トップ > 投資・開発 > 北九州・小倉のホテル単価は博多の61% — 地価は16%、投資の空白価格帯

北九州・小倉のホテル単価は博多の61% — 地価は16%、投資の空白価格帯

投稿日 : 2026.09.08

福岡県

投資・開発

北九州・小倉のホテル単価は博多の61% — 地価は16%、投資の空白価格帯

福岡県には政令指定都市が2つある。人口約166万人の福岡市と、約92万人の北九州市だ。宿泊市場としてこの2都市は同じ県内にありながら、まったく別の価格構造で動いている。メトロエンジンリサーチの集計では、北九州市の中心である小倉北区の推定成約ADRは2026年7月時点で¥8,100、同月の博多区¥13,100に対して61.5%の水準にとどまる。一方で、小倉駅前の商業地の公示地価は博多駅周辺の16.3%である。収益は6割取れるのに、土地は6分の1しかかからない——この非対称性が、九州で中規模ホテルの取得・開発を検討する投資家にとっての論点になる。

本稿では、HotelBankの福岡県の既刊が福岡市(博多・天神)に集中してきたのに対し、北九州市を投資の主題として正面から扱う。同一県内に政令市が2つ並立するという構造そのものを、推定成約ADRと室ベースの在庫消化データから定量化し、価格帯の空白がどこにあるのかを特定する。関門海峡の対岸を扱った既刊『山口県の宿泊市場を4層で読む』とは県も切り口も異なり、消費者向けの連泊記事とも目的が違う。読者として想定するのは、中規模物件の取得を検討する投資家と、既存物件のリポジショニングを設計するアセットマネージャーである。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格:OTA上に掲載されている全プランの平均価格(2名1室利用時・1室あたり・税込)。ADRとは別の指標です。
  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。
  • 早期完売LT:残室数が初めて0室に到達したリードタイム。値が大きいほど早く完売したことを示します。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
Key Takeaways
  • 小倉北区の推定成約ADRは¥8,100、博多区¥13,100の61.5%(2026年7月時点/小倉北区 N=29施設・博多区 N=148施設)。前年同月比は小倉北区+0.6%に対し博多区+4.8%で、差は縮まっていない。
  • 小倉駅周辺の商業地地価は博多駅周辺の16.3%。加えて容積率が800%対600%のため、延床1㎡あたりの土地負担では12.2%——8分の1まで下がる。
  • ¥11,000〜¥18,000の価格帯に小倉北区は3施設(構成比15%)のみ。博多区38%・中央区51%との差が最大で、ここが本稿の特定するホワイトスペース。
  • 空白帯を狙う開発シナリオの利回りは5.4〜6.1%。現行水準をなぞるシナリオは3.3〜3.7%にとどまり、博多(3.2〜3.5%)と変わらない。土地の安さは単価を積んで初めて効く。
  • ADR−10%かつ稼働率−5ptの下振れでも4.5%を確保。ADR×稼働率の2軸感度グリッドでは25セルすべてが博多の市場水準(3.2%)を上回り、最も保守的な稼働率70%(通年)・ADR¥11,000でも3.7%を確保する。

小倉北区の推定成約ADRは博多区の61.5% — 差は縮まっていない

まず価格の絶対水準から確認する。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRを月次で並べると、小倉北区と博多区の差は一時的なものではなく、通年で安定した構造差として現れる。2026年7月の小倉北区は¥8,100(N=29施設)、博多区は¥13,100(N=148施設)、中央区(天神)は¥13,800(N=83施設)だった。

重要なのは変化の方向である。前年同月比で見ると、博多区は+4.8%、中央区は+1.2%、小倉北区は+0.6%。つまり福岡市側が単価を積み上げていく局面で、小倉北区はほぼ横ばいで推移してきた。差は縮まるどころか、緩やかに開いている。ただしこれは「小倉が弱い」という話ではない。後述する通り、小倉北区の9月以降の推定成約ADRは¥9,300〜¥10,500まで上がってきており、価格帯としては動き始めている。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(小倉北区 N=28〜30施設、博多区 N=138〜149施設)

