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千葉県7.5万室の43%が災害救助法25市町に — 連泊対応ストックと受け皿余力を数える

投稿日 : 2026.08.14 更新日 : 2026.09.02

千葉県

エリア・施設分析

千葉県7.5万室の43%が災害救助法25市町に — 連泊対応ストックと受け皿余力を数える

2026年8月13日からの記録的な大雨を受け、千葉県内の25市町(千葉市および24市町)に災害救助法が適用された。被災された方々に心よりお見舞い申し上げる。本稿では被害の規模を数えるのではなく、この先の応急・復旧フェーズで生じる「泊まる場所」の需要を、県内の宿泊供給ストックがどこまで受け止められるのかを定量的に整理する。結論を先に置くと、災害救助法が適用された25市町の客室は901施設・32,426室で県内客室の43.2%にあたる一方、適用区域外の浦安市・成田市の2市だけで25,241室(県内の33.6%)が集中しており、供給の重心は被災区域の外側にある。

Key Takeaways
  • — 災害救助法が適用された千葉県25市町の客室は901施設・32,426室。県内客室75,065室の43.2%にあたる。
  • — 一方で供給の重心は区域の外。適用区域外の浦安市15,486室・成田市9,755室の2市だけで県内の33.6%を占める。
  • — 適用区域の客室は都市型に偏り、連泊対応型(ビジネス+シティ)が63.1%・20,455室。復旧フェーズの需要特性と合致している。
  • — 業態別稼働率から見た日次の空室余力は、適用25市町で約5,500室(感度幅3,500〜7,600室)、県全体で約11,000室規模。
  • — 2019年房総半島台風後はビジネスホテル稼働率が9〜12月平均で前年比+4.0pt。需要のピークは発災直後ではなく1〜3ヶ月後に来て、3ヶ月以上続いた。

本記事における指標の定義とデータの基準

  • 客室数の基準:本記事の客室数・施設数はすべて、メトロエンジンリサーチが把握する個別施設情報を市区町村単位で積み上げた値(千葉県計 2,308施設・75,065室)に統一している。同じデータ基盤には都道府県単位で別途保持している集計値も存在するが、集計の母集団が異なるため本記事では混在させない。
  • 把握範囲:メトロエンジンリサーチが把握する範囲での集計であり、全数調査ではない。OTA等に掲載歴のある施設を起点としているため、掲載のない小規模旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。また貸別荘・1棟貸し・1室規模の施設が施設数を押し上げる構造がある(例:館山市は208施設で1,960室、1施設あたり平均9.4室)。施設数と客室数は必ず併記して読む必要がある。
  • OCC(稼働率/観光庁基準):観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別・宿泊施設タイプ別客室稼働率。長期の推移および業態別の比較にはこちらを用いる。
  • OCC(稼働率/当社推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。市区町村単位の直近需給の把握にのみ用い、個別施設については算出しない。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/観光庁「宿泊旅行統計調査」

災害救助法25市町に県内客室の43% — ただし重心は区域の外にある

千葉県が公表した適用市町村は、千葉市(県に代わり自ら救助を実施)に加えて市川市、船橋市、館山市、松戸市、茂原市、佐倉市、東金市、習志野市、柏市、市原市、八千代市、我孫子市、鎌ケ谷市、四街道市、八街市、印西市、白井市、大網白里市、白子町、長柄町の20市町、さらに追加適用となった富里市、山武市、酒々井町、九十九里町の4市町を加えた計25市町である。

この25市町に所在する宿泊施設をメトロエンジンリサーチのデータで積み上げると、901施設・32,426室となる。千葉県全体(2,308施設・75,065室)に対して施設数で39.0%、客室数で43.2%を占める。数字だけを見れば「県内の4割強が被災区域に含まれる」ということになるが、供給の地理的な重心はむしろ区域の外にある。

