JR姫路駅から半径1km圏の客室ストックは、2026年10月25日時点で掲載31軒4,848室、うち直近3か月に販売価格が確認できた稼働中の施設が23軒4,199室になった。開業年で遡ると2017年末の20軒3,058室から2026年の26軒4,297室へ+40.5%と、駅前に客室が積み上がった9年間だった。一方で姫路市の推定成約ADRは2026年9月に¥7,486(N=41施設)と前年同月比+4.9%にとどまり、1〜9月の平均では−4.0%と前年を下回る。供給は増え、単価は横ばい——その中で確定済みのGW 2026(5月3日・日曜)の在庫消化を価格帯別に読むと、完売した8施設はすべて推定成約1万円未満に集まり、1万円以上の帯の多くは残室1〜2%まで埋まりながら完売には至らず、1.5万円以上の帯には駅1km圏で1施設223室しかない。本稿では供給時系列・ADR・推定OCC・完売シグナル・商圏の二層需要を重ね、姫路でホテル投資を検討する開発事業者・REIT・地域金融機関に向けて「どの価格帯に余地があるか」と「新設100室が成り立つ必要ADR」を定量化する。
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
本記事の客室ストックは、JR姫路駅から半径1,000m圏内にある客室数10室以上の宿泊施設(レジャーホテルを除く)を対象とし、「稼働中」は直近3か月(2026年8月〜2026年10月)に主要予約サイトで販売価格が確認できた施設を指す(2026年10月25日時点、メトロエンジンリサーチ集計)。
結論を先に置く。姫路駅前の供給増は2018〜2020年に集中した大型ビジネスホテルの開業で説明でき、客室の3分の2が推定成約8,000円未満の価格帯に属する。需要は祭礼・大型連休に強く、GW 2026は当日までに在庫の96.9%が消化されたが、完売に至ったのは推定成約1万円未満(最高でも9,000円台)の施設で、1万円超の帯は「ほぼ満室だが売り切れない」位置にある。新設100室の採算を国土交通省の建築着工統計ベースの建設費で逆算すると必要ADRは1.8〜2.5万円となり、現在の市内に実績のない価格帯になる。したがって投資の機会は、新築での量的参入よりも、1〜1.5万円帯が示した消化力を上位帯に延ばすリポジショニングと、既存ストックの取得に置くのが筋がよい。以下、順に検証する。
- — 4,199室:JR姫路駅1km圏で稼働中の23軒の客室数(2026年10月25日時点)。開業年ベースでは2017年3,058室→2026年4,297室(+40.5%)で、増分の大半は2018〜2020年開業の大型施設。
- — ¥7,486:姫路市の推定成約ADR(2026年9月・N=41施設)。前年同月比+4.9%だが、1〜9月平均は前年比−4.0%と単価は横ばい圏にある。
- — 8/20施設:GW 2026(5月3日)に完売した施設。すべて推定成約1万円未満帯で、1万〜1.5万円帯は残室1〜2%まで埋まりながら完売しなかった。
- — 1施設223室:駅1km圏で推定成約ADR1.5万円以上の供給(稼働客室の5.3%)。市内の母集団でも上位帯の需要上限は検証されていない。
- — 1.8〜2.5万円:新築100室で利回り5〜6%に必要な推定成約ADR(GOP40%・通年OCC80%の試算)。推奨は築古大型ストックの取得と1万〜1.5万円帯へのリポジショニング。
駅1km圏の客室ストック — 9年で+40.5%、増分の8割は2018〜2020年開業の大型施設
まずは供給の時系列から確認したい。メトロエンジンリサーチの客室ストック集計で、JR姫路駅1km圏の施設を開業年で遡ると、2017年末時点で20軒3,058室だった客室は2018年に3,913室、2019年に4,107室、2020年に4,297室へ3年で1,239室増え、その後2026年まで4,297室で横ばいが続く。増加の中身は2018年開業の274室・218室・216室、2019年開業の194室、2020年開業の389室という200〜400室級の宿泊特化・シティホテルで、小規模施設の積み上げではなく大型施設の連続開業による供給増だった。2022年の211室は既存施設の運営者交代で、純増ではない。
