台風が近づいた宿泊日は、チェックイン直前の数日で客室が埋まっていかない。現場では経験的に知られた現象だが、どの程度の差になり、台風の影響を受けなかった地域と比べてどれだけ違うのかは、あまり数字で語られてこなかった。本稿では、気象庁の「台風位置表(速報値)」から2026年6月に本土へ接近・上陸した台風6号・7号・8号の3つの宿泊日を選び、台風の中心が県庁所在地から100km以内を通った「接近県」と、450km以上離れていた「非接近県」の残室推移を、同じ曜日の平常日と並べて比較した。対象はすべてすでに過ぎた宿泊日であり、将来日の予測は扱わない。
本記事における指標の定義
- LT(リードタイム):宿泊日(チェックイン日)までの日数。LT7=宿泊日の7日前、LT1=前日。当日(LT0)の観測はチェックイン当日の販売締めの動きが混ざるため、本稿では用いていない。
- 残室率:対象施設がOTA等に掲載している残室数の合計を、対象施設の総客室数の合計で割った値(室ベース)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿では100から残室率を引いた値で、OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- 在庫消化:LT7からLT1までに残室率が何ポイント下がったか。値が小さいほど、直前の1週間で客室が埋まっていかなかったことを示す。
- 在庫戻り:LT3からLT1にかけて、施設の残室数が1室以上増えたこと。予約の取り消し、施設側の販売再開、追加の在庫開放のいずれも含み、公開データからは区別できない。
- 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。エリア集計は対象施設の掲載価格の平均、施設単位は各施設の掲載最安値。成約価格ではない。
- 母集団:いずれの集計も、OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のみを対象とした(OTAへの掲載枠が小さい施設では、残室の増減が施設全体の需給を表さないため)。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ。気象の事実関係は気象庁「台風位置表 令和8年(2026年)(速報値)」ほか(末尾の出典一覧参照)。
7〜8月の台風9号・13号・15号については、台風接近日は直前2〜3日で48.3%の宿に在庫が戻る — 平常日の3.1倍、2026年7〜8月実測で、在庫がどのリードタイムで戻るかを沖縄・鹿児島を中心に扱った。本稿はその前の6月に起きた3事象を対象に、比較の軸を変えている。同じ県の平常日と比べるだけでなく、台風と無関係だった非接近県の同じ日の動きを差し引くことで、「その日はどこでも鈍かった」という要因を外したうえでの差を見る。
- — 4.0〜7.9ポイント:2026年6月の3宿泊日(6月2日・3日・27日)、接近県のLT7→LT1の在庫消化は、非接近県の変化を差し引いても平常日より4.0〜7.9ポイント少なかった。8月11日は1.0ポイント。
- — 推定OCC 87.5%:2026年6月27日(土)の接近4都県のLT1時点の値で、前後の土曜日(92.2%・93.4%)を5ポイント前後下回った。翌日の日曜日も取り戻しは見られなかった。
- — 平常日の3.7〜4.1倍:LT3→LT1に在庫が戻った施設の割合は、6月の接近県で15.5〜30.6%。5室以上まとめて戻った施設も5〜11%あった。
- — 据え置き45〜72%:在庫が戻った施設の掲載最安値は過半が据え置きで、平常日(38〜65%)とほぼ同じ動き。台風日専用の値付けは各施設が設計できる余地として残る。
対象とした宿泊日 — 台風6号の接近・上陸日と、台風7号・8号の通過日
気象庁の台風の統計によると、2026年に日本へ上陸した台風は9月9日時点の速報値で2個あり、6月と8月に1個ずつである。6月の1個が台風6号(チャンミー)で、気象庁の全般気象解説情報によれば6月3日午前4時半ごろに和歌山県南部に上陸し、田辺市付近を東北東へ進んだ。6月の上陸は2012年以来14年ぶりである。6月27日には台風7号と台風8号が相次いで本州の南岸を東へ抜けた。