適用区域外で最大のストックを持つのは浦安市の53施設・15,486室で、これは単独で県全体の20.6%にあたる。次いで成田市が71施設・9,755室(13.0%)。この2市を合わせるだけで124施設・25,241室、県内客室の33.6%が集まる。すなわち県内の客室3室に1室は、災害救助法の適用を受けていないこの2市に立地している計算になる。同じ手法で適用区域と客室ストックを重ね合わせた分析は、令和8年熊本地震・災害救助法21市町村の客室ストックでも行っており、そちらでは震央からの距離帯で受け皿量を切り分けている。両市はいずれも被災区域と接するか、車で30分から1時間程度の距離にあり、応急・復旧フェーズの滞在需要を受け止める後背地として機能しうる位置にある。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(千葉県内 2,308施設・75,065室のうち客室数上位18市区)

市区単位で見ると、上位に並ぶのは浦安市・成田市という適用区域外の2市、そして千葉市中央区(84施設・6,959室)・千葉市美浜区(19施設・4,865室)という適用区域内の都心部である。一方で南房総市(277施設・2,651室)、鴨川市(136施設・2,496室)、館山市(208施設・1,960室)といった房総半島南部の市は、施設数こそ多いものの1施設あたりの規模が小さい。南房総市は1施設あたり9.6室、館山市は9.4室で、貸別荘・民宿・小規模旅館が大半を占める構造である。施設数だけを見ると房総南部が供給の中心に見えてしまうが、客室数で数え直すと像がまったく変わる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円の大きさ=客室数、青=災害救助法適用25市町、灰=適用区域外)

適用区域の客室は「都市型」— 連泊対応ストックが63%を占める

受け皿としての性能を測るには、客室数だけでなく業態の構成を見る必要がある。復旧フェーズで発生する滞在は、工事・インフラ復旧・損害査定・行政応援といった業務目的の連泊、および自宅に戻れない住民の中期滞在が中心になる。この需要に適合するのは、素泊まりを基本とし1名利用と連泊に対応できるビジネスホテル・シティホテルである。逆に2食付きを前提とする旅館やリゾートホテルは、単価・オペレーションの両面で長期滞在には適合しにくい。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(千葉県内 2,308施設・75,065室)

業態別に分解すると、適用25市町の32,426室のうちビジネスホテルが157施設・13,701室、シティホテルが32施設・6,754室で、両者を合わせて189施設・20,455室。適用区域内客室の63.1%を占める。被災区域の供給が都市型・業務型に偏っているという事実は、受け皿としては好材料である。連泊対応の在庫が、そもそも需要が生じる場所の近くに厚く存在しているということだからだ。

対照的に、適用区域外の42,639室は構成がまったく異なる。シティホテルが31施設・10,683室、リゾートホテルが63施設・8,742室、ビジネスホテルが90施設・8,248室、デラックスホテルが8施設・3,862室、旅館が228施設・3,824室。浦安市のテーマパーク隣接大型ホテル群と成田市の空港ホテル群、そして房総半島の海沿いリゾート・旅館という3つの塊で構成されている。適用区域外のビジネス・シティ合計は121施設・18,931室で、これも相応の厚みがある。

県全体では、連泊対応型(ビジネス+シティ)は310施設・39,386室。県内客室の52.5%にあたる。カプセルホテルを含めれば適用区域内だけでさらに17施設・1,444室が加わる。数の上では、復旧フェーズの滞在需要に対して用意されている「器」は決して薄くない。

受け皿ストックの分布 — 千葉市中央区・美浜区に約1万室

適用25市町のうち、連泊対応型(ビジネス+シティ)の客室を市区別に並べると、上位2エリアへの集中が際立つ。

表1 災害救助法適用25市町の連泊対応型(ビジネス+シティホテル)客室数 — 市区別(N=901施設・32,426室)
市区(災害救助法適用) 連泊対応型 施設数 連泊対応型 客室数 市区全体の客室数 連泊対応比率
千葉市中央区495,7836,95983.1%
千葉市美浜区134,1574,86585.4%
柏市172,1002,70477.7%
市原市191,6582,61663.4%
船橋市171,2792,58749.4%
印西市698199998.2%
市川市99761,48165.9%
松戸市105971,04757.0%
佐倉市541246089.6%
茂原市940953276.9%
館山市73771,96019.2%
八千代市437247378.6%
その他18市区町村241,3545,74323.6%
適用25市町 計18920,45532,42663.1%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(連泊対応型=ビジネスホテル+シティホテル、N=901施設・32,426室)

