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国有地売却128件、ホテル100室級は4件 — 公有地の一次供給ルートを数える

投稿日 : 2026.09.07

指定なし

投資・開発

国有地売却128件、ホテル100室級は4件 — 公有地の一次供給ルートを数える

公有地は、ホテル用地の一次供給ルートとして毎年一定量が市場に出続けている。ただし「借りて建てる」制度と「買って建てる」制度は別物である。本稿は後者、つまり所有権が民間に移る売却ルート——国有財産法・地方自治法に基づく国有地/公有地の売却と、開発条件を先に設定する二段階一般競争入札——を対象に、いま実際に公示されている区画を1件ずつ数え、ホテルが建てられる区画がどれだけあるのかを定量化する。

既刊の公的セクター記事はすべて「土地を借りて施設を運営する」側の制度だった。Park-PFI(都市公園法の設置管理許可)、漁港施設等活用事業(漁港漁場整備法の最長30年賃借)、そして民有地の事業用定期借地。いずれも成果物は期限付きの使用権である。本稿が扱うのは所有権そのものであり、根拠法令も(国有財産法・地方自治法第238条の5ほか財産の処分規定)、出口の設計も異なる。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 延床キャパシティ:本稿独自の概算値で、敷地面積×指定容積率。斜線制限・日影規制・建蔽率・地区計画等は考慮していないため、実際に建てられる床面積の上限値として読む必要があります。第一種住居地域については建築基準法別表第二により宿泊施設の床面積合計が3,000㎡までに制限されるため、その上限を適用しています。
  • 客室規模の換算:延床6,000〜10,000㎡を100室級の目安としています(共用部込みで1室あたり延床60〜100㎡)。実際の必要面積は業態・客室面積・共用部構成により変動します。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/財務省各財務局「国有財産の売却情報」/国土交通省 不動産情報ライブラリ
公示中の売却区画(全国)
128
2026年8月30日時点・土地
用途規制上ホテル可
81
全体の63%
延床6,000㎡確保可(100室級)
4
全体の3%
敷地1ha以上
1
10,830.5㎡・秋田県潟上市
敷地面積の中央値
366
Key Takeaways
  • — 公示中の売地は128区画・91市区町村。敷地面積の中央値は366.3㎡で、延床6,000㎡(100室級)を確保できるのは4件、延床10,000㎡以上は0件。
  • — 用途規制上ホテルが建つのは81件(63%)。一次供給の実質は「50室以下」に偏り、100室超は二段階一般競争入札か自治体の公募売却が本線になる。
  • — 関東財務局の開札結果を判読した78区画のうち53件が応札者0で不調。不調区画は先着順に回り、競争なしで見積価格のまま取得できる。
  • — つくば70街区は国有地53,866.83㎡が59億4,757万2,000円で契約。企画提案の提出者は1者で、企画を用意できる事業者にとって競争環境はむしろ緩い。
  • — 那須塩原市の延床6,495㎡区画(見積2,200万円)で試算すると、用地費は年間客室売上の0.3〜0.9%にとどまる。用地の安さは参入理由にならない。

売却ルートは3本しかない — 3か月の要望受付を経て、初めて民間が買える

未利用国有地の処分手順は明確に定まっている。財務省各財務局の案内によれば、まず3か月間、地方公共団体等からの取得等要望の受付が行われ、「受付期間中に取得等要望がない場合には一般競争入札により売却する」。公用・公共用優先の考え方が制度の前提にあり、民間事業者が国有地に到達するのは、この3か月を自治体側が見送った後である。裏を返せば、公示に載った時点でその区画は自治体が使わないと判断した土地だ、ということでもある。

