高さ制限31mは、ホテルにするとおおよそ10階分にあたる。京都市が2023年4月25日に施行した都市計画変更は、JR京都駅南側の大通り沿いで高度地区の指定値を20〜25mから31mへ引き上げ、山科駅周辺の外環状線沿道では条件を満たす敷地の高さの最高限度を定めない「空間創出型高度地区」を導入した。施行から3年が経った今、この「縦の緩和」は客室供給の条件をどこまで変えたのか。全国の宿泊施設建設計画70件・15,517室の階数実測と、京都市内の推定成約ADRから逆算する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本記事では投資試算の前提値としてのみ用いています。
- 高度地区の指定値:都市計画で定める建築物の高さの最高限度(絶対高さ制限)。本記事では階高3.1m・1階を共用部とする前提で階数に換算しています。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築物動態統計調査」/京都市 都市計画局
既刊との線引き。本稿は「縦」の規制、すなわち高度地区による絶対高さ制限を主題とし、緩和から3年後の実績を検証する時間軸を持つ。平面側の規制(用途地域・容積率・地価)は『ホテルはどこに建てられるか — 用途地域・容積率・地価で読む主要5商圏の開発余地2026』で扱った。同じ建設計画データを用いた『ホテル工期の実測 — 着工〜竣工2.80年』は工期が切り口であり、階数ではない。京都市の景観政策そのものの整理は『京都市の高さ規制と上質宿泊施設許可がホテル開発に与える構造的影響』を参照されたい。
- — 高さ制限31m=約10階分(階高3.1m換算)。京都市は2023年4月25日、京都駅南部の高度地区を20〜25mから31mへ引き上げ、外環状線沿道には高さの最高限度を定めない「空間創出型高度地区」を導入した。
- — 絶対高さ制限は容積率の実効上限を決める。建ぺい率80%なら20mで480%、31mで800%が消化の限界。容積率が残っていても、高度地区の指定値が低ければ床は建たない。
- — 100室に必要な敷地は672㎡→448㎡へ33.3%縮小(京都駅南部・緩和前後)。外環状線沿道では672㎡→384㎡へ42.9%縮小する。
- — 全国の建設計画70件・15,517室の階数中央値は14階。客室ベースで82.0%が10階超の建物に載っており、31mの高度地区には収まらない。
- — 緩和後ケースの成立ADRは¥10,600、南区の推定成約ADR実勢¥14,500(2025年9月〜2026年7月の11ヶ月平均・N=55施設)を36%下回る。建設費を坪280万円で見ても¥11,200。
高さを決めているのは3層 — 斜線・絶対高さ・景観のどれが効いているか
建築物の高さを縛る規制は一枚岩ではない。ホテルの用地開発では、少なくとも三つの層が重なって効いてくる。それぞれ根拠法も、効き方も、緩和の交渉先も違う。
| 層 | 根拠 | 効き方 | ホテル計画への影響 |
|---|---|---|---|
| ① 斜線型の高さ制限 | 建築基準法(道路斜線・隣地斜線・北側斜線)、高度地区の斜線型指定 | 敷地境界からの距離に応じて上限が上がる。敷地の奥ほど高く建てられる | 間口の狭い敷地ほど不利。セットバックで回避できる余地がある |
| ② 絶対高さ制限 | 都市計画で定める高度地区の指定値(○mを超えてはならない) | 敷地条件にかかわらず一律で頭を打つ。設計では回避できない | 容積率が残っていても使えなくなる。緩和は都市計画変更が必要 |
| ③ 景観・眺望の規制 | 景観法に基づく景観計画、条例による眺望景観保全、屋外広告物規制 | 高さに加えて形態・意匠・色彩・屋根形状まで及ぶ | ①②を満たしても意匠協議で階数・立面が動く。工期に影響 |