千葉市中央区と美浜区(幕張新都心)の2区だけで9,940室、適用区域の連泊対応型の48.6%を占める。次いで柏市2,100室、市原市1,658室、船橋市1,279室と続く。注目したいのは印西市で、8施設・999室のうち981室(98.2%)が連泊対応型である。物流・データセンター集積を背景に業務需要型のホテルが集中しているエリアで、客室規模のわりに極端に業務特化した構成になっている。

一方、館山市は市全体で1,960室あるものの連泊対応型は7施設・377室(19.2%)にとどまる。九十九里町・白子町・山武市といった沿岸部も同様で、旅館・民宿・貸別荘が主体のため、業務目的の中長期滞在の受け皿としては構造的に薄い。沿岸部の被災自治体では、受け皿を域内で完結させるより、千葉市・市原市・茂原市といった内陸の業務型ストックとの連携を前提に組む方が現実的である。

余力はどこにあるか — 業態別の稼働率から受け皿量を試算する

ストックがあることと、実際に空いていることは別である。観光庁「宿泊旅行統計調査」による千葉県の宿泊施設タイプ別客室稼働率(2026年5月、最新公表月)を見ると、業態間で稼働の水準が大きく分かれている。

表2 千葉県の宿泊施設タイプ別客室稼働率と適用25市町の客室数から見た日次空室の概算(稼働率=2026年5月)
宿泊施設タイプ 千葉県 客室稼働率
(2026年5月)
空室率 適用25市町の客室数 日次の空室 概算
ビジネスホテル76.0%24.0%13,701約3,300室
シティホテル67.0%33.0%6,754約2,200室
リゾートホテル85.2%14.8%1,657約250室
旅館40.3%59.7%1,752約1,050室
簡易宿所29.4%70.6%——
会社・団体の宿泊所15.6%84.4%——
千葉県 全体67.4%32.6%32,426—

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年5月・第2次速報)、客室数はメトロエンジンリサーチ/ホテルバンク編集部より作成

ここで注意が必要なのは、稼働率が千葉県全体の平均値である一方、客室数は当社が把握する適用25市町の積み上げであるという点だ。母集団が異なる2つの数値を掛け合わせた概算であり、精緻な空室数ではない。あくまで規模感を掴むための目安として読んでほしい。

その前提で試算すると、適用25市町の連泊対応型(ビジネス+シティ)だけで日次およそ5,500室の空室が見込まれる。適用区域外の同業態18,931室にも同じ空室率を当てると約5,500室が加わり、県全体では日次およそ11,000室規模の連泊対応型の空きがあることになる。この数字は、応急仮設住宅の建設が本格化するまでの数ヶ月間、数千人規模の復旧要員・応援職員の滞在を吸収しうる水準である。

業態別に見て最も余力が大きいのは、稼働率15.6%(観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月・千葉県)の会社・団体の宿泊所と、29.4%の簡易宿所である。いずれも客室単価が低く、自炊・共用設備を備えるものが多いため、長期滞在との親和性が高い。旅館も空室率59.7%と余力が大きく、2食付きという商品設計を素泊まり・朝食のみへ組み替えられれば、受け皿として大きな戦力になる。この組み替えの余地は、後述する2019年の実績が裏づけている。

直近の市区単位の需給を当社推定の稼働率で見ると、適用区域内では千葉市美浜区に最も明確な余地がある。2026年5月から7月の観測が取れた日を集計すると、美浜区のシティホテル(7施設・3,509室)の推定稼働率は66.7%(観測4日)、区全体でも69.6%(観測4日、12施設)で、千葉市中央区の94.8%(観測10日、32施設)や浦安市の98.2%(観測14日、35施設)と比べて明確に低い。適用区域外では成田市のビジネスホテル(11施設・2,906室)が80.9%(観測5日)と、県内の主要業務型エリアの中では相対的に余地がある。柏市のシティホテルも80.7%(観測6日、4施設)だった。いずれも観測日数が少なく確定値ではないが、大型ブロックでまとまった室数を確保しやすい候補として、幕張新都心と成田が浮かぶ。

