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福岡県のホテル単価、市区町村で2.8倍差 — 20エリアの階層と新築採算ライン・供給の行方

投稿日 : 2026.11.03

福岡県

投資・開発

福岡県のホテル単価、市区町村で2.8倍差 — 20エリアの階層と新築採算ライン・供給の行方

福岡県内のホテル単価を市区町村単位で並べると、県平均の伸びだけでは見えない「階層」が浮かび上がる。メトロエンジンリサーチが集計した推定成約ADR(直近12ヶ月平均、2025年10月〜2026年9月)は、朝倉市の¥16,500から飯塚市の¥5,900まで約2.8倍の開きがあり、県平均は¥11,800と前年同期比+10.2%だった。一方で、宿泊業用建築物の着工床面積は2018年のピークから2024年までに約8割減っており、今後の新規供給は都心部の限られた計画に集中しつつある。本稿では、県内20エリアの単価階層、地価との関係、新築の採算ライン、そしてJ-REITの取得動向を重ね、九州の金融機関・デベロッパー・自治体の観光担当者が投資判断に使える視点を整理する。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)

本記事の客室ストックは、博多駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。

本記事の客室ストックは、西鉄福岡(天神)駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。

本記事の客室ストックは、小倉駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月27日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。

県平均ADR(12ヶ月)
¥11,800
前年同期比+10.2%
エリア間の単価差
2.8倍
朝倉市÷飯塚市(20エリア)
博多区ADR(12ヶ月)
¥14,500
前年同期比+11.8%・N=142〜151
宿泊業用 着工床面積
−82%
2024年(2018年比)
新築採算ADR(試算)
¥8,100〜
都心外・GOP利回り6%の目安
Key Takeaways
  • — 三層構造と空白帯:県内20エリアの推定成約ADR(2025年10月〜2026年9月の12ヶ月平均)は¥13,000以上のA層・¥7,500〜¥10,500のB層・¥7,500未満のC層に分かれ、¥10,500〜¥13,000に該当エリアがない。
  • — 県平均¥11,800・前年同期比+10.2%:牽引役は博多区(¥14,500、+11.8%、N=142〜151施設)。門司区+20.2%・大牟田市+15.8%も伸びが大きい。
  • — 地価差158倍・ADR差2.8倍:都心外では土地代の比率が1割前後以下となり、総投資のほぼすべてが建設費になる。
  • — 新築の採算ラインはADR ¥8,100〜¥8,900:GOP利回り6%に必要な水準(建設期間中の上昇を織り込んだ簡易試算)。博多区7.6%に対し小倉北区5.6%・久留米市5.0%。
  • — 供給は細り、取得は広がる:宿泊業用の着工床面積は2024年に2018年比−82%。J-REITの2024年7月以降の取得6件・548室には小倉北区・柳川市・西区が含まれる。

県内20エリアの単価階層 — ¥10,500〜¥13,000に「空白帯」を挟んで三層に分かれる

まず、県内の単価構造を確かめておきたい。メトロエンジンリサーチが市区町村単位で推定成約ADRを算出している県内60エリアのうち、直近12ヶ月のすべての月で対象施設が5施設以上あった20エリアを比較対象とした。各エリアの12ヶ月平均を並べると、¥13,000以上の「A層」、¥7,500〜¥10,500の「B層」、¥7,500未満の「C層」の三つにきれいに分かれ、¥10,500〜¥13,000の価格帯に該当するエリアは一つもなかった。

A層の顔ぶれが興味深い。福岡市の中央区(¥16,100)・博多区(¥14,500)・東区(¥13,600)という都心と近郊に、朝倉市(¥16,500)・宗像市(¥15,700)・宮若市(¥15,300)という温泉地やリゾート型の宿を抱える郊外エリアが並んでいる。つまり県内の高単価層は「都市の需要密度」と「滞在型の付加価値」という性格の異なる二つの源泉から成り立っているといえる。B層には小倉北区(¥8,400)や門司区(¥7,600)といった北九州市の中核と、うきは市・八女市・柳川市などの観光地が入り、C層には久留米市(¥6,900)、大牟田市(¥6,000)、飯塚市(¥5,900)など、ビジネス需要が中心の地方都市が集まった。