用地開発の実務でボトルネックになりやすいのは②である。①はセットバックや斜線制限の緩和規定で設計上の逃げ道があり、③は協議で着地点を探れる。これに対して②の絶対高さ制限は、都市計画の指定値そのものが変わらないかぎり動かない。しかも指定値は自治体ごとに刻みが違う。世田谷区は低層住居専用地域を除く住居系用途地域・準工業地域・一部の近隣商業地域について、指定値を15m・16m・19m・25m・28m・31m・45mの7区分で運用している(2019年4月1日施行)。京都市は2007年の新景観政策以降、市街化区域の約95.3%に高度地区を指定しており、指定率という点では全国でも突出している。
7区分のうち31mが特別な位置にあるのは偶然ではない。31mは旧市街地建築物法以来の「百尺」に相当し、日本の都市計画で最も広く使われてきた閾値である。ホテルの階高を3.1mとして割ると、31mはちょうど10階分にあたる。以降の試算はこの換算を前提とする。
京都市が2023年4月25日に動かしたのはどこか — 3区域の変更前後
京都市は2023年4月25日、用途地域・高度地区・防火地域等の変更を施行した(一部は同年9月25日施行)。対象は「らくなん進都」「東部方面の外環状線沿道」「市街地西部の工業地域」「向日町駅・淀駅周辺」「京都駅南部」などで、都心部の中心である四条烏丸を含むいわゆる「田の字エリア」は変更されていない。ホテル開発に直接効く3区域を、市が公表した見直しパンフレットの変更前後表から整理する。
| 区域 | 変更前 | 変更後 | ホテル用地としての意味 |
|---|---|---|---|
| 京都駅南部 (南区・大通り沿い) |
建ぺい率60%・80% 容積率200%・400% 高度地区 20m第2〜4種/25m |
建ぺい率80% 容積率600% 高度地区 31m第1種ほか |
容積率を1.5倍に引き上げると同時に、それを消化できる高さを確保した。高さ緩和は容積緩和の必要条件として組まれている |
| らくなん進都 (伏見区・鴨川以北) |
建ぺい率60%・80% 容積率300% 高度地区 20m第4種 |
建ぺい率80% 容積率400% 高度地区 31m第7種 ※特定用途誘導地区で容積率の最高限度を最大1,000%まで設定 |
敷地面積の最低限度(10,000㎡/5,000㎡/2,000㎡)と外壁後退距離(10m/5m)を条件に高容積を誘導する枠組み。大規模敷地を前提とした複合開発向き |
| 東部方面の外環状線沿道 (山科区ほか) |
建ぺい率60%・80% 容積率200%・300%・400%・600% 高度地区 20m第1〜4種/31m第1種 |
建ぺい率80% 容積率 最大700% 高度地区「空間創出型」 外環状線等沿道特別用途地区 第一種地区 |
要件を満たす建築物は高さの最高限度を定めず、満たさない場合は31m。オープンスペースと引き換えに縦方向の自由度を渡す設計 |
| 田の字エリア (中京区・下京区の都心部) |
今回の見直しの対象外(変更なし) | 都心の高さ環境は据え置かれた。緩和の効果を測るときの対照群として使える | |
「空間創出型高度地区」の要件は具体的である。敷地が外環状線・新十条通に2m以上接することを前提に、(ア)1階の床面積の2分の1以上ににぎわい用途(住宅・共同住宅・寄宿舎・下宿・車庫・駐車場・倉庫以外)を連続して設ける、(イ)外環状線・新十条通沿いに歩道状の空地を幅3m以上設ける、(ウ)それ以外の道路境界線・隣地境界線から2mの後退をとる——この3点をすべて満たした建築物にかぎり、高さの最高限度が適用されない。要件を欠けば31mが上限として残る。
高さと容積は掛け算 — 20mの高度地区で使い切れる容積率は約480%が上限
高さ制限を語るとき見落とされやすいのは、絶対高さ制限と容積率が独立した制約ではないという点である。建ぺい率をb、階数をFとすると、その敷地で実際に建てられる延床の上限はb×Fで決まる。つまり「高度地区の指定値で消化できる容積率の上限」という数字が存在する。
| 高度地区の指定値 | 階数換算(階高3.1m) | 建ぺい率80%で消化できる容積率 | 建ぺい率60%で消化できる容積率 |
|---|---|---|---|
| 15m | 4階 | 320% | 240% |
| 20m | 6階 | 480% | 360% |
| 25m | 8階 | 640% | 480% |
| 31m | 10階 | 800% | 600% |