半径3km圏に広げても掲載36軒5,055室・稼働24軒4,239室と、1km圏との差は稼働ベースで1軒40室しかない。稼働中の客室の99.1%が駅1km圏に集中しており、姫路の宿泊供給は「駅前一極」と言い切ってよい。開発候補地を駅前以外に求めると競合は薄いが、同時に宿泊需要の受け皿として機能してきた実績も薄い、という裏返しになる。
本グラフの客室ストックはOTA掲載確認ベース(開業年は掲載情報から判定)の集計です。OTA事前掲載は全体の約19%にとどまり、半数以上が開業後の掲載のため、直近年(2026年)の軒数・客室数は今後の掲載で増加する可能性があります。確認申請ベースの建築計画パイプライン(国土交通省「建築物動態統計調査」)と併せて参照することを推奨します。
| 規模階級 | 掲載 | 掲載客室 | 稼働中 | 稼働客室 | 稼働客室シェア |
|---|---|---|---|---|---|
| 50室以下 | 5軒 | 146室 | 1軒 | 30室 | 0.7% |
| 51〜100室 | 6軒 | 430室 | 4軒 | 307室 | 7.3% |
| 101〜200室 | 8軒 | 1,240室 | 7軒 | 1,041室 | 24.8% |
| 201室以上 | 12軒 | 3,032室 | 11軒 | 2,821室 | 67.2% |
| 合計 | 31軒 | 4,848室 | 23軒 | 4,199室 | 100% |
規模階級で見ると、201室以上の11軒が稼働客室の67.2%を占める。50室以下は掲載5軒のうち稼働が確認できたのが1軒にとどまり、小規模施設が販売の前線から退いた一方で、大型施設は12軒中11軒が稼働している。業態はビジネスホテルが稼働17軒3,037室、シティホテルが4軒1,015室で、旅館・リゾートは1km圏に存在しない。開業年代では2010年代の11軒1,975室が全て稼働しているのに対し、1970〜2000年代開業の17軒2,212室は稼働が9軒1,563室と、築年の古い層ほど販売から離れている。築古ストックの更新余地がここにある。
立地分析 — 駅前町の公示地価166万円/㎡、商業地域600%に客室の8割が集まる
立地条件を国土交通省の不動産情報ライブラリで確認する。2026年地価公示で駅至近の「駅前町252番」は1,660,000円/㎡(前年比+1.8%)、2024年の161万円、2025年の163万円から3年連続で上昇した。駅から300〜550mの「豊沢町129番」254,000円/㎡(+2.0%)、「忍町88番外」315,000円/㎡(+6.8%)、「東延末1丁目4番」544,000円/㎡(+1.3%)と、駅前広場を離れると地価は3分の1から7分の1に下がる。いずれも商業地域・容積率600%で、ホテル用地としては高容積を使い切れる区画が駅徒歩5分圏に連続している。
用途地域の判定ができた1km圏26施設のうち、20施設3,538室が商業地域(容積率600%・建蔽率80%)、5施設498室が商業地域(400%)、1施設338室が近隣商業地域(300%)に立地する。判定できた施設の客室の8割が600%地区に集まっており、既存施設の建替えや隣接地の取得で床を積み増す余地は制度上は大きい。地図は稼働中の施設を推定成約ADR帯で色分けし、円の大きさを客室数に対応させた。
| 駅前町252番(駅200m) | 1,660,000円/㎡ +1.8% |
| 豊沢町129番(駅300m) | 254,000円/㎡ +2.0% |
| 忍町88番外(駅550m) | 315,000円/㎡ +6.8% |
| 東延末1丁目4番(駅450m) | 544,000円/㎡ +1.3% |
| 西二階町22番(駅700m) | 159,000円/㎡ +2.6% |
| 商業地域 600% | 20施設 3,538室 |
| 商業地域 400% | 5施設 498室 |
| 近隣商業地域 300% | 1施設 338室 |
姫路市の推定成約ADR — 9月は7,486円で前年比+4.9%、ただし1〜9月累計は−4.0%