福岡県 20エリアの推定成約ADR(2025年10月〜2026年9月の12ヶ月平均)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(全月で対象5施設以上の20エリア。■A層 ■B層 ■C層)
福岡県 20エリアの推定成約ADRと商業地平均価格(12ヶ月平均=2025年10月〜2026年9月)
エリア階層ADR(12ヶ月平均)前年同期比ADR(2026年9月)前年同月比対象施設数(9月)商業地平均価格(円/㎡)商業地変動率
朝倉市A層¥16,510−1.6%¥15,648+17.6%1642,600+0.4%
中央区A層¥16,059+9.5%¥14,444−0.6%843,277,300+6.4%
宗像市A層¥15,749+1.4%¥15,871+5.8%955,900+2.3%
宮若市A層¥15,293−12.6%¥12,884−0.9%624,500−0.4%
博多区A層¥14,451+11.8%¥14,241+13.1%1512,159,700+8.5%
東区A層¥13,637+8.9%¥13,088+4.8%12416,000+7.1%
うきは市B層¥10,413+1.3%¥7,258−29.2%933,400−0.1%
八女市B層¥10,229+4.9%¥9,900+2.2%820,700+0.5%
小倉北区B層¥8,354+7.3%¥9,179+21.3%29429,700+3.8%
柳川市B層¥7,921−0.8%¥7,842+2.7%1035,400+0.5%
門司区B層¥7,603+20.2%¥8,159+34.6%7114,100+0.7%
行橋市B層¥7,509+11.2%¥7,384+11.7%673,000+1.3%
久留米市C層¥6,936+2.3%¥6,876+2.6%22117,900+2.4%
筑紫野市C層¥6,630+7.4%¥7,121+17.7%7221,000+5.2%
苅田町C層¥6,473−3.0%¥6,581+2.1%656,500+0.5%
大川市C層¥6,152+0.3%¥5,754+0.6%535,700+0.1%
筑後市C層¥6,141−1.1%¥6,502+16.7%658,300+2.1%
八幡西区C層¥6,021+1.2%¥6,150+7.2%6146,800+4.9%
大牟田市C層¥5,975+15.8%¥6,042+21.3%1238,900+0.3%
飯塚市C層¥5,942+8.6%¥6,186+9.6%840,100+1.7%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADR)/福岡県「令和8年度福岡県地価調査の概要」(商業地平均価格・対前年平均変動率、価格時点2026年7月1日)

県平均ADRは前年比+10.2% — 伸びを牽引したのは博多区と北九州の港町

県全体の推定成約ADRを年ごとに重ねると、2026年は1〜6月と9月で前年の水準を上回り、7〜8月は前年並みからやや下回って推移した。2026年9月は¥11,600(対象477施設)で、前年同月の¥10,600(同460施設)から+9.8%となっている。季節の山は11〜12月と2月・4〜5月にあり、6月が谷になるという形は2025年・2026年とも共通している。

福岡県 推定成約ADRの月次推移(年別重ね合わせ)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(対象456〜477施設/月)

ただし、伸び方はエリアによってかなり違う。12ヶ月平均の前年同期比を並べると、門司区(+20.2%)と大牟田市(+15.8%)が上位に入り、博多区(+11.8%)と行橋市(+11.2%)が続いた。博多区は対象施設が142〜151施設と県内最大の母集団を持ちながら二桁の伸びを確保しており、県平均を押し上げた最大の要因と読める。北九州市でも小倉北区が+7.3%、2026年9月単月では+21.3%(¥9,200、対象29施設)と伸びを強めている。

