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ホテルラポール千寿閣 跡地の地価は5年で+20.8% — 容積率400%・2,700坪の必要ADR逆算

投稿日 : 2026.09.08

神奈川県

東京都

投資・開発

ホテルラポール千寿閣 跡地の地価は5年で+20.8% — 容積率400%・2,700坪の必要ADR逆算

神奈川県相模原市南区上鶴間本町、JR町田駅南口から徒歩5分ほどの敷地に建っていた「ホテルラポール千寿閣」が営業を終えてから5年が経つ。跡地は現在、305台収容の時間貸駐車場である。本稿が扱うのは閉館の経緯ではなく、その土地の側の経済である。閉館の翌年から公示地価は上がり続け、2026年には2021年比で+20.8%に達した。商業地域・容積率400%・敷地約2,700坪という条件がそろった駅至近の一等地が、なぜ5年間ホテル用途に戻らないのか。土地代・建設費・達成可能な客室単価の3つを突き合わせて、必要ADR(平均客室単価)を逆算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 必要ADR:土地取得費と建設費の合計に対して想定の投資利回りを満たすために必要となる客室単価。本稿では通年稼働率85%・GOP率40%・利回り5%を共通前提とした簡易試算値であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
  • 公示地価:国土交通省「地価公示」の標準地価格(毎年1月1日時点)。実際の取引価格そのものではありません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ
跡地至近の公示地価
+20.8%
2021→2026年・上鶴間本町
用途地域・容積率
400%
商業地域/建蔽率80%
容積率フル消化時の客室数
1,020室
客室原単位35.0㎡で逆算
半径3km圏の一般宿泊在庫
1,314室
13施設・レジャー業態除く
エリア推定ADR中央値
¥8,900
2026年7月・N=10施設
Key Takeaways
  • +20.8% — 跡地至近の公示地価(2021→2026年)。町田駅の東京都側(+14.2〜14.8%)を上回り、閉館の翌々年から反転した。
  • — 商業地域・容積率400%・敷地約2,700坪。フル消化なら1,020室だが、半径3km圏の一般宿泊在庫1,314室の77.6%に相当する。
  • — 必要ADRは200室で¥17,100、400室で¥12,700、1,020室で¥10,000。エリア中央値¥8,900の1.13〜1.92倍にあたる。
  • — 利回り4.0〜6.0%×稼働率75〜90%の20通りを試算しても、400室の必要ADRは最低¥9,600。エリア中央値には届かない。
  • — ホテル単独では規模のどちら側にも解がない。複合用途なら土地代を用途間で分担でき、取得者がマンションデベロッパーである事実と整合的だ。

跡地は305台の時間貸駐車場 — 2026年9月時点で確認できること

まず現況を一次情報で確認しておく。パーク24の駐車場検索には「タイムズ町田駅南口」(神奈川県相模原市南区上鶴間本町3-11)が掲載されており、収容305台・24時間入出庫可・通常料金30分200円・月〜金は駐車後24時間最大600円、土日祝は同700円という内容が2026年9月2日時点で確認できる。地域情報サイト「さがみはらあたり。」の現地記録によれば、この駐車場が開業したのは2025年6月1日である。

そこに至る経緯も、公開情報でおおむね追える。閉館を伝えたタウンニュースさがみはら南区版(2021年6月3日)は、運営していた千寿産業がホテルとボウリング場を併せた敷地約2,700坪の土地・建物を売却して事業の清算を図る方針であると報じた。その後、建通新聞は2023年5月にゴールドクレストによる跡地取得を報じ、不動産専門メディアRealnetは2024年2月の現地レポートで「ゴールドクレストが土地・建物を取得後2023年4月より解体工事を進めており、現在は更地になっている」と記録している。つまり取得から解体完了までが約1年、そこから暫定利用の駐車場開業までさらに1年強という時間軸だ。2026年9月2日時点で、恒久用途に関する事業者の公式発表は確認できていない。

