トップ > 投資・開発 > がん拠点病院468を実測、97施設は2km圏の客室ゼロ — 医療滞在需要の出店余地

がん拠点病院468を実測、97施設は2km圏の客室ゼロ — 医療滞在需要の出店余地

投稿日 : 2026.09.21

指定なし

投資・開発

がん拠点病院468を実測、97施設は2km圏の客室ゼロ — 医療滞在需要の出店余地

がんの治療は、いまや入院よりも通院の比重が大きい。厚生労働省「患者調査」によれば、2023年10月時点の悪性新生物の推計外来患者数は18万6,400人で、推計入院患者数10万6,100人の1.76倍にあたる。抗がん剤治療も放射線治療も外来で行われることが増え、平均在院日数は14.4日まで短縮した。その結果、治療そのものは病院で完結しても、遠方から通う患者と付き添い家族は、病院の近くに「泊まる場所」を必要とする

では、その受け皿はどこにどれだけあるのか。本稿では、厚生労働省が指定するがん診療連携拠点病院等468施設(令和8年4月1日現在)の所在地をすべて緯度経度化し、半径2km・5km圏内の宿泊施設数と客室数を実測した。結論から書くと、2km圏内にOTA等で販売されている客室が1室もない拠点は97施設(20.7%)、都道府県がん診療連携拠点病院51施設に限っても16施設(31.4%)にのぼる。これは受け皿の空白であり、同時に出店余地でもある。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格=OTA等に掲載されている全プランの平均価格(2名1室利用時・1室あたり料金・税込、素泊まり〜食事付きを含む)。曜日別の比較はこの掲載価格ベースで行っています。
  • 圏内客室数=拠点病院の所在地点から半径2km/5km以内に立地する宿泊施設の客室数合計。対象はメトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、稼働が確認できる施設(2026年9月時点で27,248施設)。OTA等に掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所、および病院が自ら運営する患者家族用の滞在施設は含まれません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表」/国土交通省 国土数値情報「医療機関データ」
がん拠点病院等
468
令和8年4月1日現在
2km圏 客室ゼロ
97
全体の20.7%
2km圏客室数 中央値
234
平均は1,870室
最寄り宿までの距離
816m
468施設の中央値
患者家族滞在施設
79
JHHHネットワーク登録
Key Takeaways
  • — 拠点病院468施設のうち97施設(20.7%)は半径2km圏にOTA等で販売される客室が1室もない。都道府県拠点に限ると51施設中16施設(31.4%)にのぼる。
  • — 2km圏ゼロの97施設は一様ではない。5km圏に500室以上ある立地ミスマッチ型46施設は導線設計が、5km圏でも100室未満の商圏空白型19施設は供給そのものが論点になる。
  • — 悪性新生物の推計外来患者数は18万6,400人で入院の1.76倍(2023年患者調査)。平均在院日数は14.4日で、付き添い家族の滞在はこの期間に張り付く。
  • — 拠点病院2km圏の施設群の掲載価格は7市区すべてで土曜が最も高く、平日(月〜木)→土曜は+25.1〜+56.9%(2026年5月17日〜9月13日チェックイン分)。平日に立つ医療滞在はレジャーと逆位相。
  • — 連泊系プランを持つ施設は54〜75%と普及する一方、プラン本数比は5.6〜9.1%(岐阜市のみ28.3%)。連泊割の開始泊数・清掃頻度・ランドリー環境が差別化の余地。

医療滞在需要の輪郭 — 年間99万人の新規診断、外来が入院を上回って18年

まず需要側の輪郭を押さえておきたい。厚生労働省「2022年全国がん登録罹患数・率報告」によれば、2022年に新たにがんと診断された人は全国で99万930人。このうち高度な集学的治療を担うのが、本稿で扱うがん診療連携拠点病院等である。

宿泊需要の観点で重要なのは、治療の場が入院から外来へ移ってきたことだ。患者調査の推計患者数を1996年から追うと、悪性新生物の入院患者は13万4,400人から10万6,100人へ21.1%減る一方、外来患者は12万7,000人から18万6,400人へ46.8%増えた。両者が逆転したのは2008年調査である。入院であれば病床がそのまま宿泊機能を兼ねるが、外来治療では患者は毎回「行って帰る」ことになる。片道2時間を超える距離から通う患者にとって、前泊・後泊の必要性はここで生まれる。

