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岐阜の宿泊単価、秋のピークは高山10月・下呂11月 — 郡上・白川郷は12月以降にずれる

投稿日 : 2026.09.17

岐阜県

エリア・施設分析

岐阜の宿泊単価、秋のピークは高山10月・下呂11月 — 郡上・白川郷は12月以降にずれる

岐阜県の宿泊市場を一本の平均値で語ると、いちばん重要な情報が消えてしまう。飛騨の山あいと濃尾平野では価格の水準が二倍以上ちがい、さらに「一年でいつ価格が立ち上がるか」まで別々だからである。メトロエンジンリサーチの市町村別データで推定成約ADR(平均客室単価)を月次に並べると、秋の価格ピークは高山市が10月、下呂市が11月、郡上市と白川村は12月以降と、同じ県内で最大3か月ずれていた。本稿では県内9市町村を4つの価格階層に整理したうえで、紅葉期(10〜11月)の立ち上がり方が層ごとにどう違うのかを、検証済みの昨秋実績と現在の掲載断面という2つの基準で読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設が予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。市町村単位のADRは対象施設の中央値(そのエリアの標準的な施設の水準)です。
  • 掲載価格:予約サイト上に出ている全プランの平均(素泊まりから2食付きまでを含む、2名1室利用時の1室あたり料金・税込)。上記のADRとは算出基準が異なるため、本記事では常に区別して表記します。
  • 2つの基準(きわめて重要):2026年8月以前の月は確定した実績にもとづく検証済み履歴基準、2026年9月以降の月は調査時点で予約サイトに出ている掲載内容から算出した掲載断面基準です。両者は水準そのものが揃わないため、本記事では同じ基準の中でしか月を比較していません。基準をまたぐ前年同月比は算出していません。
  • 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合。予約サイト上で販売される在庫の消化状況にもとづく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(集計対象期間 2025年9月〜2026年12月、2026年9月11日時点の取得分)
Key Takeaways
  • — 秋の価格ピーク月は県内で三分される。高山市=10月下呂市・恵那市=11月郡上市・白川村・飛騨市=12月以降。検証済みの昨秋実績と今秋の掲載断面が同じ順序を示した。
  • — 高山市の推定成約ADRは昨秋実績で9月16,200円→10月20,900円(+28.8%)、今秋の掲載断面でも9月18,400円→10月22,900円(+24.0%)。2つの独立した基準がそろって10月を指す。
  • — 下呂市は昨秋実績で9月16,600円→11月21,700円(+30.4%)。上げ幅は高山市と同等だが、山が来る月がひと月遅い。
  • — 中津川市は10月・11月の二か月プラトー型。今秋の掲載断面では10月14,900円/11月15,100円とほぼ同水準が2か月続く。
  • — 市町村中央値には11,000〜16,000円帯の空白がある。第1層(17,000円台)と第2層(10,000円前後)のあいだに、まとまった規模の市場が存在しない。
  • — 需要側では旅館の推定稼働率がビジネス系を一貫して上回る(2026年8月:旅館91.8% / ビジネス84.3%)。施設数は旅館134施設が最多だが、客室数ではビジネス系5,770室が過半を占める。

岐阜県の宿泊市場は4つの価格階層に分かれる

まず価格の地図を描く。2025年9月から2026年8月までの12か月(すべて検証済み履歴基準)について、市町村ごとの推定成約ADRを平均すると、岐阜県内の主要9市町村はきれいに4つの帯に分かれた。最上位は白川村の18,500円、下呂市の17,500円、高山市の17,100円で、いずれも世界遺産・温泉地・国際観光地という明確な資産を持つ。その下に中津川市10,900円・郡上市9,700円の第2層、岐阜市8,400円・恵那市8,000円・飛騨市7,900円の第3層、大垣市7,000円の第4層が続く。