| 45m | 14階 | 1,120% | 840% |
この表を京都駅南部の変更内容に当てると、緩和の設計思想が読める。変更前の20m(6階)では、建ぺい率80%を目一杯使っても480%までしか消化できない。容積率を600%に引き上げても、20mのままでは使い切れなかったということである。変更後の600%は、建ぺい率80%を使い切れば8階=約25mで足りる計算だが、実務では駐車場の出入口や空地の確保で建築面積が敷地の6割程度に落ちることが多く、その場合に必要な階数は10階=31mちょうどになる。この駐車場の要求台数そのものが都市によって2.5倍の開きを持つことは、『ホテルの駐車場附置義務、都市で2.5倍差』で整理している。高さの緩和は容積の緩和とセットでなければ意味を持たない、という関係がここに現れている。
らくなん進都で設定された容積率の最高限度1,000%は、建ぺい率60%なら約17階=52m相当、建ぺい率40%なら約25階=78m相当が必要になる計算である。31mの高度地区の下では物理的に消化できない。だからこそ、この枠組みは敷地面積の最低限度10,000㎡や外壁後退10mという条件と組み合わされ、大規模敷地でのオープンスペース確保と引き換えに縦方向を開ける構造になっている。容積率の数字だけを見て開発余地を語ると、実際には建てられない床を数えることになる。
緩和から3年、京都府の客室供給はどう動いたか — リードタイムを織り込んで読む
2023年4月の施行から3年が経過した。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する範囲で、京都府の新規開業(OTA掲載確認ベース)を年別に並べると次のようになる。
2021年の172施設・6,321室をピークに、2022年3,298室、2023年3,558室、2024年2,517室、2025年1,806室と客室数は縮小してきた。2026年の618室は年途中の集計であり、OTA掲載は開業の数ヶ月前からしか出ないため、今後の掲載で増加する。
この推移を「緩和したのに建っていない」と読むのは、時間軸の取り違えである。既刊『ホテル工期の実測』で確認したとおり、宿泊施設の着工から竣工までは平均2.80年(単独用途1.96年、複合用途4.00年)を要する。さらにその前段には用地取得・設計・確認申請の期間が乗る。2023年4月の都市計画変更を前提に用地を仕込んだ案件が竣工するのは、単独用途でも2026年以降、複合用途なら2028年前後になる。2024〜2025年に開業した施設は、いずれも緩和以前に計画された案件である。緩和が客室供給に転換されるまでのリードタイムは、まだ折り返し地点にある。
実際、国土交通省「建築物動態統計調査」に基づく建設計画(50室以上)で京都府内のものを抽出すると、京都市南区東九条(270室・9階・2026年4月竣工予定)、上京区(135室・3階・2027年9月竣工予定)、東山区(55室・7階・2026年4月竣工予定、53室・4階・2028年12月竣工予定)、久世郡久御山町(224室・9階)の5件が確認できる。件数は限られるが、確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、これは現時点での確定パイプラインの下限値である。今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みで、上限として読むべき数字ではない。
価格側の実勢も押さえておきたい。緩和対象である南区と、対象外の都心部(下京区・中京区)、および観光地立地の東山区について、推定成約ADRの月次推移を並べる。
11ヶ月平均では南区¥14,500、下京区¥16,000、中京区¥17,400、東山区¥24,100。南区の水準は下京区の90.6%、中京区の83.4%、東山区の60.0%にあたる。緩和対象エリアである南区は、都心部と1〜2割の差にとどまっており、京都駅への近接性を考えれば市場としての厚みは確保されている。なお山科区は当社の推定成約ADRの対象施設が1施設にとどまるため、エリア水準としての引用は行わない。伏見区も5施設と薄く、同様の扱いとする。