悪性新生物の推計患者数 — 入院と外来の逆転(1996〜2023年)
出典: 厚生労働省「患者調査」(令和5年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
拠点病院468施設の半径2km圏 客室数分布
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=468拠点病院)/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表」

もうひとつ、滞在の長さに関わる数字がある。2023年9月に退院した悪性新生物の患者の平均在院日数は14.4日(65歳以上は15.5日)。付き添う家族の滞在はこの期間に張り付く。外来化学療法のように数週間おきの通院であれば、1泊から2泊の反復需要になる。いずれも週末2泊のレジャー旅行とはまったく異なる時間軸で発生する。

受け皿としては、患者・家族向けの低廉な滞在施設(いわゆるファミリーハウス)が各地のNPOや病院関係団体によって整備されてきた。全国滞在施設ネットワーク(JHHHネットワーク)に登録されているハウスは約79施設で、内訳は関東27、九州・沖縄16、近畿11、東海9、北海道5、東北5、北陸・甲信越3、中国2、四国1である。小児がんの付き添いを主対象とするハウスが多く、規模も1棟あたり数室が中心だ。468の拠点病院に対して79施設という比率が示すのは、医療滞在の大半が一般の宿泊施設によって担われているという事実である。医療滞在を宿泊事業として成立させる条件については、医療滞在ホテル投資の成立条件|都市クリニック近接型とリゾート療養型で詳しく分析している。

全国実測 — 2km圏の客室がゼロの拠点が97施設、都道府県拠点では3施設に1つ

ここからが本稿の中核である。厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表(令和8年4月1日現在)」に掲載された468施設(都道府県がん診療連携拠点病院51、地域がん診療連携拠点病院357、特定領域がん診療連携拠点病院1、地域がん診療病院59)を、国土交通省 国土数値情報「医療機関データ」と施設名で突合して全件の緯度経度を確定させ、当社が追跡する宿泊施設の座標との距離を1件ずつ計算した。

結果は明確に二極化していた。半径2km圏の客室数は中央値234室に対して平均1,870室で、最大は福岡市の拠点周辺の2万5,976室。上位30施設に東京・福岡・札幌・大阪の都心型拠点が並ぶ一方、97施設では2km圏の客室が1室も観測されない。客室100室未満まで広げると176施設(37.6%)、300室未満なら250施設(53.4%)に達する。拠点病院の半数強は、半径2km圏に中規模ホテル1棟分の客室しか持たない環境に立地している。

「客室ゼロ」は最も厳しい線引きである。閾値を緩めると該当数がどう変わるかを、施設区分別に並べた。都道府県拠点の比率が地域拠点等を上回るのは100室未満までで(客室ゼロでは31.4%対19.4%)、300室未満で両者はほぼ並び、500室未満・1,000室未満では逆に地域拠点等の比率が高くなる。都道府県拠点の特徴は「宿が少ない」ことより「徒歩圏にまったくない」ことに表れている。なお1,000室未満まで広げると全体の72.2%が該当し、定義の置き方で対象数は3.5倍に変わる。

定義の感度 — 2km圏の客室数の閾値×施設区分ごとの該当拠点数
2km圏の客室数全体(N=468)都道府県拠点(N=51)地域拠点・地域がん診療病院等(N=417)
0室(客室ゼロ)97施設(20.7%)16施設(31.4%)81施設(19.4%)
100室未満176施設(37.6%)22施設(43.1%)154施設(36.9%)
300室未満250施設(53.4%)27施設(52.9%)223施設(53.5%)
500室未満280施設(59.8%)28施設(54.9%)252施設(60.4%)
1,000室未満338施設(72.2%)33施設(64.7%)305施設(73.1%)
括弧内は各区分の拠点数に占める比率。「地域拠点・地域がん診療病院等」は地域がん診療連携拠点病院357、地域がん診療病院59、特定領域がん診療連携拠点病院1の計417施設。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=468拠点病院)/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表(令和8年4月1日現在)」
全国468拠点病院マップ — 円の色と大きさは半径2km圏の客室数
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表」/国土交通省 国土数値情報

施設区分別に見ると、都道府県がん診療連携拠点病院の2km圏客室数の中央値は261室、地域がん診療連携拠点病院は287室、地域がん診療病院は69室だった。注目すべきは都道府県拠点51施設のうち16施設(31.4%)で2km圏の客室がゼロという点だ。各県のがん医療の中枢が、徒歩圏に宿を持たない場所にある。大学医学部附属病院やがんセンターは、広い敷地を必要とするために郊外や造成地に立地してきた経緯があり、これは立地選定の合理的な帰結でもある。