接近県と非接近県は、気象庁「台風位置表」に記載された1時間〜3時間ごとの中心位置から、各都道府県の県庁所在地までの最短距離を当社で計算して決めた。気象庁は台風の中心が気象官署等から300km以内に入った場合を「接近」と定義しているが、本稿ではより影響の強い範囲に絞るため、宿泊日当日に100km以内まで近づいた県を「接近県」とした。対照の「非接近県」は、宿泊日の前日から翌日までの3日間、中心が450km以上離れていた県である。
| 宿泊日 | 台風 | 気象上の経過(気象庁「台風位置表」速報値ほか) | 接近県(100km以内) | 非接近県(450km超) |
|---|---|---|---|---|
| 6月2日(火) | 6号 | 5月27日9時に発生。6月2日18時に中心気圧980hPaで宮崎県の沖、23時に高知県の沖を北東へ | 宮崎・高知・鹿児島 | 北海道・青森・岩手・秋田 |
| 6月3日(水) | 6号 | 4時半ごろ和歌山県南部に上陸。紀伊半島から東海・関東の南岸を東へ進み、21時に温帯低気圧に変わる | 三重・和歌山・奈良・徳島・静岡・高知 | 北海道・青森・岩手・秋田 |
| 6月27日(土) | 7号・8号 | 8号(998hPa)が早朝に伊豆諸島北部から房総半島付近を北東へ進み9時に温帯低気圧に。7号(992hPa)は日中に四国・紀伊半島の南の海上を東へ進み21時に温帯低気圧に | 千葉・東京・神奈川・静岡 | 北海道・青森 |
| 8月11日(火・祝) | 15号 | 20時ごろ茨城県南部に上陸(茨城県への上陸は1951年の統計開始以来初)。関東を西へ横断 | 茨城・千葉・埼玉・東京・神奈川・栃木・群馬・山梨 | 北海道・青森・福岡・佐賀・長崎・熊本・宮崎・鹿児島・沖縄 |
出典:気象庁「台風位置表 令和8年(2026年)(速報値)」「台風の上陸数」、日本気象協会、ウェザーニュースよりホテルバンク編集部作成。接近県・非接近県の区分は台風中心と県庁所在地の距離から当社算出
平常日には、同じ県の1週間前と1週間後の同じ曜日(6月2日なら5月26日と6月9日)の2日をとり、その平均を使った。ブッキングカーブの形は曜日で大きく変わるため、曜日をそろえている。8月11日は山の日の祝日で、比較に使った8月4日・18日は平日である。この日は祝日要因が接近県と非接近県の両方にかかるため、非接近県との差し引きで見る意味がとくに大きい。
直前1週間の在庫消化は、6月の3日とも接近県だけが鈍った
結論から示す。LT7からLT1までに残室率が何ポイント下がったか(在庫消化)を比べると、6月の3つの宿泊日ではいずれも接近県の消化が平常日を下回り、非接近県はほぼ平常日並みだった。非接近県の変化を差し引いた差は、6月2日が7.7ポイント、6月3日が7.9ポイント、6月27日が4.0ポイントである。
| 宿泊日 | 群 | 対象 | 残室率 LT7 | LT3 | LT1 | 在庫消化(台風日) | 在庫消化(平常日) | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 6月2日 | 接近県 | 472施設/21,782室 | 47.8% | 42.2% | 41.1% | 6.7pt | 14.4pt | -7.7pt |
| 非接近県 | 979施設/72,895室 | 31.5% | 27.1% | 22.3% | 9.2pt | 9.2pt | 0.0pt | |
| 6月3日 | 接近県 | 1,261施設/62,230室 | 34.3% | 33.5% | 29.6% | 4.7pt | 11.5pt | -6.8pt |
| 非接近県 | 980施設/72,931室 | 30.2% | 26.3% | 20.7% | 9.5pt | 8.4pt | +1.1pt | |
| 6月27日 | 接近県 | 2,284施設/188,213室 | 15.1% | 13.0% | 12.5% | 2.6pt | 6.8pt | -4.2pt |
| 非接近県 | 730施設/58,078室 | 9.5% | 7.7% | 4.9% | 4.6pt | 4.8pt | -0.2pt | |
| 8月11日 | 接近県 | 2,652施設/210,623室 | 21.4% | 16.6% | 11.7% | 9.7pt | 11.3pt | -1.6pt |