一方で、宮若市(−12.6%)、苅田町(−3.0%)、朝倉市(−1.6%)は前年の水準をやや下回った。もっとも、これらのエリアは対象施設が6〜18施設と少なく、単価の高い施設の販売構成が変わるだけで平均が動きやすい。朝倉市は9月単月では+17.6%に戻しており、12ヶ月の数字だけで方向感を判断するのは早計だろう。

エリア別 推定成約ADRの前年同期比(12ヶ月平均ベース)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2025年10月〜2026年9月 vs 2024年10月〜2025年9月)

需給の足元 — 都心の推定OCCは9割を超え、郊外は7〜8割台

単価の伸びを支える需給を、2026年9月の推定OCC(OTA掲載在庫ベース)で確かめた。県全体では88.3%(対象381施設/客室28,935室)で、博多区が91.8%、中央区が91.0%と都心2区はいずれも9割を超えている。小倉北区も88.8%と県平均並みの水準にあり、9月の単価上昇が在庫消化の強さに裏付けられていることがわかる。

2026年9月の推定OCC(OTA掲載在庫ベース)と推定成約ADR
エリア推定OCC(2026年9月)対象施設数対象客室数ADR(2026年9月)
福岡県 全体88.3%38128,935¥11,594
博多区91.8%14113,035¥14,241
中央区91.0%755,589¥14,444
小倉北区88.8%192,971¥9,179
久留米市83.6%10636¥6,876
朝倉市77.6%13437¥15,648
大牟田市77.6%10634¥6,042
宗像市73.9%7481¥15,871
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定OCCは主要予約サイト掲載ベース。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる)

郊外のA層である朝倉市(77.6%)と宗像市(73.9%)は、都心より稼働の水準が低い一方で単価は都心並みかそれ以上という組み合わせになっている。週末・連休に需要が集中する滞在型の市場では、平日の稼働をどう積み上げるかが収益の伸びしろになりやすい。逆に都心2区は稼働の余地が小さく、今後の収益成長は単価の上乗せに軸足が移っていくと考えられる。

地価と単価のギャップ — 商業地の平均価格は最大158倍、ADRは2.8倍

投資の観点で注目したいのは、土地の値段と客室単価の開き方がまったく違うことだ。福岡県が2026年9月に公表した地価調査(価格時点7月1日)で20エリアの商業地平均価格を比べると、中央区の327.7万円/㎡から八女市の2.1万円/㎡まで約158倍の差がある。これに対しADRの差は2.8倍にとどまる。地価を横軸に対数で取って並べると、地価が1桁上がってもADRはおおむね数千円しか上がらない、なだらかな関係が見えてくる。小倉北区と博多区の単価・地価の比率に絞った検証は、北九州・小倉のホテル単価は博多の61%で詳しく分析している。

商業地平均価格(対数軸)× 推定成約ADR(12ヶ月平均)— 20エリア
出典:福岡県「令和8年度福岡県地価調査の概要」、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングより作成(平均価格は選定替や高価格地点の影響を受けやすく、地価水準の目安として参照)

地価の動きも都心に偏っている。県の商業地は+4.0%(前年+5.1%)と11年連続の上昇で、博多区(+8.5%)・東区(+7.1%)・中央区(+6.4%)が高い伸びを示した。小倉北区は+3.8%、久留米市は+2.4%と穏やかで、朝倉市(+0.4%)や門司区(+0.7%)はほぼ横ばいに近い。県内の最高価格地点は天神1丁目の918万円/㎡だった。つまり、都心では単価と地価がそろって上がり、郊外や地方都市では単価が上がっても地価はほとんど動いていない。この非対称こそが、次の採算試算で効いてくる。