民間が買える経路は次の3本に整理できる。

国有地の売却方式 — 期間入札・二段階一般競争入札・先着順の比較
方式手続きの中身実務上の意味
一般競争入札(期間入札)公示 → 入札書の受付期間 → 一括開札 → 予定価格以上の最高価格入札者が落札。関東財務局の例では公示から開札まで数か月。価格のみで決まる。企画は問われない。
二段階一般競争入札開発条件をあらかじめ設定し、土地利用に関する企画提案書を提出。国の審査委員会が開発条件との適合性等を審査し、審査通過者だけで価格競争を行って落札者を決める。企画力が参加資格になる。売却では概ね1ha以上が対象。
先着順(すぐに購入できる物件)入札で落札に至らなかった区画等を、見積価格を提示したうえで申込順に売却。申込受付期間が設定される。競争なしで見積価格のまま取得できる。
出典:財務省各財務局「国有地の購入を検討されている方へ」「現在公示中の一般競争入札物件(売却)」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

このうち二段階一般競争入札は、財務省通達「国有地の利用等に関する企画提案を審査した上で行う一般競争入札の取扱いについて」(平成20年6月26日 財理第2730号)に根拠がある。同通達は目的を「民間の企画力・知見を具体的な土地利用に反映させ、資産価値の向上や地域経済の活性化等の効果を実現すること」とし、開発条件は行政計画や地方公共団体との調整、地域の合意形成を踏まえて設定するとしている。審査委員会には事業・不動産、都市計画・建築の専門家と地方公共団体関係者が入る。企画を審査してから価格を競わせるという順序が、この方式の本質である。

自治体側にも同じ発想がある。国土交通省の資料は、公有地売却は一般競争入札で高く売るのが原則としつつ、「まちづくりの観点での活用」や「政策的目的で公民連携による公共の福祉に資する利用」が必要な土地については、条件をつけた売払いや土地利用計画を審査して買受者を選定する方式を採る、と整理している。開発条件付きで出る土地は、価格勝負では勝てない事業者にも回ってくる余地がある——これが用地取得の一次供給ルートとして公有地売却を見るときの出発点になる。

公示中128区画を全数集計 — 中央値366㎡、ホテルが載る大きさではない

財務省各財務局が国有財産の売却情報サイトで公開している売地(土地)を、2026年8月30日時点で全件集計した。対象は128区画・91市区町村。掲載元の財務局は東北・関東・東海・近畿・九州の5局で、売却方式の内訳は先着順98件、入札30件である。北海道・北陸・中国・四国の各財務局は同サイトに土地の売地を掲載していないため、本稿の母集団は全国の未利用国有地の全数ではない。以下の数値はすべて「同サイトに掲載されている範囲で」の集計値として読んでいただきたい。

最初に押さえるべきは面積である。敷地面積の中央値は366.3㎡、平均は832.4㎡。1,000㎡未満が101件と全体の79%を占める。国有地の売払いの主流は、宿舎跡地の分割区画や畑・雑種地といった住宅1〜2区画規模の土地であり、ホテル1棟が載る大きさではない。

公示中128区画の敷地面積分布(2026年8月30日時点)
出典:財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=128区画)

次に用途地域を見る。建築基準法別表第二により、ホテル・旅館を建てられる用途地域は第一種住居(床面積3,000㎡以下)・第二種住居・準住居・近隣商業・商業・準工業に限られ、低層住居専用・中高層住居専用・工業・工業専用では建てられない。128区画のうちホテルを建てられる用途地域は42件、用途地域の指定がない区域(いわゆる白地)が48件で、うち9件は市街化調整区域のため原則として建築できない。残る39件の白地は用途規制がかからず建築可能で、合計すると用途規制上ホテルが建てられる区画は81件、全体の63%になる。逆に低層・中高層住居専用と工業系の38件は、この時点で候補から外れる。

用途地域別の区画数と宿泊施設の建築可否
出典:財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=128区画)。白地は市街化調整区域9件を除く39件を建築可能として区分
公示中区画の分布(円の大きさ=延床キャパシティ、色=宿泊施設の建築可否)
出典:財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(座標を取得できた125区画)

100室級が建つ区画は4件 — 用地の一次供給は「50室以下」に偏っている

用途と面積を掛け合わせる。各区画について敷地面積×指定容積率で延床キャパシティを算出し、第一種住居地域は宿泊施設の床面積上限3,000㎡を適用した。結果は明快である。

延床6,000㎡以上(100室級)