2026年9月以降は調査時点の掲載水準にもとづく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。それでも、9月から12月にかけて小倉北区が¥9,300〜¥10,500のレンジで推移する見込みであること自体は、¥8,000台に張り付いていた前年からの明確な変化を示している。

地価は博多の16.3%、しかも容積率は800%対600% — 投資条件の非対称

収益側で6割の水準にあることは、それだけでは投資判断にならない。決め手になるのは、その収益を生むためにいくら投じる必要があるかである。国土交通省 不動産情報ライブラリの地価データ(2025年、地価公示・都道府県地価調査)を小倉駅・博多駅それぞれの周辺で抽出すると、条件の非対称がはっきり出る。

表:小倉駅周辺と博多駅周辺の土地条件比較(2025年)
項目小倉駅周辺博多駅周辺小倉/博多
商業地の地価(中央値)¥588,000/㎡¥3,610,000/㎡16.3%
駅至近地点の地価(最高)¥1,160,000/㎡¥8,100,000/㎡14.3%
地価の前年比(中央値)+4.9%+10.6%
駅前商業地の容積率800%600%1.33倍
用途地域商業地域商業地域
延床1㎡あたり土地負担¥73,500¥601,70012.2%

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査 2025年、各駅周辺の商業地 各N=12地点)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

小倉駅前の商業地は容積率800%・建蔽率80%が指定されており、博多駅東側の600%を上回る。地価が6分の1でありながら、同じ土地面積からより多くの延床を積める。延床1㎡あたりの土地負担に引き直すと、小倉は博多の12.2%——8分の1である。地価の上昇率も小倉が+4.9%と博多の+10.6%より緩やかで、取得タイミングの余裕という点でも条件が異なる。

ポジショニング分析 — ¥11,000〜18,000帯が小倉北区で3施設しかない

ここからが本稿の中心である。推定成約ADR(縦軸)と、室ベースの在庫消化スピードを示す平均早期完売LT(横軸)で、3つの区の個別施設をプロットした。対象は2026年8月17日〜23日の7日間チェックイン分について在庫推移が観測できた施設のうち、OTA公開枠が総客室の30%以上あるもの。小倉北区N=20施設、博多区N=39施設、中央区N=51施設である(推定成約ADRが¥3,000未満または¥40,000超の3施設は表示上除外)。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(小倉北区 N=20、博多区 N=39、中央区 N=51施設。円の大きさは客室数)

散布図が示す構造は明快だ。小倉北区の施設は¥5,000〜¥10,000の帯に強く固まっており、20施設のうち15施設がこのレンジに入る。対して博多区・中央区は¥9,000〜¥18,000が主戦場になっている。価格帯別の施設数で並べると、この偏りはさらにはっきりする。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年5〜8月の推定成約ADR平均。小倉北区 N=20、博多区 N=39、中央区 N=51施設)

¥11,000〜¥18,000の帯に、小倉北区は3施設(構成比15%)しかいない。博多区は15施設(38%)、中央区は26施設(51%)がこの帯にいる。上位ビジネス〜ライフスタイル型が福岡市側では市場の中核を占めているのに対し、小倉北区ではこの層がほぼ空白になっている。ここが本稿の特定するホワイトスペースである。同じ推定成約ADR×早期完売LTの枠組みで九州の他県の価格帯構造を読んだ宮崎・佐賀のホテル投資ホワイトスペースも、比較材料として併せて参照されたい。