客室ストックと供給パイプライン — 都心1km圏は9年で5割増、小倉駅圏は1割増

次に供給の側を見ていく。博多駅・西鉄福岡(天神)駅・小倉駅の半径1km圏で、開業年が判明している施設の客室数を年ごとに積み上げると、2017年から2026年にかけて博多駅圏は13,259室から19,858室へ+49.8%、天神圏は8,763室から13,884室へ+58.4%増えた。対照的に小倉駅圏は4,262室から4,694室へ+10.1%にとどまっている。現時点で掲載のある客室ストックは、博多駅圏が179軒・22,217室(うち稼働中129軒・18,203室)、天神圏が145軒・16,117室(同107軒・13,099室)、小倉駅圏が39軒・5,322室(同28軒・4,432室)である。

駅半径1km圏の客室ストック推移(開業年が判明している施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース。各年は開業年が当該年以前で、閉館していない施設を集計。開業年不明の施設は年次推移に含めない)
博多駅・天神・小倉駅 1km圏の宿泊施設分布(円の大きさ=客室数、稼働中・30室以上)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。■青=ホテル ■紺=J-REIT保有物件

2026年に新たに掲載が確認できた施設(客室数10室以上、貸別荘・コテージ・グランピング等を除く、1〜10月)は32施設・1,723室だった。このうち中央区が11施設・648室、博多区が15施設・590室、早良区が1施設・229室で、福岡市の3区だけで客室ベースの85%を占める。北九州市では門司区の2施設・129室が加わった。足元の供給は、ADRと地価がそろって上がっている福岡市都心に偏っているといえる。

福岡県の主な新規開業・開業予定ホテル(公表情報)
施設・計画エリア客室数開業(予定)備考
THE KNOT FUKUOKA Tenjin中央区206室2026年4月既存ホテルを全面改修して開業
BEB5門司港 by 星野リゾート門司区119室2026年7月門司港レトロ地区
エースホテル福岡(天神1-7計画)中央区192室2027年予定三菱地所の複合ビル内
博多駅前3丁目ホテル(仮称)博多区約150室2028年度予定JR九州ホテルズアンドリゾーツが運営予定
出典:各社公表資料・報道発表(参考資料・出典一覧を参照)。開業予定は公表時点の情報であり変更される可能性がある

その先の供給量を占う手がかりが建築着工統計である。福岡県の宿泊業用建築物の着工床面積は、2018年に18.8万㎡(97棟)でピークを付けた後に急減し、2021年は1.9万㎡まで落ち込んだ。2024年は3.4万㎡(36棟)とやや持ち直したものの、ピーク比では約82%少ない。着工から開業までは一般に1〜3年かかるため、2027〜2028年に開業する施設の量は2019〜2020年の開業ラッシュ期を下回る可能性が高い。上の表に挙げた計画も都心の中規模案件が中心で、県全体の客室数を大きく押し上げる規模ではない。

福岡県 宿泊業用建築物の着工床面積と棟数
出典:国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表ID 0003114490、用途:宿泊業用、建築主:計)

新築採算ラインの簡易試算 — 都心以外では建設費が総投資の9割を占める

なぜ新規供給は都心に偏るのか。宿泊特化型ホテルを1室あたりで新築した場合の採算を、5エリアで簡易に試算した。前提は、1室あたり延床面積30㎡、建築単価は国土交通省の建築着工統計(宿泊業用・全国)で2024年の全構造平均が195.5万円/坪であることを踏まえた195.2万円/坪(Stage 1)と、そこに建設期間中の上昇を年5%・2年分織り込んだ215.2万円/坪(Stage 2、1室あたり約19.5百万円)である。土地代は県の地価調査の商業地平均価格に、エリアごとに想定した容積率を当てはめて1室分を算出した。稼働率(前提)80%、GOP率50%(宿泊特化型の業界目安50〜60%の下限)で客室売上のみを計上し、GOPを土地・建物の合計額で割った値を「GOP利回り」とした。