| 非接近県 | 2,878施設/170,749室 | 16.9% | 14.4% | 10.7% | 6.2pt | 6.8pt | -0.6pt |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のみを集計(主要予約サイト掲載ベース、施設数・客室数は台風日のLT1時点)。平常日は同じ県の前後1週間の同じ曜日2日の平均
6月2日の接近県(宮崎・高知・鹿児島)では、平常日ならLT7からLT1の間に残室率が14.4ポイント下がるところ、台風日は6.7ポイントしか下がらなかった。非接近県の北海道・東北4道県は、台風日も平常日も9.2ポイントで変わっていない。なお、6月2日の接近県はLT7(5月26日、台風6号の発生前)の残室率がすでに平常日より高く、この日はもともと予約の入りが平常日より少なかった。本稿が残室率の水準ではなくLT7からLT1への変化幅で比べているのはこのためである。6月3日も構図は同じで、接近県の消化は平常日の11.5ポイントに対して4.7ポイントにとどまり、非接近県はむしろ平常日を1.1ポイント上回った。
一方、8月11日は接近県と平常日の消化の差が1.6ポイント、非接近県を差し引くと1.0ポイントにとどまる。関東一円を接近県に含めているため、上陸地点から離れた東京都・神奈川県で平常日並みに埋まったことが平均を押し上げた。都県別に見ると、上陸地点に近い茨城県はLT3からLT1にかけて残室がむしろ0.4ポイント増えており(平常日は6.1ポイント減少)、千葉県も消化が平常日の7.6ポイントに対して2.9ポイントだった。夜8時ごろという上陸時刻と祝日が重なったこの日は、影響が上陸地点の近くに集中したと読める。
6月3日のブッキングカーブ — LT6からLT2まで推定OCCが横ばいに
台風6号の上陸日を宿泊日とするブッキングカーブを、前後1週間の同じ水曜日と重ねると、差がいつ生まれたのかがわかる。LT7(5月27日)の推定OCCは65.7%で、平常日の2日(70.5%・65.2%)の間にあった。台風6号が発生したのがちょうど5月27日の9時である。そこから先、平常日のカーブがLT1にかけて78〜81%まで伸びていくのに対し、6月3日のカーブはLT6の66.5%からLT2の66.3%まで5日間ほぼ横ばいで推移した。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。接近県=三重・和歌山・奈良・徳島・静岡・高知(6月3日:1,261施設/62,230室)、非接近県=北海道・青森・岩手・秋田(980施設/72,931室)。OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のみ(主要予約サイト掲載ベース)。推定OCCはOTA掲載在庫ベースの推定値
非接近県の6月3日のカーブ(紺の破線)は平常日と同じ形で右肩上がりを続けており、LT1時点の推定OCCは79.3%だった。接近県はLT1で70.4%である。平常日の平均79.3%より8.9ポイント低い。LT7時点の差は約2ポイントだったので、差の大半はLT7からLT2の間に広がったことになる。
接近県の6県はすべて同じ方向に動いた。LT3からLT1の在庫消化を県別に並べると、6月3日は6県とも平常日を1.6〜4.7ポイント下回っている。6月2日の宮崎県と、6月27日の神奈川県・静岡県では、LT3からLT1にかけて県全体の残室率がむしろ上がった。
| 宿泊日 | 都府県 | 対象施設/客室 | 推定OCC(LT1) | LT3→LT1 在庫消化(台風日) | 同(平常日) |
|---|---|---|---|---|---|
| 6月2日 | 宮崎県 | 111/6,179 | 51.6% | -4.6pt(残室増) | 7.3pt |
| 6月2日 | 高知県 | 80/4,540 | 70.8% | 1.7pt | 5.5pt |
| 6月2日 | 鹿児島県 | 281/11,063 | 58.1% | 3.9pt | 7.1pt |
| 6月3日 | 三重県 | 219/13,030 | 69.4% | 4.5pt | 6.7pt |
| 6月3日 | 和歌山県 | 161/7,244 | 61.7% | 3.6pt | 5.4pt |
| 6月3日 | 奈良県 | 88/4,499 | 79.0% | 4.8pt | 9.5pt |
| 6月3日 | 徳島県 | 76/3,572 | 75.8% | 3.9pt | 5.5pt |