都道府県がん診療連携拠点病院のうち2km圏の客室ゼロの16施設(5km圏の施設数・客室数)
都道府県拠点病院所在地最寄り宿まで5km圏 施設数5km圏 客室数
福島県立医科大学附属病院(福島県)福島市光が丘1番地6,803m00室
宮崎大学医学部附属病院(宮崎県)宮崎市清武町木原52002,421m121室
神奈川県立がんセンター(神奈川県)旭区中尾2-3-24,075m242室
大分大学医学部附属病院(大分県)由布市挾間町医大ケ丘1丁目1番地3,659m266室
香川大学医学部附属病院(香川県)木田郡三木町大字池戸1750−13,588m2135室
岩手医科大学附属病院(岩手県)紫波郡矢巾町医大通二丁目1番1号4,765m1153室
茨城県立中央病院(茨城県)笠間市鯉淵65282,761m2159室
四国がんセンター(愛媛県)松山市南梅本町甲1603,528m5213室
高知大学医学部附属病院(高知県)南国市岡豊町小蓮185-12,601m7305室
埼玉県立がんセンター(埼玉県)北足立郡伊奈町 小室7802,806m5319室
岐阜大学医学部附属病院(岐阜県)岐阜市柳戸1番13,675m9637室
宮城県立がんセンター(宮城県)名取市愛島塩手字野田山47-12,574m4794室
愛知県がんセンター(愛知県)名古屋市千種区鹿子殿1-12,174m171,277室
千葉県がんセンター(千葉県)千葉市中央区仁戸名町666-22,624m181,548室
青森県立中央病院(青森県)青森市東造道二丁目1-13,348m303,474室
秋田大学医学部附属病院(秋田県)秋田市広面蓮沼44番22,292m293,656室
半径2km圏にOTA等掲載の客室が観測されなかった都道府県がん診療連携拠点病院16施設(N=51施設中)。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表」

ただし「2km圏ゼロ」を一括りにはできない。97施設を5km圏の客室数で層別すると、1,000室以上を持つのが28施設、500〜999室が18施設あった。これは街に客室ストックがないのではなく、ストックが駅前に集中していて病院から離れているという立地のミスマッチである。逆に5km圏でも100室未満なのは19施設、5km圏の客室が完全にゼロなのは6施設で、こちらは商圏そのものに供給が薄い。前者はシャトル運行や送迎サービスで距離を埋める余地があり、後者は施設そのものの出店余地が残っている、と読み分けられる。

類型A 立地ミスマッチ型

2km圏0室 / 5km圏500室以上:46施設
客室は街にあるが病院から3〜5km離れている。送迎・シャトル、医療滞在向けプランの設計、駅前施設からの導線づくりが先に効く。

類型B 商圏空白型

2km圏0室 / 5km圏100室未満:19施設
うち6施設は5km圏でも客室が観測されない。小規模・低コスト型の出店余地が最も素直に残っている層。

類型C 厚みのある都心型

2km圏1,000室以上:130施設
供給は足りている。競争軸は量ではなく、連泊・長期滞在への対応や、通院スケジュールに合う運用面へ移る。

県別の濃淡 — 千葉8施設・愛知6施設・秋田5施設が「2km圏ゼロ」

都道府県別に整理すると、2km圏の客室がゼロの拠点病院を最も多く抱えるのは千葉県の8施設(県内17拠点の47%)、次いで愛知県6施設、秋田県・埼玉県が各5施設だった。比率で見ると高知県は4拠点のうち3施設(75%)、秋田県と山口県は50%に達する。

もっとも、県の性格はそれぞれ異なる。千葉県・埼玉県・愛知県・神奈川県は大都市圏でありながら、拠点病院が郊外の医療団地や大学キャンパスに配置されているため距離が開いた。秋田県・岩手県・高知県・山口県は、県全体の客室ストック自体が薄く、2km圏の中央値も0〜28室と小さい。前者は導線の設計、後者は供給そのものの検討、と打ち手が変わる。

