トップ > 宿泊市場動向 > 10万円超の客室は最後まで残るのか — 価格帯5層で違う「埋まり方」の実測

10万円超の客室は最後まで残るのか — 価格帯5層で違う「埋まり方」の実測

投稿日 : 2026.08.17

東京都

大阪府

京都府

北海道

沖縄県

10万円超の客室は最後まで残るのか — 価格帯5層で違う「埋まり方」の実測

「10万円を超える客室は、最後まで売れ残るのか」——これは高価格帯を扱う宿の現場で繰り返し出てくる問いである。単価が高いぶん需要の母数は小さく、直前まで在庫が残るという実感を持つ運営者は少なくない。一方で、ピーク日には最初に消えるのも高価格帯だ、という声もある。本稿では、東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県の5エリアについて、価格帯・業態で分けた5つのカテゴリの在庫消化を、チェックイン90日前から当日直前まで日次で追い、どのタイミングで埋まるのかを実測値で比べる。

本記事における指標の定義

  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT90=90日前、LT0=当日。本稿の図表はすべて左が90日前、右が直前である。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
  • 1施設あたり残室指数:各観測日の残室数を、その日に観測できた施設数で割った「1施設あたり残室数」を求め、LT90時点を100として指数化したもの。観測施設数が日によって変動するため、単純な残室合計ではなく施設数で正規化している。値が小さいほど在庫が進んでいる。
  • 10万円超帯:その日程の掲載価格(全プラン平均・税込、2名1室利用時の1室あたり料金)が1泊¥100,000以上の水準にある施設群。推定成約ADRではなく掲載価格を基準にしたバンドであり、日程ごとに該当施設が入れ替わる点に留意されたい。
  • 掲載価格:OTA等に公開されている販売価格の全プラン平均(2名1室利用時の1室あたり料金・税込)。推定成約ADRとは基準が異なるため、本稿では一貫して「掲載価格」と表記する。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 50系列すべてがLT90(90日前)でOCC50%超。埋まり始めの早さは観測窓の外側にあり、比較はLT90時点を100とした残室指数で行う。
  • — 通常の土曜日(2026年8月1日)は10万円超帯が最後まで残る。5エリア中央値の残室指数はLT14で67・LT7で53と、5カテゴリ中で最も後ろ寄り。
  • — 盆入り(同8月13日)では順序が反転。10万円超帯はLT14で30・LT7で24と最速で消え、デラックス52・シティ51が終盤まで残る。
  • — 在庫が残る側と価格が動く側は一致しない。東京都・8月1日の10万円超帯は在庫を残したまま掲載価格が+22.8%上昇、ビジネスは+0.7%で横ばい。
  • — 2026年10月10日はLT61時点の途中経過。東京都の10万円超帯は残室が1,513室→1,603室と増えており、公開枠追加の可能性がある段階で完売判断はできない。

90日前の時点で、すでに全カテゴリがOCC50%を超えていた

まず、当初の設計では「OCC(稼働率)が50%に到達したリードタイム」を、カテゴリごとの埋まり始めの早さを表す一つの数値として用いる予定だった。ところが実測すると、この指標は機能しなかった。2026年8月1日(土)・8月13日(木・盆入り)の2日程について、5エリア×5カテゴリの計50系列を確認したところ、50系列すべてがLT90(90日前)の時点ですでにOCC50%を超えていた。最も低い系列でも沖縄県の旅館で54.8%(8月1日)、最も高い系列は大阪府のデラックスで87.6%(同)である。つまりOCC50%到達LTは観測窓の外側にあり、カテゴリ間の差を測る道具にはならない。

この結果自体が示唆的である。OTA上に公開されている在庫は、90日前の段階ですでに総客室数の半分以上が「販売済みまたは未公開」の状態にある。高価格帯ほどこの初期値が高い傾向があり、8月1日の東京都では10万円超帯が75.3%、デラックス80.3%、シティ75.4%に対して、ビジネスは63.4%と最も低い。ここには実需の消化だけでなく、OTAへの在庫配分(アロットメント)の設計差も含まれている。OTA等に出しているのは総客室の何割かを12,941施設で測った分析でも、施設によって公開枠の比率は大きく異なることが確認されている。

したがって本稿では、絶対水準のOCCではなく「LT90時点の在庫を100として、そこから何%が残っているか」という相対指標で比較する。起点の高低に左右されず、90日間の窓の中での消化スピードだけを取り出せるためである。あわせて、観測施設数の変動が残室合計に直接効いてしまう問題を避けるため、残室数を観測施設数で割った1施設あたりの値を用いた。