ここで強調しておきたいのは、下の層が上の層に「届いていない」という話ではないという点である。あとで見るとおり、層ごとに需要が立ち上がる月がちがい、稼ぎどきの形そのものが別物である。単価の絶対値ではなく、それぞれの層がどの季節にどれだけ伸ばせているかで読むほうが、この県の構造は正しく見える。この4層構造そのものの成り立ちについては、岐阜県ホテル市場2026 — 白川郷・高山・下呂と岐阜市業務帯、県内で2倍開く4層構造で県全体の需給と併せて整理している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

岐阜県内 主要9市町村の価格階層と秋のピーク月(推定成約ADR 12か月平均・2025年9月〜2026年8月・検証済み履歴基準、N=9市町村)
価格階層市町村推定成約ADR
12か月平均(履歴基準)
掲載施設数
期間中の最大
昨秋の
ピーク月
今秋の
ピーク月
主な需要ドライバー
第1層 ¥17,000台白川村¥18,5321712月11月世界遺産 白川郷・冬季ライトアップ(1月)
第1層 ¥17,000台下呂市¥17,4976611月11月下呂温泉・温泉寺の紅葉ライトアップ(11月中旬)
第1層 ¥17,000台高山市¥17,08330010月10月古い町並・奥飛騨温泉郷・北アルプス(標高差の大きい紅葉)
第2層 ¥10,000前後中津川市¥10,8543410月11月馬籠宿・中山道・恵那山麓(10〜11月)
第2層 ¥10,000前後郡上市¥9,7208212月11月郡上八幡・高鷲エリアのスノーリゾート(12月〜)
第3層 ¥8,000前後岐阜市¥8,3545210月9月県都の業務需要+長良川・岐阜城
第3層 ¥8,000前後恵那市¥8,0472711月11月恵那峡・岩村城下町
第3層 ¥8,000前後飛騨市¥7,8572812月9月飛騨古川の町並み・数河高原
第4層 ¥7,000前後大垣市¥6,9721711月9月西濃の業務需要・水の都

推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12か月平均(検証済み履歴基準)。「昨秋のピーク月」は2025年9〜12月の4か月のうち推定成約ADRが最大の月、「今秋のピーク月」は2026年9〜12月(掲載断面基準)のうち最大の月。両者は基準が異なるため水準の比較はできず、それぞれの基準の内側でのみ比較している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

検証済みの昨秋実績 — ピーク月は10月・11月・12月に三分される

ここからが本題である。2025年9月〜12月はすべて確定した実績(検証済み履歴基準)で揃っているため、基準をまたがずに秋の形を比較できる。結果は明快で、ピーク月が三つに割れた。

まず10月組。高山市は9月16,200円から10月20,900円へ+28.8%と県内最大の上げ幅を記録し、11月には18,500円へ落ち着いた。高山市は市域に奥飛騨温泉郷と北アルプスを抱え、新穂高ロープウェイの紅葉は標高2,156mの山頂駅周辺が9月下旬に色づき始め、10月下旬にかけて標高1,117mの山麓まで約1か月かけて降りてくる(新穂高ロープウェイ/岐阜県観光公式サイト)。紅葉が10月いっぱい続く地形が、そのまま10月の価格の山として観測されている。中津川市も9月12,600円→10月15,400円(+22.2%)で同じ10月組に入る。

次に11月組。下呂市は9月16,600円から11月21,700円へ+30.4%と、上げ幅では高山市を上回った。岐阜県の紅葉見頃は平年11月中旬〜下旬で、下呂温泉では温泉寺の紅葉ライトアップが毎年11月中旬に行われる(岐阜県観光公式サイト)。平地寄りの温泉地は、山の高いところより遅れて山場が来る。なお紅葉の見頃と宿泊価格の山は必ずしも一致せず、価格のピークのほうが平均して2週間ほど早く立つことは紅葉の見頃2026、宿の価格ピークは14日早いで検証している。恵那市も9月8,700円→11月9,400円(+7.7%)で11月組だが、動きは穏やかである。