新築時のGOP利回り簡易試算(1室あたり、Stage 1/Stage 2)
エリアADR前提容積率想定建築費/室(S1)土地代/室土地比率(S1)GOP/室・年GOP利回り S1GOP利回り S2利回り6%に必要なADR(S2)
博多区¥14,451800%17.7百万円8.1百万円31%2.11百万円8.2%7.6%¥11,400
中央区¥16,059800%17.7百万円12.3百万円41%2.34百万円7.8%7.4%¥13,100
小倉北区¥8,354600%17.7百万円2.1百万円11%1.22百万円6.1%5.6%¥8,900
久留米市¥6,936400%17.7百万円0.9百万円5%1.01百万円5.4%5.0%¥8,400
大牟田市¥5,975400%17.7百万円0.3百万円2%0.87百万円4.8%4.4%¥8,100
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(ADRは2025年10月〜2026年9月平均の推定成約ADR、地価は福岡県地価調査の商業地平均価格、建築単価は国土交通省「建築着工統計調査」)。S2は建設期間中の上昇を年5%で織り込んだケース

結果は明快だ。博多区と中央区では土地代が総投資の3〜4割を占めるものの、ADRが¥14,000〜16,000台あるため、Stage 2でもGOP利回りは7%台を確保できる。一方、小倉北区・久留米市・大牟田市では土地代の比率が1割前後以下まで下がり、総投資のほぼすべてが建設費になる。地価が都心の数十分の一でも、建設費は全国でほぼ同じ水準でかかるため、地価の安さが採算を押し上げる効果は小さい。GOP利回り6%を確保するのに必要なADRはStage 2で¥8,100〜¥8,900となり、久留米市(¥6,900)や大牟田市(¥6,000)の現状水準を上回る。小倉北区は12ヶ月平均¥8,400に対し必要水準¥8,900と、9月単月の¥9,200がこのラインを超えている点が注目される。業態別に見た1室あたり建設費の幅については、ホテル建設費は1室870万〜7,140万円も参考になる。

新築時のGOP利回り(簡易試算)— 建設期間中の上昇を織り込む前後の比較
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(前提は上表のとおり)

前提が動いたときの振れ幅も確かめておく。Stage 2の建築単価を前提に、ADRが10%下がるケース、稼働率が5ポイント下がるケース、その両方が重なるケースを比べた。

GOP利回りの感応度(Stage 2、ADR−10%・稼働−5ポイント)
エリアベースADR −10%OCC −5pt両方
博多区7.6%6.9%7.2%6.4%
小倉北区5.6%5.1%5.3%4.7%
久留米市5.0%4.5%4.7%4.2%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(GOP利回り。Stage 2の建築単価、GOP率50%)

博多区は両方が重なるケースでも6.4%と6%台を維持する一方、小倉北区は4.7%、久留米市は4.2%まで下がる。都心外での新築は、単価の上振れを前提にしないと成り立ちにくい構造にあると読める。なお、これは客室売上のみ・FF&Eや設計費・開業費を含まない簡易試算であり、実際の投資判断には個別の詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。

小倉北区は採算ラインの境目にあるため、ADRと稼働率の組み合わせを5×5で動かしたときのGOP利回りも示す(Stage 2の建築単価、土地代・GOP率は上表と同じ前提)。網掛けは6%以上のセルである。

小倉北区 新築時のGOP利回り — ADR×稼働率の2軸感応度(Stage 2)
ADR \ 稼働率(前提)70%75%80%85%90%
¥7,5004.4%4.7%5.1%5.4%5.7%
¥8,0004.7%5.1%5.4%5.7%6.1%
¥8,5005.0%5.4%5.7%6.1%6.4%
¥9,0005.3%5.7%6.1%6.4%6.8%
¥9,5005.6%6.0%6.4%6.8%7.2%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(1室延床30㎡、建築単価215.2万円/坪、土地代は商業地平均価格429,700円/㎡・容積率600%想定、GOP率50%、客室売上のみ)。12ヶ月平均ADR ¥8,354・稼働率(前提)80%のベースは5.6%