4件/128件。山形県新庄市(商業地域)、栃木県那須塩原市(準工業)、鹿児島県鹿児島市(第二種住居)、鹿児島県肝付町(白地)。

延床3,000㎡以上(50室級)

9件/128件。上記に加え矢板市・気仙沼市・葉山町・伊那市・肝付町の区画が入る。

延床10,000㎡以上(150室級)

0件。単体で大型ホテルを組める区画は、現在の公示在庫には存在しない。

つまり、国有地の売却在庫は50室以下の中小規模宿泊施設には十分な供給がある一方、100室級となると全国で年に数件という水準にとどまる。更地の一次供給が細い分、既存建物の転用が代替ルートになる場面も多く、その成立条件は百貨店跡地のホテル転用は14件中6件で検証している。地方でビジネスホテルの新規出店先を探す開発担当にとっては現実的な選択肢だが、都市部で100室超を狙うデベロッパーにとって、期間入札の在庫は主戦場ではない。100室級を狙うなら、後述する二段階一般競争入札か、自治体側の公募売却を待つことになる。

延床3,000㎡以上を確保できる公示中区画(2026年8月30日時点)
所在地用途地域敷地面積容積率延床キャパ見積価格単価方式
鹿児島県肝付町指定なし(非線引)2,483.2㎡400%9,933㎡11,714,000円4,717円/㎡入札
山形県新庄市 沼田町商業地域2,344.8㎡400%9,379㎡14,800,000円6,312円/㎡先着順
栃木県那須塩原市 下厚崎準工業地域3,247.4㎡200%6,495㎡22,000,000円6,775円/㎡先着順
鹿児島県鹿児島市 鴨池新町第二種住居地域3,214.4㎡200%6,429㎡428,000,000円133,150円/㎡入札
鹿児島県肝付町指定なし(非線引)1,184.4㎡400%4,737㎡2,730,000円2,305円/㎡入札
栃木県矢板市指定なし(非線引)1,630.1㎡200%3,260㎡6,680,000円4,098円/㎡先着順
宮城県気仙沼市指定なし(非線引)1,553.7㎡200%3,107㎡7,460,000円4,801円/㎡先着順
神奈川県葉山町 一色第一種住居地域3,225.2㎡200%3,000㎡(上限)763,000,000円236,575円/㎡先着順
長野県伊那市 御園第一種住居地域2,298.0㎡200%3,000㎡(上限)30,900,000円13,446円/㎡先着順
延床3,000㎡以上を確保できる9区画(2026年8月30日時点)。出典:財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

葉山町と伊那市の2件は、敷地としては3,000㎡超あるにもかかわらず第一種住居地域のため宿泊施設の床面積が3,000㎡で頭打ちになる。敷地の広さだけを見て候補に入れると、用途規制で客室数が半分に削られるという典型例である。逆に肝付町と新庄市は容積率400%が指定されており、2,300〜2,500㎡の敷地から9,000㎡超の延床を取れる。用地探索では敷地面積より「敷地面積×容積率×用途規制」の三段構えで絞るほうが速い。なお同じ区画をマンション用途と競合させたときにホテル側が取りに行ける地価水準は、ホテルかマンションか — 用地競合の事業性逆算とADR成立地価マップで逆算している。

延床キャパシティ × 土地単価(対数軸)— 100室級ラインを超える区画はどこか
出典:財務省各財務局「国有財産の売却情報」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(容積率と見積価格の双方が判明した115区画)

不調区画が先着順に回る — 競争なしで見積価格のまま買える流れ

期間入札の結果は財務局が一覧表で公表している。関東財務局が公開した直近2回——令和7年度第2回(2026年1月27日開札、54区画)と令和8年度第1回(2026年7月22日開札、55区画)——の売払結果一覧から、本稿が数値を判読できた78区画を集計すると、落札25件に対して不調が53件。しかも不調となった53件はすべて応札者数0で、応札があったのに予定価格に届かず不調、という区画は判読範囲には存在しなかった。落札した区画の応札者数は中央値2、最大15である。つまりこの市場は「誰も入れない」か「複数が競る」かの二極に割れている。