次に価格である。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(市内の検証済みカテゴリ施設の中央値)で、姫路市は2026年9月に¥7,486(N=41施設)となり、前年同月の¥7,137から+4.9%と上向いた。8月も¥7,582と前年の¥7,576を上回り、2か月続けて前年超えになっている。ただし年初からの推移を見ると、2026年は1月こそ¥7,000と前年を7%上回ったものの、2〜7月は6,500〜7,100円の範囲で前年を1〜13%下回り続けており、1〜9月平均では¥7,100と前年の¥7,400に対し−4.0%である。2025年5月の¥8,200という山(前年の大型連休需要)に対し2026年5月は¥7,100と戻らなかったことが、年間での前年割れを決めている。
業態別では、ビジネスホテルが9月¥6,500(N=24・前年比−1.8%)、シティホテルが¥14,300(N=5・−3.7%)で、どちらも前年を小幅に下回る。全体の中央値が前年超えになったのは、母集団の構成で中位の施設が入れ替わった効果も含むと見るべきで、業態単位では「横ばい」が実態に近い。供給が2020年で止まった後も単価が伸び悩んでいるのは、駅前の客室の3分の2が8,000円未満帯にあり、同じ帯の中で施設同士が価格を参照し合う構造にあるためだろう。
| エリア | 2025年9月 | 2026年9月 | 前年同月比 | N(施設) |
|---|---|---|---|---|
| 姫路市 | ¥7,137 | ¥7,486 | +4.9% | 41 |
| 明石市 | ¥6,818 | ¥7,596 | +11.4% | 12 |
| 加古川市 | ¥6,894 | ¥6,942 | +0.7% | 7 |
| 神戸市中央区 | ¥12,098 | ¥12,120 | +0.2% | 64 |
| 兵庫県全体 | ¥12,439 | ¥12,749 | +2.5% | 547 |
近隣都市との比較では、明石市が¥7,600(+11.4%)と2026年に入って姫路市を上回る水準に達し、加古川市は¥6,900(+0.7%)で姫路市より500円ほど低い。神戸市中央区は¥12,100(N=64・+0.2%)、兵庫県全体の中央値は¥12,700(+2.5%)で、姫路市は県の中央値の6割弱の水準にある。世界遺産を抱える観光都市としては低く、工業都市の出張需要を軸にした価格形成だと読める。言い換えれば、観光需要を単価に変換できている施設がまだ少ない、ということでもある。
推定OCCとブッキングカーブ — 9月82.0%、10月は88.6%。GW 5/3は45日前50%から当日96.9%へ
単価が伸びない一方で、部屋は埋まっている。OTA掲載在庫ベースの推定OCCは姫路市で2026年8月85.8%(対象20施設/客室2,744・主要予約サイト掲載ベース)、9月82.0%(対象20施設/客室2,770)、10月は24日分の平均で88.6%(対象26施設/客室2,823)と、秋の観光期に入って上向いている。ビジネスホテルに限ると8月88.8%・10月90.8%と全体を上回る。兵庫県全体の9月は86.3%(対象354施設/客室17,641)で、姫路市は県平均より4pt低い。
予約の積み上がり方をブッキングカーブで見る。9月の宿泊日平均では45日前の推定OCCが45.6%、前日に82.0%(対象平均25施設/客室2,808)と、45日前の時点で既に半分近くが埋まり、残りを45日かけて消化する形になっている。確定済みのGW 2026・5月3日(日)は、OTAに総客室の3割以上を出していた19施設/客室2,741の室ベース集計で45日前49.8%、30日前60.7%、14日前81.0%、7日前90.7%、前日94.8%、当日96.9%まで到達した。秋の平日である10月14日(水)も45日前50.0%から前日94.4%(対象27施設/客室2,866)と、GWと変わらない消化率に達しており、出張需要が平日を支えていることが分かる。なお10月14日は灘のけんか祭りの宵宮にあたり、祭礼日の在庫が45日前・30日前・直前でどう動いたかは姫路・灘のけんか祭り宵宮の在庫設計で整理している。
GW 5/3の完売シグナル — 完売8施設はすべて1万円未満、1万円超は残室1〜2%で止まった
