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築25〜35年のホテル・旅館は21.4万室 — 設備更新が重なる10年、100室で1室1泊50〜250円

投稿日 : 2026.09.29

指定なし

投資・開発

築25〜35年のホテル・旅館は21.4万室 — 設備更新が重なる10年、100室で1室1泊50〜250円

エレベーター、給湯ボイラー、空調の熱源機。ホテルの設備は種類ごとに更新の周期が違うが、開業から25〜35年目のあたりで、これらの周期が一度に重なる。1991〜2001年に開業した施設がちょうどその帯にいる。本稿は設備別の更新周期を業界団体・メーカー・国の公表資料で確かめ、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの施設マスターから、築25〜35年にあたる客室ストックを都道府県別・業態別に数える。そのうえで1基・1台あたりの工事費レンジを客室数で割り戻し、「1室あたり」「1室1泊あたり」の負担を感度表に落とす。

既刊との線引き

既刊の「ホテルの資本的支出は1室あたり年13万〜62万円」は、上場REITが開示した資本的支出の実績総額を1室あたりに直したものだった。本稿は実績の総額ではなく、設備ごとの更新周期と築年でみた客室ストックという時間の軸から、「どの設備の更新が、どの築年帯に、どれだけの客室で重なるか」を扱う。点検の費用は法定点検費用の記事、大浴場まわりの更新は大浴場の設備更新の記事で扱っている。

本記事における指標の定義

  • 客室ストック:メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが追跡する国内施設のうち、直近3か月(2026年6月25日〜9月17日の宿泊日から週次で抽出した8日分)に主要予約サイトで在庫・価格の観測があり、客室数が登録されている40,011施設・1,625,492室。閉館日が登録された施設は除いた。稼働が確認できる施設に限った集計のため、実際の供給よりやや少なく出る「下限の目安」として読んでいただきたい。
  • 築年数:2026年から施設マスター上の開業年を引いた値。築25〜35年=1991〜2001年開業。設備の据付年そのものではなく、竣工時の設備が更新期に入っている可能性を示す代理変数として使う。旅館では建物の竣工ではなく創業年が登録されている場合がある。開業年の判明分は30,451施設・1,487,004室で、開業日が1990年1月1日で一律に登録された4,561施設・81,084室は開業年の集計から除いた。
  • 1室1泊あたり負担:1巡分の工事費を客室数と更新周期(年)で割り、さらに365日で割った値(販売可能室泊ベース)。販売室泊ベースは、これを観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)の施設タイプ別客室稼働率で割った値。
  • OCC(客室稼働率):本稿では観光庁「宿泊旅行統計調査」の公表値(旅館38.2%、リゾートホテル56.9%、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%)を用いる。当社推定値ではない。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター)、国土交通省、国土技術政策総合研究所、環境省、観光庁、各メーカー公表資料
築25〜35年の客室
21.4万室
2,843施設(1991〜2001年開業)
開業年判明分に占める比率
14.4%
客室ベース
シティホテルの該当比率
25.0%
業態別で最も高い
1室1泊あたり負担
約50〜250円
100室モデル・販売室泊
次に更新期へ入る客室
26.9万室
築15〜24年(2002〜2011年開業)
Key Takeaways
  • — 21.4万室:築25〜35年(1991〜2001年開業)のホテル・旅館は2,843施設・214,252室。開業年が判明している客室の14.4%にあたる。
  • — 更新周期が重なる10年:エレベーターの1巡目(20〜30年)、受変電の1巡目(25〜30年)、給湯・空調熱源の2巡目が、開業から25〜35年目に集まる。
  • — シティホテルは25.0%:業態内の該当比率はシティが最も高く、リゾートの19.8%が続く。実数ではビジネスホテルの98,957室が最も多い。
  • — 1室1泊あたり約50〜250円:100室モデルでエレベーター3基・熱源機3台を1巡更新する工事費3,600万〜1億2,300万円を、周期と販売室泊で均した値。
  • — 幅を決めるのは熱源の選択:同方式で更新するかヒートポンプへ転換するかで負担が大きく動く。熱源機分に補助率1/3が付けば上限側は約190円まで下がる。