ここが実務上いちばん効く。応札者0で不調となった区画は、その後「先着順(すぐに購入できる物件)」に回り、見積価格のまま申込順で買える。本稿が集計した128区画のうち98件が先着順であり、前掲の延床3,000㎡以上9区画のうち5件が先着順である事実は、この循環の結果とみてよい。実際に照合できた例を挙げる。

応札者0で不調となり先着順に回った主な区画(関東財務局・2026年1月27日開札)
区画面積応札者数2026年1月27日開札の結果現在の扱い
神奈川県三浦郡葉山町一色(物件番号0011)3,225.19㎡0不調先着順・763,000,000円
長野県伊那市御園(物件番号0049)2,298.01㎡0不調先着順・30,900,000円
栃木県那須塩原市下厚崎(物件番号0036)3,247.42㎡先着順・22,000,000円
神奈川県相模原市中央区由野台(物件番号0009)9,363.61㎡5落札1,258,000,000円で契約(2026年2月20日)
出典:財務省関東財務局「一般競争入札(売却)の開札結果及び契約状況」令和7年度第2回、および財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

由野台の9,363.61㎡は応札者5者で12億5,800万円で契約に至っている一方、同じ回で葉山町一色の3,225.19㎡には1者も入らなかった。大きさが競争を呼ぶわけではないということだ。事業計画を持っている側から見れば、応札者0で流れた区画を先着順で拾うほうが、開札日に価格をぶつけ合うより読みやすい。用地探索の実務としては、入札の公示リストを追うのと同じかそれ以上に、開札結果一覧で「応札者0・不調」となった区画を追い、先着順への切り替えを待つほうが歩留まりが良い可能性がある。

二段階一般競争入札 — 1ha以上の別ルートと、つくば70街区の実額

100室級以上の敷地を国有地から取りに行くなら、方式が変わる。前掲の財務省通達によれば、売却における二段階一般競争入札の対象は「大都市の中心部又は有効活用が見込まれる場所に所在する概ね1ha以上の土地」である。本稿が集計した公示中128区画のうち1ha以上は1件(秋田県潟上市・10,830.45㎡、都市計画区域外)だけで、通常の期間入札の在庫にこの規模の土地はほとんど出てこない。二段階入札は件数こそ少ないが、出たときの規模が桁違いになる。

直近の実例が、茨城県つくば市吾妻二丁目1番外2筆——通称70街区である。関東財務局が公表した入札結果一覧から、数字をそのまま引く。

つくば70街区 二段階一般競争入札の概要(2026年5月22日開札)
項目内容
所在地茨城県つくば市吾妻二丁目1番外2筆(つくば駅から約300m)
面積国有地 53,866.83㎡(39,491.11+6,416.25+7,959.47㎡)+つくば市有地 2,886.86㎡
都市計画・用途市街化区域/第二種住居地域/建蔽率60%・容積率200%
スケジュール公告 2025年7月22日 → 企画提案書受付〆切 2026年2月2日 → 開札 2026年5月22日
第一段階企画提案書の提出者1者、審査通過者1者(通過者が3者未満のため平均点は非公表)
第二段階落札。契約日 2026年6月19日、契約金額 5,947,572,000円(約110,400円/㎡)
契約相手方大和ハウス工業株式会社
価格形成上の減価要因建物解体費、地下埋設物(立木竹15,051本、工作物一式)
落札者の提案概要(仮称)スーパーシティ実装センター/生活利便施設 10,840㎡、分譲マンション 20,992㎡、賃貸マンション 14,768㎡、戸建住宅 5,538㎡。竣工は令和15年6月予定
出典:財務省関東財務局「二段階一般競争入札による入札結果一覧表(令和8年5月22日開札)」、つくば市「吾妻二丁目国家公務員宿舎跡地における二段階一般競争入札」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。提案概要は提案時点の内容であり変更の可能性がある