稼働率の前提を振った場合の受け皿量 — 2軸感度

上の概算は稼働率を2026年5月の県平均に固定した一点推計であり、季節や災害後の需要そのものによって振れる。前提を振ると受け皿量がどこまで動くかを、適用25市町の連泊対応型ストック(ビジネス13,701室・シティ6,754室)に対する日次空室数として示す。

表3 ビジネスホテル×シティホテル稼働率の2軸感度(中位前提=2026年5月の県平均稼働率)— 適用25市町の連泊対応型 日次空室概算
ビジネス稼働率\シティ稼働率57%62%67%72%77%
66%7,600室7,200室6,900室6,500室6,200室
71%6,900室6,500室6,200室5,900室5,500室
76%6,200室5,900室5,500室5,200室4,800室
81%5,500室5,200室4,800室4,500室4,200室
86%4,800室4,500室4,100室3,800室3,500室

出典:メトロエンジンリサーチ(客室ストック)、観光庁「宿泊旅行統計調査」(稼働率の中位前提=2026年5月)よりホテルバンク編集部試算/網掛けセルが本文の中位ケース

中位ケース(ビジネス76%・シティ67%)の約5,500室に対し、稼働が5ptずつ上振れすると約4,800室、10ptずつなら約4,100室まで縮む。逆に閑散期並みに5〜10pt下振れすれば約6,200〜6,900室へ広がる。グリッド全体では約3,500室〜約7,600室の幅があり、想定できる受け皿量は「5,500室」という一点ではなく、この帯として扱うのが妥当である。同じ前提幅を県全体の連泊対応型39,386室に当てると、日次およそ7,100室〜15,000室となる。

実務的な含意は2つある。第一に、悲観側(稼働上振れ)でも適用25市町だけで日次3,500室規模は残るため、数百人規模の応援職員・復旧要員であれば区域内で吸収できる。第二に、それを超える規模、あるいは1ヶ月以上の連泊で同一施設をブロックする場合は、中位ケースでも区域内在庫を相当量拘束することになり、浦安・成田を含む区域外ストックの併用が前提になる。

2019年の実績 — 復旧需要はビジネスホテルに、3ヶ月以上続いた

千葉県は2019年9月9日、令和元年房総半島台風(台風第15号)の上陸により、県内で最大約2週間に及ぶ停電と広範な住宅損壊を経験している。この時に宿泊需要がどう動いたかは、今回の復旧フェーズを見通すうえで最も参考になる実績データである。

観光庁「宿泊旅行統計調査」で千葉県の宿泊施設タイプ別客室稼働率の前年同月差を追うと、業態によってまったく異なる動きが出ている。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成(千葉県・2019年各月の客室稼働率と2018年同月の差)

台風上陸前の1月から8月まで、千葉県のビジネスホテル稼働率の前年同月差は平均+0.7ptとほぼ横ばいだった。ところが上陸月の9月に+3.9pt、10月に+5.7pt、11月に+1.8pt、12月に+4.5ptと、9月以降の4ヶ月平均で+4.0ptへ拡大している。実数では10月の稼働率が72.7%から78.4%へ上昇した。

同じ期間、旅館は9月-2.1pt・10月-1.8pt・12月-0.5pt、簡易宿所は9月-5.9pt・10月-5.8pt・12月-7.6ptと、いずれも前年を下回った。シティホテルは9月+0.9pt・10月+1.8pt・11月-1.0pt・12月-0.8ptとほぼ横ばい。つまり災害後に稼働が持ち上がったのはビジネスホテルだけで、レジャー主体の業態はむしろ観光需要の減退で下がったことになる。

もう一つ特徴的なのが会社・団体の宿泊所である。2018年9月の24.0%に対し2019年9月は48.6%と、+24.6ptの急伸を記録した。企業・団体の保養所が復旧要員の宿舎として機能した動きと整合する。稼働率の水準自体は低いため見落とされやすいが、緊急時に一気に立ち上がるチャネルとして押さえておく価値がある。

延べ宿泊者数でも同じ方向の結果が出る。訪日客の影響を除くため日本人延べ宿泊者数だけを取り出し、千葉県と全国の前年同月比を比べると、次のようになる。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成(日本人延べ宿泊者数・前年同月比)

