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バス・トイレ別の単価効果は1㎡+1,049円 — 宿泊特化型4,515施設の浴室仕様と回収6.1年

投稿日 : 2026.09.20

指定なし

投資・開発

バス・トイレ別の単価効果は1㎡+1,049円 — 宿泊特化型4,515施設の浴室仕様と回収6.1年

宿泊特化型ホテルの新築計画で、客室の標準仕様を決める段になると必ず出てくる論点がある。浴室を3点ユニット(浴槽・洗面・便器を一体化したユニットバス)にするか、バス・トイレ別にするか。前者なら1室の面積を抑えられ、同じ延床でより多くの客室が取れる。後者は単価を上げられる可能性があるが、1室あたり数㎡と設備差額を先に払う必要がある。

本稿はこの一点に絞り、需要側(宿泊者の口コミにどれだけ現れるか、単価にいくら効くか)と供給側(何㎡・いくら足すことになるか)を、ひとつの回収計算に接続する。宿泊特化型4,515施設・宿泊者口コミ230万件と、客室タイプ別の掲載価格を突き合わせた結果、単価を動かしているのは浴室の形式そのものではなく、その形式が要求する面積だった。

既刊との線引き

既刊『ホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算』および『ホテル建設費は1室870万〜7,140万円|業態別3層と12商圏の成立ADR』は、延床と建築費の総量を主題としている。既刊『睡眠×ウェルネス客室の資産価値』は寝具・照明という別の仕様軸を扱った。本稿は浴室の形式(3点ユニット/バス・トイレ別/洗い場付き独立浴室)という一点に限定し、総量ではなく「1室に足す数㎡」の限界的な採算を扱う。

面積1㎡あたりの値差
+1,049円
掲載価格・施設内固定効果(n=2,303室種)
浴室形式そのものの値差
+54円
95%信頼区間は0を挟む
セパレート客室の面積中央値
27.0㎡
同一施設の他客室は22.0㎡
追加3.5㎡のCapex
247万円
1室あたり・設備差額込み
回収年数(通年稼働率80%前提)
6.1年
GOP寄与ベース

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等の予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格:予約サイト上に公開されている販売価格そのもの。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。本稿の客室タイプ別の価格比較はこの掲載価格ベースで行い、推定成約ADRへの換算には実測の換算係数0.540(対象4,462施設の中央値)を用いています。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt程度の精度を確認済)。本稿の回収計算で用いる稼働率は実測値ではなく事業計画上の前提値です。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築物動態統計調査」/宿泊者口コミの意味解析はホテルバンク編集部調べ
Key Takeaways
  • 1㎡あたり+1,049円:同一施設内で面積と浴室形式を同時に見ると、掲載価格を動かすのは面積(95%信頼区間+563〜+1,431円)。バス・トイレ別の形式単独は+54円で区間が0を挟む。
  • 言及5万367件・肯定91.0%:浴室の分離への口コミ言及率は前半12ヶ月0.544%→後半0.629%(+15.7%)。客室名で打ち出す宿泊特化型は4.9%、2016〜2019年開業では10.2%。
  • B案(+3.5㎡・Capex247万円)で回収6.1年:通年稼働率80%・GOP寄与率70%の前提で対Capex利回り16.4%。延床固定でも室数9.1%減を吸収し、客室売上は+14.0%。
  • 分岐点は限界単価400円/㎡(推定成約ADR換算):割り込むと回収8.6年以上。回帰の95%信頼区間下限(304円/㎡)では11.4年まで伸びる。
  • 改装で形式だけ入れ替えるのは根拠が弱い:面積を作らない分離は価格上乗せが確認できず、3室→2室の統合でも回収8.3〜11.1年。要望形の不満は172室規模・推定ADR¥12,600の中位帯に出ている。

需要側:宿泊者が浴室の「別」に言及した5万件、その91%は評価の言葉だった

まず需要の顕在化量を測る。宿泊者口コミを意味解析し、「バス・トイレ別(セパレート)・独立洗面台の有無」に触れた発言を抽出すると、直近24ヶ月(2024年9月〜2026年9月)で全業態合計50,367件が該当した。内訳は肯定的な言及が45,816件(91.0%)、不満・要望としての言及が1,334件(2.6%)、残り3,217件が中立である。