都道府県別 — 拠点病院数と、2km圏の客室がゼロの施設数(上位16県)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=468拠点病院)/厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表」
都道府県別 — 2km圏の客室がゼロの拠点病院数と圏内客室数の中央値
都道府県拠点病院数2km圏 客室ゼロ比率2km圏客室数 中央値5km圏客室数 中央値
千葉県17847%123室1,241室
愛知県19632%77室1,277室
秋田県10550%17室490室
埼玉県15533%211室678室
山口県8450%18室859室
岩手県10440%28室332室
神奈川県26415%292室1,332室
静岡県13431%315室1,806室
高知県4375%0室187室
栃木県8338%10室391室
茨城県10330%120室798室
東京都31310%2,818室25,136室
奈良県6233%40室283室
大分県6233%65室1,194室
新潟県9222%98室1,828室
福島県7229%125室2,230室
2km圏の客室がゼロの拠点病院を3施設以上抱える12都県と、2施設の18道府県のうち4県を掲載(ほかに2施設の道府県:北海道・群馬・福井・長野・岐阜・京都・兵庫・和歌山・岡山・広島・香川・愛媛・福岡・鹿児島)。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=468拠点病院)

3つの立地類型 — 築地2万1,967室、青森0室、下野0室

同じ「がん拠点病院」でも、周辺の客室環境は桁が違う。大都市型・県庁所在地型・地方拠点型の3施設を取り上げ、距離帯ごとの客室の積み上がり方を比較する。

大都市型 — 国立がん研究センター中央病院
中央区築地。2km圏に136施設2万1,967室。1km以内だけで55施設9,286室が積み上がる。
県庁所在地型 — 青森県立中央病院
青森市東造道。2km圏は0室で、客室は3〜5km帯の青森駅周辺に30施設3,474室がまとまる。
地方拠点型 — 自治医科大学附属病院
下野市薬師寺。5km圏も0室。最寄りは5.9km先の61室の施設で、8km圏でも3施設124室。
円=宿泊施設(大きさは客室数)、四角=拠点病院、破線=半径2kmおよび5km。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
距離帯別の累積客室数 — 3類型の比較(半径0〜8km)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

国立がん研究センター中央病院(東京都中央区築地)は、2km圏に136施設2万1,967室を擁する。この圏内の推定ADR中央値は¥18,100(N=90施設、2026年4〜8月の平均)で、第1四分位は¥14,100、第3四分位は¥25,300。銀座・東銀座・築地・八丁堀にまたがる価格帯の幅があり、長期滞在なら下位価格帯、短期の付き添いなら上位価格帯というように、患者・家族が予算に応じて選べる状態にある。

青森県立中央病院(青森市東造道)は、2km圏の客室が0室。最寄りの施設まで3.3kmで、3〜5km帯に30施設3,474室が青森駅周辺に集まっている。この帯の推定ADR中央値は¥10,400(N=23施設、同じく2026年4〜8月の平均)。客室ストック自体は県庁所在地として十分にあり、距離をどう埋めるかが論点になる典型例だ。逆に言えば、病院直近に医療滞在に特化した小規模施設を置いた場合、既存の駅前施設と競合せずに立ち上がる余地がある。

自治医科大学附属病院(栃木県下野市薬師寺)は、2km圏どころか5km圏でも客室が観測されなかった。最寄りは5.9km先の61室の施設で、8km圏まで広げても3施設124室にとどまる。推定ADR中央値は¥3,700(N=3施設、2026年4〜8月の平均・標本が小さく参考値)と全国的にも低い水準で、価格が需要の弱さを示しているというより、そもそも客室の選択肢が3つしかないという状態である。1,000床規模の特定機能病院が立地しながら、周辺の宿泊在庫が3桁前半という構図は、出店余地としてはきわめて素直に読める。

医療滞在は平日に立つ — 掲載価格は日曜が谷、土曜が山

医療滞在需要のもうひとつの性格は、発生する曜日である。外来診療も入院手続きも原則として平日に行われるため、需要は月曜から金曜に立つ。これはレジャー需要の週末集中とちょうど逆位相になる。

拠点病院が集まる7つの市区について、各拠点の2km圏に立地する施設群の掲載価格を曜日別に集計した(2026年5月17日〜9月13日チェックイン分、2名1室・全プラン平均・税込)。全7市区で土曜が最も高く、京都市を除く6市区では日曜が最も安いという形になった(京都市は日曜が月〜木の平均をわずかに上回る)。月〜木の平均と土曜の差は、東京・文京区で+31.7%、岡山市で+27.3%、札幌市で+52.4%、岐阜市で+56.9%である。