結論から — 更新期は「束ねて組み替える」機会

周期が重なるのは築25〜35年

公表資料の周期を並べると、エレベーターの1回目の更新(20〜30年)、給湯熱源の2回目(30〜40年)、空調熱源の2回目(30年〜)、受変電設備の1回目(25〜30年)が、この10年に集まる。

該当は2,843施設・21.4万室

開業年が判明している客室の14.4%。100室以上の施設が該当客室の69.8%を占め、エレベーターと中央熱源を持つ規模の施設が中心になる。

1室1泊あたり約50〜250円

100室モデルで、エレベーター3基と熱源機3台を1巡更新する費用を周期で均した値。工事の方式と熱源の選び方で5倍の幅がつく。補助の活用で上限側は約190円まで下がる。

設備別の更新周期 — 公表資料で確かめる

更新周期は、誰が何の目的で示した数字かによって幅が出る。税法上の法定耐用年数は減価償却のための年数であり、実際の使用年数とは別物だ。実務の目安としては、メーカーが示すリニューアル推奨時期、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインにある修繕周期の例、そして国土技術政策総合研究所の資料が並べているロングライフビル推進協会(BELCA)・官庁営繕・日本建築学会の耐用年数がある。以下では、この複数の出典を並べて幅として読む。

設備別の更新周期(実務上の目安・出典ごとの年数・法定耐用年数)
設備実務上の更新目安出典ごとの年数法定耐用年数
エレベーター(制御リニューアル)20〜30年日立ビルシステム:リニューアルの目安20〜25年/東芝エレベータ:17〜25年で行う利用者が多い/国土交通省 長期修繕計画作成ガイドライン(マンション共用部の例):昇降機の取替26〜30年(補修12〜15年)/BELCA:乗用エレベーター25年17年
給湯熱源(鋼板製温水ボイラー・貯湯槽)15〜20年鋼板製温水ボイラー:BELCA 15年・官庁営繕15年・建築学会25年/貯湯槽(鋼板製):BELCA 15年・官庁営繕20年/鋳鉄製ボイラー:BELCA 25年・建築学会30年15年
空調熱源15〜25年空気熱源ヒートポンプパッケージ:BELCA 15年・官庁営繕15年/ビル用マルチ:BELCA 15年/吸収式冷凍機・ターボ冷凍機:BELCA 20年・官庁営繕20年13〜15年
受変電(変圧器)25〜30年変圧器:BELCA 30年・官庁営繕30年・建築学会25年15年
出典:国土技術政策総合研究所「国総研プロジェクト研究報告 第4号」参考資料(主要な部位・部材・機器の耐用年数についての考え方)、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)、日立ビルシステム・東芝エレベータ公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

エレベーターの更新には段階がある。制御盤や巻上機など主要機器を入れ替える「制御リニューアル」、かごや乗場の意匠まで替える「準撤去」、レールや昇降路内の機器まで一新する「全撤去」の3つで、東芝エレベータは工期の目安を制御リニューアル約7日(完全停止は約5日)、準撤去約20日、全撤去約30日としている。1回目の更新を制御リニューアルで済ませ、全撤去は建物全体の大規模改修と時期を合わせる、という組み立てが取りやすい。本稿の試算では、全撤去を「次の大規模改修と同期させる選択肢」として扱う。

熱源は周期が短い。給湯ボイラーと空調熱源はおおむね15〜25年で1巡するため、開業から25〜35年の施設では2巡目の更新にあたる。ここで同じ方式の機器に入れ替えるか、ヒートポンプなど別の方式に転換するかを選べる点が、エレベーターとの違いだ。下の図は、各設備の更新目安の窓を築年数の上に並べたものである。