肯定側の言い方は「お風呂とトイレが別々だった」「バストイレ別でゆったり」といった、仕様の存在そのものを評価するものが中心を占める。一方の不満側は「お風呂とトイレが別々だったらいいのに」「セパレートにしてほしい」という要望形が目立つ。つまりこのタグは、肯定側では「仕様がある施設のシグナル」、否定側では「仕様がない施設への未充足需要」という二つの意味を同時に運んでいる。

宿泊特化型(ビジネスホテル業態、直近24ヶ月に30件以上の口コミがある4,515施設)に絞ると、対象口コミ230万7,516件に対して肯定的な言及は13,935件、言及率0.60%だった。数字としては小さい。ただし口コミは「わざわざ書くほど印象に残ったこと」しか現れないため、この0.60%は仕様の普及率ではなく関心の強度を示す指標として読む必要がある。

「バス・トイレ別」への言及率の推移(全業態・月次、宿泊者口コミ859万件ベース)
出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミの意味解析、N=8,592,063件・2024年9月〜2026年8月、対象42,283施設)。客室に関するタグの付与率は各月61.3〜64.4%で安定しており、期間内の比較が可能です。

月次で見ると、前半12ヶ月(2024年9月〜2025年8月)の言及率0.544%に対し、後半12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)は0.629%。+15.7%の増加である。客室タグの付与率は各月61〜64%で安定しているため、この差は解析カバレッジの変動ではなく、宿泊者が浴室の分離に言及する頻度そのものの上昇と読める。インバウンド比率の上昇と、長期滞在・女性一人旅の増加が背景にあると考えられるが、口コミデータ単独では要因を分離できない。

都道府県別:「バス・トイレ別」言及率と、該当客室を販売する施設の比率(宿泊特化型・上位15県)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(宿泊特化型4,515施設・口コミ230万7,516件、2024年9月〜2026年9月。施設数40件以上の41県を対象)

地理的な偏りは明快である。言及率が高いのは千葉県1.57%、長崎県1.40%、滋賀県1.25%、広島県1.23%といった地方都市圏で、逆に東京都0.32%、京都府0.45%、大阪府0.55%と大都市中心部は低い。これは需要の強弱ではなく客室の作りの差を映していると読むのが自然だ。地価が高い都心では客室面積を圧縮した3点ユニットが標準化しており、宿泊者にとって「別であること」が珍しい体験になりにくい。反対に、敷地に余裕のある地方都市や、和室・ファミリー対応客室を持つ施設では分離型が現れやすく、それが口コミに残る。

言及率の地理分布(円の大きさ=言及率、色の濃さ=該当客室を販売する施設比率)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。座標は各県の対象施設の平均位置
都道府県別の言及率と該当客室の販売施設比率(宿泊特化型・言及率上位15県)
施設口コミ言及言及率販売施設ADR中央値
千葉県9146,3237261.57%7(7.7%)¥8,051
長崎県8127,0593801.40%5(6.2%)¥6,919
滋賀県5815,7371961.25%1(1.7%)¥7,731
広島県11060,9247471.23%4(3.6%)¥7,367
宮崎県5317,8512021.13%2(3.8%)¥6,697
兵庫県10348,1205421.13%6(5.8%)¥7,687
徳島県4411,4651140.99%2(4.5%)¥5,866
青森県6628,3492660.94%2(3.0%)¥7,510
福島県8726,7352480.93%3(3.4%)¥6,865
福岡県206139,3181,2400.89%17(8.3%)¥9,598
宮城県9851,6024490.87%2(2.0%)¥7,542
埼玉県8925,0512130.85%2(2.2%)¥7,550
神奈川県14381,3076560.81%8(5.6%)¥8,822
愛媛県6221,4041720.80%5(8.1%)¥5,924
北海道267148,4421,1440.77%20(7.5%)¥9,200
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(N=4,515施設)