閉館から跡地暫定利用までの時系列(2021年4月〜2026年9月)
時点確認できる事実情報源
2021年4月28日営業廃止を発表(同年1月に決断、4月27日に全社員・株主へ説明)タウンニュース(2021/6/3)
2021年8月31日ホテル(48室)閉館。隣接の町田ボウリングセンターも同日閉鎖運営会社発表/既報
2023年5月ゴールドクレストが跡地を取得したことが報じられる建通新聞(2023/5/10)
2023年4月〜解体工事に着手。2024年2月時点で更地化を現地確認Realnet(2024/2/5)
2025年6月1日時間貸駐車場「タイムズ町田駅南口」開業(305台)地域情報サイト現地記録(2025/6/3)
2026年9月2日同駐車場が掲載継続中。恒久用途の公式発表は確認できずパーク24 駐車場検索
出典:各報道・事業者公開情報よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

閉館そのものの経緯は2021年5月の既報に、閉館後5年間の町田駅前ホテル市場の変化については別稿にゆずる。本稿は土地の事業性だけを扱う。

閉館の翌年から地価は反転 — 上鶴間本町は5年で+20.8%、町田駅側を上回る

国土交通省の地価公示から、跡地の同一街区にある標準地「相模原南5-3」(上鶴間本町3-10-7、JR町田駅から200m)の推移を追うと、閉館前後の局面転換がはっきり出る。2021年は前年比−1.5%、2022年は横ばい(0.0%)。反転したのは2023年(+1.5%)で、以降は+5.4%(2024年)、+6.0%(2025年)、+6.6%(2026年)と加速している。2021年の¥404,000/㎡は2026年に¥488,000/㎡となり、5年で+20.8%となった。

注目したいのは、町田駅の東京都側の標準地よりも上昇率が高いことである。原町田4-1-7(町田5-2)は同期間で+14.2%、小田急町田駅至近の原町田6-3-9(町田5-9)は+14.8%。絶対水準では東京都側が¥2,010,000〜¥3,110,000/㎡と神奈川県側の4〜6倍あるが、この5年の伸び率では県境の南側が上回った。相対的な出遅れが解消される局面に入ったと読める。

公示地価の推移(2021年=100、町田駅周辺3地点)
出典:国土交通省「地価公示」(不動産情報ライブラリ)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
町田駅周辺 公示地価3地点の推移(2021年→2026年)
標準地所在2021年2026年5年変化2026年前年比
相模原南5-3相模原市南区上鶴間本町3-10-7¥404,000¥488,000+20.8%+6.6%
町田5-2町田市原町田4-1-7¥1,760,000¥2,010,000+14.2%+5.2%
町田5-9町田市原町田6-3-9(小田急町田駅120m)¥2,710,000¥3,110,000+14.8%+4.7%
単位は円/㎡。出典:国土交通省「地価公示」(不動産情報ライブラリ)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

用途規制の側も確認しておく。跡地の所在する街区は商業地域、容積率400%、建蔽率80%(国土交通省 不動産情報ライブラリ「用途地域」データ、相模原市決定)である。敷地約2,700坪=約8,926㎡に対して、容積率をフルに使えば延床面積の上限は約35,700㎡となる。都市計画上のポテンシャルは十分に大きい。なお大規模な宿泊施設を建てる場合は駐車場の附置義務も設計上の制約になり、都市によって必要台数に2.5倍の開きがある点も併せて確認しておきたい。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省「地価公示」

周辺需要 — 半径1km圏に事業所2,739・従業者34,517人、オフィス系は17.2%

需要側の土台も見ておきたい。跡地から半径1kmの圏内には事業所2,739・従業者34,517人が集積している(総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」、境界は国勢調査小地域)。ただしオフィス系従業者の比率は17.2%である。町田駅前は業務地というより商業・サービス業の集積地であり、平日の法人出張需要よりも、商圏人口に紐づく来街需要・受験や研修といったイベント需要の比重が高い構造だと読める。多摩地域3市の宿泊供給と就業構造の関係は別稿で整理している。