台風前の1月から8月、千葉県の日本人延べ宿泊者数の伸びは全国平均を平均+4.4pt上回っていた。10連休のあった4月に千葉県+24.9%・全国+17.3%と、もともと千葉県は全国より強い年だった。ところが台風後の9月から12月にかけて、この差は平均+8.0ptへ拡大する。とくに12月は千葉県+20.4%に対して全国+5.7%と、開きが+14.7ptまで広がった。上陸直後の9月は差が+1.8ptにとどまっており、これは停電・施設被害と観光客のキャンセルで一度需要が落ち込んだ後、10月以降に復旧関連の滞在が積み上がっていった経過を示している。

この2019年のパターンから読み取れる示唆は3つある。第一に、復旧需要はビジネスホテルという特定業態に集中して現れる。第二に、需要のピークは発災直後ではなく1〜3ヶ月後にずれ込む。第三に、その水準は3ヶ月以上持続する。今回の大雨災害でも、9月から11月にかけて内陸の業務型ホテルに需要が寄る展開が想定される。なお2019年10月には令和元年東日本台風(台風第19号)と10月25日の大雨が重なっており、当時の数値には複数災害の復旧が重複している点は割り引いて読む必要がある。なお災害後に国内客と訪日客のどちらが先に戻るかという回復順序の違いについては、石川と熊本で逆転した回復順序が別の角度から掘り下げている。

受け皿を機能させる仕組み — 協定と連泊商品の設計

ストックと余力があっても、それが被災者・復旧要員に届く経路がなければ受け皿にはならない。ここで機能するのが、都道府県と旅館ホテル生活衛生同業組合との間で結ばれている「災害時における宿泊施設の提供等に関する協定」である。

千葉県も千葉県旅館ホテル生活衛生同業組合との間で同種の協定を締結しており、大規模災害時に高齢者・障害者など避難所での生活に特別な配慮を要する被災者へ、旅館・ホテルの客室を避難所として提供する枠組みが用意されている。同様の協定は青森県、秋田県、埼玉県、熊本県など全国で整備が進んでおり、埼玉県では組合加盟295施設のうち避難所として使用可能な施設情報を県へ提供する運用が定められている。熊本県は「宿泊施設提供事業マニュアル」を公表し、手続きの標準化まで踏み込んでいる。内閣府も「災害時ホテル・旅館等を避難所として活用する際のガイドライン」を示しており、制度面の土台は整いつつある。

宿泊事業者にとって、この枠組みへの参加は社会的な意義にとどまらない。オフシーズンや平日の空室に安定的な稼働をもたらし、地域における施設の位置づけを高める機会でもある。とくに稼働率40%台(2026年5月時点・同調査)の旅館、30%を下回る簡易宿所には、既存の商品設計を大きく変えずに参加できる余地がある。

商品設計の面では、連泊対応の作り込みが受け皿としての実効性を左右する。復旧フェーズの滞在は1泊2食の観光利用とは要件が異なり、素泊まりまたは朝食のみ、1名利用、洗濯設備、早朝出発への対応、駐車スペース、そして2週間から1ヶ月単位の予約といった条件が求められる。2019年に稼働を伸ばしたのがビジネスホテルだったのは、この要件をあらかじめ満たしていたからにほかならない。旅館・簡易宿所にとっては、素泊まりプランの用意と連泊料金の設定によって同じ需要層にアクセスできる伸びしろがある。

価格面の目安も押さえておきたい。メトロエンジンリサーチによると、千葉県の推定成約ADRは2026年7月時点で約¥9,300(N=420施設)、直近12ヶ月では約¥9,000〜¥11,200のレンジで推移している。県内には都市型の中価格帯ストックが厚く、災害救助法に基づく避難所費用の基準の範囲内でも一定の選択肢を確保しやすい価格構造にあるといえる。この単価水準がどのような推移を経て形成されてきたかは、千葉県のホテル単価、上期は前年超え・6〜7月で反転で確定月のYoYベースに分解している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(千葉県・推定成約ADR月次、N=319〜423施設)

将来日程のADRに関する注意:2026年8月以降のADRは調査時点でOTA等に公開されている販売価格をもとにした推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点の水準がそのまま実現するとは限らない点にご留意ください。