主要6都市圏を並べると、需要の顕在化量と供給の出方が必ずしも一致しないことがわかる。

主要6都市圏の需要顕在化と供給(宿泊特化型・2024年9月〜2026年9月)
主要圏対象施設口コミ件数肯定的言及言及率該当客室を販売する施設推定ADR中央値
福岡県206139,3181,2400.89%17(8.3%)¥9,598
北海道267148,4421,1440.77%20(7.5%)¥9,200
愛知県211115,9698860.76%9(4.3%)¥7,607
大阪府263193,3791,0700.55%24(9.1%)¥9,088
京都府120105,3884790.45%10(8.3%)¥12,000
東京都579448,2081,4340.32%31(5.4%)¥13,300
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/ホテルバンク編集部調べ(宿泊特化型・直近24ヶ月)

需要の顕在化量(言及率)と供給の出方(該当客室を販売する施設比率)は、必ずしも同じ順序にならない。大阪府は言及率0.55%と平均を下回る一方、販売施設比率は9.1%(263施設中24施設)で主要圏最高である。京都府も言及率0.45%に対し販売比率8.3%。逆に東京都は言及率0.32%・販売比率5.4%と、いずれも主要圏で最も低い。都心の宿泊特化型では客室面積の機会費用が最も高くつくため、面積を要する分離型が選ばれにくいという解釈が成り立つ。

供給側:客室名で「バス・トイレ別」を掲げるのは4.9%、2016年以降開業では10.2%へ

次に供給の実態を測る。予約サイト上で販売されている客室タイプの名称に「バス・トイレ別」「バストイレ別」「セパレート」「洗い場付」「独立洗面」のいずれかを明示している施設を数えると、宿泊特化型4,515施設のうち222施設(4.9%)だった。客室名は宿泊者が予約前に見る唯一の仕様表示であり、ここに書くかどうかは施設側が「単価の根拠として打ち出せる仕様か」を判断した結果でもある。

実際の表記は「ツイン/禁煙/26平米・バストイレ別」「デラックスツイン【バス・トイレ セパレートタイプ】」「セパレートバスシングル」「和室12畳(49平米・バス・トイレ別)」のように、面積と併記されるパターンが多い。つまり施設側は浴室形式を単独の売りではなく、広さとセットで提示している。この点は後述の価格分析の結果と整合する。

開業年コホート別:該当客室を販売する施設比率と、肯定的言及を得ている施設比率
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=4,414施設・開業年が判明する施設のみ)/ホテルバンク編集部調べ

開業年で切ると世代差がはっきり出る。1989年以前開業の施設で該当客室を販売しているのは3.6%(932施設中34施設)にとどまるが、2016〜2019年開業では10.2%(567施設中58施設)と2.8倍になる。肯定的言及を得ている施設の比率も22.6%から45.3%へと倍増する。2020年以降開業は対象が38施設と少なく、比率の解釈には耐えないため参考値としてのみ示した。

この世代差は、客室面積そのものの拡大と同じ方向を向いている。2016〜2019年開業コホートの推定ADR中央値は¥11,200で、1989年以前開業の¥7,100を大きく上回る。浴室の分離は単独の流行ではなく、面積を広げて単価を取る設計思想の一部として実装されてきた、という整理になる。

価格効果の検証:施設内比較では+1,460円だが、効いているのは面積で浴室形式ではない

ここが本稿の核心である。単価効果を測るとき、異なる施設同士を比べると立地・築年・ブランドの差が混ざる。そこで同一施設内で、同じ食事条件・同じ最大定員の客室タイプ同士を比較した。対象は該当客室を販売する施設のうち、比較可能な客室タイプの組み合わせが成立した141施設。2026年6月〜8月チェックイン分の掲載価格(2名1室・税込・満室日を除く)の中央値を客室タイプごとに算出し、施設内でセパレート表記の客室と他の客室の差を取った。

施設内ペア比較:セパレート客室と他客室の掲載価格差
指標(施設内ペア比較・N=141施設)中央値第1四分位第3四分位
セパレート客室と他客室の掲載価格差(円)+1,460円-574円+3,079円
同(率)+9.0%-2.8%+20.4%
差がプラスだった施設の割合70.9%(141施設中100施設)
客室面積の差(面積表記のある104セル)+4.5㎡
うち面積が近い(±2㎡以内)30セルの価格差-960円
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室タイプ別掲載価格、2026年6月1日〜8月31日チェックイン・2名1室・税込。同一施設・同一食事条件・同一最大定員で対応付け、観測日数10日以上の客室タイプのみ)