| 6月3日 | 静岡県 | 636/29,285 | 70.5% | 3.7pt | 7.0pt |
| 6月3日 | 高知県 | 81/4,600 | 74.1% | 3.4pt | 6.0pt |
| 6月27日 | 千葉県 | 317/22,724 | 81.5% | 0.2pt | 5.0pt |
| 6月27日 | 東京都 | 800/103,914 | 92.4% | 1.8pt | 2.9pt |
| 6月27日 | 神奈川県 | 421/30,962 | 86.5% | -1.8pt(残室増) | 3.5pt |
| 6月27日 | 静岡県 | 746/30,613 | 76.3% | -1.8pt(残室増) | 4.7pt |
| 8月11日 | 茨城県 | 158/8,966 | 78.0% | -0.4pt(残室増) | 6.1pt |
| 8月11日 | 千葉県 | 297/22,957 | 86.6% | 2.9pt | 7.6pt |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のみ(主要予約サイト掲載ベース)。在庫消化がマイナスの行は、LT3からLT1にかけて県全体の残室率が上がったことを示す。8月11日は上陸地点に近い2県を抜粋
6月27日の土曜日 — 推定OCCは87.5%、前後の土曜日を5ポイント下回る
6月27日は土曜日で、本来は週でもっとも埋まる宿泊日である。接近県の千葉・東京・神奈川・静岡の4都県では、LT1時点の推定OCCが87.5%で、前週6月20日の92.2%、翌週7月4日の93.4%をそれぞれ5ポイント前後下回った。同じ日の非接近県(北海道・青森)は95.1%で、前後の土曜日(93.5%・92.8%)をむしろ上回っている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。千葉・東京・神奈川・静岡の4都県、宿泊日ごとの対象は2,152〜2,295施設/186,314〜189,334室(OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のみ、主要予約サイト掲載ベース)。推定OCC・掲載価格はいずれも各宿泊日の前日(LT1)時点。掲載価格は対象施設の平均(2名1室・税込)
掲載価格の動きも並べておく。6月27日のLT1時点の掲載価格は平均28,800円で、6月20日の30,500円、7月4日の35,700円を下回った。LT3からLT1にかけての変化率で見ると、接近県は7.6%下がり、平常日の平均4.9%より下げ幅が2.7ポイント大きい。ただし非接近県でもこの日の下げ幅は平常日より2.3ポイント大きかった。6月3日も接近県3.5ポイントに対して非接近県2.1ポイントと、同じ向きの動きが非接近県にも出ている。エリア平均の掲載価格には、どのプランが売れ残っているかという構成の変化も入るため、台風に固有の値動きとして取り出せる幅は限られる、というのが実測からいえる範囲である。
台風が抜けた翌日の宿泊日も、すぐには戻っていない。6月27日の接近県4都県では、翌日の6月28日(日)の推定OCCが78.7%で、前後の日曜日(6月21日81.3%、7月5日80.7%)を2ポイント前後下回った。6月3日の接近県6県についても、翌日の6月4日(木)は77.2%で、前後の木曜日(5月28日80.8%、6月11日79.4%)より低い。今回の観測範囲では、「台風一過」の宿泊日にまとまった取り戻しは見られなかった。
施設単位で見ると — 直前に在庫が戻った施設は平常日の3.7〜4.1倍
エリア合計の残室率は、埋まる施設と戻る施設の差し引きである。施設単位で、LT3からLT1にかけて残室数が1室以上増えた施設の割合(在庫戻り)を数えると、台風日の特徴はさらにはっきりする。6月2日は接近県の18.9%(507施設中96施設)で在庫が戻り、平常日の4.6%の4.1倍だった。6月3日は15.5%対4.2%で3.7倍、6月27日は30.6%対7.7%で4.0倍である。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。OTAに総客室の3割以上を掲載している施設のうち、LT3・LT1の両時点で残室の観測がそろった施設が対象。接近県・台風日の対象は6月2日507施設、6月3日1,553施設、6月27日2,424施設、8月11日3,122施設。平常日は前後1週間の同じ曜日2日の合計