地価の側でも南区の位置づけは変わってきている。国土交通省が2026年3月に発表した地価公示では、京都府の商業地の平均価格が32年ぶりに1平方メートルあたり100万円台を突破し、府内の商業地で最も高い伸びを示したのは京都市南区であった。区別の全用途平均で見ると、南区は57.1万円/㎡(前年比+11.05%)、山科区は16.6万円/㎡(同+3.84%)、下京区は188.2万円/㎡(同+9.27%)、中京区は172.9万円/㎡(同+9.31%)である。
全国計画70件の階数実測 — 客室の82%は10階を超える建物に載っている
京都の話を一般化するために、全国の建設計画(50室以上、N=70件・合計15,517室)の階数を実測する。階数が判明するのは66件・14,965室である。
階数の中央値は14階、最高は63階、20階以上が20件を占める。1〜3階の低層は6件にとどまる。中央値の14階は、階高3.1mで換算すると約43m。つまり全国で計画されているホテルの標準的な姿は、31mの高度地区には収まらない。
これを客室数ベースで見ると、含意はさらに明確になる。高さ上限ごとに、その階数以内に収まる計画の客室数が全体に占める割合を累積で示す。
20m相当(6階)以内に収まるのは9件・1,234室で全体の8.2%、31m相当(10階)以内でも18件・2,697室の18.0%にすぎない。45m相当(14階)まで広げてようやく41件・8,409室の56.2%に届く。逆に言えば、31mの絶対高さ制限が全国一律で適用されたとすれば、現在の計画客室の82.0%は設計の作り直しを迫られる。
用途構成の違いも効いている。主用途が「ホテル」単独の30件は階数中央値12階なのに対し、事務所・住宅・店舗との複合36件は中央値20階である。複合開発ではホテルが上層階に載るため、建物全体の高さが伸びる。高さ制限の厳しいエリアで複合開発を組み立てにくいのは、この構造による。
1階あたりの客室数(客室数÷階数)は全体中央値15.0室、階数帯別では1〜9階が22.4室、10〜14階が18.2室、15〜19階が15.4室、20階以上が6.7室である。20階以上で急に下がるのは、ホテルが建物の一部フロアしか占めないためで、ホテル単独の30件に限れば中央値15.6室/階となる。ホテル単独かつ延床が判明する29件では、延床÷客室数の中央値は26.9㎡/室(第1四分位17.4㎡、第3四分位63.2㎡)であった。
31m・45m・高さ無指定で100室を積む — 必要な敷地面積と成立ADRの逆算
ここまでの実測値を使って、100室のホテルを成立させるために必要な敷地面積を逆算する。前提は、延床÷客室数を全国計画の実測中央値26.9㎡/室として必要延床2,690㎡(813.7坪)、階高3.1m、1階を共用部とみなさない単純積算とする。
| 高さ上限 | 階数換算 | 必要な基準階面積 | 必要な敷地(建ぺい率80%) | その敷地で必要な容積率 |
|---|---|---|---|---|
| 20m | 6階 | 448㎡ | 560㎡ | 480% |
| 31m | 10階 | 269㎡ | 336㎡ | 800% |
| 45m | 14階 | 192㎡ | 240㎡ | 1,120% |
| 高さ無指定(20階想定) | 20階 | 134㎡ | 168㎡ | 1,600% |
高さを上げるほど敷地は小さくて済むが、その敷地で必要になる容積率は跳ね上がる。31mで336㎡の敷地に100室を積むには容積率800%が要る。京都駅南部の緩和後は600%なので、この敷地では成立しない。実際に成立する解を、容積率と高さの両方を制約として解き直す。
| ケース | 規制条件 | 必要な敷地 | 階数 | 効いている制約 | 土地代(概算) |
|---|---|---|---|---|---|
| 京都駅南部・変更前 | 容積率400%/20m 建ぺい率80% | 672㎡ | 5階 | 容積率 | 3.84億円 |
| 京都駅南部・変更後 | 容積率600%/31m 建ぺい率80% | 448㎡ | 8階 | 容積率 | 2.56億円 |