表の最後の2行が重要である。セパレート表記の客室は他客室より掲載価格が中央値で約1,500円高い。しかし面積の差を見ると+4.5㎡あり、面積がほぼ同じ(±2㎡以内)組み合わせに限ると価格差は中央値-960円、つまり消える。価格差は浴室の形式ではなく、その客室が広いことの反映ではないか、という疑いが立つ。

これを分離するため、客室名に面積表記のある2,394の客室タイプを使い、施設・食事条件・最大定員を固定した上で「掲載価格=面積+浴室形式ダミー」の回帰を行った(施設内・条件内で中心化する固定効果型。有効観測2,303、対象98施設)。結果は次のとおりである。

固定効果回帰:客室面積と浴室形式の掲載価格への寄与
説明変数係数(掲載価格・2名1室・税込)95%信頼区間解釈
客室面積(1㎡あたり)+1,049円+563円 〜 +1,431円1㎡広いと掲載価格は約1,000円高い。区間は0を含まない
バス・トイレ別(ダミー)+54円-1,759円 〜 +2,456円面積を揃えると、形式単独の上乗せは確認できない
決定係数(施設内変動の説明力)0.499/信頼区間は施設単位のブートストラップ400反復
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室タイプ2,394件のうち有効観測2,303件、98施設。2026年6月〜8月チェックイン分)
客室面積と掲載価格の関係(点=客室タイプ、2名1室・税込)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(該当客室を販売する施設の客室タイプ。セパレート表記365件・その他1,897件から表示用に700件を抽出、2026年6月〜8月チェックイン分)

散布図で見ると、セパレート表記の客室(青)は面積の大きい側に寄っているが、同じ面積帯では他客室(灰)と価格帯が重なる。浴室の形式は価格の説明変数として独立に立っていない。宿泊者の評価としては明確に肯定されている仕様が、価格には形式としてではなく面積として表れている、という構図である。

これは投資判断の前提を書き換える。「バス・トイレ別にすれば単価が上がる」ではなく、「浴室を分離するために足した面積が単価を上げる」と読み替えなければならない。逆に言えば、面積を増やさずに配置の工夫だけで分離した場合、価格の上乗せは期待しにくい。回収計算は面積の限界単価をベースに組むのが正しい。

推定成約ADRのベースに換算する。対象4,462施設で実測した推定成約ADRと掲載価格(全プラン平均)の比の中央値は0.540であるため、面積の限界単価は1㎡あたり約570円(推定成約ADR換算・税抜相当)となる。比較のため平均単価を出すと、宿泊特化型の推定ADR中央値¥7,800を客室面積の中央値22.0㎡で割った¥354/㎡。限界単価(約570円)が平均単価(約350円)を上回っていることが、以下の回収計算が成立する理由である。

供給側の原価:1室に足すのは2.0〜5.0㎡、建築費は1㎡あたり59.1万円

では浴室を分離すると、1室に何㎡足すことになるのか。3点ユニットの寸法から積み上げる。ホテル客室で標準的に使われる呼称サイズは「1216」(1.2m×1.6m=1.92㎡)や「1418」(1.4m×1.8m=2.52㎡)で、これが浴槽・洗面・便器を1つの箱に収める前提の面積である。これを分離すると、浴室(1216相当で1.92㎡)に加えて独立した便所(1.0〜1.3㎡)、独立洗面(0.8〜1.2㎡)、それぞれの扉の開閉と動線が必要になり、実装上は+2〜5㎡の幅に収まる。

実測もこの幅と整合する。客室名に面積表記のある客室タイプで比べると、セパレート表記の客室は面積中央値27.0㎡(365室種)、同一施設内の他客室は22.0㎡(1,897室種)。施設ごとに対応付けた差の中央値は+5.0㎡(84施設)だった。ただしこれは「浴室の幾何学的な差」だけでなく、分離型がツイン・デラックスなど元々広い客室タイプに実装されやすいことも含む数字である。したがってシナリオは、幾何学的な下限に近い+2.0㎡から、実測中央値の+5.0㎡までを並べて置く。