非接近県の在庫戻りは、6月2日が5.8%(平常日5.2%)、6月27日が7.7%(同6.4%)と、平常日との差は1ポイント前後にとどまる。6月3日の非接近県は9.3%で平常日の5.0%を上回ったが、それでも接近県の15.5%には届かない。8月11日は接近県7.9%対平常日5.1%、非接近県6.9%対6.9%で、エリア合計の消化と同じく差は小さかった。
戻り方の規模にも差がある。LT3からLT1にかけて5室以上まとめて残室が増えた施設は、6月2日の接近県で7.3%(平常日0.9%)、6月3日で5.0%(同0.8%)、6月27日で11.3%(同1.5%)だった。6月27日は接近県で9施設に1施設が、前日までの2日間に5室以上の在庫を戻したことになる。なお、ここでいう在庫戻りには、取り消しで客室が販売在庫に戻る場合のほか、施設側が止めていた販売を再開した場合や、追加で在庫を開放した場合も含まれる。公開データからは区別できない。
在庫が戻った施設の掲載最安値 — 過半は据え置き、平常日と同じ動き
直前に在庫が戻った施設は、その在庫をどんな価格で出し直していたのか。在庫戻りが観測された施設について、LT3とLT1の掲載最安値を比べ、変化が±1%以内を「据え置き」とした。台風日の接近県では、6月2日の66.7%、6月3日の71.7%、6月27日の45.5%が据え置きだった。値下げは同じ順に27.1%・23.8%・46.6%、値上げは6.3%・4.6%・8.0%である。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。接近県で、LT3からLT1にかけて残室が1室以上増えた施設が対象(台風日:6月2日96施設、6月3日240施設、6月27日741施設、8月11日247施設/平常日:同52・130・351・294施設)。掲載最安値(2名1室・1室あたり・税込)のLT3→LT1の変化。±1%以内を据え置きとした
比べるべきは平常日の同じ動きである。平常日に在庫が戻った施設の据え置き率は、6月2日の比較日で59.6%、6月3日で65.4%、6月27日で38.5%だった。台風日の据え置き率は平常日より6〜7ポイント高く、値下げの割合は平常日と同程度かやや低い。在庫戻りの件数は平常日の3.7〜4.1倍に増えていたが、戻った在庫1件ごとの値付けは平常日とほとんど変わらなかった。
6月27日だけは値下げが46.6%と多いが、平常日の比較日(6月20日・7月4日)でも46.2%が値下げしており、土曜日の直前に最安値を下げる動きは台風の有無にかかわらず出ている。8月11日は値下げ34.4%(平常日32.7%)、値上げ12.1%(同11.2%)と、据え置きが53.4%(同56.1%)に下がり、両方向の動きがやや増えた。これは2026年7〜8月の台風接近日を扱った分析で茨城・千葉・静岡の台風15号接近日について報告した傾向(据え置き59%、値下げ28%・値上げ13%)と向きが一致する。
台風接近時の直前在庫への備え — 実測から整理できること
ここまでの数字を、運営とレベニューの実務に引き寄せて整理する。いずれも2026年6月の3日と8月11日の実測にもとづく事実であり、次の台風で同じように動くと予測するものではない。
1. 差が生まれる期間は、台風の発生・進路の報道から前日までに集中した。6月3日の例では、LT7(5月27日)の時点で推定OCCは平常日と同じ水準にあり、差は台風6号の発生後のLT6からLT2にかけて生まれた。6月27日は、LT4までは平常日との差が1ポイント前後で、LT3以降に開いた。観測上、直前在庫の動きに注意を向けるべき期間は、台風の発生から宿泊日前日までの数日間に集まっていた。
2. 在庫の戻りは例外ではなく、6月の3日の接近県では15〜31%の施設で起きた。6月27日は接近県の30.6%、6月2日は18.9%の施設で、LT3からLT1に在庫が戻った。5室以上まとまって戻る施設も5〜11%あった。戻った在庫を「再び売れる客室」として扱う場合、どの販売経路に、どの価格で出し直すかを前もって決めておけば、直前の数日で判断に迷う時間を減らせる。
3. 戻った在庫の値付けは、平常日と同じ動きだった。台風日の接近県で在庫が戻った施設の45〜72%は掲載最安値を据え置いていた。平常日の据え置き率(38〜65%)と大きな違いはない。台風という外生的な出来事で在庫が増えても、値付けのルールは普段どおりに運用されていたことになる。台風日専用の値付け方針を持つかどうかは、各施設が設計できる余地として残っている。