通常の土曜日は、10万円超帯がいちばん後ろに残る

2026年8月1日(土)は、お盆前の通常週末にあたる。東京都の5カテゴリについて、LT90からLT2までの1施設あたり残室指数を追ったのが下図である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

ビジネス(871施設・126,478室)とシティ(100施設・32,712室)は、LT60を過ぎたあたりから安定して減り続け、LT14でそれぞれ35・36まで下がる。これに対して10万円超帯(35施設・3,682室)はLT21時点でまだ62、LT14で46と、明らかに後ろ寄りである。東京都の在庫消化を業態別に整理した東京のブッキングカーブは3類型 — 45日前→直前の上積み比較でも、上積みが起きるリードタイムは業態によって大きくずれることが示されている。5エリアの中央値で並べると差はさらに鮮明になる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

表1:1施設あたり残室指数(起点=100)の5エリア中央値。値が小さいほど在庫消化が進んでいる(N=8月1日20系列・8月13日21系列、総客室1,000室未満または8施設未満の系列を除外後)
カテゴリ8/1 LT308/1 LT148/1 LT78/13 LT308/13 LT148/13 LT7
10万円超帯766753603024
デラックス685042685252
シティ614138645144
ビジネス583934644639
旅館635248553428

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

8月1日の列を見ると、LT14の中央値はビジネス39・シティ41・デラックス50・旅館52に対し、10万円超帯は67である。LT7でも10万円超帯は53と、ほかのどのカテゴリよりも在庫が残っている。冒頭の問い——10万円超の客室は最後まで残るのか——に対する、通常週末での答えは「そのとおり」である。90日前から数えて残り1週間の段階で、10万円超帯は当初在庫の半分をまだ抱えている。

ただしこれを「売れていない」と読むのは早い。残り2週間から直前にかけての傾きを見ると、10万円超帯はLT21の70からLT7の53へ、そこからさらに東京都では最終観測(LT2)の24まで落ちる。動く時期が違うだけで、最終的な消化率そのものは他カテゴリと大きく変わらない。東京都の10万円超帯のOCCはLT86の75.3%から最終観測で93.9%まで上がっており、シティ(94.5%)やビジネス(91.5%)と遜色ない着地である。

盆入りでは順序が入れ替わる — 10万円超帯が最速で消える

同じ分析を2026年8月13日(木・盆入り)に適用すると、結果は反転する。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

表1の右半分が示すとおり、LT14の中央値は10万円超帯が30で最も小さく、旅館34がこれに続く。一方でデラックス52・シティ51・ビジネス46は、通常週末(8/1)のときより高い水準にとどまっている。LT7ではさらに開き、10万円超帯24・旅館28に対してデラックス52・シティ44・ビジネス39である。

エリア別に見ても方向はそろっている。8月13日の10万円超帯のLT14は、北海道24(45施設・1,173室)、沖縄県29(118施設・8,057室)、京都府31(36施設・1,038室)、東京都42(23施設・2,604室)。リゾート性の高い北海道・沖縄で特に前倒しが強い。旅館も同様に、東京都30・北海道34・京都府40と、8月1日(東京都33・北海道52・京都府60)から軒並み前倒しになった。盆需要の出方は日程とエリアでさらに分かれ、京都のお盆3日を業態別に追った分析では、直前の上積みがむしろ旅館で最も大きくなっている。

つまり「高価格帯は後ろに残る」という性質は固定的なものではなく、日程の需要構造によって入れ替わる。家族・グループでの帰省や旅行が集中する盆入りでは、価格よりも「その日程で泊まれる部屋を確保すること」が優先され、単価の高い部屋も旅館も早い段階で押さえられていく。逆に通常週末では、単価に対して感度の高い層が直前まで比較検討を続けるため、高価格帯の動きが後ろにずれる。

在庫が残る側と、価格が動く側は一致しない

ここで掲載価格の推移を重ねると、運用上の含意がはっきりする。東京都・8月1日の5カテゴリについて、LT90時点の掲載価格を100とした指数の推移が下図である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

10万円超帯の掲載価格は、¥125,800(LT86)から最終観測の¥154,500へ+22.8%上昇している。シティも¥40,600→¥49,200(+21.2%)、デラックスは¥70,600→¥83,000(+17.6%)と、直前にかけて上向く。対してビジネスは¥25,100→¥25,300(+0.7%)とほぼ横ばいで推移した。在庫が最も早く消えるビジネスで価格がほとんど動かず、在庫が最後まで残る10万円超帯で価格が2割上がっているという構図である。