そして12月以降組。郡上市は9月8,200円→12月11,300円(+36.7%)、白川村は9月13,500円→12月21,900円(+61.7%)と、秋ではなく冬に山が立つ。郡上市高鷲エリアの高鷲スノーパーク・ダイナランドは12月上旬から順次オープンし(各スキー場公式)、白川郷の冬季ライトアップは2027年は1月11日・17日・24日・31日の全4日、完全予約制で開催される(白川郷観光協会)。実際、白川村の推定成約ADRは12月21,900円のあと2026年1月19,900円、2月26,800円と、真冬にこそ最高値をつけていた。飛騨市も9月6,000円→11月10,400円→12月11,400円と、11月から12月にかけて大きく立ち上がる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADR・2025年9〜12月・検証済み履歴基準、N=7市町村)

昨秋の推定成約ADRと前月比(2025年9〜12月・検証済み履歴基準、掲載施設数とADR算定施設数を月別に併記、N=9市町村+県全体)
市町村2025年9月10月11月12月掲載施設数
9/10/11/12月
ADR算定施設数
9/10/11/12月
高山市¥16,236¥20,911
+28.8%
¥18,484
+13.8%
¥17,290
+6.5%
227 / 226 / 215 / 211127 / 125 / 119 / 120
下呂市¥16,628¥18,109
+8.9%
¥21,680
+30.4%
¥19,632
+18.1%
53 / 51 / 52 / 5045 / 43 / 43 / 42
白川村¥13,538¥14,591
+7.8%
¥14,535
+7.4%
¥21,892
+61.7%
11 / 10 / 10 / 97 / 6 / 6 / 5
中津川市¥12,597¥15,394
+22.2%
¥14,574
+15.7%
¥13,810
+9.6%
26 / 29 / 26 / 2711 / 10 / 9 / 12
郡上市¥8,243¥8,331
+1.1%
¥10,050
+21.9%
¥11,265
+36.7%
65 / 67 / 64 / 6527 / 27 / 25 / 28
飛騨市¥6,040¥5,951
-1.5%
¥10,396
+72.1%
¥11,433
+89.3%
25 / 25 / 24 / 2313 / 12 / 12 / 11
恵那市¥8,725¥9,002
+3.2%
¥9,396
+7.7%
¥9,283
+6.4%
26 / 25 / 22 / 2213 / 13 / 12 / 13
岐阜市¥7,704¥8,736
+13.4%
¥7,954
+3.2%
¥7,568
-1.8%
40 / 41 / 38 / 3532 / 32 / 32 / 32
大垣市¥6,978¥6,919
-0.8%
¥7,333
+5.1%
¥6,811
-2.4%
13 / 13 / 13 / 1211 / 11 / 11 / 11
岐阜県全体¥10,715¥12,327
+15.0%
¥12,519
+16.8%
¥12,081
+12.7%
581 / 585 / 562 / 554365 / 358 / 347 / 352

すべて検証済み履歴基準。網掛けは各市町村の4か月中の最高値。カッコ内の変化率は同一市町村の9月比。「掲載施設数」は予約サイト上で価格が観測できた施設数、「ADR算定施設数」はそのうち推定成約ADRの算定対象となった施設数。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

今秋の掲載断面も同じ順序を示している

昨秋の実績が示した順序は、今秋も再現されるのか。2026年9月〜12月は現時点で予約サイトに出ている掲載内容から算出した掲載断面基準であり、確定した実績ではない。水準そのものを昨秋と並べることはできないが、同じ基準の内側で月の形を比べることはできる

結論から言えば、順序はほぼそのまま残っていた。高山市は9月18,400円→10月22,900円(+24.0%)→11月21,100円と、昨秋と同じ10月の山を描く。下呂市は9月18,500円→10月18,900円→11月20,300円(9月比+9.3%)で11月がピーク。白川村は9月21,100円から11月23,100円・12月23,000円へと後半に向かって上がり続け、郡上市も10月10,800円(9月比−2.2%)から11月12,200円(+10.7%)へと、10月ではなく11月以降に立ち上がる。3つの層が、それぞれ違う月に山を持つという構造は今秋も維持されている。