密集帯 ¥5,000〜¥10,000

小倉北区20施設中15施設。宿泊特化型が中心で、価格による差別化の余地は限られる。既存物件の強みが最も効きやすい領域。

空白帯 ¥11,000〜¥18,000

小倉北区は3施設のみ(15%)。博多区38%・中央区51%との差が最大。上位ビジネス/ライフスタイル型の受け皿が薄い。

上位帯 ¥18,000以上

小倉北区1施設。既存のフルサービス型が担っており、新規参入で狙うより空白帯からの積み上げが現実的。

在庫消化スピードは博多より緩やか — LT90からLT47で24.1pt対32.8pt

価格帯の空白があっても、需要が薄ければ埋める意味がない。そこで室ベースの在庫推移で需給の張り具合を確認する。2026年10月16日(金)チェックインを対象に、LT90時点の残室数を100として消化の進み方を並べた。小倉北区は31施設・5,101室、博多区は218施設・22,973室が対象である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年10月16日チェックイン、小倉北区 N=31施設5,101室/博多区 N=218施設22,973室)

LT90からLT47(本稿の調査時点)までの間に、小倉北区の残室は24.1pt、博多区は32.8pt消化された。博多区のほうが早い。つまり小倉北区は、90日前から在庫が張り詰めるタイプの市場ではない。単価を一段上げるには、通年で押し上げるのではなく「取れる日」を特定して価格の階段を作るアプローチが要る。

その「取れる日」は確かに存在する。同じ2026年8月17日〜23日の期間集計では、小倉北区で最も早く完売した施設は7日間すべてで完売を観測し、平均早期完売LTは42.1日(55室規模)だった。次点も平均35.2日(52室)である。中規模施設が1ヶ月以上前に満室になる日が、平日を含む週の中に存在している。エリア全体としては緩やかでも、施設単位では明確な需要ピークが観測できるということだ。

需要基盤 — 小倉駅1km圏の従業者は博多駅圏の29%、供給は25%

空白帯を埋める需要が本当にあるのかを、立地の基礎条件から確認する。総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」を用いて両駅の半径1km圏を比較すると、小倉駅圏には4,087事業所・従業者49,964人が集積している。博多駅圏(9,758事業所・171,730人)に対して事業所数で41.9%、従業者数で29.1%の規模である。

表:小倉駅・博多駅 半径1km圏の需要基盤と宿泊供給
指標小倉駅 半径1km博多駅 半径1km小倉/博多
事業所数4,0879,75841.9%
従業者数49,964171,73029.1%
オフィス系比率19.6%30.4%
宿泊施設数5525221.8%
客室数5,723室22,906室25.0%
従業者1,000人あたり客室数114.6室133.4室85.9%

出典:総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」/境界は国勢調査2020小地域(e-Stat統計GIS)、宿泊供給はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング

従業者ベースの需要規模が博多駅圏の29.1%であるのに対し、客室供給は25.0%。従業者1,000人あたりの客室数は小倉114.6室・博多133.4室で、小倉のほうが供給密度は低い。ビジネス需要の厚みに対して客室が余っている構造ではない、と読める。北九州市を含む地方政令市を横並びで比較した視点は、地方政令市「2軍」5都市のホテル投資ポテンシャルで5都市分をまとめている。

居住人口の側も見ておく。国土交通省 国土数値情報の250mメッシュ推計によれば、小倉駅から半径1.5km圏の居住人口は2025年時点で34,529人、生産年齢人口比率65.2%、2040年の推計は33,623人で2025年比マイナス2.1%である。地方都市の中心部としては、人口減の勾配は極めて緩やかな部類に入る。北九州市自身も2025年度当初予算で「観光大都市への進化」を重点テーマに掲げ、宿泊客240万人を目標としている(西日本新聞報道)。小倉駅は新幹線と在来線、モノレールが交わる九州北部の結節点である。

小倉駅半径1.2km圏の宿泊施設分布(10室以上、N=55施設5,876室)。円の大きさは客室数。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