宿泊単価の側は着実に上がっている。メトロエンジンリサーチが集計する町田市の推定成約ADR中央値(対象施設11施設)は、2026年2〜7月の6ヶ月平均で前年同月比+8.8%。月別では2026年4月が¥8,700(前年同月比+11.5%)、5月が¥8,700(+10.4%)、7月が¥8,300(+3.7%)である。跡地から半径3km圏の主要10施設で見ても、推定成約ADRの中央値は2025年7月の¥8,000から2026年7月の¥8,900へ+10.4%となった(N=10施設)。

町田市の推定成約ADR 月次推移(年別重ね合わせ・中央値)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(町田市・対象11施設の中央値、確定基準の月のみ表示)

半径3km圏の宿泊在庫は13施設1,314室 — 上位帯は¥12,800が天井

逆算の前提となる「この立地でいくら取れるか」を、周辺の実勢から押さえる。跡地を中心に半径3km圏の宿泊施設をエリア検索で抽出すると、レジャー業態を除く一般宿泊施設は13施設・計1,314室。千寿閣の48室を含めれば閉館前は1,362室だったので、この5年でエリア在庫の3.5%が抜けた計算になる。

半径3km圏 一般宿泊施設の価格帯別内訳(2026年7月)
価格帯施設数客室数合計主な業態推定成約ADR
2026年7月のレンジ
¥11,000以上2220シティ(宴会・レストラン併設)¥11,100〜¥12,800
¥8,000〜¥10,9995736宿泊主体¥8,300〜¥10,200
¥8,000未満3271宿泊主体¥5,800〜¥7,000
推定成約ADRを取得できた10施設101,227中央値 ¥8,900
推定成約ADRを継続的に取得できた10施設。ほかに旅館・簡易宿所等3施設(計87室)が圏内にある。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=10施設、半径3km)

読み取るべき点は2つある。第一に、中央値は¥8,900まで上がったが、上位帯の天井は¥12,800であること。第二に、その上位帯を担うのがシティホテル業態の2施設に限られることだ。町田駅圏は宿泊主体型が厚く積み上がった市場であり、¥13,000を超える帯はまだ形成されていない。なお千寿閣と同じく大規模宴会場を持っていた小田急ホテルセンチュリー相模大野は、2021年8月に宴会場営業を終えて9月から宿泊特化型へ業態転換し、現在もエリア最高水準の単価で営業を続けている。フルサービス型の床を宿泊側へ寄せた事業者が、5年後にエリア単価の上限を担っているという事実は、跡地の用途を考えるうえで示唆的だ。

客室規模 × 推定成約ADR ポジショニング(半径3km圏・2026年7月)
円の大きさは口コミ件数。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=10施設)

必要ADRの逆算 — 200室で¥17,100、400室で¥12,700、容積率フルで¥10,000

ここまでの数字を組み合わせる。土地代は公示地価ベースで約43.6億円(¥488,000/㎡×8,926㎡)。2021年時点なら約36.1億円だったので、この5年で7.5億円ぶん重くなった。建設費は、当社が確認申請ベースの計画31件から逆算したホテル1室あたり2,067万円(客室原単位35.0㎡)を用いる。これは国土交通省「建築着工統計」の2024年ホテル建築費(全構造平均195万円/坪)とおおむね整合する水準である。