単価は国土交通省「建築物動態統計調査」の宿泊業用建築物から取る。2024年の全国実績は床面積合計1,756,286㎡に対し工事費予定額1兆384億円、1㎡あたり591,279円(坪195.5万円)。2022年の419,164円から2年で+41%上昇しており、追加面積のコストは以前より重い。ここに3点ユニットから分離仕様への設備差額を1室40万円(後述の感度分析で20万〜100万円を検証)として加える。

浴室分離シナリオ別の追加面積・Capex・ADR上乗せ(1室あたり)
シナリオ追加面積面積のCapex設備差額Capex合計/室ADR上乗せ(推定成約換算)
A:便所のみ分離(浴室はシャワーブース)+2.0㎡118.3万円40万円158.3万円+1,133円
B:バス・トイレ別+独立洗面 基準案+3.5㎡206.9万円40万円246.9万円+1,983円
C:洗い場付き独立浴室+5.0㎡295.6万円40万円335.6万円+2,832円
出典:国土交通省「建築物動態統計調査」(2024年・宿泊業用、床面積1,756,286㎡/工事費予定額1兆384億円)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。ADR上乗せは面積の限界単価(推定成約ADR換算1㎡=566円)×追加面積

回収線:通年稼働率80%ならB案6.1年・対Capex16.4%、限界単価400円を割ると8.6年へ

回収はGOP(営業粗利益)ベースで置く。ADRの上乗せ分は追加の変動費がほとんど発生しないため寄与率は高いが、予約経路手数料や清掃品の増加を見込んで保守的に70%とした。年間売上増は「ADR上乗せ×365×稼働率」である。稼働率は実測値ではなく、通年の事業計画上の前提値として70%・80%・85%の3水準を置いた。

シナリオ別・稼働率別の回収年数(1室あたりCapexをGOP増分で回収)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(建築費は国土交通省「建築物動態統計調査」2024年、設備差額40万円・GOP寄与率70%の前提)
シナリオ×通年稼働率(前提値)別の回収年数と対Capex利回り
シナリオ通年稼働率70%通年稼働率80%通年稼働率85%GOP増分(通年稼働率80%)対Capex利回り(同)
A:+2.0㎡7.8年6.8年6.4年+23.2万円/室・年14.6%
B:+3.5㎡7.0年6.1年5.7年+40.5万円/室・年16.4%
C:+5.0㎡6.6年5.8年5.5年+57.9万円/室・年17.2%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(簡易試算。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です)

追加面積が大きいほど回収年数が短くなるのは、設備差額40万円という固定的なコストが面積で薄まるためである。面積のCapexと面積の限界単価は比例するので、追加面積を増やしても対Capex利回りは急には改善しない。B案とC案の差は0.8ptにとどまる。

最も効くのは面積の限界単価そのものである。本稿の実測値は掲載価格ベース1,049円/㎡(推定成約ADR換算566円)だが、これは該当客室を販売する98施設の施設内変動から推定した値であり、個別プロジェクトの立地・客層では上下する。感度を見る。