ここからが本稿の中心になる。姫路市内でOTAに総客室の30%以上を出していた施設(母集団185施設のうち在庫観測のある36施設、公開枠30%以上の20施設)について、5月3日(日)宿泊の残室推移を室ベースで追うと、残室が0になった施設は8施設だった。最も早かったのは2024年5月開業・97室のコンフォートイン姫路夢前橋で、宿泊日の26日前に残室0/97室となり、以後20日間にわたり完売を維持した。宿泊日4日間(5/2〜5/5)を通して全日完売した施設は3施設で、夢前町の温泉旅館「里湯ひととき 夢乃井」(79室)が平均20.2日前、同コンフォートインが平均11.5日前、338室の大型ビジネスホテルが平均7.5日前に売り切っている。大型連休に姫路で早く埋まるのは、低価格で客室数の多い宿泊特化型と、市街地から離れた温泉旅館という二極だった。
| 推定成約ADR帯(2026年5月) | 施設数 | 客室数 | 完売施設 | 最も早い完売 | 当日残室率(施設別) |
|---|---|---|---|---|---|
| 〜7,000円 | 8 | 1,138室 | 4 | 宿泊日の26日前 | 0.0% / 0.0% / 0.0% / 0.0% / 2.2% / 8.2% / 4.9% / 5.9% |
| 7,000〜10,000円 | 5 | 897室 | 4 | 宿泊日の23日前 | 0.0% / 0.0% / 0.0% / 0.0% / 20.3% |
| 10,000〜15,000円 | 3 | 657室 | 0 | — | 2.2% / 0.9% / 16.1% |
| 15,000円以上 | 2 | 19室 | 0 | — | 25.0% / 6.7% |
価格帯で整理すると構図がはっきりする。推定成約7,000円未満の8施設1,138室は4施設が完売し、残る4施設も当日残室は2〜8%だった。7,000〜1万円の5施設897室も4施設が完売している。これに対し1万〜1.5万円の3施設657室は完売した施設がなく、ただし2施設は当日残室0.9%と2.2%、つまり216室中2室・223室中5室まで埋まっていた。1.5万円以上は4室と15室の2施設しか母集団に存在せず、駅周辺の都市型ホテルではこの価格帯が検証されていない(市内でも郊外の夢前町の温泉旅館「夢乃井」は5月の推定成約1.8万円台で4日間とも完売しているが、駅前の需要とは性格が異なる)。読み方は二通りある。1つは「1万円超は売り切れないので天井」という見方、もう1つは「1万円超でも98〜99%まで埋まる需要があり、売り切らないのは施設側が最後の数室を高値で残す運用をしているため」という見方で、残室1〜2室で止まる形状は後者を支持する。GWのピーク日に1万〜1.4万円で216〜223室を98%以上埋められる需要が姫路にはあり、その帯の供給が駅1km圏で3施設しかないことが、本稿が指摘したい空白である。全国を価格帯で割った同じ視点では、最速完売帯がADR8千〜1万円に集まり新規供給が2万円超へ偏る構図をホテル価格帯別ホワイトスペース2026が確認している。
密集 8,000円未満 × 100〜400室
稼働客室の66.1%(15施設2,757室)。GWは半数が完売し消化力は高いが、同帯内で価格を参照し合い単価は前年比横ばい。新規参入は規模と価格の両面で既存と正面衝突する。
余地① 1万〜1.5万円 × 150〜250室
稼働客室の15.7%(3施設653室)。GWは残室1〜2%まで消化しながら完売せず、価格を保ったまま埋まる帯。築古の大型ストックを改装してこの帯へ移すリポジショニングが最も実績に近い。
余地② 1.5万円以上 × 20〜100室
稼働客室の5.3%(1施設223室)。市内の母集団でも1.5万円超は小規模2施設のみで需要の上限が測れていない。姫路城の観光需要を単価に変える帯だが、GWの消化実績が存在しないぶん検証コストを織り込む必要がある。
二層の需要 — 1km圏に事業所3,805・従業者5万人、北1kmに年100万人超の世界遺産
姫路の宿泊需要は、臨海部の製造業が生む平日の業務需要と、姫路城を核とする観光需要の二層で構成される。総務省・経済産業省の経済センサス(2021年活動調査、町丁字ベース)で駅1km圏を集計すると、事業所3,805・従業者50,208人、うちオフィス系従業者は8,979人(17.9%)で、3km圏では事業所9,101・従業者102,146人(オフィス系14.0%)に広がる。オフィス比率が2割を切るのは、駅前であっても製造・小売・医療など現場型の雇用が主体であることを示しており、宿泊需要としては本社出張よりも工場・プラントの工事・保守に伴う技術者の滞在が厚い。兵庫県の資料によれば播磨臨海地域は発電・鉄鋼・化学などが集積し製造品出荷額は約7.5兆円にのぼる。10月14日(水)の平日に推定OCCが前日94.4%まで達する背景には、この層がある。