ひとつ重要な注意がある。2026年9月は19日から23日までが5連休にあたり、基準月として通年の9月よりやや強めに出ている。9月を起点にした変化率は、この分だけ控えめに見える可能性がある。実際、業務需要が中心の岐阜市・大垣市では9月が4か月中の最高値になっており、これは秋の観光需要というより連休要因として読むのが自然である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADR・2026年9〜12月・掲載断面基準、N=7市町村)

今秋の推定成約ADRと前月比(2026年9〜12月・掲載断面基準、掲載施設数とADR算定施設数を月別に併記、N=9市町村+県全体)
市町村2026年9月10月11月12月掲載施設数
9/10/11/12月・9月比
ADR算定施設数
9/10/11/12月
高山市¥18,425¥22,853
+24.0%
¥21,094
+14.5%
¥17,911
-2.8%
297 / 287 / 269 / 224
-25%
137 / 133 / 130 / 115
下呂市¥18,531¥18,926
+2.1%
¥20,256
+9.3%
¥19,610
+5.8%
63 / 62 / 57 / 48
-24%
47 / 46 / 42 / 37
白川村¥21,094¥21,908
+3.9%
¥23,063
+9.3%
¥22,992
+9.0%
17 / 16 / 14 / 10
-41%
8 / 8 / 7 / 6
中津川市¥12,022¥14,851
+23.5%
¥15,074
+25.4%
¥11,510
-4.3%
34 / 32 / 32 / 29
-15%
12 / 11 / 11 / 11
郡上市¥11,002¥10,755
-2.2%
¥12,176
+10.7%
¥11,816
+7.4%
82 / 72 / 66 / 50
-39%
27 / 23 / 20 / 20
飛騨市¥10,892¥10,605
-2.6%
¥10,124
-7.1%
¥10,207
-6.3%
28 / 27 / 23 / 17
-39%
13 / 13 / 12 / 11
恵那市¥10,892¥10,534
-3.3%
¥11,365
+4.3%
¥10,658
-2.1%
27 / 27 / 24 / 23
-15%
14 / 14 / 13 / 12
岐阜市¥13,366¥12,470
-6.7%
¥12,097
-9.5%
¥12,199
-8.7%
52 / 51 / 45 / 39
-25%
32 / 32 / 29 / 27
大垣市¥10,184¥9,575
-6.0%
¥9,648
-5.3%
¥9,890
-2.9%
16 / 16 / 14 / 13
-19%
11 / 11 / 10 / 10
岐阜県全体¥13,297¥14,330
+7.8%
¥14,472
+8.8%
¥13,165
-1.0%
730 / 702 / 646 / 539
-26%
373 / 361 / 339 / 305

すべて掲載断面基準(調査時点で予約サイトに出ている掲載内容にもとづく推定)。網掛けは各市町村の4か月中の最高値。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

掲載施設数の減り方に注意:12月は掲載施設数が9月比で大きく落ちる。県全体で730施設→539施設(−26%)、高山市297→224施設(−25%)、郡上市82→50施設(−39%)、下呂市63→48施設(−24%)である。先の日程ほど掲載が出そろっていないためで、母数が薄いと平均は跳ねやすい。本記事では推定成約ADRの算定施設数が期間中の中央値の6割を下回る月を確認したが、掲載した9市町村はいずれも基準を満たしている(最も薄い郡上市12月で20施設・中央値比74%)。それでも12月の数値は暫定値として扱い、本文では冬が主戦場となる市町村の傾向を示す材料に用途を限っている。

12か月の推移で見ると、階層そのものは動いていない

秋の山がずれる一方で、階層の上下関係はほとんど入れ替わらない。2025年9月から2026年8月までの12か月を並べると、高山市・下呂市が13,000〜21,700円のレンジで推移し、白川村がそこに冬だけ突き抜ける。中津川市が7,500〜15,400円、郡上市・岐阜市が7,500〜12,700円のレンジで、それぞれの帯の中を季節で行き来している。