通年稼働率85%・GOP率40%・投資利回り5%を共通前提に、規模別の必要ADRを逆算すると次のようになる。

規模別シナリオの必要ADR逆算(通年稼働率85%・GOP率40%・利回り5%)
シナリオA. 200室B. 400室C. 1,020室(容積率フル)
延床面積(客室原単位35.0㎡)7,000㎡14,000㎡35,700㎡
容積率消化78%157%400%
土地代(公示地価ベース)43.6億円43.6億円43.6億円
土地代/1室21.8百万円10.9百万円4.3百万円
建設費41.3億円82.7億円210.8億円
総投資額84.9億円126.2億円254.4億円
必要ADR(利回り5%)¥17,100¥12,700¥10,000
エリア中央値(¥8,900)に対する倍率1.92倍1.43倍1.13倍
建設期間インフレ織込み後の総投資額96.3億円149.0億円312.4億円
同・必要ADR¥19,400¥15,000¥12,300
※2030年開業・2029年を施工中間時点と仮定し、2025年+5.6%/2026年+5.3%/2027年+5.0%/2028年以降+4.5%の建設費上昇率で複利計算(累積+27.5%)。通年稼働率85%・GOP率40%・利回り5%の簡易試算。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省「建築着工統計」
規模別の必要ADR と エリア実勢(利回り5%前提)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(必要ADRは簡易試算値)

この表が示す構造は明快だ。土地代は規模に関係なく43.6億円で固定されるため、客室数を増やすほど1室あたりの土地負担が下がり、必要ADRも下がる。200室で1室あたり21.8百万円だった土地負担は、容積率をフルに使う1,020室なら4.3百万円まで下がる。必要ADRは¥17,100→¥10,000へ、エリア中央値の1.92倍から1.13倍へと近づく。

しかし、そこに需要側の壁がある。容積率フル消化の1,020室は、現在の半径3km圏の一般宿泊在庫1,314室の77.6%に相当する。単一敷地でエリア在庫を8割近く積み増すことになり、しかもエリアの上位帯は¥12,800が天井である。1,020室を¥10,000で通年85%回すという前提そのものが、この商圏の吸収力を大きく超えている。建設費インフレを織り込めば必要ADRは¥12,300となり、エリア最高水準に並ぶ。再開発の保留床としてホテル床を取得する場合に必要となる単価水準は、神戸三宮・雲井通の保留床522億円の事例でも同じ枠組みで検証している。

感度分析 — 利回り×稼働率の20通りでも、エリア中央値には届かない

ここまでの必要ADRは通年稼働率85%・利回り5%という単一の前提に依存している。前提の置き方で結論が変わるのかを確かめるため、最も現実的な規模であるB. 400室(総投資額126.2億円)について、投資利回り4.0〜6.0%×稼働率75〜90%の20通りを逆算した。網掛けはエリア上位帯の天井¥12,800以下に収まるセルである。

必要ADR感度分析:投資利回り × 稼働率(B. 400室・総投資額126.2億円・GOP率40%)
投資利回り\稼働率75%80%85%90%
4.0%¥11,530¥10,800¥10,170¥9,600
4.5%¥12,970¥12,160¥11,440¥10,800
5.0%¥14,410¥13,510¥12,710¥12,010
5.5%¥15,850¥14,860¥13,980¥13,210
6.0%¥17,290¥16,210¥15,250¥14,410
網掛け=エリア上位帯の天井¥12,800以下。必要ADR=総投資額×投資利回り÷(客室数×365日×稼働率×GOP率)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(簡易試算値)

20セルのうち天井¥12,800以下に収まるのは9通り、いずれも利回りを5.0%以下に抑えるか稼働率を85%以上に置いた場合に限られる。より重要なのは、エリア中央値¥8,900を下回るセルが0通りであることだ。最も緩い前提(利回り4.0%・通年稼働率90%)でも必要ADRは¥9,600にとどまり、中央値の1.08倍である。前提の置き方を動かしても、400室のホテル単独開発が「エリアの標準的な単価で回る」水準には入らない。

3シナリオ — 土地取得条件と建設費を動かした場合の幅

利回りと稼働率に加えて、土地の取得倍率と建設費インフレも動かした3シナリオを置く。土地代は公示地価43.6億円を基準に、交渉余地のある場合を0.9倍、競合入札で押し上がる場合を1.1倍とした。