観光側では、姫路城の入城者が2019年度に約154万8千人(うち外国人約39万5千人・25.5%)、2023年度には11月下旬に4年ぶりの100万人到達と報じられた。2026年3月1日からは市外在住者の入城料が2,500円(市民1,000円、18歳未満無料)に改定され、導入初月の3月の有料入城者は速報で約14万人と前年同月比約17%減の一方、料金収入は倍増見込みとされる。入城料収入は2023年度で年約11億円、2025年からの10年間の維持管理費は約280億円と試算されており、観光客の「量」より「質」へ舵を切った運営に変わった。宿泊側で1万円超の帯の消化力が確認されたことと、この方針転換は同じ方向を向いている。
居住人口はどうか。国土交通省の国土数値情報(250mメッシュ将来推計人口)で駅1.5km圏を集計すると、2025年の居住人口34,446人、65歳以上比率24.6%で、2040年には31,891人(-8.6%)まで減る推計になっている。宿泊需要の直接の分母ではないが、駅前の商業集積と夜間の飲食需要を支える地元人口が1割弱縮む見通しは、長期の運営計画で織り込んでおきたい。地図は居住人口(国勢調査ベース)であり、滞在・通過人口ではない。
| 指標 | 駅1km圏 | 駅3km圏 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 事業所数 | 3,805 | 9,101 | 総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021)、境界=国勢調査2020小地域 |
| 従業者数 | 50,208人 | 102,146人 | |
| オフィス系従業者比率 | 17.9% | 14.0% | |
| 居住人口(1.5km圏・2025年) | 34,446人(2040年 -8.6%) | 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ将来推計人口) | |
上位帯の供給本数と新設100室の必要ADR — 1.5万円以上は1施設223室、新築は1.8〜2.5万円が要る
投資判断に移る。駅1km圏の稼働23施設のうち、2025年10月〜2026年9月の施設別推定成約ADRの平均が1.5万円以上なのは1施設223室(稼働客室の5.3%)、1.2万円以上でも3施設715室(17.2%)、1万円以上で4施設876室(21.0%)にとどまる。残る15施設2,757室(66.1%)が8,000円未満、3施設536室が8,000〜1万円である。価格帯別の供給本数そのものが、上位帯の薄さを物語っている。
では、この空白に新築で入る採算はどうか。国土交通省の建築着工統計をもとにしたarchi-book 2026年版(2025年時点)の鉄骨造ホテル坪単価240.5万円を使い、客室30㎡・100室・客室部分比率62%で延床4,838㎡(1,463坪)の宿泊特化型を想定すると、建設費は35.2億円になる。FF&E・開業準備費を1室500万円で5.0億円、土地は容積率600%で必要敷地806㎡に駅徒歩5〜7分の商業地の公示地価水準30万円/㎡を当てて2.4億円とし、総投資額は42.6億円(2025年単価)となる。ここに建設期間のインフレを織り込む。Turner & Townsendは日本の建設コスト上昇率を2025年+5.6%、2026年+5.3%、2027年+5.0%と予測しており、2029年開業・2027〜28年施工として2028年(本稿の仮定で+4.5%)までを複利で見ると建設費は40.7億円、総投資額は48.1億円に膨らむ。工事費の上昇分が必要ADRをどれだけ押し上げるかは、ホテル工事費が上がったら誰が払うかで改正建設業法の価格変動条項とあわせて試算している。
