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万博閉幕から7ヶ月 — 関西ホテル単価の地殻変動を月次で追う

投稿日 : 2026.06.09

大阪府

エリア・施設分析

万博閉幕から7ヶ月 関西ホテル単価の地殻変動を月次で追う

2025年10月13日の大阪・関西万博閉幕から7ヶ月が経過した。万博特需が剥がれた後、関西3府県のホテル単価には何が起きているのか。本稿では、メトロエンジンリサーチが捕捉する関西3府県のOTA公開価格・推定稼働率を月次で追跡し、JHR・インヴィンシブル・日本ホテル&レジデンシャル(NHR)など主要REITの月次運営実績と突き合わせることで、「万博反動」の真の姿——大阪の沈静化、京都の独走、兵庫の静かな安定——という三層構造の地殻変動を定量的に検証する。※価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きを含む)

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けるため、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt程度の精度を確認済)。
  • RevPAR:ADR × 稼働率 で算出される1室あたり収益指標。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/各社REIT月次運営データ。
Key Takeaways
  • 京都YoY+24.7% vs 大阪+6.2%:万博閉幕7ヶ月後、関西ADRは「反動」一色ではなく、京都独走・大阪沈静化・兵庫安定の三層構造に再配置された(2026年5月時点・関西3府県集計、N=大阪府859/京都府1,562/兵庫県731施設)
  • 大阪デラックス層OCC 94%が市場を下支え。ADR ¥21,500 帯で「万博平均水準」に着地し、エコノミー層の弱含みを高価格帯が補う構造(2026年5月時点・OTA推定値)
  • 京都ラグジュアリー ¥163,000 vs 旅館 ¥38,300:宿泊税引き上げ後も逆流需要は高価格帯に集中、インバウンドが価格弾力性を吸収しADRレンジが上方拡張
  • JHR・インヴィンシブル・NHR の月次データが「反動」を否定:REITエクイティ目線で見ると大阪宿はYoY横ばい〜微増、価格帯ミックス変化が進行中
  • 7-8月夏休みは「正常化×インバウンド戻し」シナリオが本命。万博反動懸念は限定的、ピーク消化速度はYoY+8〜+12%レンジで推移する見込み

関西3府県の「地殻変動マップ」 — YoY+24.7%の京都と+6.2%の大阪

まず関西3府県の2026年5月実勢ADRと前年同月比を並べると、地殻変動は一目瞭然である。京都府はADR ¥47,300(前年比+24.7%)、大阪府は¥26,300(+6.2%)。兵庫県は単独YoYデータでは推移が読みづらいが、5月実勢のADRは¥25,100で、京都と大阪の中間に静かに位置している。同じ「関西」と一括りに語られがちな3府県だが、万博閉幕後の単価形成は明確に分岐している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月時点、N=大阪府859施設/京都府1,562施設/兵庫県731施設)

京都の独走は、宿泊税改定や3万円台ADRの常態化など、近年継続している「インバウンド高単価化」の流れに沿うものである。日本経済新聞によれば京都市の平均客室単価は2025年4月時点で既に¥30,600に達し、外国人宿泊客比率は78.1%と過去最高水準にある。2026年3月1日からは京都市の宿泊税が階層制に再設計され、最上位区分(10万円以上)には1泊1万円が課されるが、価格上昇は止まっていない。新宿泊税が実勢ADRと予約動向に与えたインパクトは、京都市宿泊税3月引き上げから3ヶ月実勢の分析で1万円帯ホテルを軸に検証している。

一方の大阪は、万博閉幕後の需要正常化が織り込まれつつも、YoY+6.2%とプラスを維持。閉幕後すぐに崩落するという「反動シナリオ」は今のところ顕在化していない。後述するREIT月次データを見ると、その背景には万博特需が当初想定よりも狭い時期(特に2025年8月)に集中していた構造があると考えられる。万博中盤の8月ピークと閉幕直後の落ち込みについては、大阪万博のホテルADRへの影響をREIT・OTA等データで検証した分析でより詳しく追っている。

月次ADRトレンド — 大阪は「万博平均水準」に着地、京都は階段上り

2025年4月(万博開幕月)から2026年5月までの月次ADRを並列で追う。大阪府はピークの2025年10月(¥25,900)から¥26,300(2026年5月)まで微増しており、月次ベースで見れば万博閉幕後は単価が低下するどころか緩やかに上昇している。一方の京都府は2025年6月の¥34,400から2026年4月の¥49,700まで、約14ヶ月で+44%の上昇カーブを描いた。両府県の単価ギャップは、万博開幕直前の2025年4月時点で¥17,700だったが、2026年5月には¥21,000にまで拡大した。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年4月〜2026年5月、月次平均、関西3府県、N=860〜1,562施設/月)

注目すべき点は、大阪が「万博期間のピーク水準」を閉幕後7ヶ月経った今も維持しているという事実である。2025年8月(万博中盤)の¥24,700から2026年5月の¥26,300への着地は、単純な万博反動だけでは説明できない。背景にあるのは、訪日客の関西定着化、夢洲IRへの長期期待、そしてビジネス需要の回復だと考えられる。