B. 400室の3シナリオ(楽観・中位・悲観)
前提楽観中位(基準)悲観
土地代(公示地価比)0.9倍 39.2億円1.0倍 43.6億円1.1倍 48.0億円
建設費基準 82.7億円基準 82.7億円インフレ後 105.4億円
総投資額121.9億円126.3億円153.4億円
投資利回り/稼働率4.5%/88%5.0%/85%5.5%/82%
必要ADR¥10,700¥12,700¥17,600
エリア中央値¥8,900に対する倍率1.20倍1.43倍1.98倍
エリア天井¥12,800との関係下回るほぼ並ぶ大きく上回る
GOP率40%は全シナリオ共通。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(簡易試算値)

楽観シナリオでも必要ADRは¥10,700で、エリア中央値の1.20倍。これは現在のエリア上位帯(シティホテル業態2施設・¥11,100〜¥12,800)の中に位置する水準であり、宿泊主体型ではなくフルサービスに近いプロダクトを、開業時点で既存最上位と同等の単価で立ち上げることを要求する。中位で天井にほぼ並び、悲観では¥17,600——エリア最高値の1.4倍近くに達する。幅を取っても、成立レンジは「楽観の端」にしか存在しない。

ホテル単独では届かない

小規模なら必要ADRがエリア実勢の約1.9倍、大規模なら客室数がエリア在庫の8割に達する。土地の重さと商圏の吸収力が、規模のどちら側でも制約になる。

複合用途なら成立余地

住宅・商業と組み合わせれば、土地代を複数用途で分担しながら容積率を消化できる。マンションデベロッパーが取得者であることは、この経済条件と整合的だ。

暫定利用としての駐車場

305台の時間貸駐車場の年間粗収入は、稼働・単価の仮定次第でおよそ2,800万〜5,300万円のレンジ。土地評価額43.6億円に対する粗利回りは0.6〜1.2%で、収益事業というより計画確定までの保有コスト圧縮策と位置づけられる。

宴会・婚礼併設型の跡地は、ホテルに戻りにくい

この構造は町田固有のものではない。同じ2021年、宇都宮市では1954年創業・1971年に西洋式へ転換した宇都宮グランドホテルが7月31日に閉館し、8月20日に破産手続開始決定(負債10億8千万円)を受けた。閉館倒産はいずれも既報のとおりだが、その後の跡地利用が示唆的である。2022年末にグランディハウスが庭園を含む3.5万㎡を取得し、138区画の宅地として開発する計画を2023年1月に発表した。ホテル用途には戻っていない。

宴会場・婚礼施設を持つローカル総合ホテルは、共通して「駅至近・大規模敷地・低層」という不動産特性を持つ。これは開業当時の宴会需要とバンケット動線が要求した形であり、現在の土地価格水準から見れば容積率を大きく余らせた状態を意味する。この余剰容積は、住宅・商業用途にとっては素直な開発余地となる一方、ホテル用途で消化しようとすると前掲のとおり客室数が商圏の吸収力を超えてしまう。結果として、宴会・婚礼併設型の跡地は住宅・商業・暫定駐車場のいずれかに向かいやすい。既存ホテルの宴会場を客室へ転換する経済条件については別稿で、跡地転用一般の必要ADR水準については百貨店跡地の検証で扱っている。

投資・運営への示唆

第一に、閉館の判断時点と土地価値のサイクルはずれる。千寿閣の閉館判断は2021年1月、公示地価が前年比−1.5%だった局面である。その2年後から地価は上昇に転じ、5年で+20.8%となった。事業としての撤退判断と、資産としての売却タイミングは別の変数だという当たり前の事実が、この事例では5年ぶんの数字として可視化されている。

第二に、駅至近の低層大規模敷地をホテル用途で再取得しようとする場合、必要ADRの試算は「土地代/1室」から始めるべきだ。本件のように土地代が1室2,000万円を超える水準では、建設費と同等かそれ以上の負担となり、宿泊主体型のプロダクトでは吸収しきれない。高層化による原単位の希釈が効くが、それは商圏の吸収力という別の制約に突き当たる。逆に土地取得原価の低さが必要ADRをどこまで押し下げるかについては、企業保養所コンバージョンの投資経済性が対照的な事例になる。