| 外環状線沿道・変更前 | 容積率400%/20m 建ぺい率80% | 672㎡ | 5階 | 容積率 | 1.12億円 |
| 外環状線沿道・変更後 | 容積率700%/高さ無指定 実効建ぺい率55% | 384㎡ | 13階 | 容積率 | 0.64億円 |
京都駅南部では、100室に必要な敷地が672㎡から448㎡へ33.3%縮小し、土地代の概算で1.28億円が浮く。外環状線沿道では672㎡から384㎡へ42.9%縮小する。用地取得の難易度という観点では、この差は大きい。京都市内で700㎡級のまとまった商業地を確保するのと、400㎡級を確保するのとでは、対象となる売り物件の母数がまったく違う。
「空間創出型高度地区」で高さの上限を外した意味も、この試算で説明がつく。要件のうち歩道状空地3mと隣地2m後退を織り込むと、400㎡の敷地(正方形20m角と仮定)で実際に建てられる建築面積は240㎡、実効建ぺい率は60%まで落ちる。この条件で容積率700%を消化するには12階=約37mが必要になる。500〜600㎡の敷地でも11階=約34m。800㎡でようやく10階=約31mに収まる。つまり中小規模の敷地では、31mの上限を残したままでは700%を使い切れない。オープンスペースを要求しつつ容積を渡すなら、高さの上限は外さざるを得なかったということである。
最後に、それぞれのケースで成立に必要なADRを逆算する。建設費は国土交通省 建築着工統計に基づく2025年のS造坪単価240.5万円を出発点とし、開業を2029年と置いて施工中間時点までのインフレを年+5%で2年分織り込み、坪265万円とした。目標NOI利回り5.0%、GOP率35%、通年稼働率80%(試算前提値であり、実測稼働率ではない)、売上に占める客室売上比率90%を前提とする。
| ケース | 土地 | 建物 | 総投資額 | 必要売上 | 成立に必要なADR |
|---|---|---|---|---|---|
| 京都駅南部・変更前 | 3.84億円 | 21.58億円 | 25.42億円 | 3.63億円 | ¥11,200 |
| 京都駅南部・変更後 | 2.56億円 | 21.58億円 | 24.14億円 | 3.45億円 | ¥10,600 |
| 外環状線沿道・変更前 | 1.12億円 | 21.58億円 | 22.69億円 | 3.24億円 | ¥10,000 |
| 外環状線沿道・変更後 | 0.64億円 | 21.58億円 | 22.21億円 | 3.17億円 | ¥9,800 |
南区の推定成約ADRは直近11ヶ月平均で¥14,500。緩和後ケースの必要ラインである¥10,600を36%上回っている。高さ緩和による土地代の圧縮は必要ADRを¥11,200から¥10,600へ約600円押し下げるにとどまるが、これは総投資に占める土地の比重が15%程度と小さいためである。緩和の効果は必要ADRの引き下げよりも、成立する敷地サイズの幅が広がること、すなわち用地の母集団が増えることに現れる。
建設費は総投資額の約9割を占めるため、単価の置き方が結論を最も大きく動かす。出発点の坪単価に対するインフレ率の織り込みを3通りに振り、成立に必要なADRの幅を示す。
| シナリオ | 建設単価の前提 | 建物 | 総投資額 | 必要ADR | 実勢との差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 坪253万円(2025年S造240.5万円+年2.5%×2年) | 20.59億円 | 23.15億円 | ¥10,200 | +42% |
| 中位(本稿の前提) | 坪265万円(同+年5.0%×2年) | 21.56億円 | 24.12億円 | ¥10,600 | +37% |
| 悲観 | 坪280万円(同+年8.0%×2年) | 22.78億円 | 25.34億円 | ¥11,200 | +30% |