4. 影響は接近県に限られ、非接近県は平常どおりだった。非接近県の在庫消化は4つの日すべてで平常日との差が1.1ポイント以内に収まった。全国単位のチェーンや複数県に施設を持つ運営会社にとっては、台風の進路に入った県の施設だけに対応を絞れる、ということでもある。
5. 販売経路について、公開データから言えることは限られる。本稿で観測しているのはOTAに掲載された残室であり、直販・電話・旅行会社経由の予約や取り消しは見えていない。確かなのは、接近県ではLT3からLT1の間に、OTA上の販売可能な客室が平常日より多く戻ってきたという事実である。その客室をOTAに出したままにするか、足止めされた移動客や取引先向けに直販や電話で受ける枠として持つかは、施設ごとの判断になる。
台風の進路は毎回違い、上陸の時刻や曜日、祝日との重なりで現れ方も変わる。8月11日のように祝日の夜に上陸したケースでは、関東全体では差がほとんど出ず、上陸地点に近い茨城・千葉に影響が集中した。台風接近時の在庫と価格の動きは、今回のような過去の実測を積み重ねて自社の条件に近い事例を探すのが、備えの出発点になるだろう。業態ごとの天候への強さについては、台風接近増の8-9月に稼働を下支えする「屋内完結度」の宿で扱っている。
集計方法と留意点:接近県・非接近県は、気象庁「台風位置表(速報値)」の中心位置と県庁所在地の距離から当社で区分したもので、気象庁の「接近」の定義(気象官署等から300km以内)とは異なります。台風位置表は速報値であり、後日変更になる場合があります。残室・推定OCC・掲載価格は、OTAに総客室の3割以上を掲載している施設で構成した集計で、宿泊日ごとに対象施設数がわずかに異なります。推定OCCはOTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。施設単位の在庫戻りと掲載最安値は、LT3・LT1の両時点で観測がそろった施設のみを対象としています。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチの宿泊日別・リードタイム別のOTA掲載残室と掲載価格(2名1室・税込)。都道府県単位の集計は、OTAに総客室の3割以上を掲載する施設で構成した固定コホート(例:6月27日の接近4都県はN=2,284施設/188,213室)。気象の事実関係は気象庁「台風位置表(速報値)」ほか。
■ 試算前提
在庫消化=LT7の残室率−LT1の残室率。表2の「差」=台風日の在庫消化−平常日の在庫消化で、本文の「非接近県を差し引いた差」=接近県の差−非接近県の差(例:6月3日は−6.8pt−(+1.1pt)=−7.9pt)。平常日は同じ県の前後1週間の同じ曜日2日の平均。施設単位の在庫戻りはLT3→LT1で残室が1室以上増えた施設、価格の据え置きは掲載最安値の変化が±1%以内のもの。
■ 限界・留意点
観測対象はOTA掲載在庫で、直販・電話・旅行会社経由の予約や取り消しは含まない。在庫戻りの内訳(取り消し・販売再開・追加の在庫開放)は区別できない。対象は2026年の4宿泊日に限られ、次の台風での動きを予測するものではない。台風位置表は速報値で、後日変更になる場合がある。
- 気象庁「台風位置表 令和8年(2026年)」(台風第6号・第7号・第8号・第15号、速報値)
- 気象庁「台風の上陸数(2025年までの確定値と2026年の速報値)」(2026年9月9日現在)
- 気象庁「全国への接近数(2025年までの確定値と2026年の速報値)」(接近の定義)
- 全般気象解説情報(台風第6号)(第20報)=気象庁発表(6月3日4時43分)(京都新聞デジタル)
- 台風6号 和歌山県南部に上陸しました 過去4番目に早い上陸(日本気象協会 tenki.jp、2026年6月3日)
- 台風15号 茨城県南部に上陸しました 茨城県の上陸は統計史上初(日本気象協会 tenki.jp、2026年8月11日)
- 台風15号(チャンホン)茨城県南部に上陸 茨城県上陸は統計史上初(ウェザーニュース、2026年8月11日)
- メトロエンジンリサーチ — OTA掲載在庫の残室推移、推定OCC、掲載価格(OTAに総客室の3割以上を掲載している施設)