まとめ — 「被災区域の外側」を前提に受け皿を設計する

千葉県の宿泊供給ストックを災害救助法の適用線で切り分けると、次の構造が見えてくる。適用25市町には901施設・32,426室(県内の43.2%)があり、そのうち63.1%にあたる189施設・20,455室が連泊対応型のビジネス・シティホテルである。被災区域の供給は都市型・業務型に偏っており、復旧フェーズの需要特性とよく合致している。

一方で、供給の重心は区域の外にある。浦安市15,486室と成田市9,755室の2市だけで県内客室の33.6%を占め、いずれも被災自治体から車で30分から1時間の圏内にある。受け皿を被災区域内で完結させようとすると、千葉市中央区・美浜区の9,940室に需要が集中する。区域外の大型ストックを最初から視野に入れて配分を設計するほうが、無理がない。

2019年の房総半島台風後には、千葉県のビジネスホテル稼働率が9月から12月の4ヶ月平均で前年比+4.0pt、10月には+5.7pt上昇した。日本人延べ宿泊者数は12月に前年比+20.4%(全国+5.7%)まで伸び、需要は発災の3ヶ月後にピークを迎えている。稼働の持ち上がりは特定業態に集中し、そして長く続く。

県内には、日次でおよそ11,000室規模の連泊対応型の空室余地がある(観光庁の県平均稼働率と当社把握の客室ストックを掛け合わせた概算)。加えて稼働率40.3%(2026年5月・観光庁調査)の旅館、29.4%の簡易宿所、15.6%の会社・団体の宿泊所という、まだ活かしきれていない層も控えている。協定の枠組みと素泊まり・連泊商品の設計が噛み合えば、これらは受け皿として立ち上がる。ホテル運営者にとっては安定稼働の機会であり、自治体にとっては避難・復旧計画の実効性を高める資源である。供給を「どこに何室あるか」で正確に把握しておくことが、その第一歩になる。

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参考資料・出典一覧

■ 災害・行政情報

■ 政府統計

■ データソース

施設数・客室数はメトロエンジンリサーチが把握する個別施設情報を市区町村単位で積み上げた値(千葉県計 2,308施設・75,065室、2026年8月時点)。業態区分も同データの区分に従う。客室稼働率および日本人延べ宿泊者数は観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別・宿泊施設タイプ別系列(稼働率は2026年5月=第2次速報の最新公表月、2019年分は確報)。推定成約ADRはOTA公開価格に業態別補正を適用した推定値(千葉県 N=319〜423施設)。災害救助法の適用市町は千葉県公表資料に拠る。

■ 試算前提

「連泊対応型」はビジネスホテルとシティホテルの合計と定義した(素泊まり・1名利用・連泊に対応しうる業態という運用上の括り)。日次空室の概算は、観光庁の千葉県平均の業態別客室稼働率を、当社が把握する適用25市町の業態別客室数に一律に適用して算出している。2軸感度(表3)はこの稼働率前提をビジネス66〜86%・シティ57〜77%の範囲で振り、他の条件を固定した算術計算であり、中位セル(76%×67%)が本文の一点推計と一致する。県全体の帯(7,100〜15,000室)は同じ稼働率幅を県内の連泊対応型39,386室に当てたもの。

■ 限界・留意点

(1) 稼働率は千葉県全体の平均であり、市区町村別・施設別の実稼働とは一致しない。客室数(当社把握)と稼働率(観光庁)は母集団が異なるため、掛け合わせた空室数は規模感の目安であって精緻な在庫量ではない。(2) 当社データはOTA掲載歴のある施設を起点としており全数調査ではない。掲載のない小規模旅館・民宿・簡易宿所は含まれず、1棟貸し等が施設数を押し上げる構造がある。(3) 市区単位の当社推定稼働率は観測日数が4〜14日と少なく確定値ではない。(4) 2019年の実績には10月の令和元年東日本台風・10月25日の大雨が重複しており、房総半島台風のみの効果として読むことはできない。(5) 被災に伴う施設側の被害・休業は本試算に織り込んでいないため、実際に稼働可能な客室はここで示した水準を下回りうる。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 千葉県内 2,308施設・75,065室の施設別客室数・業態区分、市区町村別の推定稼働率、推定成約ADR(N=319〜423施設)

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