白川村の動きはとりわけ特徴的である。9月から11月までは13,500〜14,600円と第2層に近い水準にとどまり、12月に21,900円、2026年2月に26,800円まで跳ね上がる。合掌造り集落に雪が積もる季節が、この村の商品価値そのものだということが価格に表れている。年間を通じて均す発想ではなく、冬に集中して取りにいく設計が徹底されているわけである。秋に山が来る山岳エリアと冬に山が来る山岳エリアの違いは、山の玄関口15か所の宿泊単価 — 秋がピークの山、冬がピークの山でも全国横断で確認できる。

県全体の推定成約ADRは2026年8月の12,600円が期間中の最高値で、2026年6月の9,600円が最低値。振れ幅は1.31倍にとどまる。市町村ごとの振れ幅(白川村1.98倍、飛騨市1.92倍)と比べるとはるかに小さく、県平均は互いに異なる季節性を打ち消し合った結果であることがわかる。県単位の数字だけを見て投資判断や価格設計を行うと、この打ち消しに気づけない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADR・2025年9月〜2026年8月・検証済み履歴基準、N=6市町村+県平均)

掲載施設数と価格水準 — 11,000〜16,000円帯に空白がある

次に、掲載施設数と価格水準の関係を見る。横軸に掲載施設数(期間中の最大)、縦軸に推定成約ADRの12か月平均をとると、岐阜県の市場構造がもう一段はっきりする。

高山市は300施設と県内で突出した規模を持ちながら、ADR水準も17,100円と上位層にとどまっている。ふつう供給が厚くなると中央値は下に引っ張られるが、高山市ではそうなっていない。古い町並の徒歩圏と奥飛騨温泉郷という性格の異なる商圏が同一市内に併存し、上位帯の宿が中央値を支えているためと考えられる。規模と単価を両立できている点は、県内の他エリアにとって参考になる形である。

目を引くのは11,000円から16,000円のあいだに市町村中央値が一つもないことである。第1層の下限が高山市17,100円、第2層の上限が中津川市10,900円で、そのあいだ約6,200円分が空いている。県内には「温泉地・国際観光地の価格帯」と「地方都市・近郊の価格帯」の二極があり、中間のポジションを市場全体として取りにいっているエリアが見当たらない、と読める。個々の施設単位ではこの帯を狙う宿はあるはずだが、市町村の中央値を押し上げるだけの厚みにはまだ達していない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADR 12か月平均×掲載施設数・2025年9月〜2026年8月、N=9市町村)

もうひとつ、掲載施設数そのものの増加にも触れておきたい。高山市の掲載施設数は2025年9月の227施設から2026年7月の300施設へ増えている。県全体でも581施設から737施設へと拡大した。これは新規開業だけでなく、これまで予約サイト上で観測できていなかった小規模施設が掲載されるようになった分を含む。したがって施設数の絶対値を時期をまたいで単純比較することはできず、本記事では各時点の母数を表に併記したうえで、同一月内の市町村間比較に用途を限っている。

需要側 — 旅館とビジネス系で稼ぎどきの形が違う

価格だけでなく、在庫の消化状況からも同じ構造が確認できる。岐阜県内で予約サイト上の在庫が追える250施設・10,824室について、業態別に推定稼働率を月次で並べたのが下の表である。

業態別の推定稼働率と掲載価格(2026年5月〜9月11日・観測コホート250施設・10,824室)
全施設
250施設 / 10,824室
ビジネス系
59施設 / 5,770室
旅館
134施設 / 3,511室
掲載価格
ビジネス系
掲載価格
旅館
2026年5月83.2%80.7%88.2%¥14,672¥36,984
2026年6月77.7%75.1%82.9%¥11,458¥32,266
2026年7月81.1%79.2%86.0%¥12,756¥35,637
2026年8月86.7%84.3%91.8%¥13,877¥43,488
2026年9月
1〜11日
82.2%81.7%85.4%¥12,582¥33,366

稼働率は予約サイト掲載在庫の消化状況にもとづく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。施設数・客室数は2026年8月時点の観測コホート。掲載価格は全プラン平均(2名1室・1室あたり・税込)で、推定成約ADRとは基準が異なる。2026年9月は1〜11日の11日分。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(業態別推定稼働率・掲載価格、2026年8月時点コホート250施設・10,824室)