稼働率が80%のままならADR ¥9,000で6%に届き、稼働率が85%まで上がればADR ¥8,500でも6%を上回る。9月単月のADR(¥9,200)を通年で維持できるか、あるいは稼働を数ポイント積み増せるかが、小倉北区で新築を検討する際の分かれ目になる。

J-REITの取得動向 — 2024年後半以降は小倉・柳川・西区にも広がる

新築の採算ラインが高い地域では、既存ホテルを取得して運営で価値を高める方法が現実的な選択肢になる。上場ホテルREITの保有物件を照合すると、福岡県内には6投資法人が17物件・3,698室を保有しており、取得価格の合計は¥128,251百万円にのぼる。所在は博多区8物件、中央区5物件、西区・小倉北区・八幡西区・柳川市が各1物件である。

取得日を公表している投資法人の保有分のうち、2024年7月以降に取得された物件は6件・548室で、取得価格の合計は¥23,187百万円だった。博多区の2件に加え、小倉北区・柳川市・西区(糸島エリア)の物件が含まれている点が目を引く。都心の宿泊特化型だけでなく、北九州の中核や観光地の旅館・リゾートにも取得の対象が広がっていることを示す動きだろう。

J-REITによる福岡県内ホテルの取得(2024年7月以降・取得日公表分)
物件名投資法人エリア客室数取得価格取得時期
アートホテル小倉 ニュータガワインヴィンシブル投資法人小倉北区89室¥4,672百万円2024年7月
ザ・ワンファイブマリン福岡いちごホテルリート投資法人博多区103室¥2,600百万円2025年1月
ネストホテル博多駅前いちごホテルリート投資法人博多区160室¥6,500百万円2025年2月
seven x seven 糸島霞ヶ関ホテルリート投資法人西区47室¥5,230百万円2025年8月
亀の井ホテル 柳川インヴィンシブル投資法人柳川市40室¥255百万円2025年8月
アパホテル〈博多駅前4丁目〉日本ホテル&レジデンシャル投資法人博多区109室¥3,930百万円2025年12月
出典:各社REIT公表のポートフォリオ情報よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=17物件、保有関係マスター 2026年10月19日時点。ジャパン・ホテル・リート投資法人はポートフォリオ一覧で物件別の取得日を公表していないため、取得時期の集計から除く)

保有している投資法人は、いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)の6法人で、森トラストリート投資法人(8961)は県内に物件を保有していない。いずれも既存物件の取得であり、新築の採算ラインが高い局面では「建てる」より「買って磨く」ほうが投資の主流になっていることがうかがえる。REITが取得した物件の単価がその後どう動くかは、REIT取得後のホテル単価は2年目に動くが46物件で検証している。

投資判断へのインプリケーション — 階層ごとに異なる三つの機会

ここまでを整理すると、福岡県のホテル市場は「階層ごとに有効な投資手法が異なる」市場だといえる。都心は新築でも採算が見込め、郊外の滞在型は単価の高さを生かせる余地があり、北九州と地方都市は既存施設の取得とバリューアップに機会がある。

A層・都心 新築・建替えの採算圏

博多区・中央区(ADR ¥14,500〜16,100)
推定OCCは9割超、GOP利回り(試算)は建設期間中の上昇を織り込んでも7%台。2027〜2028年の供給計画は中規模案件が中心で、単価の上乗せ余地が続きやすい。

B層・北九州 新築ラインへ接近

小倉北区・門司区(ADR ¥7,600〜8,400、伸び率+7〜20%)
小倉駅1km圏の客室は9年で+10.1%と供給が抑えられ、9月単月のADR ¥9,200は新築の目安(¥8,900)を超えた。既存物件の取得・リポジショニングに機会がある。