設備別の更新目安の窓(築年数、1巡目と2巡目)
出典:国土技術政策総合研究所、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」、メーカー公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(2巡目は1巡目の周期を繰り返した場合の目安)

図の網掛けが築25〜35年の帯である。エレベーターの1巡目、受変電の1巡目、給湯熱源と空調熱源の2巡目が、この10年に集まっているのがわかる。個別に見れば周期の長い設備と短い設備だが、築年の軸に並べると、更新の山がひとつの時期に寄ってくる。資金計画の面では、この帯に入る前に「どの設備をいつ、どの方式で替えるか」を束ねて決められるかどうかが、工事期間中の休館日数と総額の両方に効いてくる。

築25〜35年の客室は21.4万室 — 開業年でみたストック

施設マスターの開業年で客室ストックを並べると、1991〜2001年開業の客室は2,843施設・214,252室あった。開業年が判明している客室1,487,004室の14.4%にあたる。年ごとに見ると、この11年間は毎年おおむね1.7万〜2.3万室が開業しており、突出した年はない。いわゆるバブル期の後も、一定のペースで供給が続いた時期といえる。

開業年別の客室ストック(1970〜2026年、稼働が確認できる施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、N=30,451施設・1,487,004室、2026年9月時点)。1990年は開業日が1990年1月1日で一律に登録された施設を除いたため低く出ている。2026年は9月までの開業分。
築年数帯別の客室ストック(開業年判明分)
築年数(開業年)施設数客室数客室の構成比
築0〜4年(2022〜2026年開業)6,236195,44513.1%
築5〜9年(2017〜2021年)7,637323,84121.8%
築10〜14年(2012〜2016年)3,276118,9088.0%
築15〜19年(2007〜2011年)2,323155,00610.4%
築20〜24年(2002〜2006年)1,622113,9147.7%
築25〜29年(1997〜2001年)1,18793,8746.3%
築30〜35年(1991〜1996年)1,656120,3788.1%
築36〜45年(1981〜1990年)2,331159,02310.7%
築46年以上(1980年以前)4,178206,30113.9%
うち築25〜35年(1991〜2001年開業)2,843214,25214.4%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、開業年判明分N=30,451施設)。構成比の分母は開業年判明分の客室数。開業日が1990年1月1日で一律登録された4,561施設・81,084室と、開業年不明の4,999施設・57,404室は含まない。

帯の前後も見ておく。築36年以上(1990年以前開業)の客室は365,324室あり、多くはすでに設備の2巡目・3巡目を経ているとみられる。反対側では、築15〜24年(2002〜2011年開業)の268,920室が、これから10年以内に同じ帯へ入ってくる。更新期は一度きりの波ではなく、開業年の山に沿って順番に回ってくるものだ。

なお、築25〜35年の施設のうち、施設マスターに2015年以降の改装日が登録されている施設が467施設・68,403室(該当客室の31.9%)ある。改装の中身まではわからないが、内装と合わせて設備の一部をすでに更新している施設も含まれるとみられる。以降の試算は「竣工時の設備が残っている」前提の上限寄りの見立てであり、改装済みの施設では負担はこれより小さくなる。

業態別 — シティホテルは客室の4分の1が該当帯

業態別に見ると、該当客室の実数ではビジネスホテルが98,957室で最も多い。一方で、業態ごとのストックに占める比率ではシティホテルが25.0%と最も高く、リゾートホテルの19.8%が続く。シティホテルは該当施設の客室数の中央値が約150室と大きく、中央熱源方式やエレベーターの複数基運用が一般的なため、更新の工事も大がかりになりやすい。逆にいえば、1巡の更新で設備仕様を一段引き上げたときの効果も、客室数ぶんだけ大きく出る。