盆入りではこれも入れ替わる。東京都・8月13日のビジネスは、掲載価格が¥18,200から¥15,800へ−12.8%動いた。同じ日程の10万円超帯は¥129,700→¥130,400(+0.5%)とほぼ変わらない。つまり需要の厚い日程では高価格帯は価格を動かさずに在庫が捌け、需要が相対的に薄い日程では在庫を残しながら価格を上げていくという、2つの異なる売り方が同時に観測されている。

母集団の開示 — カテゴリ間で規模が大きく異なる

本稿の比較では、カテゴリによって施設数・客室数が2桁近く違う。東京都ではビジネスが871施設・126,478室であるのに対し、10万円超帯は35施設・3,682室、旅館は46施設・1,058室にとどまる。また日次の観測施設数(obs)も、収集カバレッジの拡大にともないLTが小さくなるほど増える傾向がある。以下に全系列の母集団と主要指標を掲載する。総客室1,000室未満または8施設未満の系列は、単一施設の在庫変動が指数を大きく揺らすため集計から除外した。

表2:2026年8月1日(土)チェックイン — 母集団と1施設あたり残室指数(N=20系列)。「LT90」列は、観測施設数が安定する最初の観測日(LT90〜LT86)を起点とした値であり、残室指数もこの起点を100としている
カテゴリエリア施設数総客室観測施設数LT90 OCCLT30LT21LT14LT7LT90掲載価格直前まで
10万円超帯東京都353,68225〜3575.3%63624631¥125,818+22.8%
10万円超帯京都府371,03023〜3764.4%85907753¥131,863-2.7%
10万円超帯沖縄県953,90048〜9276.2%76706766¥149,433-2.3%
デラックス東京都4011,92432〜4080.3%57463834¥70,628+17.6%
デラックス大阪府238,31818〜2387.6%73655249¥45,503+21.6%
デラックス京都府232,63820〜2361.1%62564944¥66,003+3.9%
デラックス北海道141,53311〜1484.5%73585239¥53,251+38.5%
シティ東京都10032,71283〜10075.4%52423628¥40,591+21.2%
シティ大阪府9124,21979〜9181.7%70544941¥27,904+6.6%
シティ京都府5610,36943〜5677.3%74696557¥31,409-4.9%
シティ北海道7215,70458〜7280.6%30211920¥32,654+10.6%
シティ沖縄県143,15513〜1474.0%61464138¥28,782-16.5%
ビジネス東京都871126,478668〜86763.4%58443527¥25,081+0.7%
ビジネス大阪府45373,447339〜45162.1%68585040¥19,817-13.5%
ビジネス京都府29331,712207〜28868.7%68575345¥22,054-22.5%
ビジネス北海道39244,513267〜39077.5%43322623¥23,699+4.5%
ビジネス沖縄県18116,867140〜18063.0%57453934¥16,549-0.6%
旅館東京都461,05819〜3779.7%59413328¥37,341+41.8%
旅館京都府1813,341122〜17962.7%68636053¥49,182-11.3%
旅館北海道27111,685151〜26576.4%63565248¥36,103+1.4%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

表3:2026年8月13日(木・盆入り)チェックイン — 母集団と1施設あたり残室指数(N=21系列)。「LT90」列は、観測施設数が安定する最初の観測日(LT90〜LT86)を起点とした値であり、残室指数もこの起点を100としている
カテゴリエリア施設数総客室観測施設数LT90 OCCLT30LT21LT14LT7LT90掲載価格直前まで
10万円超帯東京都232,60418〜2371.8%71624238¥129,748+0.5%
10万円超帯京都府361,03822〜3664.4%64463128¥136,961+1.3%
10万円超帯北海道451,17324〜4583.6%51342419¥135,014+11.1%
10万円超帯沖縄県1188,05772〜11485.7%55452919¥150,681+5.7%
デラックス東京都4011,92437〜4078.6%71645151¥59,468-5.4%
デラックス大阪府238,31822〜2384.5%84756154¥38,359+11.7%
デラックス京都府232,63821〜2363.7%66605352¥63,892+25.1%
デラックス北海道141,53312〜1484.3%59433834¥62,945+36.2%
シティ東京都10032,71292〜10070.2%64605144¥31,847+1.1%
シティ大阪府9124,21986〜9177.9%69615548¥22,057+3.7%
シティ京都府5610,36951〜5675.3%70615548¥29,072-1.5%
シティ北海道7415,88466〜7477.4%42332718¥27,049+21.0%
シティ沖縄県143,15513〜1471.9%61524637¥28,563-8.0%
ビジネス東京都869126,076766〜86561.2%64554639¥18,157-12.8%
ビジネス大阪府45373,447395〜45158.3%73645547¥14,862-17.2%
ビジネス京都府29331,712259〜28865.8%69605253¥18,811-20.6%
ビジネス北海道39044,130320〜38775.3%47372723¥21,597-1.5%
ビジネス沖縄県18116,834164〜18061.0%61524334¥15,826-4.1%
旅館東京都471,06324〜4775.5%51413022¥38,894+0.3%
旅館京都府1803,340123〜17863.3%65564033¥52,674-19.2%
旅館北海道26811,661204〜26573.6%55453428¥38,777-4.4%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