旅館の推定稼働率は全月でビジネス系を上回り、お盆を含む2026年8月には91.8%に達した。同月のビジネス系は84.3%で、差は7.5ポイントある。掲載価格の振れ方はさらに対照的で、旅館は6月32,300円から8月43,500円へ約+35%動くのに対し、ビジネス系は11,500円から13,900円へ約+21%にとどまる。旅館は季節で強く伸ばし、ビジネス系は年間を通じて安定的に埋める——同じ県内で、収益の作り方そのものが違う。

供給構成も見ておきたい。施設数では旅館134施設がビジネス系59施設の2倍以上ある一方、客室数ではビジネス系5,770室が旅館3,511室を上回る。1施設あたりでは旅館26室、ビジネス系98室で、規模がおよそ4倍違う。県全体の平均稼働率は、この客室数の重みでビジネス系寄りに引っ張られる構造になっている。旅館が主戦場とする紅葉期や冬季の需要の強さは、県平均の稼働率だけを見ていると実際より小さく見えてしまう。

なお、10月・11月の推定稼働率はまだ実績として確定していない。当社の在庫データは観測期間の蓄積が必要なため、現時点で信頼できるのは経過した月までである。紅葉期の需要を先行して読むには、本稿で見た掲載断面の価格の形が当面の手がかりになる。

層ごとの伸びしろ — どこにまだ取りにいける余地があるか

最後に、それぞれの層にどんな余地が残っているかを整理する。前提として、単価の低い層が劣っているという話ではない。需要が立ち上がる月が違えば、取りにいくべき設計も変わるというだけである。

第1層:山の前後を伸ばす

高山市は10月に集中し11月には9月比+13.8%まで戻る。下呂市は11月に山が来るぶん10月が9月比+8.9%と控えめ。両市は互いの谷が相手の山という関係にあり、飛騨エリア全体としては10〜11月を通して取りにいける形が組める。ピーク月の外側にある週末をどう設計するかが伸びしろになる。

第2層:二か月プラトーを活かす

中津川市は今秋の掲載断面で10月14,900円・11月15,100円とほぼ同水準が2か月続く。単月スパイク型の市場より需要の窓が広い。馬籠宿・中山道という通年の集客資産に恵那山麓の紅葉が重なる構造で、連泊や周遊の設計と相性がよい。

第3層:秋と冬の二山を持つ

飛騨市は昨秋実績で9月6,000円から11月10,400円へ約+72%と、県内で最も大きな相対上昇を見せた。9月の水準が低いぶん、秋の立ち上がりの角度は県内最大である。恵那市も11月に穏やかな山を持つ。ADR算定施設数が11〜14施設と小さく月次の振れは大きいため、単月ではなく複数月で傾向を見るのが適している。

第4層:安定と連休の上乗せ

岐阜市・大垣市は季節の振れが小さく、昨秋実績の9月比変動は最大でも+13.4%。年間を通じた安定消化が強みで、そのうえで連休が上乗せとして効く。今秋の掲載断面で9月が4か月中の最高値になっているのは、19〜23日の5連休が価格に反映されているためと考えられる。カレンダー要因を先読みして設計できる層である。

そしてもう一度、11,000〜16,000円の空白帯である。県内の宿泊需要は第1層の17,000円台と第2層の10,000円前後に二極化しており、そのあいだを市場として押さえているエリアがない。高山市・下呂市の紅葉期に価格面で届かない層が、どこに流れているのかは今回のデータだけでは特定できない。ただ、飛騨エリアへのアクセス圏にありながら中間価格帯を提示できる立地には、まだ取りにいける余地が残っていると読める。

宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント

岐阜県 × 紅葉 で公開されているプラン名(N=141)に多い訴求要素 ——

会席コース 36%和牛・ブランド牛 28%季節SALE 21%2食付 16%朝食付 13%温泉露天 11%

実際の名前の例(匿名化):

