹿児島インヴィンシブル投資法人2024年7月3,3952081,632
FAV LUX 鹿児島天文館霞ヶ関ホテルリート投資法人2025年8月3,380635,365
fav 鹿児島中央霞ヶ関ホテルリート投資法人2025年8月1,360512,667
コンフォートイン鹿児島谷山星野リゾート・リート投資法人2015年8月1,995217919
界 霧島星野リゾート・リート投資法人2021年12月3,913497,986

出典:各投資法人のポートフォリオ一覧(IR)より、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング保有関係マスター(2026年10月19日時点)。取得価格は公表値。

読み取れるのは三点ある。第一に、鹿児島市の天文館・中央駅周辺の大型ビジネスホテルは1室1,600万〜1,800万円で取得されており、後述する新築原価(1室約2,300万円)を下回る。第二に、霧島国際ホテルの1室3,960万円は温泉大浴場・宴会場を含む旅館型の取得単価で、同じ金額で霧島に新築できる客室数は限られるため、既存の大型旅館の取得と改装が温泉地では合理的な入口になっている。第三に、霞ヶ関ホテルリートの2物件(51室・63室)は小規模でも1室2,667万〜5,365万円と高く、客室面積の大きいアパートメント型が県都で高い単価評価を得ている点は、空白①の裏付けとして読める。

立地条件 — 火山・津波・洪水・土砂災害を集積地ごとに確認する

鹿児島で宿泊施設を検討する際、単価と供給の次に確かめるべきは自然条件である。国土交通省の不動産情報ライブラリ(ハザード関連レイヤー)と気象庁の火山情報を主要集積地に重ねた結果を整理する。

主要集積地の立地条件(火山・津波・洪水・土砂災害)
集積地火山(気象庁、2026年9月18日時点)津波浸水想定洪水・土砂災害・液状化
鹿児島中央駅・天文館桜島は噴火警戒レベル3(入山規制、警戒範囲は火口から概ね2km)。市街地は降灰の影響を受ける稼働上位20施設はいずれも区域外甲突川・新川の洪水浸水想定区域(想定最大規模)に稼働上位30施設のうち29施設・5,751室が立地。浸水深は0.5〜3m帯が中心
霧島温泉郷霧島山(新燃岳)は噴火警戒レベル2(火口周辺規制、概ね2km)。温泉郷は規制範囲の外側内陸のため該当なし土砂災害警戒区域(急傾斜地崩壊・土石流・地すべり)の区域内に掲載14施設のうち11施設が立地
指宿温泉桜島・新燃岳の警戒範囲外稼働7施設のうち3施設・166室が浸水深0.3〜1m未満の想定区域内海岸沿いは砂州・砂礫州で「やや液状化しやすい」区分
奄美市名瀬—稼働13施設のうち8施設が想定区域内(浸水深0.01m〜5m未満、うち1施設は3〜5m未満)洪水浸水想定の該当なし

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・洪水浸水想定区域・土砂災害警戒区域・液状化傾向)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。火山は鹿児島地方気象台「火山活動解説資料」(2026年9月18日)。施設単位の判定は各施設の所在座標で行った参考値で、実際の浸水深・区域は各自治体のハザードマップで確認が必要。

鹿児島市中心部の洪水浸水想定は甲突川の想定最大規模(1000年に一度程度の降雨)によるもので、市街地のほぼ全域が区域に含まれるため施設選びで避けられる性質のものではなく、受電設備・機械室の階層配置と非常用電源の有無が評価の分かれ目になる。霧島温泉郷は斜面地の温泉地という性格上、土砂災害警戒区域と重なる施設が多く、取得・改装の際は擁壁や排水の状態が実査の主題になる。指宿と奄美の海沿いの津波浸水想定は、指宿が0.3〜1m未満、名瀬が0.01〜5m未満(3〜5m未満は1施設)で、多くは客室階を2階以上に置く設計や避難動線の整備で対応できる範囲といえる。桜島については、気象庁が姶良カルデラ地下深部へのマグマ蓄積が続いていると評価しており、降灰は鹿児島市の運営コスト(清掃・空調フィルター)として織り込む項目になる。