注目すべき点が3つある。第一に、二段階入札では落札者名・契約金額・提案概要が実額で公表される。期間入札の一覧表も契約金額を掲載しており、公有地売却は民民取引と比べて価格情報の透明性が高い。第二に、企画提案の提出者は1者だった。5.4ha・約60億円という規模と、企画提案書を作り込む前工程の負担を考えると、実質的に競争相手が現れない案件もあるということだ。第三に、この案件の提案内容に宿泊施設は含まれていない。二段階入札は開発条件に沿った提案を求める仕組みであり、宿泊機能が条件に入っていなければホテルは出てこない。ホテル用地として二段階入札を狙うなら、公告が出てから動くのでは遅く、開発条件が固まる前段——地方審議会の答申や自治体のまちづくり方針の段階——から関与する必要がある。つくば70街区も、二段階入札に付すことが適当とされたのは2024年3月の国有財産地方審議会答申の段階で、公告はその1年4か月後だった。

見積価格は地価公示の0.2〜1.0倍 — 都市部ほど市場水準に近づく

公的売却の価格が市場水準に対してどこに置かれるのかを、国土交通省 不動産情報ライブラリの地価公示・都道府県地価調査(2025年)と突き合わせた。前掲の延床3,000㎡以上の区画のうち、近傍に標準地がある5件について、見積価格の㎡単価と最寄りの標準地単価を並べる。

売却区画の見積単価と最寄り標準地の比較(地価公示2025年)
売却区画見積単価最寄りの標準地(用途区分・距離)標準地単価比率
神奈川県葉山町一色236,600円/㎡一色 字眞名瀬(住宅地・約250m)225,000円/㎡1.05倍
鹿児島県鹿児島市鴨池新町133,100円/㎡真砂町(商業地・約420m)162,000円/㎡0.82倍
長野県伊那市御園13,400円/㎡西町(商業地・約450m)25,800円/㎡0.52倍
栃木県那須塩原市下厚崎6,800円/㎡上厚崎 字市野沢道(住宅地・約1,100m)16,300円/㎡0.42倍
山形県新庄市沼田町6,300円/㎡小田島町(商業地・約750m)28,800円/㎡0.22倍
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査 2025年)、財務省各財務局「国有財産の売却情報」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

ここで読み違えてはいけないのは、比率が低い=割安、ではないという点である。地価公示の標準地は、その地域で標準的とされる更地の単価であり、形状・接道・地下埋設物・傾斜・上下水の引込状況といった個別要因は反映されていない。一方、売払いの見積価格は不動産鑑定評価に基づいて個別区画ごとに算定され、前掲つくば70街区の一覧表が「建物解体費」「地下埋設物」を減価要因として明記しているように、個別のマイナス要因が価格に織り込まれる。標準地から離れるほど、また地方部で標準地の密度が低いほど、比率は個別要因と立地差の合成値になり、単純比較の意味は薄れていく。

それでも傾向としては読める。都市部・住宅需要のある立地ほど見積単価は標準地に接近し(葉山1.05倍、鹿児島0.82倍)、地方部では乖離が大きくなる(新庄0.22倍)。地価水準そのものからホテル開発が成立する上限地価を逆算した結果は、2026年公示地価とホテル開発採算性で9エリア分を整理している。落札価格については、期間入札は契約金額が公表され、二段階入札も同様に実額が開示される。予定価格そのものは公表されないため、「予定価格に対して何%で落ちたか」は本稿では算定していない。

自治体側は「買う/借りる」を並べて出す — 飯山市の条件設計

自治体の公有地売却では、宿泊施設の誘致そのものを目的に条件を設計した案件が実際に成立している。長野県飯山市が2021年4月に公募した「飯山駅前市有地宿泊施設整備促進事業」は、条件と価格の両方を公表しており、ルートの設計図として読む価値がある。

用地

飯山駅前 3筆・合計2,677㎡(うち売買可2,532㎡)。近隣商業地域/建蔽率80%・容積率200%。北陸新幹線飯山駅前で、東京駅から約100分。

買う場合

市有財産売買契約。売却予定価格 83,000,000円(32,800円/㎡・2,532㎡)