開発シナリオ試算 — 空白帯を狙うと利回りは5.4〜6.1%、博多は3.2〜3.5%

ここまでの条件を1室あたりの投資額と収益に落として比較する。前提は延床35㎡/室(客室25㎡+共用部)、稼働率80%(通年ベース・博多は82%)、客室売上に対する付帯売上15%、GOP率35%。建設費は国土交通省「建築着工統計」にもとづくホテル用途の坪単価水準(2024年の全国平均は坪195万円)を出発点に、ミドルクラス想定として坪230万円(¥695,700/㎡)を置いた。土地は前掲の商業地中央値と容積率から算出している。

建設費は2段階で示す。Stage 1は2025年実績ベース、Stage 2は建設期間中のインフレを織り込んだもので、2029年開業・施工中間時点2028年として年+5.3%/+5.0%/+4.5%(Turner & Townsend予測)を複利で乗せ、係数1.155を適用した。

表:開発シナリオ別の1室あたり投資額・GOP・利回り(Stage 1/Stage 2)
項目 A. 小倉・空白帯 B. 小倉・現行水準 C. 博多・市場水準
想定ADR(税抜相当)¥14,000¥8,500¥13,100
想定稼働率80%80%82%
土地(1室あたり)¥2.6M¥2.6M¥21.1M
建設費 Stage 1(2025年実績)¥24.4M¥24.4M¥24.4M
総投資 Stage 1¥26.9M¥26.9M¥45.4M
GOP(1室・年)¥1.65M¥1.00M¥1.58M
利回り Stage 16.1%3.7%3.5%
総投資 Stage 2(インフレ後)¥30.7M¥30.7M¥49.2M
利回り Stage 25.4%3.3%3.2%
回収年数 Stage 219年31年31年

出典:国土交通省「建築着工統計」「不動産情報ライブラリ」、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングより作成。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

結論はシンプルだ。小倉で現行の価格水準(シナリオB)をなぞるなら、利回りは博多とほぼ同じ3%台にとどまる。土地が安い分の優位は、単価が低い分で相殺されてしまう。優位が生きるのは、空白帯である¥11,000〜¥18,000のレンジを取りにいったとき(シナリオA)だけである。ここで初めて利回りは5%台に乗り、回収年数は31年から19年に短縮する。土地が安いことそのものが投資機会なのではなく、土地が安いことで「単価を積む挑戦を、低いダウンサイドで試せる」ことが機会になる。

感度分析でもこの構造は保たれる。シナリオA(Stage 2)を基準に、ADRを10%引き下げた¥12,600でも4.8%、稼働率を5pt下げた75%でも5.0%、両方を同時に置いた場合でも4.5%となり、博多の市場水準シナリオ(3.2%)を上回る。前提のADR達成が計画通りにいかない場合でも、土地負担の軽さが下振れを吸収する構造になっている。

表:シナリオA(Stage 2)の1次元感度分析
感度シナリオ(A・Stage 2)ADR稼働率GOP利回り
ベースケース¥14,00080%¥1.65M5.4%
ADR −10%¥12,60080%¥1.48M4.8%
稼働率 −5pt¥14,00075%¥1.54M5.0%
両方¥12,60075%¥1.39M4.5%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(簡易試算)

1次元の感度分析は、ADRと稼働率のどちらか一方だけを動かした姿にすぎない。実際の下振れは両方が同時に効く。シナリオA(Stage 2・総投資¥30.7M/室)を基準に、想定ADRと想定稼働率(いずれも通年ベース)を2軸で振った利回りのグリッドを置く。濃い青がベースケース、薄い青が利回り5%以上の領域である。

表:想定ADR×想定稼働率の2軸感度 — シナリオA(Stage 2)の利回り
利回りADR ¥11,000ADR ¥12,600ADR ¥14,000ADR ¥15,400ADR ¥17,000
稼働率 70%(通年)3.7%4.2%4.7%5.2%5.7%
稼働率 75%(通年)3.9%4.5%5.0%5.5%6.1%
稼働率 80%(通年)4.2%4.8%5.4%5.9%6.5%
稼働率 85%(通年)4.5%5.1%5.7%6.3%6.9%
稼働率 90%(通年)4.7%5.4%6.0%6.6%7.3%