GOP率はインヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)を参照し、開業初期の保守値として40%、稼働率は姫路市の推定OCC80〜86%を下回る80%を置いた。この前提で、総投資額に対する利回りを満たす必要ADRを逆算したのが次の表である。
| 項目 | 2025年単価ベース | 建設期間インフレ織込み(2029年開業) |
|---|---|---|
| 建設費(1,463坪 × 240.5万円) | 35.2億円 | 40.7億円 |
| FF&E・開業準備(100室 × 500万円) | 5.0億円 | 5.0億円 |
| 土地(806㎡ × 30万円/㎡) | 2.4億円 | 2.4億円 |
| 総投資額 | 42.6億円 | 48.1億円 |
| 利回り4%に必要なADR(GOP40%・通年OCC80%) | ¥14,600 | ¥16,500 |
| 利回り5%に必要なADR(GOP40%・通年OCC80%) | ¥18,200 | ¥20,600 |
| 利回り6%に必要なADR(GOP40%・通年OCC80%) | ¥21,900 | ¥24,700 |
| 利回り7%に必要なADR(GOP40%・通年OCC80%) | ¥25,500 | ¥28,800 |
結果は明快で、インフレ織込み後の総投資額48.1億円に対して利回り5%を確保するには推定成約ADRで¥20,600、6%なら¥24,700が必要になる。駅1km圏の最上位施設の12か月平均が約1.57万円、市内でGWに98%以上埋まった帯が1万〜1.4万円であることを踏まえると、新築100室は「現在の市内に成約実績のない価格帯で、初年度から埋める」計画になる。参考までにGOP率と稼働率を振った感度を示す。
| 利回り5%に必要なADR(総投資額48.1億円) | 通年OCC 75% | 通年OCC 80% | 通年OCC 85% |
|---|---|---|---|
| GOP率 35% | ¥25,100 | ¥23,500 | ¥22,100 |
| GOP率 40% | ¥22,000 | ¥20,600 | ¥19,400 |
| GOP率 45% | ¥19,500 | ¥18,300 | ¥17,200 |
GOP率45%・稼働85%という宿泊特化型の上振れケースでも必要ADRは¥17,200で、1.5万円超の帯に入る。逆に言えば、土地を所有済みで建設費のみを投じる場合や、既存の大型ストックを取得・改装して1万〜1.5万円帯へ移す場合は、分母が小さいぶん必要ADRは市内の実績帯に収まる。例えば築30年超の200室級を1室800万円で改装する投資は16億円で、同じGOP40%・稼働80%で5%を得るのに必要な増分ADRは約3,400円となり、7,000円前後の帯から1万〜1.1万円への移行で足りる計算になる。GW 5/3に216〜223室の施設が1万〜1.4万円で残室1〜2%まで埋まった事実は、このリポジショニングの需要側の裏付けになる。
投資判断の整理 — 推奨はリポジショニング、新築は上位帯の実績づくりとセットで
| 新築100室・利回り5%ケース | ベース | ADR −10% | OCC −5pt | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| 推定成約ADR | ¥20,600 | ¥18,500 | ¥20,600 | ¥18,500 |
| 稼働率 | 80% | 80% | 75% | 75% |
| 年間客室売上 | 6.01億円 | 5.41億円 | 5.64億円 | 5.07億円 |
| GOP(40%) | 2.40億円 | 2.16億円 | 2.25億円 | 2.03億円 |
| 総投資額48.1億円に対する利回り | 5.0% | 4.5% | 4.7% | 4.2% |
| リスク要因 | 内容 | 姫路での読み方 |
|---|---|---|
| 市場(単価) | 推定成約ADRは1〜9月累計で前年比−4.0%、業態別では前年割れ | 8,000円未満帯での価格競争に巻き込まれない価格帯設計が前提。上位帯は需要の上限が未検証 |
| 供給 | 2020年以降の純増は止まり、確認申請ベースの計画データにも姫路市の大型案件は現れていない | 当面は供給面の逆風が小さい。ただし築古ストックの改装・建替えが同じ上位帯を狙う可能性 |