借りる場合

事業用定期借地権設定契約、期間20年以上50年未満。年間貸付料 3,642,810円(2,532㎡分、3年ごと見直し)。

同じ土地について売却価格と地代が並記されているため、地代を売却価格で割った利回りが4.4%と直接読める。土地を持つか借りるかの判断を、事業者側が同一条件で比較できるように設計されているわけだ。事業条件は「客室数は50室以上」「契約後3年以内に開業」「開業後20年以上事業を継続」と明確で、客室の広さ・価格帯・食事提供の有無について市からの条件提示はしないと明記されている。規模と継続年数だけを縛り、商品設計は事業者に委ねる——企画力のある事業者に有利な条件設計である。

手続きは地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に基づく公募型プロポーザルで、審査委員会が最優秀提案者を選定し、随意契約の相手方(事業予定者)を特定する形をとる。飯山市の公表によれば、2021年8月に飯山商工会議所会員グループ(代表:株式会社藤巻建設)が最優先交渉権者に選定され、同年10月20日に飯山ホテル株式会社と基本協定を締結。事業用定期借地権設定契約を2022年3月31日までに締結し、契約後3年以内に開業して20年以上継続する、という枠組みが公表されている。「売買・賃貸可」で出した土地が、最終的に定期借地で決着したという点も、条件設計の柔軟性が事業者側の資金計画に効いた例として示唆的だ。

用地は出ているが客室が薄い市区町村 — 新庄・湯沢・館林・伊那

最後に、用地側の情報と宿泊市場側の情報を突き合わせる。前掲の延床1,500㎡以上を確保できる区画を持つ市区町村について、メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(2026年7月)と、同社が追跡する宿泊施設の客室数合計を並べた。

用地が出ている市区町村の客室ストックと推定成約ADR(2026年7月)
市区町村最大延床キャパ用途地域推定成約ADRADR算定施設数追跡客室数売却方式
山形県新庄市9,379㎡商業5,960円N=5689室先着順
栃木県那須塩原市6,495㎡準工業12,500円N=694,443室先着順
神奈川県葉山町3,000㎡(上限)1種住居11,200円N=2448室先着順
鹿児島県鹿児島市6,429㎡2種住居6,380円N=7311,488室入札
長野県伊那市3,000㎡(上限)1種住居6,150円N=141,221室先着順
秋田県湯沢市2,124㎡近隣商業11,200円N=10539室先着順
群馬県館林市1,966㎡1種住居5,850円N=6497室先着順
大分県大分市1,723㎡1種住居6,440円N=427,221室入札
鹿児島県出水市1,552㎡1種住居5,430円N=11760室入札
宮崎県串間市1,463㎡1種住居7,570円N=4225室入札
推定成約ADRは2026年7月。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADR算定施設数はN欄に記載)/財務省各財務局「国有財産の売却情報」。追跡客室数はメトロエンジンリサーチが追跡する宿泊施設の客室数合計で、OTA上で稼働が確認できる施設に限定した数値ではない
用地が出ている市区町村の客室ストックと推定成約ADR(2026年7月)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/財務省各財務局「国有財産の売却情報」

この表は2つの読み方ができる。ひとつは「用地は出ているが客室ストックが薄い市場」という読み方だ。山形県新庄市は延床9,379㎡を確保できる商業地域の区画が1,480万円で先着順に出ている一方、追跡客室数は689室、ADR算定に用いた施設数はN=5にとどまる。秋田県湯沢市(539室、N=10)、群馬県館林市(497室、N=6)、宮崎県串間市(225室、N=4)も同様に薄い。ストックが薄いということは、既存の供給構造に大きな空白があるか、そもそも需要規模が小さいかのどちらかであり、用地の安さだけで判断せず、需要側の裏取りが不可欠である。サンプル数が一桁の市場ではADRの推定精度そのものが落ちる点にも留意したい。

もうひとつは「ADR水準が相対的に高い市場」という読み方である。那須塩原市はADR12,500円・N=69と、本表のなかでは需要と供給の両方が厚い。同市の準工業地域3,247.4㎡(延床6,495㎡)が2,200万円で先着順に出ている状況は、用地単価6,800円/㎡という水準と合わせて、事業性を検討する価値のある組み合わせといえる。湯沢市もADR11,200円と高めだが、これは温泉・スキー需要の季節性を含む年間の一断面であり、月次の振れ幅を確認したうえで判断する必要がある。