面積の限界単価が変わった場合の回収年数(B案・追加3.5㎡・通年稼働率80%)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR換算での1㎡あたり単価。566円が本稿の実測値)
B案の感度分析:面積の限界単価と設備差額
感度項目条件Capex/室GOP増分/室・年回収年数
面積の限界単価
(推定成約ADR換算)
300円/㎡246.9万円21.5万円11.5年
400円/㎡246.9万円28.6万円8.6年
566円/㎡(実測)246.9万円40.5万円6.1年
700円/㎡246.9万円50.1万円4.9年
設備差額
(3点ユニットとの差)
20万円226.9万円40.5万円5.6年
40万円(基準)246.9万円40.5万円6.1年
70万円276.9万円40.5万円6.8年
100万円306.9万円40.5万円7.6年
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(B案・追加3.5㎡・通年稼働率80%・GOP寄与率70%を基準とした感度分析)
2軸感度:面積の限界単価×通年稼働率(前提値)別の回収年数(B案・追加3.5㎡・Capex246.9万円/室)
面積の限界単価(推定成約ADR換算・1㎡あたり)通年稼働率70%通年稼働率75%通年稼働率80%通年稼働率85%通年稼働率90%
304円(95%区間下限)13.0年12.1年11.4年10.7年10.1年
400円9.9年9.2年8.6年8.1年7.7年
566円(実測)7.0年6.5年6.1年5.7年5.4年
700円5.6年5.3年4.9年4.6年4.4年
773円(95%区間上限)5.1年4.8年4.5年4.2年4.0年
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(GOP寄与率70%・設備差額40万円・建築費は国土交通省「建築物動態統計調査」2024年の宿泊業用1㎡あたり591,279円。上下端の304円・773円は回帰係数の95%信頼区間〔掲載価格+563円〜+1,431円〕を換算係数0.540で推定成約ADR換算した値)。色:6年以下=濃青、6〜8年=淡青、8〜10年=黄、10年超=赤

回帰係数の不確実性を稼働率と同時に動かすと、判断の幅がはっきりする。実測の566円/㎡なら通年稼働率70%でも7.0年に収まるが、信頼区間の下限側(304円/㎡)では稼働率90%でも10.1年、80%では11.4年まで伸びる。稼働率を5pt上げる効果より、限界単価の推定幅の方が回収年数を大きく動かす。計画地の周辺で客室タイプ別の価格と面積の関係を確かめる作業は、稼働率の前提を精緻化するより優先度が高い。

分岐点は明快である。面積の限界単価が推定成約ADR換算で400円/㎡を下回ると回収は8.6年以上に伸び、宿泊特化型の一般的な投資回収期間の許容範囲を超えてくる。逆に700円/㎡が取れる立地なら4.9年。単価水準の高い都心・観光地と、単価水準が低い地方都市で判断が逆転しうることを意味する。

延床が固定の場合:室数は9.1%減るが、売上は14.0%増える

新築計画で実際に効いてくる制約は、Capexよりも延床の上限である。容積率で延床が決まっている案件では、1室に3.5㎡足すことは客室を減らすことと同義になる。既刊で示した宿泊特化型の客室原単位35.0㎡を出発点に、延床1,000㎡あたりで試算した。

延床固定時の室数と年間客室売上(延床1,000㎡あたり・通年稼働率80%前提)
追加面積客室原単位延床1,000㎡あたり室数ADR(全国中央値ベース)年間客室売上増減
±0(3点ユニット)35.0㎡28.57室¥7,8006,501万円
+2.0㎡(A案)37.0㎡27.03室¥8,9007,043万円+8.3%
+3.5㎡(B案)38.5㎡25.97室¥9,8007,413万円+14.0%
+5.0㎡(C案)40.0㎡25.00室¥10,6007,756万円+19.3%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室原単位35.0㎡は既刊『ホテル1室の建築費は2,067万円』の計画31件集計値、稼働率80%前提。共用部を増やさず客室面積の増分がそのまま原単位に乗る想定)

B案では室数が28.57室→25.97室と9.1%減るが、ADRの上乗せがそれを上回り、延床あたりの年間客室売上は+14.0%になる。これは前節で確認した「限界単価(566円/㎡)>平均単価(354円/㎡)」の関係が効いているためだ。既存ストックの平均的な単価水準よりも、面積を足したときの限界的な単価の方が高いので、延床が固定でも面積に振り向けた方が売上は増える。

ただしこの関係は基準となるADR水準に依存する。2016〜2019年開業コホートの推定ADR中央値¥11,200をベースにすると、同じB案の売上増は+7.0%に縮む。すでに単価の高い設計をしている案件では、平均単価が限界単価に接近するため、面積を足す旨みが薄れる。単価水準が中位以下の案件ほど、面積に投資する相対的な効果が大きいという、直感とは逆の結論になる。