| 建設コスト | 鉄骨造240.5万円/坪、年5%前後の上昇が続く見通し | 新築は必要ADRが市内実績を上回る。既存取得・改装は分母が小さく成立しやすい |
| 需要 | 観光は入城料改定で入城者数が減少局面、業務需要は製造業の設備投資に連動 | 平日は業務需要で推定OCC90%超(2026年10月・ビジネスホテル)、休日は観光。二層を両取りできる立地が駅1km圏 |
ここまでを整理すると、姫路駅1km圏は供給が2020年で頭打ちになり、推定OCCは80〜90%で推移し、価格帯は8,000円未満に3分の2が集まる市場である。GW 2026の確定実績は、1万〜1.4万円の帯が200室級でも98%以上埋まることを示した一方、1.5万円以上は供給が1施設223室しかなく需要の天井が測れていない。新築100室の必要ADRが1.8〜2.5万円になる以上、推奨の順序は、①築古大型ストックの取得と1万〜1.5万円帯へのリポジショニング、②その運営で上位帯の成約実績をつくり、③実績が1.5万円を超えた段階で新築や増床を検討する、という段階的な組み立てになるだろう。姫路城の料金改定で観光客の構成が「量から質」へ動き始めた今は、①を仕込む時期として悪くない。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格・在庫データ(JR姫路駅半径1km・3km圏の客室ストック、姫路市・兵庫県の推定成約ADRと推定OCC、GW 2026の施設別残室推移)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)・国土数値情報(250mメッシュ将来推計人口)、総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021年)、および各社・各機関の公表資料。
■ 試算前提
新設100室(客室30㎡・客室部分比率62%・延床4,838㎡)、鉄骨造坪単価240.5万円、FF&E・開業準備1室500万円、土地806㎡×30万円/㎡、2029年開業(2025〜2027年はTurner & Townsend予測、2028年+4.5%は本稿の仮定で建設インフレを複利計上)、GOP率40%、通年OCC80%。利回りは年間GOP÷総投資額。
■ 限界・留意点
推定成約ADR・推定OCCはOTAの公開価格・掲載在庫に基づく推定値で、各施設の実績・会計数値とは異なる。GW 2026の完売分析はOTA公開枠が総客室の30%以上の20施設が対象で、市内の全施設ではない。1.5万円以上の帯は市内母集団が2施設のみで、需要の上限は検証できていない。投資試算は公開資料の代表値による簡易試算であり、敷地条件・運営形態を反映したフィージビリティ・スタディの代替にはならない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 客室ストック集計(JR姫路駅1km圏・3km圏、2026年10月25日時点)、推定成約ADR(姫路市N=41・明石市N=12・加古川市N=7・神戸市中央区N=64・兵庫県N=547)、推定OCC・ブッキングカーブ(姫路市 対象19〜27施設)、施設別残室推移(2026年5月3日・公開枠30%以上の20施設)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2024〜2026年)、用途地域
- 国土交通省 国土数値情報 — 250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)
- 総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021年)、境界=国勢調査2020小地域(e-Stat統計GIS)
- 国土交通省 建築着工統計/archi-book 2026年版(用途別・構造別坪単価、2025年時点)
- 兵庫県「姫路港・東播磨港 港湾脱炭素化推進計画(案)」(2024年9月) — 播磨臨海地域の製造品出荷額
■ REIT・業界レポート
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■ ニュース・プレスリリース