建設単価を坪280万円まで見ても必要ADRは¥11,200で、南区の実勢を30%下回る。逆に必要ADRが実勢¥14,500に届くのは坪370万円前後(2025年比+54%)で、これは足元のインフレ率からは想定しにくい水準である。建設費側の振れは、この立地では投資成立の可否を分ける変数になっていない。
前提の振れ幅も見ておきたい。客室原単位を変えると必要ADRは大きく動く。
| 客室原単位(延床÷客室) | 必要延床 | 必要敷地(600%) | 総投資額 | 必要ADR |
|---|---|---|---|---|
| 22.0㎡/室(宿泊特化型) | 2,200㎡ | 367㎡ | 19.74億円 | ¥8,700 |
| 26.9㎡/室(本稿の実測中央値) | 2,690㎡ | 448㎡ | 24.14億円 | ¥10,600 |
| 31.0㎡/室 | 3,100㎡ | 517㎡ | 27.81億円 | ¥12,200 |
| 35.0㎡/室 | 3,500㎡ | 583㎡ | 31.40億円 | ¥13,800 |
目標利回りと稼働率の置き方でも必要ADRは動く。いずれも通年ベースの試算前提値として、2軸で振ったものが次表である。
| 目標NOI利回り | 通年稼働率75% | 通年稼働率80% | 通年稼働率85% |
|---|---|---|---|
| 4.5% | ¥10,200 | ¥9,600 | ¥9,000 |
| 5.0% | ¥11,300 | ¥10,600 | ¥10,000 |
| 5.5% | ¥12,500 | ¥11,700 | ¥11,000 |
| 6.0% | ¥13,600 | ¥12,800 | ¥12,000 |
目標利回りを6.0%・通年稼働率75%(試算前提値)まで厳しく置いても必要ADRは¥13,600で、南区の実勢¥14,500の範囲内に収まる。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要だが、高さと容積の組み合わせが変わったことで検討可能な用地の幅が広がったという方向性は読み取れる。
用地開発担当が持ち帰るべき3点
容積率だけを見ない
絶対高さ制限は容積率の実効上限を決める。建ぺい率80%なら20mで480%、31mで800%が消化の限界。容積率の数字が残っていても、高度地区の指定値が低ければ床は建たない。用地の一次スクリーニングでは両方を同時に見る。
緩和の効果は「敷地の母数」に出る
京都駅南部では100室に必要な敷地が672㎡から448㎡へ33.3%縮小した。必要ADRの低下は¥11,200→¥10,600と限定的だが、検討可能な売り物件の母集団が広がる効果のほうが大きい。用地情報の探索条件を更新する価値がある。
供給への転換には3〜5年かかる
着工から竣工まで平均2.80年、その前段に用地・設計・確認申請が乗る。2023年施行の緩和が客室として姿を現すのは2026年以降。足元の供給数の増減で緩和の成否を判断するのは早い。
もうひとつ、全国の計画データが示す事実を添えておきたい。建設中・計画中のホテルの階数中央値は14階で、これは31mの高度地区には収まらない。客室数ベースでは82.0%が10階を超える建物に載っている。高さ制限31mというラインは、現在のホテル開発の標準的な姿と正面からぶつかる水準にある。逆に言えば、31m以下の高度地区が広く指定されているエリアでは、低層で成立する商品設計——客室原単位を22㎡前後に抑えた宿泊特化型、あるいは1階あたり20室以上を確保できる整形の敷地——が投資機会になる。縦に伸ばせない場所では、横と原単位で解くことになる。
京都市の場合、緩和されたのは京都駅南部・らくなん進都・東部方面の外環状線沿道などであり、都心の田の字エリアは変更されていない。都心の高さ環境が据え置かれた以上、京都市内で新規に規模のあるホテルを組み立てる余地は、緩和対象エリアに相対的に集まりやすい。南区の推定成約ADRが都心(下京区)の90.6%まで来ていることは、その前提として押さえておいてよい数字である。