なお10万円超帯は掲載価格を基準にしたバンドであるため、対象施設は日程ごとに入れ替わる。東京都の場合、8月1日は35施設・3,682室、8月13日は23施設・2,604室、後述する10月10日は63施設・7,686室と、同じ「10万円超」でも母集団が大きく異なる。高単価日ほど多くの施設がこのバンドに入り込む構造である。カテゴリの中身が固定されていない点は、本稿の数値を読むうえでの前提として押さえておきたい。

また観測データには、特定の週に大型施設の掲載が一時的に確認できないといった収集上の不連続が混じることがある。本稿では1施設あたり残室数の15日移動中央値から20%以上乖離した観測点を除外したうえで、5日移動中央値で平滑化している。東京都・8月13日の10万円超帯では7点、同8月1日では11点が除外対象となった。

10月10日(土・連休初日)の途中経過

参考として、まだチェックイン日を迎えていない2026年10月10日(土・スポーツの日を含む3連休の初日)の状況も見ておく。ただしこの日程は本稿の集計時点でLT61、つまりチェックインまで2か月を残しており、以下はあくまでLT61時点の途中経過である。ホテル側が在庫を段階的に追加している可能性、予約のピーク帯にまだ入っていない可能性の双方があり、この時点の数値から「早期に完売した」といった結論を導くことはできない。

表4:2026年10月10日(土)チェックイン — LT90からLT61までの途中経過(N=8系列・集計時点LT61)
カテゴリエリア施設数総客室LT90 OCCLT61 OCCLT90掲載価格LT61掲載価格
10万円超帯東京都637,68680.3%79.1%¥143,600¥145,800
10万円超帯京都府692,92369.3%77.4%¥181,100¥166,700
10万円超帯沖縄県631,94887.4%87.1%¥150,700¥153,100
デラックス東京都3811,59985.6%86.5%¥106,400¥107,800
シティ東京都10032,71283.4%86.6%¥61,500¥66,000
ビジネス東京都853124,87264.9%71.6%¥35,100¥37,600
ビジネス京都府28531,21081.2%87.1%¥43,600¥45,300
旅館京都府1572,96967.0%72.0%¥61,800¥64,100

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

東京都の10万円超帯は、LT90の残室1,513室からLT61で1,603室へと、この30日間でむしろ在庫が増えている(観測施設数38〜63)。これは需要が弱いという意味ではなく、施設側がOTAへの公開枠を追加している可能性が高い。京都府の10万円超帯は残室897室→662室(同26%消化、観測施設数40〜69)と進んでおり、同じ日程でもエリアによって進行の仕方が異なる。いずれもLT61時点の途中経過であり、残り2か月の推移を見る必要がある。

価格帯ごとに「売り切りどき」が違うことをどう使うか

ここまでの実測をまとめると、次の3点になる。

表5:実測された3つの事実と運用上の読み方(5エリア中央値・2026年8月1日/8月13日チェックイン)
観測された事実運用上の読み方
通常週末では10万円超帯の在庫消化がLT14〜LT7に集中する(LT14中央値67、LT7で53)高価格帯の勝負どころは残り2週間。この期間に露出と在庫の出し方を厚くする設計余地がある
盆入りでは10万円超帯と旅館が最速(LT14中央値30・34)で、ビジネス・シティが後ろに残るピーク日は高価格帯の早期確保層が動く。ビジネス・シティは終盤にもう一段の需要取り込み余地がある
通常週末の10万円超帯は在庫を残しながら掲載価格が+22.8%上昇、ビジネスは+0.7%で横ばい高価格帯は「残っている=下げるべき」ではなく、単価を上げながら終盤に着地させる運用が実際に成立している