改装で入れ替える場合:面積を作らない分離は価格の根拠が弱い

既存施設のオーナーにとって、話は新築より厳しい。躯体が決まっている以上、客室面積を増やすには室数を減らすしかない。面積を増やさずに配置だけで浴室を分離した場合、本稿の回帰結果に従えば価格の上乗せ根拠は乏しい(形式ダミーの係数+54円、95%信頼区間-1,759円〜+2,456円)。既刊『ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6%』で示したとおり、水回りを含む改装は工事費1室300万円に対し休館期間の機会費用を織り込んだ実質Capexが398万円に膨らむ。単価の上乗せが見込めない工事に実質400万円は説明が難しい。

面積を作る方向——つまり室数を減らして1室を広げる——なら計算は成立する。3室(各20㎡)を2室(各30㎡)に統合するケースで試算した。

改装で客室を統合する場合の売上増分と回収年数
統合パターンADR(推定成約)3室分の1泊売上年間GOP増分実質Capex300万円/室同400万円/室
3室×20㎡(現状)¥7,8002万3,400円
2室×30㎡(統合後)¥13,5002万6,900円(+15.1%)+72.3万円8.3年11.1年
参考:2室×20㎡→1室×40㎡¥19,100+22.7%+72.3万円4.1年5.5年
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(面積の限界単価566円/㎡・稼働率80%・GOP寄与率70%。実質Capexは既刊『ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6%』の休館期間込みの水準を援用)。面積の限界単価を10〜20㎡の範囲に線形に外挿した簡易試算であり、実際には客室タイプの市場受容性に上限があります

回収8.3〜11.1年は新築のB案(6.1年)より明確に不利である。既存施設で浴室の分離に投資する合理性が立つのは、①統合により客室タイプを上位帯へ移す余地がある、②既存客室が20㎡以下で、狭さそのものが宿泊者の評価に表れている、③後述する未充足需要のシグナルが自館に出ている、といった条件が重なる場合に限られる。

未充足需要はどこにあるか — 不満が出ているのは172室規模・ADR1万2,600円の中位帯

「バス・トイレ別にしてほしい」という要望形の言及が出ている施設を抽出すると、宿泊特化型で253施設・延べ336件だった。この253施設の輪郭が興味深い。

「バス・トイレ別にしてほしい」要望が出ている施設の輪郭(宿泊特化型)
指標要望形の言及がある253施設言及なし(3,087施設)
客室数(中央値)172室95室
推定ADR(中央値)¥12,600¥7,300
開業年(中央値)2009年2001年
該当客室を販売していない施設の割合78.7%(199施設)100%
出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミの意味解析)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=4,515施設、2024年9月〜2026年9月)

要望が出ているのは小規模な老朽施設ではない。むしろ172室規模・推定ADR1万2,600円という、都市部の中位〜上位帯である。この価格を払う客層は浴室の分離を期待水準として持っており、3点ユニットだと期待とのギャップが言葉になる。逆に推定ADR7,300円・95室の施設では、そもそも期待されていないため不満として現れない。

つまり浴室仕様の判断は、単価帯によって意味が変わる。¥12,000超を狙う計画では、分離型は単価を上げる手段ではなく、その単価を維持するための前提条件に近い。一方で¥8,000前後の価格帯では、分離型は差別化として効くが、面積の限界単価が低い立地では回収に届かない。

新築・単価1万円超を狙う計画

B案(+3.5㎡・Capex247万円)を標準仕様に
回収6.1年(通年稼働率80%)。要望形の言及が出ているのはこの単価帯であり、分離型は上乗せ要因ではなく単価維持の前提として扱うのが妥当。延床固定でも売上は+7.0〜14.0%。

新築・単価8,000円前後の地方都市

A案(+2.0㎡・便所のみ分離)で刻む
面積の限界単価が400円/㎡を割る立地では回収8.6年以上。全室ではなく上位タイプのみに実装し、言及率の高い千葉・長崎・広島のような市場性を確認してから広げる。

既存施設の改装

面積を作らない分離は根拠が弱い
形式のみの入れ替えは価格上乗せが統計的に確認できない。室数を減らす統合なら回収8.3〜11.1年。既存客室が20㎡以下、かつ自館に要望形の言及が出ている場合に限って検討する。