大阪府カテゴリ別 — デラックス層がOCC 94%で支え続ける

大阪府を施設カテゴリ別に分解すると、構造の細部が見えてくる。2026年5月の大阪府のOCC(推定)はビジネスホテル88.9%、シティホテル92.5%、デラックス94.0%と、いずれも90%前後で高水準にある。万博閉幕後の「下落」が話題になりがちだが、稼働そのものは万博期間中とほぼ同水準を保っている。

カテゴリ 施設数 客室数 OCC(推定) 平均ADR
全施設 707 110,378 90.0% ¥16,000
ビジネスホテル 451 72,982 88.9% ¥13,000
シティホテル 91 24,134 92.5% ¥22,300
デラックス 23 8,318 94.0% ¥50,900
旅館 29 601 78.4% ¥19,600
カプセル 5 911 99.0% ¥15,100

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月実勢、大阪府)

特に注目したいのが、客室数8,300室を抱えるデラックス層のOCC 94.0%だ。万博閉幕後も訪日富裕層・高単価インバウンドの需要が大阪のハイエンドを支えており、ADR ¥50,900はビジネスホテル¥13,000の約3.9倍に達する。「ピラミッドの頂点が太い」という構図が、大阪全体の単価を下支えしている。

京都への需要逆流 — 旅館の¥38,300とラグジュアリーの¥163,000

大阪が万博特需を吸収しきれず、需要の一部が京都へ逆流したという仮説は、京都府のカテゴリ別データに明確な裏付けを示す。2026年5月の京都府は、ビジネスホテルでさえOCC 94.4% / ADR ¥21,800という水準にあり、これは大阪府ビジネスホテル(¥13,000)の約1.7倍である。デラックス層は¥103,100、ラグジュアリー層(N=31施設)に至っては¥163,400に達した。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月実勢、京都府、N=各カテゴリ参照)

特徴的なのは京都旅館の存在感である。120施設・2,171室と母数は中規模だが、OCC 85.7% / ADR ¥38,300は他府県の旅館平均を大きく上回る。京都旅館は典型的に夕食付・1室2名型の高単価プランを主軸とし、訪日インバウンドの「文化体験ニーズ」を取り込む形で単価が形成されている。万博閉幕後、関西で「日本らしい宿泊体験」を求める需要が京都旅館に集中している構図が読み取れる。

兵庫の「静かな安定」 — 神戸シティと旅館で二極化

万博の話題が大阪・京都に集中する中、兵庫県のホテル単価は静かに安定推移している。2026年5月の兵庫県全体ADRは¥25,100で、京都の半分強。ただしカテゴリ別に分解すると、神戸を中心とするシティホテル43施設のOCCは88.9%、ADRは¥19,400と健全だ。リゾート・旅館カテゴリも81%超のOCCで稼働している。

エリア×カテゴリ 施設数 OCC(推定) 平均ADR
兵庫 全施設 731 87.4% ¥25,100
兵庫 ビジネスホテル 147 89.6% ¥12,600
兵庫 シティホテル(神戸中心) 43 88.9% ¥19,400
兵庫 リゾート 44 81.2% ¥36,300
兵庫 旅館 190 81.9% ¥35,000

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月実勢、兵庫県)

兵庫県の特徴は、関西テレビが万博開幕直後に報じた「兵庫は穴場」というナラティブ通り、大阪溢れ需要の受け皿として機能した可能性が高い。閉幕後も神戸の都市型需要は崩れず、有馬・城崎などの旅館は¥35,000水準で観光ニーズに応えている。「派手な変動はないが、確実に高水準で着地」というのが兵庫の現状である。

REIT月次データで見るエクイティ目線の万博反動

OTA公開価格と並んで、REIT月次運営実績は「実際の宿泊客が支払った成約ADR」を反映する。2025年8月の万博中盤——主要REITのADRはどう動いたのか。ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の2025年8月ADRは¥25,700(OCC 88.1%)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)に至っては¥46,500(OCC 93.4%)。NHRは前月7月の¥34,500から8月にかけて+35%という極端なジャンプを記録している。

出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成(JHR・NHR・インヴィンシブル、2025年2月〜2026年4月)

2026年4月のREIT実績を見ると、JHRはADR ¥21,100(前年同月比+4.6%)、OCC 85.8%。NHRは¥25,400、OCC 88.6%。インヴィンシブル投資法人(8963)は¥13,900、OCC 85.2%。NHRは2025年8月のピーク¥46,500から2026年4月の¥25,400まで-45%下落しているが、これは万博特需からの正常化と季節要因の合成で、決して「異常事態」ではない。

JHRのエリア別開示(2026年4月)を見ると、大阪エリアのRevPARは¥21,600(OCC 91.6% / ADR ¥23,600)と、関西(大阪除く)の¥17,300を上回り、東京の¥12,800を大きく超えた。エクイティ目線では、大阪は閉幕後もJHRポートフォリオ内で最高水準のRevPARを叩き出すエリアとして位置づけられている。万博反動という言葉から想像される「崩落」は、REIT実績の数字上は見当たらない。