業態別:築25〜35年の施設数・客室数と業態内の比率
業態築25〜35年 施設数築25〜35年 客室数業態内の比率1施設の客室数(中央値)客室稼働率(2025年)
ビジネス93798,95712.3%91室75.3%
シティ29059,25325.0%151.5室74.1%
リゾート25726,36119.8%61室56.9%
旅館65516,10710.6%17室38.2%
その他70413,5748.5%8室—
合計2,843214,25214.4%—61.6%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、開業年判明分)、観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)。シティにはデラックスホテルを含む。その他は簡易宿所・ペンション・民宿・ゲストハウス等。
業態別:築25〜35年の客室数と業態内の比率
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、開業年判明分N=30,451施設)

規模別では、該当客室のうち100〜199室の施設が67,541室、200室以上が82,004室で、合わせて69.8%を占める。30室未満の施設は1,278施設と数は多いが客室は15,970室にとどまる。エレベーターを持たない低層の小規模施設では更新の中心は熱源と空調になり、以下の感度表でも規模によって負担の出方が大きく変わる。

都道府県別 — 客室数は東京、比率は三重・千葉・長崎

都道府県別の客室数では東京都(20,630室)、北海道(17,214室)、大阪府(13,257室)が上位に並ぶ。県内の客室ストックに占める比率で見ると順位は入れ替わり、客室1.5万室以上の都道府県では三重県(23.5%)、千葉県(23.2%)、長崎県(22.8%)が高い。東京都(9.9%)、大阪府(10.4%)、京都府(8.9%)は2010年以降に開業した客室がそれぞれ55.0%・65.2%・72.7%を占め(全国は45.9%)、新しい供給が厚い分だけ比率では低めに出る。更新期の客室が集まる地域では、設計・施工・設備の各社の手配が同じ時期に重なりやすいため、早めに発注枠を押さえておくことが工期の読みやすさにつながる。

都道府県別:築25〜35年の客室数(客室数の上位15都道府県)
都道府県築25〜35年 施設数築25〜35年 客室数県内客室に占める比率該当客室の多い業態
東京都15420,6309.9%ビジネス・シティ
北海道23217,21417.2%ビジネス・シティ
大阪府9013,25710.4%ビジネス・シティ
千葉県9412,04123.2%シティ・ビジネス
福岡県7211,20718.5%ビジネス・シティ
神奈川県919,19717.5%シティ・ビジネス
長野県2279,07619.9%ビジネス・リゾート
愛知県777,82013.1%ビジネス・シティ
沖縄県716,37411.0%リゾート・ビジネス
静岡県1476,13112.6%ビジネス・リゾート
兵庫県965,96916.1%シティ・ビジネス
京都府535,7828.9%ビジネス・シティ
三重県564,66823.5%ビジネス・リゾート
宮城県524,43915.6%ビジネス・シティ
新潟県674,30016.0%ビジネス・リゾート
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、開業年判明分)。客室数の上位15都道府県。比率の分母は各都道府県の開業年判明分の客室数。
都道府県別:築25〜35年の客室数(円の大きさ=客室数、位置=該当施設の客室加重の重心)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設マスター、開業年判明分、47都道府県)

1基・1台あたりの工事費を1室に割り戻す

ここからは金額の話になる。工事費は建物の条件や既存設備の構成で大きく変わるため、本稿では公表されている目安を「幅」として置き、客室数で割り戻したときの感応度を見る。置いた目安は次のとおりである。

試算に置く工事費の目安と更新周期
設備・工事1基・1台あたり工事費の目安本稿で置く周期出典
エレベーター 制御リニューアル500万円程度〜25〜30年アイニチ(エレベーター保守会社)公表の比較表
エレベーター 準撤去リニューアル1,000万円程度〜25〜30年同上
エレベーター 全撤去リニューアル1,500万円程度〜25〜30年同上
熱源機 同方式で更新(高効率温水機)約700万円15〜25年環境省「温室効果ガス排出削減等指針」対策集(温水機・出力1,000kW未満の平均的な導入コスト水準)
熱源機 ヒートポンプへ転換約2,600万円15〜25年同(高温水ヒートポンプ・加熱能力270kW以下の平均的な導入コスト水準)
(参考)個別空調 1系統100万〜150万円—ダイキン工業(6馬力以上・工事費込みの目安)
出典:各社・環境省公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。いずれも目安であり、既存建物の条件・仮設・付帯工事・揚重により実際の工事費は上下する。