利回り=GOP÷総投資額(1室あたり)。GOP=ADR×稼働率×365×1.15(付帯売上)×0.35(GOP率)。総投資はStage 2(インフレ係数1.155適用後)の¥30.7M/室で固定。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(簡易試算)

グリッドが示すのは、この投資機会の頑健さの範囲である。空白帯の下限にあたるADR¥11,000・稼働率70%(通年)という最も保守的な組み合わせでも3.7%で、博多の市場水準(3.2%)を上回る。逆に、ADRが¥11,000に届かず現行水準の¥8,500付近にとどまるなら、稼働率を90%まで積んでも3%台後半で頭打ちになる(前掲シナリオB)。この投資判断を分けるのは稼働率ではなくADRである——グリッドの行方向(稼働率)より列方向(ADR)の傾きが急なことが、それを示している。

既存物件のリポジショニングという第2の入口

新規開発だけが選択肢ではない。むしろ北九州市の場合、既存ストックの再配置のほうが現実的な入口になる可能性が高い。メトロエンジンリサーチが把握する範囲では、北九州市には184施設・10,976室(うち小倉駅1.2km圏に55施設・5,876室)が稼働している。福岡市の779施設・48,572室に対して施設数で23.6%、客室数で22.6%という規模である。

供給の追加ペースは緩やかだ。OTA掲載確認ベースで2023年以降に開業が確認できた施設は、北九州市が15施設884室、福岡市が78施設2,255室。北九州市の884室のうち809室が2023年に集中しており、2024年以降の増分は小さい。ただしOTA掲載は開業の数ヶ月前からしか出ないため、直近以降の月は今後の掲載で増加する可能性がある点は割り引いて読む必要がある。

グレード構成を見ると、小倉駅1.2km圏の55施設のうちアッパーミッド以上は5施設にとどまる。¥11,000〜¥18,000という空白帯は、新築でしか埋められないわけではない。既存の中規模物件(50〜150室)で客室仕様・朝食・共用部を再設計し、価格の階段を1段上げるという打ち手が成立しうる領域である。土地取得を伴わない分、投下資本は新規開発の数分の1で済む。小倉・黒崎の既存ビジネスホテルが連泊需要にどの価格で応じているかは、「ホテル暮らし 北九州」の実勢は30泊24.6万円で施設別に集計している。

実際、この帯を狙ううえで追い風になる材料もそろっている。福岡県の客室稼働率は2025年実績で72.6%と全国3位、全国平均61.8%(観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年)を大きく上回る。県全体の需要は厚い。加えて北九州市は宿泊客240万人という明確な目標を掲げ、北九州メッセでの大型イベント誘致とナイトタイムエコノミー促進を政策として進めている。イベント日の需要ピークは前掲の在庫データにも現れており、平均早期完売LT42.1日という中規模施設の実績がそれを裏づけている。

リスク要因と検証すべき次のステップ

表:リスク要因と検証すべき次のステップ
リスク内容確認すべきこと
価格帯の需要空白帯が薄いのは需要が無いからという可能性を排除できない既存の上位3施設の日別在庫消化と、法人契約・イベント日の価格反応
需要の平準性LT90からの消化が博多より緩やか(24.1pt対32.8pt)曜日別・イベント日別の需要山谷。年間何日を高単価日として設計できるか
建設費2028年時点で2025年比+15.5%の想定。上振れすると利回りは低下九州圏の施工能力と実勢単価。逆に費用上昇は新規供給の抑制要因でもある
人口動態駅1.5km圏は2040年に2025年比−2.1%と緩やかだが、市全体では減少が続く交流人口(新幹線・イベント・関門観光)の伸びが居住人口減を上回るか
出口政令市とはいえ、投資家層の厚みは福岡市に劣後する保有期間中のNOI成長と、地価上昇率(+4.9%)の継続性