データの読み方に関する注記:建設計画(N=70件)は国土交通省「建築物動態統計調査」の確認申請ベースであり、確認申請は通常開業の1〜2年前に行われる。したがって未来年の件数・客室数は構造的に過少カウントとなり、今後の申請追加により増加する見込みである。現時点での確定パイプラインの下限値として参照されたい。新規開業(OTA掲載確認ベース)についても、OTA掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の年は今後の掲載で増加する可能性がある。また高さ・階数の換算はいずれも階高3.1mを置いた単純計算であり、地階・塔屋・斜線制限・日影規制は考慮していない。個別の用地では必ず所管の自治体で指定内容を確認されたい。
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- 2026年新規開業の61%は市街化区域の外 — 開発許可・農地転用で変わる開業までの時間
- 県別の宿泊供給は分母で入れ替わる — 簡易宿所44,901施設で京都21位→5位
参考資料・出典一覧
■ データソース
建設計画は国土交通省「建築物動態統計調査」に基づく50室以上の計画70件・15,517室(うち階数判明66件・14,965室)。推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計した京都市4区の月次値(2025年9月〜2026年7月の11ヶ月、南区N=55施設/下京区N=160/中京区N=102/東山区N=49)。高度地区の指定値は京都市・世田谷区の公表資料、地価は国土交通省「地価公示」2026年、建設単価は同「建築着工統計調査」2025年による。
■ 試算前提
延床÷客室数26.9㎡/室(計画のうち主用途がホテル単独かつ延床が判明する29件の中央値)、階高3.1m、建設単価は2025年のS造坪単価240.5万円に年+5%のインフレを2年分織り込んだ坪265万円(楽観253万円/悲観280万円)、目標NOI利回り5.0%、GOP率35%、通年稼働率80%(試算前提値)、客室売上比率90%、開業2029年。土地代は区別の全用途平均地価に必要敷地面積を乗じた概算。
■ 限界・留意点
高さ・階数の換算は階高3.1mを置いた単純計算であり、地階・塔屋・斜線制限・日影規制・容積率の各種緩和は考慮していない。建設計画は確認申請ベースのため未来年は構造的に過少カウントとなり、確定パイプラインの下限値として読む必要がある。推定成約ADRはOTA公開価格に業態別の補正係数を適用した推定値(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値約7%)であり、実際の成約価格・会計数値とは異なる。稼働率は実測値ではなく投資試算の前提値。個別の用地では必ず所管自治体で指定内容を確認されたい。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(京都市南区N=55施設/下京区N=160/中京区N=102/東山区N=49)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)
■ 都市計画・行政資料(一次資料)
- 京都市「(令和5年4月・11月 都市計画変更)みんなが暮らしやすい魅力と活力のあるまちの実現に向けた都市計画の見直しについて」(令和5年4月発行、都市計画局都市企画部都市計画課)
- 京都市「高度地区」
- 京都市「2 用途地域、高度地区等」(市街化区域の約95.3%に高度地区を指定)
- 世田谷区「高度地区について」(絶対高さ制限の指定値7区分、平成31年4月1日施行)
■ 政府統計
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(建設計画N=70件・15,517室、うち階数判明66件)
- 国土交通省「建築着工統計調査」(2025年 構造別坪単価:S造240.5万円、RC造202.6万円)
- 国土交通省「地価公示」2026年(京都府商業地の平均価格が32年ぶりに100万円/㎡台、府内商業地の最高上昇率は京都市南区)
- 土地代データ「京都市の土地価格相場・公示地価」2026年(区別の全用途平均。国土交通省「地価公示」を集計した第三者サイト)
■ 報道