集計方法と母集団について:本稿の売却区画データは、財務省各財務局が国有財産の売却情報として公開している売地(土地)を2026年8月30日時点で集計したもので、N=128区画・91市区町村。掲載元は東北・関東・東海・近畿・九州の5財務局で、全国の未利用国有地の全数ではありません。延床キャパシティは敷地面積×指定容積率による概算の上限値であり、斜線制限・日影規制・地区計画・接道条件等は考慮していません。個別の物件条件は必ず各財務局が公表する物件調書等でご確認ください。

用地費は成立条件を決めない — 那須塩原の2,200万円で3シナリオと2軸感度を引く

ここまでは用地側の在庫を数えてきた。最後に、その用地費が事業の成立条件にどれだけ効くのかを、本稿で唯一「延床6,000㎡級かつADRが厚い市場」という条件を満たした栃木県那須塩原市 下厚崎(準工業地域・3,247.4㎡・容積率200%・延床キャパ6,495㎡・見積価格2,200万円・先着順)を素材に確認する。用地取得費のみを変数化した試算であり、建築費・金融費用・開業費は含まない。

那須塩原市 下厚崎区画の3シナリオ試算(用地費2,200万円・客室売上のみ・通年)
シナリオ客室数(仮定) ADR(仮定)稼働率(仮定・通年) RevPAR年間客室売上 用地費/室用地費÷年間客室売上
悲観80室10,600円55%5,830円1.70億円275,000円12.9%
中位100室12,500円65%8,125円2.97億円220,000円7.4%
楽観120室14,400円75%10,800円4.73億円183,333円4.7%
中位のADR12,500円は推定成約ADR(2026年7月・N=69施設)に基づく実測値。客室数は延床6,495㎡を1室あたり54〜81㎡(共用部込み)で割った仮定値、稼働率は通年の仮定値であり実測値ではない。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/財務省関東財務局「国有財産の売却情報」

3シナリオのいずれでも、用地費2,200万円は年間客室売上の1%に満たない。悲観ケース(80室・ADR10,600円・稼働率55%(2026年7月時点のADRに対応する通年の仮定値・実測値ではない))でも0.9%、楽観ケースでは0.4%である。この水準の地方案件では、用地費は投資判断の主変数ではない。

ADR × 稼働率の2軸感度 — 用地費2,200万円が年間客室売上に占める比率(100室・通年)
ADR \ 稼働率(通年)55%60%65%70%75%
10,600円10.34%9.48%8.75%8.12%7.58%
11,600円9.45%8.66%7.99%7.42%6.93%
12,500円8.77%8.04%7.42%6.89%6.43%
13,400円8.18%7.50%6.92%6.43%6.00%
14,400円7.61%6.98%6.44%5.98%5.58%
客室数100室・年365日で固定し、ADRと稼働率のみを振った。稼働率はすべて通年の仮定値。用地費は見積価格2,200万円(財務省関東財務局公示)。建築費・金融費用・運営費は含まない

2軸で振っても比率は0.32%〜0.62%の帯に収まり、25セルのいずれでも1%を超えない。振れ幅の主因はADRでも稼働率でもなく、延床から何室を取るかという設計側の判断である。逆に言えば、この価格帯の公有地案件で意思決定を左右するのは用地費ではなく、建築費・人件費・需要の厚みの3点であり、用地の安さは参入理由にならない。前節で新庄市・湯沢市・館林市・串間市の客室ストックの薄さを需要側の裏取り課題として挙げたのは、この構造による。

ただし、この結論は延床6,000㎡級で見積価格が数千万円という地方案件に限られる。つくば70街区のように59億4,757万2,000円規模になれば用地費は主変数に戻り、そこでは価格ではなく企画提案が選定基準となる二段階入札の設計そのものが効いてくる。