拠点病院2km圏の施設群 — 曜日別の掲載価格(2名1室・税込)
2026年5月17日〜9月13日チェックイン分、2名1室・全プラン平均(税込)。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
拠点病院2km圏の施設群 — 曜日別の掲載価格(2026年5月17日〜9月13日チェックイン分)
市区(拠点病院2km圏)対象施設数日曜平日(月〜木)平均土曜平日→土曜
東京・文京区183¥28,814¥30,265¥39,861+31.7%
札幌市135¥30,147¥31,158¥47,472+52.4%
京都市624¥33,484¥32,919¥41,171+25.1%
岡山市45¥20,411¥23,118¥29,418+27.3%
熊本市46¥19,743¥20,191¥28,074+39.0%
鹿児島市53¥18,303¥18,493¥23,710+28.2%
岐阜市9¥16,764¥18,149¥28,473+56.9%
掲載価格(全プラン平均・税込・2名1室)。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

運営側から見ると、この構造は都合がよい。医療滞在は価格が最も緩む日曜〜木曜に発生し、レジャーが取りに来る金土とは競合しない。同じ客室を週末はレジャー、平日は医療・出張で埋めれば、週を通じた稼働の平準化につながる。しかも治療スケジュールは季節の繁閑と独立しているため、観光の閑散期にも一定量が発生する。拠点病院の商圏にある施設にとって、平日在庫の埋め手として検討する価値のあるセグメントといえる。日〜木に寄せた連泊が価格面でどれだけ有利かは、都内の連泊は日〜木に寄せると安いも参考になる。

連泊の受け皿 — プラン本数ベースでは全体の6〜9%にとどまる

滞在が長いことも医療滞在の特徴だ。平均在院日数14.4日の付き添い、あるいは数日間の検査入院前後、放射線治療の連日通院と、1泊で完結しない場面が多い。そこで、拠点病院2km圏の施設群が公開している宿泊プランのうち、連泊・長期滞在系(連泊、ロングステイ、ウィークリー、マンスリー等を名称に含むもの)がどれだけあるかを集計した。

拠点病院2km圏の施設群 — 連泊・長期滞在系プランの普及度(2026年9月時点)
市区(拠点病院2km圏)プラン公開施設連泊系プランを持つ施設施設比率公開プラン数連泊系プラン比率
東京・文京区16911467.5%4,3328.6%
札幌市1198672.3%5,0287.5%
岡山市372054.1%1,2086.1%
熊本市452964.4%1,6669.1%
鹿児島市503060.0%2,1425.6%
岐阜市8675.0%30428.3%
2026年9月時点で販売中または直近90日以内に更新された公開プランを対象に集計。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

連泊系プランを1本でも持つ施設は54〜75%とすでに広く普及している。一方でプラン本数に占める比率は5.6〜9.1%(岐阜市のみ28.3%)にとどまり、商品構成の中では依然として細い枠である。連泊割の適用開始が2泊からなのか3泊からなのか、清掃の入り方、館内ランドリーやキッチンの有無、連泊中の外出可否といった条件は施設ごとにばらついており、ここを医療滞在の実態に合わせて整えることが差別化の余地になる。何泊から割引が効くかの相場感は、ホテルの長期滞在割引は何泊から効く?で実測している。

価格帯についても補足しておきたい。拠点病院2km圏の推定ADRは、築地で¥18,100、青森駅周辺(3〜5km帯)で¥10,400、下野市周辺(5〜8km帯)で¥3,700と幅がある。医療滞在は長期化するほど1泊あたりの予算感が下がる性質を持つため、アップスケール帯よりもミッド〜エコノミー帯の在庫が受け皿として機能しやすい。実際、上で挙げた3類型のいずれにおいても、周辺客室の中心はビジネスホテル業態だった。

読み取れること — 46施設は導線、19施設は供給そのもの

468の拠点病院を実測して見えたのは、「全国的に受け皿が薄い」という粗い話ではなく、立地類型ごとに打ち手が違うということだ。

2km圏の客室がゼロで、かつ5km圏に500室以上を持つ46施設は、客室ストックそのものは商圏内にある。ここで効くのは新規供給よりも、送迎やシャトルの設計、通院スケジュールに合わせたチェックイン・チェックアウト時間、連泊時の清掃頻度の選択、駅前施設から病院への導線の可視化といった運用面である。既存施設が平日在庫を埋める手段として取り組みやすい。