本稿の試算の限界:面積の限界単価1,049円/㎡(推定成約ADR換算566円)は、該当客室を販売する98施設・客室タイプ2,303件の施設内変動から推定した観測値であり、因果効果の推定ではありません。客室名に面積表記のある客室タイプに限られるため、面積を表示しない施設は分析から外れています。回収年数はGOP寄与率70%・稼働率一定・単価一定を前提とした簡易試算で、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。建築費は全国平均であり、都心部・地方で大きく異なります。

まとめ

宿泊者は浴室の分離を明確に評価している。直近24ヶ月で5万件の言及があり、その91.0%が肯定的で、言及率は前年から+15.7%伸びた。供給側も応答しており、2016〜2019年開業コホートでは該当客室を販売する施設が10.2%、1989年以前開業の3.6%から2.8倍になっている。

しかし価格データを施設内で丁寧に揃えると、単価を動かしているのは浴室の形式ではなく面積だった。1㎡あたり掲載価格+1,049円(推定成約ADR換算で約570円)、形式ダミーは+54円で信頼区間が0を挟む。この事実は、投資判断の言い方を「バス・トイレ別にすれば単価が上がる」から「分離のために足した面積が単価を上げる」へ変えることを要求する。

面積の限界単価が平均単価を上回っている限り、延床が固定でも面積に振り向けた方が売上は増える。追加3.5㎡・Capex247万円で回収6.1年、延床1,000㎡あたりの客室売上は室数9.1%減を吸収して+14.0%。分岐点は限界単価400円/㎡である。自社の計画地でこの水準が取れるかを、周辺の客室タイプ別の価格と面積の関係から確認することが、仕様決定の実務的な第一歩になる。

参考資料・出典一覧

■ データソース

宿泊特化型4,515施設(直近24ヶ月の口コミ30件以上)を母集団とし、推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の施設別12ヶ月平均)、客室タイプ別の掲載価格19,185件(2026年6月1日〜8月31日チェックイン・2名1室・税込・満室日除く)、宿泊者口コミ859万2,063件の意味解析(2024年9月〜2026年8月)を用いた。建築費は国土交通省「建築物動態統計調査」の2024年宿泊業用建築物(床面積1,756,286㎡・工事費予定額1兆384億円)。都道府県別・主要圏別のADR中央値は、この母集団における施設別12ヶ月平均の中央値であり、エリア全体の月次中央値とは母集団・集計法が異なる。

■ 試算前提

面積の限界単価は、施設・食事条件・最大定員を固定した固定効果回帰(有効観測2,303・98施設、信頼区間は施設単位ブートストラップ400反復)による掲載価格ベースの係数1,049円/㎡に、換算係数0.540(4,462施設の中央値)を乗じた566円/㎡。建築費591,279円/㎡、設備差額40万円/室、GOP寄与率70%、稼働率は通年の事業計画上の前提値(70〜90%)で、単価・稼働率は回収期間中一定とした。延床試算は客室原単位35.0㎡・共用部面積不変、改装試算は実質Capex300万〜400万円/室を置いた。

■ 限界・留意点

回帰係数は観測データにおける関連の推定であり、因果効果ではない。客室名に面積を表記する客室タイプに限られ、掲載価格は成約価格そのものではない。建築費は全国平均で、地域差と時点差(2022年→2024年で+41%)が大きい。改装の統合試算は限界単価を10〜20㎡の範囲へ線形に外挿した簡易試算で、客室タイプの市場受容性の上限を考慮していない。回収年数は税・金利・減価償却・将来の修繕費を含まず、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要である。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 宿泊特化型4,515施設の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月)、客室タイプ別掲載価格(2026年6月〜8月チェックイン・2名1室・税込、客室タイプ19,185件)、客室名の仕様表記集計
  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミ859万2,063件の意味解析(2024年9月〜2026年8月、対象42,283施設)。「バス・トイレ別(セパレート)・独立洗面台の有無」への言及を抽出

■ 政府統計・公的データ

■ 設備・工事費の相場

■ 既刊記事(前提数値の出所)

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