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

実務的に価値があるのは、どのカテゴリが優れているかではなく、自館の価格帯における「山が来るリードタイム」を知ることである。ビジネスホテルがLT30で在庫の4割強を消化し終える一方、10万円超帯は同じ時点でまだ7割超を抱えている。この差を前提にすれば、LT30時点の残室率を見て「遅れている」と判断する基準そのものが、価格帯ごとに違って然るべきだと分かる。定点をどこに置くかについては、45日前・30日前・直前の3点で運用は足りるとした岡山県の実測によるフレーム整理も参考になる。

同様に、価格の動かし方にも余地がある。通常週末の高価格帯では、在庫を残したまま終盤に単価を引き上げる運用が実際に機能しており、直前の値下げに頼らない着地が可能であることが示された。逆にピーク日では高価格帯が早期に動くため、LT45〜LT30の段階での価格設定が最終的な収益水準をほぼ決めることになる。同じ施設でも、日程の性格によって最適な打ち手のタイミングが変わるという点が、本分析の実務的な要点である。

エリア単位の日別の需要形状については、佐賀のお盆2026における旅館・ビジネス・シティのカーブ比較や岩手のお盆を45日前・30日前・直近の3定点で読んだ分析もあわせて参照されたい。曜日単位の需要形状については埼玉県ビジネスホテルの曜日別稼働の分析、月内のピーク日の業態差については三重県の8月を業態別に見た記事で扱っている。

まとめ

「10万円超の客室は最後まで残るのか」という問いに、実測は条件付きの答えを返した。通常の土曜日(2026年8月1日)では、5エリア中央値でLT14に残室指数67・LT7に53と、5カテゴリの中で最も後ろに在庫が残る。しかし盆入り(同8月13日)では同じ指標がLT14で30・LT7で24となり、最も早く消化されるカテゴリに変わる。残るかどうかは価格帯そのものではなく、その日程がどういう需要で構成されているかによって決まっている。

この非対称性は、価格帯ごとに異なる収益設計の余地を意味する。需要が厚い日程では早期に価格を固め、需要が相対的に薄い日程では在庫を残しながら単価を引き上げていく。実測データは、後者が高価格帯において実際に成立していることを示している。自館の価格帯に対応した「山の位置」を把握することが、リードタイム設計の起点になる。

⚠ 将来日程のデータに関する注意:2026年10月10日に関する数値は、調査時点(LT61)でOTA等に公開されている在庫・販売価格に基づく途中経過であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。施設側の在庫追加や価格調整により、現時点の水準がそのまま最終結果になるとは限りません。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県の5エリアについて、価格帯・業態で分けた5カテゴリ(10万円超帯/デラックス/シティ/ビジネス/旅館)の日次在庫・掲載価格を、チェックイン90日前から直前まで取得したメトロエンジンリサーチの集計データ。対象チェックイン日は2026年8月1日(土)・8月13日(木・盆入り)・10月10日(土)の3日程。掲載価格は全プラン平均(2名1室利用時の1室あたり料金・税込)。

■ 試算前提

カテゴリ間で母集団規模が2桁近く異なるため、残室合計ではなく「残室数÷その日の観測施設数」で正規化した1施設あたり残室数を用い、観測施設数が安定する最初の観測日(LT90〜LT86)を起点=100として指数化した。総客室1,000室未満または8施設未満の系列は、単一施設の在庫変動が指数を大きく揺らすため集計から除外している。1施設あたり残室数の15日移動中央値から20%以上乖離した観測点を外れ値として除外したうえで、5日移動中央値で平滑化した。

■ 限界・留意点

稼働率はOTA等に公開された販売在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは定義・対象が異なる。「10万円超帯」は掲載価格を基準にしたバンドのため、日程ごとに該当施設が入れ替わる(東京都では8月1日35施設・8月13日23施設・10月10日63施設)。観測施設数は収集カバレッジによって日々変動し、LTが小さいほど増える傾向がある。2026年10月10日の数値は集計時点(LT61)の途中経過であり、施設側の在庫追加や価格調整により最終結果は変動する。本稿は記述的な実測比較であり、因果関係を主張するものではない。

  • メトロエンジンリサーチ — 東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県のブッキングカーブおよびOTA掲載在庫ベースの推定稼働率(2026年8月1日・8月13日・10月10日チェックイン、5カテゴリ×5エリア)
  • メトロエンジンリサーチ — 掲載価格(全プラン平均・税込、2名1室利用時の1室あたり料金)
  • 観光庁「宿泊旅行統計調査」(稼働率の公式統計。本稿の推定稼働率とは定義・対象が異なる)
  • 日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」

関連記事