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

まとめ — 同一県内2政令市の非対称をどう使うか

福岡県内の2つの政令市は、同じ県内にありながら投資条件がまったく違う。小倉北区の推定成約ADRは博多区の61.5%だが、地価は16.3%、延床1㎡あたりの土地負担では12.2%にすぎない。この非対称は、単価を積む挑戦をするうえでのダウンサイドが小さいことを意味する。

そして最も重要な発見は、¥11,000〜¥18,000という価格帯が小倉北区では3施設(15%)しか存在しないのに対し、博多区38%・中央区51%が集中しているという構造的な空白である。現行の価格水準をなぞる限り、利回りは博多と変わらない3%台にとどまる。空白帯を狙って初めて5.4〜6.1%が視野に入り、感度分析で下振れを置いても4.5%を確保できる。

次に検証すべきは、この空白帯を年間何日埋められるかである。エリア全体の在庫消化は博多より緩やかだが、施設単位では平均早期完売LT42.1日という実績が確認できる。年間の需要ピークを日別に洗い出し、そこに価格の階段を設計できるかどうかが、この機会を実際の収益に変換できるかの分岐点になる。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9月以降のADRは、調査時点でOTAに公開されている販売価格にもとづく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点の水準がそのまま実現するとは限らない点にご留意ください。また開発シナリオ試算は公開情報にもとづく簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADRの月次系列、室ベースの在庫推移・早期完売LT、宿泊施設マスター(施設数・客室数・グレード構成・開業年)はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計。地価・容積率・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査 2025年、各駅周辺の商業地 各N=12地点)。事業所数・従業者数は総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」、境界は国勢調査2020小地域。将来推計人口は国土交通省 国土数値情報の250mメッシュ推計。建設費は国土交通省「建築着工統計調査」およびTurner & Townsend「International Construction Market Survey」。

■ 試算前提

開発シナリオは1室あたりで統一。延床35㎡/室(客室25㎡+共用部)、稼働率80%(通年ベース・博多シナリオのみ82%)、付帯売上=客室売上の15%、GOP率35%。建設費は坪230万円(¥695,700/㎡)、土地は各駅周辺の商業地中央値を容積率で除して延床1㎡あたりに引き直した。Stage 1は2025年実績ベース、Stage 2は2029年開業・施工中間時点2028年を想定し、年+5.3%/+5.0%/+4.5%を複利で乗じた係数1.155を建設費に適用。利回り=GOP÷総投資額。ポジショニング散布図の対象は2026年8月17日〜23日チェックイン分で在庫推移が観測でき、OTA公開枠が総客室の30%以上ある施設(推定成約ADR ¥3,000未満・¥40,000超の3施設は表示上除外)。

■ 限界・留意点

推定成約ADRはOTA公開価格に業態別の補正係数を適用した推定値であり、上場ホテルREITの物件別開示実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。2026年9月以降のADRは将来日程の掲載水準にもとづく推定で、チェックイン日に近づくにつれて変動する。開発シナリオは土地費と建設費のみを投資額とした簡易試算であり、金融費用・開業費・FF&E更新・運営委託条件・各種税負担を含まない。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディを要する。在庫データはOTA公開枠にもとづくため、法人契約・直販分を含む実際の稼働とは水準が異なる。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

  • 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示・都道府県地価調査(2025年)、用途地域・容積率
  • 国土交通省「建築着工統計調査」 — ホテル建築費坪単価(2025年実績)
  • 国土交通省 国土数値情報「250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」 — 小倉駅半径1.5km圏の居住人口・年齢構成・2040年推計
  • 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021)」/境界=国勢調査2020小地域(e-Stat統計GIS) — 事業所数・従業者数・オフィス系比率
  • 北九州市「北九州市観光動態調査」
  • 北九州市「観光施策」(PDF)

■ 業界レポート・報道

関連記事