一方、5km圏でも100室未満の19施設(うち6施設は5km圏ゼロ)は、商圏に客室そのものが薄い。自治医科大学附属病院のように1,000床級の病院が立地しながら周辺在庫が3桁前半という商圏では、小規模・低コスト型の出店余地が残っている。この層で検討するなら、レジャーの季節波に依存しない平日型の需要を前提に、客室数を絞った運営が現実的だろう。

そして都心型130施設では、量ではなく中身が競争軸になる。築地の2万1,967室のように選択肢が潤沢な商圏では、連泊料金の設計、館内の調理・洗濯環境、静粛性、病院までの徒歩分数といった条件で選ばれる。前節のとおり連泊系プランは本数ベースでまだ全体の1割に届いておらず、商品設計の余地は残されている。

最後に、本稿の実測はOTA等に掲載されている宿泊在庫に限られる点を確認しておきたい。掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所、病院が自ら運営する患者家族用の滞在施設、JHHHネットワークに登録された約79のハウスは、この集計には含まれていない。実際の受け皿はここで示した数字よりも厚いが、一般の宿泊市場から予約できる在庫としては、2km圏ゼロが97施設という状態にある。

宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント

ビジネスホテル × 連泊で公開されているプラン名(N=727)に多い訴求要素 ——

連泊割 97%朝食付 48%素泊まり 32%エコ 25%長期滞在・暮らす 24%割引 17%

実際の名前の例(匿名化):

  • 【30日前早期割引】2連泊以上でお得◆エコステイ◆朝食ビュッフェ無料◆◆小学生までのお子様添い寝無料
  • 【ロングステイ◆朝食付】12時アウト◆和食ビュッフェ朝食◆駐車場無料◆お子様添い寝無料◆
  • 【ロングステイ◆朝食付】12時アウト◆和食ビュッフェ朝食◆駐車場無料◆お子様添い寝無料◆◆

※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。市場×命名の深掘りは命名ベンチマーク/イベント記事をご参照ください。

参考資料・出典一覧

■ データソース

拠点病院の所在地は、厚生労働省「がん診療連携拠点病院等一覧表(令和8年4月1日現在)」の468施設を国土交通省 国土数値情報「医療機関データ(P04)」の病院と施設名で突合し、全件の緯度経度を確定した。宿泊施設はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが稼働を確認している国内27,248施設(2026年9月時点)の所在地・客室数を用い、拠点ごとに半径2km/5km圏を集計。推定成約ADRは施設ごとの2026年4〜8月平均の中央値、曜日別の掲載価格は2026年5月17日〜9月13日チェックイン分(2名1室・全プラン平均・税込)、連泊系プランは2026年9月時点で販売中または直近90日以内に更新された公開プランの名称による分類。需要側は厚生労働省「患者調査」(令和5年)と「全国がん登録罹患数・率報告」(2022年)、滞在施設数はJHHHネットワークの登録情報による。

■ 試算前提

本稿は収益の試算を行っていない。圏内客室数は拠点病院の代表地点からの直線距離で集計し、道路距離や所要時間は考慮していない。立地類型は、2km圏0室かつ5km圏500室以上を「立地ミスマッチ型」、2km圏0室かつ5km圏100室未満を「商圏空白型」、2km圏1,000室以上を「厚みのある都心型」とするホテルバンク編集部の区分。曜日別比較の「平日」は月〜木の平均で、各市区の対象は当該市区にある拠点病院の2km圏に立地する施設群。

■ 限界・留意点

OTA等に掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所、病院が運営する患者家族用の滞在施設、JHHHネットワーク登録の約79ハウスは集計に含まない。拠点の座標の取り方や2km境界付近の施設の扱いによって、該当施設数は1施設程度動きうる。拠点数の少ない県の中央値は、1施設の差で大きく変わる。推定成約ADRは推定値(上場ホテルREITの開示実績との照合で誤差中央値約7%)で、N=3施設の下野市周辺のように標本が小さい値は参考値として扱う。遠方から通院する患者の比率や付き添い宿泊の発生率には全国を網羅する公的統計がなく、本稿は需要の量を推計していない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 宿泊施設の所在地・客室数(国内27,248施設、2026年9月時点)、推定成約ADR、掲載価格、公開プラン構成

■ 政府統計・公的データ

■ 調査・団体資料

関連記事