地価の面では、天文館の商業地(東千石町)が2026年地価公示で1㎡あたり1,180,000円(前年比+1.7%)、鹿児島中央駅前の西田2丁目が674,000円(+2.4%)、中央町が936,000円(+1.4%)で、いずれも緩やかな上昇にとどまる。奄美市名瀬の商業地は155,000〜172,000円で、天文館(東千石町)の約7分の1、中央駅前(西田2丁目)の約4分の1だ。霧島温泉郷・指宿温泉の中心部には2026年の公示地点がなく、取引事例での確認が必要になる。

主要集積地の稼働施設(円の大きさ=客室数)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

開発・取得シナリオの必要ADR — 三つの入口を試算する

最後に、三層それぞれで投資を成立させるために必要な単価を簡易に試算する。建築費は国土交通省「建築着工統計」(archi-book集計)の2025年実績(S造240.5万円/坪、RC造202.6万円/坪、アッパー帯の目安310万円/坪)を使い、建設期間中の上昇(年+5%)を織り込んだ値を併記した。GOP率は宿泊特化型45%、温泉旅館型28〜30%を置き、インヴィンシブル投資法人が開示する運営91物件のGOP実績38.9%(2024年12月期)を上限の目安とした。稼働率は観光庁2025年の県内実績(ビジネス68.9%、リゾート40.8%、旅館35.7%)を踏まえつつ、改装後の施設として上乗せしている。

開発・取得シナリオ別の必要ADR(NOI利回り5%・6%)
シナリオ総投資額稼働率/GOP率必要ADR(NOI利回り5%)同6%建設費上昇後(投資額/必要ADR5%)
A. 鹿児島市業務帯・新築150室(客室18㎡)34.4億円70%/45%¥9,973¥11,96837.8億円/¥10,971
B. 霧島・既存100室の取得+改装33.0億円55%/30%¥27,397¥32,87734.6億円/¥28,767
C. 離島・温泉地の小規模アッパー新築50室(客室40㎡)35.1億円50%/28%¥68,689¥82,42738.6億円/¥75,558

A:延床4,154㎡(客室部分比率65%)×240.5万円/坪+商業地700㎡×60万円/㎡。B:取得2,500万円/室+改装800万円/室。C:延床3,636㎡(客室40㎡・比率55%)×310万円/坪+用地1億円。必要ADR=総投資額×目標利回り÷GOP率÷(客室数×稼働率×365)。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。出典:国土交通省「建築着工統計」(archi-book集計)、インヴィンシブル投資法人 決算説明資料、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

感応度 — 稼働率とGOP率で必要ADRはどこまで動くか

上表は稼働率とGOP率を1点で置いた試算である。同じ式(必要ADR=総投資額×目標利回り÷GOP率÷(客室数×稼働率×365))で、シナリオAとBの前提を動かした場合の必要ADR(NOI利回り5%)を下に並べた。網掛けが上表の前提値である。

シナリオA(鹿児島市業務帯・新築150室、総投資額34.4億円)の必要ADR感応度
稼働率\GOP率40%45%50%
通年稼働率60%¥13,090¥11,635¥10,472
通年稼働率65%¥12,083¥10,740¥9,666
通年稼働率70%¥11,220¥9,973¥8,976
通年稼働率75%¥10,472¥9,308¥8,377
通年稼働率80%¥9,817¥8,727¥7,854
シナリオB(霧島・既存100室の取得+改装、総投資額33.0億円)の必要ADR感応度
稼働率\GOP率25%30%35%
通年稼働率45%¥40,183¥33,486¥28,702
通年稼働率50%¥36,164¥30,137¥25,832
通年稼働率55%¥32,877¥27,397¥23,483
通年稼働率60%¥30,137¥25,114¥21,526
通年稼働率65%¥27,819¥23,182¥19,871

通年稼働率・GOP率は試算上の仮定。稼働率の参照値は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年の鹿児島県実績(ビジネスホテル68.9%、旅館35.7%)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

シナリオAは通年稼働率80%・GOP率50%まで改善しても必要ADRは¥7,854で、市内中央値¥6,900には届かない。新築で業務帯に入るなら単価そのものを1万円前後に引き上げる商品設計が前提になる。シナリオBは通年稼働率65%・GOP率35%の上振れでも¥19,871と、霧島市の中央値¥13,000をなお約5割上回る。霧島での取得・改装は運営改善だけでは届かず、「2万円前後を取れる商品」への作り替えが条件であることが感応度からも確かめられる。