まず、1基・1台あたりの工事費を客室数で割った「1室あたりの一時負担」を見る。500万円の制御リニューアルは100室なら1室5.0万円、30室なら16.7万円になる。熱源をヒートポンプに転換する約2,600万円は、100室で26.0万円、30室では86.7万円だ。同じ工事でも客室の少ない施設ほど1室あたりが重くなる。

1基・1台の工事費を客室数で割った1室あたりの一時負担(万円/室)
1基・1台あたり工事費30室60室100室150室200室300室
エレベーター 制御リニューアル 500万円16.78.35.03.32.51.7
熱源機 同方式(高効率温水機)700万円23.311.77.04.73.52.3
エレベーター 準撤去 1,000万円33.316.710.06.75.03.3
エレベーター 全撤去 1,500万円50.025.015.010.07.55.0
熱源機 ヒートポンプ転換 2,600万円86.743.326.017.313.08.7
単位:万円/室(1基・1台を更新した場合)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

次に、これを更新周期で均して1泊あたりに直す。販売可能な室泊(客室数×365日)で割ると、制御リニューアル1基は100室で1室1泊5円前後、ヒートポンプ転換1台でも28〜47円にとどまる。

更新周期で均した1室1泊あたり負担(円/販売可能室泊、1基・1台あたり)
設備・工事(周期)30室60室100室150室200室300室
エレベーター 制御リニューアル(25〜30年)15〜188〜953〜42〜32
熱源機 同方式(高効率温水機)700万円(15〜25年)26〜4313〜218〜135〜94〜63〜4
エレベーター 準撤去(25〜30年)30〜3715〜189〜116〜753〜4
エレベーター 全撤去(25〜30年)46〜5523〜2714〜169〜117〜85
熱源機 ヒートポンプ転換(15〜25年)95〜15847〜7928〜4719〜3214〜249〜16
単位:円/販売可能室泊(1基・1台あたり)。幅は周期の長短による。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

実際の施設では、複数の基・台をまとめて更新する。そこで3つのモデルを置き、エレベーターと熱源機の台数を決めて1巡分を積み上げた。下限は「制御リニューアル+同方式の熱源更新・長い周期」、上限は「全撤去+ヒートポンプ転換・短い周期」である。

3つの施設モデルでみた1巡分の工事費と1室1泊あたり負担
モデル前提(EV/熱源機)1巡の工事費1室あたり1室・年あたり1室1泊(販売可能)客室稼働率1室1泊(販売室)
旅館30室1基/2台1,900万〜6,700万円63.3万〜223.3万円24,200〜135,600円66〜371円38.2%174〜972円
ビジネス100室3基/3台3,600万〜12,300万円36.0万〜123.0万円13,400〜70,000円37〜192円75.3%49〜255円
シティ200室3基/4台4,300万〜14,900万円21.5万〜74.5万円8,100〜43,700円22〜120円74.1%30〜161円
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。EV=エレベーター(100室・200室は客用2基+サービス用1基の計3基、30室は1基と置いた)。熱源機は給湯・空調の熱源の合計台数。下限はEV制御リニューアル500万円/基・周期30年、熱源機700万円/台・周期25年。上限はEV全撤去1,500万円/基・周期25年、熱源機2,600万円/台・周期15年。客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)。30室の熱源機は容量が小さく、上限側は保守的な置き方である。仮設・休館中の売上・付帯工事は含まない。