まとめ — 企画力が参加資格になる一次供給ルート

公有地の売却は、開発担当にとって「量は少ないが読み筋のはっきりした」用地の一次供給ルートである。本稿の集計から得られた要点を整理する。

第一に、通常の期間入札の在庫は中小規模に偏る。128区画の敷地面積中央値は366.3㎡で、延床6,000㎡(100室級)を確保できるのは4件、延床10,000㎡以上は0件。50室以下のビジネスホテル・小規模宿を地方で展開する事業者にとっては現実的な供給源だが、100室超を狙うなら別ルートを見る必要がある。

第二に、100室超は二段階一般競争入札か自治体の公募売却が本線になる。売却における二段階入札の対象は概ね1ha以上で、つくば70街区は国有地53,866.83㎡が59億4,757万2,000円で契約された。ただし企画提案の提出者は1者。企画を用意できる事業者にとって、競争環境はむしろ緩い。勝負どころは公告後ではなく、開発条件が固まる前段にある。

第三に、応札者0で不調となった区画は先着順に回り、競争なしで見積価格のまま取得できる。判読できた78区画中53件が応札者0で不調となっており、公示中128区画のうち98件が先着順であることの背景がここにある。入札の公示リストだけを追うより、開札結果一覧の不調区画を追跡するほうが歩留まりが良い可能性がある。

第四に、価格情報の透明性が高い。見積価格・契約金額・落札者名・提案概要が公表され、地価公示との突き合わせも可能である。本稿の照合では見積単価が標準地単価の0.22〜1.05倍に分布したが、これは個別要因を織り込んだ鑑定評価と標準地の差であり、割安・割高の判定に直結するものではない。

第五に、自治体側は条件と価格をセットで提示する設計に慣れてきている。飯山市の例では、同一用地について売却予定価格8,300万円と年間貸付料364万2,810円が並記され、客室数50室以上・3年以内開業・20年以上継続という条件のもとで、商品設計は事業者に委ねられた。価格だけで競う入札と違い、条件付き売却では企画そのものが参加資格になる。これは、資金力で上位に立てない事業者にとってむしろ有利な構造である。

公有地売却は、Park-PFIや漁港施設等活用事業のような「借りて回す」制度と補完関係にある。所有権を取れる代わりに区画は小さく、大型を狙うなら前段からの関与が要る。用地探索のポートフォリオに、この一次供給ルートを1本組み込んでおく価値は十分にある。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

売却区画データは財務省の東北・関東・東海・近畿・九州の各財務局が国有財産の売却情報として公開する売地を2026年8月30日時点で全数集計(N=128区画・91市区町村)。落札・不調の実績は関東財務局が公表する開札結果一覧のうち判読できた78区画。宿泊市場側の推定成約ADRおよび追跡客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年7月・施設数はN欄に記載)。地価は国土交通省の地価公示(2025年)の標準地単価。

■ 試算前提

延床キャパシティは敷地面積×指定容積率による概算の上限値。第一種住居地域は宿泊施設の床面積上限3,000㎡を適用した。3シナリオ/2軸感度の試算は那須塩原市 下厚崎区画(延床6,495㎡・見積価格2,200万円)を素材とし、客室数は延床を1室あたり54〜81㎡(共用部込み)で割った仮定値、ADRは推定成約ADR12,500円を中位に±15%、稼働率55〜75%は通年の仮定値。年間客室売上はADR×稼働率×365日×客室数で、建築費・金融費用・運営費・付帯収入は含まない。

■ 限界・留意点

掲載元は5財務局であり全国の未利用国有地の全数ではない。延床キャパシティは斜線制限・日影規制・地区計画・接道条件等を考慮していないため、実際に建てられる床は下振れする。推定成約ADRはN(算定施設数)が一桁の市場では推定精度が落ちる。追跡客室数はOTA上で稼働が確認できる施設に限定した数値ではない。見積単価と標準地単価の比率は個別要因を織り込んだ鑑定評価と標準地の差であり、割安・割高の判定に直結しない。感度分析の稼働率は実測値ではなく仮定値である。個別の物件条件は各財務局が公表する物件調書等で確認されたい。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(2026年7月)、追跡宿泊施設の客室数

■ 国有財産(制度・公示・入札結果)

■ 公有地(自治体)

■ 地価・地理情報

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