  • 【スタンダード会席】ご家族・カップル♪飛騨牛朴葉味噌ステーキ付の和食フルコース!地産地消と春夏秋冬
  • 【秋冬SALE】【ロングステイ◆素泊り】15時イン〜13時アウトプラン♪
  • 【秋冬SALE】【ロングステイ◆朝食付き】15時イン〜13時アウトプラン♪

※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。

⚠ 将来日程の数値に関する注意:2026年9月以降の推定成約ADRは、調査時点(2026年9月11日)で予約サイトに公開されている掲載内容から算出した推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高めに出ている水準が直前の調整で下がることも、逆に在庫が絞られて上がることもあります。また掲載施設数が先の月ほど少ないため、12月の数値はとくに変動余地が大きい点にご留意ください。

まとめ

岐阜県の宿泊市場は、価格の水準で4つの階層に分かれ、さらに季節の山が来る月で三分される。高山市は10月、下呂市・恵那市は11月、郡上市・白川村・飛騨市は12月以降。この順序は、検証済みの昨秋実績と今秋の掲載断面という2つの独立した基準でそろって確認できた。標高の高い山から順に紅葉が降り、平地の温泉地が11月に山場を迎え、雪が積もると今度はスキー場と合掌造り集落に需要が移る——という自然条件の順番が、そのまま価格の順番として観測されている。

県平均の推定成約ADRは2026年8月の12,600円から2026年6月の9,600円まで、振れ幅1.31倍に収まる。だがこれは、10月に山を持つ市と12月に山を持つ市が互いを打ち消した結果であり、市町村単位では白川村1.98倍、飛騨市1.92倍という大きな振れが隠れている。県単位の数字だけで価格設計や投資判断を組み立てると、この打ち消しに足をすくわれる。

層ごとに異なるのは山の高さではなく、山の来る月とその幅である。単月スパイク型の高山市、二か月プラトー型の中津川市、冬集中型の白川村、通年安定型の岐阜市・大垣市。それぞれに違う設計が要る。そして市町村中央値で11,000〜16,000円帯が空いていることは、この県にまだ埋まっていないポジションが残っていることを示している。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチの市町村別 推定成約ADR(岐阜県内で掲載施設数が継続して観測できる主要9市町村を採用、対象期間 2025年9月〜2026年12月)、業態別の推定稼働率と掲載在庫(2026年8月時点の観測コホート250施設・10,824室)、公開プラン名の集計(岐阜県×紅葉 N=141)。いずれも2026年9月11日時点の取得分。紅葉の見頃・イベント日程・スキー場の営業開始時期は、各観光協会・自治体・施設の公式発表を一次情報として参照した。

■ 試算前提

推定成約ADRは最安プランに業態別の係数を掛けた推計値(1室あたり・税抜相当)で、掲載価格(2名1室・1室あたり・税込・全プラン平均)とは算出基準が異なる。2026年8月以前の月は確定実績にもとづく検証済み履歴基準、2026年9月以降の月は調査時点で予約サイトに出ている掲載内容から算出した掲載断面基準を用いた。両基準は水準そのものが揃わないため、月の比較は同一基準の中でのみ行い、基準をまたぐ前年同月比は算出していない。市町村値は施設日次の中央値を月平均したもので、価格階層は12か月平均の水準で区分した。

■ 限界・留意点

推定稼働率は予約サイト掲載在庫の消化状況にもとづく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。先の月ほど掲載が出そろわないため母数が薄くなりやすく、推定成約ADRの算定施設数が期間中の中央値の6割を下回る月は採用していない(採用分で最も薄いのは郡上市12月の20施設・中央値比74%)。12月の数値は暫定値として扱っている。掲載施設数は新規開業だけでなく、これまで観測できていなかった小規模施設が掲載された分も含むため、時期をまたぐ絶対値比較には用いていない。2026年10月・11月の推定稼働率は観測期間が不足しており、実績として確定していない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 市町村別推定成約ADR(岐阜県9市町村、2025年9月〜2026年12月)、業態別推定稼働率・掲載在庫(2026年8月時点コホート250施設・10,824室)、公開プラン名の集計(岐阜県×紅葉 N=141)

■ 観光・イベント情報(一次情報)

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