第三に、それでも町田駅圏の宿泊市場そのものは強い。推定成約ADRは前年同月比+8.8%(2026年2〜7月平均)で推移し、エリア中央値は¥8,900に達した。新宿・横浜双方へ30分前後というアクセス、商圏人口の厚み、半径1km圏の従業者34,517人という需要基盤は健在である。伸びしろがあるのは市場ではなく、この一等地を宿泊用途で成立させるための事業スキームの側だ。複合開発の一部として中規模のホテル床を組み込む、あるいは土地の一部だけを宿泊用途に充てる——そうした設計であれば、必要ADRはここで示した水準より大きく下がる。跡地の恒久用途が公表される日には、この5年の地価上昇分をどう配分したかが読み取れるはずである。

⚠ 試算に関する注意:本稿の必要ADRは、公示地価を土地代の代理変数とし、稼働率85%・GOP率40%・利回り5%を共通前提として算出した簡易試算です。実際の取得価格、建築計画、事業スキームによって数値は大きく変動します。また、推定成約ADRのうち2026年8月以降の月は調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します(本稿の分析は確定基準の2026年7月までを対象としています)。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

まとめ

ホテルラポール千寿閣の跡地は、閉館から5年を経た2026年9月時点で305台の時間貸駐車場として使われている。その土地の公示地価は2021年比+20.8%となり、町田駅の東京都側(+14.2〜14.8%)を上回る上昇を示した。商業地域・容積率400%という規制条件は十分に大きいが、容積率をフルに使えば客室数は1,020室となり、半径3km圏の一般宿泊在庫1,314室の77.6%に相当してしまう。一方で規模を絞れば1室あたり土地負担が21.8百万円まで膨らみ、必要ADRはエリア中央値¥8,900の1.92倍に当たる¥17,100となる。ホテル単独用途では、規模のどちら側にも解がない。取得したのがマンションデベロッパーであることは、この経済条件からすれば自然な帰結である。宴会・婚礼併設型のローカル総合ホテルが残した敷地は、宿泊需要が回復した後も宿泊用途に戻るとは限らない——町田と宇都宮の2件は、その同じ構造を別の形で示している。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(町田市=対象11施設の中央値、半径3km圏=推定成約ADRを継続的に取得できた10施設の中央値、いずれも2024年9月〜2026年7月の月次系列)。公示地価・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ、半径1km圏の事業所数・従業者数は総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(境界=国勢調査小地域)。建設費は国土交通省「建築着工統計調査」および当社が確認申請ベースの計画31件から逆算した1室あたり2,067万円(客室原単位35.0㎡)。

■ 試算前提

必要ADR=総投資額×投資利回り÷(客室数×365日×稼働率×GOP率)。基準ケースは通年稼働率85%・GOP率40%・投資利回り5%。土地代は公示地価(相模原南5-3・2026年 ¥488,000/㎡)×敷地面積8,926㎡=43.6億円を代理変数とした。建設費インフレケースは2030年開業・2029年を施工中間時点と仮定し、2025年+5.6%/2026年+5.3%/2027年+5.0%/2028年以降+4.5%で複利計算(累積+27.5%)。感度分析は投資利回り4.0〜6.0%×稼働率75〜90%の20通り、3シナリオは土地取得倍率(0.9/1.0/1.1倍)・建設費・利回り・稼働率を組み合わせて算出した。

■ 限界・留意点

推定成約ADRはOTA等で公開される販売価格に業態別の補正係数を適用した推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。公示地価は毎年1月1日時点の標準地価格であり、実際の取引価格そのものではない。本稿の必要ADRは土地代・建設費・稼働率・GOP率・投資利回りのみを変数とした簡易試算であり、開発期間中の金利・諸経費、宿泊以外の収入、補助金、定期借地等のスキームは織り込んでいない。跡地の恒久用途に関する事業者の公式発表は2026年9月2日時点で確認できていない。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(町田市11施設/半径3km圏10施設)、エリア圏内宿泊施設検索(13施設1,314室)

■ 政府統計・公的データ

■ 報道・事業者公開情報

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