100室のビジネスホテルでは、1巡の工事費は3,600万〜1億2,300万円、1室1泊(販売室)あたり約50〜250円になる。200室のシティホテルは客室数で割る分だけ軽く、約30〜160円。30室の旅館は客室稼働率が38.2%と低く、1室1泊あたり約170〜970円と幅が広い。いずれのモデルでも、幅を決めているのはエレベーターより熱源側で、同方式で更新するかヒートポンプに転換するかの選択が1室1泊あたりの負担を大きく動かす。工事中の休館や売上の減少まで含めた実質的な負担は、改装期間中の売上を工事費に加えて評価した記事が参考になる。

更新期を再投資の機会にする4つの選択肢

更新の時期がまとまってやって来ることは、見方を変えれば、建物の仕様を一度に組み替えられる機会でもある。築25〜35年の施設が取りうる上向きの選択肢を4つ挙げる。

① 更新を束ねて1回の改修にまとめる

エレベーター・熱源・受変電の周期が重なる時期に工事を寄せると、仮設・足場・揚重・休館をまとめられる。エレベーターの工期は制御リニューアル約7日、全撤去約30日が目安(東芝エレベータ)で、客室改装の休館期間に合わせれば営業への影響を1回にできる。

② 熱源をヒートポンプへ転換する

環境省の対策集では、蒸気ボイラーの熱効率0.92〜0.96、給湯器0.95に対し、高温水ヒートポンプの効率水準として成績係数3.4が示されている(投入するエネルギーの種類が違うため単純比較はできない)。導入コストは高いが、2巡目の更新は熱源方式を選び直せる数少ない時期で、燃料費の構造そのものを入れ替えられる。

③ 減室リブランドで客室単価を上げる

客室を1割減らして1室の面積や設備を引き上げると、同じ工事費でも1室あたり負担は約1.11倍になる。一方、客室売上を保つのに必要な単価の上乗せは同じ稼働率なら約11%。浴室の仕様や面積に単価の上乗せがつく実例はバス・トイレ別の単価効果の記事で検証している。

④ 省エネ改修の補助を組み込む

宿泊施設向けには観光庁の省エネ設備導入支援、業種共通では経済産業省系の省エネ設備補助がある。100室モデルの上限ケースで熱源機分に補助率1/3が付けば、1室1泊(販売室)あたり約250円が約190円まで下がる。

更新期に組み込める主な省エネ補助制度
制度対象の例補助率・上限時期
観光庁 宿泊施設サステナビリティ強化支援事業(令和7年度)省エネ型ボイラー・配管、省エネ型空調、照明機器、二重サッシ等1/2・上限1,000万円令和7年度は2025年3月24日〜5月30日に申請受付。次年度以降の公募は観光庁の発表で確認
令和7年度補正 省エネ・非化石転換補助金(設備単位型)高効率空調、業務用給湯器、高性能ボイラ、産業ヒートポンプ、変圧器等1/3以内・上限1億円環境共創イニシアチブが2026年9月15日時点で4次公募を10月上旬より実施予定と公表
同(GX設備単位型・トップ性能枠の更新事業)トップ性能基準を満たす指定設備1/2以内・上限3億円同上
出典:観光庁「宿泊施設サステナビリティ強化支援事業」、一般社団法人環境共創イニシアチブ(令和7年度補正予算 省エネ・非化石転換補助金)公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。採択を前提とした数値ではなく、要件・対象設備は各公募要領で確認が必要。

4つの選択肢は組み合わせて使える。たとえば、客室改装で休館する期間にエレベーターの制御リニューアルと熱源の転換を重ね、熱源側に補助を入れる、という組み方である。エネルギー費の水準や省エネ投資の回収年数はホテルの電気代の記事、立地によって熱源の選択肢が変わる点は都市ガスが引けない土地の熱源の記事で扱った。

取得・保有・融資の立場ごとの読み方

取得を検討する投資家にとって、築25〜35年の物件は「設備の更新期をどこまで価格に織り込むか」が評価の分かれ目になる。開業年から更新期の位置を読み、設備台帳で実際の据付年と方式を確かめれば、取得直後に必要な資金の幅を事前に置ける。更新期を控えた物件は、取得後の設備投資で仕様を引き上げる余地がある物件ともいえる。