A層・郊外滞在型 平日稼働の伸びしろ

朝倉市・宗像市・宮若市(ADR ¥15,300〜16,500)
単価は都心並み、推定OCCは7〜8割台。地価がほぼ横ばいのため、平日需要や連泊プランで稼働を積み上げられれば収益の伸びしろは大きい。

C層の地方都市(久留米市・大牟田市・飯塚市など)は、現状のADRでは新築の利回りが5%前後にとどまる。ただし大牟田市(+15.8%)や飯塚市(+8.6%)のように単価が伸びているエリアもあり、既存施設を前提にした改装や運営改善であれば、土地代の負担が小さい分だけ投資効率を確保しやすい。自治体の観光担当者にとっては、宿泊単価の伸びを地域の滞在型コンテンツや平日需要の創出と結び付けることが、供給を呼び込む前提条件になるだろう。

まとめ

福岡県の推定成約ADRは直近12ヶ月平均で¥11,800、前年同期比+10.2%と堅調だが、その中身は¥13,000以上のA層(都心と郊外の滞在型)、¥7,500〜¥10,500のB層(北九州と観光地)、¥7,500未満のC層(地方都市)の三層に分かれている。商業地の平均価格は最大158倍の差がある一方でADRの差は2.8倍にとどまり、都心外では建設費が総投資の9割を占めるため、新築の採算ラインはADR ¥8,100〜¥8,900と高い。着工床面積がピークから約8割減った今、新規供給は都心の中規模案件に限られ、既存施設の取得が北九州や観光地へ広がっている。階層ごとの単価と供給の位置関係を把握することが、九州のホテル投資を検討するうえでの出発点になる。

データの読み方に関する注意:開業予定や計画は調査時点の公表情報に基づくもので、今後変更される可能性がある。新規開業の集計は主要予約サイトへの掲載が確認できた施設を対象としており、直近の月は今後の掲載によって件数が増える場合がある。採算試算は一定の前提を置いた簡易計算であり、個別案件の投資判断を示すものではない。

参考資料・出典一覧

■ データソース

エリア単価はメトロエンジンリサーチの推定成約ADR(各エリアの対象施設の中央値)で、福岡県60エリアのうち2025年10月〜2026年9月の全月で対象5施設以上の20エリアを比較した。需給は2026年9月の推定OCC(OTA掲載在庫ベース、県内381施設)、供給は博多駅・西鉄福岡(天神)駅・小倉駅の半径1km圏の客室ストック(客室数10室以上、レジャーホテルを除く)と2026年1〜10月の新規掲載施設、地価は福岡県地価調査(価格時点2026年7月1日)の商業地平均価格、着工は国土交通省「建築着工統計調査」、J-REITの保有は各投資法人の公表ポートフォリオ(2026年10月19日時点)に基づく。

■ 試算前提

新築の採算は宿泊特化型の1室あたりで試算した。延床面積30㎡、建築単価195.2万円/坪(Stage 1)と建設期間中の上昇を年5%・2年分織り込んだ215.2万円/坪(Stage 2)、土地代は商業地平均価格×1室あたり延床面積÷想定容積率(400〜800%)、稼働率(前提)80%、GOP率50%、客室売上のみを計上し、GOP利回り=年間GOP÷(土地代+建築費)とした。感応度はStage 2を基準にADR−10%・稼働−5ポイントと、小倉北区のADR×稼働率5×5で確認した。

■ 限界・留意点

推定成約ADR・推定OCCは推定値で、施設の実際の成約価格・稼働率とは異なる。対象施設が5〜16施設のエリアは販売構成の変化で平均が振れやすい。商業地平均価格は選定替や高価格地点の影響を受けるため地価水準の目安にとどまる。試算はFF&E・設計費・開業費・租税公課・金利を含まず、個別敷地の容積率や取得価格とも異なるため、投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要である。開業予定は公表時点の情報で、変更される可能性がある。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界資料

■ ニュース・プレスリリース

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