シナリオAの鹿児島市業務帯は、必要ADRが¥10,000と現在の市内中央値¥6,900を約45%上回る。密集帯に新築で入る場合、単価ではなく客室面積や付加価値で空白①に近づく設計が前提になるという意味で、1室2,300万円の新築原価に対し、REITの既存取得単価1,600万〜1,800万円との差は大きい。シナリオBの霧島は、既存100室を1室2,500万円で取得し800万円で改装した場合でも必要ADRが¥27,400と、霧島市の中央値¥13,000の2倍を超える。これは霧島の中規模アッパー帯(空白②)が「単価2万円台を取れる商品」に作り替えられて初めて成立することを示しており、客室数を絞って面積を広げる改装(100室→60〜70室)が現実的な解になる。シナリオCの離島・温泉地の小規模アッパー新築は必要ADRが¥68,700と最も高く、屋久島の対象圏(宮之浦・安房5km)で最も単価の高い100室リゾートの推定1.8万円(2026年4〜9月平均)の3倍を超える。離島では新築より既存施設の取得・再生が優位であり、2028年以降に予定される外資ブランドの進出は、島の単価階層そのものを引き上げる役割を担うことになる。

まとめ — 鹿児島の三層で、どこに資本を置くか

鹿児島県の宿泊単価は屋久島・霧島・指宿の1.2万〜1.4万円、鹿児島市の6,900円、地方都市の4,900〜6,500円という三層に分かれ、上層は冬(温泉地)と春(屋久島)に単価を取り、県都は年間を通じて平らである。供給は鹿児島中央駅2km圏の7,772室に集中し、温泉郷の中心部では10年近く新規客室がなく、奄美市名瀬は2017年比+81.6%と最も増えた。この組み合わせから読める投資の方向性は三つになる。

第一に、鹿児島市では100〜250室×1万〜2万円のアッパーミドル帯が3軒しかなく、県内ビジネスホテルの稼働68.9%という受け皿(2025年通年)の上に単価の層を積む余地がある。第二に、霧島・指宿では50〜100室×1.8万円以上の中規模アッパー帯が空いており、新築ではなく既存大型旅館の取得と客室統合型の改装が入口になる。インヴィンシブル投資法人の2025年の霧島取得はその先行例といえる。第三に、奄美市は供給増の消化局面で単価に回復余地があり、屋久島は2028年以降の新ブランド進出が島の階層を引き上げる。いずれの層でも、洪水・津波・土砂・火山という鹿児島固有の立地条件を設備設計と運営コストに織り込むことが、単価の階層を収益に変える前提になる。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

市町村別・業態別の推定成約ADRはメトロエンジンリサーチが追跡するOTA公開価格(2名1室・1室あたり)に業態別の補正係数を適用した推定値で、各月の対象施設の中央値(2024年9月〜2026年9月、鹿児島県N=320施設)。客室ストックは半径圏内の客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテル除く)、J-REIT物件は当社の保有関係マスター(2026年10月19日時点)、マクロ需要は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値、立地条件は国土交通省 不動産情報ライブラリと気象庁の火山情報による。

■ 試算前提

必要ADR=総投資額×目標利回り(NOI 5%・6%)÷GOP率÷(客室数×稼働率×365)。建築費は建築着工統計の2025年実績(S造240.5万円/坪、RC造202.6万円/坪)とアッパー帯の目安310万円/坪、建設期間中の上昇年+5%。GOP率は宿泊特化型45%・温泉旅館型28〜30%、上限の目安としてインヴィンシブル投資法人の運営物件GOP実績38.9%(2024年12月期)。稼働率は観光庁2025年の県内実績に改装後の上乗せを置いた仮定値。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。屋久島町(N=14)・奄美市(N=11)など対象施設が少ない市町村は月ごとの振れが大きい。2026年10月以降の月は予約途中の値のため使っていない。必要ADRは簡易試算で、税金・修繕積立・資金調達条件は織り込んでおらず、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要。ハザードは主要集積地の中心点での参考集計で、個別敷地の判定ではない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 市町村別・業態別の推定成約ADR(2024年9月〜2026年9月、鹿児島県N=320施設)、半径圏の客室ストック(7集積地)、個別施設の推定成約ADR(N=57施設)、J-REIT保有関係マスター(2026年10月19日時点)、新規掲載施設(OTA掲載確認ベース、2025年52軒・2026年59軒)

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・企業公表資料

出典: 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」(吾汝 Atona 屋久島(仮称)の開業予定)

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