個別物件レベルでも興味深い動きがある。インヴィンシブル投資法人が保有する大阪なんば・心斎橋エリアの物件群、たとえばホテルマイステイズ心斎橋(ADR ¥15,200)、ホテルマイステイズプレミア堂島(¥14,900)、ホテルマイステイズ御堂筋本町(¥12,900)は、2026年4月時点でいずれも稼働9割前後を維持。一方、京都はホテルマイステイズ京都四条(¥20,200)と京都のステイズプレミアム帯はやや軟調で、京都府全体の独走ぶりとは対照的に、エコノミー帯では選別が進んでいる可能性がある。

夏休み7-8月の予約消化速度 — 「正常化×インバウンド戻し」シナリオ

関西の地殻変動が今後どこへ向かうのかを予測するには、夏休み7-8月の予約消化状況が手がかりになる。OTAに掲載されている2026年7-9月の関西3府県ADRは、2025年同時期(万博中盤)と比較して以下の動きを示している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年7-9月実勢 vs 2026年7-9月OTA公開価格、調査時点)

大阪府の2026年8月OTA掲載ADRは¥30,900。これは万博真っ只中の2025年8月(¥24,700)を約25%上回る数字である。京都府も2026年7月¥44,400、8月¥47,400、9月¥48,000と、2025年同月(¥35,000〜¥36,500水準)を約30%上回って推移。兵庫県も同様の上方シフトを示している。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。直前の値下げ調整で実際の成約価格は下落する可能性があります。また、2026年5月時点では7-9月分の販売中プランが限定的な場合があり、最終的な月平均は変動する見込みです。

この「夏に向けた上方シフト」が示唆するのは、関西ホテル業界が万博終了を「反動局面」ではなく「正常化×インバウンド戻し」の局面として捉えている点である。万博閉幕直後の2025年11月〜2026年2月にかけて単価は一旦調整したが、3月以降は明確に上昇トレンドに復帰している。京都の月次ADRは2026年3月¥46,400 → 4月¥49,700 → 5月¥47,300と推移し、3万円台から4万円台後半に階段を上った。この京都の単価水準が世界主要観光都市と比較してどの位置にあるかは、東京・大阪・京都ADRを米ドル換算しNY・パリ・ロンドンと比較した記事で議論している。

まとめ — 「反動」ではなく「再配置」 として読み解く関西地殻変動

万博閉幕から7ヶ月、関西ホテル単価の地殻変動を整理すると以下の3点が浮かび上がる。

  1. 大阪は「沈静化しつつ高水準維持」。月次ADRはピーク水準を維持し、OCCはデラックス層で94%、ビジネスでも89%と高位安定。万博反動による崩落は、少なくとも2026年5月時点では数字に表れていない。
  2. 京都は「独走」。YoY+24.7%、月次ADRは¥34,000台から¥49,000台へと階段上り。旅館とラグジュアリーがインバウンドの「文化体験」「高単価」ニーズの受け皿となり、宿泊税改定でも止まらない上昇基調が続く。
  3. 兵庫は「静かな安定」。神戸シティと有馬・城崎旅館がそれぞれ独立した需要を持ち、大阪・京都の高騰の波に過剰反応せず安定した中位水準で稼働している。

「万博反動」という言葉から連想される単純な急落シナリオは、関西の現実とはずれている。実際に起きているのは、需要が大阪一極集中から関西全域へ「再配置」される動きであり、特に京都と兵庫が万博終了後も活発な需要を吸収し続けている構図である。夏休み7-9月のOTA掲載価格が前年同月を25-30%上回って推移していることは、業界全体がインバウンドの戻りを前提に強気の単価設定を続けている証左と読み取れる。エクイティ目線・運営目線の双方で、関西ホテル市場は2026年下期に向けて「成長余地のあるマーケット」として位置づけられている。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計データ(関西3府県のOTA公開価格・推定稼働率の月次集計、2025年4月〜2026年5月、N=大阪府859/京都府1,562/兵庫県731施設)に加え、JHR・インヴィンシブル・NHRの月次運営データ(公開IR資料)を併用し、エリア集計とREIT実績を突合した。

■ 試算前提

ADRは2名1室利用時の1室あたり料金(税込・全プラン平均、素泊まり〜食事付きを含む)を採用。OCCはOTA販売在庫に基づく推定値(REIT月次公表値との整合性検証で概ね±数pt精度を確認済)。月次トレンドは前年同月対比(YoY)で正規化し、季節性影響を相殺。

■ 限界・留意点

本稿のADRはOTA公開価格平均であり、実際の成約ADRより+25〜30%程度高い傾向がある(売れ残った高価格帯プランがOTA上に残るため)。推定OCCは販売側データであり、各施設の実成約稼働率とは数pt程度の乖離が生じうる。3府県集計はエリア平均であり、施設単位の業績を保証するものではない。7-8月の予測シナリオは現時点の月次トレンド延長線上の試算であり、為替・燃油・天候等の外生ショックは織り込んでいない。

■ 市場データ

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