保有するオーナーにとっては、更新期は運営の仕組みを見直す機会になる。長期修繕計画の中で設備ごとの周期を並べ、重なる時期を客室改装と合わせて1回の工事にまとめられれば、休館の回数も工事の段取りも少なくできる。融資の審査にあたる金融機関にとっては、1室1泊あたりの負担が数十円から数百円のどこに収まるかが、改装後の収支計画の確からしさを測る目安になる。宿泊業全体の設備投資の水準は法人企業統計で読んだ記事、築年の古い層の耐震の論点は旧耐震ホテルの記事も参照してほしい。

まとめ

設備の更新周期を公表資料で並べると、エレベーターの1巡目(20〜30年)、受変電の1巡目(25〜30年)、給湯熱源・空調熱源の2巡目(30年〜)が、開業から25〜35年目に重なる。この帯にいる1991〜2001年開業の施設は2,843施設・214,252室で、開業年が判明している客室の14.4%、シティホテルでは25.0%にあたる。1基・1台あたりの工事費を客室数で割り戻すと、100室モデルで1巡の工事費は3,600万〜1億2,300万円、1室1泊(販売室)あたり約50〜250円になり、幅の多くは熱源をどの方式で替えるかで決まる。

更新期は、設備を元に戻すだけの時期ではない。工事を束ねて休館を1回にまとめる、熱源をヒートポンプに転換する、減室して客室の商品力を引き上げる、補助を組み込む——いずれも、この時期だからこそ取りやすい選択肢である。築15〜24年の26.9万室も10年以内に同じ帯へ入ってくる。更新の山がいつ来るかは開業年からおおよそ読めるため、先に計画を置いた施設ほど、この時期を再投資の機会として使いやすい。

試算に関する注記:本稿の工事費は各社・環境省の公表資料にある目安を幅として置いたものであり、個別施設の見積もりではない。更新周期は使用状況・保守の内容・設置環境で前後する。築年数は開業年からの代理変数で、設備の据付年とは一致しない場合がある。1室1泊あたり負担には仮設費・休館中の売上・付帯工事・金利・税効果を含めていない。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの施設マスター(開業年・客室数・業態・所在地)。直近3か月(2026年6月25日〜9月17日の宿泊日から週次で抽出した8日分)に在庫・価格の観測がある40,011施設・1,625,492室を母集団とし、開業年が判明している30,451施設・1,487,004室を築年数の集計に用いた。更新周期は国土技術政策総合研究所・国土交通省・メーカーの公表資料、工事費は環境省の対策集とメーカーの公表資料、業態別の客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)による。

■ 試算前提

築年数=2026年−開業年(設備の据付年の代理変数)。1室1泊あたり負担=1巡の工事費÷客室数÷更新周期(年)÷365日(販売可能室泊ベース)で、販売室泊ベースはこれを業態別の客室稼働率で割った値。モデルは旅館30室(エレベーター1基・熱源機2台)、ビジネス100室(3基・3台)、シティ200室(3基・4台)。下限はエレベーター制御リニューアル500万円/基・周期30年と同方式の熱源機700万円/台・周期25年、上限はエレベーター全撤去1,500万円/基・周期25年とヒートポンプ転換2,600万円/台・周期15年。

■ 限界・留意点

工事費は公表されている目安の幅であり、個別施設の見積もりではない。仮設費・休館中の売上・付帯工事・金利・税効果は含まない。開業日が1990年1月1日で一律に登録された4,561施設・81,084室と開業年不明の施設は築年数の集計から除いた。旅館では創業年が登録されている場合がある。築25〜35年のうち2015年以降の改装日が登録された467施設・68,403室は設備の一部を更新済みの可能性があり、試算は上限寄りの見立てになる。

■ 市場データ

■ 政府・公的機関の資料

■ メーカー・業界の公表資料

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